武田薬品工業株式会社 森脇俊哉

激動の時代をどう生き残るか?-内資と外資を経験して-

 加藤さんからのご指名で,お恥ずかしながら原稿を書くこととなりました.私は大学院修士課程修了後,一貫して薬物動態畑におり,もう約15年になります(39歳です).この15年で2回転職し,内資で4年(製剤系動態),外資で10年(探索系動態), また昨年より武田薬品(探索系代謝)で約1年間働いています.
 今の時代でも,転職をせずに勤め上げることは美徳であることは言うまでもありません.しかし,製薬業界もいよいよ激動の時代に入り,今後更なる雇用流動化が進むと思われ,転職を余儀なくされる人,考える人も少なくないと思います.そのような方に私の経験が参考になればと思います.最近では内資,外資とも中途採用を行っていますので,以前と比べると選択肢は増えました.しかし,私は,転職を成功させ,職場でうまく仕事を進めていく方法について、内資,外資の極端な違いはないように思います(細かいところは全然違いますが).いずれにしてもこの激動の時代を生き残るのに大切なことは"自分の市場価値をいかに高めるか"と"いかに主体的でバランス感覚のある人間になるか"を常に意識しておくことだと思います.
  "自分の市場価値をいかに高めるか"について具体的に立てた私の目標は30才代の間に学位を取ることと,会議で議論できる英語をマスターする(TOEIC860以上)ことでした.企業の動態部門におられる方ならお分かりと思いますが,どちらも楽ではないことです(実際,私も何回もあきらめかけました).学位のネタを会社の業務で作れればいいのですが,たいていそれはできません.そこで,自分でネタを探し,論文を同じトピックで数報書くことが必要となります.そのためには,まず,動態の基礎をしっかり勉強しなければなりません.私の場合,花野先生や杉山先生の出されている演習問題本は深く考え,体感し,理解するのに絶好でした.英語の方は一日最低1時間英語を聞き,シャドーイングをすることを心がけました.英語学習に王道はありません.このように,大事なことは市場価値を高める明確な目標を立ていかに行動するかで,このプロセスが大事なのです.プロセスから色々なことを学べますし,結果的に市場価値を高めることにつながります.とは言いましても私は怠け者なので,サボることも多く,プロセスおよび達成度合が充分であったとは言えません.加えて言うならば,専門外の広い知識とマネジメントについても習得できるようもっと自己啓発をすべきだったと思っています.それでも上記の2点に注力したことは転職時には有利に働いたと感じています.
  しかし,研究者で陥りがちなのは,この"自分の市場価値をいかに高めるか"のみに専念することです.私はこれで失敗した人を何人も見てきました.同様に必要なのは"いかに主体的でバランス感覚のある人間になるか"です.これには色々な要素が入っていますが,"全体を見る力"と"コミュニケーション能力"が特に重要だと思います."全体を見る力"の一例として私が注意していることは,"今やろうとしている仕事は創薬につながるか?また意思決定に本当に必要か?"を常に意識することです.企業の研究は大学と違いますので,興味のみに走ってしまってはいけません.しかし,これを意識しないとついつい違う方向に行ってしまいますので注意が必要です.研究者の"コミュニケーション能力"に関するひとつの問題点は自分の得意分野で勝負しがちになってしまうことだと思います.例えば,他人や上司がその分野のことをあまり知らないと"あの人は何にも知らない"と感じてしまうことです.私はその逆で,その人が何を知らないかではなく,何を知っているかに目を向けるように努めています.そうすると自然と尊敬の念が沸いてきますし,色々なことを吸収できます.仕事でうまくやるためにはいかに信頼関係を構築できるかにつきます.この信頼感を構築するにはこういう考え方を自然とできるようになることが重要だと思います."奢れる者久しからず"です.もし,この2つを完璧にできる人がいれば,どんな時代になってもどこにいても生き残れるでしょう.私はまだまだ発展途上で,その域まで全然達していませんが,達していないからこそ目標にできるという考え方で,今後仕事を進めていきたいと考えています.