三共株式会社 薬剤動態研究所 徳井太郎

企業研究者として

 森脇さんの「今やろうとしている仕事は創薬につながるか?また意思決定に本当に必要か?を常に意識することが大事である。」というお言葉、非常に身にしみました。企業研究者のあるべき本質を言い表していると思います。自分の仕事が、興味本位に走っていないか、惰性に流されていないか、再度見直す必要を感じました。
さて、申し遅れました。三共株式会社で探索動態に従事しております徳井です。大学では、放射性医薬品教室でポジトロン画像診断(PET)用の放射性リガンドの開発を行っていました。リガンドの合成、標識、物性評価、インビトロ結合試験、インビボ分布試験と何でも自分でやらなくてはならなかったのですが、医薬品作りの原型を体験させていただきました。
1986年、三共株式会社の分析代謝研究所に配属されてすぐ、ラット肝還流の系を立ち上げるよう命ぜられました。再還流系で3コンパートメントモデルを組み、山岡先生の教科書を片手に、血漿中濃度と胆汁中濃度推移の同時フィッティングに格闘しました。また、杉山先生の教科書でクリアランス理論を勉強したのもこの頃でした。糖尿病治療薬ノスカールの肝代謝動態を調べていくうちに、主代謝物である硫酸抱合体とグルクロン酸抱合体の挙動の違い、あるいは、両代謝物の肝臓への取り込みにも排泄にも輸送担体が関与しているらしいことなどがわかってきましたが、その先どう取り組んだらいいのか?また、それを明らかにすることが医薬品開発においてどういう意味を持つのか?当時の私には、さっぱり見当がつきませんでした。
1995年、私は杉山先生ご指導のもとプラバスタチンの肝細胞取り込み研究に取り組んでいました。しかし、速度論の手法だけではゴールに辿りつけないもどかしさも感じていました。そんなおり、辻先生が講演会でmdr1ノックアウトマウスの実験例をお示しになりながら、これからは動態研究も遺伝子・蛋白レベルでの検討が必須であるとおっしゃったのに非常に感銘を受けたのを覚えています。まもなくPepT1をクローニングしたHediger博士のもとに留学する機会を得、滞在中に目的のトランスポーターのクローニングはなりませんでしたが、帰国後、隣のラボにいらした阿部先生(東北大学医学部)と協同で、プラバスタチンを輸送するトランスポーターLST1(別名OATP2、OATP-C、OATP1B1)を単離することができました。
2000年、私はある薬剤の臨床試験を米国において実施するチームにおりました。米国の臨床開発チームが中心となって、社内の各部門をまとめ、医家コンサルタント会議を頻繁に開催し、FDAと開発手順についての会議を持ちながら進めていました。担当者には他の会社やFDAで経験を積んだ者がたくさんおり、各人のノウハウを持ち寄ってストラテジー構築していくことに、私は驚きを禁じえませんでした。ひるがえって、自分自身は、会社で実施している業務に関して、外部の方々との必要な情報交換ができているのか?欧米では、産・官・学の間での人の異動が頻繁なので、本当の機密事項以外は、人を介して情報・ノウハウの移転が行われますし、つまらないことを隠そうとしても意味がありません。そういう土壌の中で、PhRMA white paperのような、業界を挙げFDAも参加しての建設的な議論が成立するのでしょう。しかしながら、日本においては、企業間の人材異動が少なく、研究者が情報交換に関して必要以上に消極的であるように思えます。また、産と官・学の人材・情報交流となると、さらにパイプが細くなってしまいます。
もう4年前になりますが、谷内さん(第一製薬)が旗振り役をしてくださって、関東の製薬6社で探索物性動態研究者の交流会を発足させました。参加各社持ち回りで交流会を開催し、まもなく2巡目が終わろうとしています。最初はぎこちなかった議論が、最近では非常にリラックスした雰囲気の中で率直な意見交換ができるようになりました。経験を通じて、率直に議論すべきことと守るべき機密の境目の感覚がついてきたことは大きな進歩でした。
さきの薬物動態学会で、このホームページの主催者である加藤さんをはじめ何人もの方から、企業からの発表が少なすぎる、もっと表に出て議論し切磋琢磨すべきではないかという声が聞かれました。マウイの次の薬物動態学会は、東京で三共が会頭を務めます。企業研究者の皆さんの積極的な発表で大いに盛り上ることを心より期待しています。