富士薬品 薬物動態研究室 岩永 崇
中小企業での動態研究

株式会社 富士薬品で薬物動態を担当している岩永と申します.諸先輩方の後に続ける内容としては,見劣りのするものになりますが,ご容赦下さい.
 私が新入社員として入社したとき,富士薬品が新薬を始めたばかりであり,研究所内には有機合成と薬理の部署があるだけで,薬物動態の部署はありませんでした.私は,入社して2年程,出身校で共同研究として出向し,薬理スクリーニングのような事を行った後,会社の研究所に戻り,他の製薬会社で薬物動態を行っていた中途入社の人と二人で薬物動態部門の立ち上げを行いました.実験台から始まり試験管やHPLCに至るまで,実験に必要な殆どの機材,器具を揃えて,ようやく血中濃度の測定程度の事が行えるようになりました.また,設備だけでなく,私は農学部出身で,生理活性物質の研究を行っていたので,HPLCは使えるが,薬物動態の事は全く分からないところからのスタートでした.最初の数年は,動物の血漿中濃度を測定して,PKパラメーターを(ソフトを用いて)算出するだけで,薬物動態というよりも,ただの測定屋でした.あれから10年経ち,幸い,良い上司,同僚らによる尽力で,現在では薬物動態と呼べる部門になったと思います.この間に,私は薬物動態の本を片手に勉強しながら,吸収や代謝の評価系を立ち上げ,自分では薬物動態を理解できたような気になっていました.しかし,ここ数年,スクリーニングの時点から,他部署より化合物の取捨選択のクライテリアの設定について根拠を求められることや,類縁化合物の血中動態の違いについて,その理由を尋ねられることが多くなってきましたが,これに明確に答えられない事があると,まだまだ勉強が足りないと痛感していました.そんな折り,上司から,「薬物動態をやっている大学の博士課程に入り,勉強して来ないか」との話を貰いました.二つ返事でこの話を受け,現在,博士課程の2年生として,勉強中の身であります.当初,指導教授は,私が製薬企業で10年も薬物動態を担当してきたのに,あまりにも薬物動態の基本的は理解が足りないのにあきれていましたが,現在では(あきらめてくれたのか)基本的なことから教えてくれますし,研究室の学部生,院生達とディスカッションすることで,大いに勉強になっています.以前は,経験的な直感から判断していたことも,理論的に考えればこんなに明確に答えられるのか,と今更ながら薬物動態の魅力を感じています.
 このように,私は,会社に入ってから,非常に多くの経験をさせて貰い,一から薬物動態の勉強をさせて貰っています.この様な経験の中から,私が一番強く感じることは,やはり基本の大切さでしょうか.製薬企業で薬物動態の研究をやりたいと考えている学生の方が,もしこの文章を読んでくれているならば,何よりもまず,薬物動態の理論を充分理解できるよう,勉強することが大切だと思います.大学や企業に入ってから,多くの経験を積んでいくと思いますが,薬物動態は特に数字で話ができる部署だと思います.自分が出した数字が,どのような意味を持ち,そこから何が言えるのかを理解した上で,報告する習慣を付けることで,同じ経験が,10年後には大きな違いを生んでいると思います.特に,今はパソコンに数字を入力すれば,色んなパラメーターが自動的に弾き出されてきますが,学生時代の間に,この弾き出されるまでの過程を充分理解する力を養い,導き出された数字を比較できる力を養って頂きたいと思います.
 あと,就職先として製薬企業を希望する多くの学生の方は,いわゆる大手の企業を考えていると思いますが,会社で色んな経験を積んでみたい,責任のある仕事をしてみたいと考えるのであれば,中小企業を考えてみるのも良いのではないでしょうか.色々な製薬企業の方と話していて感じるのは,小さな所帯の会社の方が,大きな所帯の会社に比べて色々な仕事(実験)を経験できますし,責任ある発言を求められる機会も多いと思います.この様な環境で,自分の力を試してみるのも良いのではないでしょうか.
 とりとめの無い文章になってしまいましたが,企業での研究を目指している学生の方の参考になれば幸いです.