新生児難聴のスクリーニング

 人間を特徴づけているのは言葉によるコミュニケーションです。視覚も重要ですが、聴覚がその大事な役目を果たします。難聴があると言葉の発達が遅れたり、発達してこないのです。聴覚は見えない障害なので、生まれてすぐは気づきにくく、成長してから”言葉がでてこない”ことで初めて気づかれることになります。
 ここでは、新生児の聴覚スクリーニングについて書いています。

早期発見・早期療育が最大の課題
 生まれながらに難聴を抱えている新生児は、正常新生児で1,000人に1〜2人、ハイリスク新生児で100人に3〜5人存在するとされますが、その早期発見・早期療育体制は整っていないのが現状です。こうしたなか、1997年に新生児聴力スクリーニング用装置が導入され、98年には厚生省(現厚生労働省)厚生科学研究として「新生児の効果的な聴覚スクリーニング方法と療育体制に関する研究」班が発足し、一部の検査費用が補助対象となるなど、今後5年以内に新生児全員にスクリーニング検査を実施する動きが始まっています。
 従来、母子手帳のアンケートに聴こえと言葉に関する項目があります。1歳半健診のアンケートと、3歳児健診の聴覚に関する健診が法律(母子保健法)で定められています。しかし、3歳児における高度難聴の発見では遅すぎます。
2002年7月4日 07時54分16秒


生後6ヶ月が語彙獲得の臨界期
 言語発達の最も重量な時期は生後6ヵ月までであると言われており、この時期までに難聴が発見され、補聴器などを用いて療育が行われると健常児と同様の生活が可能になることもあると報告されています。
 3歳児の語彙数については、下記のように報告されています。
     正常聴力児の語彙数            ;約700語
     誕生時に聴力異常を発見し処置した児の語彙数;約500語
     生後6ヵ月で発見し処置した児の語彙数    ;約300語
     生後2年で発見した児の語彙数        ; 約25語

 つまり、生後6ヵ月までの間に急速に言葉を聞き取り、覚え、発生する時期があると言われているのです。また、外耳から中耳にかけての難聴は手術などで治せるが、中耳から内耳にかけての難聴は治療困難で、しかも難聴全体の9割以上を占めるとされます。こうしたことから、昭和大学小児科の田中大介氏は「新生児聴力スクリーニングの意義は、難聴を早期発見・早期対応することにより、言語発達を促し社会適応を可能にすることである」と強調しました。当科でも、新生児聴力スクリーニングの必要性を認識して推進しております。
2002年7月4日 07時54分16秒


新装置でスクリーニングが容易に
―automatedABR法とOAE法―
 新生児の聴覚障害スクリーニングには、automated聴性脳幹反応(AABR)検査と耳音響放射(OAE)検査の2つがあります。
 「AABR」は無痛の検査で、乳児の頭皮に電極を置いて音刺激を与えるもの。検査に要する時間は、ASHAによると5〜10分程度であるといいます。
 「OAE」も無痛の検査で、睡眠中の乳児にも実施できる。これは、耳に音を入れると内耳から反射されてくる小さな音を記録する方法です。
(ご参考までに)
 Diefendorf准教授は「新生児の聴力を検査する為の技術は過去10年間に大きく進歩した。医師の関心は簡便かつ正確で経済効率が高い検査法であった。AABRとOAEはこれらの目標をすべて達成しており、感度と特異度も高く、擬陽性率は低い」と説明しています。さらに、同准教授は「この2つの方法はいずれも経済効率が高い。」と述べました。  ひばり園では、「AABRとOAEのどちらがいいとは結論できない」とします。また、F病院では聴覚障害スクリーニングにAABR(検査費5000円)を約7000人に勧めました。しかし受検率は、50%台でした。

 当院ではOAEを用い、原則として全員の新生児に行います。理由のひとつは難聴全体の90%が中耳から内耳にかけての難聴であり、OAEにて検出可能だからです。県にはこの検査にかかる費用を公費にしていただくよう御願いしておりますが、今のところ財政的に無理の様ですから、現時点では当院が負担します。希望されない方は、お申し出ください。
2002年7月4日 07時54分16秒


診療科・施設超えた連携が必要です
 聴覚スクリーニングは確定診断ではないことに注意しなければなりません。両親に説明する際には心理面への十分な配慮が必要です。スクリーニングにおける早期発見の後には、5から6ヶ月までに確定診断され、次に児に対する早期(6ヶ月までの)療育体制が準備されています。
 早期療育の体制づくりに関しては、熊本県の新生児聴覚スクリーニングの流れがあります。熊本県の産科施設ではAABRまたは耳音響放射検査(OAE)などによりスクリーニングがなされます。次に、要精査と判定された児に対しては、耳鼻科でABRなどによる確定診断が行われています(図1参照)。要療育と診断された児には、耳鼻科医による診断・検査・治療、小児科医による発達評価、看護師による精神的ケアおよび各科の調整、保健婦による育児相談、言語聴覚士による聴覚学習および補聴器の指導といったチームによる療育システムが実施されています。当院では産科、耳鼻科、小児科、看護師、言語療法士が揃っています。それぞれが児の療育に尽力と連携をします。まず診療科を超えた理解・協力、特にスタート地点である産科との連携が重要であること、両親が持つ児への役割の大切さがあります。
 産科や小児科あるいは耳鼻科だけでできることではなく、診療科さらには施設間を超えた連携が必要である、と強調します。
2002年7月4日 07時54分16秒


難聴の程度と聞こえの状態(補聴器や視覚的手だてがない場合)
軽度難聴(26〜40dB)
 日常の大体の音、声は聞こえるが、聞き返しも多く、ことばの発達や発音にも影響が出てくる。
中等度難聴(41〜55dB)
 対面しての会話は大体聞こえるが、少し離れたり、集団の中では聴き取りは困難である。ことばの発達が遅れる。
準重度難聴(56〜70dB)
 大きな会話なら何とか聞こえるが、日常の会話、音は聞こえないことが多い。ことばの発達はかなり遅れる。
重度難聴(71〜90dB)
 耳元の大きな音、声しか聞こえない。日常生活でも、大きな音以外は、音に対しての反応はほとんどない。聴覚からのことばの獲得は困難である。
最重度難聴(91dB以上)
 日常生活でも全くと言っていいほど音に対する反応がない。聴覚からのことばの獲得は非常に困難である。
2002年7月4日 07時54分16秒


難聴によって起こる問題
 難聴の程度や発見の時期、療育を受けや期間などによって違いますが、次のような問題が起こります。補聴器をつけて耳からの情報が入るようになったり、また、視覚的な手段を通して理解できることが増え、ことばやコミュニケーションが改善されると問題は軽減していくことも多いのですが、聞こえにくさ、コミュニケーションの問題は依然として残っていきます。聴力が重度になれば(手話などの視覚的な手段も獲得しなければ)、問題はより深刻になります。

〈一時的な障害〉
・周囲の音や声、ことばが聞こえない。(聴き取りにくい)
・ことばの習得ができない、遅れていく。
・発音が不明瞭になる。
・音による情報が入りにくく、日常生活で不便を感じる。
・身体的な危険を避けにくい。

〈二次的な障害〉
・コミュニケーションがうまくいかない→自分の言いたいことがうまく伝わらない。相手の言ってる事がわからない。
 →情緒が不安定になる。対人関係がうまくいかない。
・周囲の情報が入りにくいので、物事を理解したり、取り入れたり、学習していく力が育ちにくい。
・友達関係がうまくいかずに、孤立したり、消極的になりやすい。 ・保護者が養育に自信を無くしたり、コミュニケーションがうまくいかずに好ましい親子関係が育ちにくい。
2002年7月4日 07時54分16秒


難聴によって起こる問題をできるだけ軽減するためには
〈1〉補聴器を装用してできるだけ聞こえの補償をしていきます。(聞くことの学習が必要です。生後6ヶ月から。)
〈2〉補聴器を装用しても聞こえは完全ではありません。視覚的な手段も活用してできるだけコミュニケーションを可能にし、情報が入るような配慮をしていきます。
〈3〉特に聞こえの厳しい場合は、、手話や指文字などを使っていきます。
〈4〉補聴器の限界に対しては(聴覚を補償したい場合)、保護者と充分話し合いながら、人工内耳の埋め込み手術を考えていきます。(ただし、保護者への情報提供をしっかり行っていくために、人工内耳の効果、問題点、手話の必要性や手話l交流会への参加、成人のろう者からの意見を聞くなどを併せて行っていきます)
〈5〉1〜4までを踏まえ、難聴の子ども、両親、関わる人たちが、聞こえや、コミュニケーション、情報補償、発達につ いてお互いに学んでいきます。
難聴の子供たちと関わる人たちのお互いのコミュニケーションの努力が必要です。
2002年7月4日 07時54分16秒


熊本県ひばり園(難聴幼児通園施設)の療育方針(参考までに)
●早期発見により、補聴器を装用し、遊びや生活のなかで、残存聴力を活用していく。
●安定した母子関係の中でコミュニケーションの意欲、能力を育てていく。
●豊かなコミュニケーションを築くために(伝え合う喜びの体験、情報がわかる体験の積み重ね)音声以外のコミュニケーション手段も使う(身振り、手話、指文字、写真、絵、カードなど)
●聴覚の障害だけに目を向けるのではなく、子どもの全体発達を援助していく。毎日の生活の中での様々な体験  (周囲の事物との関わり、人との関わり、自然とのふれあい)のなかで心や、ことばを育てる。
●体験したことを、言語化するために、コミュニケーションの手段のために絵日記、体験カードなどを活用する。
●両親が、難聴の子どもを育てていくための援助を行う。(子育ての方法、障害についての理解、コミュニケーションの方法、福祉の制度、補聴器のことなど)
●保育園や幼稚園との連携
●関係機関との連携(学校、保健所、福祉総合相談所、熊本大学耳鼻科、発達小児科など)
●個別指導と集団指導を行っています。

「熊本県ひばり園」は昭和56年に熊本県立の難聴幼児通園施設として開設されました。九州では福岡市、北九州と3つの施設がありますが、熊本では1施設で、県内の各地から通園してきています。定員は30名です。
〒862-0939 熊本市長嶺南2-3-2 電話 096-382-1939, FAX 096-385-7974
2002年7月4日 07時54分16秒


子供達の耳の管理について(熊本大学耳鼻科の鮫島先生のお話)
 中耳炎は、こどもの耳の病気で、最も多い疾患です。
その主なものは、急性中耳炎と滲出性中耳炎です。急性中耳炎は、風邪などの時、鼻と耳をつなぐ、耳管という管から細菌が中耳に入り炎症を起こします。鼓膜の奥の中耳に膿がたまるため、鼓膜がはれて耳痛があります。
鼓膜が破れると耳から膿が出て、痛みが止まります。多くの子どもは、一度は、急性中耳炎にかかっているようです。幼児の場合、耳痛を夜泣きや機嫌の悪さ、耳に手をやるといった行為で表現することが多いようです。
 一方、滲出性中耳炎は、急性中耳炎が完全に治まらず、耳管の働きも悪いため、中耳にたまった分泌物が、排出されない状態です。
鼻炎や副鼻腔炎などの病気や、アデノイドや扁桃肥大がある子どもに多くみられます。この場合は、痛みもなく、よんでも振り向かない、とか、テレビの音を大きくするなどの、聞こえの悪さの症状で気付かれることが多いようです。
 いずれの疾患も耳鼻咽喉科での治療が必要ですが、幼児では、風邪を引きやすいため、そのたびに再発したり、鼻やのどの疾患のために治りにくいこともあります。多くの子どもは、小学生のころには、風邪もひきにくくなり、中耳炎も起こさなくなってきますが、不十分な治療で慢性化したり、難聴を残したり(感音性に伝音性難聴が加わることも)することもあるので、適切な治療と経過観察が必要です。

その他、何かあれば、当院スタッフにご相談下さい。

参考文献やURL
1.JOHNS11(2000VOL.16NO.11)新生児難聴の発見と対応 東京医学社
2.Medical Tribune2001年3月8日VOL34NO10
3.The Marion Downs National Center for Infant Hearing の10年間の調査結果 (1997年に発表)
4.http://homepage2.nifty.com/hibarien/mondai.htm
5.http://homepage2.nifty.com/hibarien/ryouiku1.htm
2002年7月4日 07時54分16秒