話題よぶSF文学の決定版――

少年少女世界SF文学全集(あかね書房)

責任編集=白木 茂・福島 正実    (20) 小学上級〜中学生向

 

 

19巻 怪奇植物トリフィドの侵略 

 (ジョン=ウインダム・原作/中尾 明・訳/池田 龍雄・絵 19733月初版発行)

(あらすじ)

 世界的な人口増加のため、世界的に食糧不足が危惧されていた。そんな時、“歩く肉食植物”トリフィドが食糧不足解決のために注目され、栽培・研究が開始された。トリフィドとは、人間や家畜を一撃で殺す猛毒を持ち、三本の足で歩き回る怪奇植物である。良質の食用油がとれ、油かすは栄養価が高いので家畜のえさになる。極地と砂漠以外なら、どこでも栽培できるほど繁殖力が強い。元来はソ連国家が、トリフィド油を食糧不足に悩む世界各国に売り出そうとして極秘に開発した植物である。ところが、亡命を希望した科学者が種子を持ち出そうとしたため、科学者は飛行機とともにソ連空軍の戦闘機に追撃された。そしてトリフィドの種子は風にのって世界中に広まったのである。

 これはトリフィドが出現するようになって約30年経過した頃の話である――。

 57日の夜、地球がすい星の尾を通過した。夜空を緑色にそめて、流星雨が降り注いだ。人々はこの地上最大の花火大会を楽しんだ。次の日、流星を見た世界中の人間が失明していたのである。

 ヨーロッパ食用油会社でトリフィドの研究をしていたビル=メイスンは、偶然の事故で流星雨を見られなかったため、失明することを免れた。ロンドンの街をさまよっているうちに、やはり失明を免れた女流作家のジョゼラ=プレイトンと出会う。二人はマイクル=ビードリーの共同体に合流するが、その思想に反対するコーカー一味に襲撃され、つかまり、ジョゼラとも離れ離れになってしまう。ビルは、コーカーの共同体で働かされるが、やがて伝染病が流行し、コーカーと共にロンドンを脱出する。トリフィドと戦いながらの旅は続く。ビルは、再びジョゼラと会えるのだろうか――。

 

(書評:私をSFの世界に導いた名作!この本に影響されました!!)

 今、この本を読み返すことは本当にうれしいことです。私は、この本によってSFに目覚めたのです。思い返せば小学5年か6年の頃、図書の時間に図書室で、その頃の一番の友人からこの本を薦められたのが最初でした。人々が失明し、歩く肉食植物が襲うその恐怖の世界にのめりこみ、何度も読み返し、創元推理文庫から出ていた完訳版『トリフィド時代』を読みました。また、この作品と似たような設定で似たような小説を描いたりしました。私はそれまでもベルヌやウェルズなどの作品は大好きでしたが、空想的な文学作品、という位置付けで読んでいたように思います。初めてSF、というのを意識したのはこの作品が最初でした。

 今回、近くの公立図書館でこの本を借りましたが、1985年4月の第13刷の本です。10年以上に渡ってこれだけ刷られているのですから、大ロングセラーと言えるでしょう。他に、私が知っているだけでも、児童向けにこの作品は他に二種類出ていました。すなわち、私が子どもの頃にはこの作品は児童文学として必読書とでもいうべき位置付けだったのではないでしょうか。しかし、今、この作品の子ども向け出版はあるのでしょうか。忘れられた存在となっているのでは?幸い、創元SF文庫の『トリフィド時代』は現在でも入手可能です。しかし、私のように小学校の図書館でこの本にめぐり合うことは難しいのではないでしょうか。残念なことです。私はこの作品を子ども向け翻訳で読むことができた、いわば「トリフィド世代」とでもいえるでしょう。

 この作品のすごいところは、まず、世界中の人々が一斉に失明し、そこを怪奇植物トリフィドが襲うという、世にも恐ろしい舞台設定です。このような思い切った舞台設定はSFの得意とするところです。そんなところがSFの魅力ですね。

主人公のビルは様々な人と出会い、色々な経験をします。幸い、失明を免れた人も結構いて、そんな人達が色々と共同体を組織します。その共同体の理念やそれにかかわる人々の描写や争いが描かれているのですが、子ども心にそれが面白かったですね。今読んでも一層面白く、興味深く思えます。まず、合理主義的で、人類の文化を次世代に残すことを優先して考え、自分たちの力で世話ができるごく少数の盲目の人だけを助けようとしているマイクル=ビードリー達、そこから別れた、キリスト教の教えにのっとった社会を再建し、できるだけ多くの盲目の人を助けようとするフロレンス=デュラント達、アメリカから助けがくるまでできるだけ多くの盲目の人を生かしておこうとし、ビードリー達の方針を非人道的だと非難し、襲撃したウィルフレッド=コーカー、そして封建主義社会を作り、自分が独裁者になろうとしている好戦的な赤毛のトレンス。これらの社会が実現したらどうなるか、どれが一番いい社会となるか。こういったことを考えるのも子ども時代にはよい読書経験となるでしょう。

それから、生き残った人々が共同生活をしている家をトリフィドが取り巻いて襲ってきます。あの手この手でトリフィドと戦うその方法がまた面白かったですね。

この作品は1951年の作品です。ちょうど、アメリカとソ連の冷戦が始まった頃です。地球の周りは無数の衛星兵器が回っており、この作品の最後のほうでは、ビルは、人々が失明したのは、流星が衛星兵器にぶつかったためかもしれないと言っています。不安な時代を背景として、一度人類が滅び、そこから復活するという、暗さと恐怖の末に希望が持てる作品となっており、当HPお勧めの作品です。

 本書の解説では、SF作家でもある訳者の中尾 明さんが、「人類の破滅をまねく科学兵器」として、A(アトミック=原子、核兵器)、B(バイオジカル=細菌・生物学、生物兵器)、C(ケミカル=化学、化学兵器)兵器やそれらを使うおそれのある世界情勢を解説し、またそれらをテーマにしたネビル=シュートの『渚にて』や小松左京の『復活の日』などのSF作品を紹介しています。こういった解説で現実の世界情勢を知り、またSF作品の知識も増え、当時の私にはなかなか役に立ったと思います。やはりこういったシリーズ、今の子どもたちにも必要では?

なお、この作品、映画にもなっているようですが、残念ながら私はまだ一度も見たことがありません。

 

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