地震の波の伝搬を目撃したというレポート

2005.3.6 作成


 地震が伝わる様子を波の伝搬として目撃したという、非常に珍しく、興味深いレポートがありますので以下に引用します。

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 それは昭和16年(1941年)ごろだったかと思うが、記憶が全くはっきりしない。
(省略)
 その日は曇りだった。
(省略)
 私は市電(reverie注:東京市が東京都になる前だった)で、霞ヶ関から虎ノ門、神谷町をへて飯倉一丁目で降りた。線路は神谷町から飯倉一丁目に向かって上り坂になり、それを過ぎるとわりあい急な坂で、南に向かって降(くだ)っていた。水交社は飯倉一丁目の停留所から、左にちょっと上がったところにあった。
 さて、会合を終わって海軍省に帰るべく、飯倉一丁目の停留所で電車を待ちながら、神谷町の方を眺めていた。両側には大きな建物もなく、自動車も見えず通行人も少なかった。
 そのとき、神谷町の方向から、道路の幅一杯の黒いような横線がこちらに動いてくるのに気がついた。
 それは、一つの段差のように見えた。そしてその段差は、平らな水面を一つの波が進んでくるのを正面から見るようであり、また帯のような道路の地表のすぐ下に横の棒を入れて、それをこちらに押してくるようでもあった。その速さは相当なものに思われた。遠くに見える神谷町の停留所から私の立っている飯倉一丁目まで、ものの5秒もかからなかったのではなかったろうか。いや、もっと速かったかも知れない。
 その波はあっという間に足の下を通っていった。そのとき何か地面が動いたように感じ、アッと思ったのを今でもはっきり覚えている。周囲で音が出たかどうかは覚えていない。周囲の騒音もあったからか、きわめて短時間だったからも知れない。
 私はそのとき、地震波を見たと直感した。得難い体験と思い、後で2,3の人に話したが、だれも話に乗ってくれなかった。これがどの程度の地震だったか、その後、新聞にも地震のことは出なかったようなので、時間的にも大きさについても確認の方法がなく、そのままになってしまった。
 しかし、50余年を過ぎたいまでも、その波や動きをはっきりと思い出すことができる。
 あれは確かに地震波だった、と思っている。どなたか、こういう体験をお持ちだろうか、またこういう記録がどこかにあるのだろうか。いまでも知りたいと思っている。
---} 『造艦テクノロジー開発物語 ―海軍技術士官の回想―』深田正雄著 光人社NF文庫 208ページ〜

 地震波のスピードは最初に来る P波(ガタガタするタイプ、縦揺れ)が約、時速2万5000km、2番目に来るS波(ゆさゆさするタイプ、横揺れ)が約、時速1万2000kmと言われています。上記の引用から深田正雄氏が目撃したのは P波のようです。

 P波は秒速換算では 25000[km]/3600[sec] = 6.9[km/sec] となります。約毎秒7km ですからマッハ20を超えます。深田正雄氏は超音速の現象を目撃したということになります。

 ちょっと回りくどい計算をしてみましょう(著作物に関する引用の条件を満足させるためだけに(笑))。
深田正雄氏が目撃した場所が神谷町のあたりより h [km]だけ高い位置にあったとして(テキトーな仮定)、見通し距離 s[km]は、

s = √( (2 * r) / (1 - k) * h )
 ここで r:地球の平均半径(6371[km])
     k:光の屈折係数 = 0.13(短距離を想定)


となります。いま、多めに見積もって仮に h= 20m とすると

s= √( (2 * 6371) / (1 - 0.13) * 0.02 ) = 17[km]

地震波が 7[km/sec]だとするとこの場合の最大見通し距離の 17km から 2.5秒程度で通り過ぎることになります。ものの5秒もかからないというのも頷けます。

 この目撃談と少し似たものとして、皆既日食の時に高い山の上から遠くを眺めていると、巨大な黒い円盤が地平線の彼方から飛んできて、その黒い円盤が頭上を通り過ぎた時にあたりは暗くなる…というのがあります。

 もちろん、この黒い円盤は月の影です。
 
 実際はこれを目撃することは極めて希のようです。観測衛星からこの月の影の移動の様子が見えそうな気がするのですが、 NASA あたりで観測した映像とか、誰か知りません?


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