視聴覚室

 

『タイム・マシン』   

The Time Machine

1960 英 Loew’s Incorporated and Galaxy FilmsINC

ヘラルド・ポニービデオ

From SF Kid

 近くのレンタルビデオショップで見つけました。原作であるウェルズの『タイム・マシン』は小学5,6年以来、何度か読みましたが、ここしばらく読んでいませんでした。これを観て、原作を読んだときの感情を少し思い出したような気がします。

 原作では、タイム・マシンを発明する主人公はタイム・トラヴェラー(時間旅行者、と訳されていました)とだけ書かれていて、名前はありませんでしたが、この映画ではジョージという名前で呼ばれています。また、原作では、2回開かれた主人公のディナーのうち、一回目のゲストとして招かれているフィルビーという愉快な男が、この映画では主人公の隣人かつ親友として大きく描かれています(原作ではなかったデービッドというファーストネームまでもらっています)。そして、原作では「わたし」という記録者(ウェルズ自身か?)がいるのですが、この映画ではそれらしき人物は登場しません。

 さて、1899年の大晦日、ジョージはタイム・マシンを完成します。「今世紀中に間に合った」なんて、某自動車のCMのようなセリフを言っています。前の世紀末も、新しい世紀への期待があったのでしょう。ちなみに、シャーロック=ホームズが『緋色の研究』でデビューしたのが1887年、ライヘンバッハの滝に落ちて再び生還したのが1901年です。また、ジグムント=フロイトが『夢判断』を出版して精神分析を世に問うたのは1900年。ポーランドの眼科医ザメンホフが国際共通語エスペラントを発表したのは   1887年。ウェルズの『タイム・マシン』が発表されたのは1895年。文化的には蒼々たる時代ですね。

 1899年当時、イギリスはボーア戦争を戦っており、ジョージは戦争で殺し合いをする時代がいやになり、未来社会に行ってみたい、ということで2年かかってタイム・マシンを完成させます。そのタイム・マシンというのが、さすが19世紀末イギリス製だけあって、クラシカルで優雅な雰囲気が漂っています。この点につきましては、映画を参照してください。

 それで、タイム・マシンに乗って時間旅行する楽しいシーンです。太陽が昇ったり沈んだりする描写は、原作でも印象的ですが、この映画でもユーモアたっぷりに描かれ、一つの見せ場となっております。突然暗くなったために1917年に“寄り道”すると、ジョージの家は閉鎖され、埃まみれになっています。外に出ると、家の向かいに住むフィルビーの息子、ジェームズに会い、父はドイツとの戦争で戦死し(第一次世界大戦のこと)、父の友人のジョージは行方不明だと教えられます。さらに進んで1940年では、ドイツ軍によるロンドン空襲(第二次世界大戦のこと)により、ジョージの屋敷も破壊されます。戦後の目覚しい復興の後、1966年8月18日に再びジョージは老いたジェームズに再会します。しかし、空襲警報が鳴り、ジェームズ達は地下シェルターに逃げ込み、核攻撃のためにロンドンは廃墟と化します。ここら辺、原作にはないエピソードです。しかし、映画制作のわずか6年後に核戦争勃発を想定、とは、少々乱暴ですね。どうせなら1999年7月だったら現実味が増したのに。丁度タイム・マシン開発の100年後でもあるし。まあ、ジェームズ=フィルビーが存命中に再会させたい、という意図があるのでしょうが。

 タイム・トラベルはどんどん進行し、ここから寄り道なく一気に802701年10月12日に飛びます。自然は復活し、常夏の楽園のようになっており、そこでジョージは人類の末裔・イーロイの集落に迷い込みます。原作では青白くひ弱なように描かれていて、私はロズウェルUFO事件のグレイのようなイメージを持っていたのですが、映画では金髪碧眼の典型的な白人です。ここでジョージはウィーナという少女の命を助け、仲良くなります。原作では長く暮らすうちに苦労して言語を覚えるのですが、映画では、なぜか核戦争後の人類の末裔も19世紀末のクイーンズイングリッシュで話しています。ウィーナに案内してもらった博物館で、ジョージは、326年に渡る東西戦争の結果、人類は地上に残った人々の末裔・イーロイと、地下にもぐった人々の末裔・モーロックに別れたと知ります。モーロックは家畜のようにイーロイを飼い、食用にしているのです。このモーロック、映画では青い皮膚に寅皮のパンツをはいて、青鬼みたいです。

 モーロックによって集められたウィーナ達イーロイを励まし、ジョージはモーロックを倒し、1900年1月5日に戻り、ディナーの席でフィルビー達に経験したことを話した後、すぐにウィーナ達のいる未来社会に戻っていき、フィルビーは、新しい世界の指導者になったんだ、と合点します。

 原作では、ウィーナは、運転を始めたタイム・マシンに触れたため、溶けてしまい、タイム・トラヴェラーも、作者がタイム・マシンをいじったために、二回目の時間旅行に失敗して死んでしまったように描かれており、物悲しい結末、という読後感が残りました。映画ではウィーナもタイム・トラヴェラーも死なず、モーロックを倒してイーロイと共に新しい世界を創造する、という、ハッピーエンドで終わっております。パラレルワールド理論ではどちらも有り得る結末でしょう。

 それにしても、326年にわたる東西戦争、とは、一体どんなものだったのでしょうか。人類は1966年の核戦争を生き延びたのでしょうか。1966年に一度世界が滅んでから802701年になるまでに、再び人類の文明が築かれ、再び核戦争を繰り返したのでしょうか。

 モーロックに対してイーロイは、衣服や食事を用意してくれるが怖い存在、という感情を持っているようです。インカやマヤ、日本のヤマタノオロチなど、生贄を要求する神を持った宗教がありましたが、それに似ています。我々の先祖もモーロックのような存在に脅かされていたことの暗示でしょうか。人類は何度も核戦争を経験し、そのたびにイーロイのように始めからやり直してきたのでしょうか。

       

2001.8.11(土)

 

 

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