書評:『「臨死体験」を超える 死後体験 U』 坂本政道著 ハート出版刊

2005.1.29


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 この本、
『「臨死体験」を超える 死後体験 U』 坂本政道著 ハート出版刊
の内容をざっと要約すると

(1)著者(坂本政道氏)がモンロー研究所で開発されたある音響装置(ヘミシンク)を使って特殊な意識状態に入り込み、
(2)著者の過去世「らしき」シーンを見たり、
(3)肉体を離れ、精神だけで地球の核、他の惑星、我が銀河の中心核、他の銀河などを訪れた、と著者が「思い込んだ」時の記録と、
(4)「宇宙空間には生命・愛のエネルギーが満ち満ちている」といったニューエイジ系によくある主張

を述べたものです。

 坂本政道氏は
---{
 我々はここにヘミシンクという人間意識の深遠を探求するすばらしい方法を手に入れたのだ。幻覚だ、現実体験だという議論を重ねている暇があったら、それをどんどん活用し人間意識と宇宙の真理を解明していくほうがはるかに人類にとって有益だと考えている。
---} 15ページ

と語り、自ら

---{
具体的には太陽系内の諸惑星はもちろんのこと、ケンタウルス座アルファ、シリウス、プレアデス星団など銀河系内のさまざまな恒星、星雲、さらに銀河中心、アンドロメダ銀河、おとめ座銀河団などを探索した。
---} 2ページ

と驚嘆すべき主張をしています。

 結論から先に述べますと、こういった坂本政道氏の主張は大きな錯誤に満ちているようです。それらの体験は坂本政道氏自身が紡ぎ出したイメージ(白昼夢の類)に過ぎず、現実世界の諸惑星や銀河系の探索ではないと私は判断しました。坂本政道氏の言う「人間意識と宇宙の真理」もガラクタに過ぎないと判断します。そう判断した理由を以下で詳しく説明いたします。

 まず、坂本政道氏は我々の銀河系の中心核を探索したと述べていますので、その箇所を引用してみます。

---{
銀河系中心核

 次のセッションは我々の銀河系内の探索に戻る。今度は銀河の中心核(コア)を観察する。
(略)
 次のセッションでは銀河の中心核(コア)を観察する。さらに「記憶の部屋」で高次意識のガイダンスを受ける。

まず、テープの音で説明がある。
「スピリチュアリズムでは銀河の中心核は生命エネルギーの源と言われています。いろいろな宗教や神秘主義的宗派でも特別な意味があります」
草に覆われた丘が見える。ぬめっとした草で葉の長さが1メートル以上、幅が10センチほどもあるような草だ。
そういう草の葉に全面覆われた高さ500メートルほどの山だ。
ところどころごみが落ちているような感じだ。生命力ということなのか。
今度は下側から見る。暗い中に穴のようなものが見えるがはっきりしない。
ついで画面が変わり、水溜りが見える。水は茶色できれいでない。
テープの支持で宇宙ステーション・アルファ。スクエアードの自分の部屋へ行く。
何故かベニヤ板で間仕切りのある汚いトイレに来た。3部屋ほどある。壁にはいたずら書きが所狭しとしてある。男性が用を足しているのが見える。何とも汚い場所だ。
「記憶の部屋」へ移動。同じように薄汚いところだ。
かまわず質問する。
「銀河の中心核がどうしてあう(ママ)いう見え方をしているのだろうか。生命力というのはわかるが、廃物、汚物は何のことなのか」
答えははっきりしない。
すぐに時間切れ。
C1 帰還。

 セッション後に気が付いたのだが、見たのは銀河系の中心核というよりその外側のバルジ(銀河中央部のふくらみ)ではないのか。そう考えると、すべてがうまく説明つく。
 あの小山の形はまさしくバルジを真横からみたような形だった。それに、私は生命エネルギーをどうも緑の草と見る傾向があるようだ。だから緑の葉で覆われた丘というはバルジが生命力の現れである星の集合体であることを現している。しかも比較的大きな星が多いことが、長い、幅の太い葉で表現されている。ただ、みずみずしさは感じられなかった。これはバルジが古い星の集まりであることに相当する。さらに、廃物とは、残骸であり、死んだ星の残骸であるところの惑星状星雲とか、中性子星、パルサー、ブラックホールがあちこちにあることに相当している。
 我ながらうまい解釈に満足した。
---} 175〜178ページ


図1 『「臨死体験」を超える 死後体験 U』 の177ページの著者のスケッチ

 まず、バルジと「中心核」は全く別のものです(下図:図2参照)。中心核は100光年程度、バルジは数万光年ですから数百倍のスケールの違いがあります。



図2 (http://www.isas.ac.jp/ISASnews/No.251/chap2-04.html より)

 探索場所についてはもっと重大な問題があります。我々の銀河系の内部からはバルジは小山状には見えないのです。中心から2万8千光年も離れた太陽系から見たときすら中心部は下図(図3)のようにしか見えません。肉眼ではなく高感度の天体専用撮影機材を用いてさえ図3のようにしか見えないのです。


図3 (http://www.nhao.go.jp/~ozaki/study/galaxies/galaxy.html の写真を回転)


 我々の銀河系のバルジが小山のように見えるためには下図(図4)のように銀河系から遠く離れた外側の場所から眺める必要があるのです。


図4 ソンブレロ銀河 (European South Observatory VLT による撮影)

 登山している人にはその登っている山の形が見えず、山から遠く離れた場所からのみ山の形が見えるのと全く同じことです。ですから、仮にバルジだったとしたら、銀河系の遙か外側の中心核から数十万光年離れた位置を訪れた事になります。

 従って坂本政道氏の主張通り、この小山がバルジだとすると以下のような問題があるとわかります。

(1)モンロー研究所で学んだ探索方法では、探索の場所のスケールが数千倍のオーダーで狂ったりすることがまれではない。数十万光年のオーダーで場所(座標)を間違えることもまれではない。中心に行くつもりで反対に外へ出ていってしまうこともある。

(2)対象のイメージが細部までリアルに見えても、全く別のものの象徴、比喩表現であることがまれではないし、何の比喩表現なのか判明しないことも多い。

 つまり、信頼のおける探求としてはまず使いものにならない、ということになります。坂本政道氏が地球の核を訪れたと何度も述べていますが、その地球の核という話も実際は全く別の場所の全然違った物である可能性があります。銀河中心核が丘に見えるくらいですから何でもアリです。

 さて、図1はバルジだという坂本政道氏の話を真に受けるのはそろそろ止めて、図1の小山は一体なんだったのか、それを考えてみます。ごく簡単に言えば、図1の小山は坂本政道氏の内面の核、つまり精神の奥にある基盤をシンボライズしたものだと思えます。自分の内面をのぞき込む作業を一定期間、真摯に続けていると、自分の汚れた面が具体的なイメージとして見えて来るのはよくある話です(例:シュタイナー)。

 最初は汚物や穢れた場所、不気味な姿をした生物、蛇や嫌いな虫、濁った沼といったイメージに頻繁に出会います。そのうち、この不快なイメージは自分自身の内面の汚れだと気づくようになります。長い時間をかけた意識的な努力によって、こういった不快で不気味なイメージから次第に解放され、徐々に爽やかなイメージがあらわれてきます。

 坂本政道氏の見たイメージに即して具体的に言えば「ぬめっとした草」は諸々の欲望の象徴で、ゴミや汚い水溜りは内面の汚れの象徴だと私は解釈しました。

 「ベニヤ板で間仕切りのある汚いトイレ」「3部屋ほどある。壁にはいたずら書きが所狭しとしてある。男性が用を足しているのが見える。何とも汚い場所だ」というイメージは、この本によくでてくる現実世界のある場所の象徴だと思います。著者の深層意識にはそう見えているのでしょう。誹謗中傷と受け取られかねないのでこれ以上詳しくは述べません。勘の良い人ならどこかわかるでしょうし。


 次に坂本政道氏がアンドロメダ銀河(下図:図5 参照)を訪れた時の記録を見てみます。
 
図5 NASA の CALDEX観測衛星の撮影したアンドロメダ星雲

---{
アンドロメダ銀河の探索


 アンドロメダ銀河を探索することにする。しばらくして、地球上の田園風景みたいなのが見えてきた。低いフォーカス・レベルのほうに落ちてしまった可能性があるので、必死にアンドロメダを見ようとするが、まったく見えない。あきらめて見えるがままにする。
 突然、気がつくと本屋の中にいる。東京のどこの街角にでもあるようなちょっと大きめの本屋だ。客がたくさんいて本を見ている。ガラスを通して道行く人が見える。晩秋の夕日がガラスを通して店内へ差し込んでくる。外へ出る。道路工事のような、ビルの建築現場のような景色。これって地球の東京の様子じゃないか。そういぶかっていると、
「ここはアンドロメダ銀河内の地球の双子惑星と呼ばれているところです。」
とガイドが言った。にわかに信じがたいので、何か違いがないか、きょろきょろしてみた。
 ビルの上にある看板の字が目に付いた。アルファベットの C のようにも見えたが、一瞬だったのでうまく把握できなかった。場面が変わり、農地にいる。隣にたっていた人から皿をもらった。丸い皿には何かの食べ物が載っていた。何か違いはないかのかと思っていると、空が白いと言われた。確かに空は一面に白く、青空ではなかった。ただ東京でも曇りの日はそうだ。 C1帰還。

 体験は非常にはっきりしていて、また見えた映像も鮮明だった。今回のプログラムでの一連の体験から判断するにこの体験は、何かの間違いで東京へ行ってしまったものとは考えにくい。
---} 169〜170ページ


図6 『「臨死体験」を超える 死後体験 U』 の171ページの著者のスケッチ

 坂本政道氏は「アンドロメダ銀河内の地球の双子惑星」を訪れたとナイーブに信じているようですが、はたして何人の読者が坂本政道氏のこの見解についていけるでしょうか。

町並みや書店の内部、人々の服装や髪型まで現時点の我々とうり二つの世界がアンドロメダ星雲のどこかに実在する…このガイドの戯言を信じているようでは著者のいう
---{
科学的に存在が証明されたことしか信じない人は真の科学者ではない。真の科学者とは未知の分野に果敢に取り組み、論理的思考で真理を解明してゆく人を言う。
---} 16ページ
も空しく響きます。これはある種の幻覚(白昼夢の類)です。ガイドと呼ばれる存在(そういった存在を否定する人も多いでしょうが、仮にいたとして)にいいように弄ばれている形跡も伺えます。

 その呼び名がガイドであろうが、守護霊であろうが、基本的にそういった存在に頼ったり、彼らの言うことを鵜呑みにするのは大きな間違いだと私は考えています。コックリさんのお告げを真に受ける中学生とかわりがありません。そういった存在がかたる薄っぺらな「愛」を真に受けるのは疑問です。

 坂本政道氏は銀河系と対話したとも述べています。
---{
テープの指示が銀河系のコアへ行くように言う。
しばらく移動。
大きな白い渦が見えてきた。白い線が幾重にも中央の巨大な穴のまわりに渦を作っている。回転している。
テープが自分へのメッセージをもらうように、また自分がどう役立てるのか聞くようにと指示する。
しばらく待つ。女性の声が聞こえる。
「銀河は生命エネルギー、愛のエネルギーの表出で、そのエネルギーをまわりに放出しています。あなたも同じです。このエネルギーをまわりに放出してください。」
銀河がそう言ったのだ。
「どうもありがとう」
驚きと感激でそうとだけ言った。
---} 191〜192ページ

 これも典型的な妄想でしょう。銀河との対話の内容が、ニューエイジ系の人々が思いつきそうな内容から一歩もはみ出していません。



 次に「宇宙との一体化」について見てみます。
---{
 その段階まで行くといわゆる「ワンネス」体験、「宇宙との一体化」体験をそるのだろうか。そのフォーカス・レベルは49のさらに上ということなのだろうか。この辺についてはモンロー研での今後の探求に期待したい。
---} 168ページ

 これによると、モンロー研究所の方法ではまだ「ワンネス」体験、「宇宙との一体化」体験ができていないようです。しかし過去、宇宙との一体化(いわゆる梵我一如のような神秘体験)を経験した人々はたくさんいました。永続しない一時的な体験としてならば、かなり多くの人々が体験していると私は考えています。それらの人々の記録を見ても現実の銀河や超銀河を訪れたとか、銀河と対話したという話は(銀河や超銀河の映像や話題が一般化したごく最近の例を除いて)ありません。

 坂本政道氏はヘミシンクを盛んに推奨しています。
---{
 まあつべこべ言わずヘミシンクを一回聞いてみなさい。そうすりゃわかるよ、という立場である。ま、一回じゃわからないどうから、実際は20回ぐらいは聞いてもらいたいが。
---} 12ページ

 しかし、実際は体外離脱にはヘミシンクはほとんど効果がありません。ヘミシンクの開発者であり、モンロー研究所の創設者であもあるロバート・A・モンローその人が著書( "Far Journeys" )でつぎのように明確に否定しています。

質問:あなたの作成した音楽カセットテープの音や他のカセットの音で
体外離脱状態になれますか?

答え:(体外離脱状態に)なれたとしても、極めてまれです。

 原文は次の通りです。
---{
QUESTION: Will your sounds on your audio cassettes or
those on any other sound cassette induce the OOB state?

It would be very rare if at all. Certain other factors must
be approached first -- such as the fear barrier, reappraisal
of belief systems, among others. It is the extreme exception
that balance has been reached sufficiently to move that
easily into the OOB state.
---} "Far Journeys" Robert A. Monroe, Broadway Books, 268 page

 こういったことを考えると、坂本政道氏は精神世界で悪い意味で「ビジネス」をしようとしているのではないかと私には思えてきます。


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