上手に計算しよう

[確率の講座12]
確率基本編の講座もこの節で終わりです。最後に、期待値と分散の計算をうまく行なうための公式を紹介します。計算例もいくつか挙げます。この節はやや計算量が他の節に比べて多いです。抽象的な式を使いこなすには、実際にいくつかの例に対して計算を行うことが重要です。是非、紙とエンピツを持って式変形を辿ってみてください
※公式の証明をなぞらなくても読めるようにはしてありますが、どのようにして公式が導出されたのかに興味のある方は、要所要所にある「こちら」をクリックしてみてください。また是非一読をお勧めいたします。

[解説・期待値の公式]

この節では、X と Y は、それぞれ以下の確率分布に従う確率変数とします。

確率変数 X の期待値の定義を思い出しておきましょう。以下に再掲します。

さて、このとき、X+Y もまた確率変数とみることができます。

(例1) 二つのサイコロX、Yを一回ずつ投げたとき、出る目の確率変数をそれぞれX、Yとします。このとき、二つのサイコロを同時に振って、出た目の和の確率変数はX+Yで表されます。

(例2) Aさんがある宝くじを1枚買いました。その当選金額の確率変数をXとします。また、Bさんが別の宝くじを1枚買いました(Aさんと同じ種類の宝くじでなくてもよいのです)。その当選金額の確率変数をYとします。このとき、AさんとBさんふたりの当選金額の和の確率変数はX+Yで表されます。

※ここまで読んで、「ふむふむなるほど」「ふ〜ん、何となくわかった」という方はとりあえず進んで頂いて構いません。中には、次のように思った方もいるかもしれません。
「X=1、Y=2のときと、X=2、Y=1のとき、これらは『起こる和』でグループ分けすると同じグループに入る(どちらも、和は3)けど、実際に「起こる事象」としては異なるもののはず。だとすると、和の確率変数をZとしたときに、E(Z)=E(X+Y) としてもいいのだろうか?」
結論から言うと「正しい」わけです。少し式が煩雑になりますが、この疑問に対する説明をのぞき見してみたいという方はこちら♪

さて、以上の状況で、次の等式が成り立つことが証明できます。

すなわち、確率変数の「和の期待値は、期待値の和に等しい」わけです!
この公式の証明は決して難しくありませんが、今までの公式に比べるとやや文字が多く登場します。式変形を追うのが面倒と言う方は、次に挙げる具体例の計算をご覧ください。証明まできちんと見たいという方はこちら♪

(例3) 例1のサイコロの例で、「2個を一度に振って出た目の和の期待値」を求めてみましょう。E(X+Y) が求めるものですが、上の公式を使うと、E(X+Y) = E(X) + E(Y) = 3.5 + 3.5 = 7 と簡単に計算できます。X+Y の確率分布表を書くのに比べてずっと簡潔ですね。

(例4) 当たりくじ2本、はずれくじ8本から成るくじから2本を引くとき、「当たりくじ1本につき500円をもらう」「はずれくじ1本につき100円を払う」とします。たとえば、最も運が良ければ1000円をもらえ、もっとも運が悪いと200円を払うことになるのです。このときの損得金額の期待値を求めてみましょう。個々のくじを引いたときの損得金額を表す確率変数をX、Yとします。このとき、求めるものは E(X+Y) です。和の期待値の公式から、これは E(X)+E(Y) に等しいのでこちらを求めてみましょう。2本を一度に引くと考えれば E(X)=E(Y) ですから、E(X) を求めることにします。すると、

E(X) = 500 ×(2/10) + (-100) × (8/10) = 100-80 = 20

ですから、求める期待値は 20 + 20 = 40 となります。

つまり、このくじは「引く側」にとって有利だ、と考えるひとつの根拠になるわけです。
(くじを「引かせる側」にとっては、一回につき40円とられる見込みだ、ということですから)

期待値の「積」についても同様のことが言えるのではないかと期待したいところですが、残念ながら無条件には成り立ちません。しかし次の事実があります。

X と Y とが互いに独立な事象の確率変数ならば、

が成り立つ。

証明を見たい方はこちらをご覧頂くことにして、具体的な例で上の「積」の公式が成り立つ場合とそうでない場合を見てみましょう。

例5:例1のサイコロの例で、「2個を一度に振って出た目の積の期待値」を求めてみましょう。E(XY) が求めるものになります。ここで、2個のサイコロの目の出方は互いに影響を与えず、独立と考えられます。したがって、上の公式が適用できて、E(XY) = E(X)E(Y) = (3.5)2 = 12.25 と計算できるわけです。

例6:一方、1から3までの数字が書かれた3本のくじから、AさんとBさんが順に1本ずつ引くときの、引いた数字の積の期待値を求めてみましょう。実は「Aさんが引く数字がXである」事象と「Bさんが引いた数字がYである」事象は独立ではないので、上の公式は使えません。そこで E(XY) と E(X)E(Y) を別々に計算してみましょう。一番計算しやすいのは E(X)=2 です(Aさんが先に引くので、単に「3本から1本を引く」ときの期待値に等しい)。次に E(Y) と E(XY) を求めます。AさんがX、BさんがYを引くことを (X,Y) と書くことにすると、考えられるのは (1,2),(1,3),(2,1),(2,3),(3,1),(3,2) の6=3P2 通りで、これらは同様に等しいです。また、それぞれの場合の「引く数字の積」は、
(1,2)=2,(1,3)=3,(2,1)=2,(2,3)=6,(3,1)=3,(3,2)=6
となります。以上のことから、期待値の定義にしたがって計算すると

E(Y) = 1 × ( 1/3) + 2 × (1/3) + 3 × (1/3) = 2
E(XY) = 2 × (1/3) + 3 × (1/3) + 6 × (1/3) = 11/3

となります。E(X)E(Y)=2×2=4 になるので確かに E(XY) とは異なった結果になりました。このように、確率変数の積については、一般には公式は使えません。

[解説・分散の公式]

先ず、分散の定義を思い出しておきましょう。定義を再掲します。

確率分布が

であるような確率変数 X の分散 V(X)を、次の式で定義しました。

この計算を「ふたつの期待値の計算」に帰着させる方法があります。
上の分散の定義式を変形すると、

となります。Eは、Xの期待値E(X)のことでしたから、結局

が成り立つことが示されました。早速この公式を用いてみましょう。

例7:1,2,3,4,5,6,7,8,9,10の番号のついたカードが1枚ずつあり、そこからランダムに1枚を選ぶとします。選んだ番号の数を確率変数Xとして、Xの期待値と分散を求めてみましょう。まず、この場合期待値は単純平均になります。
次に、分散 V(X) を求めましょう。上の公式を用いるためにE(X)とE(X2)を計算します。

E(X)= ( 1+2+3+4+5+6+7+8+9+10 ) ÷ 10 = 5.5

です。また、

E(X2)= (1+4+9+16+25+36+49+64+81+100) ÷ 10 = 38.5

したがって、

V(X)=E(X2) - (E(X))2=38.5-(5.5)2= 38.5 - 30.25 = 8.25

となります。ちなみに標準偏差はこの平方根をとって、約 2.87 と求まります。

また、上の公式を用いることによって、次の定理を示すことができます。

V(X+Y)を上の公式を用いて計算すると、右辺になっています。計算は各自で補ってみてください。「XとYが独立」なので、期待値の積に関する公式が使えますね。それがヒントです♪