ASM-2(93式空対艦誘導弾)

T−2特別仕様機に搭載されたASM−2

 

以下の文章は管理人が世界の傑作機No.117「F-1」用に執筆したものの一部を編集者の許可を頂いて転載したものです。

F-1の第3の搭載兵装となったのは、ASM-1から発展したASM-2(93式空対艦誘導弾)である。ターボジェット・エンジンの搭載により、ASM-1より大幅な射程の延伸を達成しており、また終末誘導方式をアクティブ・レーダー誘導から赤外線画像誘導へ変更したことにより個艦識別能力と命中点選択能力を獲得している。さらに弾頭のLOVA(Low Vulnerability:低脆弱性)性能を向上させるとともに、ステルス翼の装着により残存性の向上を図っている。最大射程は80nm(144km)以上とされる。  

【開発経緯】

ASM-2は新空対艦ミサイルとして技術研究本部により1984年から部内研究を開始し、1988年より研究開発へ移行している。ASM-1と同様に三菱重工が主契約会社となったが、シーカー部を従来の三菱電機から、赤外線関連技術で実績のある富士通が担当することになった。技術試験は1989年から行なわれ、空中投下特性確認用の誘導弾A型、誘導性能確認用の誘導弾C型、総合性能確認用の誘導弾D型が試作されて、試験へ供されている。また、技術試験ではLOVA性能向上型弾頭の弾頭性能確認試験、弾頭安全性試験として、静爆試験(吊るした試験弾頭を目標物の近くで爆発させて威力を確認する)、スレッド試験(試験弾頭を高速で土嚢へ衝突させる)、散飛界試験(試験弾頭を爆発させ、爆発破片の散飛方向と威力を確認する)、殉爆試験(試験弾頭の両脇でアクセプター弾頭を爆発させる)、熱感度試験(弾頭の直下で軽油を燃焼させる)などの試験が行なわれている。1992年には能登半島沖のG空域において、航空自衛隊により廃艦標的と移動標的を使った実射試験を実施している。ASM-2は赤外線画像誘導方式のため、廃艦標的には赤外線を発する電熱パネルが設置され、移動標的には円柱形の赤外線放熱ドームを備えた遠隔操縦可能な無人標的船が用いられた。

ASM-2は実用試験の後、1993年には装備審議会を経て93式空対艦誘導弾として制式化され、調達が開始されている。調達量は年15発程度といわれており、調達価格は11.5億円程度とされている。  

ASM-2諸元】

全長

3,980mm

胴径

 350mm

主翼

翼幅

1,190mm

翼弦(翼取り付け根部)

 940mm

操だ翼

翼幅

 905mm

翼弦(翼取り付け根部)

 215mm

重心位置質量(全備時) (誘導装置先端から)

2,230mm(金属翼)

2,102mm(ステルス翼)

質量(全備時)

528kg(金属翼)

532kg(ステルス翼)

93式空対艦誘導弾制式要綱より  

ASM-2の構造】

ASM-2の構成について93式空対艦誘導弾制式要綱(平成51130日発行)をもとに解説する。ASM-1の構成は誘導部、弾頭部、推進装置部、制御部、主翼、操だ翼、上方配線、上方トンネル、クールボトム等よりなるモジュール構造である。  

●誘導部

誘導部は誘導装置、慣性装置、高度計、オートパイロット電子装置、電池からなっている。誘導装置は赤外線画像誘導方式で目標を捜索、捕捉および追尾し誘導信号を発生する。慣性装置、高度計、オートパイロット電子装置、電池はASM-1とほぼ同等である。  

●弾頭部

弾頭部は信管と弾頭よりなる。信管は着発延期型で弾頭の信管安全装置解除機構およびオートパイロット電子装置からの信号によって解除する安全機能、オートパイロット電子装置からの信号によって起爆する自爆機能を有する。弾頭はPBX系炸薬を使用した徹甲榴弾であるが、ASM-1弾頭と異なるのは焼い材が付与されている点で、起爆と同時に焼い材が飛散し艦船内の可燃物を発火させる。  

●推進装置部

推進装置部はジェット・エンジンと推進装置部胴体からなる。ジェット・エンジンはSSM-1(88式地対艦誘導弾)で実用化されたTJM2で、推力は260kgf(2,550N)である。推進装置部胴体は、オートパロット電子装置からの信号により空気取り入れ口カバーを分離し、ジェット・エンジンに対して空気を供給する。また、ジェット・エンジン用燃料タンクを保有し、エンジンへ燃料を供給する。  

●制御部

制御部はサーボ装置、制御部胴体からなる。内容はASM-1とほぼ同等である。  

●主翼・操舵翼

主翼は被探知性向上のために、ステルス翼となっている。これは軽金属製のしん()材としその外面に電波吸収材を装着した構造。ステルス性の必要がない場合は通常の金属翼を装着する。  

ASM-2の誘導方式】

搭載母機がレーダーで目標艦船を発見すると、ミサイル管制装置を通じて目標データがミサイルへ伝えられる。発射の際はジェット・エンジンの空気取り入れ口カバーが分離し、ジェット・エンジンが始動する。海面近くまで下降したミサイルは電波高度計により一定の高度を飛翔して目標へ接近する。初期中期誘導は発射母機から与えられた目標情報と対比しつつ、位置制御式の慣性誘導により誘導され、目標に近付くと一定高度まで上昇してシーカーによる目標捜索を開始する。この際、シーカーを左右に振りながら海面上の目標艦船を捜索するが、面白いのはたとえ目標を発見したとしても一度必ず首振り動作を最後まで行なう。たとえば、前方正面から左30°(11時方向)で目標を発見したとしても、そこでシーカーは止まらずに、いったん左方向いっぱいに首を振ってから再度目標へシーカーを振る。これは、後述する目標選択機能のためと思われる。なお、目標を一定位置までに捕捉できない場合は旋回捜索を行ない、目標に命中しなかった場合は設定時間経過後に自爆する。

ASM-2の現状】

ASM-2はその長射程と誘導精度から、現在、航空自衛隊の最も有力な対艦兵装となっており、とくにF-2の主要兵装となっている。F-1にも搭載は可能であったが、F-1の能力ではこの対艦ミサイルをまったく生かしきれず、F-1へ搭載された例はきわめて少ない。なお、空自はASM-2の専用訓練用標的として投棄可能な赤外線放熱ドームを持つ水上自走標的を技本開発している。このことからも、空自がいかにASM-2に期待しているかが分かる。

ASM-2の改良の一環として、慣性航法装置へリングレーザージャイロを追加して誘導精度を高める試みがなされている(筆者注:現在調達されているASM-2の調達名称は93式空対艦誘導弾(B)である)。また、近年はデータリンク装置を追加してさらなる誘導精度の向上と目標選択能力を高めたASM-2 D/L(データリンク)の開発が空自主導で構想されている。これは終末誘導の赤外線画像を発射母機へ送信して発射母機からの誘導を可能とするもので、表立って公表はしてはいないが、これにより地上目標への攻撃能力をも獲得することになる。