

| よくて? 食事はしないかもよ 『田舎の日曜日』より 生真面目な息子ゴンザクとその家族、結婚をせずにパリでブティックを経営し、自由奔放に生きる美しい娘イレ―ヌ、70歳を過ぎた老画家のラトミラル。 『田舎の日曜日』は、いつものようにラトミラル氏のもとを規則正しく訪ねてきた息子一家と突然訪ねてきた娘と、久しぶりに家族が揃ったある日曜日の物語である。 美食の国フランスらしく、食のシーンがじつに印象的である。もう秋が近いとはいえ、残暑の厳しい日曜日のランチタイム。家族だけの食事だが、男性はジャケットを着用。「上着をぬいでも構わんよ」と父親に言われても、「決して暑くない」と、額に汗をかきつつも、上着を脱ごうとしない息子。彼はきっとエスカルゴを手にもって、中の汁をすするようなことは決してしないタイプの人間なのだろう。こういう堅苦しさもフランスらしくていいなあ、と思う。 食卓に並ぶのは、ローストチキンにワイン、パテ、ポテトフライ、ジャムのタルトなど。「時には健康のためにいい」と、孫たちにまでワインをすすめるラトミラル氏の姿には、食卓を共にすることの喜びがあふれている。 この幸せな日曜日に、この上なくすてきなことが起こる。イレ―ヌの突然の訪問である。咲き誇る薔薇のように美しいイレ―ヌの登場は、今までただただ静かに流れて行く時間の中のサプライズである。 だが、ミストラル氏の喜びは、一瞬にして切なさに変わる。 「よくて? 食事はしないかもよ」 イレ―ヌのこの一言で、ラトミラル氏の胸は悲しみで一杯になる。そして、泣きたいほど娘を引き止めたい父親は、「また近く来るね?」としか言えないのである。 共に食事をするということの意味、食卓の時間というものをしみじみ考えさせられた映画だった。、 彼女と同じものを 『恋人たちの予感』より サンドイッチの生みの親は,イギリスのサンドイッチ伯爵。トランプゲームを中断したくないからという理由で,ロースとビーフをパンではさんで食べたのがそもそもの始まりとか。こんな風におかずと主食を一緒に,手っ取り早く食べるために考え出された食べ物ですから、かたいことは言いっこなしです。パンと中にはさむものさえあれば、あとは自分のスタイルで。楽しいサンドイッチ,ダイナミックなサンドイッチ、ユニークなサンドイッチなど,工夫を凝らして作ってみては? サンドイッチということで思い出すのは,『恋人たちの予感』。この映画の中でのサリー(メグ・ライアン)のオーダーはいつも、とてつもなくややこしい。たとえば、「ドレッシング添えのサラダとパイ・ア・ラ・モード。パイは温めて。クリームはかけないで,パイの横に添えて――」といった具合。とにかく,何でも横に添えるのが彼女流。 親友ハリー(ビリー・クリスタル)とデリカテッセンでブランチをとるシーンで,2人がオーダーしたのがサンドイッチ。どんな風にオーダーしたのか画面では省略されていましたが、その食べ方がやはり彼女流。サンドイッチの中身を次々お皿の横に置いて(つまり横に添えて)中身をシンプルにして食べ始めます。ついでに、「(自分とベッドを共にした女たちは)満足をしている」というハリーに対して、「そんなことわかるの? 女たちは皆、(オルガスムのふりをした)経験があるのよ」とベッドでの声を披露。そのセクシーパフォーマンスに店内の客はビックリするのですが、それを見ていた女性客の一人(実はロブ・ライナー監督のお母さん)が、「彼女と同じものを」とサンドイッチをオーダー。あのセクシー・パフォーマンスはサンドイッチのせいかも・・・というジョークたっぷりのオチがつくのでした。 その他にも、『ドッグ・イン・パラダイス』では小さな子どもの背丈ほどもありそうなバゲット・サンドが登場するし,『ラヴィ・ド・ボエーム』では、ショナールの弾くとんでもないピアノを聴きながらサンドイッチを食べるシーンが登場。ラフに食べることができて、しかもおいしいサンドイッチ。サンドイッチ伯爵と同じく、おしゃべりもゲームも中断してなくてもいいのが何よりの魅力なのかもしれません。 最高のスパゲティだ 『心みだれて』より ロードショーの始まりです。 でも、今日のロードショーの客席は、椅子ではなく、ベッド。枕を背もたれにしてのベッドルームシアターの今夜のメニューはサスペンスです。 こんな夜にピッタリの夜食がスパゲティ。おいしいし、ボリュームもあるし、ちょっとお行儀悪いかもしれないけれど、ベッドへの持ち込みも可能です。 実はこれ、『心みだれて』のシーンからの受け売り。料理評論家のレイチェルとコラムニストのマークは、知人の結婚式で知り合い、恋に落ちるのですが、その夜(というより明け方)の「夜食」がスパゲティでした。明け方の4時にキッチンへ行ってスパゲティを作り、それをベッドの上で食べるのです。料理評論家の作るスパゲティですから、味のほうは折り紙付き。 「最高のスパゲティだ」 「笑ってるのね。最初のデートで料理を作る女。どの男にもこの手を・・・と」 「気に入ったよ。結婚しても週に一度はこれを」 かくして二人はめでたくゴールイン。その決め手となったのが、午前4時のスパゲティだったというわけです。 スパゲティゆえに抜き差しならない状態に陥ってしまったのは、『危険な情事』のダン。激しい情事に実をまかせた翌日、相手の女性が「スパゲティには自信があるの」と、腕によりをかけて作ったのが、トマトソース・スパゲティ。事実、彼女のキッチンには様々なスパイスが並んでいて、自信のほどをうかがわせます。 しかし、このスパゲティには、自殺未遂というとんでもないデザートがついていたのでした。 とはいっても、この『危険な情事』は例外中の例外。手早くさっと作ることが出来て、ワイン」片手にゆったりとその味を楽しめるスパゲティは、幸せな食卓にピッタリのメニューです。 一説によれば、イタリア料理がここまで人気を集めたのは、パスタがあったからだとか。何と言っても私たち日本人は、麺大好き民族なのですもの。だからこそ、さまざまなアイデアも生まれ、オリジナリティあふれるメニューが、私たちの目や舌を楽しませてくれることになったのではないでしょうか。 映画『月の輝く夜に』で、”恋はパスタ”と歌われたように、心弾む幸せなひとときにお似合いのメニューです。 *『心みだれて』はCICビクタービデオより発売中。 農家の卵なんだ 『ジョンとメリー』より 毎日のように食べる身近な食べ物なのに、どこか秘密めいて見えるのは、その不思議な、そして美しい形のせいでしょうか。 冷蔵庫を開けると、扉の上部にあるエッグケースにポコンと収まっていて、それ自体は日常の見慣れた光景だったのですが、森茉莉さんのエッセイを読んでからというもの、ふと手を止めて眺めることが多くなりました。意識して眺めてみると、本当に美しく上品で、夢見る形をしているのです。 冷蔵庫から取り出して手のひらにのせると、手のひらのあたたかさで、卵の気持ちがふっとゆるんだような気がしたり、テーブルクロスの上にコロンところがしてみると、そこから物語が生まれてくるような気がしたり、何だか文学的な香りが漂っていたりもするのです。 卵で印象的なシーンがあったのは『ジョンとメリー』です。ジョンことダスティン・ホフマンは、これまでのさまざまな役柄故か、とてもお料理上手というイメージがあります。『ジョンとメリー』でも、朝食を作ったり、スフレを焼いたりしていて、キッチンが似合う人だな、と思いました。 パーティーで知り合ったメリー(ミア・ファロー)と一夜を共にしたジョンは、「朝食をすませて行く時間はあるかい?」とメリーにたずねた後、テーブルをコーディネートして、朝食を用意します。 「その卵、どうだい?」 「うん、おいしい」 「農家の卵なんだ」 「どうやって手に入れるの?」 「買うんだ」 「農家に行って?」 「いや、ストアーさ。ちょっと遠いけど、行って買う価値はあるから。だろ?」 「そうね」 「そいつを生んだ鶏はね、エサが化学肥料なんかじゃないから新鮮なんだ」 そんな会話をかわしながら、ジョンとメリーは卵を食べるのですが、朝の風景の中に、白くてふっくらした形の卵はとてもお似合いでした。 このあと、ジョンは、昼食にチーズスフレを焼くのですが、このとき活躍するのも卵。針金細工のようなエッグスタンドから卵を取っては、ボールの中に割り入れるのです。実に見事な腕前とお見受けしました。 『ジョンとメリー』はフォックスビデオジャパンより発売中 |
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