はじめまして。松井和彦と申します。このたびは拙いHPをご覧いただき、 ありがとうございました。

 さて、先日、メールにていただきましたご質問につき、長くなりますが私なりの考えを書きたいと思います。ただし、メールでいただいた情報のみを前提としたものであることを、最初にお断りしておきます。

 結論から先に申しますと、現在の実務によれば、家主の主張は正当だと思いますが、今回のケースではこの結論はおかしい、というのが私の考えです。そう考える理由は、以下の通りです。

 まず、今回の事案を考える前提問題ですが、そもそもこの賃貸借が民法395条の「短期賃貸借」にあたるのかどうかが、メールのみからは明らかではありません。賃貸借期間や対抗要件の有無といった要件が満たされているのかどうかが分からないからです。
 ただ、家主の主張や物件明細書の記載から推測すると、恐らく「短期賃貸借」にあたるケースではないかと思われます。

 そこで、以上を前提に話を進めます。

 ご存知の通り、抵当権が実行され、抵当不動産が競売されれば、その不動産に賃借権が付いていたとしても、原則としてそれは消えてしまいます。つまり、賃借人は出ていかなければなりません。しかし、その賃借権が民法395条の「短期賃貸借」と認められれば、抵当権が実行されても、例外的に賃借権は消えずに存続し、賃借人は当面、出ていかずにすみます。

 しかし、この「賃借権が消えずに存続」するというのは、抵当権が実行された当時に存在していた賃貸借契約がそのまま残る、というだけで、その契約期間が過ぎた場合に更新できるかどうかは、395条は直接は規定していません。
 他方、建物賃貸借契約の更新については、借地借家法26条、28条が規定しています。これによれば、家主は正当な理由がなければ更新を拒絶できないと規定されています。賃借人としては、この規定を盾に、更新を拒絶する正当な理由がないと主張することができます。「正当な理由」の有無を判断する際に考慮される要素としては、28条によれば、家主または賃借人が建物の使用を必要とする事情、建物の賃貸借に関する従前の経緯、建物の利用状況および建物の現況ならびに賃貸人が立退料の支払いを申し出たか否か、申し出があった場合にはその金額、が挙げられます。

 一般的には、「正当な理由」の判断は比較的賃借人に有利になされる傾向にありますし、特に今回のケースでは、家主が自分で建物を使用したいというのではないので、もし借地借家法28条が適用されれば、家主としては更新を拒絶できないという結論になる可能性が非常に高いです。

 しかし、今回のケースは抵当権実行後の短期賃貸借なので、現在の実務のもとでは、借地借家法が適用されない可能性が高いです。というのは、もともと短期賃貸借は、抵当権実行によって直ちに賃借人が追い出されるのは酷だから、いわば猶予期間ないし引越の準備期間を与えよう、という意味合いも持った制度です。この点からすると、通常の賃貸借と同じく賃借人を保護する必要はないので借地借家法の適用はない、という考えになります。抵当権実行による差押えが効力を生じた後に期間が満了した賃貸借につき、更新を否定した最高裁判決があります(昭和38年8月27日民集17巻6号871頁)。
 また、別のケースですが、借地借家法13条の建物買取請求を否定した最高裁判決があります(昭和53年6月15日民集32巻4号729頁)。この中では、「短期賃借権者の権利の保護は、同条本文によって認められた期間内における土地の利用をもって限度とし・・・」との言及があります。これから推測すると、建物の場合には3年を限度とし、家主が更新を拒絶すれば従わざるを得ない、という結論になりそうです。

 ですから、最初に書きましたように、現在の実務のルールをそのまま当てはめると、家主の主張が認められる可能性が高い、ということになります。ご質問の趣旨が、「現在の実務の取り扱いによれば、どうなるか」ということであれば、これが私のお答えになります。

 しかし、このようなルールは、抵当不動産の競落人(新所有者)になるべく早くその不動産を現実に利用させてあげよう、という趣旨の下で作られたものです。これ自体は悪いことではないでしょう。せっかくお金を出して競落したのに、長期間にわたってその不動産を自ら使用できないというのでは、競落人に気の毒ですし、そのような不動産を誰も競落しなくなってしまうし、そうなると不動産の担保価値が著しく下がってしまうからです。

 ただ、今回のケースは、競落人としては自分で使用したいとは思っておらず、逆に現在の契約終了後に新たに契約を結んで貸し続ける意思を持っているようです。要するに、42万円の保証金がほしいために現在の契約をいったん終了させたい、ということでしょうか(この部分は私の勝手な推測です)。
 だとすれば、上に書いたような趣旨とは全く事情が異なっています。借地借家法の適用を否定して短期賃貸借をいったん終了させる理由は全く存在しない、ということになります。このような信義に反するやり方、権利濫用的なやり方に対して、上のような従来のルールをそのまま適用すべきではない、というのが私の考えです。原則は上のルールのままでいいとしても、もっぱら保証金や礼金を取ることのみを目的として、あるいは賃料の大幅な増額のみを目的として、家主が更新を拒絶する場合には、借地借家法28条の趣旨を類推して、更新拒絶を認めるべきでない、と思います。
 私自身の考えはどうか、と聞かれれば、私のお答えはこのようになりす。

 なお、私こと、この4月より金沢大学に移りましたので、メールアドレスが変更になっております。ホームページのリンクを変更するのを失念しており、**さんからのメールが広島修道大学の方にいってしまったため、お返事が遅くなってしまいました(早速、リンクの変更をしておきます)。お詫び申し上げます。

 今後とも宜しくお願い申し上げます。

-- --
      ********************

         松井 和彦(Kazuhiko Matsui)
       金沢大学 法学部
       920-1192
        金沢市角間町 金沢大学法学部