<Jaeger LeCoultre Chronometre Geophysic>

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なんの変哲もないセンセコの三針時計。だが・・・
ムーブメント
Cal.478/BWSbr 5振動ブレゲヒゲ、
ちらねじテンプ、スワンネック、手巻き
サイズ
35mm
材質
SS
ダイヤル
白の塗り+アプライドインデックス
バンド
CFの茶革
その他
スクリューバック、ハック付き、軟鉄製のダイヤル・インナーケースによる耐磁性能あり

「Geophysic Chronometre」〜潜水艦乗組員の時計

・Introduction
 パテックのノーチラスという有名な時計がある。ジェンタデザインの、とか言われているもので、ケースをくり貫いて作っておりなるほど潜水艦的なイメージがある。個人的にも気になる時計だ。なんでいきなりこんな話かといえば、実はジオフィジックこそが潜水艦ノーチラス号の乗組員に手渡された正真正銘の時計であるからだ。このあたりの話はNikator氏の名文、さらにはJLCSocietyのページに非常に詳しく、さらにはMark11 Tracking Pageにも激レアPGモデルが載っているのでご参照あれ。
 クロノメーターという規格は今やスイス時計の価値を簡単に高めるための商標となってしまった感すらあるが、この時計の持つクロノメーター本来の意味ははるかに重いものである。腕時計でクロノメーターといえばまず思い出すのがゼニスの135、プゾーの260(BEBAかナルダン)、オメガの30T2(SC)RGあたりである。あとはVacheronのクロノメーターロワイヤル(P1007/BS又はP1008/BS;機械はJLC-P478ベース、Geophysicと多くのパーツは共通である)あたりか。いずれも時計マニア垂涎であるがマニアの間でのみの話である。そのなかでもこのジオフィジックは特に知名度が無い。こんな時計を知る人は決定的に少ないのである。まあ時計自体の現存数も少ないが。

・Another Chronometre of JLC
 この時計とともにやはりクロノメーターで、JLCとして知名度が有る時計にGeomaticがある。JLCカタログにもBigMasterの元祖ということで、写真入りで載っている。これは両方向自動巻き、5.5振動のCal.881GまたはCal.883S搭載で、おそらくリファレンスではE398およびE399が881G、E399/1が883S搭載なのではないかと思っている。1967年以降のGeomaticは883Sが搭載されているはずだ。なおほとんど知られていないがGeomaticには角型ケースのもの(Ref.E560-Cal.883S)もあり、これは165本と生産数も少なくかなりのレアモデルである。また今のマスター系のケースバックについているメダルはこの時計が元祖で、角型Geomaticにもしっかりとついている。その実態は国際地球観測年(International Geophysical Year)のマークであり本来はGeophysicにこそ付くはずのものであった。Geomaticもやはり非常に魅力的な時計であり、いつか入手したいと考えている。なお第三のJLC製Chronometre、Master Mariner(Cal.906)という異端児も存在することを書き添えておく。

・Outside
 Geophysicに話を戻そう。有名な話であるがこの時計はJLC125周年を記念して作られたジュビリーモデルである。直径35mmの手巻きセンセコ三針。ケースはSS、YG、PGがある。
 生産数については諸説あるが、調べた限りではSS:1038本、YG:220本、PG:30本の合計1288本説が有力だ(SS:720、YG:256、PG:25本の1001本説もある)。
 さらに、軟鉄インナーケース・強化プラスチック風防・スクリューバックを装備しないP478BWSbr搭載のRef.2985という時計もGeophysicとする説もあり、これはYG82本 PG20本とさらにレアなモデルである。これを含めるとトータルでは1396本ということになる。PGモデルは前述のMark11Tracking Pageにある通りSSモデル同様の外観だが、YGモデルはこれまで確認したところ、これとは異なりアプライドのアラビア数字が3,6,9,12、外周にセコンド数字が5刻みで小さく書かれておりダイヤルに細く十字が描かれているものがあり、SSモデルを見慣れると一見Geophysicとは思えない外観である。これのハンドはスケルトナイズドで、それ以外の例は確認されていない。
 ハンドは夜光付きDauphine、オンリーアンティークスに載っている夜行付リーフとバトン、SteveG氏のスケルトンハンドの4種類確認できる。セコンド針は全て共通だと思っていたが、最近になってドイツの知人から赤いセンセコがついたガラの写真を送ってきたということがあった。取り替えられた可能性はもちろん有るが、ダイヤルもかなりヤレている時計でセコンド針だけ交換されているのも変な気がするし、である。これは謎のままだ。
 さて私の個体のハンドは見てのとおりDauphineだ。ケースの外周部にも夜光のドットが12個付くことから、ケースとハンドはつじつまが合う。なお夜光なしハンドの場合はケース外周にももちろん夜光はない。
 ダイヤルの状態は非常に良い。リフィニッシュされている可能性もあるが、JLCに詳しい方数人からオリジナルだろうと言われたので多少自信を持っている。マットな白ラッカー仕上げで、アプライドインデックスは細くて長い。6と12だけアラビア数字で、CHRONOMETRE表記はあるもののペットネームは印刷されない。全体の雰囲気はシンプルの極みであり、その冷たい感じがたまらなく好みである。色はどこにも、無い。なおダイヤルの素材は軟鉄製とされている。
 ケースはSSとはいえよくエッジは立っている。多少磨かれた痕跡はあるものの、50年近くたっているものとしては非常に良い状態だ。ラグは非常に角ばった形状で、この時計のソリッドさを助長させている。ケースバックはスクリューであり、もちろん内側にはOリングが入っている。結果として貴重な時計であるがSSの防水時計ということで意外と気兼ねなく使える。ケースバックは全くのプレーンで、何の刻印も無いことからニセモノかとも思うくらいであるが、この時計はこれが仕様なのだ。
 GeophysicはダイヤルにJaegerLeCoultreとあるにもかかわらず、機械はLeCoultre銘となっており、JLC歴代の時計の中で逆の組み合わせは多数あるものの、この組み合わせはかなりレアである(確か2種類しかない)。またVXNの刻印についてはVacheron製などとする誤った情報が特にオークション上で散見されるが、VXN刻印のある機械は100%JLC製であり、逆にVacheronに出していただけである。
 大きな竜頭のお陰もあり、巻き味はカリカリと好ましい。ラチェットの適度なラフさやメインスプリングの反力などから大きな機械が入っていることを想像させる。時間合わせは、究極にやり易い。ハンドのとがり具合とダイヤルのインデックスの位置が絶妙で、かつもちろんハック付きであるためである。

・Inside
 さて機械である。まずその長たらしい名称であるが、その意味についてJLCからの返答をそのまま載せる。
"P" means "schock-absorber" パラショックのことである。
"478" is the name of the caliber Cal番。
"B" means "bevelled platinum side dial" 何の意味だか良く分からないが。
"W" means that it is an USA engraving "LeCoultre Co" 前述の内容を示すものらしい
"S" means "second-stop" ハック付きを示す。
"br" means "Breguet overcoil".
 海外のアーカイヴにSbrはSpirale Breguetと書かれたものがあるがこれは間違いである。私の個体は幸い機械の状態も良く、とても50年近く前のものとは思えない。よく写真で見るのはツツカナ押さえの板バネがヘロヘロのやつであるが、これはビシッとしている。軟鉄製のインナーケースは意外と薄い。
 機械そのものは、ブリッジの厚さ、「本物の」チラネジやでかいテンワなど非常に見応えがある。PP12-120のような古典的なブリッジ分割形状ではない(具体的にはガンギ車の受けが独立していない、とか)ため、テンプ周りの古典的な見応えと一種違和感を感じ、さらに出車式であることと、さらにハックレバーの後付感がなんかハイチューンドエンジンを連想させる。この機械は紛れも無くCal.449というスモセコ機がベースで、その最終進化形、バリバリチューンなわけである(あくまで古典の中で、であるが)。その意味では葉巻型F1のエンジンのような感じ。コートドジュネーブが無いのは、「性能には関係ないため」この理由しかないであろう。逆に性能向上のためには何でもあり、で、これが凄みを感じさせる大きな理由である。この機械は「磨きの美」「造形の美」ではなく「機能美」なのだ。よって方向性で言えばZenithの135などと被る気がする。ここがある種の機械ヲタをひきつける要因であろう。逆に言うと精度もさることながら見栄えも含めて手間を惜しみなくつぎ込んでいるオールドPatek等とは方向性が違うわけである。PatekにはPatekのオーラがあるが、この時計からは全く異なるオーラが冷たく放たれているような気がするのだ。

・Summary
 シンプルでありながらその由来、中身までどこをとっても語れる時計、そして探すと滅多にない時計、そんな時計がGeophysicである。

09.Jun.2005