
旅行業は価格破壊、競争激化などにより年々儲からないビジネスになってきているが、旅行会社に派遣社員を供給する人材派遣業者も厳しい状況にある。何しろ時給が他業界に比べてると泣きたくなるほど低いのだ。
派遣会社は、派遣を活用すれば人件費の削減につながる点をユーザーである旅行会社にセールスするが、そもそもこの基本を理解してもらうことが難しい。「なんで派遣に社員よりも高い時給を払わなければならないんだ」という人が結構いるのである。時給で見ると確かに派遣は高いように見えるが、正社員の賃金には福利厚生や保険、ボーナスや退職金などが含まれ、月間や年間にすれば派遣はかなり安くつくのである。「旅行業界自体が不振なのは理解しているが、それを考えても旅行業界の派遣に対する意識の低さは遅れているとしか思えない」とA社はこぼす。
旅行業界では、時給2200円で使ってくれる会社はほとんどない。大手派遣会社の募集広告には時給2200円と出ているが、その場合クライアント(ユーザー)が支払う金額は2500〜2700円のはず。旅行業界ではその1/2にも満たないのが実情だ。派遣会社は、派遣社員1人につき時給の10〜15%の経費がかかる。本人に1000円払うなら1200〜1300円は支払ってもらわないと経営につながらない。
派遣料が一番削られているのは電話受付や営業補助などの内勤業務だ。「クライアントから時給1000円なら依頼すると言われても当社では受けられない。その金額ではできないと言うと『じゃあ、他に頼むからいい』と言われる。その金額でも受ける会社があるからどんどん値が下がっていく。パッケージツアーの低価格化と同じ傾向だ」(A社)
ある程度のクオリティーが保証され、既に研修を受けていたり、経験があったりする即戦力だからそれに見合った料金を提示しているにも関わらず、「もっと安くならないのか」と言われて困るばかりだ。
また、そんなに安い料金で質のいい人材を派遣しろと言っても、そんな人材はいるはずもない。募集しても、もっと高いお金を払ってくれる一般の派遣会社に流れてしまう。
添乗員派遣については(社)日本添乗サービス協会があるから相当料が支払われるが、それでも低い。添乗員の場合、客と会社の期待感に応えるという責任があるのにも関わらず、海外添乗に20日間出ても20万円ほどにしかならない。妻子を抱えてこの収入では食べていけないという話も多く、このため男性添乗員は少数派だ。体が資本の仕事で健康でないとやれない割には待遇が悪いという声はしばしば聞く。
旅行業界での派遣社員は地位が低く見られており、待遇も時給も悪いとなれば、いい人材はどんどんいなくなり、安かろう、悪かろうになる。競争原理と言えばそれまでだが、派遣会社同士でダンピング競争をやっているに過ぎない。
結果的に旅行業界で働こうという派遣スタッフは万年不足している。「昔は旅行会社で働きたいという人が大勢いたが、今はその勢いもなく、一般の派遣よりも待遇が良くないことが原因で他に流れているのではないか」とB社がこう続ける。
「一般派遣より賃金が1〜2割は低いので、それが旅行業派遣のベースになれば他に流れるのは当然の成りゆき。一般的にはPCスキルがあれば時給1500円、クライアントは2000円近く払うことになる。しかし、旅行会社はそれでは高すぎる、派遣を使う意味がないと言う。低コストで即戦力が欲しいという意識が浸透してしまっている。全般的に黒字化傾向にならないと旅行産業は良くならないし、あと1年は厳しいと思うが、今が踏ん張りどころか」
派遣業界は人材を「タマ」と呼ぶそうだが、旅行業界でも専門スキルを持ったいいタマさえあれば、料金はともかく仕事はあるという。旅行業界で自分の能力を発揮したいというタマは実に希少価値であり、彼らが人材市場に出回らないことには派遣会社も売上が伸びない。タマ=商品であり、「仕入が思うようにいかない」「それなのに派遣料は上がらない」のが多くの派遣会社の共通する悩みである。
かつてバブル時代に「観光産業は21世紀に基幹産業になる」と言われた。たとえそうなっても旅行会社は基幹産業の主役にはなれそうもない。それどころか斜陽業種の道をたどりつつある。
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