

珈琲でも・・・。いいえ、でも紅茶なら。 『ハノーバーストリート』より イギリスを舞台にした映画や小説の中で、すてきなお茶のシーンに出会うたびに、その優雅な雰囲気に憧れたものでした。多い人なら一日に7、8回はお茶を飲むといいますから、お茶に関してはさまざまなエピソードや物語があるにちがいありません。 何度もあるお茶の時間の中でも、午後三時過ぎから四時にかけて、つまりアフタヌーンティーにあたる時間は、別名「黄金の時間」とも呼ばれるそうです。友人を招待して、紅茶やサンドイッチやスコーンを楽しむのも、このアフタヌーンティー。ですから、「お茶にいらっしゃいませんか」というのが、友だちづきあいのきっかけ作りに。 一言のセリフが心に残った映画があります。『ハノーバーストリート』です。イギリスを舞台にした映画らしく、お茶という言葉が何度も出てくるのですが、一組の男女が紅茶で出会い、紅茶で別れるというのが、いかにもイギリス的だなあ、と思いました。 出会いはこうです。 「珈琲でも・・」 という男性の誘いに対して、 「いいえ、でも、紅茶なら」 と答える女性。1943年、戦況は苛烈を極めていたロンドンでのことです。 こうして出会った二人は、ラストでは別れることになるのですが、別れのセリフはこうでした。 「紅茶のたびに思い出してくれ」。 イギリスの香りがする、すてきなセリフだと思いませんか。 この映画が公開された頃、私は小さなデザイン事務所でコピーライターとしてスタートしたばかりでした。夕焼けが西の窓ガラスを染める中で原稿を書いていた私の耳にFMラジオから聞こえてきたのが、この『ハノーバーストリート』についてのお喋りでした。私はすぐに席を立って紅茶を淹れに行きました。忙しく、でもお給料は安く、自分で決めたこととはいえ、それまで勤めていた待遇のよかった出版社をどうしてやめちゃったんだろうと、少し後悔しながらの毎日の中、熱い紅茶を飲みながら、まだ観ぬ映画のことを思いながら、ああ、私はこれでよかったんだ、と紅茶に教えてもらった20代前半の「私」のことを懐かしく思い出します。 |
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