キミの友達も体験している――

SFベストセラーズ(鶴書房)

 

消えた町

 (光瀬龍・作/武部本一郎・絵)

1978320日初版発行)

(あらすじ)

 滝要(中学2年生)は、嵐の夜、道端に倒れている同級生の小清水麗子を助ける。幽霊を追いかけて2階に行った彼女の両親が消えてしまったという。彼女の家に行き、二階に上がると、そこはどこかの家のテラスに通じ、別の町が広がっていた……。要は、親友の川辺と浜田を呼び、再び二階に上がる。すると今度は、そこには緑の大草原が広がっており、恐竜が動き回っていた。驚いた川辺が恐竜の世界に迷い込んでしまう。続いて、再び謎の町が現れ、麗子もそちらに飛び込んでしまう。

 要と浜田は善後策を練り、十分装備を整えてから恐竜の世界や謎の町に乗り込み、川辺や麗子や麗子の両親を救出することにする。

 トランシーバー、自転車、懐中電灯、磁石、カセットラジオ、花火、マッチ、ロープ等を準備し、2階に上がる。そこは、麗子が消えた謎の街だった。次の瞬間、恐竜の世界に変わる。要は自転車に乗って浜田を探しに行く。恐竜に捕まっている浜田を無事救出し、元の世界との接点に近づいた時、再び周囲が謎の町に変わる。電柱に番地が書いてある。南山平市時田1丁目329番地。どうやら、麗子の家の2階から通じている謎の町のようである。少し歩くと、元の世界の麗子の家によく似た家

が見えてくる。その家の周りには、多くの野次馬が取り巻いていた。どうやら、元の世界に残してきた浜田が、この家の住人に捕まった後、逃げ出したようである。

 夜になり、家のなかをのぞくと、そこは作家の家らしく、本棚で埋まっている。家の主人が机に向かって書き物をし、その向こうには浜田が倒れていた。二人は浜田を救出しようとするが、家の主人に見つかり、浜田も消えてしまう。二人、テラスに空いている出口から元の世界に逃げ帰る。

 元の世界では、もう夜が明けていた。要は一度家に帰り、学校に行く振りをしてこの家に戻ってくるつもりだったが、両親に捕まり、父親に学校まで送られてしまう。学校から抜け出して麗子の家に戻ってくると、そこには向こうの世界の麗子がいた。同級生の麗子と、わずかながら違いがある。声がやや高く、早口である。彼女は、両親が中尾県に旅行中のために親戚の家に泊まりにきて、こちらの世界に迷い込んだようである。

 三人は、再び階段を上り、2階に上がる。するとその世界は、宇宙人の侵略にあっており、UFOが光線で町を焼き払っていた。3人も宇宙人に捕まりかける。離れ離れになった後、要は一人、謎の町に戻ってくる。例の作家の机の上には原稿が置いてある。それを読むと、要を主人公としたSF小説で、今までの冒険が描かれていた……。しばらく呆然とし、気を取り直してこの家の探検に取り掛かると、この家の主人に雇われたガードマンに追いかけられる。家の外で見張っていると、元の世界から迷い込んだ麗子の両親がやってきて、ガードマンに追い払われる。要は二人に事情を話し、二人を連れて元の世界に戻る。そこには向こうの世界の麗子が戻っており、やがて川辺も、同級生の麗子を連れて戻ってくる。

 どうやらこの家の2階は、向こうの世界の麗子の叔父さんの家のテラスとつながっているようである。向こうの世界の麗子の叔父さん・小清水真也は10年前、外国旅行中に行方不明になった後、ひょっこり帰ってきたらしい。記憶喪失になっていて、しばらくぶらぶらした後、SF小説を書き出したという。こちらの世界の麗子の叔父さんも、10年前、行方不明となっていた。要達は、真也おじさんの失踪前の事情を知ると思われる当時の恋人・水城文子を捜し出し、埼玉県飯能に会いに行く。

 彼女は、真也が失踪する前、日記帳を預ける、という手紙を受け取り、その後、粘土で作ったこけしが送られてきたことを思い出す。要はそのこけしを見せてもらい、床にたたきつける。中から、一冊のノートが出てくる。

 10年前、まだ真也叔父が麗子の父親の家に居候していた頃、嵐の夜、庭にフットボール大の球が落ちてきたこと。部屋に持ち帰ると、次の日には球が二つに割れ、中から黒い機械が出てきたこと。その機械を操作すると、色々な世界に行けること。この不思議な経験に悩んでいることなどが書かれていた。

 要達は、ここに書かれた機械は、異次元へ自由に行き来できる装置ではないかと結論する。彼らが体験した以上、その装置はまだ2回の部屋のどこかにあるはずだと、麗子の家に戻って探す。押入れの中の隠し戸棚を発見し、その中から四角い黒い機械を取り出す。二、三個のダイヤルとスイッチ、それに奇妙な形のメーターがついている。おそらくダイヤルが目的地か目的の次元を指示し、スイッチが入力、メーターがほんのわずか震えているのは、この装置が作動している証拠であろう。

 真也叔父さんを連れ戻すため、要が装置を作動さす。恐竜の世界、宇宙人に侵略されている世界に行った後、真也叔父のいる世界にたどり着く。そこで真也叔父に会った一同は、説明を聞く。

 10年前の嵐の夜、彼は新しいSF小説を思いつく。雷雨の夜、落雷とともに一個の物体が天から落下してくる。その物体の中には、次元を飛び越えることができる奇妙な装置が入っており、それを手に入れたSF作家が、その異次元飛行装置を使っていろいろなパラレルワールドへ旅して、そこで様々な冒険を行う、というストーリーである。その物語を書き始めたとき、そのストーリーと同じことが実際に起こる。あの装置は動き出し、真也叔父のまわりに妙な出来事が起こり始め、とうとうあの装置の働きに巻き込まれ、この世界に飛ばされてしまったのである。彼は元いた世界に返るため、自分を連れ戻しに来てくれるSF小説を書いて待っていたのである。

 一同、真也叔父を連れて元の世界に帰っていく。要と浜田は、麗子を家に送っていく。麗子の家はこの家から少し歩いた所にあった。麗子の家では、麗子がいなくなったというので、大騒ぎであった。麗子の友人である向こうの世界の要、浜田、川辺らも麗子の家族と一緒に、麗子を探しているのであった……。

 テーブルの上には、例の機械が置かれてあった。この装置は、考えたことをキャッチして働き、空想を実現させる作用があるのではないか。真也叔父の願望がこの機械を引き寄せたか、偶然この機械が真也叔父の大脳エネルギーの届く範囲に近づいたのではないかと結論し、皆で、この機械が消えろ、と念じる。……次の瞬間、テーブルの上には、何もなかった。

 あの装置は、どこへいってしまったのだろう?どこかで、また誰かを、とんでもない世界に送りこんだりしているのではないだろうか?

 要は、その不気味な想像を追い払い、みなに笑顔を向けるのであった。

 

(書評:2階は異次元への入口!

4つのパラレルワールドを行き来する豪華版パラレルワールドSF!!)

 この作品も好きで、何度か読み返した記憶があります。ストーリーはほとんど忘れていたのですが、改めて読み返してみると、これもパラレルワールドSFだったんですね。2階がパラレルワールドに通じている、という設定、面白いですね。机の引き出しがタイムマシンの入口になっている、というドラえもんの世界に通じるものを感じます。

 階段を上ると異次元に出る、ということで、幼い頃に見た夢を思い出しました。私のおばあさんの古い大きな家も2階建てでした。現実の世界では、階段を上がると廊下があり、部屋のドアに通じているのですが、夢の中では、そこから四方八方に階段が伸びていたのです。黒い背景の中、白っぽい階段だけが浮き上がっていました。この夢の記憶はそこで終わっているのですが、その階段の先には何があったのでしょうか。あまりにも印象に残った夢なので、中学2年の頃、当時書いていた小説に、この階段の夢を登場させました。そこは別の世界へ通じる階段で、上ると、当時読んでいた小説『紅はこべ』やアルセーヌ・ルパンなどの世界に出る、といったようなたわいのないものでした。

 しかし、よく考えてみると、このように、目の前にいくつもの階段・扉・道……といったものが現れる、という夢は、結構見るものかもしれません。夢解釈的なことを言えば、こういった夢は、選択の連続である人生を暗示しているのかもしれません。HG・ウェルズの作品で、『塀に付いた扉』(『くぐり戸』『魔法の園』とした訳もあった)という珠玉の短編があります。大好きな作品で、何度も読み返した記憶があります。幼い頃に夢で見た楽園に通じる謎の扉。人生の選択に直面した時に現れる、もう一つの世界に通じる魅惑的な扉……。人生にはチャンスは3度しかない、ともいいます。階段や扉の夢のことなど忘れて久しい。私には今後転機は訪れるのでしょうか。

元の世界とあちらの世界をテラスでつなげている家が、鏡に写したように対照的だと気付いた要と川辺は、まず、この世界が反陽子世界ではないかと推測します。

 

「川辺。もしかしたら、あの世界と、この世界とは裏表の関係があるのではないだろうか。つまり鏡に写ったような世界だ」

「おれ、そういうの何かで読んだことがあるぜ。たしか、反陽子世界とかってんだ」

 川辺は、SFや未来科学などの知識が豊かだった。どこの学校でも、クラスに一人か二人はかならずそういうのがいるものだが、川辺はおそらく、学校でナンバーワンだろう。

「だけど、反陽子世界の中へ、この世界の物質が入りこむと、たちまち大爆発しちまうんだろう?」

 要も負けてはいない。相当知っている。

「うん。そうなんだ」

 川辺は首をひねった。

 

……と、こういったやりとり、わくわくしますね。こういったやりとりが出てくるのも、SFジュヴィナイルの醍醐味です。

 この宇宙ができたとき、原子核がプラス、電子がマイナスの世界と、原子核がマイナス、電子がプラスの世界に別れた。つまり、この世界と電気的に正反対の構造を持った世界が、鏡に写した虚像のように、どこかに存在する。材料とできかた、出来るのに要した時間が同じなら、その後の変化も同じで、ということは、反陽子の世界にも、もう一人の自分がいる、という理論です。

――反陽子世界!!パラレルワールドに次ぐ面白い概念が出てきました。パラレルワールドを扱ったSFはありますが、反陽子世界を扱ったSFは思いつきませんね。まあ、この世界の人間が反陽子世界に入ったとたん、爆発してしまうんだから、無理もないか。決して交わることが許されないのだから、SFになりようがない。残念ですね。

 ということで、あの世界は異次元の世界ではないか、ということになるのですが。

 パラレルワールドとしてのあちらの世界の描写を見てみると、要達が元いた世界とよく似ている、ということになっております。ここがパラレルワールドだと証明するためか、作者は地名を変えています。まず、舞台となった麗子の家は、平河市白鳥北2丁目1318番地。それが、向こうの世界の麗子の親戚の家の住所は、南山平市時田1丁目335番地だそうです。さらに、向こうの世界の麗子の両親は、中尾県亀が谷市に旅行中ということになっています。中尾県――こんな見知らぬ県の名前が出ると、不思議な感じがしますね。また、向こうの世界では、警察への通報は110番ではなく、115番となっています。

 地名や電話番号が違うパラレルワールドに、同じ人物が同じ名前、同じ家族構成で存在する、というのは虫が良すぎる感じがしますが、物語進行上、仕方のない処置か。

 パラレルワールドを行き来する、なかなか面白いSFです。冒険にあたって、的確な判断と行動力でリードする滝要もいい。また、要と両親とのやりとりや、学校生活で繰り広げるドタバタ劇や、向こうの世界で出会った川辺との追いかけっこなど、喜劇調のシーンも入っております。ただ、こういった描写を詳しく描く一方で、パラレルワールドに迷い込んだこちらの世界の麗子や浜田、川辺らがどんな経験をしたのか、描写や会話すらないのが不満です。また、ようやく再開した真也叔父さんと捜索隊の面々、真也叔父さんはまず文子さんを見て驚くのではと思うのですが、冷静に皆に説明したりしているのが不自然に感じました。この物語は細かい所を分析すると、変に思ったり矛盾に思う所もありますが、細かい所を重箱の隅をほじくるようにつっつくのはやめておきましょう。

 また、この本のあとがき「ゆめの中の街」で作者の光瀬龍さんは、デジャ・ヴュ体験について書いておられます。これもまた、不思議な感じがするお話で、このあとがきについては長い間記憶に残っていたのを覚えております。

 

 なお、このSF、同じ作者の『その花を見るな!』と合わせて『その町を消せ』として、NHK少年ドラマシリーズとして1978年にドラマ化され、現在ではDVDも出ているようです。

 

 

2001.12.24(月)

 

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