ファイザー株式会社
クリニカル・ファーマコロジー部 千葉康司

Bad apples?-Regulatory scienceから感じるところ-

臨床開発から『薬物動態の輪』へ参加させていただきます。

 我々、外資系製薬企業の医薬品開発に従事する者にとって、欧米と日本の承認プロセスに対する考え方の差を説明するのは、結構大変な作業かと思います。おそらく10年ほど前は、日本はいわゆる「rest of the world」に入っており、「科学的に判断できない政治的ことだから我々に任せてくれ。日本は特別なんです。」のような、面倒なことはなんでも、この「特別」の箱に入れてしまえばなんとかなるようなやり方も、間々見受けられたように思います。2000年になると、ICH-E5(外国臨床データを受け入れる際に考慮すべき要因について)や、ICH-GCPも定着し始め、また、この時期あたりから、医薬品開発コストの急騰とともに、日本へも製薬業界のM&Aの波が押し寄せるようになり、「特別」の箱もブラックボックスのままでおいて置けなくなりました。なにが本当に特別なのか?海外の責任者も世界第2位の医薬品市場のこの不可思議な箱に関心を持ち始め、「産」のみならず、「官」の担当者もたくさんの質問に対して回答を迫られたのではないでしょうか?この状況は今でも続いていると思います。
 最近になり、「学」もこの領域に積極的に参画するようになり、適切な場が提供され、日本における「regulatory science」の重要性が議論されるようになりました。産と官もやっとopenな場で議論ができるようになったように思います。特にPMDAの発信するメッセージには学ぶところが多く、企業も一層、regulatory scienceを戦略に取り入れる必要性があるように感じられます。
 ここでregulatory scienceとは何か、私なりの解釈を述べさせていただきたく思います。私の勘違いもあるかと思いますが、それは、来月以降の『薬物動態の輪』でコメントいただければと思います。
 例えば、生物学的同等性で幾何平均の比の90%信頼区間が0.8~1.25に入れば良いとするところの、「なぜ0.8~1.25か?」辺りを決めているのがregulatory scienceかと思います。0.8に関して言えば、有効性が確保できたとして、後発経口医薬品で少なくとも8割くらいのものがきちっと体の中入れば、国民は「まあよしとするのでは?」というところがあり、この範囲がきめられたのではと考えています。他にも、なぜα=0.05なのかとか、分析のバリデーション時に15%の誤差はOKとか、いろいろ事例はあるかと思いますが、言いたかったことは、この辺の線引きについてはuser(国民)が納得できる"感覚的なところ"が必要だというところです。この辺りのgut feelingの上に、科学的な議論がなされるのでは?と思います。上の事例では規則として設定できるとしても、もっと曖昧なより感覚的なところの線引きは、時として、その地域やその時期の経済、年齢相、流行、事件などいろいろな要因の影響を受けるでしょう。
 たとえばUS/EUにて認められている疾患があり、その治療薬を日本で開発するとして、その疾患が保険適用になるかとなると、たとえ実際に適切な環境で治療を受けられない患者さんが日本にいらっしゃったとしても、また、どんなに科学的に確かなデータを提出したとしても、国民の意向や医療費の問題で、承認されないところに線引きされることもあるでしょう。
 今まで我々は、pure scienceでは困難だが、regulatory scienceで説明できるところを、最初に述べた「特別な箱」にいれてしまって、説明を怠ってはいなかったか?と疑問を抱いています。
 昨日、あるシンポジウムに参加し、PMDAの方がとても印象的な発言をされていました。会場の聴衆に対し、現在のPMDAの対応をどう思うか挙手で聞き、さらに、もしPMDAの対応がpoorとするならば、それはbad apple(腐ったりんご)がPMDAの中に居るためか、それとも体制自体がまずいと思うかという質問を投げかけました。私はこのような質問を企業の中のmeetingでさえ、投じたことはありません。また、別のシンポジウムでは「当局は『否定するものではない』というような曖昧な言い回しはやめたいと思う(たとえ議事録のなかでも?)。」という発言がありました。本当に実現するかは別として、これらのPMDAの努力に呼応して、我々、外資系企業の開発担当者も、「日本は特別、とした箱」の中身を、regulatory scienceの手法を用いて、海外に対して発信していくことが必要であり、また、早期の開発戦略の中にもっとregulatory scienceを取り入れても良いように思います。
 PMDAはgood applesになったが、開発担当者はほとんどがbad applesなんてことにならないように何からはじめるか、考えて行きたく思います。出来る限りpure scienceで説明し(たとえばPK/PD、PGxを用いる等)、不可能な部分は「日本の医療環境…、患者さんは…」で説明する。「日本の当局の考えは特別だから」はもう言わないように。