木内鶴彦氏の臨死体験の内容の検証

2003年11月8日作成


木内鶴彦氏の臨死体験の具体的内容については Web でもその一部を読むことができます。木内氏の臨死体験に関して Web では冷静さに欠ける賛同文章ばかりが目に付くのでここで具体的に検証してみます。

木内氏の臨死体験の興味深い点は

(a)過去の全地球規模の大洪水を時期を特定した上で語っていること。
(b)この大洪水の要因と関連して月の由来を語っていること。

にあると私は思います。(a)は客観的に真偽を判定しうる材料となりますし、(b)は他のオカルト説との類似性(木内氏の(a)の説はビリー・マイヤー氏の説に極めて類似しています)の観点からも興味深いものがあります。


木内氏は過去の全地球規模の大洪水について次のように述べているようです。
---{
その当時の人の身長というのは、どのくらいかといったら、2mから3mぐら
いなんですよ。何故かというと、地球の引力が今より弱いんですよ。
:
大体が、その当時は当然今の海の標高0m地帯より深さ2000mぐらい深い
所が当時の標高0m地帯だったんです。あの頃は、今のような太平洋大西洋っ
てなくて、太平洋が一つの海、それしかなかったんです。そういう状態です。
:
その当時、地球の周り月は回ってなかったんです。月になる元の天体が遠くの
方からやってくるんですね。これは、彗星と同じで氷を、かなりの氷を蓄えて
火星とそれから木星ぐらいの間に来てから、これが全部気化するんです。それ
で、もの凄いでかい天体になるわけです、見た目は。それが近付いて来るとそ
れが地球にクワ−ッと降り注ぐんですが、これが今から15000年前なんで
す。15000年。これで、大洪水が起きるわけですね。

だからそれだけ大量の水が降り注いだもんだから、大陸とかその空中に溜まっ
た大量の水で、要するにプレ−トというか地核、グ−ッと押されてくるんです
ね、重さで。地核って、薄い皮みたいなもので、そこに水が溜まると重みでグ
−ッと広がってくるんですよ。どんどん広げられていって(不明)落ちてくる
んですね。そうやって、どんどんどんどん広く広がっていった。で、今みたい
な地球になっていくんですが
---} http://tekipaki.jp/~gon/park/A020928B.kiuti1.htm

---{
その際の詳細については、現在執筆中の著書『先史文明崩壊の謎(仮題)』で
詳述する予定であるが、木内氏が語ってくれた先史文明崩壊時の状況を概略す
ると、およそ次の通りである。
:
太陽系の彼方から地球に近づいた彗星・月は、地球の引力圏に入ると、その潮
汐力によって表面を覆っていた海水(氷結して可能性が強い)や地殻内部の水
が、気化し、地球に吸い寄せられた。

その結果、地球の赤道上に巨大な雲状の環が出来、それは一気に滝のような豪
雨となって地上に降り注いだ。この時の豪雨は、雨と言うより水の塊が落下し
てくるようなもので、言うなれば、ナイヤガラ瀑布の数倍の水が、数千メート
ルの上空から落ちてくるようなものであった。
:
地球上では、海面がおよそ2000メート上昇し、低地に存在していた当時の
文明は海底下に沈んでしまった。

また大災害を予知し、山岳地帯へ逃れた人々も数多くあったようだが、予想以
上の海面の上昇と、豪雨、さらに厖大な水量による重みで起きた地殻移動(地
殻そのものがマントルの上を滑る現象)、大規模な津波、地殻の隆起と陥
没・・・・・・・・これらの空前絶後の大カタスロフィーによって、ほとんど
の人類が命を失い、文明は完全に崩壊してしまった。
---} http://www.y-asakawa.com/andesugoe/oryantai2.htm


これをざっと要約すると
(1)15000年前に大量の氷を蓄えた天体が彼方から地球に接近して大洪水をもた
  らし、その天体は現在の月になった。
(2)この洪水によって地球では海面の水位が2000mも上昇し現在の水位になった。
(3)大量の水によって地表面の重力が変化し人間の身長が大幅に縮んだ。
となります。

まず(3)はありえません。地球半径が 2000m 増えただけで重力加速度が人間の身長に影響を及ぼすほど増加するというのなら、岐阜の神岡鉱山の地下1000m にスーパーカミオカンデがありますがそこでは体重が顕著に軽くなることになってしまいます。

大量の水で地球半径が 2000m 増加した場合の地上での重力加速度の増加分を計算すると (6368/6366)**2 ≒ 1.0006 倍、よって無視できます(木内氏に有利な方向で比重を設定)。

次に(2)は考古学や地質学によって明確に物的証拠に基づいて否定されています。2万年前に海水面は現在より 100〜200m しか低下していないかったという証拠が世界各地で見つかっています。海水面が現在より2000m も低下した時代は十数万年前に遡ってもありません。逆に十数万年前に現在よりも海水面が高かったことが判明しています。
(参考:http://www.ktr.mlit.go.jp/kasumi/rekishi/02.htm)

残った(1)は月の起源に関する捕獲説に相当します。捕獲説には次のような致命的な欠陥が見つかっています。このため現在ではジャイアント・インパクト説が月の起源として有望視されています。

---{
月の岩石を調べた結果、月の組成は地球と全く同じ酸素同位元素でできている
ことが明らかになった。つまり、地球と月には異なる酸素同位元素が同じ比率
で存在するということである。しかし、太陽系の他の場所からの岩石(火星の
岩石や様々な種類の隕石)は異なる酸素同位元素組成を持っている。

 このように酸素同位元素のデータにより、月は何処か他の場所で形成された後地
球に捕らえられたとする従来の説は否定された。
---} http://www.planetary.or.jp/Report/R979-10_a.html

さらに月が捕獲された場合、月は地球の1/100の質量を持ちますから当然、地球の太陽を巡る軌道要素(長半径、離心率、傾度など)にも顕著な影響を及ぼします。しかし過去 25万年に遡ってもそのような影響は見つかっていません。

【参照資料】
過去25万年の地球軌道要素
http://www7.plala.or.jp/harehore/250thousand.html

氷期・間氷期サイクルと地球の軌道要素
http://web.sfc.keio.ac.jp/~masudako/publ/geosci/milankovic/

上記引用箇所を含め木内氏の発言内容には数多くの誤謬や破綻が指摘できます。今回は木内氏が見逃している致命的な誤謬については言及を避けました。木内氏は現在『先史文明崩壊の謎(仮題)』という書著を出版する予定でいるようなのでその出版後にまとめて指摘したいと思います。

木内氏は
---{
あくまでも臨死体験で見せた内容がそうだったということですよ。だからこう
勘違いして貰っては困るんですね。本当にそうだったって言ってるわけじゃな
いんですよ。臨死体験で見せた内容ですからね。そこを勘違いされると困るん
ですね。
---} http://tekipaki.jp/~gon/park/A020928B.kiuti1.htm
といいます。この勘違いを巧妙かつ最大限に利用しているのが木内氏当人のように私には思えます。

私のこの記事は木内氏が嘘をついていると批判するものではありません(嘘である可能性や自慢話の尾鰭が巨大化した可能性を排除することもしませんが)。木内氏の主張する過去の大洪水に関する体験は現実にあったこととは全く無関係だという事を検証しただけのものです。


今回の事実の検証は以上で終わりですが、木内氏が臨死体験で見た過去の地球の大災害のイメージは一体なんだったのか…最後にこれを少し考えてみます。

結論から言えばかなり特殊な状況下での「暴走した夢」だろうと私は判断しています。非日常的な意識状態――臨死体験もそうですが――では日常意識からは想像しがたい程の極限的なイメージ展開能力が発現することがあります。

イメージ展開能力と表現してしまうと普通の夢見と変わらない印象がありますが、極端な場合は世界の創造に立ち会う程のインパクト――大げさに聞こえるでしょうが――を当人に与えます。それゆえこのイメージ展開能力はある種の神秘体験や超常体験の源泉ともなっています。

禅が魔境を慎重に排斥するのはこういった非日常的なイメージ展開能力の暴走をできる限り防ぐためでもあります。伝統的な密教ではこの暴走を防ぎつつ能力を開発する綱渡りに近い工夫が行のシステムに組み込まれています。

問題はこういった防御システムも予防策もない状況下で何らかのきっかけで突然にイメージ展開能力が暴走した場合です。この滅多にないことがこのケースでは起きたのではないか、こう私は推測しています。

非日常的な意識状態で色々なイメージの世界に浸ったりそこで操ったりするのはそれほど困難なことではありません。暴走など無縁の状況でも(自分が作り出している筈の)イメージに操作されないでいること、巻き込まれないでいることはとても困難です。

臨死体験でのイメージが現在やその前後数十年の範囲である程度事実と符合したからと言って数万年前のイメージも一致する保証など期待できません。ですが、期待してしまうのでしょうね、どうしても。


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