50回脳死臓器移植

 


臨床的脳死診断について

【交】前回の交渉で、「臨床的脳死診断はドナーカード所持を把握するためのタイミングとして設定されており、高度な救命治療を担保するためのものではない。あらかじめ、ドナーカードの所持が確認されていれば、臨床的脳死診断は省いて法的脳死判定に入ってよい」と断言されたが、厚生省としてそのような見解をとりまとめたということか。
【厚】臨床的脳死診断は「臓器移植法の運用に関する指針(ガイドライン)」で決まっていて、解釈としては、前回が申し上げたように、ドナーカードを保有しているかどうかを確認するためのタイミングを示すために作ったものであるということです。ただし、臓器移植専門委員の中でも、臨床的脳死診断の解釈をめぐって混乱している委員もいることは確かです。
【交】ドナーカード確認を目的として臨床的脳死診断をやるという意味か?
【厚】臨床的脳死診断をやった結果、どうも脳死じゃないかということであれば、ドナーカードの保有を確認するというのがガイドラインの趣旨であって、法的脳死判定に入る前に必ず臨床的脳死診断をやって、その次にカードの確認をするというようなステップを必ず踏まなければいけないということを示しているものではないということです。
 つまり、臨床的脳死診断をしない段階で突然カードが出て来た場合、いったんカードを引っ込めていただいて、改めて臨床的脳死診断をやらなければならないというものではありません。これが厚生労働省としての解釈です。
【交】そんなこと、どこに書いてあるの?
【厚】「質疑応答集(脳死下での臓器提供手続きにかかわる質疑応答集)」に書いてあります。読み上げますと、「意思表示カードの有無を確認せずに、臓器移植とは関係なく法的脳死判定と同等の項目・方法で脳死の診断にかかわる検査が行われていた場合であって、その後、家族がカードを出したり提供を申し出たときは、この診断は臨床的脳死診断となり、再度四項目の確認を行う必要はないと考えてよいのか」という質問に対して、「既に家族から意思表示カードが提示されているような場合には、四項目の確認をすること(臨床的脳死診断)が、ガイドラインにおいて求められているわけではない」との回答が示されています。
【交】それは、既に、法的脳死判定と同等の項目・方法で検査が行われているというのが前提で、既に実質的に臨床的脳死診断を行っているから、改めて再度、臨床的脳死診断を行う必要はないという意味であって、我々の質問に対する答えにはなってないでしょう。今、問題にしているのは、脳死診断にあたるような検査は何もしていない段階でドナーカードが出て来た場合どうするかということでしょ。
【厚】当然、ドナーカードが出て来たからといって、救命の見込みのある人に、法的脳死判定を始めるということはあり得ない訳ですから・・・
【交】だから、救命治療を尽くした後に、臨床的脳死診断をするんでしょ
【厚】いや、医者が脳が不可逆的な状態で救命の見込がないことが分かっている状態でドナーカードが出て来た場合、前に戻って、ガイドラインに書いてあるような項目について臨床的脳死診断をする必要はないということです。
【交】前に戻ってと言ったって、前に何もやってないじゃない。何にもやっていない段階で、たまたまドナーカードが出て来たらどうするかということを聞いている。
【厚】もしそういう場合であっても(質問の情況は違うけれども)、答えぶりは、先程の質疑応答集と同じです。既にカードが提示されているような場合には、臨床的脳死診断を義務づけているものではないということです。ガイドラインに書かれているのは、ドナーカードが出る前についてであって、あくまで「意思表示カードの所持について把握する」タイミングという趣旨ですから。
【交】それは、全く勝手な解釈だ。臨床的脳死診断をしてはじめて、家族がコーディネーターを呼ぶかどうか決めるところへ進むんでしょ。どうして、ドナーカードの確認ということだけを取り上げて言うの?家族が了解していなくても、臨床的脳死診断をするの?
【厚】まあ、そうです、医療行為ですから。ガイドラインには、臨床的脳死診断に家族の承諾がいるとは明示していませんから。
【交】あなたがた国が出している「臓器提供施設マニュアル」の臨床的脳死の判断(診断)の項にも、「もし患者の治療中に脳死が疑われる臨床兆候を認めたとき、担当医師等はその正確な診断に努めなければならない。」として、法的脳死判定に先立ち4つの判定基準項目に係わる検査を行い、すべてが満たされている場合には臨床的脳死と判断し、次の手続き(意思表示カードの所持等の把握)に進むと書いてあるじゃないですか。臨床的脳死診断は正確な診断をするためにやるんでしょ。
 もしも、臨床的脳死ということになれば、家族はその後、重大な選択(積極的な救命治療を続けるか、いわゆる延命治療をするか、ドナーカードがある場合は臓器提供するかどうか)をしなければならない。ドナーカードがあって家族が同意すれば、法的脳死判定に進むわけだけど、それは無呼吸テストも含めて本人に多大な負担をかける。だから、正確に診断する必要があるので、臨床的脳死診断をやるんじゃないですか。カード保持把握のタイミングとか、カードが最初から出ていれば臨床的脳死診断はしなくてもいいというものではなくて・・・。
【厚】いや、そういう趣旨でガイドラインができている訳ではありません。要するに、法的脳死判定は医者が勝手にはやれない、本人の意思と家族の意向があってはじめて始まるものだが、いずれかの時点で確かめなければならない。そのタイミングとして臨床的脳死診断を行った時点ということで、標準的な手順を作っている。脳死かどうかという判定は、法的脳死判定によって担保されているわけですから。
 現実には、法的脳死判定をやったが脳死ではなかったということは避けなければならないので、脳死だという確信がなければ進めないはず。ただ、臨床的脳死診断をやらなければならないとガイドラインで定めているわけではありません。そこは、義務を課していないということです。
【交】臨床的脳死診断をしないなら、どのようにして次のステップに進むのか。臨床的脳死診断もしないで、家族にどのように説明するのか。
【厚】それは、ガイドラインにある臨床的脳死診断にこだわる必要はなくて、各施設で普段に行っている脳死診断です。
【交】各施設での脳死診断ということであれば、ガイドラインで示された臨床的脳死診断の基準と異なる場合もあるが、それも認めるということか。
【厚】そうです。ガイドラインは、あくまで標準的な方法を示しているだけで、義務ではない。拘束力はなく、標準的な流れはこういうことじゃないかということを示しているだけ。そこから外れたらいけないということではない。
【交】じゃあ、どういう形であれ、医者が脳死だと思えば、家族にそのように告げてもいいということか。医師の自由裁量権をそこまで認めるならば、救命治療が尽くされずに、早々に脳死だと判断されるという事態も起こり得る。
【厚】我々の説明の仕方が悪かったと思うので言い直すと、現実には、ドナーカードが出て来た場合には、今までのケースでも、カードをいったん返して、臨床的脳死診断を行って、家族に説明して、コーディネーターを呼ぶかどうかを尋ね、法的脳死判定に入っている。いきなりドナーカードが出て来た場合、それまでの経過の中で臨床的脳死になっていることを医師は把握しているけれど、改めて臨床的脳死診断をやらなければならないかと聞かれたら、ガイドライン上、それは義務づけられてはいないと答えるということです。
【交】ガイドラインは、医療機関が守らねばならない一定の基準を定めているんだろ。患者に対する最善の救命治療を尽くしたかどうか、外部には明らかにならない現状では、ドナーカードが出て来たことをきっかけに、治療の内容や密度が変更されるということもありうる。
 現実に、救急医自身が「救命治療をとことんやれば、臓器移植はできなくなる」と述べている。ドナーカードが提示されたために、早い段階で本人への救命治療が中断され、臓器保存の処置に移行するということも有り得る。救命治療の実態が明らかにされない現状では、不安は大きい。
【厚】和田移植の例もあるので、できるだけオープンにしていこうと思ってはいるが、なにぶん、プライバシー保護との兼ね合いで限界があるのはご理解いただきたい。
【交】臓器移植専門委員会の議事録を読むと、移植推進の立場の委員から、「医師の裁量権をもっと認めるべきだ」、「法律的瑣末主義は問題」という発言が多くなされている。そのような意向をうけて、今回、あなたがたは「臨床的脳死診断はタイミング」という発言をしているのではないのか。
【厚】移植推進側の意向ばかり聞いて言っている訳では決してなくて、純粋に、法的解釈を言っているだけです。
【交】さきほどの「臓器提供施設マニュアル」のなかにも、「臨床的脳死の判断以前に意思表示カードが提出された場合の対応」として、「入院直後または、臨床的脳死の判断の前に家族等から意思表示カードの提示等があった場合、家族に意思表示カードの提示を受ける時期でないことを説明し、その後も救命治療を継続する。また、移植コーディネーター派遣のためのネットワークへの連絡は行わなくてよい。」と、明解に書いてあるが・・。
【厚】マニュアルでは、標準的な方法として推奨しているだけで・・・うーん。
【交】あなたがたの発言は、自分たちで定めたマニュアルの内容からも随分ずれてきているのは明らかだ。マニュアルが標準で、国はそれを推奨していると言うんなら、「義務づけてはいない」云々などと言わずに、少なくとも、その方向でやってくださいよ。

小児の長期生存例について

【交】「小児の脳死判定基準に関する研究」では、第一回脳死判定から心停止までに三十日以上を要した症例を長期脳死症例と定義しているが、なぜ、三十日をひとつの基準としたのか。
【厚】研究班で全国調査した結果、医学的・統計学的に吟味していただいて、三十日をひとつの目安として長期脳死例としたと聞いています。
【交】三十日を区切りとする根拠は何なのか。
【厚】どういう要因があれば長期に生存するのかということを明らかにする方に力点があって、三十日で区切るということに大きな意味はありません。
【交】長期生存例について、研究班や厚労省として個別に詳細に検討することはしないのか。
【厚】予定はない。
【交】今回の調査では、これまで成人では稀とされてきた長期生存例が多数存在することが明らかにされ、脊髄反射も高頻度に観察され、三百日にも及ぶ長期生存例も報告されている。私たち市民にとって見れば、子どもであれば回復力も大きく、積極的な治療を加えれば好転する可能性もあるのではないかと思える。このような長期生存の事実があることを報告しながら、小児の脳死判定が可能という結論はどうしても納得しがたい。私たちと一緒に活動してきた医師らも、今回の報告書には論理的な不備があるとして、提示された小児判定基準には科学的根拠がないと疑義を呈している。

脳死臓器移植十三例目について

【交】肺性高血圧の患者が肺移植を受け、血管内膜剥離で再手術を行ったと報道された。これは事実か。事実とすればその原因は何で、予後はどうか。
【厚】十三例目の患者の臨床経過については、報告を受けていないので、具体的に把握していない。基本的に、救命治療・脳死判定・臓器提供についての検証作業は行っているが、移植患者の予後については、我々は報告を受けていない。
【交】レシピエントについては、厚労省はノータッチということか。
【厚】もちろん、レシピエントの選択をきちんと行ったかとか、基準どおり移植が実施されたか等については関知している。生存率・生着率については、日本臓器移植ネットワークで把握しており、定期的にネットワークを通して情報を得ている。
【交】国として、移植を受けた患者の実態を把握すべきではないか。少なくともネットワークでは、副作用も含めて、移植にまつわる医学的な経過を追跡すべきではないか。この十三例目の患者の血管内膜剥離も拒絶反応の可能性も考えられる。
【厚】必要に応じて検討したい。
【交】肺性高血圧の場合、心肺同時移植も考慮されたと思われるが、この場合はどうだったか。複数臓器の同時移植の場合、調整はどのように行われるのか。
【厚】現在、心肺同時移植についてはルールがまだないので、実施できない。膵腎同時移植については、膵臓レシピエント選択基準の中でルールが決まっている。後ほど、コピーをお渡しします。

移植患者の現在の状態について

【交】今後移植を希望する方たちのためにも、移植患者の現在の状態について、何らかの説明が必要ではないか。
【厚】国会報告の機会を通して、生存率や生着率について公表していく。学会の中では、当然、いろいろな発表がなされるだろうが、行政としては、必要に応じて明らかにするということです。
【交】 生存率、生着率だけではなくて、全体的な統計をとって、移植患者の実態を示してほしい。