大辞典 テレビがつまらなくなった本当の理由とは?



おいらがちょっくらのんきにしているうちに、なんだか世の中も色々大変になっちゃったみたいなんだワン。やれ会社がつぶれただの、働き口がないだの、…そういやマスコミ君たちも大変みたいだねー。赤字がどうとかでさ、テレビ局や新聞社なんかでつぶれちゃうところもありそうだぞってご主人は言ってたよ。でもさ、そんなときでもご主人ときたら厳しいんだよねぇ。

「フンっ! ヤツらは今まで調子に乗りすぎてたんだよ、まったくいい気味さ。」
なーんてことを吐き捨てるように言っちゃって、ちっとも優しくないんだワン。

ご主人の言うことには、マスコミほど時代遅れな業界はなかったらしい。どんどん時代が変わって他の会社も色々新しく生まれ変わってるというのに、マスコミときたらいつまでたっても危機感ゼロ。いくらハイテクな時代ったって、基本的に中身は何十年前から全然変わってないってんだからね。

「新聞社なんて新人記者でさえ黒塗りハイヤーで取材に行って、取材中は車をエンジンかけながら待たせっぱなしだったし、テレビだってちょっと偉い人のギャラは驚くほど高かったよ。ま、最近はだいぶ厳しくなってるようだけどなー。経費削減ったって、むしろやっと今頃常識的になったぐらいさ」
そういうとご主人はまたもやフンっ!と鼻を鳴らした。どうやらそろそろ花粉症の季節みたいだワン。

おまけに最近のテレビときたら死ぬほどつまらないんだワン。犬のクセにテレビ好きだったおいらでさえあきれちゃうぐらいだよ。いつ見てもどっかで見たことあるような番組のパクリばかり。どうでもいい話題でだらだら時間を引き延ばして、中身なんてあったもんじゃない。おかゆにお湯を10倍ぐらい入れて薄めたような番組ばっかりなんだワン。いったいどうしてこうなっちゃったんだろうね?

そんなことを考えていると、ご主人はおいらに聞いたんだワン。
「ポチはなんでテレビがつまらなくなったと思う?」

おいらはちょっと前にどこかの雑誌で読んだ記事を思い出したよ。そこではテレビ番組を作ってる誰かが「テレビがつまらなくなったのは昔に比べて色々な規制が厳しくなったからなんですよー」って語ってたんだよね。なんでも、昔は色々なことが自由にやれたというのに、今ではちょっとなにかをすると視聴者や色々な団体からクレームが入るっていうんだ。だから、面白いテレビ番組がつくりづらくなっちゃったって言うんだけど…。

おいらがそのことを話すと、ご主人は突然怒りだしたんだ。
「ポチのバカっ! そんなことまともに信じてるのかよっ!!」

そういわれたって雑誌に書いてあったんだからさ、ご主人ったらおいらに怒らなくてもいいワン…。でもご主人はプリプリ怒りながら話し始めたんだ。

『規制が多い!』だって? そんなのでたらめ言ってるヤツがいるのかよ。バカ言ってんじゃないよ!。日本は世界一と言っていいほどの「規制のゆるい」国なんだぞ。

「えぇ〜規制がゆるいの?」
「そうさ、諸外国に比べたらゆるゆるさ。というか、規制なんてないに等しいだろ」
「そういえばご主人は世界の色々な国に行ったことあるんだったよね?」
するとご主人は語ってくれたんだ。

ポチよぉ、よく聞け。日本のテレビなんて開いた口がふさがらないほど規制がないんだよ。たとえばあのアメリカだって、テレビやCMが流す内容については厳し〜く規制されている。暴力シーンやHなシーン、それに人種差別的な内容だって厳しく規制されているんだ。アメリカでさえそうなんだから、他の国はもっとすごいぜ。つつしみ深いアジアの国なんかでは、今でもテレビでHなシーンはおろか、キスシーンさえ流すことはできない。映画なんかでも、男女がいい雰囲気の場面になるとスパッとカットされてしまう。もちろん暴力なんかも絶対だめ。悪いことを助長したり、嘘に近いような内容の広告なんかも厳しく規制されている。

それが日本のテレビときたらどうなんだよ。子どもが見ている時間でも平気で女の人のおっぱいがぽろり、夜中になればかなり激しいHなシーンだってやってる。ドラマでも人がたくさん殺され、血がドビューと飛び散る。人をいじめて笑うし、人をだまして笑う。こんなめちゃくちゃなテレビ番組を放送してる国は、少なくとも俺は他国で見たことないよ。外国人が日本のテレビを見たら、きっと目ん玉飛び出して驚いて倒れちゃうぜ!

いや、なにもこれはテレビだけの問題じゃないさ。雑誌や新聞だってそうだ。新聞にカラーで女の人の裸がどーんと出てる国なんて日本以外にありえないし、小学生が読むようなマンガに過激なHシーンが毎号載っているめちゃくちゃな国は日本を置いて他にないんだぞ。コンビニに行って片っ端からマンガ雑誌を読んでみろよ、ポチだって驚くぜ、きっと。おまけに電車の中では、きわどい服を着た女性の写真や、扇情的な見出しが入った広告がみんなの目に留まる位置にどーんと下がっていて、通勤通学の途中に当たり前のように眺められる。そんなめちゃくちゃな国に俺たちは住んでるんだよ!(Hな内容の本が普通にコンビニで見られるのなんて日本だけ!!)

だからといって、外国のテレビがつまらなくて、日本のだけが面白いなんて話は聞いたことがない。規制が多いはずの外国のテレビの中にも面白いものもたくさんあるだろ? ディスカバリーチャンネルなんてめちゃくちゃ面白いしな、BBCが作ったドキュメンタリーなんかも秀逸だ。他にも思わず見入ってしまうようなテレビ番組は外国にもたくさんあるさ。だから今ではみんなそっちの方がいいってケーブルテレビや衛星放送を見てる人も増えてる。「規制が厳しいからおもしろい番組は作れない」なんて、無能なやつらの馬鹿げたいいわけにすぎないんだよ。

「じゃあさ、いったいなんでテレビが面白くなくなったの?」
「簡単なことさ。才能とセンスがなくなったんだよ」

テレビを作るやつらにセンスがなくなって、数字だけでしか面白さを判別できなくなったからだよ。ポチも知っての通り、いつのころからかテレビの番組は「視聴率」っていう偏差値みたいな数字に支配されるようになった。いくらいい番組、面白い番組を作っても、視聴率がダメだとアウトなんだ。だから、テレビくんたちは悲しいぐらいに視聴率を上げることだけを気にしてしまう。どんなテレビ番組を放送するか決めるときにも、視聴率がいい番組を持ってこなければならない。

「そうするとどうなると思う?」
ご主人は思わせぶりに言った。
「そうするとだな、とにかくこそくな手段を使ってでも視聴率がよくなるようにするしかないわけだ」

番組内でお色気シーンを出したり、過激なシーン、やらせのシーンなんかをふんだんに使ったり、アホらしいテロップを入れるような、番組内容とは本質的に関係ない演出が生まれてはびこったのもそのせいだ。動物番組なのにおいしそうなグルメリポートをやってみたり、ニュース番組なのにかわいい動物の赤ちゃんを出したり…そんなこざかしいテクニックを積み重ねることしか視聴率が稼げなくなっていっちまったんだよ。芸能人なんかもその最たるものだな。テレビくんたちはよく芸能人のことを「○○は数字を持ってる」なんて言うんだけどな、視聴率は芸能人頼みのところがある。人気の芸能人を使えばそれだけで一定の視聴率が約束されたようなもんだからな。結局の自分たちのアイデアがカスだから、視聴率が約束されている芸能人に頼るしかないわけだ。…でもな、本来、人を楽しませたり喜ばせたりする仕事っていうのは数字に頼っていてはダメなんだよ。経験やカンがものを言う世界なんだ。「これはいけそうだ!」っていう人間のインスピレーションやカンが面白いものを生んでいたはずなんだがな。でも数字に支配されるようになって、そんなものはどこかへいっちまった。

もちろん、そんな彼らを責められない構造的な問題もある。テレビくんたちの中にだって、斬新なアイデアをもつ有能な人もいたさ。でもな、そういう人が出した企画ってのは、残念ながら通りにくいんだよ。新しいテレビ番組を決めるときには番組の内容を書いた「企画書」ってものを偉い人たちに見せて検討してもらうんだけど、本当に面白い番組なんてものは作ってみなけりゃわからない、実際にやってみてその面白さはわかるものさ。なんでもそうだけど、新しいものを生み出すためには「冒険」ってものをしてみなけりゃいけない。だけど偉い人はみんなヘタレだから冒険なんてできやしないんだ。

そうなると結局偉い人々は確実に数字がとれそうなものしかやりたがらない。でも新しい冒険的な試みがうまくいくかなんて、企画書を見ただけではセンスのないやつにはさっぱりわからないものだ。なかには「おっ、これは面白くなりそうだぞ」なんて理解できるセンスがある偉い人もいるけど、だいたいはセンスなんてなくて、実際の数字を見てしか判断できないような無能な人間ばかりだ。「おいキミ、これは本当に視聴率が取れるのかね?」なんて聞かれても、自信を持って答えられるはずもない。それでは会社も困ってしまう。スポンサーに説明できないからな。必然的に有名人や他の番組のまねで大丈夫そうな企画を出すしかない。そうすれば大失敗は避けられるからな。

ま、学校の勉強が偏差値ばかりを追いかけて、人生に役立つ本当の意味での勉強というものがどこかへ消えてしまったのと同じだよな。世の中、数字だけでものごとを判断するようになると人間はダメになっていくってこった。


…そういうと、ご主人はあきらめたような顔でフンと鼻を鳴らしたんだワン。

ま、おいらみたいな犬は数字なんかよくわからないんだけどさ。ただ、ペットショップでおいらたちに値段をつけて売るの、あれだけはやめて欲しいんだよね〜。だって、おいらたちの価値がお金で決められてるような気がして悲しいんだワン!



マスコミの嘘と裏