ミランコビッチ説

氷河期

 地球には過去に何度も氷河期とよばれる気温の低い時期がありました。7億年ほどまでの氷河期は地球のすべての表面が氷に覆われた「全球凍結」という超氷河期が頻繁にあったこともわかっています。このような地球を「スノーボール・アース」といいます。
 約6億年前のカンブリア紀直前にスノーボールを脱した地球はその後も何度かの氷河期を経験しましたが、全球凍結はおこっていません。この原因は太陽の進化によって放射される熱エネルギーの総量が増加したためと考えることができます。
 顕生代(カンブリア紀以降現在まで)には全球凍結はおこりませんでしたが、古生代末には生物種の90%以上が絶滅する大絶滅がおこりました。この原因については天体の衝突という考え方もありますが、氷河期の到来による氷河の発達→海水の減少→大陸棚の消失→植物プランクトンの死滅→酸素欠乏 といった原因が考えられています。
 中生代には目立った氷河期はありませんが、新生代になって強い氷河期が何度も到来しています。過去200万年の第四紀は氷河期が普通で、氷河期と氷河期の間である間氷期のほうが短く、現在は約1万年前に終わった氷河期(ヴュルム氷期)と次に来る氷河期の間氷期と考えられています。ただし間氷期とは言わず後氷期といいます。
氷河期になると
 氷河期の程度にもよりますが、氷河期になると海水が大陸氷河となるため、海退(海面の低下)がおこります。約1万2千年前には海面が最大130m低下しました。日本付近では朝鮮半島・樺太・シベリアが陸続きで、日本海が湖となっていました。
 日本のような中緯度地方では、高山地帯で氷河が発達し、広葉樹林帯や針葉樹林帯の南限が南に下がってきます。また季節は 春−秋−冬 となり夏がほとんど無くなと考えてよいでしょう。

原因と考えられる諸説

 科学的なものから非科学的なものまで過去に多くの氷河期の原因が考えられました。科学的なものを分類すると次の3つに分類できます。
地球に起因するもの
 地球自体が氷河期を招いているという考え方です。ミランコビッチ説もここに含まれます。
 地球の公転や自転についてのさまざまなことがらや、プレートテクトニクスプルームテクトニクスなどで説明しようとするものもあります。
 また火山の噴火によるチリが成層圏に滞留して地表に届く日射量が減少し、異常気象が頻発することも何度かありました。
 19世紀におこった天明の飢饉などは浅間山の噴火によるエアロゾルが原因であることがわかっていますし、1991年のピナツボ火山の噴火でも気温低下が観測されています。巨大な火山爆発が連続すれば氷河期の引き金になることも考えられます。
太陽に起因するもの
 太陽は核融合反応によってエネルギーを生産・放出しているのですが、常に一定というわけではありません。黒点の増減などに周期性がありますし、さらに長い変動も観測されています。またマウンダー極小期(1640-1715年頃)やシュペーラー極小期(1410-1540年頃)といって黒点がほとんど現れない時期もありました。実際にこの時期には寒冷化がおこり「小氷期」とよばれています。
 小氷期が氷河期の小規模なものかどうかは不明ですが、太陽が長い目で見ると変光星である可能性は捨て切れません。その変化は恒星としては微々たるものではあるけれど、地球に対する影響は大きいと考えられます。
太陽系外に起因するもの
 太陽系は銀河の中を波打ちながら約2億年で公転しています。数千万年ごとに銀河面を通過しますが、そのとき巨大な分子雲の中を通過することがあります。このとき 太陽光線が分子雲によって遮られ日射量が低下する可能性があります。
 太陽系の近傍には分子雲があり、数万年前に通過し終わったといいます。

ミランコビッチ説

 地球の氷河期を地球の軌道面の変化と歳差運動、地軸の傾斜角で説明しようとする説のことです。ユーゴスラビアのミランコビッチ(Milankovitch)によって1930年に唱えられました。現在では主流となっている考え方ですが、まだまだ反対論も多いようです。
地球の海陸の分布
 地球上の大陸は北半球に集中しています。ユーラシア大陸・北アメリカ大陸のみならずアフリカ大陸の半分以上が北半球にあります。南アメリカ大陸も一部が北半球です。図は陸半球とよばれる大陸塊を示しています。反対に南太平洋を中心とする部分には陸地は10%しかありません。
 大陸は海洋と違って熱容量が小さいので、熱しやすく冷めやすいという特徴を持っています。つまり地表に届く太陽エネルギーの変化が海洋に比べてより顕著に表れます。
 また一旦大陸氷河が形成されると、アルベド(反射能)が極端に変化します。土の茶色や植物の緑色は太陽の光を吸収しますが、氷は反射してしまいます。

 冬に降った雪が凍って夏を越すと、翌年にはさらに気温が低下してさらに広い地域に拡がります。これによる正のフィードバックで氷河が成長すると考えられます。この逆の現象は氷河の消滅にも適応できます。
 いずれにせよ、北半球に大陸がかたまっている現在の状況は、北半球での日射量変化がたとえ少しでも氷河期の引き金になるということです。
軌道の形の変化
 地球の軌道は太陽を焦点の一つとする楕円軌道です。地球が最も太陽に近づく点を近日点、最も遠ざかる点を遠日点といいます。
 太陽と地球しかなければ軌道の形は変化しませんが、地球の軌道は他の惑星の影響を受けて(木星が最も大きい)、約10万年周期で変動します。ただし太陽と地球の平均距離はほとんど変化しません。もし平均距離が変化すれば変化が蓄積されて地球は現在の軌道には存在しません。このような形の変化を離心率の変化といいます。
 公転軌道の形が最もひしゃげると、近日点と半年隔てた遠日点で、太陽の日射量の差は20%となります。最も丸くなると、その差は4%。現在その差は7%です。

地球軌道の形の変化を極端に示した図
歳差運動と近日点移動
 地球は、自転軸を北極星に向けたまま、自転と公転をしています。この自転軸が23.5度の傾きを保ったままで、2.6万年の周期で逆回転して首振り、みそすり運動をします。これを歳差運動といいます。だから1万年ほどするとベガ(織女星)の方向に自転軸が向いて、こと座のベガ(織女星)が北極星となります。
 地球軌道の形が変わらないとすれば、現在は太陽黄経が286度(1月7日頃)に近日点を通過します。北半球の真冬に地球は太陽に最も近づきます。ところが1万3千年後には1月7日は北半球の真夏になるということです。
 さらに、実際には地球の近日点は他の惑星の影響を受けて緩やかに前進します。歳差運動と近日点前進の結果、近日点通過の季節が約2万年の周期で変化します。現在近日点通過は、北半球の冬に、南半球の夏に起こっていますが1万年のちには近日点通過は北半球の夏に、南半球の冬に起こるようになります。

 
左:現在の状態:1月7日(北半球の冬)に近日点となる。
右:1万年前および1万年後の状態:北半球の夏に近日点となり北半球の冬の日射量が減少

地軸の傾き
 現在の地球の自転軸は、公転軌道面に対して垂直から(傾斜角)23.5度傾いています。南北緯度65.5度(90度マイナス傾斜角)以上の極圏では、太陽の沈まない白夜と暗黒の極夜が半年づつ続きます。
 自転軸の傾きは、(地球が球でなく扁平なので)月と太陽の重力の引力で、21.8度から24.5度まで4万1千年位の周期で変化します。傾斜角が大きいと白夜や極夜の範囲が広くなり季節変化が大きくなります。
大陸移動
 上に述べたことがらによって、北半球への日射量は、たとえ太陽の全放射量が同じでも数万年から数十万年の規模で変化することがわかります。少しの寒冷化が引き金となって大陸氷河が成長しだすとますます寒冷化が進み、少しの大陸氷河が融け出せばさらに温暖化が進むという状況になるようです。
 現在の地球の大陸は北半球に多く海は南半球に多いのですが、これは最近数千万年の出来事で過去においては大陸が南半球に集中していた時代やバラバラになっていた時代もあったはずです。大陸はプレート運動によって離合集散を繰り返しているので、氷河期は現在の大陸分布が生んだともいえます。

2003.7.14
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