突然の雨       2001年 夏休み


あっ、ぽつぽつと雨が顔にあたった。 塾の夏期講習の帰りに雨が降り出した。いつもは、母が車で塾の送り迎えをしてくれるのだけれど、夏期講習の帰りは昼間の時間なので、社会勉強と体力をつけるために塾から電車に乗り、駅からはバスに乗らないで、歩いて家まで帰ることにしている。

朝、母が、「今日は、雨がふるかもね。」といったので、ぼくは、折りたたみの傘をバッグに入れた。天気予報はあたった。塾の近くの駅から、僕の家の近くの駅まで電車に乗って、一駅だ。塾の近くの駅までは、普通の雨だったのに、電車を降りたら、まるで滝のように、雨が降っていた。しかも、かみなりのおまけつき。ピカピカガラガラドッカーン。僕は、「どうしよう。この恐ろしい天気のなかを、本当に歩いていけるのだろうか?」と、ちょっと、不安になった。

しかし、「ここにいても、しょうがないか?」と思い、とりあえず歩くことにした。前が見えないくらいのどしゃぶりだ。そのとき、ぼくは、きづかなかったのだけれど、母は、車に乗り、駅前で目を皿のようにして、僕の姿をさがしていたらしい。ぼくも前がみえない雨なんだから、母もみえないって事だった。
突然の風と強い雨で、僕の折りたたみの傘は、歩き出してからすぐに壊れてしまった。桜並木まで必死に歩いたのだけれど、傘がこわれたことで、前に進む勇気がなくなってきた。「そうだ、電話をかけて、迎えにきてもらおう。」と思い、あたりに公衆電話をさがした。こういうときに、必要なものは、なかなかみつからないのだなと、心細くなってきた。「よし、駅まで戻れば、絶対電話があるぞ。」と思い、駅にもどることにした。

壊れた傘をもって、プールに服のまま入ったような僕をみかけて、美容室「TAYA」の店員さんが、「どうしたの?」と声をかけてくれた。ぼくは、「一番近くの電話は、どこにありますか?」と聞いたら、店員さんは、「うちのお店の電話をつかっていいよ。」と親切にも、ずぶぬれの僕をお店にいれてくれた。ぼくは、ほっとした。なぜなら、ほんの少しの間だけれど、こんなお天気の中で、たった一人でどうやっていいのかとてもこわかった。

家に電話をした。「もしもし!」寝ぼけている弟がでた。「ママに迎えにきてって言ってね。」といったのに、理解していないようだった。しばらくしても、母は、迎えにこないので、もう一度電話を借りた。よかった。今度は、母がでた。「ファミリーレストランの横の美容院で電話を借りているから、迎えに来て!」といった。母は、「ずーっと駅前で待っていたんだけど、来ないから、とりあえず帰ってきたよ。ようじろう(弟)は、知らない人から電話があったっていっているよ。」と笑って言った。まったく、ぼくが 気持ちも土砂降りな時に、弟は、頼りにならない。でも、6歳の知能では、こんなものか?とあきらめて、「とにかく、迎えにきて!」ともう一回いった。

母の車が見えた。ぼくは、駆け寄った。母は、窓を少し開けて、僕に20円を手渡した。「美容院の方に、お礼をいって、電話代をお返ししなさい。」と母が言った。僕は、感謝の気持ちを込めて、20円を落とさないように握り締め、「ありがとうございました。」と心の底からお礼を言った。あの怖いかみなりから僕を救ってくれた神様のような店員さんに。しかし、店員さんは、「いらないよ。よかったね。気をつけてお帰りなさい。」といって、 20円を受け取ってくれなかった。ぼくは、20円をもって、母の車に向かった。母は、車から降りてきて、美容院に入っていった。そとから何度もお辞儀をしている母のすがたが見えた。

突然のかみなりつきの雨によって、お金やものにかえられない人間のこころの暖かさを学んだ。それでも、「なんで、駅前でぼくの姿をちゃんとさがしてくれなかったの?」と少しだけ、母を責めたら、「いいじゃないのー。おかげで、いい経験ができて、すこし大人になったじゃないの。ママ、今度あの美容院に行かないとまずいかなぁ?」なんて笑っていた。僕は、ほっとしたとたん、どっと疲れがでて、なんだか急に眠たくなった。