エーザイ 佐野善寿
柔軟さと一途さのバランス?

先日資生堂のセミナーで講演をしたときに,司会者の方から「佐野さんは学生の頃よりLC-MSに造詣が深く,薬物動態分野の応用研究を精力的に・・・」といった紹介をされたときに,もちろん下打ち合わせをしてなかったこともあるが少々うろたえた。私の学生時代といえばもう20年も前の話であり,LC-MSはおろか四重極MSがようやく実用化されてきた頃であり,日常的にMSを研究に使っている人はほんの一握りであった。事実,私は分析を冠とする研究室(東北大・南原研(現後藤研))に属してはいたものの,MSという機器については見たことがある程度で,ましてやその応用などというのは大学の研究材料になるほどに夢のような世界であった。翻って現在の製薬企業では,分析研のみならず我々動態の研究室でも日常的に当たり前にLC-MSを使って仕事をしているわけで,先の紹介を聞きながら,この間の進歩がすさまじいものであったことを改めて感じていた。

三共の徳井さんと出会ったのは,たぶん先月の稿で徳井さんが紹介されていた関東の製薬6社による企業交流会の発足打合せのときだったと思う。当社の窓口として第一の谷内さんに声をかけて頂いたのは,当時基礎製剤担当部署にいたKさんで,内容的に物性製剤の他に動態もあるらしいので,ということで人選されて,当時LC-MSを繰って探索動態に足を踏み込みかけていた私がKさんとともにその第一回会合に加わることになり,並みいる猛者の一人として徳井さんの紹介を受けたものと記憶している。失礼ながら当時私は徳井さんが先端研究分野であるトランスポーターの世界では名の通った研究者であることを知らず,ただ「MSのデパート」と噂される三共研究所の方に知り合い,これから遅ればせながら機器の充実を図っていこうとしている当社にとって貴重なアドバイスを受けることができる,と単純に喜んでいたのを思い出す。その後,徳井さんとは,その交流会ではもちろん,後で少し述べたいと思うがWatersUKセミナーなど様々な場面でご縁が続き,その豊富な動態知識・経験(決してMSのエキスパートというわけではない,ということも後で知るのであるが)と気さくなご性格ゆえに,今や私にとってなくてはならない社外友人としてお付き合い頂いている。

話は遡るが,私は学生の頃にはまったくMSに触れたことはなかったが,将来この分析技術が動態の世界でも必要不可欠なものになるという漠然とした思いは抱いており,企業に入ってからもその情報収集と社内での啓蒙には意欲的であった。当時BMS談話会というあまりメジャーな学会ではないが,文字通りBiomedical Mass Spectrometryの世界をリードしまたはこれから志す研究者が集まる会合(学会と言うにはなじまないのは後述の通り)には毎年参加していた。BMS談話会は,いまBMSコンファレンスと名前を変え,より幅広くかつ多くのMS関係者を集めるようになったのでご存じの方も多いと思うが,簡単に説明すると,毎年1回,山奥の温泉宿などを借り,泊まり込みで勉強会とディスカッションを行うものである。会場と宿泊がセットなので,参加者は朝早くから夜遅くまでそこに没頭できる。というか,山奥の会場なので外出しようという気もおこらず,あきらめて集中せざるを得ないというある意味最高の環境(ちょっと自虐的?)で3〜4日過ごすことになる。宿泊部屋も個室などなく,初めて会う方々と相部屋が当たり前で,必然的に多くの参加者と話すことになる。この会合に何年か参加する中で,私は様々な分野のMSユーザーと知り合い,他のいわゆる学会では話しきれないような細かい話ができたことで,後の当社のMS導入時に参考となる貴重な情報入手と私自身の考え方の整理ができたと確信している。今年は函館で例年に比べ魅力的な場所での開催と聞いているので,LC-MSを使っている方でまだBMSコンファレンスに一度も参加されてない方には是非参加をおすすめしておきたい。

Watersではボストン近郊の工場見学という名目でこれまで年間何人かのユーザーを招待してたらしいが,その発展版として動態分野のLC-MSユーザーを対象にUKの旧Micromassのラボでのテクノロジーセミナーを2年前から実施しているのをご存じだろうか。もともと縁あってWatersのユーザーセミナーなどで講演する際には,私が最もメーカーに要望していたのはディスカッションタイム(平たく言えば懇親会のようなモノ)を設けてもらうことであった。セミナーというとどうしてもメーカーの宣伝時間が長かったり,また講演は演者側からの一方的なプレゼンになりがちで,参加者にとっては新製品情報やユーザーの成功事例の表面的な情報を持ち帰る程度,演者側にとってはプレゼンの手応えもわからずに御礼を言われて帰ってくるという不完全燃焼を感じることも多かったからである。せっかくお互い貴重な時間を使って1日集まるのなら,もっと効果的に情報交換がしたい,という一念(決して飲みたいのが主目的ではない??)で,かのBMS談話会よろしく,演者と参加者,あるいは参加者同士がフリーに(つまり少量のアルコールの助けも借りながら,学会会場ではしづらい質問や意見が出せるように)情報交換できる場を提供してください,という条件付きで講演を引き受けていた。

Watersのテクノロジーセミナーのお誘いを受けたときには,メーカー担当者の口から,まさにその目的で企画している(もちろんメーカーにとってはそれプラスユーザー拡大が目的になるのは当然だが)という熱い話を聞き,それならということで2003年の第一回のUKツアーに参加させていただいた。ここで偶然にもまた徳井さんと同行することになるのであるが,このツアーでは,この他関東,関西など全国から20名程度の同業の方(製薬企業のみならずCROの研究者も含まれる)と足かけ一週間程度,飛行機から宿,それともちろん現地での行動まで共にすることになり,その期間中の情報交換はもちろん,帰国後も特別な交際を頂いており,機器のデモ評価など1社のデータでは限界があることもそれぞれ持ち寄って情報交換できるなど,私にとって貴重な財産になっている。

ここまで情報交換や社外の研究者との交流の話に終始した感があるが,もちろん製薬企業の研究者としてこればかりをしていればよいというのが本意ではなく,自ら実験しデータを取り,それをもとに評価や判断をするのが本来のというか根幹の姿勢であることは言うまでもない。それどころか,情報交換の大前提はgive and takeであるから,いつも聞き役に回ることは許されるはずもなく,交換ネタとして自分なりの考え方やストラテジーを持ち合わせるためにも,自分のデータを持つことは必須である。ただ,こちらについては皆さん日常的に精力的に取り組まれているし,企業人としての時間の大部分をこれにさいているのは間違いないであろう。その一途な研究者魂をベースとして,なお,そのほかに他社の動向や同業の研究者たちがどのような考えで仕事をしているのかリサーチし,自社で,あるいは自分の研究の中で使えるモノについては,自分流に固執せず取り込んでいくという柔軟性をもっと持っても良いのではないか,持つ機会を積極的に作るべきではないか,というのが趣旨である。自分の研究所の中ですべてデータを取ったり,技術開発したりという時代ではない。一研究者としてテーマに没頭する一途さと社外からの情報にも耳を傾ける柔軟さとのバランスが今の時代の効率的な創薬研究には欠かせないのではないか,と思うのである。

近年,産官学の協同プロジェクトや学会主催のプロジェクトなど,このあたりを意識した活動も動態分野でも見られるようになっているが,当社が参画しているプロジェクトでもいろいろと利害関係もあるのだろうが必ずしもスムーズな進行とは行かないようである。動態学会の年会や論文などでの発表も,近年は大学関係からが主流で,企業だと著名な先生との共同研究以外ではめずらしいという状況になっていて,上述のような情報交換の場にはあまり向いてないように思える。3年前にASMS(アメリカのMS学会)に初めて参加したときに,製薬企業やCROから数多くの演題が出されていて,まさにそこが研究者同士の情報交換の場になっていたことに驚きを感じうらやましく思ったが,国内の学会もこのような開かれた社交場になって欲しいと願いつつ,まずは自分の周りから地道な「場」を作っていきたいとここ数年活動している。

先に述べたWatersUKセミナー仲間のつながりで,昨年頃からつくば地区でLC-MSユーザーの集まりを不定期に行っている。つくば地区といえば,研究団地があちこちにあり製薬企業のるつぼのような場所でもあるが,これまで横のつながりというか,研究者同士の交流は無きに等しいものであった。幸い私たちと同じような考えの研究者が潜在的にはたくさんいるようで,毎回(といってもまだ2回だが)たくさんの方が寄り合い,雑談とも言えるとりとめのない会話を交わしている。家族で参加される方もいて,まったく堅苦しい雰囲気はないので,ご近所の方で趣旨にご賛同頂ける方は是非足を運んで頂きたい。

さて,長々と話してきてしまったので,そろそろタモリに促されて次のゲストに電話する時間という感じですかね(懐かし〜い)。次回は,今話したつくばの交流会の事務局をされていて実は私が偉そうなことを言っていてもほとんどこの方が仕切っている,という方にお願いしたいと思います。えーと,029-・・・・・・。「いいとも!」と快諾して頂けることを祈りつつ。。。