少年少女に未来への夢と希望をおくるSF文学の決定版――

少年少女世界SF文学全集(あかね書房)

責任編集=白木 茂・福島 正実    (20) 小学上級〜中学生向

 

 

第10巻 宇宙船ドクター 

 (ハリー=ハリスン・原作/内田 庶・訳/依光 隆・絵 19723月初版発行)

SPACESHIP MEDIC by HARRY HARRISON

(登場人物)

ドン=チェイス大尉……医学校を出たばかりの医師の卵。ヨハネス・ケプラー号で実習中、事故に巻き込まれ、船長代理を務めることになる。

クリッカ……主任下士官

ヨンケット……事務長

スパークス……通信士

メイト=ゴールド……電気技士

ボイド……コンピュータ技士

ラーマ=クスム……機関助手、医師見習い

ホルツ……一等機関士

ウーガルド博士……理論数学者

マシュー=ブリッグス退役将軍……ヨハネス・ケプラー号乗っ取りを企む。

ドイル……ブリッグスの秘書

 

(あらすじ)

 月ステーションから火星までの旅は、とても快適な宇宙旅行である。惑星間宇宙船ヨハネス・ケプラー号(ビッグ・ジョー)は147人の乗客を乗せ、火星に向かっていた。隕石が衝突してコントロール・ルームを破壊し、船長ほか12人の士官と乗組員を殺したのは地球を出発して30日目だった。

 医療実習として乗船していたドン=チェイス大尉は、ただ一人生き残った士官・ホルツ一等機関士から強引に船長代理を押し付けられる。宇宙航海の知識はもとより、専門であるはずの医師としてのキャリアすらない初めての航海で、ドンは、船長と医師の二つの大役を負うこととなる。しかも、隕石との衝突事故により、宇宙船には水と空気が不足しつつあった。さらに、生き残った乗員は下士官のみ。ビッグ・ジョーは目的地の火星への針路をずれつつあった。早く針路を補正しなければ宇宙をさまよい続けることになる。この針路補正の方法を知っている生存者はいないのだ。さらに悪いことに、通信設備も破壊されてしまったのである。

 知識の少ない下級士官とドン=チェイス船長代理の前に、次から次へと試練が襲いかかる。滅多にないほど大きな規模の太陽あらし、それを何とか切り抜けると、船内に火災が発生する。これにより、ただ一人生き残った上級士官・ホルツ一等機関士が死んでしまう。ようやく修理した通信設備も電力不足で使えない。さらに、針路補正と酸素不足の問題も。さらに、謎の伝染病が発生する。もっと悪いことに、乗客である、野心家のマシュー=ブリッグス退役将軍が乗客をそそのかして反乱を起こす。果たして、ドン=チェイスはこれらの危機を切り抜けられるのだろうか。ビッグ・ジョーは無事火星に到着できるのか。

 

(書評:困難な状況の中、次々と直面するトラブル!

あきらめないことの大切さを教えてくれるSF!!!)

この作品については、私がヤフー掲示板に作らせてもらっているトピ「子どもの頃読んだSF」というトピで、kikiusagiさんが題名を知りたいと尋ねてこられた本です。driftglassさんがタイトルを答えてくださりました。私は、中学の頃一度読んだはずでしたが、ほとんど忘れていました。これを機会に再読したものです。

 よく「地位が人を作る」ともいいます。滅多になれないあこがれの船長という地位になったとしても、これは状況が悪すぎます。事故で宇宙船もボロボロです。空気も水も不足しています。針路が狂い、通信機器もダメになりました。生き残った乗員は下士官のみで、充分な専門知識も不足しています。このような困難な状況で、宇宙航海の知識すらない医師見習いの立場で船長を務めることになったプレッシャー。しかしドン=チェイスは逃げずに一つ一つ困難を解決していきます。知識の少ない下士官達の意見をまとめ上げ、中心となって解決策を提示していきます。こういった、絶対に負けないぞ、というダイ・ハードの精神、アメリカ的ですね〜。アメリカの作品に多い、一つのヒーロー像です。その点、ドンに船長代理を押し付けたホルツ一等機関士は、マイナス思考に陥っています。確かに経験も地位も上ですが、彼では、能力的にも、人をまとめる上でも、ドンのように立派に船長代理を務めることはできなかったでしょう。しかし、序列にこだわって船長代理に無理やりなって下手な指揮をするのではなく、ドンに船長代理を命じたのは、彼の英断です。彼は自分の限界を知り、ドンに可能性をかけてみたのでしょう。結果的にそれがよかったのです。

 ドンは船長と船医の大役を二つも負っているため、ほとんど寝ずに活動します。疲れても、副作用が強い注射を打って我慢します。酸素が不足して徐々に息切れが激しくなっていきます。痛みの伝わる描写です。

 宇宙船内で流行した謎の伝染病、復旧した通信設備で地球のコンピュータにかけても前代未聞の病気だと言われます。ドンは、この伝染病が、ビッグ・ジョーに衝突した隕石がもたらしたものではないかと推測します。ビッグ・ジョーに衝突した隕石が、火星と木星の間の小惑星群・アステロイドのうちの、変則的な軌道を持つ小惑星であり、さらに、この小惑星群が、ある惑星が爆発した残りであり、伝染病は、かつてその惑星にいたウイルスがもたらしたのではないか。医学の知識があるドンは、病原ウイルスを培養して特効薬を作ろうとします。その矢先、乗客の反乱が起こります。時間との戦い。ここら辺、『アウトブレイク』を思い出します。

 ドンも大活躍しますが、ドンを助ける他の生き残り乗員もいい。みな、ドンを立てて、自分のできる仕事をしてドンをフォローします。乗客ながら助太刀に駆けつけた理論数学者のウーガルド博士もいい。ドンを中心とした彼らのチームワークで、多数の犠牲者を出しながらも、ビッグ・ジョーは何とか火星に辿り着けたのです。

 解説では、訳者の内田庶さんが、惑星間宇宙飛行の可能性について書かれています。

「やがては、この小説のように火星へいくことは、事故でもないかぎり、きわめてかんたんになるかもしれません。それもきみたちが大きくなるころには可能でしょう。イギリスのSF作家として有名なA・C・クラークは、紀元二千年には惑星へ開拓民が送りこまれると予言しているくらいです。」

と、火星へ行く方法として、ホフマン軌道のことや、フォン・ブラウンの計画などを解説されております。このブラウンの方法は、

1980年代には陽の目を見るとさえいわれています。」

とまで書かれています。将来、5人のうち3人までが宇宙旅行に行ける時代になり、

「その二人にならないよう、そして地球に一生しばられないよう、からだをきたえておくことは、きみたちにとってぜひとも必要なことです。」

……などと、宇宙旅行時代が間近に迫っているかのような書き方です。

 そうです。確かに、私たちの少年少女時代、宇宙旅行の可能性を信じ、期待を持てた時代だったのです。私たちは、こういったSF的な解説を読みながら、科学知識を学んでいったのです。しかし現実に21世紀を迎えて、その可能性と期待は、蜃気楼のようにどこかへ消えてしまいました。

 宇宙旅行の実現を信じられた私たちの少年少女時代。科学と社会の発展を信じられた時代。私たちは、21世紀に夢と希望を持てた、幸せな世代だったのです。

 果たして、今の子どもたちは、私たちの子供時代のように、宇宙旅行やロボットに代表される、幸せな未来のイメージを持てるのでしょうか。科学と社会の発展を信じられなくなったとしたら、これは社会の後退ではないでしょうか。私たちは、かつて私たちが与えられたような幸せな未来像を子どもたちに与えてあげないといけないのです。

 原作者ハリー=ハリスンについて、少しだけ記述があります。編集者を経てSFを書き始め、現在二、三の大学でSFを教えているそうです。大学でSFを教えているなんて、さすがアメリカだ。

 この作品は、どうやら1970年に出版されたようです。この翻訳の初版は1972年。わずか二年前の作品を収録したとは、この全集の英断。ベルヌやウェルズの古典からハリスンの最新作まで。あかね書房少年少女世界SF文学全集はすごい。

2002.3.10(日)

 

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