ご利益の理由

大人気のがん封じ寺は
現代のお伊勢参り?



がん封じを念じる「木札」がビッシリ!

 愛知県蒲郡市にある無量寺。通称、西浦不動は「ガン封じ寺」として名を馳せている。毎日、観光バスが連なって、多くの参詣者が詰めかけるという。

 東名高速道路を蒲郡インターで降りて、15キロメートル。よほど大きな寺院なのだろうと想像していたのだが、なかなかに小じんまりとした佇まいである。
 参道には、ぎっしりと木札がぶら下がって境内まで続いている。鈴なりとは、こうした様子をいうのだろう。

 すべて参詣者が奉納していったものだ。木札には人体が描かれていて、胸や腹、手足などに丸印がつけられている。なかには、全身を塗りつぶしたものもある。
 ガンを患わないように、自分の気がかりな部分を示して祈願しているのだ。

「乳ガンにかかりませんように」(32才)などと予防を祈願する札に混じって
「早く良くなりますように」(45才)とか「義足にも慣れました。再発転移しませんように」(16才)など具体的にガンの平癒を願う札も見かけられる。
 境内には露店で、お茶やシイタケなどを土産物として売っている。

「ガン予防に効果がある食物繊維が入っているお茶なのよ。毎朝、ご住職がご祈祷した物を並べているの」
 と売り子のおばさんが声をかけてくる。境内には小さな滝が流れ、楠の古木が立ち、巨大なパゴダ(仏塔)がそびえ、なかなかに目にも賑やかだ。

 僕が境内へと歩を進めると、ちょうど団体の参詣客が、観光バスに向かって引き上げていくところだった。歓談の声が響く。無量寺は繁華に賑わうお寺だ。
 さらに本堂の奥には「千仏洞めぐり」なるモニュメントまで造られている。



新聞・週刊誌・旅行会社
温泉とセットで大人気に・・・

 松山孝昌住職(59)に、ガン封じの由来を尋ねた。それは20年前のことだという。
「地元の中年女性が胃ガンを宣告されたんだわ。でね、手術の前にお参りしたんだね」

 無量寺は、平安時代に建立されて以来、病封じの不動明王として信仰されてきた寺だった。この中年女性が手術直前の検査に赴いたところ、ガンが病巣が薄くなっていたという。さらに1ヵ月、経過をみたら、 「ガンがすっかり消えていたっていうんだ」

 お礼参りに訪れたこの中年女性が、近所の人々に無量寺のご利益を話したらしい。
 噂を聞きつけた新聞社が、これを記事にした。さらには週刊誌が取材に訪れ、テレビ局が番組で紹介するためにやってきた。あれよ、あれよという間に、1年も経たないで“ガン封じの寺”の評判はマスコミを通じて、全国に広まった。

 参詣者が日ごとに増えるある日、
「旅行会社の人がやって来たんだわ。ぐるりと寺を視察して“駐車場とトイレをもっと作らないといけませんよ”とアドバイスしていってなぁ」
 無量寺の周辺は湯どころで、西浦温泉、片原温泉、三谷温泉に囲まれている。

「地元の旅館組合の人が来て、ガン封じのパンフレットを作ってくれって……」
 こうして無量寺はいつの間にか、各地から観光バスが乗りつける観光地へと変貌していった。無量寺を訪れた参詣客は、参詣に併せて近隣の温泉地でくつろいでいく。いまでは観光バスが年間にのべ1万台、100 万人ほどがお参りに訪れる、一大ご利益寺として賑わうに至ったというわけだ。

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