(1)この映画を見よ!『プライド』


 『新世紀歓談』(テレ東系、日曜朝10時にしては濃い番組)を見ていると、ある日いきなり「東日本ハウス」のCMに出ている村田雄浩(現グロンサン)がどアップで東条、いや登場し、「東日本ハウスは、30年の感謝を、映画『プライド』にかえてお送りします」ときたもんだ。まえから『新世紀…』のスポンサーであった「東日本ハウス」には注目していたし、内容も東条英機が主役とくれば、観ないわけにはいくまい。しかし一人じゃ恐いなあ…と思っていると、研究室の先輩であるC.O氏、M氏と助手のS氏が「『プライド』観戦ツアー」を立ててくれたので、乗ることにしました。

 映画館の前に立つ。ポスターが貼ってあるが、東条に扮する津川雅彦の顔がどアップで(しかも痔が飛び出しそうなほどいきみまくっている顔面の緊張ぶり)、「これじゃ若い娘は見ないだろうな」と思いつつ、「津川が出ているということは、いやらしお色気シーンもあるのかしらん」と、かすかな光明を見出した。

 札幌市内の某映画館内に入ると、思ったよりも観客の年齢層にばらつきがあることに驚きました。もっと戦友会みたいな人がきていると思ったのに。ぼくらの後ろには若い女の子が座っていたし、ぼくの2席分くらいとばした左隣には、20代後半くらいのサラリーマンがすわっていた。「若いのにいいぞいいぞ」と期待は俄然高まる。
 
 いよいよスタート。
 内容は、要するに、東条英機が東京裁判でがんばりました、というような内容であり、それ以上言うことは特にない。オープニングのスタッフロールで「加瀬英明」「富士信夫」の名前が「『プライド』製作委員会」の一員として出ていたときには、期待が高まって笑いをこらえるのに大変であった。

 幾つか鑑賞のポイントを紹介しますので、これからビデオで観てみたい(現在発売中とか)という奇特な方はよろしければ参考にしてください。

1.烏丸せつこの切腹

 戦争未亡人役で烏丸せつこ(最近ご無沙汰)が出てきて、東条ら戦争犯罪人の護送されるバスの前に立ちふさがり、割腹自殺を図るシーンが出てくる。戦争未亡人のはずなのに妙にふとって血色の良い烏丸が「しねーっ、うっ、う〜〜〜〜〜ん」と、気合いの入らないで切腹するシーンは見物。監督は『女囚さそり』の人(伊藤俊哉、だったかな)らしいので、必ずこの手のシーンをいれないと気が済まないのかもしれません(監督は98年の夏頃の『文芸春秋』で熱く語っておられます。御参照のほどを)。

2.アカデミー賞を目指した演出

 東京裁判の会場で、いきなり停電になるシーンがあるが、そこでいきなり鼓の音が聞こえ、なぜか「能」が演じられる、ごく幻想的なシーンがある。ふと気がつくと、どういうわけか東条(津川)の顔には隈取りが浮き上がる。ということは歌舞伎だったのか?
 うーむ。
 この演出の意味をはかりかねていたとき、ふと思い出したのが『報知』の記事。それによると、「アカデミー賞外国語映画部門での受賞を目指し、海外上映も視野に入れている」ですって。すると隈取りも、おそらく外人受けをねらっているのだろうと予測されます。

3.史実を追うことの難しさ

 それまで裁判の答弁で「陛下のために戦った」ことを強調していた東条(津川)が、「陛下に関係ない、自分一人で(太平洋戦争を)やったことだ、と言って欲しい」と求められ、憤死寸前の叫び声を挙げるシーンがあります(これは史実、天皇の密使が、「陛下の御意志には逆らえません」と答弁で言いきった東条に「自分一人で始めたこと」と言えと求めたらしい)。実際戦争終結前からアメリカの国務省内では天皇制温存の方向が決められていたので、東条の言葉は天皇の戦争責任の存在を示すことになるので、まずかった、ということもあるのでしょうか。
 まあそれはともかく、このシーンは全体の流れ(東条ががんばっている)を断ち切る、横道にそれたシーンであり、おそらく監督らが史実に可能な限り忠実であろうとして挿入したのでしょうが、これは映画が伝えたいメッセージをむしろ阻害するのではないでしょうか。テンポも悪くなるし(このシーンがなければテンポのよい映画なのか、と言われれば否と言うしかないが)。

4.馬賊大鶴

 大鶴は感極まってパール判事に思いを訴える(上ずった声落ち着かぬ態度)。で、紹介されて彼はイギリスから独立するインドに旅立つというわけです。大鶴は独立に沸くインドの群衆の中に入り、感動するのですが、エキストラが少ないらしく、カメラは俯瞰的に群集を写さないので、群集シーンに奥行きが乏しい。そういえばチャンドラ・ボーズは英語を喋ってたけど、いいのか。で、エンディング。大鶴はなぜか馬賊みたいになって、インドの荒野をトラックで仲間たちと駆け抜ける。どうして?しかもそのシーンの取り方、もろ通俗的イメージの「オリエンタリズム」的インド、って感じで、サイードに観させてみたい。農民に「馬の尿でも飲むがいいさ」と言われた袁術のように憤死するかもしれない。

5.相田翔子

 主題歌は相田翔子(元WINKの片方)ですが、映画中には流れません。
 彼女は出演もしています。東条の娘役ですが、せりふはなし。出番は2シーンほど。一番重要な出番は、東条の妻(いしだあゆみ)=母親に東条の霊が憑依している(自慰、だったのかもしれん)のを覗き見してショックを受ける、ところです。
 なお鈴木早智子(さっちん)の方は出てきません。彼女は前に『ASAYAN』とかいうテレ東の番組で、合格すれば小室(直樹ではない)にプロデュースしてもらえるという企画「再起」で出ていましたが、踊れないわわがままは言うわで、とうとう企画倒れに。心配していたのですが、別口で無事に再デビューが決まったようです。
 一曲披露して「レコ大獲ったときよりもうれしい」ですって、ははは。

6.パンフレット

 ところで『プライド』のパンフレットを400円で購入してしまいました。幾つか笑いどころはありますが、まず件の大鶴義丹が「まるでハリウッド映画のような迫力でした」と述べているくだりは、本気かよ、って感じで、いい味。それと製作委員会の加瀬英明氏。彼は、いかに日本の侵略がアジアを解放したかということを熱っぽく訴え、「著名な歴史家のホプスバウ教授も、『過激な世紀』の中で認めている」とおっしゃていました。
 「ホプスバウ」、というのは、Eric Hobsbawmのことのようです。「ム」はいずこにありや。ついでに、『プライド』CD版資料が発売されているとか(2000円、郵送料は別)。小林よしのり(「パブリック・よしりん」)との対談も集録。だれか買ってくれないか。

ところでこの映画、やたら長い(多分普通の映画より1時間ほど長い)のはどうにかならないのか。

 ちなみに映画館を出る前、30代くらいのカップルがぼくの前を通っていったのですが、男の方は手に雑誌『正論』をもっていた(女の方はもろ退屈そうに上映中トイレに姿を消していった…)。そのまんまじゃないか。みごとにずっぽしはまっている人もいるということです。

 おしまい。

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