子供の日本語

はじめに

子供の言語の獲得にとって、最も影響するのは学校や友達を中心とする「環境言
語」です。 我が家でも普段の日本語のソースは「母のみ」であり、普通はゆる
ぎないはずの「母国語」 の「母」の部分がかなりあやしい状態であると言えま
す。幼児がだんだん母親の手から離れてゆくのに比例して、言語も日本語から英
語中心へ、シフトして行きます。これまでもいろいろ試行錯誤してきました。
参考までに現在の息子の英語の読解力は標準より上、スペリングと作文は標準。
日本語は読解力は辛うじて年相応ですが、書く能力はずーっと下といったところ
です。これでも一応バイリンガルが上手くいっている例だと自負していますが
ここでは、自分の経験に基づいて意見していきたいと思っています。 似た環境
で子育てされている方のヒントになれば幸いです。

バイリンガルの三大原則

なんだか大袈裟なタイトルですが、はずせない大切なポイントが三つあります。
まずは「マイノリティーとなる言語(日本語)を話す者と絶対的な信頼関
係にある」
と言う事。何があっても受け止めてくれるんだという安心感が必
要です。スキンシップと話し掛けを出し惜しみせず与えて差し上げてください。

第二は 「ひとり一言語の法則」です。複数の言語環境にあっても、赤ちゃんは
一人の大人が1つの言語を話す限り混乱することはありません。問題になるのは
ネイティブでない正しくない言語で子供に接すること。子供が言語を混ぜて話す
事 があっても、教える側は正しい言葉を使います。

最後は語学の習得には当たり前ですが 「毎日学習する習慣をつける」こと。
これだけはひたすら根気しかありません。幼児の話言葉の発達は驚くばかりです
が、その後「読み書き」の導入が始まると、その時期現地の学校にも通い始める
事と重なり、大きな壁にぶち当たります。読み書きの習得は「3歩進んで2歩さ
がる(もっとさがる時も!)」 ですからあせらないことです。それでも1年位
の長いスパンで学習記録をみると確実に伸びているのがわかるはずです。


「バイリンガルは言葉が遅い?」

「私の言う日本語は理解しているのに、子供の口から出るのは英語だけです。」

「子供は日本語を全く話しません。小学生になったので日本語学校へ行かせたいのですが。」

「九九など、算数は日本式で教えるのがいい?」

「学校へ通い始めてから困らないように、まず英語をしっかり教えるべきでは?」

「夫が日本語を理解せず、子供と自分が日本語で話すのを嫌がります。」

「日本の教科書を使って実際に教えていらっしゃいますか?」





「バイリンガルは言葉が遅い?」

言葉が口から出てくるまでのプロセスは、個人差がとても大きいですから、バ
イリンガル環境であること事体は理由にはならないと思います。脳の作りのせ
いか大抵女の子の方が早いですし、子供によっては話し始めは遅かったけれど
も、いきなり完璧な文章を話し始めたなど、また子供の性格にも影響されるで
しょう。 頭の中には言いたい事がどんどん出てくるのに口が追いつけない状
態が吃音(どもり)です。頭の中で言葉を組み立てる能力と、実際その音を発
音するための口の運動機能の2つが、十分に発達してはじめて話せるようにな
るのです。2カ国語環境の幼児の場合、普通の子供より多く口や舌の動きを要
求されるので発声の未熟さは多少長い目で見てやった方が良いかも知れません。
もう一方の文章構成能力の方は、物言わぬ時期にたくさん話し掛けてやる以外
ありません。TVやラジオのかけっ放しを避け、お母さんの行動を逐一実況中
継する位のおしゃべりでいてください。


「私の言う日本語は理解しているのに、子供の口から出るのは英語だけです。」

言おうとする日本語がとっさに出なくて外来語を多様する大人もいますよね。
お母さんは子供さんの英語につられないように、例えば「Paper」と言われた
ら「紙を取って欲しいのね。お絵描きしたいのね。」と子供の気持ちを日本語
で代弁してあげましょう。また幼児に発音しやすい音というのがあって、
「mama」と呼ぶより「dada」と言う方が先であることが多い様に、2歳未満
の子供なら、口の運動機能の未発達からくる事も理由として考えられます。


「子供は日本語を全く話しません。小学生になったので日本語学校へ行かせたいのですが。」

子供さんが日本語への興味を持てないまま、日本語学校へ行ってみたらどうに
かなるかもと期待されているのでしたら、キツイ言い方で申し訳ないのですが
お辞めになった方が良いと思います。もう物言わぬ赤ん坊ではありませんから
今から家庭で日本語環境を整えていったとしても反抗されてしまっては、やは
りどうすることもできません。週一回の補習校や外国語として日本語を教える
学校もありますが、学校側としても子供が思う様に伸びなかった場合、家庭の
せいにする、という逃げ道がありますし、その子供さんが他のクラスメイトと
比べて能力が劣っていたりすると、逆に日本語への苦手意識だけを植え付けか
ねません。一時帰国など日本語ができないと困る状態にでもしない限り、かな
り難しいと思います。子供さんのお気持ちは尊重すべきだと思います。


「九九など、算数は日本式で教えるのがいい?」

日本の教科書を大使館を通じて折角いただいていると言うのもあって、私は
「日本式で教える派」です。イギリスには教科書がない分、習ってきた事をサ
ポートしようとしても「流れ」がわかりにくい。また数え方(ひとつ、ふた
つ…)物の単位(枚、本…)などは知らないと困りますし、極め付けは九九で
しょう。 イギリスでは Year3 から Year5 の3年もかけて暗記します。
小学算数日英カリキュラム比較表を参照)2年生のうちに覚えてしまう日本
のレベルとの差は歴然です。 お店で釣り銭を渡す時に、パッと引き算をせず、
小銭を一枚一枚足していく方法にカルチャーショックを受けた人も多いはず。
それでも、日本は新指導要項で小学校の算数の内容が3割減るとか。日本人の
計算力がイギリス人程度になる日が来る?


「学校へ通い始めてから困らないように、まず英語をしっかり教えるべきでは?」

小さい子供の自然な言葉の習得というのは、早期教育で知識を無理に詰め込む
のとは違います。例えば「日本語を使うのを辞めたら英語力が2倍になる」と
は考えられませんよね。決められたサイズの容器に水を入れるのとは訳が違う
のです。
子供が語学の天才と言われるのは、彼らの言葉の使い分けが感覚的であるか
らで、大人が外国語を覚えるように知識として言葉を教えたら失敗するかもし
れません。 うちでは、3歳から Nursery に通い始めるのがわかっていたの
で、それまで日中家の中ではできるだけ日本語の世界で過ごさせました。英語
の方は毎晩10分程父親に絵本を読んでもらう程度でした。その後、学校に通
い始めてらの英語の習得は、恐るべきスピードでした。


「夫が日本語を理解せず、子供と自分が日本語で話すのを嫌がります」

自分ひとり蚊帳の外で、母子が日本語で盛り上がっているのを見て楽しいは
ずがありません。 実は、家庭内で日本語を維持しようとする時障害になるの
が、この「夫」の存在なんです。まず「私は子供には日本語しか使わない」と
いう方針を理解してもらいましょう。あとは、母子の会話は、日本語を理解し
ない人の前では本人だけ聞こえるような小声ですることです。これはまあ、エ
チケットですね。例えばご主人が家にいる時間が長いと、特に大変だと思いま
す。私など、週末など夫にずっといられると英語と子供に話しかける日本語が
こんがらがって舌がもつれてきます。その点、子供の方が言葉の切り換えはず
っとスムーズで感心してしまいます。


「日本の教科書を使って実際に教えていらっしゃいますか?」

自宅で自分の子供に日本の教科書を使って、国語と算数を教えています。算数
は、「繰り上がりの計算」「九九」など、超えなければならないハードルがはっ
きりしているので、教えやすく、どこまでできたという達成感も味わえるので
すが、「国語」はなかなかそういう訳にはいきません。毎日一つ新しい漢字を
練習し、教科書を音読し、あとは自由に好きな本を読ませる時間をとっていま
す。コツコツと地味な作業なので、子供が意欲を失わない様におだてたり、励
ましてやらなければなりません。算数も計算問題だけでなく、文章題に重きを
おいています。 ただ「言語」と言うのは物を知るための手段とか道具であっ
ても、それ自体目的にはしにくいので本当に難しいです。公文などのメソッ
ドにお願いした方がいいのかもと揺れながら試行錯誤しています。





言語問題に関する参考記事リンク


「帰国児童の日本語・中国語力」 バイリンガルに関する著書のある小野博先生の調査論文。

「子どもと英語」楽しみながら英語に親しむ事から読み書きへ。無理なく英語教育を成功させるヒント

「日本語教育のこと」 通販会社「にほんごボックス」より。子供の成長に合わせた具体的なヒント。

「Studio.S」 ニュージーランドの日本語教室 。子供達の作品や授業ネタなどが公開されています。

「Bilingual Kids Club」 帰国子女の英語力維持のお話が聞けます。

「Care the World」 海外出産育児の専門家ノーラ・コーリさんのHP。帰国キッズや言葉の問題など。

「ことの葉」 子供の言葉の発達に関する専門的な知識がいっぱい。

「私情つうしん」 言葉や文化の違いに揺れる帰国子女の体験談はこちら。

「小学生に英語?国語も算数もみなダメになる」日本の教育改革に疑問を投げつける。

「Sweet Heart」 バイリンガル投稿記事はこちらから。