90式戦車(90TK)

 

90式戦車(試作車両)


英国から画期的な複合装甲、いわゆる”チョバム・アーマー”の売り込みがあった時、防衛庁が某重工に問い合わせたら国産できるとの回答を得た、それがこの戦車の始まりとなる。いわゆる第3世代戦車であるが、その特徴として、複合装甲、120mm砲、1,500馬力エンジン、熱線映像式暗視装置、デジタル・コンビューター等が必要条件で、その開発は高度の技術力と経済力が必要となる。その開発は困難が予想されたため、陸上幕僚監部においても、”もう戦車の国産は止めて、レオパルド2を輸入しよう”との意見もあったそうである。

外見はレオパルド2とクリソツであるが、この戦車を観察するとまったく異なる設計思想の基に作られたことが良く分かる。この戦車の命題は少数の味方が多数の敵とやりあって、これをどうやって打ち負かすかに最大の目標が置かれているのである。少数の戦車で多数の敵戦車を打ち負かすにはどうしたら良いのか、その答えが行進間射撃能力と発射速度の増大であった。そのための自動装填装置であり、赤外線イメージを自動追尾する機能である。

ランチェスターの2次法則は主として発射数に起因する。

射撃統制装置は熱線映像装置と大容量ディジタル・コンピューター(国産16ビットCPUベースと言われる)により構成されており、測距はYAG(イットリウム-アルミ-ガーネット)レーザー・レンジファインダーにより行われる。射手用の他に車長用の安定化された専用サイトを持っており、より優先度の高い目標を車長が発見した場合は、その目標へ優先的に指向できるオーバーライド機能を持っている。また一度ロックオンした目標を自動追尾する機能を持っており、目標が機動し続けていても砲を指向し続けることができる。

行進間射撃能力はこの戦車の売り物の一つで、国内では射場の関係で披露できる機会は少ないが、総合火力演習などで全速力で走行した後に急停車して車体がまだ動揺している時に射撃して命中弾を得ている。これは高度な行進間射撃能力があることを如実に示しており、招待されて見学している各国の武官などはその能力に内心ビビッているのではなかろうか。数年程前から渡米して米国内演習場での訓練も始まったが、走行しながら3千メートル先の目標を仕留め、米陸軍のど肝を抜いたそうである。(逆にマイナス面としては、スイッチ類の数が多く且つ小さいとの指摘もあった)

砲塔上にはレーザー検知装置が装備され、レーザーを検知すると警報を発すると共にその方向を表示し、自動的に砲塔側面に装備された煙幕弾発射装置により煙幕を展開することができる。(この煙幕は可視光だけではなく赤外線領域にも効果があると言われる)

エンジンはパワーパック化されており、また満州に水は無いという呪縛から初めて逃れたからか、74式戦車が空冷式ディーゼルなのに対して水冷2サイクルV型10気筒ディーゼル・エンジンを採用し、ターボを併用することにより1,500馬力を得て30馬力/トンという 第3世代戦車で最も高い値を誇っている。走行装置はトルクコンバーター式自動変速機とハイドロスタティック式操向装置によって74式戦車と同様にバーハンドルで操作するもので、61式戦車と比べると隔世の感がある。また74式戦車と同様に油気圧式サスペンションを用いており、車体上下、前後方向に傾けることができる。(左右は不可)また、特筆すべきは90式戦車の制動能力の高さである。制動と急発進を繰り返すことにより、敵戦車から狙われた場合に相手の位置予測を狂わせて自動追尾を外すといった芸当すらできるかもしれない。

主砲はドイツ・ラインメタル社製の44口径120ミリ滑腔砲を日本製鋼所でライセンス生産しているもので、当初は日本製鋼所で国内開発を目指し試作したが(国産砲の方が貫徹力が高かったと言われているが、ラインメタル社製の方が量産が容易でコストパフォーマンス等が高く、総合的にラインメタル社製に軍配が上がったという話がある)比較評価の結果、こちらを採用している。同様の技術を持っているという事でライセンス国産に当たってはロイヤリティはかなりリーズナブルだったらしいが、日本にはスパイ取締法がないので情報の保全に対してドイツ側からは懸念されたそうである。

使用弾種はHEAT-MP(High Explosive Anti Tank-Multi Purpose:多目的対戦車榴弾)とAPFSDS(Armor Piercing Fin Stabilized Discarding Sabot:分離被筒式翼安定型徹甲弾)で、APFSDSの弾芯は米国や英国のように劣化ウラン合金ではなく、タングステン合金を使っている。この砲弾は燃焼薬莢方式で砲弾底部のみが金属製で燃え残って自動的に車内に排出される。また排出された砲弾底部が散らばらないように車内にはネットが張られている。また副兵装として砲塔上にキャリパーM2機関銃(12.7ミリ)と主砲と同軸に74式車載機銃(7.62ミリ)を装備している。

120mm対戦車りゅう弾(上段)と120mmAPFSDS弾(下段)

この戦車のもう一つの売りである自動装填装置は砲塔バスル内に装備され、車外及び車内から16+1発(18+1という説も有り)が装填できる(ちなみにフランスのルクレールは22発)、行程はバスルから出るまで乗員とは完全に隔離され最短距離を移動するため安全で動作が速い。(バスルとの間はシャッターで区切られ、装填時のみシャツターが開く)バスルの上面には被弾時のためにブローオフ・パネルが設置されている。なお携行される砲弾はバスルと車内合わせて40発程度である。(バスルへの装填は車外からしかできないと言われているが、実際には単に車外から装填する方が楽だから車外から装填する事が多いだけだそうで、車内からバスルに装填する事は簡単だそうである。)

この自動装填装置は75式155ミリ自走榴弾砲の半自動装填装置の開発経験を元にしたものと言われており、また装弾不良による欠陥騒動も伝えられたが、装弾時にセンサーによりコンマ・ミリ単位のずれによる圧力異常をも感知してリミッターが掛かって止まるようになっているとのことで(装弾時に砲弾が砲身の中心に対して僅かでも斜めに入ってしまう状態で、無理に装填することによりポリプロピレン製の砲弾のパッキンが変形してしまう可能性があリ、砲身と砲弾の中心線がずれることにより命中精度が低下する可能性がある。)、自走榴弾砲において装弾不良による暴発事故で、死傷者が出た経験もある自衛隊としては、安全対策に万全を期しているためであろう。このシーケンスは簡単に外せるそうで、且つマニュアル動作(人力で装弾するのでは無く、スイッチを押すだけ)による再装填にも簡単に移行できるそうである。

なお90式戦車に伝えられる欠陥問題は2種類あって、1つは装弾時に圧力リミッターが掛る問題、もう1つは射撃統制装置の発する射撃命令と砲手の発する射撃命令とのズレにより発砲のタイミングが合わない問題である。後者の場合は欠陥と言うより仕様の問題であり、車長がオーバーライドすれば良い話だが、後者に関しては管制ソフトの改良等により、対策がなされる改善型になるようで、既に納入されたものに対しても改善が加えられる見込みである。

複合装甲は砲塔前面及び車体前面に施され、HEAT及びAPFSDS弾防御を考慮したもの(登場時期から考えるとT-72の125ミリ滑腔砲を対象にしたと思われる)と言われており、内容は防弾鋼板の間にセラミックス系材料により精製された比較的容量が大きい構造体を高強度のチタニウム製方枠に圧入したプレートを挟み込んだものらしく(この複合装甲は開発当初はモジュラー装甲として装備されていたが、開発実験隊からの改修指示により現行の形式になったと言われる、従って中身の入れ替えによるアップデイトや被弾時の補修は比較的容易という。)、試作車両の正面装甲に対して120ミリ滑腔砲によるゼロ距離被弾試験(増装弾を用いてゼロ距離相当とする。)が実施され、HEAT-MP及びAPFSDS弾を多数被弾(双方併せて約9発程度と言われる)してもなお走行が可能だったため、試験関係者を驚かせたと言われている。(この試験時の映像は一部マスコミに公開されているとのこと)なお砲塔側面及び車体底部は中空装甲と推定されている。

装甲は垂直構成だが、装甲を斜めにすることで実質的に装甲を増大させる手法が有効なのはAPDS(分離被筒式徹甲弾)までの話で、現代のAPFSDSのように超高速で着弾する場合は跳弾になる可能性は非常に低く、むしろ光の屈折に類似した現象が発生してより中心方向に対して食い込む可能性が高く、侵徹長を多少長くする程度で防弾性能の向上には殆ど貢献しない。そのため多少のデメリットはあるが安く・軽くなる(表面積が小さくなれば勿論軽くなる)垂直構成になったと思われる。(90式戦車の単純な平面形による構成は製造工数の低減も意図されているという話である。)

 

傾斜装甲を採用しているチャレンジャー2やM1は金属系の複合装甲を採用していることを忘れてはならない。(セラミック系の複合装甲は容積が増加するが、重量はそれ程増加しない。それに対して金属系複合装甲は重量が増加するが、容積はそれ程増加しない。)ただでさえ重い金属系材料(M1に到っては装甲に劣化ウランを採用)して傾斜装甲を採用しているため、軒並み60トン級の車体となっている。その中で90式戦車の50トンという重さは装甲が薄いという側面は確かに免れないが、他の戦車が重過ぎるという考えもあながち間違っていないと思う。逆に言えば、90式戦車の装甲は高い質量効率を持った優秀な装甲であるということである。(チャレンジャー2やM1等の戦車は対HEAT弾防御に重きを置いた複合装甲を用いているのに対して、レオパルド2及び90式戦車等は対APFSDS弾防御に重きを置いた複合装甲を用いていると言われる。レオパルド2A5の砲塔前面に楔形の追加装甲が施されたのは、APFSDS弾の侵徹方向の偏向を配慮した逆ショット・トラップ装甲と言われている。)

現代の技術を持ってすれば、車重が軽い=装甲が薄い=防御力が弱いという図式は必ずしも成立しない。90式戦車は第3世代戦車の中で最も遅く出現した戦車であることを忘れてはならない。

90式戦車はその射撃性能、強固な複合装甲、走行性能等で内外から比較的評価が高いが、弱点としてはトップ・アタック兵器への対策がなされていないことと(一説には特殊鋼による防弾が最初から配慮されており、第3世代戦車の中で唯一登場時からトップアタック防御がなされた戦車だと言われている)、データリンク・システムを備えていないことだろう(M1A2SEPやルクレールで採用されているシステムでは乗員への負担が大きく、返って逆効果だという意見もある。特にデータ更新の遅さと目標優先度の決定等の自動化の遅れなどが指摘されている。レオパルド2A6においても自車位置測位システムの導入のみに留めている。新戦車では導入する予定。)。なおよく言われる価格については、レオパルド2のスペア・パーツ込み輸出価格と同じ位と言われており、性能を考慮すると決して高いものではない。90式1台でM1が2台買えるという話は眉唾もので、サウジアラビアに輸出されたM1の価格は1台ウン十億円という噂がある。

最後に前面装甲に被されたキャンバスについては、レーザーと赤外線に対するステルス対策という説(単なる防水カバーという説も)がある。