「超能力」を授業で実演

(『理科教室』1993年7月号掲載)

鈴木健夫

1.はじめに

 私が授業で超能力を取り上げるようになったきっかけは、88年の夏の科教協札幌大会のナイターでの、北海道恵庭北高校の丸山秀一氏の報告です。それまでも超能力への興味は持っていたのですが、奇術に関しても全く無知で、自分でやれるだろうかなどとは思ってもみませんでした。しかしこれを機会に、スプーンを何十個も買い、色々な本を読みあさり、TVの超能力番組を録画し続けるようになった次第です。

 

2.超能力虎の巻

 「超能力」の実演にはたいした技術もいりません。ちょっとした細工と、真剣な表情をしてみせる程度の演技力で十分です。

 まずは、生徒の授業ノートから授業の様子を追いかけていただきましょう。以下、授業ノートのコピーです。口絵写真も参考にしてください。写真の授業とこの授業ノートとはクラスが違いますが、行なった内容はほとんど同じです。

 授業ではこの後、すべてがトリックであることをあかし(具体的な種明かしはしません)、マリックやユリ・ゲラーや中国の自称超能力者などの例を上げます。そして、だまされてはいけない、科学的に見ていく必要がある、科学に対する信頼を失うべきでないなどと強調してまとめ、再度のアンケートと感想を書かせて終わります。

 では実際にどのようなトリックを使ったかを解説しましょう。

[スプーン曲げ・スプーン切断]

 まず、安いスプーンを用意します。普通に売られている「18-8 STAINLESS」と書かれているものは非常に固く、ほとんど曲がりません。私は、スーパーの店先の100円均一セールなどで売られる、1本100円や2本100円程度のカレースプーンを用いています。このような安物は、たいてい「STAINLESS STEEL」としか表示してありません。そういうスプーンは少し力を入れて曲げると、曲がるのです。このうちの1つをあらかじめ何回か折り曲げて、ひびを入れて、折れる数回手前でやめます(口絵写真4)。どの程度でやめればよいかは、経験が必要でしょう。

 別な方法として、金のこで刻みを入れるというやり方もあります(口絵写真5、6)。そして細工していないスプーンと細工のあるスプーン1本ずつを、それぞれ別のポケットに入れて授業に臨みます。まず、細工していないスプーンを取りだし、何人かの生徒にあらためさせます。そして、その後一番細いところを右手の親指と人差し指の間に持ち、「ここに念を入れてハンドパワーでスプーンを曲げる」と言います。スプーンを揺らしながら「ほらだんだんやわらかくなってきた」と言い、暗示をかけます。そしてころあいを見はからって、左手の人差し指でスプーンの上を手前に引きます。そのとき、右手の小指をスプーンの柄の一番下にそえて、スプーン自体を動かないようにします。要するに力で曲げるのです。

 次にその曲がったスプーンは誰かに渡してしまいます。続いて細工のあるスプーンを取り出して、スプーンの端を持ち、机を数回たたいて固い普通のスプーンだと思わせます。その後細工してある部分を素早く右手の人差し指と親指の間に入れてしまい、前と同じような手順でこすったり念を入れたりします。このスプーンは切れ目が入っているので、時間をかけて揺らしているうちに、指の間で本当に切断されてしまいます。それをしばらくそのまま持ち、ぐにゃぐにゃになったように見せてから、いかにもハンドパワーで飛ばすかのようにスプーンの頭を飛ばします。(このスプーン曲げ・スプーン切断の手順は、ゆうむはじめ著「Mr.マリック超魔術の嘘」、柳田昌宏著「すぐできる超能力マジック」を主に参照しています。)

[千円札の浮揚]

 奇術用品売り場で入手した道具を用いているだけです。(東急ハンズで購入した、東京マジック社製『ハンドパワーマネー』という商品です。東京マジック社の連絡先は〒135東京都江東区木場2-2-1003-3630-5074です。)高度なテクニックも不要で、購入してすぐできるようになります。

[テレパシー]

 これについてはここで種明かしをするわけにはいきません。新潮文庫の「しあわせの書−−ヨギガンジーの心霊術」(泡坂妻夫著)を購入して読めば、ほとんど練習もなくできるようになります。

[トランプの予言]

 トランプを使うメンタルマジックの傑作で、「エディ・ジョセフの虫の知らせ」という奇術です。ひばり書房刊・高木重朗著「ハンディ版トランプカード奇術」(1988)という本からのものです。

3.生徒の受けとめ方(アンケートの結果から)

 この授業で以下のようなアンケートを実施しました。超能力実演前にまず行ない、実演後トリックであることを明かしてから2回目のアンケートをとっています。母数は2年生4クラス164名です。

問いの後にある[]は、生徒の答えた信奉度の単純平均で、左が1回目(実演前)、右が2回目(実演後)の数字です。そもそも信じる度合いを%で表わすことに客観性はないのですが、実演前後の変化を見るための数字と解釈していただきたいと思います。

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以下のアンケートに答えて下さい。答は、どの程度信じるかを、%で表わして数字で答えて下さい。例以外の中間的な数字も可です。

 例: 100% 絶対に正しいと思っている。

75% たぶん正しいと思う。

     50% 半信半疑である。

25% たぶん間違っていると思う。

      0% 絶対に間違っていると思っている。

Q1 UFOは宇宙人の乗り物である。   [60%→52%]

Q2 血液型により性格のパターンが決まる。[39%→31%]

Q3 星占いで相性、運勢が決まる。 [27%→19%]

Q4 1999年7月に世界は滅亡する。 [21%→17%]

Q5 霊魂は存在する。          [60%→51%]

Q6 人間の精神の力で物を動かしたり変形させたりすることができる。                  [50%→25%]

Q7 テレパシー(精神感応)は存在する。 [51%→28%]

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 Q1からQ5までは今回の主題とは直接関係ないので、詳しい分析は別の機会に譲ります。下の図は49%以下と答えたものを「間違っている」と思っているとみなし、51%以上と答えたものを「正しい」と思っているとみなしてその分布の変化をグラフにしたものです。それぞれ内側の円が1回目、外側の円が2回目の分布を示しています。グラフ内の数字は生徒の人数の百分率です。

 このデータを見ると、1時間の授業で、超能力に関して信じる度合いをかなり下げる効果が表われたといっていいでしょう。少なくともマスコミで騒がれる「超能力」は批判的に見ていく必要があるということは、生徒は十分納得するようです。また、超能力のみならずその他の項目に関する信奉度も、つられて下がる傾向が見られます。非合理的な物に対する批判的見方が浸透した影響でしょうか。

 しかし、それでも超能力は存在すると頑固に(?)信じる生徒は少なくありません。特に2回目の時点でも問い6、7が100%であると答えた生徒はともに8人ずついます。このような問題で全員に成果を期待するのは間違いだと思います。様々な情報提供の一つとして受け止めてもらうだけでも意義はあるのではないでしょうか。

 生徒の感想からいくつかを拾ってみます。

・先生がやった手品は、本当に超能力を使ってやっているものだと思いすごいびっくりして鳥肌がたちました。本当に先生は超能力者なんだっと信じました。でも、それが手品とわかって全身の力がぬけました。(このような感想は多数。)

・わからない方がいいことも世の中にはあると思う。大人になりたくないと、なぜか強く、今日は思ってしまった。

・たぶん本当に超能力というものが駆使できる人は世の明るみに出たがらないのだと思う。それに科学で証明できないものが全くないとしたらそれこそ人間の存在自体わからなくなってしまう。もちろ

ん疑うのも信じるのも人の自由だと思うけど。

※後ろの2つは、2回目のアンケートでも100%と書いた生徒のものです。

4.なぜ今「超能力」の授業か

 そもそもなぜ授業に超能力を取り入れるのかを論じましょう。

 自然科学教育の目的はなんでしょうか。科学的世界観を確立し、現象の背後にある本質的な法則を見抜くことなどが上げられます。自然科学教育がこの目的の通りに全国で実践され、効果を上げていれば、オカルティズム・神秘主義の横行は生じないでしょう。神秘主義の横行は、科学的に考えることを停止させ、世の中の矛盾を解決不能なこととして投げ出すことにつながります。さらには科学不信を助長し、現実から逃避するような風潮を作り上げることになります。国民の多数がそのようになったら、どうなるでしょうか。そうではなく、科学を基本的に信頼し、科学を生きていく上の武器として身につけさせることが必要であるし、そこにこそ自然科学教育の目的があると私は考えます。

 「超能力」・「超常現象」・神秘主義を信じてしまう傾向を打破するのは、まさしく自然科学教育の目的そのものであると言えます。むろん本当の意味で打破していくためには、長い時間をかけて、科学教育の全内容を用いて取り組んでいく必要があります。1時間のパフォーマンスで神秘主義が払拭できることを期待してはいけません。しかし、科学的にものごとを見る必要性を感じさせるには、十分効果のある題材ではないでしょうか。そして何よりも、ほぼ全員の生徒が、これほど興味関心を非常に強く示すものは、そう多くはありません。これほどのものを教材として使わないのはもったいないとは思いませんか?

 

私の知り得た範囲での参考文献を紹介します。

《超能力実演に参考になる文献》

@飛鳥昭雄著「超能力の手口」ごま書房ゴマポケットP-051(絶版)

A柳田昌宏著「すぐできる超能力マジック」KKベストセラーズワニ文庫

Bゆうむはじめ著 「Mr.マリック超魔術の嘘」 潟fータハウス

Cゆうむはじめ著 「Mr.マリック超魔術の嘘・再び」 同上

Dゆうむはじめ著 「Mr.マリック超魔術の嘘・実践編」 同上

E野上淳編著 「遊びのカルチャーブック・超魔力教えます」 CBSソニー出版

F松旭斉光洋監修 「わくわくポケットシリーズ・超マジック入門」 くもん出版

Gあすかあきお著 「コロタン文庫116・きみにもスグできる超能力マジック」 小学館

H泡坂妻夫著 「11枚のトランプ」 角川文庫(絶版)、創元推理文庫から近日再刊

I泡坂妻夫著「しあわせの書 ヨギ・ガンジーの心霊術」新潮文庫

J「たのしい授業」89年2月号 「我輩はホンモノの超能力者である」丸山秀一

 

FGは児童向けの本です。HIは推理小説ですが、メンタルマジック(超能力に見せかける奇術)を扱っていて、大変参考になります。

《超能力全般について参考になる文献》

・松田道弘著 「超能力のトリック」 講談社現代新書

・高木重朗著 「トリックの心理学」 講談社現代新書

・高木重朗著 「魔法の心理学」 講談社現代新書

・ものの見方考え方研究会編 「ものの見方考え方2…手品・トリック・超能力」 季節社

・M.ガードナー著 「奇妙な論理(だまされやすさの研究)」 

 「奇妙な論理U−空飛ぶ円盤からユリ・ゲラーまで−」

 ともに社会思想社教養文庫

・塩谷広次・荒木葉子著 「コックリさんを楽しむ本」 国土社

・板倉聖宣著 「科学的とはどういうことか」 仮説社

・新日本出版社編集部編 「ニューサイエンス−−科学と神秘主義」 新日本出版社

・坂本種芳・坂本圭史著 「超能力現象のカラクリ」 東京堂出版

・W.B.ギブソン著 「奇跡・大魔法のカラクリ」 東京堂出版

・ゆうむはじめ著 「どこが超能力やねん」 データハウス

・中村希明著 「霊感・霊能の心理学」 朝日文庫

・安斎育郎著 「『超能力』を科学する」 かもがわ出版

・大槻義彦著 「超常現象を科学する」 勁文社

JAPAN SKEPTICS編 「Journal of the JAPAN SKEPTICS

 


口絵写真  

授業者:鈴木健夫(神奈川県立市ヶ尾高校:当時)

写真:町井弘明

  

  

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

口絵写真

「超能力」を授業で実演

 

写真1、2 スプーン曲げ

写真3  1000円札の浮揚

写真4  折れる数回手前まで金属疲労を起こしたスプーン

写真5 スプーンを金床で固定し、金のこで切れ目を入れる

写真6 切れ目を入れたスプーン