顔研究総括

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卒論のテーマとしてヒトの顔を扱ってきましたが、研究は卒論に集約されるだけでなく、もっと広がりを持つものです。
このページでは、そうした広がりを持った顔研究について述べます。
内容的には、「顔の進化シナリオ(過程)の考察」「顔の学習過程の考察」の内容をもとにして、話を膨らませています。

顔とはいったい何か?

1,認識される対象としての顔

あなたは、他人が人間であることをどのように認識していますか。
その手がかりは、大きさが1メートルから2メートルぐらいと推測されること、2本の脚の上に胴体があり、その上に頭があり、胴体から2本の腕が生えていること、2本足で歩くこと、言葉をしゃべること、顔が人間のもつそれであること等が考えられます。
こうした手がかりを脳の中で統合して認知することで、ある物体を犬や猿やゴリラやかかしや帽子やバーチャルな絵図とは違う、生身の人間であるという推論が行われています。

この認知による統合を行うことで、ある物体が人間であると推論を行っても、それは100%人間であると決めつけているわけではありません。
限りなく100%に近いため、相手が人間であると見なして対応することが最も妥当で適応的な行動なだけです。

そして、上に挙げたいくつかの特徴それぞれがその推論に根拠を与えています。
例えば、大きさが1メートルから2メートルぐらいのものは人間以外にもタンスや木や自転車や竹刀も考えられます。言葉をしゃべるものは人間そのもの以外にも信号機やCDプレイヤーやキャッシュディスペンサーなどが考えられます。
しかし、タンスを人間と勘違いして会釈をしたり、CDプレイヤーから聞こえたヒトの声に対して「CDプレイヤーがしゃべった!」と思ったりしません。これは他の特徴が人間の特徴と違うために人間である確率が非常に低い・ほとんどないと推論しているからです。
過去の人間を取り巻く環境では、はじめに挙げたような「人間らしい特徴」を備えている物体を「人間」と見なして行動するとうまくいっていたため、それらの特徴を持つ物体を人間と推論するための認知能力が進化してきたと考えられます。

そして、2足歩行をする社会性動物であるヒトでのこうした推論における「顔」の役割は非常に大きくなっていると考えられます。
ヒトの顔は、人間を他のものから識別することが最も原初的な意味としてあったと考えれらます。

そのなかでも、ふたつの目、目間の中心から下に行ったところに口があることが人間の顔を人間の顔と認識する最も原初的な特徴であったと考えられます。これは、目と口があるようなシミや光のかげんがゲシュタルト的にヒトの顔に見えるという「心霊写真」の特徴とも一致しています。

この「目」と「口」に対して「人間である」という情報以上の情報を与えることによって、より繁殖適応度を上げていった結果がヒトの顔の魅力になっていると思います。
つまり、ヒトの顔は「人間と認識するための顔(個体識別を含む)」から「人間の繁殖能力の個体差を見分けるための顔(=魅力)」に進化していったと考えられます。

こうした「人間である」という情報以上の情報を与えてある例として、マンガの顔が考えられます。
マンガの顔は現実離れしていますが不自然には感じません。
少女マンガ的な顔は不自然に感じない程度に顔の魅力を誇張していると考えられます。

ヒトの顔認識の際、対象が目と口だけだとゴリラやチンパンジーやホモ属の他種と区別できないので、実際はより顔の別の部分を含めた精密な認識を瞬時にできたと想像できます。その中でも様々な理由、特に社会的コミュニケーション表出器官という理由で目と口が最も重要だったため注目が集まり、そこへ魅力をあらわす特徴を付加することが適応度を高める戦略だった考えられます。



2,魅力的な顔とは、「より人間らしい顔」?

魅力的な顔とは、「人間であるという推測をより高める特徴を持つ顔」つまり「より人間らしい顔」なのではないかと思います。
魅力には発生メカニズムや内分泌メカニズムが関わっていますが、認識論的には人間と見なす推論の正しさをより確からしくする特徴を有していることが魅力的と感じるのではと考えています。

その推論を成り立たせるためには、顔を顔と見なすことができる能力と自分の文化における顔の傾向とを知る必要があります。

顔を顔と見なす能力としては、「顔細胞」と呼ばれる脳神経の存在が示唆されています。
サルの単一ニューロン記録法により、顔を見せると活性する細胞が発見され、これに類したニューロンはヒトにもあるといわれ、また新生児でもヒトの顔には他の物体に比べて有意に興味を示す(Langloisら, 1987 新しいウィンドウが開きます)ことから、顔を認識する生得的なシステムがあるといわれています。

自分の文化における顔の特徴が、人間と見なす推論の確からしさに関わるということは、ペレットらの論文(Perrettら, 1998 新しいウィンドウが開きます)から示唆されます。
ペレットらの行った実験では、スコットランド人と日本人にそれぞれスコットランド人と日本人の男女の顔写真をそれぞれどれぐらいfeminine(女性的)もしくはmasculine(男性的)にした顔が魅力的かを判断してもらいました。
その結果、日本人被験者が日本人とスコットランド人の魅力を評価した場合、日本人女性の顔もスコットランド人女性の顔も平均よりfeminineな顔を魅力的と判断しました。
また、スコットランド人被験者も同様に両方の人種の女性の顔ともに平均よりfeminineな顔を魅力的と判断しました。
この研究からは魅力の普遍性がいえると考えられます。

さらにこの研究では次のことがいえると思います。

日本人被験者が魅力的と見なした日本人の顔のfeminineの割合(feminization ratio)より、魅力的と見なしたスコットランド人の顔のfeminineの割合の方が少なくなっており、またスコットランド人被験者が魅力的と見なしたスコットランド人の顔のfeminineの割合より、魅力的と見なした日本人の顔のfeminineの割合の方が少なくなっています。
つまり自文化より他文化の方が魅力的と見なした顔のfeminineの割合が少なくなっています
私は、これは自文化より他文化の顔の方が「人間らしい」と見なす判断能力が落ちるからではと考えます。
その理由として、生誕後からの学習の効果が現れているからだと考えます。
個々人が出会う人間の顔を学習することによって顔のプロトタイプ(平均顔)が形作られ、それを元に魅力の判断を行うと考えられるので、異文化の顔はこのプロトタイプから大きく離れている、つまり今まであったことのある「人間」から離れた顔であると考えられます。
その結果、確かに普遍的な魅力の要素を備えてはいてもこのプロトタイプからの逸脱が大きく、「人間らしい」という判断能力が落ち、魅力的と見なした顔は自文化の見慣れた顔よりfeminineの割合が少なくなっていると考えられます。

最後に、シンメトリーな顔や平均顔が魅力的と感じるのは、より人間らしい顔を魅力的と見なす認識メカニズムが働き、プロトタイプから「偏った」「変な」特徴を人間と見なす確率を減らすことと関連しているではないかと思います。



3,距離と顔の魅力の関係

また上記と関連して、離れた距離からでも顔から人間と認識できる顔が魅力的な顔となった可能性も考えられます。
数万年前までは現代に生き残っているホモ・サピエンス以外のホモ属であるネアンデルタール人といったいわゆる亜種が存在し、彼らと共存していたと考えられています。
彼らと交配することは雑種を作ることになり自分の遺伝子の拡散に不利益なため自種と他種を識別するための記号として顔が使われていたのかもしれません。
別種にむやみに近づくことは危険であり、またエネルギーの無駄でもあるので、この識別はなるべく離れたところで視覚的に行われることが必要だった可能性が考えられます。
離れたところでも視覚的に同種とわかる顔立ちに対して魅力を感じることによって接近を生じさせたのかもしれません。
もしこの仮説が正しければ、住んでいる環境が広いか狭いかによって何を魅力的と見なすかが違っているのかもしれません。



その他の顔にまつわる話

1,上目遣いとヒットラー 〜顔に補正はきかない〜

サッチャー錯視をご存じでしょうか。認知心理学の分野では必ず紹介される錯視で、知らない人はとにかくまずこちらのページを見てください。勝手にリンク(新しいウィンドウが開きます)




下の方へ本文が続きます。


























この錯視のオチは、顔を倒立させると変化に気がつきにくいということです。
これは、倒立している顔を見せられたとき、その顔を頭の中で逆さまにしてとらえることができないことをあらわしています。
こうした錯視は顔で顕著らしいです。

このことと関連して、私は上目遣いとヒトラーについて考察します。

女性の上目遣いは魅力的に見えます。
主観的な意見ですが、世の多くの男性に頷いてもらえるでしょう。
また、女性は意識的にしろ無意識的にしろ、これを戦略的に使っている(に違いない?)。
「アゴが小さいと魅力的」「アゴが小さいと女性に見える」という研究(一例として、cunningham, 1986 新しいウィンドウが開きます)から、

上目遣いにすると目を大きく見せることと同時にアゴが小さく見える

ことが魅力的に見える要因のひとつではないかと推測されます。
そして、重要なことは、ふつうおこなわれる認知的補正がこと顔に関してはおこなわれないのではないかということです。
ここでやっとサッチャー錯視とつながりました。

次に、ヒトラーは演説している写真を撮らせるときなど、斜め下から撮った写真を使っていましたが、これはそうすることで

アゴが大きく見える

ようにしていたと考えられます。
アゴが大きいことは男性の魅力とはあまり関係がないけれども、演説の際必要なのは魅力ではなく男性性なので、より男性らしく見えるという効果をねらっていたものと考えられます。
この際も顔の認知的補正がおこなわれないと考えられます。

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2,モーニング娘。の平均顔に人気の秘密があった!?

(このテキストは2001年6月に書いたものを使用しているのでモーニング娘。のメンバーや時代感覚や言葉遣い?は当時のままです。ご了承ください。)

モーニング娘。が流行っています。
CDを出せばどんなしょうもない曲でもチャート1位、テレビ視聴率も軒並み高い。
しかし、一般的な感覚では、モーニング娘は美人揃いではないです(個人的な意見ではなく、あ・く・まで一般的な感覚では、ですよ)。
もっと美人は多いのに、なぜモーニング娘。??
この現象の秘密のひとつには彼女らの総合的な顔つまり平均顔にあります。

数人の正面顔画像を足し合わせて平均化した平均顔というものがあります。
この平均顔は目、鼻、口、の位置や大きさをそれぞれ計算し、平均化しています。
平均顔の特徴は、普通の顔を足し合わせただけでなぜか足し合わせた顔のどの顔よりも魅力的な顔になってしまうことです(参考論文 新しいウィンドウが開きます)。
ちなみに平均顔のこの性質をはじめに見つけたのはダーウィンの甥のゴールトンで、19世紀末のこと。
ゴールトンは「典型的な犯罪者の顔」というものを知ろうとして犯罪者の写真を重ね合わせてみたところ、犯罪とは似てもにつかない魅力的な顔ができあがってしまったとか。
ゴールトンのあとは長年この性質には誰も触れなかったが、今世紀末頃になってようやく日の目を見てきています。

とりあえずこうして作ってみたモー娘の平均顔を見てみましょう。

(平均顔を作成するツールは東京大学工学部 原島・苗村研究室のHP(新しいウィンドウが開きます)からダウンロードさせていただいた「平均顔作成ツール」を使用しています。)




この顔はモー娘の大半の子よりもいいと(私は)思います。
それ以上に、この顔をはモー娘のリーダーである安部なつみに似ている!
とりあえず、メンバーの顔がわからないヒトはこちら(新しいウィンドウが開きます)の画像と見比べてください。

それでは、阿部なつみを除いた平均顔はどうでしょうか。



先ほどの顔とさほど変わらない!
モーニング娘。の人気の秘密のひとつは、モー娘を一回見てカテゴライズすると、その平均顔になる人物がその中のリーダーだいうことにあると思います。
前述のゴールトンの時と同様に、平均顔はもとの顔より魅力的になる傾向があります。
モー娘はどれをとっても際だって美人ということはありません。
好みにもよりますが、かわいいことはあっても美人ではない!

ちなみに「美人」「かわいい」の違いは、前者は同じ文化に属するだれが見てもそう思うもので、また個人的な趣味とも関係ないつまり客観に属するものであり、後者は個人的な好みつまり主観に属するものと私は考えています。

そこで、できた平均顔はリーダーであり一番かわいい安部なつみに似ています。

「ヒトは頭の中に生まれてきてから今まで見た顔を平均化したプロトタイプを持っていて、そのプロトタイプとの差から魅力の判定をしている」という考え方があり、その考え方に則ってみると、モーニング娘。の顔を頭の中でカテゴライズし、平均顔を作り出したら安部なつみだったというのはなにやらヒトを引きつけるのかもしれません。
そして、「おれはモー娘が好きだ。なぜ好きなんだろう?それは後藤真希がいるからだ!」と自分で自分を納得させているのかもしれません。

本当は誰か個人がではなく、10人という数それ自体が彼を引きつけているのかもしれないのに。

モーニング娘。だけに関わらず、ジャニーズにしろグループものは最近はやっていますが、これらも平均顔の偽の、と言うと誤解を生じるかもしれませんが、実物以上の魅力創出のトリックによるものかもしれません。

また、顔だけじゃなく、彼女らの歌う歌にも人気の秘密があると考えます。

作曲者のつんくは意図的にやっていると思われますが、モー娘の歌には「フゥー」だの「ハァン」といった声がハモっている部分がほとんどの歌にあります。

この声は周波数分析などをしてみないとはっきりしたことは言えませんが、ハモった声は平均声を生み出し、そしてその声は平均顔同様最も魅力的な声であると考えられます。

合唱などでも、一人一人はそんなにうまくなくても、声が合わさると平均化の効果で心地よく聞こえます。
ちなみに声に関する分析は私の修士課程でのテーマとして現在取り組んでいます。

話は顔からずれていきますが、ヒトは会話をしているとき、内容に関しては7パーセントしか覚えていないという研究があるそうです。
ヒトは会話をしているとき、相手の性格や能力、そのときの感情を判断するのに声の音質や声量などから判断していると思います。
こうした声のもつ non-verbal なはたらきの研究をしようと思っています。

研究資料
今回の研究で使用した顔はこちら(新しいウィンドウが開きます)です。
平均顔作成ツールは東京大学工学部 原島・苗村研究室のHP(新しいウィンドウが開きます)からダウンロードさせていただいた平均顔作成ツールを使用しています。

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