離脱装弾筒付翼安定徹甲弾


●離脱装弾筒付翼安定徹甲弾[APFSDS:Armor Piercing Fin Stabilized Discarding Sabot]とは
 侵徹理論上、同じ運動エネルギーを持った砲弾は、その径が小さいほど装甲の抵抗が低くなり侵徹長が増大する(砲弾の侵徹長は、砲弾の弾面積に半比例するため。詳しくは徹甲弾の侵徹理論を参照のこと)。この理論から、同じ質量および速度を持つ砲弾ならば、砲弾の径を小さく、長さを大きくすれば、侵徹長を増大できる。なお、砲弾の直径:Dに対する砲弾長さ:Lの比をL/D比と呼ぶ。一方、砲弾はその直径に対し一定以上長くすると(L/D比が6以上であると)、飛翔中の安定性が悪くなる。また、質量が増大するため高い初速が得られなくなる。これら問題を解決するために開発されたのが、安定翼付離脱装弾筒付徹甲弾[APFSDS:Armor Piercing Fin Stabilized Discarding Sabot]である。安定翼付離脱装弾筒付徹甲弾[APFSDS]の構造概略図を図1に示す。安定翼付離脱装弾筒付徹甲弾とは、安定翼を持ったL/D比の高い弾体の周りに砲腔径と同じ径の軽合金製の装弾筒[Sabot]を付けた構造の砲弾である。この砲弾はAPCBC弾などに比較して装弾筒を含んだ砲弾全体の比重は低く、同じ砲(同じ装薬量)でも高初速を得られる。また、この砲弾は、砲腔を出た途端に空気抵抗と砲弾の旋動により、装弾筒が離脱して弾芯のみが飛んでいくことから、APCR弾はもとより、APCBC弾やAPDS弾よりも径が小さい分空気抵抗が低く、存速の低下が小さい。また、飛翔中の安定性も安定翼によりほぼ解決されており、現在ではL/D比が30程度のものまで見られる。一方、安定翼は横風の影響を受けやすいとも言われており、通常のスピン安定弾より遠距離での命中精度がやや低下するようだ。

離脱装弾筒付翼安定徹甲弾の実用化時期と例
 APFSDS弾が実用化されたのは1970年代の初めである。APDS弾およびAPFSDS弾の性能を表1に示す。APFSDS弾の例としては、1970年代にイスラエルのIMIで開発されたM-111やM413などがある。
 M-111は、メルカバ主砲用タングステン焼結合金弾芯のAPFSDS弾であり、NATOのテストでも最優秀の評価を得、IMIからライセンスを導入して生産する西独ディール社の製品と合わせて、NATO名称DM-23の名で、西独、スイス、カナダ、ベルギー、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン等のNATO諸国に供給された。1982年レバノン戦争でT-72を撃破した実績は有名である。貫徹能力は、射距離2000mにおいて、NHSに対しては342mm、NHTに対して300mmである。M-413は、M-111の後継で、NATOにおいてもDM33として採用され、同じくNATO諸国で使用された。貫徹能力は、射距離2000mにおいて、NHSに対しては413mm、NHTに対して353mmである。これらAPFSDS弾の貫徹能力は、第2次世界大戦中に使用された独軍の12.8cm対戦車砲Pak44のPzgr.43[APCBC]の直立に対して30度傾けた射距離2000mにおける貫徹能力が148mmであることから、当時のAPCBC弾に対して2〜3倍もの貫徹能力があることが判る。

●高速弾の侵徹現象
 近年のAPFSDS弾のような高速弾の侵徹では、着弾の衝撃によって生じる圧力により、固体が塑性変形を開始し流体のように振舞う領域に入る。この限界圧力は、ウゴニオ弾性限(HEL:Hugoniot Elasti Limit)と呼ばれている。APFSDS弾のような高速衝突の領域(鉄系装甲−タングステン系侵徹体で1200m/sec程度以上)では、装甲および侵徹体がウゴニオ弾性限を越えることになり、特殊な侵徹現象を起す。以下、その侵徹現象について説明する。APFADS弾の侵徹体が装甲に衝突すると、まず侵徹体先端はキノコ状に変形し、直径の2倍程度の侵徹孔を形成する。次に、侵徹体は消耗[erode]しながら侵徹を進めて行くが、その際、侵徹孔から侵徹体材料と装甲材料は流れるようにして外部に排出される。このため、従来の低初速のAP弾の侵徹現象と異なり、侵徹体は侵徹孔周りの装甲材料と干渉しないで済む。この結果、侵徹体の運動エネルギーは、侵徹孔を形成することに集中的に使われ、より深い侵徹孔を形成できる。

●侵徹体の存速の考え方
 侵徹体の存速は、装甲の侵徹中に低下していき、その存速が流体的挙動を示す領域以下(1200m/sec程度以下)になると、通常のAP弾と同じように、侵徹孔周りの装甲材料と干渉するようになる。こうなると、侵徹長は大きく低下する。一方、侵徹体の存速が大きいほど、侵徹体の消耗[erode]が大きくなる(もちろん、砲の反動も大きくなるし腔圧も大きくなり、それに対応する必要も出てくる)。このことから、侵徹体の速度が大きければ良いというものでもない。これらのことから、侵徹体の存速は、出来る限り侵徹体の消耗[erode]を軽減させ、流体的挙動を継続させる存速である必要がある。

●徹甲弾の侵徹理論
 リンク先(こちら)を参照のこと。

●高初速運動エネルギー弾による装甲構造の破壊現象
 厚さの有限な複数の層を持つ複合装甲(例として、表面層:硬化鋼板、中間層:セラミックモジュール、裏面層:均質圧延鋼板の3層構造)に、侵徹体が侵徹していく場合に、侵徹体の運動エネルギーが充分に大きいと、侵徹現象の他に構造の破壊現象が発生する。この場合の構造の破壊現象とは、表面層を含めた複合装甲の構成材(細分化されたセラミック片、液状化した鋼など)および侵徹体が、裏面層を突き破って装甲裏面から車内に飛び出してくるというものである。なお、表面の侵徹穴に比較して、裏面の穴がはるかに大きい。また、侵徹体の運動エネルギーが小さい場合でも、同一個所付近に連続して命中弾があった場合には、2弾目以降の命中弾に対しては、セラミックモジュールの運動エネルギー吸収が充分ではないために、同様の現象が発生する可能性がある。また、侵徹体が高存速の場合、均質圧延装甲でも同様の現象が見られる(複合装甲よりは起きにくいが)。複合装甲に構造の破壊現象が起こりやすい理由は、複数の層を持つことにより厚さ方向の結合力が弱いためである。

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作成:2001/07/22 Ichinohe_Takao
更新:2001/09/16 Ichinohe_Takao