番外編(1) 大学のキャンパスでなにを食べる?

私は諸事情あって、アメリカはメリーランド大学というところに身を寄せています。最近でこそ自炊をし、また時間に余裕があるときには朝サンドイッチなどを作って大学にもっていき、昼食にそれを食べたりしていますが、昼ごはんに大学キャンパス内で何を食べるか、はやはり重要な問題です。

一応、メリーランド大学のウェブサイトはこちら。

http://www.umd.edu

ワシントンDCの地下鉄(メトロ)グリーン線「カレッジ・パーク/ユニバーシティ・オブ・メリーランド(College Park/U of Md)」駅で降ります。大学のシャトルバスが駅前から出ているので、それに乗っていけば一発です。歩いてキャンパスまで行くと、25〜30分くらいはかかると思います。

なぜこんなに駅からキャンパスが離れているのかというと、グリーン線(DCの地下鉄では一番新しい路線です)ができるとき、最初はキャンパス直結にする予定だったのが、当時の学長に反対されたからなのだそうです。当時の学長はキャンパス近くに家があったらしく、「地下鉄駅を家の近所に置くのはまかりならん」となったようです。日本ではあまりそういうイメージはないかもしれませんが、どうもこちらでは、地下鉄=貧民の移動手段、というイメージがあるようです。特に、(車が不便なDCの中心部ではなく)郊外では、中産階級なら誰でも車で移動し、バスや地下鉄は必要ない、ゆえに公共交通機関に乗る人間は…ということのようです。そういう人々がうろうろするのは嫌だ、ということで、要は当時の学長のわがままってことなのですが、そこには階級的差別意識が濃厚にあったりするわけです(ついでに、DCやそのまわりでは、貧民=黒人あるいはヒスパニックと相場が決まっているので、同時に人種差別でもあるわけです)。

それはともかく。

この大学には「スタンプ・ステューデント・ユニオン」といって(スタンプは昔の学生部長か誰かの名前を記念してつけたものらしい)、本屋や娯楽施設、フードコート(広い空間に多数の椅子とテーブルがあり、周りにファストフード的食べ物屋が並んでいて、客は好きなものを買ってそこで食べるという仕組み)などがある建物があります。驚いたことですが、このフードコート、全て大手のファストフード・チェーンばかり。マクドナルドにタコベルなど。面白いところでは、「パンダ・エクスプレス」という店があり、これは中華料理のファストフード店です。あとは、日本ではみたことのない「チック・フィラ(Chick-Fil-A)」という店があり、これはチキンのフライあるいはローストをはさんだサンドイッチ(アメリカでは、ハンバーグをはさまないものはハンバーガーのパンを使用していても全て「サンドイッチ」と呼称し、日本のように「チキン<バーガー>」などのようには言わない)の専門店です。たまに食べるなら、悪くはないです。あとは「スバーロ(Sbarro's)」というピザとスパゲティの店など。しかし、どの店も、量だけ多くてやたら脂っこくてしょっぱいのです。パンダ・エクスプレスの野菜の炒め煮もやたら塩辛くてびっくりします。味付けもアメリカ人向けですし。スバーロのピザも、1スライス食べると胸焼けするほど脂っけがあります。ともかく、多くの日本人にとっては、少々辛いと思います。

キャンパス内には、「サウス・キャンパス・ダイニング」といって、キャンパスの南側に、日本の大学の学食にそっくりな食堂があります。好きなものをとって、最後にまとめて会計するというものです。しかしここも、大手チェーンは入っていないけれども、供されるのはピザやハンバーガーばかり。ただ、ここにはサラダ・バーがあり、一般的な日本の学食やファミリーレストランよりも選べる野菜の種類が豊富だと感じます。驚かされるのは、マッシュルームのスライスが生であること。アメリカ人はきのこを熱しないで食べることも多いようです。私も試してみましたが、もさもさして、ちょっと土臭いというか菌類的な匂いがして、少しもおいしいとは思えません。あと、アメリカ人はキャベツをあまり生で食べませんね。日本のサラダバーなら、キャベツの千切りが必ずといっていいほどあるものですが。

野菜の種類が多いのは結構なのですが、しかしながら、そのサラダのドレッシングがいただけない。アメリカの一般的なドレッシングは、全てクリーミーなもったりしたタイプなのです。これは味もしつこく、正直何度も食べる気にはなりません。日本で「フレンチドレッシング」といえば、酢・油・塩・コショウなどで作る透明っぽいさらりとしたドレッシングを指すことが多いですが、こちらアメリカでは白濁のもたっとしてこってりしたドレッシングです。スーパー等で市販されているのも、ごく一部を除いてそんなのばっかりなので、私は家でサラダを食べるときは、自分で野菜を酢(かライムの絞り汁)・オリーブ油・塩コショウで和えています。このほうがさっぱりしてよいです。日本ではノンオイルのさらさらしたドレッシングすら人気なのに、アメリカ人は何でも味が濃厚でないと我慢できないのでしょうか。

しかし、このキャンパスの中にも食の救世主はいました。

先ほどの「ステューデント・ユニオン」の地下にひっそりと、「フード・コープ(Food Co-op)」という店があります。主に自然食品などを扱っている、食べ物専門のグローサリーのようなお店です。左翼系文献のコーナーがあったり、左翼運動系の匂いがすることは確かですが、どこまで本気なのかはわかりません。エコロジーを意識したり、いわゆる「フェア・トレード」にコミットしているっぽいのは確かなのですが、一つ言えるのは、プロレタリアによる革命を志向している雰囲気はありません。ともあれ、大学生協が左翼っぽいというのは、万国共通なのでしょうか。まあ、日米しか見ていないので一般化するのもなんですが。

ここではいろいろな食べ物(瓶詰めやお菓子も含む)が買えるのですが、この店舗の奥のほうには大きな厨房があり、その場で具材をいろいろ選んだオーダーメイドのサンドイッチを購入できます。また、「本日のホット・スペシャル(Today's Hot Special)」というメニューがあり、穀類(たぶん米や麦を混ぜている)とその上にかけるものを合わせて1ポンド(=約450グラム)あたり3.5ドルといった値段で販売しています。肉の入らないベジタリアンなメニューで、だいたいがグラーシュ(ハンガリーのシチューでしょうか、野菜の煮物)や豆のカレーなどなのですが、味が濃くなく、ヘルシーなので、私は時々ここの食べ物を買って昼食にしています。

またここにはちょっと面白いお茶も売っています。「オネスト・ティー(Honest Tea)」というカリフォルニアのメーカーのシリーズなのですが、緑茶やウーロン茶、紅茶にクランベリーやドラゴンフルーツ、桃のペーストと若干の甘みをつけた飲料です。甘さが控えめなせいもあって、これが意外においしいです。日本の緑茶とは、ちょっと違うような感じではありますが、フルーツの香り&甘みと結構合っています。コーラなどをあまり飲みたくない、しかしミネラルウォーターもちょっと味気ない、そんな時に、まことにありがたい飲料です。

それにしても。

メリーランド大は財政が厳しく、最近毎年のように学費が上がっていると聞きます。2005年現在、州民でも7000ドル、留学生を含む州外民の場合は1万4000ドル以上も授業料だけでかかるらしく、全米の州立大学のなかでも学費がかなり高い部類に入ります(私は、わけあって払ってませんが)。そのせいなのかもしれませんが、大学の食堂が大手ファストフードに占拠されていたり、大学内にスターバックスがあったり、日本の大学ではそれほど見られない現象がアメリカのキャンパスでは当たり前のようです。学生向け福利のアウトソーシングが進んでいるということでしょうが。

実は、多くのアメリカの大学も採用しているのですが、メリーランド大学の学部生は、1〜2年生はキャンパス内の寮(ドミトリーDormitory、略してドームDormと言うことが多い)に住むことを義務付けらるという制度をとっています。で、ミールプラン(Meal Plan)というのがあり、どうやら一定金額を払うと、食事ができるクーポンが支給されるのだそうです(キャンパスの周りの若干の食べ物屋で、そのクーポンを受け付けているところもあるようです)。しかし、そのクーポンを使って食べることが出来るのは、キャンパス外の店も含めて、上記のようなファストフードばかり。学生の長期的な健康はどうなっているのでしょう?心配になります。

比べてみると、日本の学食というのは栄養がむちゃくちゃになることを防ぎやすくなっているような気がします。気軽に好きな分だけチョイスできる小鉢料理などというのは、実は栄養バランスを調整するうえで非常によいのではないでしょうか。こんな文章を書いていると、急にピリカラーメンが食べたくなってきます(北海道大学の人でないとわからないローカルな話で申し訳ありません。これは、ラー油で和えたチャーシューの細切り・にら・ねぎなどをラーメンの具にしたもので、約340円。学食にしてはとてもおいしいラーメンなのです)。

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