![]()
木戸家の新婚旅行記 第1章 車中の人々〜旅立ちの朝編〜
あれは1993年5月13日、ゆぴぴ達は焦っていた。 成田の集合時間はとうに過ぎているにもかかわらず、ゆぴぴ達は
湾岸道路をすっ飛ばしていた。
同年、4月11日に結婚式を挙げ、夫の仕事(旅行会社)の落ち着くゴールデンウィークが明けるのを待って意気揚々と
ヨーロッパへ行く事に決定した。
当時、新婚旅行の人気No、1はオセアニアであったが、あえてヨーロッパにしたのは理由があった。 私達はびんぼーだ。
しかし、古城が見たい。 でもびんぼーだ。 古城はアメリカにはない。
名古屋城、、、、、あれも古城だが、瓦のついた古城はいやだ。 古城といえば、、、、ヨーロッパ。 もう、あそこしかない。
夫ぉ〜、一生のお願い!! ヨーロッパ行きたい!! 香港か? あれはイギリス領でヨーロッパじゃないっ! お願い!お願い!
わかった わかった というような成り行きでヨーロッパに決定した。
夫のツテで某旅行会社のパンフレットからひとつのツアーを選んだ。
実を言うとゆぴぴは全くの個人旅行を企画していたのだが、面倒臭いと夫はツアーを主張した。
ツアーだとかえって別の意味で面倒そうだ。
しかし、ここで駄々をこねて夫を怒らせて熱海に変更になるのはいやだ。 熱海ならまだいい。 健康ランドなんかになったら大変だ。
まあ、ここはひとつ夫の顔をたててツアーで行く事にした。
たった12日間で5ヵ国約10都市を巡る超殺人的スケジュールだ。
ゆぴぴは欲張りなので、一回のツアーでひとつでも多くの都市へ行きたかった。
ヨーロッパ旅行などブルジョワな事、多分これが最初で最後だろうと思ったからだ。 いや、きっとそうに違いない。 私達はびんぼーなのだ。
夫は無理やり会社から12日間の休みを奪い取った。 帰って来て、会社に夫のデスクがなくてもゆぴぴの知ったこっちゃない。
夫の部下は『12日間休み』に青ざめていた。 彼には悪いが最初で最後のヨーロッパ。 君が新婚旅行の時は月へでも行きなさい。
そんな気持ちで東京都内のわが家を後にした。
12時に出発するAIRに乗るこのツアーの集合時間は10時だった。しかし、私達が、目覚めたのは8時をまわっていた。
うぎゃー!!!!
声にならない声をあげてゆぴぴ達は飛び起きた。朝食なんて喰っている暇はない。
洗面所と便所の奪いあいを繰り返し、慌てふためき乍ゆぴぴ達は車を発車させた。
成田まではどうみても最低2時間はかかる。 成田に向かう高速の途中でパークエリアに入り、夫は旅行会社に遅れる由電話をした。
なんて言ったの? 車がパンクして少し遅れます。夫のうそつき〜!!
木戸家の新婚旅行記 第2章 機上の人々
私達が成田第2ターミナルへ着くと添乗員のSさんがひとりで寂しく待っていてくれた。
『あんまり遅いんで社に問い合わせをしたら、遅れるとの連絡を受けましたので、、、、。大変でしたね。』
本当は寝過ごして遅れたゆぴぴ達にSさんは労いの言葉をかけてくれた。
ゆぴぴ達は搭乗券を受け取ると免税店へ直行した。搭乗時間まで、あと30分ある。 良かった 良かった 買い物できて。
ゆぴぴ達は、使い捨てカメラを買い、何食わぬ顔で機上の人々になりすました。
寝過ごしたゆぴぴ達であったが、シートに落ち着くと、すぐに眠気が襲ってきた。
しかし、ゆぴぴ達は寝なかった。朝も昼も食事をしていないゆぴぴ達は、眠い以上にひもじかった。
飛行機は離陸した。 さあ、もうすぐ機内食がでるぞ。
きっとこの時のゆぴぴ達は飢えと睡魔のため異様な目つきをしていたに違いない。
さあ、早く、食い物を!!!! そんな願いも空しく、おしぼりの後に出てきたのは飲み物と『NATTO』とかいうスナックだった。
しかし、背に腹は変えられない。ゆぴぴ達は『NATTO』を貪った。
うっ まずいっ しかし他に食えるものがない。ゆぴぴ達は食い尽くした。
ようやく機内食が出た。ゆぴぴはこの時程、食べ物のありがたみを感じた事はなかった。
お行儀よくいただきますをして、一口目を口に入れた。
その次の瞬間、『ガリッ』っと鈍い音がした。そんなに固い物は口に入れた覚えがない。
しかし、口の中には何やら固い物体が、、、、、、、 ゆぴぴは恐る恐るその物体を出してみた。
『ひぃ〜〜〜〜〜っ!』
声にならない声が機内に響きわたった。ゆぴぴはめまいを起こしそうになった。
歯科関係に詳しい人なら理解していただけるだろう。右下5の冠がもろくもとれてしまったのだった。
そう、つまりよく噛む位置にあるかぶせ物である。 左で噛めば問題はないのだろうが、不幸にもゆぴぴの左の歯は虫歯だった。
夫は『おまえの日頃の行いが悪いからだ』と冷たく言い放った。
ゆぴぴはこの時程、日頃の自分の行いの悪さを恨んだ事はなかった。よりによってこんな時に、、、、、。
美味しそうに食べている夫を横目にゆぴぴは、前歯だけを使って機内食を平らげた。
『おまえ器用だねぇ』色気もクソもない新婚旅行の始まりだ。
しかし、これはまだ序の口かもしれない。日頃の行いの悪いゆぴぴの事だ。
また、なにか起こりそうだ。ええぃ 固い物さえ食わなきゃいいんだ。 そう思うと少し気が楽になってきた。
しかし、ロンドンでの名物料理がローストビーフと気付くまでの間の事であった。
木戸家の新婚旅行記 第3章 ゆかいなロンドン、楽しいロンドン
5月13日、16:35。ゆぴぴたちは、ロンドンのヒースロー空港に着いた。
さすがに、12時間30分のフライとは腰にきてしまう。 夫は元気だ。 俺はバリバリだぜ。そうかい、あたしゃ、腰がバリバリでねえ。
入国審査等を済ませ、私たちはホテルへ向かった。ロンドン郊外の町並みはとても可愛いかった。
ゆぴぴにぴったりの町だ。なんか言ったか?。いいえ、何も....。
もう夕刻なので、本日は観光なしである。ホテルに着いたものの、この日の夕食はツアーに組まれてない。
ゆぴぴ達は疲労体に鞭打って夕刻の町へ繰り出した。町といってもホテルの周りだけである。
遠出する気力なんて今のゆぴぴ達には、もはや残っていなかった。ホテルはケンジントン公園近くにある、ケンジントンクロースだ。
外見はたいした事はない。しかし、内部もたいした事はない。単に古そうなだけだ。私達はびんぼーなのだ。
贅沢を言えばバチがあたる。でも、ゆぴぴ達の部屋は最上階だ。最上階といっても7階である。
眺めが素晴しい。隣のビルの壁が見える。おおっ こっちもビルだぞ。 なんて素晴しい眺め。部屋は狭い。
ひもじ〜よお、早くなんか食べに行こう。ゆぴぴ達はレストランを求めて彷徨った。しかし、ゆぴぴ達が一件目で足を止めたのは旅行会社だった。
営業時間はとっくに終わっているらしく、人もいなければ、鍵もかかっている。
ゆぴぴ達はそれでもウィンドーにへばりついて内部を覗きこんだ。職業病だ。 ゆぴぴ達は空しくなり、ウィンドーを離れた。
そしてまた、ふらふらと彷徨った。ステーキハウスをみつけた。
ねえ、ここにはいろうよお。却下。新婚旅行でロンドンに来ているのに、夫はケチだ。
結局、この日の夕食はマクド○ルドのテイクアウトになった。仕方ない。
私達はびんぼーなのだ。みじめな気持ちのまま、ゆぴぴ達はホテルに戻って、ハンバーガーを貪った。
『明日の朝食は、部屋のドアに掛けておきます』
添乗員のSさんは、にこやかにこう言った。ドアに掛かる朝食って、、、、。
朝、さわやかな朝がきた。希望の朝だ!。喜びに胸を広げ大空仰げ〜。
ゆぴぴの頭の中をラジオ体操のテーマソングがエンドレスで、渦巻いていた。
ドアに掛かっていた朝食のみじめさは絶品だ。くやしかったからビデオに収めてやった。
スーパーのビニール袋(の様な奴)の中にパンが2つ、青りんご。バター&ジャム、、、、、、。
なめとんかーっ!!!
しかし、食べない訳にはいかない。部屋の湯沸かし機で湯を沸かし、
部屋に備えつけの紅茶のティーパックで紅茶をいれた。しんじらんなあ〜い。
紅茶だけは、むちゃくちゃ美味しいぞお。ゆぴぴは色が出なくなるまで、何杯でも飲んだ。
そして、この紅茶の美味しさに免じて、ホテルの部屋の狭さとみじめな朝食は水に流してやる事にした。