キミの友達も体験している――

SFベストセラーズ(鶴書房)

 

果てしなき多元宇宙

(『時をかける少女』収録) 

(筒井康隆・作/谷 俊彦・絵 昭和531220日第37版発行)

(あらすじ)

暢子は優等生の史郎と一緒に下校途中、三人のM−高校の不良生徒に絡まれる。彼らになすがままにやられ、抵抗できない史郎に不満を感じる暢子。家に帰って夕食後もそのことにこだわり続けている。その時、大地震が起こり……。

話かわって西暦3921年のトーキョー市。16才の若き時間量子学者ノブは、ヴェラトロンの試運転を開始した。この機械は、光子(フォトン)を工場の大量生産用に利用するため、世界で初めて作られたものだった。直径30メートルのドーナツ型デイースはゆっくりとうなり始め、そして、事故が起こった。光子の動きが辺りの磁場を狂わせ、それは空間的に大爆発の形をとった。ズバーン!広い工場内に閃光が飛び、巨大なディースは、ちりぢりに飛び散った。爆発後、息を吹き返したノブは、あの偉大な天才発明家ではなく、ただの16才の少女になっていた。ヴェラトロンの大爆発は、辺りの時空間連続体を引っ掻き回し、多元宇宙におけるノブの同時存在を入れ替えてしまったのである。

我々の住んでいるこの世界は、たくさんのタテ糸とヨコ糸とで織られている。そのヨコ糸が時間とすると、タテ糸は、別の世界だ。他の空間にある、別の宇宙なのである。そして、どの宇宙にも地球があり、あなたがいる。無限に近いほど、数多くのあなたが……。これが、多元宇宙という考え方だ。

隣り合った2本のタテ糸は、よく似ている。ちょうど隣り合った時間―ヨコ糸同士がよく似ているように……。隣り合った2本のタテ糸の中にいる二人のあなたは、やはりよく似ている。だが、20本―30本―そして100本以上離れたタテ糸の中にいるあなたは?そこにいるあなたは大臣や発明家なのかもしれない。これが、同時存在という考え方だ。

ヴェラトロンの爆発は、女性発明家のノブを、別の宇宙へ吹き飛ばし、別の時間へ追いやってしまったのだ!入れ替わりに、別の宇宙、別の時間にいたノブ―あるいは暢子は、順繰りに、少しずつ違うタテ糸へおしこまれ、押し出されてしまったのである。読者諸君と同じ、この世界に住んでいた暢子も、やはり、別の宇宙へ押し込まれてしまった。ほんの少し離れた、タテ糸の中へ!

暢子のやって来た世界―そこは暢子が内心、こうあって欲しいと望んでいた世界だった。事故が起こった時に、暢子が願っていた世界が、もとの世界から押し出された暢子を、一番先に受け入れてくれたのである。一重まぶたが二重まぶたになっている。数学のレベルが低く、数字は5までしかない。音楽には半音階がない。少しずつ変わったところがあるといっても、大きな部分では以前の通りだ。暢子は前にいた世界と違う世界に来たのだと気付き、新しい世界に慣れようとする。

何日か過ぎた頃、史郎と下校途中、再びこの前の不良高校生に絡まれる。この世界での史郎は喧嘩好きで、3人が気絶してからも蹴飛ばし、踏んづけ、いたぶり続ける。

(お願い!もう、こんな世界はいや!もとの世界にもどって!)

 暢子が心でそう叫んだ時、ふいに、彼女の目の前の光景が、ぼやけ、ゆらめいた。

 見知らぬ世界へ吹き飛ばされた女性科学者のノブだが、都合のいいことに、その世界でもノブは科学者だった。前の失敗を取り戻そう!こう決意したノブはこの世界でもヴェラトロンを作り上げたのである。

 ノブ自身は、確かにもとの世界に戻ることができた。だがノブは簡単に考えすぎていた。彼女は、自分さえもとの世界に戻れば、時空間連続体の混乱は正常に戻ると思っていたのだ。彼女は他の多くの世界―他のタテ糸の中のノブや、暢子が、みんなそれぞれ別のタテ糸に流れていることなど、知らなかったのである。

 暢子が、ふと気がついたとき―。そこはやはり、あの道路だった。上品なツーピースを着て真珠のネックレスをつけ、しゃれた黒い皮のハンドバックを持ち、スマートな黒いハイヒールを履いていた。

また別の世界に来た暢子は、この世界では有名なテレビタレントの沢田のぶ子であった。例の3人の不良高校生にサインをねだられ、逃げ出す暢子。

「いやよ!もういや!だれか、わたしをもとの世界にもどして!タレントなんていや!こんな世界は、大きらい!もとの世界が、いちばんいいわ!」

 

(書評:パラレルワールド入門的SF!

パラレルワールド研究のすすめ、そしてパラレルワールド理論による成功哲学!!)

 パラレルワールド入門とでもいうべき物語。パラレルワールドの概念を簡単に説明し、それによって引き起こされる事件を描いております。

 私はパラレルワールドの考え方に、非常に関心があります。この考え方、日常の生活に前向きに応用できるんですね。

 例えば、仕事のない休日の朝、目が覚めた時のことを考えましょう。私はこう考えます。まだ眠い。今日は仕事はない。もう少し寝ていようか。しかし、こうも考えます。いや、起きて○○しよう。どちらを選択するかは自分次第。そして、パラレルワールドには、朝寝坊して時間を無駄にした自分と、早起きして時間を有効に活用した自分が存在するのです。このように、今現在の私の人生とは、選択の結果選ばれたパラレルワールドの一つであり、今後の私の人生も、無数に存在するパラレルワールドの中から自分が選び取っているものだと考えられるのです。このように、パラレルワールド理論を人生論や成功哲学に結びつけることができるのです。SF的人生論!パラレルワールド理論による成功哲学!こりゃ面白そうだ。

 ということで、パラレルワールドプロジェクトを企画し、パラレルワールド理論をテーマにしたSFや科学的入門書を集めていたのですが……。この企画は、当HPと同じ頃企画したものです。当HPを開始すると、当HPを続けていくだけでも大変だと分かり、結局独立したプロジェクトとして立ち上げることは出来ないとあきらめました。当HPの中でも、パラレルワールドをテーマにした本は取り上げると思います。

 ともかく、未来は無数にあるのです。どの未来を選ぶのも、自分の責任。よき未来に近づくため、選択の連続である毎日の時間の連続を前向きに、真剣に生きていきましょう。

 

2001.11.11(日)

 

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