自然の中の黄金比


 オウムガイの螺旋と黄金矩形に沿う螺旋

 オウムガイ(オウム貝と誤って表記されることが多い)の殻を2つに割った断面を見ると、綺麗な曲線がある。この曲線は、極方程式であらわすことのできる対数螺旋になっている。
 また、縦横比を黄金比(1:1.618)で作った長方形(黄金矩形)を次々に並べてその頂点を曲線でつないでいくと、やはり対数螺旋になる。
 この2つの対数螺旋からなる曲線は、ぱっと見た目似ている。印象として似ている、というだけであるにもかかわらず、『オウムガイの中に「黄金比」がある』と言われることがある。たいていは『このように自然の中には黄金比がたくさんある』と続いて、自然の中にある黄金比の例証にされている。
黄金矩形にそった螺旋 オウムガイの螺旋

 並べてみると一目瞭然であるが、上の2つは対数螺旋という点では同じでも全く違う曲線である。

 
 対数螺旋は等角螺旋とも呼ばれ、曲線の接線と中心からの線とがなす角(右の図でb)は常に一定になる性質がある。

 このbの値の違いで曲線の曲がり方が決まる。
 bの値が小さくなると対数螺旋は大きく開いていくようになる。

 極方程式では次のように記述することができる。


 オウムガイの螺旋では、bの値が螺旋を調べるソフト「Spiral」で調べるとおおよそ80°になる。オウムガイは現在オウムガイ・オオベソオウムガイ・ヒロベソオウムガイの3種類であるが、そのすべてでbの値は79°〜80°の間にある。
 黄金矩形に沿う螺旋ではbの値は72.8°になる。

 
 
 黄金矩形に沿った螺旋
 
 オウムガイの殻に見られる螺旋が黄金矩形にそった螺旋である、といっているページ。ムードで言っていたり、怪しげな「宗教」のページはたくさんあるが、そんなものを取り上げても仕方がないので、一応数学的な雰囲気のあるページをピックアップした。 

体験授業
 オウムガイの写真は綺麗なものを使っているが、比を実際には測ってはいないだろう。
このページの次のようなコメントが多い。

「人間が発見し、美しい比と感じた黄金比ですが、実は、ひまわりの種の数(右回りと左回り)、松ぼっくりのかさ、オウム貝の対数螺旋など自然界に多く存在しているのです。人間が誕生する遙か以前から地球上に存在していた黄金比。人間が黄金比を綺麗だと感じるのは、もしかすると地球生物としての本能なのかも知れません。ここに、黄金比が別名「神の比」と呼ばれる所以がありそうです。」

黄金比
 ハーバードでの授業を持ち出しているが・・・???綺麗な断面の写真がある。
 (追記:このページの記述は「ダ・ヴィンチ・コード」という本の引き写し。このページにも同じような記述がある。)

 こんなページもある。

 「ダ・ヴィンチ・コード」の中にある黄金比に関する記述(ミツバチの雄雌比・人体のプロポーション)については、こちらをクリック。

 オウムガイの螺旋では、中心角が約156°回転するごとに中心からの距離が約1.6倍になる。 90°の回転では、1.3倍である。
 
 
 180°回転すると黄金比?

 著名な数学者である秋山仁氏が、珍説を披露している。

 日本テレビ(NTV)の「世界一受けたい授業」で、次のようにやった。復習ページ
 
「向かい合った次の辺」との比は、オウムガイの螺旋上で中心角を180°回転させたときの中心からの距離の比になる。上のオウムガイの写真に一本の補助線を引くことで証明できる。

 90°の回転は違いそうだとすれば、180°回転ということなのか。
 オウムガイで中心角が180°回ると、中心からの距離は約1.7倍になる。1.618倍にはならない。1.7倍のものを有効数字4桁まで表示して1.618倍としているのは、数学の勉強以前に数値の扱い方としてとても信じられない。90°の1.3に比べると少し近いとはいえるかもしれないが、とんでもないデタラメ。

 ただ、この写真に描かれた線分の長さを測定して比をとると約1.6になっているところがある。どうしてかと思いよく写真を見ると、このオウムガイどう見てもゆがんで切ってある。
 オウムガイの螺旋(上の写真の赤い線)を重ねてみると、どこがいい加減に切ってあるかがよく分かる。オウムガイの断面写真を見たことのある人なら分かるが、真ん中で切ると見えるあるものが見えていない。と切断がへたくそなのか、あるいは意図しているのか。この写真と見比べてみると、よく分かる。

 上から観察したら切断線が中心線から外れてゆがんでいるのがはっきり分かるはずだ。オウムガイを手に持った秋山先生は気がつかなかったのだろうか?気づいていないとしたら、あまりにもうかつすぎる。

 NTVには間違っていることを指摘して、訂正をお願いしたが、何の返事もない。こんなうそを平然と流して訂正もしないのは、いくらバラエティー番組といえども、問題あり。「日本の教育現場に問題提起する秋山仁先生」、この紹介もギャグなのか?

 
隣り合った部屋の体積比が黄金比?
 
 線分の長さの比がだめなら、体積比ということか?
 「黄金比とフィボナッチ数」という題名の本では、他説の紹介というかたちではあるが、「オウムガイの隣り合った部屋の体積比が黄金比」という説を書いている。

 オウムガイでは、隣り合った部屋はおおよそ24°の中心角の差がある。一周すると15部屋ある。体積比が1.62であるとすると、一周したところで1.62の15乗になりおよそ1300倍の体積になる。そんなになっていますか?数式を立てて計算をすることはできても実際の対象物を見て量を数値として見通すことは、この本の筆者にはできないらしい。

 隣り合った部屋の体積比はばらつきがあるが、およそ1.25倍になっている。一周で部屋の体積はおよそ30倍になる。


王様の服は黄金色(または裸の王様)

 似ている、近い、というだけで数学の先生や数学者が検証抜きに「オウムガイには1:1.618の黄金比がある」といっている。どこの比が黄金比なのか、という点も諸説それぞれ勝手な思いつきである。「自然という王様は黄金の服を着ていてほしい」という願望の投影としか思えない。

 自然の中に黄金比がたくさんあるという例証としてオウムガイの螺旋が使われている。自然の中に本当に黄金比はたくさんあるのか、冷静に検証する必要がある。比であるから偶然1.6に近いものが自然の中にもあるだろうが、「たくさん」などといえるほどあるとは私には思えない。少なくてもオウムガイの殻に黄金比がある、というのはうそである。
 高校の数学の教科書の表紙にオウムガイの写真が掲載されている例もある。日本の高校生に「王様は裸だ」と言い切る力はあるのだろうか。
 以前高校生か中学生が作ったと思われるホームページで「オウムガイの殻にある螺旋に沿う長方形は黄金比になっていない」ことを書いたものがあったが、現在なくなっている。平行線と直行する線を引く、線分の長さを測定する、割り算ができる、これだけのことができれば検証はできる。それでも著名な先生や本で言われていることに異論を唱えることは勇気がいるのかもしれない。(「黄金比 調べること」)


 このサイトで紹介しているフリーソフト「Spiral」を使うと、曲線が対数螺旋か否か、そして相似三角形の比もしくは極方程式の定数としてあらわされるその対数螺旋の曲がり方を調べることができる。いわば対数螺旋を測る定規として使える。手前味噌にはなるが、これまでこのようなものがなかったために大嘘が平然とまかり通っているのではないかと思う。

 それにしても中学生が夏休みのレポートで早とちりをしているのならともかく、高校や大学の先生や数学者を名のる人たちがいったいなにをやっているのだろう。裸の王様が「黄金の服着ている」という嘘を強弁して興味をひきつけようとするのではなく、黄金比でなくても「比」が十分に面白いことを教えてほしいものだ。


 
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