JT 高橋満
外から見た企業の動態研究のあり方

JTで探索動態を主に担当しております高橋と申します。これまでの5人の方々から引き継いで記事を書くことになったのですが,私自身ずっと動態研究をやってきたスペシャリストというわけ有りません。そこで,企業での探索動態研究の位置づけを踏まえて,一歩外から期待されるあり方について書いてみたいと思います。
私自身の経歴を申しますと,大学院までは工学部の応用化学での合成研究,企業の合成部門で創薬化学研究と,全くの有機合成研究を10年程行っておりました。当時(10年以上前)の会社の組織では初期的な薬物動態評価を担当する部門も無かった(これは当時のどこの製薬会社でも同じだと思いますが)ものですから,日々合成する化合物がどの程度吸収されて持続しているのか程度の情報も無しに,モデル動物で効く/効かないという情報だけを与えられる場合がほとんどでした。そのような状況で,さも科学的にSARを議論し,将来的に臨床で役立つモノを選択することに漫然と疑問を持っていました。そこで液クロ等の分析を出来る合成屋が素人評価を行う事になるのですが,候補品の動物でのPKを薬理担当者と一緒に行い,薬物動態の教科書を見つつADME部門の担当者に煙たがられながら毎日のように評価・解釈の仕方を教えてもらって研究を行い始めたのが,この世界に足を突っ込んだきっかけです。本格的にADME研究を行い始めてから10年以上経ちますが,7〜8年前に現在の会社に移るまではもう一度創薬合成研究をやりたい気持ちも持っておりました。が,今の上司から薬物動態の意味合い・面白さを念仏のように聞かされ洗脳されていること,また,自身ケミストに必要なセレンディピティーはおそらくたいした事もなさそう,といった自己分析もあり,今では薬物動態評価の立場から,より創薬研究全体の生産性を向上させることが使命だと考えております。
合成をやっている時にも頭ではわかっていたつもりだったのですが,薬物動態をやり始めて、化学構造と体内動態のSARの調和が取れて初めてin vivoの効果に繋がるんだなということを初めてデータを持って実感することができましたように思います。そのときに最も強く思ったのは,こんなことを合成をやっている時に知っていれば、またタイムリーにデータがあればもっとリーズナブルなドラッグデザインを行うことが出来,何倍も効率的に的を射た化合物を創れていたのに…という事です。

このような経験から,一歩外から客観的に現在の薬物動態研究技術の可能性/限界を考慮して,創薬全体の中での自分あるいは薬物動態研究のミッションを客観的に考えたりもすることがあります。
ここで,企業での薬物動態屋がどのように周りと関わってもらいたいか合成屋に戻ったつもりで考えてみたいと思います。
まず,企業での創薬研究において,薬物動態研究は今以上にもっと寄与できる部分は多いと思いますし、今以上に重責を担うべきかと思います。特に日本の製薬企業の研究での薬動の守備範囲とその目的を考えると、いわゆる研究のための研究が多く、効率が悪いところも多いように感じます。 では,より全体に対する寄与を大きくするためにどうすればよいのでしょうか?
まず思うのは,ケミストに対しては日々出しているデータの意味合い,類推される化合物のキャラクターについてもっと説明し,納得してもらう必要があると思います。初期段階での薬物動態評価は、候補選びの判断材料という以上に,次に何を作るかの為の情報としての重要性が大きいですから,薬物動態の研究者が理解するとともにケミストに理解してもらい,それを踏まえてのドラッグデザインにつなげてもらう,つまり明日何を作るかを提言することが重要があると思います。ケミストは多くの場合,プライドが高い方が多く,自分たちの無知さをおもてに出そうとしないので,我々が思っている以上に出したデータについて理解できていないか,自分勝手な解釈をしていることがほとんどです。でも,彼らお客さんに対して,データ取得のたびにその意味合いや対応の仕方を説明・協議して、日々状況が変わる中で迅速にフレキシブルに評価の仕方・項目を変えると共に,合成方針も変更してもらう必要があります。その議論の中では,開発段階でのリスクを,ハッタリも含めて主張・説得することも必要になるかもしれません。更に,SARの現状を踏まえて代謝的観点から合成方針・計画にあれこれ助言をすべきでしょう。ケミストからSARを聞くと,薬動の研究者は自分たちの立ち入れる範囲ではないように感じますが,長期間同系統の化合物群について考えていると,案外彼らも既成概念に捕らわれてしまっていることも多いようです。客観的なコメントをしてあげると案外まじめに考えてもらえることも多いようです(的外れでも所詮素人の言うこととも思ってもらえる?)。
またこのように進めるためには,創薬化学について素人なりの一通りの勉強・経験をする事と共に,一緒に創薬を進めている化学や生物担当者が日々どのような時間軸でどのような事を志向しているのかをよく知る事も必要であるように思います。というのは,せっかくある時点でのキー化合物についての薬動上の新しい知見が得られても,データが出たときにはその化合物はSAR上で過去の遺物になっているケースも多いようです。
以上述べたように,他部門とのコミュニケーションや対応の仕方が,ディスカバリー段階でのADME研究の役割をさらに大きくし,しいては全体としての効率を上げていくのではないかと私は思っています。また,特に多くの国内の製薬企業の規模・状況では,日々の社内他部門とのコミュニケーションの取りやすさは,少なくとも規模的に優る欧米のメガファーマに比べてアドバンテージになるはずとも思っています。
要するにもっと皆さん企業の中で,声を大きく思うところを主張すべきで,そうすればクスリに繋がる可能性は増えると信じるべきだということです。

企業での合成を長年やっていたことから,もう少し違った視点からの話が出来るかなとも思い書きましたが,最後に読み直してみると,よく皆さんから聞くような話ですね。
私自身現在の仕事を続ける限り,薬物動態研究の一歩外から見て,我々がどのようなことを期待されているかを考えながら仕事を続けたいと考えています。

(以上)