大辞典あの自動車会社の大事件が報道されない本当の理由(前編)



それは梅雨明けも近づいた蒸し暑い夜のことだった。おいらがひとりで家の中でペロペロと毛づくろいしてると、玄関の方で物音がして大声で叫んでる人がいる。驚いて玄関に走っていくと、なんとそこには、ベロベロに酔っぱらったご主人が倒れていたんだワン。

ご主人は相当酔っぱらってる様子で、靴をはいたまま玄関に倒れ込み「マスコミのバッキャロー!」とか、わけのわからないことを叫んでいる。おまけによく見るとご主人は涙まで流しているんだよ。おいらは驚いて聞いたワン。

「ねえ、ご主人ったらどうしたのさ? バッキャローっていったって、ご主人もマスコミ業界で働いてるんでしょ??」
するとご主人はまぶしそうに顔を上げて、おいらの方を見た。
「おおポチか、ポチなのか? お前も一緒に飲んでくれよお」
そうご主人は叫ぶと、おいらの首をぎゅうとつかんで右に左に揺らしたんだ。

「ウワワワン。そんなこと言ったって、おいら犬だからアルコールには弱いんでござるよ」
「お前も肝心なときに役立たずだなぁ。これが飲まずにいられるってのかよ!」
ご主人は、酒臭い息でおいらを責め続けた。

「ポチはどうせネコタ自動車の事件なんて知りもしないんだろ?」
ご主人はいきなりヘンなことを言い出した。おいらは答えたよ。
「そんなことないワン。おいらちゃんとテレビのニュース見てるからね。ネコタ自動車がリコールがあったとか、なかったとかってヤツだワン? でも、テレビではチラッとしかやってなかったから、そんなに大した問題じゃないんでしょ?」

するとご主人は、酔っぱらいながら顔色を変えてすごい剣幕で怒り始めたんだ。
「ポチのブッ・ブァカッ!」
そしてご主人は床をドンドンと叩きながら、大声で叫んだんだよ。
「ネコタ自動車事件の、どこが大したことないってんだい! 今回のネコタ自動車のリコール隠し事件ってのは、三つ星自動車に劣らないほど大問題なんだぞっ!!」

でも、おいらにゃ、イマイチピンとこない話だ。
「ええっ、三つ星自動車より? それって本当かなぁ?」
「当たり前だろ。ニュースで流れた事実をちゃんと思い出してみろよぉ〜!」
主人はおいらの態度を見て、ますます怒ったんだ。

ご主人に言われたおいらは、テレビでやってたネコタ自動車の関連ニュースを思い出してみた。でも、ニュースで流れていたのはネコタ自動車のことはほんのちょびっと。なんかリコールがあったとかなかったとか、警察が捜査したとかぐらいで、あとはパロン社のガス湯沸かし器とか、北朝鮮のミサイルとか、秋田の幼児殺人事件とか、イスラエルの戦争のことばっかりなんだよね。テレビを見てても、ネコタ自動車のいったいどこがすごい問題だったのかさっぱりわからないんだワン。

おいらがあまりにも思い出せないので、ご主人は玄関の床に寝転がったまま顔を上げてマジメな顔をして言ったんだ。
「ポチは三つ星自動車事件を覚えてるか?」

「ああ、三つ星自動車の欠陥隠し事件ならおいらよく覚えてるよ! あのときは凄かったもんね。毎日毎日テレビで大きく取り上げてたし、『三ツ星車が燃えました!』なんてニュースもやってたぐらいだもんね」
おいらは鮮明にあの時の様子を思い出した(→忘れた人は燃える車のウソとからくりを見るべし!)。テレビや新聞では毎日のように、三つ星自動車のせいで死んじゃった遺族にインタビューしたり、三つ星自動車の欠陥について詳しく語ったり、三つ星自動車のエライ人の言葉を繰り返し報道していたっけ…。

ご主人は大きくうなづいた。
「ああそうだ、あの事件はひどかった。三つ星自動車がトラックの欠陥を隠していたせいで、事故が起きて死者まで出たってんだからな。ほんと、三つ星自動車は悪いことをしたと思うよ…」

ところが…だ。今回のネコタ自動車だって、欠陥車のせいで大事故が起きてケガをした人がいるんだ。そして、ネコタ自動車の幹部が欠陥を知りながらリコールしなかったという理由で熊本県警に書類送検されているんだぜ。おまけに、最初はネコタ自動車はトラブルの数を実際は82件もあったにもかかわらず、たった11件と少なく報告していたことが発覚してるんだ! その後、そういう会社の体制に問題があるからって、国土交通省から業務改善命令も出されたぐらいなんだぞ!!

「ええっ、ちょっとー、おいらそんなこと聞いてないワン!」
おいらは驚いた。するとご主人はおいらを思い切りはたいた。
「聞いてないんじゃない、『記憶に残っていない』だけだろっ!」
ご主人は、大きく息を吸ってから、一気にまくしたてた。

俺が言うんだから間違いないさ。新聞やテレビでもネコタ自動車の事件を一応は「チラッと」報道していたさ。でも、単なる事実を報じたのみ。それについて深く追求したり、特集を組んだりなんてことはほとんどなかった。俺が知ってる限りでも、NHKといくつかの地方紙がちょっと深く掘り下げたきりだ。

でもな、ネコタ自動車の事故だって死者こそ出なかったけどな、欠陥のせいでカーブを曲がれずに正面衝突したってんだぞ。これだっていつ死んでもおかしくないほどの大事故だと思わないか? これのどこが三つ星自動車事件より大したことないって言うんだい?

おまけに、三つ星自動車のときは、じつは事故を起こしたのは、「三つ星自動車」と合併する前の別会社「三つ星ふそう」のトラックだった。もちろん、あとで合併したから同じ会社だけれど、考えようによっちゃ三つ星自動車本体とはあんまり関係ないとも言えるだろ? ところが、ネコタ自動車はあくまでもネコタ自動車本体がやったリコール隠しだ。別会社や関連会社ではない。そういう点ではむしろ、ネコタ自動車の方が根が深いとも言えるわけだ。

ところが最近のテレビや新聞を見てみろ。ネコタ自動車のリコール隠し問題なんて、警察が発表した日にちらっとやっただけ。あとはパロン社のガス湯沸かし器とか、秋田の幼児殺人事件とか、北朝鮮のミサイルとか、イスラエルの戦争のことばっかりだ。報道したとしても、わずかにニュースでサラリと事実を伝えるだけ。いや、そもそも「リコール隠し」って言葉さえ使わない。単にリコールがありましたよ〜ぐらいの優しいニュアンスだ。だから人々の頭の中は「そんなこともあったけなぁ」ぐらいの、記憶が薄〜い事件にしかなってないわけだ。

「でもさ、リコール隠しって言うけど、そんなに重大な事件なのかなぁ?」
おいらがボソッと言うと、ご主人は悲しそうな顔をして言ったんだ。

いや、まあいいよ。仮にネコタ自動車のリコール隠しが大したことない問題だったとしよう。でもそれなら、ネコタ自動車のリコールと大して変わらない三つ星自動車のときは、なんであんなに大ニュースになったんだよ? 三つ星のときは特集番組まであったのに、ネコタ自動車のときは特集番組なんてありゃしない。週刊誌の表紙を見て見ろよ。三つ星のときは「三つ星の悲劇! 三つ星に殺された遺族の悲しみを知れ!」なんて散々おどろおどろしいタイトルの記事が何ヶ月も出まくったのに、今週刊誌のトップ記事にしてるところはあるか? 

それに、あのときの三つ星自動車は、お詫びの宣伝をやったり、テレビや新聞の広告を自粛したりもした。それが今回のネコタ自動車は、リコール隠しが発覚してからも、何事もなかったかのようにテレビのCMがやっていたり、新聞・雑紙に広告が掲載されているんだぜ。こんなまやかしあると思うか?

「う〜ん、おいらそこまで考えたことなかったよ」
「そうらろ?」
ご主人は、酒のせいでろれつがまわらない口で得意げに言った。

おまけに、ネコタ自動車にはもうひとつの根深い問題がある。それは近年他の車種でもリコールが多発していることなんだ。最近のネコタ自動車は有名な『カルーラ』や『ビュッツ』を初め、大量の台数のリコールを出している。それも、放っておけば大事故につながりそうなものばかりだ。『カルーラ』なんて日本で一番売れている車なんだぜ。これがリコールだってんだから大変なことだぞ。でも、、、これについても誰〜も深くは追求しようとしない。三つ星自動車のときはこぞって『またまた三つ星自動車はリコールです!』なんて言ってたのになぁ。それどころか、ネコタ自動車の場合は「最近はリコールをマジメに報告してるんだから、リコールが増えるのも仕方ない」なんて擁護している記事まである始末だ。誰も決してネコタ自動車内部の体制を批判したりしないんだ。ま、ごくまれにこんな本こんな本もあるけどな…(さらにこんなブログもあるワン)。

でも、ほとんどのマスコミはこれらの問題についても沈黙したままだ。これは国民に対しての重大な背信行為だぞ。本当は危険な車が町中を走っていたんだ。もしかしたらいきなり事故を起こしちゃって人が死ぬかもしれないんだぞ。それも三ツ星自動車の欠陥車の数なんかより比べ物にならないほど多いんだ。それでもポチは「大したことない」って言うのか?

「クウ〜ン、よくわかったよ、、、でもさ、なんでネコタ自動車のときだけ、あんまりニュースでやらないのかな?」
おいらが聞くと、またまたご主人は大声で叫んだ。
「ポチのバカ〜っ!!」

ポチは俺に飼われてるクセにまだそんなこともわからないのかっ! 俺は今まで何度も言っただろう? マスコミっていうのは広告を出して、広告主からもらう広告料金で商売が成り立ってるわけだ(→詳しく知りたい人はマスコミの正体を見るべし!)。だから、楽しくもない愛知万博を持ち上げたり、ネズミーランドの悪口が書けなかったり、サラ金が悪いことをしてるのに報道しなかったり、、、なんてことがあるわけだ。そして、だ。そんな「広告料金」ってやつを日本で一番出している企業はいったいどこだと思う?

「う〜ん、チワワのサラ金かな? それとも、洗剤のガオーかな?」
おいらは一生懸命考えてみたよ。しかしご主人の顔はシブイ。
「ブブーッ、全部はずれだ」

日本で一番マスコミに広告費を払っているのは、何を隠そうあの『ネコタ自動車』なんだよっ! なんとネコタ自動車がマスコミ広告にかける広告費は、年間800億円。それも10年連続で日本一なんだ(参考→http://www.nikkei-koken.gr.jp/study/01.html)。ひとくちに800億円というけど、それはそれはも〜のすご〜い額だぞ! 前に愛知万博の運営費が550億円だってこと話したと思うけど、それより多い額が毎年マスコミ業界に流れ込んでいるんだぜ。愛知万博なんて、ネコタ自動車のやってることに比べたら、そんなの可愛い5歳の子どものイタズラみたいなもんさ。いくらネズミーランドがマスコミ検閲をしているっていったってな、ネコタ自動車と比べたらシッポの先についたノミぐらいのことでしかないさ。サラ金がCMをたくさん出すったってな、ネコタ自動車に比べればカッパの頭の上にある皿みたいなもんさ。マスコミ業界で本当に本当に本当に…誰〜も逆らえないのはなぁ、天下のネコタ自動車様なんだよ。マスコミ君たちはネコタ自動車様にお給料をもらってると言っても過言ではないんだ。テレビからラジオ、新聞、雑紙まで至る所にネコタ自動車の広告やCMが、年間800億円分も流れているんだからな!

「うわーすごいね。おいら全然知らなかったよ」
おいらは驚いた。800億円なんて、犬にはどうやっても使い切れない額なのだ。

そう、マスコミにとって、ネコタ自動車は日本一悪口を言うことができない企業なんだ。実際、ネコタ自動車を批判する記事なんて滅多に見かけることはないだろ? ポチはネコタ自動車ってどんな印象だい?

「うん、なんとなく安全で環境に優しい車作ってそうな…」
「ぶおっほ!」
ご主人は苦しげに吐き出し、苦々しくつぶやいた。

安全で環境に優しいだって? ブホッ、まったく驚いたもんだ。じゃあ聞くけどさ。ポチの「安全で環境に優しい」って印象は、どこから生まれたもんなんだ? ポチは実際にネコタ自動車に乗ったことがあるのか? ネコタ自動車を持ってる友達から話を聞いたのかい?

「うぐっ」おいらは返事に困ったよ。そういえばおいらのネコタ自動車の印象ってのは、実際に自分で感じたものじゃないんだワン。たぶん、ご主人の見てるテレビや本なんかを一緒に見ていたせいなんだ。それで、なんとなく「ネコタ自動車はいい」って思いこまされていた気がするんでござるよ。

まぁ、ポチが悪いわけじゃないさ。あの広告の量と、決して悪口を書かない評論家たちに誰だって洗脳されちまうさ。そう、ネコタ自動車の戦略はカンペキだ。テレビ、ラジオ、雑紙、インターネット、すべての国民の目に触れるメディアに巨額のお金をつぎ込み、思いのままに情報を操ってるんだからな。

ところが、今回はえらいことが事件になっちまった。リコールとリコール隠し事件だ。もちろん、マスコミは「リコール隠し」という言葉は使いたがらないが、人の命にかかわるような事故まで起きて警察に書類送検されちゃってるんだからな、明らかな大問題だ。おまけに、最近の大規模リコール多発ときた。これが大事件じゃなくて何なんだよ? 日本を代表する企業の事件なんだから、総理大臣が汚職で逮捕されるぐらいの大ニュースなんだぜ!

おいらにはご主人の言ってることが少しわかったような気がした。でもまだよくわからないことがあったんだワン。
「でもさ、おいら疑問なんだけど、ネコタ自動車のいくら広告費がすごくて悪口が言えないったって、警察が事件にしちゃってるんだよ。そんな大事件なら、ちゃんと報道するべきなんじゃないかなぁ。それなのになんでマスコミ君たちは黙ってるんだワン? アメリカだって、大企業のスキャンダルが大きく報道されてたって言うよ。なんで日本のマスコミだけ報道できないのさ? 日本のマスコミに正義はないの?」

おいらがそう言うと、ご主人はビクッとした顔でおいらを見た。
「ポチ、、、それを俺に言えってのか?」
「だってぇ〜、おいらよくわからんワン」

するとご主人は、玄関で靴をはいたまま、のっそりと起きあがった。
「しょうがない、本当のことを教えてやるよ」
そういうと、手に持っていたワンカップの焼酎をガブッと飲み干したんだ。


       〜 長くなっちゃったので後編につづくワン 〜



マスコミの嘘と裏