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「気」を使う表現と日本人の背景

ウィモンワン・ウォンヤラー


1.序論: 慣用句の意味

2.「気」という言葉の由来

3.「気」の意味

(a)辞書で調べて分った意味
(b)日本人にアンケートを書いてもらって分かった意味
(c)比較の結果
4.「気」の慣用句について
:日本人に書いてもらうアンケートと和英辞典にもとづき、多様な表現における、おのおのの「気」の意味の違いを説明する
5. 「気」の慣用句に対応するタイ語の表現
4の「気」の慣用句のような表現としてタイ語でどのような表現を使うかを明らかにするために、日本語を勉強しているタイ人にアンケートを書いてもらって分かったこと
6.「気」の表現から分かる日本人の見方、考え方、態度
研究して分かったこと(タイ人の考え方との比較)
7.結論

参考文献


序論: 慣用句の意味

 ある言語の文法も単語もよく知っていたら、大体その言語を話す人々と言葉を使って理解し合えると考える人もいるであろう。もしその言語に含まれる表現全部がいつでも元の意味から離れずにある固定した意味だけを表すなら、その考えは100%正しいことになるであろう。しかし実際のコミュニケーションにおいてはそうであるとは限らない。文字通りのこととは違ったことを意味する表現はどの言語にもあるのである。たとえば、日本語には「鼻が高い」という表現がある。もしこの表現の意味が分らなければ、直訳して「鼻が高くなっている」という意味だと考えてもしかたがない。しかし、「僕は君と友達で鼻が高いよ」1のような文を言葉どおりにそのまま解釈しても、さっぱり意味が分らないであろう。この場合の「鼻が高い」は比喩であり、「得意になっている様子や、自慢そうな様子」を意味している。「鼻が高い」のような表現は日本語で慣用句という。

 「『鼻が高い』ということばがあります。これはだれかさんの鼻がだれかさんより3ミリメートル高い、という意味でもつかいますが、じまんしてとくいになっているという意味でもつかうことばです。まえの場合は、『鼻』の意味、『が』の意味、『高い』の意味をたし算すれば『鼻が高い』全体の意味がわかります。しかし、あとの場合はたし算だけではわかりません。じまんしてとくいになっているとき、顔を少し上にむけて鼻をつきだすようなかっこうをします。それは『鼻が高くなっている』状態であるところから、こういう意味になったのです。まえの場合がもともとの意味で、それから、あとの場合のような意味がでてきたのです。

 こういう、あとの場合のような『鼻が高い』を慣用句といいます。慣用としてそういう意味でも用いられるようになった文句という意味です。『じまんしてとくいになっている』ということがらを『鼻をつんと上にむける』というべつのことがらをあらわすことばをかりて表現しています。こういう表現のしかたを比喩といっています。ほかのことがらにたとえて、いっているわけです。」(柴田武:p.p.150)

 「鼻が高い」以外にも「顔から火が出る」とか「油を売る」とか「気になる」など、慣用句は日本語にたくさんあり、人間の体の部分・自然・動物等の多様なものに由来しており、日本人の日常会話の中でよく使われている。
 慣用句はとくに人間の体に関係したことばを取り入れたものがたくさんあります。体の部分のことばは人が毎日くらしていくとき、いつも使いなれているので、新しいことばを生んでいくのに、自然と使いこむことが多く、つごうよく使えたでしょうね。・・・(中略)・・・慣用句は昔から今日まで長い間、多くの人びとに使いこなされて、わたしたちの日常の会話や文章にどんどん用いられ、わたしたちのことばを使う生活を豊かにしているのです。(栗岩英雄:p.p. 2 - 3)
 日常会話の中で、たとえば「あの人と同じ考え方・好み・興味等を持っているから、一緒にいると楽しく気が楽だ」というより、日本人は「あの人と気が合う」という言い方をする。なぜなら、そういう言い方をすると、詳しく説明して言うまでもないし、自分の気持ち・言いたいことなどをちゃんと相手に伝えられるからである。日本語を勉強している外国人も日本人と話すときこんな表現を使えれば、日本語のレベルが上がったということになるではあるまいか。

 慣用句を日本人のように自然に使えるようになるには、日本人の考え方・態度等を理解することが必要だ。多種多様な慣用句の中でも、「気」を使う表現はよく使われるものだ。上記の「気が合う」以外にも「気が済む」とか「気を入れる」とか「気になる」などたくさんある。これらの表現は、日本人が自分自身・他の人のことや人間関係について話したり、あるいは自分の気持ちや意志や意見を表したりしたい時によく使われている。

"We found, in short, that whenever Japanese talk about themselves or others, discuss human relations, or express their emotions, feelings, intentions or opinions, there was ki in abundance." (Jeff Garrison, Kayoko Kimiya : 8)

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1.「ドラえもんの学習シリーズ、国語おもしろ攻略慣用句びっくりことば事典」 pp.40より。

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「気」という言葉の由来

 「気」の表現がよく使われるなら、一体「気」という言葉の意味は何か、どこから来たか、ということから話を始めたい。

 「気」は中国語で「ch' i」と読む。道家や錬金術師や宋朝の新しい世代の儒家たちは、「気」について真剣に考え、「気」の意味を「息、精力、活動力、空気、天気、熱情」等々と解釈した。この「気」に対する考えは、すべての物に対する中国人の伝統的な考え方の中心にあるものである。 〈P>「気」は本来「气」という形で書かれ、元々の意味は「呼吸」であった。この意味は、ギリシャのソクラテスの弟子たちが用いた" pneuma "というギリシャ語の言葉に似ており、「精神、魂」を意味している。その後「気」の意味は次第に広くなり、最後にはただ「大気、雰囲気、生まれつき身体液体、流体」だけでなく、一般に宇宙のすべてを創造するものだとされた。つまり、地球上に存在しているものは何もかも「気」が変形してできたものだと考えられた。

A necessarily brief look at the history of thinking on ki--ch'i in Chinese--shows that those Taoist philosophers and alchemists and Sung-dynasty neo-confucians whom we gave such short shrift to earlier had some pretty definite thoughts on it. Their ruminations, while confounding translators (translations appearing in philosophical texts over the years range from "breath", "energy", "ether", "material force" ,"matter-energy", "nature", "passion" and "physical powers" to "vital breath", "vital force", "vital humors" and "vital power" ), continue to occupy a central position in traditional Chinese thought on everything from metaphysics, ethics, and art to medicine, military, strategy, politics, and sex.

Appearing early on the appendix to the Book of Changes ( I Ching)1, the Analects2and other texts recorded hundreds of years before the birth of Christ, ch' i was wiitten with the character 气 and regarded by ancient Chinese thinkers in much the same way as was pneuma, which originally meant "breath" in Greek and subsequently grew to be identified with the life principle or spirit by pre-Socratic natural philosophers of the Miliesian school like Anaximenes.Early Taoists held that ch' i was an etheral substance permeating the natural world as air, clouds, fog, and other gaseous vapors, as well as in the form of human breath. In constant flux, and found both within and without the human body --a view that has colored much oriental thinking on man and nature-- ch' i grow to be considered a vital life force inhering in breath and bodily fluids which, when controlled and nutured, could lead to great longevity,even immortality.Later ch' i was held to be the cosmological stuff of all creation, generating heaven, earth, and man, while the explained by the transformation of ch' i in its active and passive modes, yin 陰 and yang 陽3 (in and yoo in japanese) or differentiation into five elements, woods, fire, earth, metal, and water, and the change, division, or combination thereof. Neo-Confusion Chu Hsi( 1130-1200 ) described ch' i as the concrete, material, differentiating principal of things, which together with li(理)4 constitutes all beings, lending life to all things.

 日本人は、中国に生まれた「気」という言葉や「気」の概念を受け入れ、日本語の独自の言葉として、日常生活の中で多様な表現に使っている。しかし、「気」の概念がいつ日本に入って来たか、日本語の語彙としてどのように形成されたか、ということははっきりしていない。

 竹田健二は「『気』は、日常我々が日本語を用いる際にしばしば使う言葉の一つである。もっとも、周知の通り、『気』はそもそも古代中国において成立した概念であり、先秦時代の思考を伝える多くの文献に既に登場している。日本語における『気』を基盤としながら、そこに日本語としての独自のニュアンスを加えつつ形成されたといってよかろう」と述べている。

 「気」という文字の小学的研究、『孟子』、『荀子』、『列子』、『荘子』、『呂氏春秋』、『淮南子』などにみられる中国における「気」思想の展開は、秀れた多くの学者たちによって研究されてきた。しかし、当の私たち日本人の「気」の概念が、いつ、いかにして形づくられ、時代の推移と共に、どのように変化し、展開されてきたかということは、残念ながらいまひとつははっきりしていない。
(漢字百科大事典日本語学第15巻7月号〈赤塚行雄〉p.p.9)

 「気」という語はもともと漢語である。それがいつごろどのように日本に入ってきて、どのような展開を遂げてきたのか。東洋哲学的な意味はもとより、仏教や儒教にもとうぜん関係があるであろう。
(同漢字百科大事典日本語学第15巻第7月号〈小島幸枝〉p.p.48)

 日本語の古代文学作品を見ると「気」の用法、使い分け、意味等々がさらに分かるようになる。「気」の用法は17世紀までに完成されたが、11〜12世紀以前には「け」の用法と混在していた。当時は意味などを区別せずに執筆の都合によって用いられていた。ところが、源氏物語における「御気色」という言葉から見れば、「気」は敬語になっていると言えるであろう。11世紀の中ごろから「け」という言葉は少しずつ「き」(気)と読むようになり、そのうえますます「け」の代わりに全般的に使われてきた。

 ふだん私たちが気づかないで使っている「気」という言葉の用法は、ほとんど十七世紀までに完成したとみてよい。そういう私たちの「気」の用法の中には、十一、二世紀以前の「け」の用法も混在しており、それは、たとえば「けしからん」などというときの「け」となっている。「けち」もこれである。「病気」というときは「気」 (き)であるが、「色気」というときは、「気」(け)である。(略)

 『竹取物語』には、「利気」(とげ)というのもでてくる。これは利発な「気」のことである。「け」と書くか、「気」と書くかは、その時の筆の都合によっている感じで、たとえば『源氏物語』には、「けしき」の用例三二、「気色」(けしき)の用例六四○だが、その間に意味の区別はみられない。ただし、「思しつつまぬにしもあらぬ御気色」 (桐壷)といったようにその多くは「御気色」と敬語になっていて、殿上の心理表現に用いられている。(略)

 『狭衣物語』や『大鏡』の中に一部現れる「気色」(きそく)という読み方を考えると、九世紀、十世紀ころの「け」は『源氏物語』以後の十一世紀の中ころあたりから、「き」(気)と読まれるように少しずつ移行しはじめ、十三世紀入って『平家物語』になって「気色」 (きしょく)という読み方がでてくるようになる。そして、「気」が 「け」に代わてはっきりと全般的にうち出されるのは、さらにくだって十四世紀の『太平記』になってからなのであるが、十三世紀のはじめころ、つまり鎌倉期に入ったあたりが転換期なのである。 (漢字百科大辞典日本語学第15巻7月号〈赤塚行雄〉: p.p. 11, 13, 15)

 「気」という言葉は、さらに時間と関係しており、「機」という文字で使われてる。「機嫌」というのは、本来「時機」のことであったが、今では「気分」という意味となっている。「機嫌」の「機」は今でも「気」に変わずにこのまま書かれている。ところが、古代日本文学の『太平記』においては「気」と「機」は対応して使われいた。
 「気」というものは時間と関係しているという認識があって、「機」という字が使われている。(略)「機嫌」は時機、ころあいのことで、いまではふつう気分を意味する。「よい御機嫌ですね」ということは、酒などのんで気分がよさそうですねという意味だったりするから「機嫌」を「気嫌」とまちがって書く人が少ないのだろう。(略)

 「機」が「気」へと移行せず、「機嫌」のまま残っていることのほうが、むしろ不思議で、私たちは、ふだんこの言葉をよく使いながらも、「機」の意識があまりない。『太平記』においては、「気分」もしばしば「機分」と書かれてある。「気」と「機」が対応している例を『太平記』でみておこう。
1. 気ニ乗ル」=「機ニ乗ル
2. 「気ノ早イ」=「機ノ早イ」
3. 「気ヲ直シテ」=「機ヲ直シテ」
4. 「気ヲ呑マレ」=「機ヲ呑マレ」
5. 「気ニ屈シ」=「機ニ屈シ」
6. 「気ヲ失ヒ」=「機ヲ失ヒ」
7. 「気疲レ」=「機疲レ」
8. 「気ヲツメテ」=「機ヲツメテ」
9. 「気ヲ附ケ」=「機ヲ附ケ」
10.「気分」=「機分」

 こんな具合に、「気」と「機」の互換可能な用例がみられる。すなわち、十四世紀になると、「気」が強く主体的に意識され、その内なる「気」をみずからあやつろうとする。「気」に対応して「機」が現れるのは、そういう意識上の変化を明瞭に物語っている。
(同漢字百科大辞典日本語学第15巻7月号〈赤塚行雄〉p.p.16 - 17)

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注:

1. The Book of Changes ( Chou i, or I Ching) , one of the oldest ; most highly revered and widely circulated books of Chinese literature arose a wholly symbolical scheme of universal philosophy that linked intuitive divination with China's intellectual development. It is primarily a divination manaul, a series of brief text for a sequence of 64 hexegrams, groups of six broken and unbroken lines. ......The text as a whole has served as much more than a manual for divination, however, for it has supplied many of the concepts and much of the terminology of philosophical and cosmological speculation for successive intellectual movements in China. ( The Cambridge Encyclopedia of China : p.p.305, 358)

2. The Analects ( Lun yu ) ,which is probably mostly of an early date, is a collection of the sayings of Confucius himself and his disciples. They concern principally Confucius's emphasis on education and the meritocratic principal, his stress on the social function and value of ritual and on goodness ( jen ) ; caution towards the supernatural, and belief in the social and political order of the early Chou. (同書:p.p.359)

3. The pair " Yin" and " Yang" and the " Five elements" were conceived as energetic fluids patterning the correspondences and recurrences of the cosmos rather than as element of which it is composed. The active Yin and passive Yang cooperate as male and female, high and low, heven and earth, or take turns to grow and diminish ,in the alternation of motion and rest, light and dark, hot and cold. (同書: p.p.326 - 327)

4. The Confucius ceremonies and rituals regulated all human conduct whether it be within the family, in the context of the feudal relationships between superior and inferior, governors and governed, or in religious observances.(同書:p.p.317) 

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「気」の意味

 「気」の由来のついでに「気」の意味を詳しく続けて話したい。

 国語辞典には「気」の意味が次のように書いてある。

『新選国語辞典 第七版』 小学館、1959.

1)物事を認識したり判断したりする心のはたらき。
2)人間の活動をささえる生き生きとした精神。
3)人柄、性質。
4)物事に注意を向ける心。
5)ある事をしようとする心、興味や意志。
6)ある事に接した時の感情。気分。
7)不確かに感じる心。
8)目に見えないが天地の間を満たし、生命の根源と考えられている もの。
9)ある場所を満たしている空気やガスなどの気体。
10)その場に漂う気配。ふんいき。
11)その物に特有の味や香り。特に、アルコール成分。
12)いき。呼吸。
13)一年を二十四に分けた、その一つ。一気は十五日。節気。

『広辞苑』と『英和・和英研究社中辞典』 Multi-media Data Diskman Electronic Book Player DD-300 , Sony ,1997.

1)天地間を満たし、宇宙を構成する基本と考えられるもの。また、その動き。
:風雨・寒暑などの自然現象。「〜象」「〜候」「天〜」
:一五日間を一期とする呼び方。三分して、その一つを候と呼ぶ。 (二十四節気)。
:万物が生ずる根元。「天地正大の〜」

2)生命の原動力となる勢い。太平記八「皆〜を挙げける上」。

3)心の動き・状態・働きを包括的に表す語。ただし、この語が用いられる個々の文脈において、心のどの面に重点を置くかは様々である。
:(全般的に見て)精神。「〜がめいる」「〜が狂う」
:事に触れて働く心の端々。「〜が散る」「〜が多い」
:持ち続ける精神の傾向。「〜が短い」「〜がいい」
:ある事をしようとする心の動き。「どうする〜だ」「〜が知れない」「まるで〜がない」
:ある事をしようとして、それに引かれる心。関心。「〜をそそる」 「〜を入れる」「あの女に〜がある」
:根気。「〜が尽きた」
:あれこれと考える心。「〜をもむ」「〜が置けない」
:感情。「〜まずい」「〜を悪くする」「怒〜」

4)はっきりとは見えなくても、その場を包み、その場を漂うと感ぜられるもの。
:空気。大気。
:水蒸気などのように空中にたつもの。け。
:あたりにみなぎる感じ。雰囲気。
:呼吸。いきづかい。「〜が詰まるような部屋」「酒〜」

5)その物本来の性質を形作るような要素。特有の香や味。け。 「〜の抜けたビール」

『新明解国語辞典 第四版』 三省堂、1989.

1)目に見えないが、その場所を満たしていると感じられる何ものか。空気・ガスなど。
2)顔色・言葉や動作の端ばしにうかがわれる、その人の心の動き。
3)物に感じて対処する心の働き。
4)受けた刺激によって変わる心の状態。


 日本人が感じるままの「気」の意味を求めるという目的で、一般の日本人計70人を対象に次のようなアンケート調査を行った。

このアンケートの質問に、辞書などは参照なさらずに、感じるままにお答えください。
I. 「気」という言葉の意味は何だと思いますか。
     ____________________________

II. 次の表現についてお答えください。
a)表現の意味は何ですか。
b)この表現を使う例文を一つ書いてください。
c)書いてくださった例文の中の「気」の部分はどういう意味だと思 いますか。

1.気が多い
a)_____________________________
b)_____________________________
c)_____________________________

2.気が進まない
a)_____________________________
b)_____________________________
c)_____________________________

3.気が滅入る
a)_____________________________
b)_____________________________
c)_____________________________

4.気が合う
a)_____________________________
b)_____________________________
c)_____________________________

5.気が散る
a)_____________________________
b)_____________________________
c)_____________________________

 アンケート調査を行った結果、「気」の意味は細かく多くの項目に分けられるほど非常に多様である。しかし、まとめると次のようなものになる。


注:( ) 内は答えを挙げた人数。

「気」

1)宇宙。( 1 )


2)目に見えない自然界に存在するもの。変化、流動する自然現象。または、その自然現象を起す本体。
1. 空気。( 14 ) 大気。( 2 )
2. 気圧。( 2 )
3. 天気。( 3 )
4. ガス。( 1 ) 気体。( 4 )
5. 気功。( 2 )
6. 気象。( 1 )
7. 気温。( 1 )
8. 気候。( 1 )
9. 蒸気。( 1 )
10.目に見えない色。( 1 )
11. 自然界の形のない流れ、方向、オーラ。( 1 )
12. 非物質的な事象を表現する言葉。( 1 )
13. 自然の状態。( 1 ) 
(3)生命、精神、心の働きなどについていう。(自然の気と関係があると考えられていた。)
1. 心。( 25 )
2. 人間の心。(人心)( 4 )
3. 心の中を表す言葉の一つ。( 1 )
4. 心の勢い。( 1 )
5. 心の働き。( 3 )
6. 精神。( 10 ) 精神の有り様。(精神状態)( 5 )
7. 精神の集中。( 1 )
8. 精神力。( 3 )
9. 生命力。( 3 )
10. 人間の精神的側面の中枢となるもの。( 1 )
11. 気分。( 9 )
12. 心持ち。( 1 )
13. 気持ち。( 20 ) 気持ちの動き。( 1 )
14. 感情 ( 9 )
15. 心情。( 1 )
16. 気心。( 1 )
17. 情緒。( 1 )
18. 感じること。( 1 )本能的に感じたり考えたりすること。( 1 )
19. 肉体に対立するもの。( 1 )
20. 人間の心の中を通して存在するもの。( 1 )
21. 目に見えないが何か体に感じるもの。( 7 )
22. 電気のように体にビリリと感じるもの。( 1 )
23. 体内にある形がないもの。( 1 )
24. 神経。( 1 )
25.雰囲気。( 7 )
26. 意識。( 2 )
27.興味、関心。( 2 )
28. 意志 ( 1 )
29.物事に対する意欲。( 1 ) 
(4)エネルギー、パワーなどについていう。
1. エネルギー。( 8 )
2. 宇宙のエネルギー。( 1 )
3.人間の内部に潜む活力。( 4 )
4. 人間の行動を促すエネルギー。( 1 ) 4. 力。( 4 )
5. 勢い。( 1 )
6. 精神的なものも含む漂い満ちている力。( 3 )
7. 形を変えることができ、人が手でつかむことができない、エネルギーを持ったもの。( 1 ) 
(5)根源。( 1 ) 
(6)精神力の根源。( 1 ) 
(7)人柄、性質などについていう。
1. 性質。( 1 )
2. 性格。( 1 )
3. 気質。( 1 )
4. 能力。( 10 )
5. 特性。( 1 )
6. 勇気、根気、平気、人気などの言葉に見られるその人の意外生(意外性のことか)を表す言葉。( 1 )
7. その人が持っているイメージ。( 1 ) 
(8)体のバランス。( 1 ) 
(9)様子。( 3 ) 
(10)考えなどについていう。
1. 考え、考え方。( 5 )
2. 思い。( 4 )
3. 心に思っていること。( 1 )
4. 自分を支配している自分のただ一つの思い。( 1 ) 
(11)人間の周りに存在するもの。
1. 環境。( 1 )
2. 社会。( 1 )
3. 自分の内外の環境。( 1 )

(12)気配。( 1 ) 

 「気」の全体的な意味は上記どおりに広いが、アンンケートにもとづいて、最も多くの人が挙げたのは、
1. 心 35.71%
2. 気持ち 28.57%
3. 空気 20%
4. 精神 14.29%
5. 気分/感情 12.86% となっている。


 以上、国語辞典で調べたり日本人を対象にアンケート調査を行った結果、現在日本人が使用している「気」の意味には、中国に生まれた元来の「気」の意味、つまり「いき、呼吸;天地間を満たし宇宙を構成する基本と考えられるもの、空気、大気、雰囲気;精神」ということがまだ残っているが、日常生活の中にでてくる多様な表現における日本語の独自の言葉として、たとえば「人柄、考え、能力、社会」などを意味することばとして使っている場合もあるということが分かった。アンケート調査の結果を見ると、最も多くの日本人が挙げた「気」の意味は、「心」となっていることが分かった。つまり、「気」の意味は広いものの、日本人が一番最初に思い浮かべて自分自身に一番身近に使い慣れている「気」という言葉の意味は、「心」だといえる。仮にそうなら「気」と「心」は、まったく同じことを意味しているのだろうかと疑問に思う人もいるかもしれない。しかし、実際に「気」と「心」は異っているのだ。どのように異っているか、次の赤塚行雄の説明が参考になる。

「『心』というものは本来、内に向って閉されているものだが、『気』は外に向って、一種の目に見えない触手のように絶えず動いているものなのである。『気』は、『心』の周囲からでている目に見えない触手、あるいは波長のようなもののだから、その触手にふれたり、波長を合わせてとらえたりしなければ、相手の『心』の中には入ってはいけない。『気』という触手、あるいは波長がこちらを向き、相手がいよいよ『その気』になって、ようやく相手の『心』が開く。『心』とは、元来閉されているものだあって、『心』は『気』によって外部と接触している」(赤塚行雄:p.p.9)
日本語には多様な「気」の慣用句がある。上記のアンケートで用いた「気」の慣用句は、個々の慣用句によって「気」の意味に違いがあるかどうか知るために、5つ選んだものである。これらの「気」の意味の相違点を、英語に翻訳することによって区別してみると、次のようになる。
1. ( 精神 ) spirits ; ( a ) mind ; ( a ) heart.
〜が多い( to be interested in many things, to be capricious, to be fickle )
2. ( 意向 ) a mind ; an intention ; ( 意志 ) will.
〜が進まない( to be unwilling/ not inclined < to do >; do not feel like doing something)
3. ( 気分 ) one's feelings ; a mood ; ( a ) humor ; ( a ) frame of mind.
〜が滅入る(have one's heart sink ; feel depressed )
4.( 気質 ) ( a ) nature ; a disposition.
〜が合う(get along well ; hit it off ; be like minded ; be on the same wavelength)
5.( 注意 ) care ; precaution ; attention.
〜が散る(have one's attention distracted ; cannot concentrate on ; distract / disturb from)
(A Dictionary of Japanese And English Idiomatic Equivalents, Kodansha International, 1990. and Progressive Japanese-English Dictionary, Second edition: Shogakukan, 1993)


 前記の日本人計71人が書いた上記の慣用句における、おのおのの「気」の意味は、次のとおりである。
注:( ) 内は書いた人数。


1.「気が多い」の「気」は、
:何かをしたいという気持ち。( 1 )
:気持ち。( 14 )
:前向きな気持ち。( 1 )
:思う気持ち。( 1 )
:人にひかれる気持ち。( 1 )
:興味を持つ気持ち。( 1 )
:感情。( 2 )
:心。( 4 )
:早く次のことを知りたいと思う心。( 1 )
:心がわり。( 2 )
:移り気。( 5 )*
:野心。( 1 )
:好奇心。( 2 )
:意欲。( 1 ) :欲。( 1 )
:興味、関心。( 16 )
:興味の方向。( 1 )
:異性に対する興味。( 1 )
:少しだけ興味がある。( 1 )*
:趣味。( 2 )
:異性の好み。( 2 )
:好み。( 2 )
:(異性に対する)嗜好。( 3 )
:好きなこと。( 1 )
:「好きだ」ということ。( 1 )
:好きな人。( 1 )
:人を好きになる心。( 1 )
:主に愛情等の心の状態。( 1 )
:好意。( 2 )
:他人に対する好意。( 1 )
:好意的な恋愛感情。( 5 )
:愛情。( 2 )
:恋。( 1 )
:恋心。( 1 )
:やりたい、または、したいこと。( 1 )
:優柔不断な性格。( 1 )
:他のものに対する意識。( 1 )
:精神にかかわること。( 1 )
:考えたり思ったりすること。( 1 )
:アイディア。( 1 ) :本能。( 1 )
:一定の恋人をもたないということ。( 1 )*
:出るオーラ。( 1 )
(*「気が多い」の「気」だけの意味を尋ねたのに対し勘違いして表現全体の意味を挙げた人は7人いる。) 


2.「気が進まない」の「気」は、
:気分。( 12 )
:物事に取り組む気分。( 1 )
:意欲。( 7 )
:意思。( 1 )
:意志。( 4 )
:行動をやろうとする意志。( 1 )
:自分の意志。( 1 )
:やる気。( 10 )
:気持ち。( 12 )
:したいという気持ち。( 4 )
:したくない(やりたくない)という気持ち。( 10 )*
:頑張ろうとする気持ち。( 1 )
:何かをする気持ち。( 1 )
:心。( 6 )
:積極的な前向きな心。( 2 )
:主に「意思」を表現する時に使用する心の状態。( 1 )
:精神。( 1 )
:感情。( 1 )
:実際の感情。( 1 )
:本音。( 1 )
:第六感。( 1 )
:考え方。( 1 )
:自分自身の考え、思い。( 1 )
:いやな感じ。( 1 )*
:インスピレーション。( 1 )
:エネルギー。( 2 )
:ガッツ。( 1 )
:興味。( 1 )
:その物事に向かう関心。( 1 )
:何かをしようとする関心。( 1 )
:物事に対する欲求。( 1 )
:自信。( 1 )
:勇気。( 1 )
:人を積極的に行動させる源。( 1 )
(*「気が進まない」の「気」だけの意味を尋ねたのに対し勘違いして表現全体の意味を挙げた人は11人いる。) 


3.「気が滅入る」の「気」は、
:楽しいとか悲しいとか感ずる感情。( 1 )
:精神。( 6 )
:心。( 9 )
:自分自身をしっかりコントロールしている心。( 1 )
:心の動き。( 1 )
:心の落ち込み。( 6 )*
:心の状態。( 6 )
:心持ち。( 2 )
:心配で気分が沈んでしまうこと。( 1 )*
:心がSABAAI SABAAIではない状態。( 1 ) *
(注:「SABAAI SABAAI」はタイ語で「気軽、暢気」という意味)
:ゆううつ。( 1 )*
:悲しい心の状態。( 1 )*
:気分。( 15 )
:気持ち。( 12 )
:生気。( 1 )
:元気。( 3 )
:元気のもと。( 1 )
:気力。( 2 )
:活力。( 1 )
:やる気。( 3 )
:体全体のやる気。( 1 )
:力。( 2 )
:エネルギー。( 2 )
:自分の感じ。( 1 )
:神経。( 2 )
:本来持っている感情。( 1 )
:嬉しい感情や幸せな感情(幸福感)。( 2 )
:高揚感。( 1 ) :積極性。( 1 ) :意欲。( 1 )
:積極的に行動しようとする意識。( 1 )
(*「気が進まない」の「気」だけの意味を尋ねたのに対し勘違いして表現全体の意味を訳した人は21人いる。) 


4.「気が合う」の「気」は、
:心。( 5 )
:心に感じること。( 1 )
:行動しようとしたり何かがすきになったりする心。( 1 )
:心のこと。( 1 )
:心が通じ合うこと。( 1 )*
:友情とか愛情の心の状態。( 1 )
:感情。( 2 )
:感性。( 4 )
:感性が自分と合った人。( 1 )
:口に出したり態度で示さなくても、自分と同じくもしくは似た思いを抱いている人。( 1 )
:気情。( 1 )
:気持ち。( 9 )
:気持ち全体の方向性。( 1 )
:気心。( 3 )
:精神のこと。( 1 )
:好ましい性情。( 1 )
:好み。( 7 )
:嗜好。( 1 )
:考え。( 3 )
:(物事に対する)考え方。( 13 )
:考えていること。( 4 )
:興味。( 3 )
:性格。( 8 )
:個性。( 1 )
:相性。( 4 )
:価値観。( 4 )
:雰囲気。( 1 )
:感じていること。( 2 )
:物事の感じ方。( 2 )
:行動のパターン。( 1 )
:理解。( 1 )
:話題。( 1 )
:話。( 1 )
:意見。( 1 )
:ものの受け取り方。( 1 )
:ハート。( 1 )
:お互いの調子。( 1 )
:波長。( 1 )
:感覚。( 1 )
(*「気が合う」の「気」だけの意味を尋ねたのに対し勘違いして表現全体の意味を挙げた人が1人いる。) 


5.「気が散る」の「気」は、
:思考力。( 1 )
:思考能力。( 1 )
:能力。( 2 )
:気力。( 2 )
:集中力。( 25 )
:注意力。( 4 )
:力。( 2 )
:心。( 8 )
:何かに向ける心。( 1 )
:意志を表す心の状態。( 1 )
:集中しようとする心。( 1 )
:集中心。( 3 )
:精神。( 4 )
:精神状態。( 1 )
:精神の統一。( 1 )
:やる気。( 2 )
:関心。( 1 )
:一点への感心。( 1 )
:何かをしようとする感情。( 1 )
:気持ち。( 3 )
:一つのことに配る気持ち。( 1 )
:一つのことに取り組もうとする気持ち。( 1 )
:意欲。( 2 )
:胸。( 1 )
:胸の動き。( 1 )
:情緒。( 1 )
:考えること。( 1 )
:集中して物事を行う意識。( 1 )
:一つのことに向かう頭の動き。( 1 )
:頭の上に立てているアンテナが勝手に動き出す様子。( 1 )
:精神が散慢になること。( 1 )*
(*「気が散る」の「気」だけの意味を尋ねたのに対し勘違いして表現全体の意味を挙げた人は1人いる。) 


 以上、5つの慣用句のそれぞれについて「気」だけの意味を日本人に聞いてみた。その結果、アンケートに回答した日本人の中に「気」という言葉の意味の分析ができずに一つの単語のようにまとまった表現全体の意味を挙げてしまった人が数多くいる。「気」という言葉は 普段使っている日本人自身にも自覚できないほど、非常に複雑で理解しにくいと言っても良いであろう。

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「気」の慣用句に対応するタイ語の表現

 上記のアンケートで調べた表現に対応するものとして、タイ人がどのような表現を使うか、これを明らかにする目的で日本語を勉強しているタイ人計31人を対象に次のアンケート調査を行った。

下線の「気」の慣用句は日本語で説明が書いてあります。これを参考して、下記の文をタイ語に翻訳してください。

1.気が多い = 心が定まらないで、移り気であるさま。いろいろな物事に興味を持つ様子。浮気であるさま。

( 1 ) ピアノも絵も習字も、と気が多いから、どちらもうまくなれないのかな。
  _______________________________

( 2 ) 彼は女に対して気が多いからよく失恋する。
  _______________________________

2.気が進まない = やる気がない。何かの刺激を受けても、気分がひかれない。物事に対してやろうとする気持ちが起きないこと。

( 1 ) 上司に命令されたが、あの仕事をやるのは気が進まない
  _______________________________

(2 ) 「あなたはあしたお見合いをするんですってね。」 「ええ、でも気が進まないの。
  _______________________________

3.気が滅入る = 気持ちが落ち込む。元気がなくなる状態。

( 1 ) あすの試験のことを考えると気が滅入る
  _______________________________

4.気が合う = 気持ちが通じ合う。気分が互いに一致する。
( 1 ) 彼とは気が合うので一緒にいて楽だ。
  _______________________________

5.気が散る = 気持ちが一つのことに集中できない。
( 1 ) 隣りのラジカセの音に気が散って勉強できない。
  _______________________________

( 2 ) 隣りの人がうるさいので、彼女といても気が散って話に集中できない。
  _______________________________

_____________________________________________________________________

 アンケート調査を行った上で、次に上記の5つの「気」の慣用句は、タイ日辞典にどのような表現が書いてあるか、また実際にタイ人はどのような表現を使っているかを見てみよう。

1.「気が多い」というのはタイ語でいう3つの言葉に区別できる。

1)「いろいろな物事に興味を持っていて、心が定まらないこと」という意味の場合はタイ語でいう「loo-lee, lan-lee( cai )」に近い。

2)「移り気であるさま」を意味する場合は「laai-cai」に近いが、 1)の「loo-lee」というときもある。

3)「浮気する」を意味する場合はタイ語で「nook-cai」という。 ところが、「気が多い」を使う例文(1)、「ピアノも絵も習字も、と気が多いから、どちらもうまくなれないのかな」は、「son-cai-pai-mod(<対象のものに対して>全部興味を持つ)」と言う人もいる。仮にこの表現の後で「( lei ) tad-sin-cai-mai-daai(〈だから〉心を定められない)」と言えば、「気が多い」の1番の意味になるはずだが、実際には「son-cai(興味を持つ)」だけを使って表現するタイ人がもっとも多い。そして、この例文(1)の場合には「son-cai-thang〜thang〜thang〜(〜にも〜にも〜にも興味を持つ)」を表現してもよいであろう。ついでに例文(2)、「彼は女に対して気が多いからよく失恋する」の場合は、「nook-cai(浮気する)」よりタイ人が「laai-cai(移り気)」を表現する傾向が高まっている。

2.「気が進まない」はタイ語でいう「mai-tem-cai(be unwilling to doという意味)」に近い。ところが、「気が進まない」の例文(1)、「上司に命令されたが、あの仕事をやるのは気が進まない。」は、「mai-tem-cai」というより「mai-yaak-tham(やりたくない)」か「mai-mii-aa-rom-tham(やる気がない)」と表現する人が多い。 例文(2)も同じく、「あなたはあしたお見合いをするんでってね。」「ええ、でも気が進まないの。」の「気が進まない」は「mai-yaak-pai(行きたくない)」と言う人が多いことが分かった。

3.「気が滅入る」は同義語がタイ語にはないようだが、「hot-huu(精神的に打ちひしがれる)」に近いのではないかと思われる。「気が滅入る」を使う例文、「あすの試験のことを考えると気が滅入る」の場合は、「seng(うんざりだ)」を表現する人が最も多い。

4.「気が合う」はタイ語で「khao-kan-dai」という。この表現はあまり問題がなく、「彼とは気が合うので一緒にいて楽だ」という例文における「気が合う」も「khao-kan-dai」を使って表現する。

5.「気が散る」は同義語がタイ語にはないようだ。この表現を使う例文を見てみよう。例文 ( 1 )、「隣りのラジカセの音に気が散って勉強できない。」の「気が散る」も例文( 2 )、「隣りの人がうるさいので、彼女といても「気が散って話に集中できない」のも「mai-mii-sa-maa-thi(集中力がなくなる)」を表現する傾向が強い。次いでに「tham-hai-mai-mii-sa-maa-thi」という他動詞の形で「気を散らす」に近い表現を使う人もいる。

 タイ語には「cai」という言葉がある。タイ・日辞典を引けば「気、気性、気質;気息;心;中心」という語が書いてある辞書もあるが、このアンケート調査の結果から、「cai」を使わずに表現するときもあることが明らかになった。夏目漱石の小説『道草』の中に、「心は沈んでいた。それと反対に彼の「気」は興奮していた」といった文章がある。「心」は沈みきっているのに「気」はピリピリしている。ということは、タイ語の中に「気」という概念自体はなく「cai」というのは「心」と同じく容器のようなものに例えた言い方なのではあるまいか。

 タイ語に元来の「気」という概念はないが、タイ人は日本語の「気」の意味とか「気」を使う表現などから意味を取ってタイ語独自のやり方で表現していることが分かる。

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「気」の表現から分かる日本人の見方、考え方、態度

 以上の5つの「気」の表現と表現における個々の「気」の意味から日本人の見方、考え方、態度などが見えてくる。


1. 「気が多い」の場合
「気が多い」の「気」は、アンケート調査の結果によると、まず最も多くの日本人が挙げた意味は「興味、関心」で、次いで「気持ち」それから、「異性に対する興味」となっている。

 前記の「ピアノも絵も習字も、と気が多いから、どちらもうまくなれないのかな」という例文を見れば、いろいろな物事に興味を持つときに、日本人はこの場合の「気」つまり、「興味、関心」が多いという表現をすることが分かった。これに対し、タイ人はアンケート上で「laai-cai(心が多い)」と表現する人もいるが、「son-cai(興味を持つ)」と表現する人のほうが多いことが分かる。ただし、この表現は、「気が多い」の「気」に対する日本人の考えと同様に「興味、関心等々が多い」ということではなく、逆に「物事」つまり「対象」が多いということである。要するに、タイ人の考え方は、物事(対象)が多いからついついたくさん興味を持って心を定めることができなくなるというものなのである。

 「彼は女に対して気が多いからよく失恋する」という例文 ( 2 )から、日本人はこの「気」は「異性に対する興味、恋愛感情」を意味すると考えていることが分かった。この点はタイ人も同様である。

注: 気が多いの元の意味は異性に対して移り気であるさま、浮気であること。しかし、現在では意味が広くなり、「いろいろな物事に興味を持つ」という意味でも使われる。 


2.「気が進まない」の場合
「気が進まない」の「気」の意味は、一番多くの人が挙げているのは「気分」と「気持ち」であり、次いで「やる気」となっている。「上司に命令されたが、あの仕事をやるのは気が進まない」と「あなたはあしたお見合いをするんですってね」「ええ、でも気が進まないの」というこの2つの例文から見れば、日本人は物事に対してやるときに、仮に「気」つまり「やろうとする気持ちまたは気分」が起きないと、「気が進まない」という表現をすることが分かる。これに対し、タイ人はこのようには表現しない。その代わり、「やる気分がない」か「やりたくない」と表現する傾向がある。そのため、前記の例文( 1 )の場合はタイ語でいうと、「あの仕事をやる気分がない」となっており、例文( 2 )の場合は「お見合いをしたいと感じない」、あるいは、「お見合いに行きたくない」となっているわけである。 


3.「気が滅入る」の場合
「気が滅入る」の「気」の意味として最も多くの日本人が挙げているのが「気分」である。次いで、「気持ち」である。ということは、日本人は「元気がなくなる状態」を、「気」つまり「気分」、「気持ち」がふさぐ、落ち込むという表現をすることが分かった。この場合、タイ語にはちょうど同じ表現はないが、「hot-huu(精神的に打ちひしがれる)」という表現に近い。ところが、前記のアンケートの例文、「あすの試験のことを考えると気が滅入る」の「気が滅入る」の場合は、「seng(うんざりという意味)」という言い方がタイ人にとってはもっとも一般的なものである。 


4.「気が合う」の場合
「気が合う」の「気」の意味は、日本人が一番に挙げたのは「物事に対する考え方」、次いで「気持ち」そして、「性格」である。以下「好み」「趣味」「心」となっている。「彼とは気が合うので一緒にいて楽だ」という例文から見ると、日本人は同じ考え方や気持ちや性格を持っている人を「あの人とは気が合う」と表現することが分かった。辞書で調べたり、タイ人にアンケートを書いてもらったりして「気が合う」というのはタイ語でいう「khao-kan-dai」とあまり変わりがないことが明らかになった。 


5.「気が散る」の場合
「気が散る」の「気」の意味は、日本人が一番に挙げたのは「集中力」、次いで「心」、そして、「精神」と「注意力」となっている。「隣りのラジカセの音に気が散って勉強できない」と「隣りの人がうるさいので、彼女といても気が散って話に集中できない」という2つの例文から見ると、日本人は自分の用事をやっているときに、何かに妨げられたら、「気」つまり「集中力」が散慢になってしまうので、「気が散る」という表現を使うことが分かった。タイ語の場合、「sa-maa-thi-taek-kra-coeng(集中力が散慢になる)」という表現も使えられるが、アンケート上で「mai-mii-sa-ma-thi(集中している状態がない)」か「tham-hai-sia-sa-ma-thi(集中力を乱す)」を表現する人が多いことが明らかになった。


 以上、表現に表れている日本人とタイ人の考え方やものに対する見方を比較して分析した。その結果、日本語の場合には状況にちょうど合った意味を表す特定表現を使う傾向が強いのに対し、タイ語の場合にはそのような特定の表現自体よりは言い表わされた状況から意味を把握する。したがって、タイ人はあまり慣用句のような表現自体が特定の意味を表す表現を使わないことが示された。たとえば、前の「気」の慣用句の例文を見てみよう。日本語の「気が進まない」の例文( 2 )の場合、「あなたあしたお見合いをするんですってね」「ええ、でも気が進まないの」で、日本人は「お見合いをする気持ちが起きない」という意味として「気が進まない」を表現する。しかし、タイ人はその表現はしない。「mai-hen-yaak-lei(<お見合いを>したいと思わない)」か「mai-yaak-pai(行きたくない)」と表現することがもっともタイ語らしい。

 「気が滅入る」の場合も「あすの試験のことを考えると気が滅入る」という例文を考えれば上と同様なことが言える。日本人は「気分が落ち込む」という意味として「気が滅入る」を表現する。しかし、タイ人は「あしたの試験のことを考える」という状況では「seng」(うんざりだ)という表現をそのまま使って自分の気持ちを表す傾向がある。

 さらに、タイ語に比べると日本語の表現は自動詞の形でよく使われているらしい。たとえば、「気が散る」の例文の場合、「隣りのラジカセの音に気が散って勉強できない」では、日本人の考えでは周りのものから妨げられると集中ができなくなるということなので、「気が散る」という自動詞の形が使われている。これに対し、タイ人の考えでは周りのものが集中を乱すからこそ集中が散慢になってしまうということである。そのため、タイ語の場合では「sa-maa-thi-sia / sa-maa-thi-taek-kra-coeng(集中力が散慢になる)」というより「tham-hai-mai-mii-sa-maa-thi(集中を乱す)」と表現するのだと考えられる。 

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結論

 本稿では、「気」と「気」を使う表現が、日本人の考え方や態度とどのように関係しているかを、「気」の由来にはじまり選んだ5つの慣用句における個々の「気」の意味の問題まで分析してきた。その結果、「気」という概念の歴史がとても長いこと、「気」のみの意味が日本人の中にもうまく分析ができない人がいるほどとても広くて複雑なので外国人にとって理解するのが難しいこと、普段使われている「気」の慣用句が日本人の日常のものの見方とか考え方とか生活の仕方といった文化全般に深い関わりがあることが明らかになった。しかしながら本稿では手に入る資料や研究期間の関係上、他の「気」の慣用句から考えられる日本人の背景と「気」と「心」の相違を把握することはできなかった。この課題を明らかにするために、今後も継続的に追跡調査を行っていく必要がある。

 この研究をするには、「気」の由来を知るために日本語と英語の教科書・テキストを読むことや、情報を集めるためにアンケート調査を作ることや、アンケートに回答してくださる日本人とタイ人を捜すことや、集まった情報を整理することがとても大変であった。しかし、「気」の慣用句から日本人の考え方などを分析することが楽しかった。やはり異言語異文化というものには面白さがある。この研究を通して、日本語の「気」という概念が「精神などについていう言葉」だけ意味するような単純なものだと思ったら大間違いだということが分かってきた。さらに、「気」の由来を研究したり、「気」の慣用句を調べられるだけ分析したりして日本人の見解・観点等々を前よりもしっかり把握することができ、良い勉強になった。この研究調査の報告の読者には、日本語と日本人の背景についての理解を深めることを期待している。多くの日本語を学習したり、日本人の考え方とか態度に関心を持ったりする人のお役に立つことができれば幸いである。

 最後に、アンケートにご協力をいただいた国際交流基金の先生方、日本人の知人の方々、チュラーロンコーン大学の日本語学科の後輩・友達の皆さん、とくに助言してくださった吉田一彦先生に深く感謝し、お礼を申し上げる。

1998年2月24日
ウィモンワン・ウォンヤラー

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参考文献

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