【RIKI】's 読書日記

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◆2004/09/01(水)読了。「ライオンハート」恩田 陸(新潮文庫) - 04/09/02 17:23:47

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◆2004/09/01(水)読了。「ライオンハート」恩田 陸(新潮文庫)
 積読だったのを読み切りました。久しぶりの恩田陸。
 ◇まだ会えぬその日から、繰り返し見る夢で出会い、そして会える日を待ちわびて…。一瞬の逢瀬の後がそれを失ってしまった喪失感だったとしても。そしていくつもの人生で彼と彼女は出会う。
 恩田陸らしい連作短編。
 ロンドン大教授エドワード・ネイサンを訪れた大学職員は、彼が失踪していたのを知る。彼の失踪の手がかりは”from E. to E. with love”と書かれた白いハンカチと、便箋に書かれた「ライオンハート」の文字だけであった。そして物語は過去を縦横に飛び、エドワードとエリザベスの逢瀬を織り紡いでいく。
 恩田陸はこの作品をメロドラマと呼び、今の時代にメロドラマを描くにはSFしかないという事で書かれた模様。しかしSFとしてはどうなんでしょう?というのが自分の感想です。いや恩田陸らしいといえばらしいのですが。もちろんSFには「たんぽぽ娘」(ロバート・F・ヤング)とか「クロノスジョウンターの伝説」(梶尾真治)とか「ここがウィネトカなら君はジュディ」(F.M.バズビイ:「タイムトラベラー」収録)とかあるんですが。ウィネトカ・ジュディは設定は違うけど非常に近い作品かと。あと児童文学ですが、「トムは真夜中の庭で」(フィリパ・ピアス)てのもあったな。過去にどっかで出会っていた物語のような印象を受けるのは、それらの作品群があるからかなぁ。
 しかしこの「ライオンハート」、SF的にはクイサッツハデラッハ(「砂の惑星」)やエマノン(「おもいでエマノン」等)の様な転生記憶がないのに恋焦がれるあたり、それって夢とホルモンによる洗脳なんじゃないのと思ってしまったり。むしろ脳裏に浮かぶのは「地獄とは神の不在なり」(テッド・チャン:「あなたの人生の物語」収録)だったりしてしまう俺はダメですか?^^;
 それも、なぜ(現世の)二人が好きあうのかについて書き込まれていない事から来るのだとは思うのですが。
 さらに、自分的にはもっと長い歴史内で、たくさんのエピソードを交差して紡いで行くのかと思いきや、割とシンプルなそして思ったよりも短い歴史で閉じてしまっているなぁ、と思ってしまったりして。
 あまりそこら辺の事は考えないようにシフトして楽しむ作品ではあるかと。
 恩田陸の持ち味は、ミステリ然としたトリックやSF然としたセンス・オブ・ワンダーではなく、もっと文学よりのもわわわ〜んとした懐かしさにも似た雰囲気にあるのだと、自分は思ってます。
 なのでSF的なキレ味を求めず、かつ恩田陸ファンであるならば、読んでおいていいのではないかと。
 こういった系統の「時間と情愛」モノをさらに読みたい方には、「トムは真夜中の庭で」([amazon])と、よりSF向きでしたら「クロノスジョウンターの伝説」([amazon])をお薦めします。
 あ、「クロノスジョウンターの伝説」「おもいでエマノン」「時尼に関する覚え書」「美亜へ贈る真珠」等、日本の切ない時間モノSFといえば梶尾真治なのですが、本書解説は、そのご当人でした。(最近では一般的には「黄泉がえり」な人という事になるんでしょうな)。微妙に「ライオンハート」以外の事に言葉を費やしているあたりに思いをくみ取ったりして…(笑)。


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「ライオンハート」

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「ライオンハート」


◆2004/07/29(木)読了。「マルドゥック・スクランブル―The First Compression 圧縮」冲方 丁(早川文庫JA721) - 04/08/02 19:28:38

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◆2004/07/29(木)読了。「マルドゥック・スクランブル―The First Compression 圧縮」冲方 丁(早川文庫JA721)
 年末位から読み始めて、途中で投げてしまいました。^^; 三部作まとめて買ってあるのでとりあえず一部目は頑張って読了。2003年第24回日本SF大賞受賞。
 ◇生まれてから身体を売る事しか生きるすべを知らない少女が、猟奇的なパトロンの手によって焼き殺される…寸前にかろうじて救われる。彼女を再生したのは超法規的措置:マルドゥック・スクランブル。少女パロットは戦時下に開発された措置により周囲の電磁的な力を操れる能力を手に入れる。万能の兵器でもある金色の毛皮を持つ知性あるネズミ、ウフコックをパートナーとし、彼女は新しい生活に向かうが、生きている事を知られ、彼女の口を封じる為に刺客が襲いかかる…。
 んー、娼婦である少女、知能あるしゃべる小動物と変身、フェティッシュ的ガジェット提示と、ソレな層には受ける要素てんこ盛りです。自分は、牧野修でお腹がいっぱい目なのでそれほど食指も動かず。
 物語としては安定して見せてくれます。パロットの成長ストーリーと世界提示とバックグラウンドの謎で引っ張ります。
 ただやはりキャラクタとかに萌える人向けなのかなぁ。何か新しい考え方の提示はなく、先を読ませようと言う牽引力には自分としては劣っていました。 ただライトノベルとしておアレンジの仕方は巧いかと。
 またウフコックの万能感(知性のあるまま【ネズミ状から武器やボディスーツに変形】など)にも、俺はおいけてぼり感をくらいましたが。(そういえば弾丸はウフコックの一部なんだっけ?)。うーん、T2がアリならこちらもOKなんでしょうか。映像だとそれだけで現実感がありますが、小説ならそれらしい蘊蓄を乗っけて欲しかった。そこが読者に提示している中心ではないというのは十分わかりますが、SFといえどもどっかで納得させてくれと言う読者へのエクスキューズというか敷居の下げる説明が欲しかったり。
 という感じで、好みがあえばかなり楽しめるかもしれませんが、自分としてはちょっときつかったですね。
 けど、あと2巻は読むつもりです。


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「マルドゥック・スクランブル―The First Compression 圧縮」

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「マルドゥック・スクランブル―The First Compression 圧縮」


◆2004/07/23(金)読了。「四季 冬」森博嗣(講談社ノベルス) - 04/07/23 18:37:26

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◆2004/07/23(金)読了。「四季 冬」森博嗣(講談社ノベルス)
 勢いづいたので、続けて読了。真賀田四季四部作の完結編「四季 冬」
 ◇真賀田四季は想起/回想/思索する。完璧な記憶による記憶の再現はリアルタイムの体験に等しく、角度を変え解釈し意味付けを行う。飛躍した思考とランダムな思念により語られる、真賀田四季の時代「冬」とは。
 という事で、最終巻です。
 うーん、評価としては、こういう形の物語形式にならざる得なかったのかな、と。物語として面白いかというと残念ながら「否」でしょうか。
 つながりを示されないエピソードの断片の提示と、飛躍する思考。「事実」と「事実の回想」と「事実の回想の回想」。提示される側には区別がつかない所を巧く利用しています。(そういう意味では過去の作品の叙述トリックな流れはそのままですな)。尤も、物語としては、真賀田四季の天才性を損なわずに如何に真賀田四季を描くかに、逆に縛られているようにも。
 主体的なネタ自体は【さらなるシリーズへのリンク】で、サプライズもあり、楽しめました。
 つまり、ここで示されるのは【「女王の百年密室」】とのリンク。
 「すべF(M&S)シリーズ」「Vシリーズ」に加え、まさかこちらまで。まぁ作者としては、すべて自分の印アースペースから出ている物語ですのでどっかしらで繋がっており、あとは整合性をある程度持たせてやればよいということで、書いてしまいたい物語構造の枠ではあると思います。それ自体を物語にしてしまった「…絶句」(新井素子)然り、「猫目石」「魔境遊撃隊」(栗本薫)然り。
 確かに、【「ウォーカロン」「ミチル」】と出てきた時点で、「おおっ」と「ニヤリ」が同時に訪れましたが。まぁしかしここまでやるとSFになっちゃうんだろうなぁ。基本的には自分はSFプロパーという自己認識があるのですが、「百年密室」系がSFとして面白いかというと…自分としては疑問だったり。
 とりあえずマスクをつけて要約をば。

・クロン技術は久慈昌山が開発。 ・真賀田四季に殺された娘「道流」のクロンである「ミチル」は「女王の百年密室」のサエバミチル。
・久慈昌山の、殺された曾孫は、クジアキラ。
・殺したのは「女王の百年密室」のマノキョーヤ。
あとは解釈ですが、
・「冬」は、真賀田四季の冷凍睡眠の合間の回想/人格のエミュレート

 こうなってしまうと、女性版クイサッツハデラッハ(「砂の惑星」(フランク・ハーバート))ですなぁ。ついでに、冷凍睡眠による寿命延長(女王状態)は「火の鳥」(手塚治虫)で。あと擬似人格でエミュレートとかはグレゴリィ・ベンフォードの未来史とか(まぁこちらはSF的には「ゲイトウェイ」(フレデリックポール)、「新銀河帝国興亡史」(ベンフォード/ブリン/ベア)等列挙にいとまがないですが)。

 とにもかくにも、「すべてがFになる」の初読からはや7年。長い間楽しませてもらったシリーズの一つの終わりであり、感慨深いものがありました。
 今回示される未来図の通り、実は、カーテンコールはまだまだ終わらず、四季の出番は続きそうな予感がしますが。


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「四季 冬」

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「四季 冬」


◆2004/07/22(木)読了。「四季 秋」森博嗣(講談社ノベルス) - 04/07/23 17:18:16

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◆2004/07/22(木)読了。「四季 秋」森博嗣(講談社ノベルス)
 「四季 夏」からずいぶん間が開いてしまいましたが、やっと勉強の方も落ち着いてきたので(中だるみとも言う)、ちょろちょろと溜まった積ん読を消化。
 ◇犀川創平は、西之園萌絵との会話から、あの事件の後の仕組まれた再会の際に真賀田四季から出されたヒントを自分がまだ解いていないと感じる。事件当時に残された証拠から再度、彼女の示した道を読み解こうと試みる。そして、二人はベネチアに飛ぶのだが…
 という事で、とうとうシリーズの物語中で流れていた時間を追い越して、最新の物語となります。
 この巻は、すでにトリックがどうのというミステリではすでにないんですが、読者にとっての牽引力になるのは、まずは「すべてがFになる」の別の解答提示。そしてもう一つのキモは、シリーズ通しての物語の関連性が明示的に提示されている事。
 いちおうネタバレマスクを。

・足りないレゴブロックでは断熱容器を作成。真賀田四季の娘のクローン化が暗示される。
・犀川創平の母親が瀬在丸紅子。父親は当然ながら犀川林。父親はフルネームでは出てこないが。
・保呂草と犀川の旧知。あと保呂草と犀川の妹(儀同世津子)の母親(祖父江七海)との関係が犀川より暗示される。
・エンジェルマヌーバの在処。>保呂草−各務亜樹良
・ロバート・スワニィ博士の死亡
】  と、Vシリーズとの綺麗な人物相関が提示され。シリーズに渡っての伏線は消化(c.f 「赤緑黒白」での考察)。気づいていた人はニヤリとし、気づかなかった人にはサプライズが。
 物語的な進展としては、萌絵が犀川から【指輪をもらう】とか、萌絵が【犀川の母親(つまり瀬在丸紅子)へご挨拶を】しに行く、とか。残念ながら【練無と紫子】は出てこず。国枝桃子助教授は健在。
 「春」「夏」「秋」までで特異なのは、現在の真賀田四季自体は登場しない事。様々な登場人物が彼女と彼女の天才性に思いを巡らせ、彼女自体を浮き彫りにしていく。(まぁこれはこれで上手い手法かと。)
 では、次は「冬」に入ります。


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「四季 秋」

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「四季 秋」


◆2004/01/29(木)読了。「四季 夏」森博嗣(講談社ノベルス) - 04/07/21 19:32:54

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◆2004/01/29(木)読了。「四季 夏」森博嗣(講談社ノベルス)
 続いて、「四季 夏」に入ります。ホテルのバスタブとかでマターリと読んだりしてみた。&初プライベートプールとか体験w。
 ◇「春」で6歳だった真賀田四季は13歳になっていた。そして事件は起こる。「すべてがFになる」で過去のものとして語られるだけだった第一の殺人事件が、真賀田四季の側から語られる。真賀田四季の常人とは離れた思春期の形成とそれを自らメタ的視点で理解しリコンパイルしトレースする彼女の思考の先にあるものとは。彼女が叔父である新藤清二に求めたものと、「すべてがFになる」の舞台となった妃真加島の研究所の建設された理由とは。
 語られる天才性の面白さと言うところではテッド・チャンの名作短編「理解」が浮かぶが、あれは常人が段階を追ってすべてを超越する程の思考進化を俯瞰的に描いた話であるのに対し、こちらは、最初からの天才性が、人間の持つ感情をトレースし、識り、近づくというアプローチになるのか。
 森博嗣の理系的と言われるアプローチだが、その面白さは、差分・異質性が還元されて自分の基準を逆に浮き出させる事にあるような気もします。異質な真賀田四季の思考、然り。犀川創平と西之園萌絵とのちょっと奇異ともとれる会話然り。話は逸れますが、実はさらに読者の中の「理解」と「共有」のプロセスが、「私だけ?(ニヤリ)」といったファンのマーケティングに繋がっていくのかと。
 それはともかくとして、物語のキャッチーさでは「すべてがFになる」が一番面白い思っている人には、本書の構成は(トリック的にはともかく)たまないでしょう。そこで語られたのは二つめの殺人ですが、こちらで語られるのは、一つめの殺人と、その理由なんですから。
 シリーズの縦糸と一冊ごとの横糸が織りなされているのを読むと、ほんとワクワクしますね。尤も本作品としてのミステリ性は低いですが(そこに主眼はないので)。
 関係についてはっきり語られる本書。いままでのシリーズで語られた伏線通り、過去の読書録で考察してある通りではありますが、やっぱりくすぐられます。気づかずに通り過ぎてしまった読者に対してはなかなかのサプライズになっているでしょう。
 さて、物語は、シリーズの時間にいよいよ追いつき、次巻は「四季 秋」となります。


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「四季 夏」
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「四季 夏」


◆2004/01/25(日)読了。「四季 春」森博嗣(講談社ノベルス) - 04/07/21 18:36:52

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◆2004/01/25(日)読了。「四季 春」森博嗣(講談社ノベルス)
 長らく積読だったのを旅行の機会に消化。という事で、「四季」をFourSeasonsHotelにて。結局、行きの機上で読了しちゃいましたが。タイトル通り、主役は、「すべてがFになる」のシリーズ当初から天才性を見せつけて多くの読者の心に残る事になった、真賀田四季、彼女の少女時代の物語となる。
 ◇幼くして、真賀田四季のその天才性は周囲を凌駕し、彼女を、周囲と隔てていた。彼女は何に興味を示し、何に価値を見出し、どう行動したか。研究者である両親、彼女の世話係の大学院生、そして利益の匂いに群がる大人たち。そんな社会と大人たちを冷静に観察しつつ常に彼女と共にいる「僕」…。
 という事で、いわゆるS&MシリーズとVシリーズとに自身の登場は幽かながらその登場人物たちに絶大な影響を与えてきた(またはいくつかの節目の出来事をコントロールしていた)、そして読者にはシリーズに渡ったミッシングリンクを繋ぐ人物であった、真賀田四季を主役とする、四部作の開幕。
 まずは最初の巻「春」。真賀田四季の特異な幼年期が語られます。そこで、もう一つのシリーズの登場人物とのリンクが示され、さらに前シリーズのラストで提示された「僕」の正体も明かされます。
 事件としてはミステリという程の事もなく。ミステリ小説としては、森の得意の叙述トリックを織り込ませ。要は【「僕」とは真賀田四季が作った人格】だったという事で。
 期待値ほどの濃さではなかったですが(特にミステリ的部分)、かろうじて叙述トリック部分がミステリ性を救っています。
 けれども、これは実はまだプロローグ。
 続いて「夏」行きます。


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「四季 春」
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「四季 春」


◆2003/11/25(火)読了。「ビートのディシプリン SIDE2 (Fracture〉」上遠野 浩平(電撃文庫 0822) - 03/12/08 19:08:35

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◆2003/11/25(火)読了。「ビートのディシプリン SIDE2 (Fracture〉」上遠野 浩平(電撃文庫 0822)
 ずいぶんと読みきるのに掛かってしまった。約2ヶ月。まぁ私生活も色々とあって忙しかったせいでもあるんですが。でも続き物なのにあまり訴求力がなかったのも確か。
 ◇統和機構からの刺客バーゲン・ワーゲンからの攻撃の中、ピート・ビートは過去に思いを馳せていた。ザ・ミンサーとモ・マーダーとの出会い、そしてザ・ミンサーの選択…。ダイヤモンズからの助っ人ジィドとの行動により、危機を逃れたビートだったが、さらなる影が迫っていた。
 という事で、なんとか読了。こちらは外伝的位置づけのはずだが、むしろ、ブギーポップシリーズの集大成となってます。次から次へ出てくる過去のMPLSは、俺は既に思い出せず。説明なく過去の経緯でいろいろと人物相関があるので、流し読み読者にはだんだん読むのが厳しくなってるなぁ。そもそもこの外伝自体の出版間隔が、SIDE1を読んでからSIDE2まで一年半が経ってますし、記憶が衰えてきている俺にはキツいかも。
 今回はイナズマがちょっと登場。今後に絡むと思われます。そして出てこない(から外伝なんだ)と思われた【ブギー】も登場。MPLSもたくさん出てくると、すごい感がなくなってきます。まさにバーゲン状態だったバーゲン・ワーゲンとか(笑)
 ま、とりあえずビートと統和機構の追っている、このカーメンの役割と、ビートの役割、そしてブギー世界での近いと思われる変革が何かが分かるまでは、読み続けようかと思ってます。


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「ビートのディシプリン SIDE2 (Fracture〉」


◆2003/12/02(火)読了。「魔法の国ザンス15 ゴブリン娘と魔法の杖」ピアズ・アンソニィ(ハヤカワ文庫FT347) - 03/12/03 20:08:02

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◆2003/12/02(火)読了。「魔法の国ザンス15 ゴブリン娘と魔法の杖」ピアズ・アンソニィ(ハヤカワ文庫FT347)
 約二年ぶりのシリーズ最新刊邦訳。自分はこの所、ずいぶん読書が進まなかったのですが、こちらは一週間もせずに読了。世界に入り込みやすいのはシリーズものの良さか。リーダビリティも高い。原書タイトルは"The Color of Her Panties"だが、邦題はこうしましたか。アメリカでは買う人は大変だったのではないかと(笑)。
 ◇ゴブリン族の首長の娘グウェンドリンは、父である首長が死んだ事に伴う首長継承の障害を克服するために情報の魔法使いハンフリーの城を目指す。同行するのは、翼あるセントール、チェと、ザンスに迷い込んだ異世界のエルフ、ジェニーとその飼い猫で、求めるものまでの道筋が分かる(但し帰り道は分からない)という魔法の力を持つサミー。一方、それぞれの問題を抱えた、女人魚メラ、女人食い鬼のオクラと、孤児のアイダもそれぞれの問題の解決を図るためにハンフリーの城を目指していた。さらにそれにちょっかいをかける女悪魔のメトリアが加わる。グウェンドリンは接眼レンズを得て首長候補に名乗りを上げるが、性悪な異母弟ゴブルも名乗りを上げたため、継承権を賭けた勝負となる。グウェンドリンは、ゴブルの策略のために名もなき城のロック鳥の巣にある卵を持ち帰らねばならなくなる。メラのチームは、その特殊な問題性から三人それぞれがハンフリーに回答を拒否され、一向はナーガ族の王女ナーダの元に向かう…
 【グウェンドリンの一行は、なんとかロック鳥の巣にたどり着くが、そこでロック鳥に襲われてしまう。王女ナーダから紹介されたその兄ナルドの元に向かったメラの一行はシムルグに会い、グウェンドリンの一行を助ける事になる。辛くも継承権を賭けた勝負はドローとなり、第二回戦としてそれぞれの代表が決闘を行うこととなる。ジェニーを主要人物の座から引き落としたいオクラではあったが、持ち前の真っ直ぐさから代表に名乗りを挙げ、キスという意外な方法で戦闘に勝利する。そこへナルドが到着し、三人それぞれに彼らの問題の解決を与える。メラには王子というふさわしい結婚相手としての自分を、オクラには利他的な行為からの主要人物への昇格の報告を、そしてアイダには、彼女の(それを知らないものには)彼女が実現すると思ったアイディアを実現する魔法使い級の魔法の力の存在と彼女の王女という(そしてアイビィ王女の双生児であるという)運命を。
 ただ、シリーズ当初に比べて、一本の大問題の解決ではなく、まさにRPGゲームの細かい探索の積み重ねのようなプロットなっており、それが物語自体に小粒な感を与えています。そしてシリーズに渡る謎が一気に解決するのではなく、一巻に付き少しづつ解かれていくというのも、大きなカタルシスが得られない要因となっているだろう。例えば、この巻で解決されるゴブリンの首長問題は2巻前の13巻「セントールの選択」からの続きとなっている。また原書タイトルによる”彼女のパンツの色”とは、前巻でハンフリーが答えられなかった問いの回答となっている。
 けれどもまぁこれが長く続くシリーズモノ(で、この先も出続けるという)の安定感であるとも言えるのかな。(あまり嬉しくはないが)。ただしアメリカでは毎年刊行だが、日本では邦訳は2年ぶりや3年ぶりだったりするので、こちらの読者のストレスは高い。ちなみにこの15巻の原書の発行年は1992年。約10年遅れですね。
 しかし今回突然の新登場のアイダですが、重要なポジションに付くことになりますが、今後のからみがあるんでしょうか? いきなり魔法の力にも制限をかけられてしまっておりますが…。(まぁこうしないと収拾付かなくなるわな)。 あと、シリーズなのに過去の主役級人物の現在とかが出てこないのも物足りません。シリーズの(伏線以外の)連続性に欠けるという所か。「けれどもそれはまた別の物語」(by「果てしない物語」)という事で、今後別の話があるからなのかもしれませんが。さらに古株では出てこなくなったビンクとかアイリスとかトレントはどうしてるんでしょうか? もう孫が居ますが…。
 あと、今回の解説の谷山浩子。この駄文ぶり、なんとかならなかったのでしょうか? 最初の3巻までしてか読んでないと公言とか(まぁ最初の三巻が当初の三部作構造で最も完成度が高かったのではありますが。←と、こう書くならまだしも)、メトリアの化けたウォウ・ビタイドへの意味のわからない傾倒の公言とか…。訳者・山田順子の「訳者のあとがき」の方が全然良かったかも。ついでに次巻の邦訳予定も出してください。


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「魔法の国ザンス15 ゴブリン娘と魔法の杖」


◆2003/09/10(水)読了。「イリヤの空、UFOの夏 その4」秋山 瑞人(電撃文庫0823) - 03/09/19 19:14:10

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◆2003/09/10(水)読了。「イリヤの空、UFOの夏 その4」秋山 瑞人(電撃文庫0823)
 ほぼ二日で読了。ほぼ一年ぶりでやっとこさ出た最終刊ですね。あまりに待たせるので俺は間違えて3巻2回買っちゃってました^^; 
 ◇浅羽と伊里谷の逃避行が始まる。全てを捨ててでも守りたい彼女のためという意気込みも、疲労と、子供である事の限界により、徐々に浅羽を蝕んでいく。見えない追っ手に怯え、廃校となった校舎で過ごす二人だったが、そこに浮浪者の様な男が、同じような目的で校舎に忍び込んでくる。自分より「分かってる」大人の存在に、浅羽は心を許すのだったが、男にもそれなりの理由があって流浪となっていたのだった。別の道を選ぶ互いは、しかし傷つけることなく離れることは出来なかった。浅羽は様々なプレッシャーの中、伊里谷に言ってはいけない事を言ってしまう。そして伊里谷の精神はそれに持たなかった…。
 【祖母の家への避難と、組織の囲い込み。すでに浅羽はそこから逃れる気力はなかった。そして浅羽に密かにリークされた人類の最終決戦の日が訪れたのだが…。けれどもそれはまだ終わりではなく、最終決戦を前にしぶる伊里谷を説得するために、浅羽は組織に依頼を受ける。国外にあるその島の基地の一角で、バリケードを築き立て篭もる伊里谷に浅羽は告げる。全人類が死んだって、伊里谷が死ぬよりはいいんだ。自分だけは伊里谷の味方だ、と。全てに納得して、そして伊里谷は浅羽だけを守るために戦闘機に乗り込む…。】  いやぁ、粗筋を書いていたら涙目に。話の流れは予想通りではあるが、それを読ませる作者・秋山瑞人の筆力はたいしたもの。途中、風呂敷をまとめられないかとメタ的な視点ではある意味ハラハラしましたが^^; まぁ欲を言えば、もっともっと泣かせて欲しいってのはあったりするんだけど、それは読者の勝手な要求になってしまうのかな?
 ボーイ・ミーツ・ガールのストーリには不要だからか語られないバックグラウンドも今回明かされ(まぁ、どこまで本当だかという話はあるのだが)、物語的にも綺麗に収束します。
 ”愚かな人類”と、まだ若い故にイキがり、それ故の限界と希望を持つ”少年”、そしてそれをも利用する汚い、そして汚さを意識してもそうせざる得ない”大人”が、伊里谷という触媒を核に織り成す物語は、愛しくも、痛くも、切なくも、ここに終末を迎える。まさに人間としての生が、喜びと悲しみとで織り成されているのと同じように。


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「イリヤの空、UFOの夏 その4」


◆2003/08/26(火)読了。「内宇宙への旅」 倉阪 鬼一郎(徳間デュアル文庫) - 03/08/28 18:26:36

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◆2003/08/26(火)読了。「内宇宙への旅」 倉阪 鬼一郎(徳間デュアル文庫)
 マイファースト倉阪鬼一郎。途中他の本を読んだりして、たらたらと読了。
 ◇ホラー作家の倉阪鬼一郎は、黒彩社という無名の出版社から破格の値段で作品を依頼され執筆にかかる。その注文とは「読者に意識の変容を迫り、作者の内部の空洞が読者に憑依するような」作品である事だった。編集者の宇野あずさから、倉阪の体験からというヒントを貰い、幼年期の記憶を辿るのだが、小学生時代の記憶が実感を伴わない記録の認識であった事に気付く。取材をかねて倉阪は実家へと帰省して見たが…
 この作品の価値は【ページ四隅の中の三隅に埋め込まれた「宇」「宙」「人」という】サプライズのみだろう。他はまぁありがちな物語。
 まぁ良く言えば定番的な話ではあるので、そういう定石に乗っかった話をどのくらい面白いと思うか?という所に依るのかもしれない。もともとがホラー作家である事でもあるし(この本もホラーなのだろうが)、センス・オヴ・ワンダーを訴求力とするSFの好きな自分としては、ホラーは物語が固定的な印象があるので。
 全体の評価としては、その上で、当物語のサプライズを付加してみてどの様に受け取るかというところでしょう。確かにスゴイorよくがんばったとは思いますが、どちらかというとそれは物語の面白さではないからね。高橋克彦というよりもサイコ的な、読後感としての気味悪さが残ります。もしかしたら、それを作者は狙っているのかもしれませんが。


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「内宇宙への旅」


◆2003/08/04(月)読了。「ドゥームズデイ・ブック (上・下)」コニー・ウィリス(ハヤカワ文庫SF1437、1438) - 03/08/06 20:03:39

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◆2003/08/04(月)読了。「ドゥームズデイ・ブック (上・下)」コニー・ウィリス(ハヤカワ文庫SF1437、1438)
 「航路」のコニー・ウィリスの、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞トリプル受賞作。「航路」の評価を受けてか、タイミング良く文庫化です。面白くて割りと一気読みに近かった。
 ◇限定的なタイムトラベルが実現された2054年。学術的研究のために史学部学生のキヴリンは、ペストの流行する30年ほど前の14世紀のオックスフォードに降下しようとしていた。本来、ペストの大流行でヨーロッパの全人口の半分が死亡した世紀の為、危険度10度であった14世紀が、学部長不在の期間に代行している副学部長ギルクリストの恣意的な判断によって取り下げられたため、許可が出たのだった。指導教官のダンワージー教授は様々な物事を心配するが、古典英語、当時の日常作業で必要となるだろうもろもろの出来事の習得、また免疫力強化からペストの予防注射まで受けてきたキヴリンはそれを受け流して、降下するが…。
 これ以上の予備知識はなしに読み進めて欲しい所。そこから、【T型ヘルパー細胞の強化を受けたはずのキヴリンの病気と、現地語の想像を越す語彙の変容の中の混乱。徐々に症状が治まり、周りを認識して行くキヴリン。一方2054年のオックスフォードでは致死的なインフルエンザの流行が始まっており、キヴリンを送り出した技師バードリは倒れてしまい、時間ネットの計算をフィックスさせた結果問題ないはずだったのだが、彼はうわごとの様になにかがおかしいと呟くのだった。病気の拡大防止のために隔離閉鎖されたオックスフォードの中、ダンワージーはキヴリンを心配し、様々な方法で彼女の安否を確認しようとするのだが…】と話が進みます。どっちにどうころぶか分からないところが牽引力となり、ページを繰る手が止まりません。
 話としては一流ですね。メインの13世紀と21世紀を切り替えつつ、サブキャラクターとくすぐり的なプロットが、見事に構成され、くすぐられながらも、物語に身をゆだねると、下巻1/3あたりでジェットコースターよろしく、一気に読者は牽引されて行きます。
 そして、やっぱりの【降下年代の誤差とペストの蔓延】に対処するキヴリン。ラストまでは涙無くしては読めません。(まぁ実際に泣くかどうかは別ですが^^;)。
 「航路」の構成と比べられることが多いようですが、確かに、キャラクラー構成(キヴリンと某、ダンワージーと某、ギルクリストと某、等等すぐに対応が思い浮かびます)とサブプロットの絡め方は相似しています。まぁ「航路」の方が後に書かれただけあって、物語の溜めや収束の仕方は洗練されていたかな。あと「ドゥームズデイ・ブック」の【ラストの余韻は「ゆみよしさん朝だよ」(by「ダンス・ダンス・ダンス」村上春樹)的に終わるのではなくて、「航路」の様にエピローグをつけて欲しいなぁ】とは思いましたが。ただし、それはあくまで比較であって、本書が一流の物語であると言う事はゆるがない所でありましょう。
 SF、SFしているかというと、そうではなく、用意された(SF的)ガジェットはあくまで側面や設定として、その中で、必死で精一杯物事に当たる人々を描いていると言う点で、普通小説に近いです。それもまた「航路」を思い出せます。日本人で言うなら宮部みゆきでしょうか。
 疫病の発生【@現代】では、SARSが思い浮かびました。あの時の「ヤバいぞ」という感覚が身近だったせいで、本書での設定が、そんな大げさな…という感じではなくとらえられたのは、ある意味皮肉ではありますが。
 キャラクタイメージ的には、芯のしっかりしたヒロインとそれを心配する老教授てイメージ(特にラストの方)で宮崎駿のアニメキャラ的な造形が想像されます。もしアニメ化をやってくれたらかなりしっくりと来そうな気がしますが。
 話がそれましたが、とにもかくにも「航路」がお気に召した方にはお薦めです。というかそちらが未読だろうと、ある程度SF的設定が許容出来る読者なら(現実の延長でないと小説を読めない人は居るものなので)、是非、このヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞をトリプル受賞した「ドゥームズデイ・ブック」を読んでみて下さい。


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「ドゥームズデイ・ブック (上)」
「ドゥームズデイ・ブック (下)」


◆2003/04/23(水)読了。「ジーリー・クロニクル1 プランク・ゼロ」,スティーブン・バクスター(早川SF文庫) - 03/07/25 19:45:10

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◆2003/04/23(水)読了。「ジーリー・クロニクル1 プランク・ゼロ」スティーブン・バクスター(早川SF文庫)
◆2003/05/19(月)読了。「ジーリー・クロニクル2 真空ダイヤグラム」スティーブン・バクスター(早川SF文庫)  バクスターの短編集。というか、長編「時間的無限大」「フラックス」「虚空のリング」「天の筏」で発表された未来史を俯瞰的につないでいく感じの連作短編て事になるのかな。読んでから時間も経ってしまったので、感想は簡単に。
 物語の中で語られる時間軸AD3千年代〜4百万年までのスケールは壮大。時代の浅い最初の頃の短編はあまり密接には未来史にはからまないが、それはそれでハードSF短編として楽しめる。そして二回の異星人による人類支配の歴史の転換となる短編も有り。しかし、この本のキモは、今まで明かされなかった超種族ジーリーの謎が明かされることだろう。
 ジーリーの技術には足元にも及ばなかった人類が、いくつもの汎人類的な危機を乗り越えて、銀河系の中でも屈指の勢力となった時に<全一>の艦隊をジーリーに差し向ける。そしてジーリーが建設した<リング>の意味が人類に判明するのだが、それは同時に【ジーリーすらも人類と同じ軸上にいると思わせる、全バリオン生命の敵、暗黒物質に依拠する生命体フォティーノ・バードの存在】に気付くと言う事でもあった…。
 そして時代は飛び、衰退して行く人類の中で、特殊な閉じた環境にいるグループが発見した恒星船が見せたものとは…。
 最後の方の連作短編は「時間外世界」(ニーヴン)ぽいですね。しかしあくまで冷徹で人類を突き放したところから見ているのがバクスター。人類の希望は厳しいものだった…。
 ニーヴンとバクスターは似ていると思うんですが、ニーヴンのノウンスペースという世界に満ちたワクワク感――または躁的宇宙感――がないんですよねぇ。あと、提示された「物語」のその先が無いというか。それでその後どうなるの?という所まで話が行かずに終わっている様な物足りなさを、自分は持ちました。確かに、終わらないのが「歴史」ではあるのですけれども。まぁ、面白くないニーヴンがバクスターだと言ったお方もいらっしゃいましたが…(笑)。
 あと、オーバーテクノロジーをあちこちの遺跡に残している超種族の存在としては<ゲイトウェイ>シリーズ(フレデリック・ポール)なんかも思い浮かびます。というか構造としては結構似ていると思うんですが。^^; そして自分的にはゲイトウェイの方が面白かったかなぁ、とか。
 という訳で、自分的には今一ピンとこず。でもつまらなくはないし、未来史としても、長編に愛着のある人にも、重要なシリーズとなっているので、押さえておくべきでしょう。ほら絶版になっちゃう前に。


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「プランク・ゼロ」
「真空ダイヤグラム」


◆2003/07/19(土)読了。「小鬼の居留地」クリフォード・D・シマック(ハヤカワSF文庫232) - 03/07/24 19:22:29

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◆2003/07/19(土)読了。「小鬼の居留地」クリフォード・D・シマック(ハヤカワSF文庫232)
 絶版につき友人からGET。高校時代になんか読んだ記憶はあるような、ないような。同作者の「超越の儀式」を読んだ時に、そういや「小鬼の居留地」も読みたいなぁと思ったのでした。昔のSFだけあって(初版発行は1977年/原作は1968年)懐かしい香りのする装丁。表紙絵は新井苑子。ハヤカワのオズの魔法使いシリーズの絵で有名です。ちなみに三版以降は天野喜孝の模様。
 ◇ピーター・マックスウェル教授は、故障しないはずの物質転送機の故障で、本来の目標であったクーンスキン星系からはずれ、人類図版には載ってない<透明な星>へと転送されてしまう。やっとの事で地球に帰ってきたと思ったら、本来の自分は予定通りの星へ行き無事に帰国し、帰国一週間後に死んでいたというのだ。地球人類の運命を左右するような取引をマクスウェルは<透明な星>で依頼されてきたのだが…。
 生還したマックスウェルは自分の死亡の知らせを聞いて驚きはするのだが、そこはそれとしてネアンデルタール人と馬鹿騒ぎをしたり、剣歯虎と戯れたり。さらに小鬼や小人族、仙女、バンシーの割拠する事になる未来の地球世界で喧騒に巻き込まれる。
 てな感じでシマック節全開。当然ながら、提示されている殺人の謎等は解決しようとする意気込みも無いまま、なんとなく不思議で、懐かしくもある世界でわいわいがやがやと話は進んで行きます(笑)。結局【マックスウェルを殺したのは人類を差し置いてバンシーから<透明な星>の取引情報を得た車輪人――太古に<透明の星>の住人の使役動物だった――でした】という事なんだけど、謎を提示したくせにほったらかしで進行方向の見えないまま物語が進むので、先を読み進めたいという牽引力には欠けます。
 てか、そんな事をシマックに期待しちゃいけないのでしょう。寧ろそのワイガヤぶりを楽しむというのがシマック読みの正しいスタンスかと。大人になってから読み返す「うる星」みたいなもんですね(但しユーモラスではあるがギャグはなし)。
 厳しく言ってしまうと、いわゆるSF(またはミステリ)としてはどうか?と思います。ただ読後に世界や雰囲気が心の中に残るんですよね。その喧騒が懐かしいという感じで。
 あと、当時の時代性(語句の浸透度の問題)か、ゴブリン、トロル、バンシー等に全部日本訳(小鬼等)つけてあるんですが、今となってはそのままのカタカナの方が分かりやすいかも、と。ファンタジーもずいぶんと浸透と拡散したものだだなぁ。
 (ところで、車輪生物といえば、他のSFでは、<新・知性化戦争>のグゲックとか、あとは石原氏の「ハイウェイ惑星」とか。いずれも別に邪悪ではないですな。まぁ邪悪と一方的に価値を押し付けられているようにも見えたのですが。)
 ちなみに、こういうわいわいがやがや系で自分のベストは「砂の中の扉」(ロジャー・ゼラズニイ)でしょうか。SFだしモラトリアム青春モノだしオーパーツは出てくるしウォンバットとか異星人も出てきます(笑) 隠れた名作。俺的にはすごい好きな作品でした。たぶん絶版なので書店で見かけることがあったら即購入して読んで見てください。


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「小鬼の居留地」


◆2003/07/15(火)読了。「プレシャス・ライアー 近未来SF小説」菅 浩江(カッパ・ノベルス) - 03/07/23 18:59:47

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◆2003/07/15(火)読了。「プレシャス・ライアー 近未来SF小説」菅 浩江(カッパ・ノベルス)
 カッパ・ノベルスからSFなんてめずらしい。と思ったら週刊アスキーに連載(2002.7〜11)されていた為の模様。普段のカッパの読者層に注意を促すためかどうか、タイトルに「近未来SF小説」と銘打ってあります^^; 作家は「メルサスの少年」の菅浩江。
 ◇絵に描いたような公園の芝生の上でたたずむ詳子。ここはVR(仮想現実)世界。コンピュータ研究者の従兄から、ネットの中でなにかオリジナリティのあるものを探し出すという依頼を受けて、従兄のメモにあった最初の場所・VRの公園に来たのだが、それはオリジナリティよりも、寧ろ現実世界を模倣した個性の無い世界であった。詳子は、人間以外の外見を禁止しVR的なものを排除するこの場所に、オリジナリティどころか、だったら現実で良いじゃないと、VRとしての意味自体あるものなのかどうかを自問自答する。そんな彼女の前に、ルイス・キャロルの挿絵の姿そのままのアリスと名乗る少女が現れる…
 同じ作者の、デュアル文庫オリジナルSFアンソロジー「少年の時間」収録の「夜を掛けるドギー」(菅浩江)を思い出したり。後は、まんまサイバーパンクの先駆け「マイクロチップの魔術師」(ヴァーナー・ヴィンジ)とか。連載媒体が週刊アスキーだったというのもうなずけます。
 前半の「見た目論」はなかなか面白い。類型的なシニフィアンにより受け取る側の認識が影響されるとか。ま、そもそも外見てのは、リアル世界でも、社会的な意味を(ネクタイとかジーンズとかね)付与されたものであるし、そこに社会的な主張がのっかるわけで、外見の自由度がはるかに高いVR世界なら尚更。そんな訳でそれを利用したトラップに引っかかったりしつつ、詳子が出会ったモノとは? そしてそれは現実世界をも侵食して行くように見えた。
 てことで後半は3つのアバターを追うことになり、結局【パラレルコンピュータと量子コンピュータとカオスコンピュータ】で、さらに【世界はシミュレーションで、詳子自体もコンピュータのシミュレーション】であったというのは、落としどころとしては割りと陳腐になってしまており、意外性も無いのが、ちと残念。
 プロットとしては、現実/仮想現実の哲学的命題から、順列組み合わせ性でない「オリジナリティ」の天啓、そして将来的な可能性として巧く読者を引っ張っていってくれます。出される謎の解決にとらわれて読み進めるよりもいろいろな思弁を楽しむのが、読み方として正解。といっても小難しい事は無く、物語に驚いたりニヤリと読み進めて行けば気持ちよく読むことが出来ます。
(途中の現実変容とかは「東亰異聞」(小野不由美)ぽくて好きだった)
 尚、3つの正体についての現実的状況については解説に詳しい。前知識なしで読みたい方は解説は読まずに本文から入る事を勧めます。
 しかし、VRは蝕感グローブに眼鏡くらいじゃ難しい気も。重力感とかあるわけだし、神経系の接続にジャックインするようなインターフェースがないと、現実かどうか分からない仮想現実というのは出来ない気がしますね。


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「プレシャス・ライアー 近未来SF小説」


◆2003/07/10(木)読了。「永久帰還装置」神林長平(ソノラマ文庫990) - 03/07/18 20:22:39

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◆2003/07/10(木)読了。「永久帰還装置」神林長平(ソノラマ文庫990)
 うーん、最近の神林はこんな調子なのかな?と思いつつ読了。
 ◇世界を自らの思うように再構築し破壊しつつ世界を渡る犯罪者ボルターを追って、男はある世界に飛び込んだ。けれどもすでにボルターは世界に干渉し、しかもその世界に飛び込んだ刑事フランク・カー自身も干渉されようとしていた。刑事が目覚めた時、刑事自らは火星戦略情報局に拘束された上で、尋問を受ける事になる。刑事は再度の失神の寸前に世界への干渉装置――この世界では脳に埋め込まれたリンガ・フランカー――を自らも使い、味方を作ろうとする。干渉された火星戦略情報局のケイ・ミンは幼い頃肉親をテロで失った過去を持つ女となっていた…。
 という訳で、舞台は火星。刑事は目覚めるととっ捕まってる。ボルターは大統領らしい。てな感じでサスペンス風なんですが、そこは神林長平。目覚めた際の自問自答や、ケイ・ミンへの干渉後、ケイ・ミン自らの己についての考察などで、哲学的命題をうねうねこねくり回します。火星戦略情報局につかまって事態が進まないまま(洞察は進むが)、この本の1/3位まで過ぎてしまったのは、さすがと言うべきなのか?
 んで、まぁまぁ話は破綻無く、またそれなりに、サスペンス&ロマンス&SF設定消化&神林節(認識論)で進みます。ただSF設定は公理系にしてしまっていたので、なんでそうなの?てな答えは得られません。上記要素の中で楽しんでくださいという感じでした。
 物語ラストの方、なんとなく伏線気味だった帰還装置とかボルターが【あっけなくやられてしまい、なんだったの?】とか物語の収束には不満気味。
 この作品にSFとして(または神林長平として)新しいモノがあるかといったら疑問ではありますが、火星・認識・猫・コンピュータネットワーク…と神林ガジェットは満たしているので、そこらへんが好きな人向けになるかなぁ。 まぁ「帝王の殻」とかちょっと思い出しましたが。思い出しただけではありますが。


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「永久帰還装置」


◆2003/07/12(土)読了。「デューンへの道 公家(ハウス) ハルコンネン 3」ブライアン・ハーバート、ケヴィン・J.アンダースン(早川文庫SF1449) - 03/07/14 18:38:39

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◆2003/07/12(土)読了。「デューンへの道 公家(ハウス) ハルコンネン 3」ブライアン・ハーバート、ケヴィン・J.アンダースン(早川文庫SF1449)
 購入後、さくっと読み始めました。1〜2巻を読んでからそんなに経ってはいないので、一気に<デューン>世界に入れました。で、金・土と一気に読了。尚、今回の粗筋は、備忘の為にネタバレ部分を含みます。気になる方は読まないほうが良いです
 ◇さらに10年近くの時が流れ、レトとカイレアの息子は順調に成長していた。けれどもレトにランドスラートの有力家系から婚姻の話が来ていた為、息子の将来を憂うカイレアは、ハルコンネン家が送り込んだ家政婦の口車に乗り、レトを無き物にする計画を進める。飛行船のパレードをターゲットにし、兄ロンバールと息子に他の予定を画策するが、直前に乗り込んでしまい、レトは生き延びたものの、息子は死に、ロンバールは体の半分がバラバラとなり生命維持装置で辛うじて生きているという事態となってしまう。カイレアは自殺し、レトは息子を失ったショックで自失する。レトはトライラックスから、イックスの公子ロンバールと引き換えに息子のゴーラを提供しようと言う誘惑を受けるが、悩んだ末にトライラックスをはねつける。そこで吹っ切れたレトは、スクの医師を呼び、ロンバールのサイボーグ化を依頼する。そんなレトを見ながらベネゲセリットの掟に反してレトに恋してしまったジェシカは、彼を慰め、ベネゲセリットの女子を産めとの特命に背き男子を妊娠する。一方、惑星アラキスに潜んでいたヴェルニウス元伯爵は、トライラックスの支配下に置かれた惑星イックスに潜入し、そこに絶望を見る。自暴自棄となったヴェルニウスは、核兵器を積んだ船で帝国惑星カイテインへの特攻を考えるが、帝国に知られ皇帝直属の軍団サルダウカーによって攻撃を受け死亡する。また一時ヴェルニウスと行動をともにしていたリエト・カインズがアラキスに戻ったのだが、その父、アラキスの緑化を天命としフレーメンをその目標のために帰依させたパードット・カインズが、緑化された洞窟内で落盤のために死亡する。ハルコンネン家の一族であるラッバンは、ハルコンネンの危急の際のために隠されていた膨大なスパイスを住民のために全てつかってしまった実父を、衝動から殺してしまう。さらにラッパンの弟になる赤ん坊を、ハルコンネン家へと連れてくるのだった。そしてトライラックスでは、とうとう合成スパイスが可能となったと、皇帝の従兄弟でアラキスの監視のために遣わされたフェンリングの所に知らせが入った…。
 って、これで三部作中の二部目「公家ハルコンネン(1〜3)」が終わりかよっ!?(笑)。
 「公家アトレイデ」「公家ハルコンネン」「公家コリノ(?)」の真ん中の巻なので、状況的な収束(死亡とかもろもろ)はあるのですが、全ては三部目の「コリノ」への続きとなります。出来事はあるけど、物事が動かないという感じですね。
 出来事的には、とうとう来ました、ジェシカによる男児(後のポウル・アトレイデ)の妊娠。「砂の惑星」ではジェシカの回想として、情熱にとらわれて行ってしまった愚かな行動となっているソレが、物語られた訳です。あと「砂の惑星」の前日談として必要だったエピソードでは、パードット・カインズの死亡があります。(砂の惑星ではすでに死んでいたはずなので)。まぁいざ見てしまうと、そこまでの物語の流れ的に意外性が無いので、エピソードに関しては落穂拾い――というか時系列的には播種?――に終始してしまった感じはしました。
 そして帝国の合成スパイスの開発と言う陰謀により、トライラックスに蹂躙されているイックスを復興すべきヴェルニウス家は、今回で、父死亡+娘死亡+孫死亡+息子半死半生ってことで、もう滅亡寸前です。どうする?イックスのレジスタンスのピルルー^^; てっきり復興の話が来るのかと思っていたのに…。「公家アトレイデ(1〜3)」で広げた風呂敷が腰砕けになってしまった感がありますね。ただ、今後サイボーグ化した(というより義手義足化状態な感じですが)ロンバールと、もう駄目ぽ的ピルルーのお家再興の行動はどうなるのか?て所で。
 あとACは繰り返すというか、父ポウルスに続いて、息子レトも同じように妻に裏切られます。そして将来的にはカイレアに続いてジェシカとも冷めた夫婦関係になってしまうのかと考えると…^^; まぁ大きな権力の中枢付近にいる人々はパワーゲームに翻弄されるという事なのでしょう。「大奥」てな感じで。皇帝みたいに一杯妾妃をとって子沢山じゃないと、かなりリスクが高いんじゃないですねぇ。まぁそれが元で御家争いが生まれてしまう可能性があるので、一長一短ではありますが。
 今後の展開としては、本書ラストで語られたトライラックスの合成メランジとそれのもたらす影響でしょうか。けれども、本編(砂の惑星)では、存在が出てきていないはずなので、また尻つぼみになってしまわないかちょっと懸念が…。
 あと、一部で訳が硬いとか言われているようですが(ちなみに自分的に違和感はありませんでした)、今回の巻末には訳者のあとがきがついていて、訳者の矢野徹氏からエクスキューズが。今まで使っていたエディタがXPに対応しておらず、なんかの機能(忘れた)を使うとフレーズや助詞が抜けまくってて、しかもそれに気付かなかったとの事。編集者がフォローしていたらしいのですが、そこらへん、前述した訳の評価の要因になったのかも。でも<デューン>といったら訳は矢野氏でしたからねぇ。このシリーズ為に復帰したとか(?)。
 てなわけで、待て!「公家 コリノ」


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「デューンへの道 公家(ハウス) ハルコンネン 3」


◆2003/01/31(金)読了。「虚空の逆マトリクス」森 博嗣(講談社ノベルス) - 03/07/04 17:25:32

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◆2003/01/31(金)読了。「虚空の逆マトリクス」森 博嗣(講談社ノベルス)
 なんだかずいぶんと間が空いてしまいました。間には「どーなつ」を読んでいたんですが、俺には合わなかったかも。半分以上読んだんですが、途中で本が見つからなくなってしまったので、別の本に鞍替え。
 こちらは二日で読了。シリーズ合間の短編集の巻となっています。なんかバクスターのSFみたいなタイトルですが(笑) 短編集は内容と感想にこだわるとなかなか読後感想が終わらないので、今回はあとで思い出せる位の読後メモ程度でという事で。
 ◇トロイの木馬…ヴァーチャルリアリティの話。なんかイメージ的には、佐藤マコトが「サトラレ」の前に書いた「箱入り娘」(中篇)の様な感じ。
 ◇赤いドレスのメアリィ…どんな街でも、ちょっと奇異な服装で人のうわさになる名物な人はいると思うのですが、海辺の町のバス停で、毎日何かを待ち続ける赤いドレスの女性の正体とは?。誰も知らない彼女の過去を、バスの待ち合わせで一緒になった老人が語り始める。てか、これはホントに、その女性の過去を語っているだけで、ミステリ的な部分がないような…?^^;
 ◇不良探偵…従兄弟のシンちゃんは僕の書いた探偵小説の主人公と同じ名前なので、自分を探偵だと思っている。僕の知り合いの女の子が死んだときに、そのマンションに乗り込んでしまったシンちゃんは…。シンちゃんの属性ってのがある条件から決められた訳ですが、トリック的な理由から、そう人物造詣されるという流れは個人的にはひっかかるなぁ。作家の売れていく過程は、自分の体験からか?(笑) あと、何で「不良探偵」?
 ◇話好きのタクシードライバ…話し好きのタクシーのあんちゃんにつかまっちゃっう事はままあると思うんですが、それをネタにした一編。名古屋弁で話が進む。宝石泥棒を載せたというドライバーの話に対して、客側のアセりの訳は?【「何度も聞いたから」】。まぁ確かに期待値とはちがうオチでしたが、そこに喜びがあるかというと無いよなぁ…。
 ◇ゲームの国…副題は「リリおばさんの事件簿1」て事で、アナグラムではなく今回は回文です。ミステリネタより回文大会が…。すごいとは思うけど、それ自体にはあまり興味ないなー。
 ◇探偵の孤影…海外モノぽい作風で作ってみました、という感じの一人称探偵モノ。てか要は【「シックス・センス」】なんですが、それがそのままオチになっているので、パクリ状態に。^^; 作品としては味はあるので、もう一捻り加えてオリジナリティを出して欲しかった。 思い込みの強い人間の存在とラストシーンとかは「ジョジョ」の荒木飛呂彦の映像をイメージするといい感じかも。
 ◇いつ入れ替わった?…犀川&萌絵シリーズ。車につまれた誘拐の身代金を警察のマークの中いかにして犯人は盗んでいったか。それをアームチェアデテクトよろしく、二人で語らうわけですが、二人の仲も進展していると言う事で。
 「いつ入れ替わった」以外は、いわゆるミステリとしてフェアなトリックメイン――というかミステリ志向ではなかったような。それは好みかとは思いますが、自分としてはあくまで、本格オリエンテッドであって欲しいなぁ、と。
 予告に依れば、夏に「四季 -The Four Seasons-」」てタイトルの本がでる模様。アノ人?【四季タン…(;´Д`)ハァハァ 】それなりに期待です。

◆2003/06/22(日)読了。「ブギーポップ・スタッカート ジンクス・ショップへようこそ」上遠野 浩平(電撃文庫 0764) - 03/07/04 13:04:55

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◆2003/06/22(日)読了。「ブギーポップ・スタッカート ジンクス・ショップへようこそ」上遠野 浩平(電撃文庫 0764)
 そろそろ読書欲が戻ってきた感じですが、まだ重いのは気力が無いので、リハビリという事で、積読だったブギーポップに入りました。まぁ順当に二日ほどで読了。
 ◇資産家の楢崎不二子がオキシジェンと名乗る男と出会い、彼の特殊な能力を生かそうと「ジンクス」を売る店、ジンクス・ショップを始めた。そこへPMLSを持った4人の人間の運命が絡まる…。
 どうなんだろ?ブギー。そろそろ惰性でシリーズを読んでいるような。^^;
 それなりのプロットとそれなりの面白さだけれども、世界観が伸展しないので新しいセンス・オブ・ワンダーは自分には感じられてなくなってきている気がします。とはいっても、少しずつ明かされているのは…【オキシジェンは統和機構側の人間で、世界の敵となる可能性をつぶしている】とか、それって自動的なアレと同じではという事があったり、【その統和が、後継者として末間を選ん】だりとか。
 今回は、さくさくMLPが出てきたり消えて行ったり。
 あと、不二子はやっぱり商才ないですな。能力依存で大量展開出来ないのに、一枚500円とかじゃ何枚売っても回収できない気がします。しかもオキシジェンが働きまくらないといけないわけだし。
 しかし、いい加減、読み返しなしでこのシリーズを追うのもつらくなってきました。能力者の名前だけでは、どういう個性とどういうエピソードに絡んだのかがわからなくなってきてます。そして時間軸ももう俺には終えません^^;
 まぁそこを埋めるのが楽しみと言えばいいんですが。多分、学生時代にリアルタイムに出ている本なら時間軸線表と人物相関表をつくっていたかなー。


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「ブギーポップ・スタッカート ジンクス・ショップへようこそ」


◆2003/06/28(土)読了。「海賊島事件 The man in pirate's island」上遠野浩平(講談社ノベルス) - 03/07/02 18:31:50

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◆2003/06/28(土)読了。「海賊島事件 The man in pirate's island」上遠野浩平(講談社ノベルス)
 こちらも一気読み。「殺竜事件」「紫骸城事件」に続く、戦士調停士シリーズ(?)の第三弾。「紫骸城事件」では、その前巻の「殺竜事件」とは登場人物が繋がらなかったが、こちらは、「殺竜事件」で謎を解いた、リスカッセ、<風の戦士>ヒースロゥ・クリストフ、戦地調停士EDことエドワース・シーズワークス・マークウィッスルが登場する。
 ◆落日宮で密室殺人事件が起こった。誰も入れない塔上の一室でクリスタル結晶で閉じ込められた夜壬琥姫――この世で最も美しい死体が発見されたのだ。クリスタルの魔術を行える唯一の魔術師スキラスタスは犯行を否認し、未だ誰もその姿を見た事のない海賊王インガ・ムガンドゥ三世の統べる島、海賊島ソキマ・ジェスタルスへ逃げ込んだ。ダイキ帝国は容疑者スキラスタスの身柄の引渡しを要求し、魔道艦隊で海賊島を封鎖した。各国は国家間の微妙なパワーバランスの下で成り立っていた海賊島の状況を見守っており、場合によっては世界大戦の引き金ともなりかねない中、引渡しを拒否する海賊側は、調停士としてリーゼ・レスカッセを指名した。レスカッセは護衛にヒースロゥ・ウリストフを従い海賊島に入島し、EDは落日宮で事件解明に当たるのだったが…。
 ミステリのネタとしては、わりと読める展開(【犯人は架空の恋人キリラーゼに変装した夜壬琥姫であり、スキラスタスを挑発する事でクリスタル魔術を自分の一部に掛けさせ、それを時間引き延ばしの魔術(と増大魔術?)で、自室を密室とした上で、自分自身をクリスタル化した。】)でした。もちろん、戦地調停士候補カシアス・モローを絡ませ、また(その行動上)一人称の視点を入れ替え複雑化してあります。ただ、一点【スキラスタスが(例えキリラーゼという恋敵だったとしても結晶化呪文を対人で掛けるかどうかという】所は(この世界的に罪になるかどうかも含めて)ミステリとしては弱いところかと。けれどもこの巻は、物語のウェイト的には、むしろ海賊王インガ・ムガンドゥ三世登場の回という感じ。
 ページを割いて、海賊島の成り立ち、ムガンドゥ一世から三世までの物語を丁寧に語っていますね。今後、姿を現したムガンドゥ三世の時代が始まり、世界のパワーバランスに影響を与え、そして戦地調停士の配属に絡んで行く事になるかと思われます。
 あと、呪怨砲(だっけか?)は「マップス」(長谷川裕一)生贄砲みたいな? って、<ジャンプドア>の「鞭打たれる星」だと世界を壊しちゃうけど。それをいうなら「銀の三角」(萩尾望都)もか(笑)
 全体的には、さくさくと読みやすい、異世界ファンタジー系ミステリ。前にも書いたような気がしますが<ダーシー卿シリーズ>的な。ファンタジー世界での本格系ミステリは、世界観から来る制約――魔法には何が許されるのか?――が難しい所で、ジャンル的にはなかなか作品が無いのもあり、一年一冊弱ペースではありますが、是非書き続けて行って欲しいと思います。


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「海賊島事件 The man in pirate's island」


◆2002/9/27(金)読了。「イリヤの空、UFOの夏 3」秋山 瑞人(電撃文庫) - 03/07/02 18:31:10

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◆2002/9/27(金)読了。「イリヤの空、UFOの夏 3」秋山 瑞人(電撃文庫)
 タイムリーにも今月の新刊でした。んで早速購入して読了。…て、読了後感想がかなり遅くなってしまったために、3巻を二度買いしちゃって、弱ったりしたので、さくっと感想だけ上げておきます。
 ◇晶穂は非明示的な敵対関係にある伊里野に対し、白黒決着をつけようと、ついに声をかける。無視によって不戦勝となるかと思われたその時、伊里野が返事をし、二人は新聞の記事のために近郊のカフェにパフェを食べに行く事になる。けれどもそこでは決着はつかず、恐るべき量の中華を完食すれば無料と言う「鉄人屋」でそのメニュー――鉄人定食を頼む(「無銭飲食列伝」)。園原基地周辺で謎の大爆発が起こり、事態は緊迫の度を増していく。そして水前寺が暗号メッセージを残して浅羽の前から消えた。一方学校では、かろうじて登校した伊里野は、一夜にして髪が白くなり抜け落ち激しい吐血を薬で止めている状態だった(「水前寺応答せよ前編・後編」)
 少しずつ、ふつーの少年少女の日常に触れ、いくつもの彼ら・彼女らのエピソードを過ごし、まだぎこちない感情を徐々に表に出すようになった伊里野。彼女に、思い切り笑ったり泣いたり出来るようになる時間は残されているのか? 「無銭飲食列伝」での日常ぶりの分だけ、「水前寺応答せよ」の戦争の中で削られていく命が痛い。
 そして、徐々に迫ってくる予感だけの戦争が、この巻で一つの段階を超える。そして機密に近づこうとする水前寺はどうなったのか? 抗いさえも、大人たちの計算の内という不安のぬぐえない中、浅羽もまた少年から男へと決断の一歩を進める。埋め込まれた発信機を自らの力でカッターで抉り出し、伊里野を連れだそうとするのだが…。
 まだ社会的な力のない彼らの若さ・あがき・反発・決意だけではなく、浅羽、伊里野への複雑な思いを抱きつつ、すでに社会の中で選択をし続けている『大人』側の描き方も上手い。
 物語としてはこれからが佳境。あまりに無力な愛の逃避行はどんな結末を描くのか? 痛いながらも続編が待ちどおしい。  


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「イリヤの空、UFOの夏 3」


◆2003/6/30(月)読了。「航路(上・下)」コニー・ウィリス(ソニーマガジンズ) - 03/07/01 18:31:55

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◆2003/6/30(月)読了。「航路(上・下)」コニー・ウィリス(ソニーマガジンズ)
 木曜夜から腰痛で寝込み。スタンディングでダンベルカールとかやったせいか。それで久々に週末は寝て過ごす。ついでに積読を消化。…そして一気に読みきってしまった。正確には日曜に読み始め午前3時までかかりっきり、そして月曜の通勤電車で読了。これは評判どおりの面白さ。自分的には半年内ベスト以上くらいのポジションです。二段組上下巻合わせて840頁超というこのボリュームを考えたら、「ハイペリオン」シリーズ以来のポイントの高さかも。
 ◇認知心理学者のジョアンナは、NDE(臨死体験)の体験談を収集していた。それもNDEから蘇生してすぐの作話の入っていない体験談のために、病院で蘇生する患者から直接インタビューする形で。それは、臨死体験がいったい何を物語るのかを研究するものだった。世間では光に包まれて天使が迎え入れたりあの世の光景と言われていたりするが、ジョアンナはそれは何らかの脳活動の結果として捕らえており、一体NDEとは何かを探求しようとしていた。一方、神経内科医リチャードは、ジテタミンという神経刺激薬が擬似的にNDEを与えられるのを偶然発見し、それを通常のNDEとどう違うか、または同じかを調べるためにジョアンナに研究プロジェクトのための協力を依頼する。同じ病院にはノンフィクション作家で臨死体験の市井の権威であるマンドレイクという人物が、ジョアンナの先を越し患者に誘導的なインタビューをするという、科学的とは言えない方法論で(それは自己欺瞞的な証拠としかならないにもかかわらず)死後の生を実証しようとしており、それは一方でジョアンナの「作話や誘導なし」と言う対象を汚染するものであった。プロジェクトの方はマンドレイクの影響を受けていない被験者を対象としたために、少人数で始まったのだが、さまざまな事情で被験者が離れて行き、このままではプロジェクトの失敗という事になる寸前で、ジョアンナが被験者として自ら名乗り出る。投与を受けたジョアンナはNDEのコア要素を体験するが、そこはどこか知っている世界で、NDEから覚めてもそのリアル感ははっきりと残っていた。それはどこか?ジョアンナはそこにこそNDEの理由があると確信し、手がかりを求めていくのだが…。
 他にも多彩な登場人物たち、例えばER勤務のジョアンナの親友ヴィエル、ウィルス性内膜炎の為小児科で入退院を繰り返すも現実的でニヒルさをわすれない、災害実話収集を趣味とするメイジー、ジョアンナの学生時代の英文学の(今は引退した)教師ブライアリーと、その姪のキット、等等が、アメリカドラマのように見事に描き出されている。
 もう、物語としては最高に巧く作られています。併設の上、増改築されたために複雑化し、知らない場所ではだれも最短ルートを知らないような病院の中、繁忙さで走り回る主人公たち、周りの登場人物たちの現実感と、ジョアンナの求めるNDEの際の場所の秘密に迫るサスペンス性。それは何処?という謎でまず牽引され、次にはそれは何故?で引っ張られます。ここまでくるともうやめられないとめられない。コニー・ウィリス自身はヒューゴー賞・ネビュラ賞を受賞しているれっきとしたSF作家なのだが、こちらは地に足のついた普通小説という所。けれども「世界発見」の訴求力で引っ張るところはやはりSF作家か。(ちなみにラスト近くのジョシュアのイメージに「へびつかい座ホットライン」のリロを思い出したりしましたが)
 そして第3部後半からの衝撃の展開。これってTVドラマですか?ってなノリの。まさか【ジョアンナが死んじゃうとは。それでも「死」に関する話で実際の「死」を提示するってのは、その関連性から言ってアリではある。ページを繰りながら読者の脳裏に去来するのは、やはり「死とは何か?」なのだから。そして残された者たちの、それでも意味のある結果を残し前進しようとする行為に胸を打たれる。】そしてそれはNDEの【タイタニック】の場面の鏡像ともなっている。
 ただ、NDEは【脳が死に物狂いであちこちの接続を試す経過の解釈】という説をについては、これは割りと普通の解釈のような気もしないでもないです。コロンブスの卵と言われればそれまでですが。
 あと、一般的読者に印象を残すミスリード(?)は気になりました。つまりNDEの<その場所>は、【個々人の脳が見せるメタファーであり、人類共通の死後の場所があるわけではない】という事になるはずなのに、あまりそこら辺の【側頭葉刺激の結果のリアル感】という結果について(途中では自分を納得させる箇所として出てきましたが)最終的な結論として語られないとか、死後の生についての否定は無く(これもこれでどちらの証拠も無いのでしょうがないのかもしれないけれども)、説と矛盾するような印象を与え続けるところとか。
 エンターテイメント小説としては、仕方ないところというよりも、作者が技巧によって印象付けした上手さと言ったほうがいいか。物語の途中まではそういう<共通の場所>があるのでは?という展開に引っ張られた自分がいたわけですし。【(だから尚更、説とてして否定しているのに、印象が逆になっている事が気になっているとも言える)】。
 ただ、科学的探究は、この物語のエッセンスや牽引力ではあるが、実際にこの物語が読者に訴えている部分が依るのは、人々のドラマなのだろう。ジュシュアが、メイジーが、リチャードが、ヴィエルが、物語の後にも存在感を心に残す。ひさしぶりにこの厚さを楽しみながら堪能させてもらいました。

 最後、マーク・トウェインの「不思議な少年」より引用させてもらい、締めたいと思います。

▼「僕が君に見せてあげたもの、あれはみんな本当なんだ。神もなければ、宇宙もない。人類もなければ、この地上の生活もない。天国もない。地獄もない。みんな夢―それも奇怪きわまる馬鹿げた夢ばかりなんだ。存在するのはただ君ひとりだけ。しかも、その君というのが、ただ一片の思惟、そして、これまた根無し草の様なはかない思惟、空しい永遠の中をただひとり永劫にさまよい歩く流浪の思惟にすぎないんだよ」  そう言って、彼は消えてしまった。私は呆然と立ちつくしていた。彼の言葉がいかに真実であったか、はじめてしみじみとわかったからである。

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「航路 上」
「航路 下」


」">◆2003/06/28(土)読了。「グイン・サーガ90 恐怖の霧」栗本薫(早川文庫JA723) - 03/07/01 18:31:01

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◆2003/06/28(土)読了。「グイン・サーガ90 恐怖の霧」栗本薫(早川文庫JA723)
 てなわけで週末は家で読書。でさくっとグインの最新刊を読了。
 ◇クリスタルへ向かう、豹頭王グイン率いるケイロニア軍。パロ軍からの表立っての行動はなかったが、魔道による執拗な妨害が行われていた。そして森の中に進軍したケイロニア軍は三分隊ともに濃い霧に覆われてしまう。そこはグインの持つ、魔的存在のみを切るスナフキンの剣で脱出したのだが、それは単なる前振りで、本当の魔道による攻撃はその夜に起こった…。グインがふと気がつくと目の前にシルヴィアが居り、彼のケイロニア不在をなじるのだった。グインがスナフキンの剣で切りつけると、剣の方が消えてしまった…。
 という事で、まだまだクリスタルにはたどり着けません(笑)。今回の件は、今後のシルヴィアとの仲への伏線になっているんだろうなぁ。あと久しぶりの夢魔とグラチーが出てきて、無償の援助を申し出たり。もちろん利己的な理由からですが。パロ側の根本的なケイロニア軍進軍対応となりえない魔道での対応から読み取れる時間稼ぎのその結果は気になるところ。
 ところでスナフキンの剣で、実存するものを切るなって警告は、切ったら剣の方が永遠に消滅かと思っていたのですが、その場から消えるだけなんですか? 再使用可能? なんかかなり都合がよくなっている気がするんですが。あとシルヴィアは実体ではないので消えてもいいような気もしますが…。ところでスナフキンの由来って何でしょう?北欧神話? 俺には「おさびしやーまーよ♪」のスナフキン@むーみん谷しか知らないので^^;)。
 さて、恒例のあとがきですが、今回の主旨は、以下のどれでしょう?(1)90巻までの感慨(2)そんな作品かいている私もなかなかやるじゃん(3)こんなに支持されて、もう某巨大掲示板で叩かれた事は痛くも痒くもありません。
 答え:全部。
 御想像通りですかそうですか
 ちなみに(3)については、二巻続けてなんですが、気にしてなければ書かなければいいのにと思いつつ、いや、気にしているから書くんだよね、と。きっとみんなそう思うでしょう。てか、作者、グイン本編は覚えていても、一巻前のあとがきに何書いたか覚えてないのかも(笑)。
 ちなみに晴れの90巻ですが、タイトルはイマイチですね。B級ホラーみたい。そういや小学校の頃読んだジュブナイルSFで「光る雪の恐怖」ってのがあったっけ(ちなみにこれのオチは【塩をまいてやっつける】だったんだよな(笑))


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「グイン・サーガ90 恐怖の霧」


◆2003/06/14(土)読了。「デューンへの道 公家(ハウス) ハルコンネン 1」ブライアン・ハーバート、ケヴィン・J.アンダースン(早川文庫SF1442)
◆2003/06/16(月)読了。「デューンへの道 公家(ハウス) ハルコンネン 2」ブライアン・ハーバート、ケヴィン・J.アンダースン(早川文庫SF1445)
- 03/06/18 18:31:17

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◆2003/06/14(土)読了。「デューンへの道 公家(ハウス) ハルコンネン 1」ブライアン・ハーバート、ケヴィン・J.アンダースン(早川文庫SF1442)
◆2003/06/16(月)読了。「デューンへの道 公家(ハウス) ハルコンネン 2」ブライアン・ハーバート、ケヴィン・J.アンダースン(早川文庫SF1445)
 グインに1ヶ月もかかるようじゃ俺の読書人生もおしまいに近いのかと思いつつ(実際に読んだ時間は少なかったが)、デューンの新シリーズ<デューンへの道>第二弾がもう二巻まで出たのでそちらに突入。今月中に三巻目が出るからちょうど良いかなと思って。そしたら三日で一冊といいペースで進んでしまいまして、三巻目が出る前に二巻目を読みきってしまいました。すでに次巻が待ち遠しいです。
 ◇アトレイデ家の失地回復裁判から十余年、レトはアトレイデ家の公爵として勤めを果たしていた。アトレイデ家のホームワールドである惑星カラダンには、失われたイックスを治めていたヴェルニウス家の皇子ロンバールと妹のカイレアが、身を寄せていた。レトはアトレイデ家の権力強化のため、正妻はランドスラードの強力家系からと言う信条に縛られていたが、カイレアとの親密度は深まっていった。またロンバールはイックスの復興のために、イックスの反逆者たちへの密かな援助を行っていた。一方、アトレイデ家の宿敵ハルコンネン家の男爵ウラディミールは、前作「公家(ハウス) アトレイデ」でベネゲセリットのアニラルのから受けた病原体によって、かつては誇った肉体が醜く膨れ上がっていっていた。スニの医師からこれがベネゲセリットの手になるものと知ったヴェルニウスは、ベネゲセリットのホームワールド、ワラッハ第九惑星に赴く。しかし甥のラッバンにより、無の船までベネゲセリットに把握され、お互いの持つ相手への致命的な情報によりトレードオフされる事になる。ベネゲセリットでは、来たるべき壮大な繁殖計画の収束への二世代前の人物、ハルコンネンの遺伝子を持つジェシカが育ちつつあった。惑星アラキスでは、フレーメンに帰依した帝国の惑星学者パードット・カインズの息子、リエト・カインズが、アラキスに密かに隠れ住んでいたドミニク・ヴェルニウスと出会い、アラキスを後にする。イックスでは、密かに人工メランジの開発が、新しい皇帝シャッダムとその従兄弟にって画策されトライラックスの技術者が成果を上げつつあった…。
 いくつもの権力グループがそれぞれの思惑から陰謀策術をめぐらせ、物語が進んで行きます。確かに「砂の惑星」に続く未来は決まっているので、いくつかの出来事は結果の分かっている部分への伏線にしかならないはずなのですが、素直に繋がっていかない部分での驚き等を作ってあって、読ませます。砂の惑星へ続かなければいけない物事の範囲の蓋然性のブレも意外に大きく、これをどのようにオリジナルに続かせるのかと、物語の中の謎自体も含めて牽引力あるところです。<砂の惑星>への語られなかった事どもというのは、もともとの作者フランク・ハーバードが如何に物語を語らなかったかと言う事でもあるんですが、そういう意味では、こちらは、陰謀を秘めたまま物語を進めていた<砂の惑星シリーズ>と違って、それぞれの思惑と動機と方法までが基本的には語られているので、親切だし読みやすくなっています。
 確かに、物語としては面白く作りこんであります。幾つもの同時進行する権力グループの中で処理される問題や解決への解、さらには人間同士のドラマも含めてなかなか楽しませてもらっています。(その分、オリジナルの持っていたそれぞれの謎めいたそして超人的な陰謀は軽くなってしまっているように見えますが)
 これはもとは一巻だったのを日本語訳に当たって三分冊にしたのかな?あまり1,2巻目では物語は切れていません。という事で、待て三巻目という事で。
 欲を言えば、表紙絵は、ライトノベルぽい漫画絵じゃなくて、<砂の惑星シリーズ>の担当をしてた、加藤直之きぼんぬ。(前も書いたけど)。


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「デューンへの道 公家(ハウス) ハルコンネン 1」
BR> 「デューンへの道 公家(ハウス) ハルコンネン 2」


◆2003/06/11(水)読了。「グイン・サーガ89 夢魔の王子」栗本薫(早川文庫JA715) - 03/06/13 19:42:06

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◆2003/06/11(水)読了。「グイン・サーガ89 夢魔の王子」栗本薫(早川文庫JA715)
 最近本をなかなか読めない。グインサーガですらこの有様。てことで、一ヶ月くらい掛けて(実質はあいかわらず通勤時間二日分)、読了。たしかこの前に読んだものグインサーガだったような^^;
 2巻に及ぶ服喪の後の展開で、やっと物語が進行し始めた感が。
 ◇グイン率いるケイロニア軍がパロへ向かい進軍を開始した。途中、パロに囚われたエイドリアン子爵の父とその軍勢との合流が行われる。また、イシュト率いるゴーラ軍も、以前にレムスによって行われたイシュトへの暗示に乗った振りをさせてパロへと向かう。弱卒パロ兵をケイロニア軍は蹴散らしながら進んでいたが、夜の闇とともに、戦死した者たちがゾンビ化した軍勢として襲い掛かってきたのだった。一方、グインの元にアモンが現れる。その精神がグインに嫌悪と憎悪を呼び起こしていた…。
 他に、マリウスの心境がうんざりするほどまったりと語られたりしつつ、視野が広くなり、物語が進み始めた感じです。
 しかし、以前にも書きましたが、アモン対人類って二項化してしまうと、三国志的な楽しみはなくなってしまうのかなぁ。どちらかと言うと、人間ドラマを含めたそこらへんが楽しかったのですが。この対立も落ち着いてしまうと、人類の中で謀略の中の謀略が出てきたりもするのかもしれないですが。
 あとがきは、あいかわらずの「ここまで来ました感」と、批判はまとはずれなので苦になりません宣言だったかな。あと絶対100巻で終わりません宣言^^;
 ま、なんだかんだ言ってもついて行きますぜ(笑)>御大


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「グイン・サーガ89 夢魔の王子」


◆2002/03/12(水)読了。「グイン・サーガ88 星の葬送」栗本薫(早川文庫JA710) - 03/05/09 18:42:44

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◆2002/03/12(水)読了。「グイン・サーガ88 星の葬送」栗本薫(早川文庫JA710)
 グインサーガ最新刊。ナリス死亡のその後です。
 ナリスの死によって、変わる勢力分布とそれぞれの思惑。けれども、リンダの早々の神聖パロの辞退はどうもストーリーから押し付けられたような違和感が。本来なら夫の志を継いで貫徹するのでは?
 事後処理について、ナリスの枕元で語られるあたりは、グイン版「お葬式」。というか通夜ですが。愁嘆場はいいので、早く物語を進めてほしい所。それでも、今後の進行について、グイン、リンダ、ヴァレ、イシュトとそれぞれの思惑が語られ、折衝され、布石となって行きます。
 ちなみにリギアとマリウスはめちゃくちゃ影薄いです^^;
 と言う事で、待て次巻。  


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「グイン・サーガ88 星の葬送」


◆2002/12/25(水)読了。「グイン・サーガ87 ヤーンの時の時」栗本薫(ハヤカワ文庫JA706) - 02/12/27 19:37:23

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◆2002/12/25(水)読了。「グイン・サーガ87 ヤーンの時の時」栗本薫(ハヤカワ文庫JA706)
 グインサーガ最新刊。ついにあの出来事が…キタ┬━─∀゜)━━━━ ! という訳で二日ほどで読了。
 ◇グインに一騎打ちで完敗したイシュトヴァーンは、グインに主導され和平の道を探る。もともとイシュトも、立場の変更には依存無く、寧ろ、自軍――ナリス軍を救援に来たはずが敵対したあげくナリスを虜囚とし、その後ケイロニア軍に完敗した――への変節の納得性が問題であったからだ。そこへゴーラ王妃であり、イシュトの妻アムネリス逝去と世継ぎ誕生の報せが届く。これでゴーラへ戻る(そして途中を阻むレムス軍と敵対する)理由が出来たのだが、未だにナリスを連合軍に戻す事を渋っていたイシュトへ、グインはナリスとの会見を申し込む。
 ちゅーことで、まるまる一冊で、昔予告された【ナリス死亡】の巻です。あまりな愁嘆場はなくて良かったとか思いつつ。
 いや、むしろ自分はもうずっと【生き抜く】んではないかと思ってましたが。これでまたグインサーガの時のネジが巻かれ、物語は動いていくのかな?
 これでこのままリンダが神聖パロ王国をうち立てる根拠はなくなり、ケイロニア側のヤンダル阻止へと一元化されるというのが今後の予測となるか。イシュトもなんだかんだで傀儡としての血塗られた王の道を歩くという筋ではなくなったような。
 ま、それはそれとして今回の見所は、二段構えのあとがきでしょうか? 新井素子の「…‥絶句」みたいな(笑)(ま、「…‥絶句」はストーリ的に必然性があったような)。俺は別に【ナリス死亡】には、やっとなんだという思いしかなかったのですが、作者の入れ込みに入れ込んだ、あとがきが読めます。【アンソニーが死んだときのキャンディキャンディ】の原作者みたいだなぁと思ったり。 自分で作った小説や登場人物を自分で誉めてるのは相変わらず手前味噌の感がするんですが、もう驚きません(笑)(あと、俺的にはもうつっこまなくなったけど、今まで長かったがここまできたんだと登場人物が一つの巻に一回以上は回想する事も)
 そんなこんなで、最終巻のタイトルが「豹頭王の花嫁姿」や「豹頭王が花嫁」になる事回避でしょうか?(笑)
 とかいいつつ、なんだかんだ言って読んでますが、俺(苦笑)。


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「グイン・サーガ87 ヤーンの時の時」


◆2002/12/17(火)読了。「傀儡后」牧野 修(ハヤカワSFシリーズJコレクション) - 02/12/26 20:31:09

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◆2002/12/17(火)読了。「傀儡后」牧野 修(ハヤカワSFシリーズJコレクション)
 たらたらとそれなりに読んで読了。うーん。
 ◇麗腐病が流行り、不穏な空気に包まれた日本。それは20年前に大阪に衝突した隕石によって引き起こされたらしいのだが…。落下地点から半径5kmは特別危険指定地帯とされており、何度も捜査隊が派遣されたが、そこから一人として帰った者はなかった。そして危険地帯はこう呼ばれる、Dランドと。
 この物語において、物語はあまり重要ではない。麗腐病、ラバースーツ、暴力性開放ガス、トランスジェンダー、ドラッグトリップ、そして登場する様々な事に囚われた奇妙な人々。それらを織り込んだタペストリー全体が、この小説であり、物語はそれらを提示するための繋ぎにしか過ぎない。
 そして、それらとは何かと言うと、フェティッシュなガジェットなんだろう。セックスに濃厚に結びついたサブカルとアンダーカルチャーが、世界を構築する。
 好きな人は好きな世界かも知れないし、ある種の魅力(そして性的呼応による訴求力)があるのは確かだが、自分としては重きはストーリーに置くので、その点では厳しい。タペストリーを統合するべき後半では、破綻してしまっている所も見受けられる。尤も、フェティッシュな世界全体を味わうのがこの本の楽しみ方だとは思うのだが。
 「MOUSE」などで見せたドラッグ等のガジェットとスタイルの延長線にあるのがこの作品ですね。どちらかというと、自分は、デムパ側にぶっとんだ「偏執の芳香 アロマパラノイド」とかの方が好みでした。
 


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「傀儡后」


◆2002/12/7(土)読了。「模倣犯 The copy cat(上・下)」宮部みゆき(小学館) - 02/12/18 19:26:37

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◆2002/12/7(土)読了。「模倣犯 The copy cat(上・下)」宮部みゆき(小学館)
 結構読むのに掛かりました。ハードカヴァー二段組上下巻合わせて、1222ページ。第二部が俺的にはかなりイタくて、読み進めるのに時間がかかりましたね。
 ◇早朝、大川公園のごみ箱の中から女性の腕が発見される。第一発見者の一人は、奇しくも両親と妹を殺された一家殺害事件の生き残りの塚田真一。一家殺害の事件の後、両親の友人宅に世話になっている彼が犬の散歩中に発見してしまったのだ。出てきた右腕を、失踪した孫娘・鞠子の腕ではないかとの疑念から豆腐屋を営む有馬義男は、娘であり鞠子の母親である古川真智子を連れて警察へ向かう。また、フリーのライターである前畑滋子は、もともと失踪する女性たちの本を書くために取材を行なっていた。彼女のリストの中に鞠子は載っていたのだが…。警察で捜査本部が設置され慌ただしく捜査が行なわれる中、TV局に一本の電話が掛かる。あの腕は古川鞠子のものではないよ。彼女は別の所に埋めてある、と。そして連続殺人事件の幕が開ける…。
 犯人の姿が見えず、次々と犯人側からのマスコミへの連絡が行なわれる第一部は、そのゴールが見えないこともあって、なかなかハラハラと一気に読めた。その中で関わりを持つ、被害者としてPTSDに苦悩するSurvivor・塚田真一、帰ってこない孫娘に心を痛めつつも男気のある有馬義男、ライターとしての視点からひたすら事件を追おうとするが自分の人間性との葛藤になる前畑滋子、そして遺体が発見された遺族の人々と、さらに被害者たちを貶める報道被害…。ひたすら丁寧に、人物と出来事、出来事毎に揺れる心の機微が描かれていて、さすが宮部、と唸らせる。特に塚田真一に迫る加害者の娘・樋口めぐみという存在は上手い。何が悪いのか、何が悪かったのか? ステレオタイプにはかれない構図がここにある。
 そして第二部では、時系列を遡って犯人の視点からそもそもの始まりからが語られる。これが当初書いたとおり、イタくてイタくて。犯人の歪んだ思考、第一部ラストで明かされている悲劇に向かっている善意の人物の末路…。第一部のような丁寧な書き方が逆に辛くなっていました。
 第三部で、その統合された先が描かれる。ここでほっと一息ついて、またさらに物語の先が牽引力となるのだが、逆に物語がここまで来てしまうと、可能性は狭まり、如何に【犯人が捕まるかor逃げおおす】のかという事にフォーカスされてしまう。物語自体は妥当に進んでいくのだが、こうなってしまうと、意外性がないとツラいかも。あと、前半の丁寧な書き込みぶりに比べて、カタストロフィから筆が流れている気も。もちろん、読ませるし、一定以上の水準に達しているという前提の上で。
 そしてラスト。ここで明かされる【タイトルの模倣犯】の理由にはいい意味で驚かされました。
 とにかく、あくまで丁寧に書き込まれていて、それぞれの人間の持つドラマに圧倒されました。これを書ききってしまうのが宮部みゆきの筆力かと。被害者・被害者の家族・加害者・加害者の家族・世間の被害者への対応・世間の加害者への対応・マスコミの被害者・加害者への対応…それらの持つそれぞれの痛みを、丁寧に描ききっていると言えるでしょう。
 ただ、ラストが予定調和に近かったのが残念でもある。ま、そこが、この物語の重心ではないのだが。(あと、犯人が【2部で、そのまま証拠を消去して撤退】)していたら?…という所は気になったなぁ。【警察の捜査が別荘に及ぶ手前だったという説明もあるが、これは自白しなくてもという文脈でだったし。
 宮部みゆきファンは押さえておくべきでしょう。


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「模倣犯 The copy cat(上)」
「模倣犯 The copy cat(下)」


◆2002/12/10(火)読了。「グラン・ヴァカンス 廃園の天使 1」飛 浩隆(ハヤカワSFシリーズJコレクション) - 02/12/11 18:32:41

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◆2002/12/10(火)読了。「グラン・ヴァカンス 廃園の天使 1」飛 浩隆(ハヤカワSFシリーズJコレクション)
 これまたほぼ二日。一気読みです。面白かった。でも「廃園の天使」三部作第一作目という事で続き物。さらに作者はかなりの遅筆らしいので、今後が気になるなぁ…。
 ◇太陽光とそれが象徴する幸福に、眩しい夏の南欧的田舎町の漁港。人々は善良でそしてゆるやかに日常を営んでいた…。人がAIで、夏の区画がネットワーク上に存在する仮想リゾート・数値海岸(コスタ・デル・ヌメロ)であることを除いては。ゲスト(=人間)の為に作られた作られたこの仮想リゾートにゲストが一人も訪れなくなってから千年。何故か環境もAI達も動き続け、夏の日々を繰り返し続けていた。物語の始まりは、まるで少年時代のような、その夏の輝きと郷愁を誘うべく理想化されたかのような田舎や漁港や海辺だった。絵的には萩尾望都を連想してもらえるといいカモ。
 AI達は、自らがゲストを歓待するためのモノだとも、そうして区界が成り立った事も知っている。繰り返される夏の日々は、美しくも、ゲストの訪れる事のない喪失感に満ちている。
 そして、突然、区界とAI達を喰い尽すべく現われる、虚無=蜘蛛達。穏やかな暮らしを営むAI達が蜘蛛達によって喰われる様を、絶叫にあえぐ姿を、絶望と苦悶に身を焦がす様を、物語はこれでもかと言わんばかりに丁寧に語っていく。美しくも残酷に。
 けれども千年の安寧を破った災厄に対抗する術もまた、この千年期に何故か登場した<哨視体(グラス・アイ)>にあったのだった。<哨視体>で人々は、環境に干渉できる力を使うことが出来た。それは、ささやかな力ではあったが、ジュール、ジュリー、ジョゼらは、辛くも生き残った人々と共に、蜘蛛を捕らえる罠を張ることにする。
 しかし蜘蛛達を夏の区界に放った存在は、それすらも見越していたかのように、一人、また一人と、最大の苦痛・最大の絶望を抱くべくAI達を屠っていくのだった…。
 仮想現実モノとしては、仮想現実の存在自体はオーソドックスではあるのだが、その光景、ガジェット――蜘蛛のネットワーク・硝視体・鳴き砂・終わらない夏の日・等々――の訴求力と言葉に対するキレが、凡他の仮想現実小説と一線を画している。そして、区画に住まう人々たちと蜘蛛達の戦いが物語を引っ張りつつ、最大限の苦痛に満ちたそれぞれの死が展開されていく。これで物語の中に、ずっぽりハマってしまった。
 さらに構造的には、屠る存在ランゴーニによって語られる、夏の区界の存在意義。【仮想現実を破壊する敵から、守ろうとしている<夏の区画>の中で歓待されるべき存在として暗示されていた<ゲスト>自体が、実はAI達を嬲り傷つけるものであったという…】 その事実が、理想のリゾートの永遠の夏の中で、また、痛い。
 苦痛によって融解し捻れてしまったそれでも美しさを保っている色硝子の様に、残酷さが伴う美しさに目が離せずにページを繰り、物語は展開されていく…。現在の虚無による侵略・(作られた)過去・そしてゲストの残虐な振る舞いと自らの存在意義、それらが鮮烈にも多層の痛みを作り出す。
 ただ、仮想現実としては、死んだり傷ついたり(内部のコードが見えたり)する表現が出てきているけれども、AIのアイデンティティというかプログラム本体は区画内に実体と共に格納されているのかなぁ?(寧ろ別のロジックからロードするだけじゃないか?)と思ったり。もちろんフィードバックはあると思うけれども。とか、プログラムにしてはAIの知能(≠機能)――演繹力、帰納的推理力が高すぎる気が。知的生命体そのものだもんなぁ、とかも。尤も、それはこの物語では公理系に属するので、深くは問わない。
 果たして、<哨視体>とは?ゲストが途絶した訳とは?天使とは?ジュールの本質とは?
 早い所の続刊を望む。…少なくともJコレがレーベルとして存在している間には。


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「グラン・ヴァカンス 廃園の天使 1」


◆2002/12/3(火)読了。「太陽の簒奪者」野尻 抱介(ハヤカワSFシリーズJコレクション) - 02/12/06 19:16:53

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◆2002/12/3(火)読了。「太陽の簒奪者」野尻 抱介(ハヤカワSFシリーズJコレクション)
 「ロミオとロミオは永遠に」に続き、ハヤカワSFシリーズJコレクションつながりで、積読だった「太陽の簒奪者」に入りました。刊行当初からこのJコレクションシリーズはコンスタントに買ってはいたのですが、やっぱ文庫本サイズじゃないと持ち運ぶのに不便で。(ま、確かにハードカヴァーで「ハイペリオン」とか読みましたけど…)。大上段から繰り出される(俺にとっては懐かしくもある)ハードSFのこれでもかぶりに、久しぶりにSF魂を刺激された気がしましたね。これまた二日でイケました。  ◇高校天文部2年の白石亜紀は、すくない資材で皆既日食を観察していた彼女は、皆既日食の最中、太陽に向かって伸びる棒のような影を発見した…。日食中に観察可能となったこの事象は全世界的に観察されており、天体物質から人工物までの様々な憶測を呼ぶ事となった。太陽の周辺に突如現われた、巨大構造物。マスドライバーによってさらに水星から吸い上げられ徐々に形を作っていく建造物は、また、地球にも甚大な物理的影響を及ぼしつつあった。一方、高校時代の体験から研究者となった白石亜紀は、その建造物への宇宙船・UNSSファンクラスへの搭乗を希望する。果たして謎の建造物は何か? 何のための物なのか? 人間の他に宇宙には知的生命体が存在するのか? またその意図するところとは?
 ということで、これ以上なにを語ろうとしても、物語の謎の部分がキーであるので、ネタバレになってしまうんですが、まぁ一言で言うと【「リングワールド」(ニーヴン)】&【「宇宙のランデブー」(クラーク)】です。どちらかというと後者より。もしくは「虚無回廊」(小松左京)か。
 ともかく、人類に対して、その準備もなく突きつけられる、――さらに、存亡をも左右する大いなる脅威でもある――人類以外のモノ。それに対して人はどう対処するのか? 「それ」がいきなり全てを見せるのではなく、徐々に形を取ってくる物語構成がニクい。天文単位の構造物って事で、【ダイソン球】か【リングワールド】かって所は勘が良ければピンと来るものではあるのだが、荒唐無稽な設定や分からないままという事はなく、その「何故」を追求した先には、それなりに練り込まれた、解が提示される。
 物語の構造としては、先に挙げた作品のように決して目新しくはないのだが、これが、日本人の作家で(そしてジュブナイルで)出たことを、嬉しく思ったり。そしてもちろん、SFに対してのファーストインパクト、センス・オブ・ワンダーという濃さがぎっしり詰まったという意味では、求めていたSF(の一つ)では、確かにあった。このワクワク感は、中学時代にSFを読み漁った感動を呼び起こさせるものだったから。
 天文規模の巨大建造物、ナノテクノロジー、ファーストコンタクト…等々。さらに「それ」の全地球的影響(滅亡への危機)から、残り少ないエネルギーをまわしての宇宙船の建造なんて、「宇宙戦艦ヤマト」や「我が内なる廃墟の断章」(ファーマー)じゃないデスか?
 そんな風に、ある程度SFを読んでいる者には、呼応する物語(と同時にその時の興奮も合わせて)が呼び起こされるのも、また楽し。
 そして、高校生ぐらいの初めてSFを読み始めたような人には、十分な新しさと訴求力とSFの楽しさを持っている作品となっていると思う。


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「太陽の簒奪者」


◆2002/12/1(月)読了。「ロミオとロミオは永遠に」恩田 陸(ハヤカワSFシリーズJコレクション) - 02/12/02 18:50:18

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◆2002/12/1(月)読了。「ロミオとロミオは永遠に」恩田 陸(ハヤカワSFシリーズJコレクション)
 ハヤカワSFシリーズの10月の新刊。俺的にはひさしぶりの恩田陸です。作家デビュー10周年記念作品(らしい)。ハヤカワSFマガジン連載(完結)。
 ◇汚物除去のために日本人だけが残された地球。少年たちの夢は、苛烈な試験を合格し大東京学園に入学し、卒業生総代となることだった。大東京学園を目指すこと自体が過酷な試験でもある中、出会ったアキラとシゲルは仲良くなるが、彼らを含む合格者たちを待受けていたキャンパスは、良き懐かしき20世紀をごたまぜにした世界と、さらに過酷な学園生活だった。生徒たちは成績順に割り振られる区名を冠したクラスに割り振られたが、さらに脱走を企てたものが入れられる新宿クラスというものも存在していた。アキラ、シゲルはそれぞれの思いと事情を胸に総代を目指すが…。
 ということで、コメディタッチの学園の行事・教師ではあるけれども、主人公たちの実際の環境は圧政の中にあり、その中で卒業生総代を目指すゼロサムゲームが始まっていた。
 とくれば、「バトルロワイアル」ですね。試験官のフクミツ(裏の顔はトクトメ)で「卒業生総代になりたいかぁー!?」等、20世紀日本的ガジェットは、パースペクティブの狂ったまま配置されて、味の出し方は近いかも。そして昼の勉学のラットレースの様なキャンパスに対して、裏のアングラという昭和研究する様々な部活(けれども見つかれば違反である)もそんな狂った世界を演出する。
 恩田陸の作る「雰囲気」は上手い。そんな躁状態の学園と、それに初めて触れる新入生のドキドキ感(という意味では、高校時代を思い起こさせる新しい事どもの異化と同化)を上手く描き、昭和の高度成長期にちなんだイベントが起こる強制収容所自体を物語り、さらに、アキラとシゲルの物語を紡ぎだしている。
 けれども、そこはやはり恩田陸。プロットをきっちりこなし、SFという枠内で語ると言うよりは、要所要所は幻想的な(ロジック無し)の出来事で攻めます。まぁラストがアレでSF者にどうかという話がありますが、まぁ収束よりも過程を楽しむ小説(いつもの恩田陸らしく)と言うことで。
 登場人物がいろいろと出てきた割には出来事に振り回されてあまり書き込まれず、カタストロフィでは「バトロワ」の様な感情移入(もしくはイタイ感触)がないのは残念。あー、【凧が】とか【トンネルが】とか、プロット上そういう役回りだからなぁと某らを距離を置いて見れてしまったのは、俺が汚い大人になっちゃっただけでは無いハズだ。
 物語としても後半急に詰め込まれたようでバランスが悪く感じしてしまったのは、連載小説だったせい?
 でも、嫌いじゃないです。勉強という押さえるべき枷の中に居る一方、若さと新しさで喧噪と躁状態にまみれた高校時代の日々をカリカチュアした、熱病の時に見る夢のような物語ってのは。
 そういう意味に於いて、青春小説なんだな。例えば「トレイントレイン」とかをも思い起こさせるのはそのせいだろう。そんな青春時代と、高度成長期という時代とそんな時代のサブカルチャーに抱くノスタルジーを、とにかくハイに転換してしまった作品です。
 最後、あとがきで、作者自らが告白して曰く、結局意味をつけられなかったタイトルについては、俺的には引いてしまうヤオイテイストを感じざる得ない(けれども組み込まれなかった(か、餌として蒔いただけ))のだけれども、まぁそれは本編でやらないで正解でしょう。という事で。


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「ロミオとロミオは永遠に」


◆2002/11/28(木)読了。「イリーガル・エイリアン」ロバート・J.ソウヤー(早川文庫SF1418) - 02/11/28 19:37:41

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◆2002/11/28(木)読了。「イリーガル・エイリアン」ロバート・J.ソウヤー(早川文庫SF1418)
 「模倣犯」(宮部みゆき)を読んでいたのだが、第二部に入ってから(中だるみ&表現のイタさが)キツくて、ちょっとこちらに浮気。そしたら一気に二日で読了でした。
 ◇遂に人類と異星人のファーストコンタクトが起こった。大西洋の公海に不時着した異星人は四光年先のアルファケンタウリから来たものだった。国連に運ばれた異星人とのコンタクトは順調に進み、母船から残りの6人の異星人、トソク族が現われ、カリフォルニアに滞在することになった。けれども順調だったのはそこまでだった。当初からファーストコンタクトに関わっていた地球のナビゲーターで科学者が、トソク族の滞在施設内で殺されるという事件が起こったのだった。法律に則り(条約等は批准されておらずカリフォルニアの法律に準じ)、容疑者のソトク族一人が拘束され、裁判に掛けられることになる。殺された人間は大腿部をスパッと切断され、さらに眼球と虫垂、そして下顎が失われたのだった…。
 あいかわらずソウヤー上手いね。リーガルサスペンスをSFでやるとこうなるのか、と。法廷劇は、ちゃんとリーガルサスペンスしております。本当に容疑者が犯人なのか?犯人だとしたらどうやって?そして何故?それを物語の牽引力に、グイグイと引っ張っていってくれます。そこで徐々に明らかにされる異星人的特質と人間と変わらない部分。そこに動機は存在するのか?
 そしてラストでは、二転三転し、締めはソウヤー節。読後感はなかなか良しです。
 ただ、自分的には、畳みかけるようなラスト部で、流されてしまいがちですが、ちょっと疑問が。【唯我論的哲学の為だったのですが、ソトク族という種族としてみた場合はそうかもしれないんですが(考えにくいけど、設定として認めるならそういう種族もあるとして)、種族内でも個々人が他者に対して同じ問題を起こしたりしないんでしょうか?ナショナリズム的に種族に対してのみ発露するってのは弱いかなぁ。あと、個々人については、ゲーム理論(囚人のジレンマとか)からその行動を、帰納的に普遍化できないもんでしょうか? まぁ実際出来る出来ないは別として、お題目としては人類側には謳っているものもあるわけだし。
 【まぁあと「自分がやられたくないことはしない」とかね。範囲対象は知性ある存在かな。知性の定義は難しいかも知れないですが。俺的には、<ナルニア国物語>にあった、知性ある動物を食べるってのは不可という方向で。
 【そもそも、モノフィラメントで人を縛ろうとするのは無理があるのでは?とか。あ、被拘束者側も「ホログラム街の女」(F・ポール・ウィルスン)的に、そのままスルーしてみるとか。(ぉ


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「イリーガル・エイリアン」


◆2002/11/18(月)読了。「サムライ・レンズマン」古橋 秀之(デュアル文庫) - 02/11/27 19:33:53

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◆2002/11/18(月)読了。「サムライ・レンズマン」古橋 秀之(デュアル文庫)
 さくっと読了。レンズマンシリーズの設定を引き継いだ、独自のレンズマン物語。
 ◇盲目のレンズマン、シン・クザク。彼は、剣の名手――<サムライ・レンズマン>として怖れられていた。宇宙海賊ボスコーンの残党の組織化に対抗するために、キムボール・キニスンによりグレイレンズマンの称号を与えられある任務に就く。一方レンズマンを弟に持つ男勝りのキャットは、宇宙資源を掘削する炭坑で他の弟妹たちと暮らしていたのだが…。
 という事で、軽くもさくっと読め、それでいて懐かしい雰囲気も生かしている物語だった。E.E.スミスの遺族の許可を得て作られたこの作品は「第二段階レンズマン」と「レンズの子ら」の間の時代設定となっている。
 おなじみのキムボール・キニスンやウォーゼルなどの登場も懐かしい。そして表題のサムライ=シン・クザクのオリエンタル振りが言い合い味を出している。この過剰なほどの日本情緒が、逆に外国から眺めた日本的なモノという雰囲気を醸し出し、既存のレンズマン・シリーズにすっぽりとハマっている。
 自分自身はレンズマン・シリーズに出会ったのは、SFを読み始めてかなり経った頃だったので、スペースオペラを純粋に楽しめる歳ではなかったせいで、シリーズ途中で読まなくなってしまっていたのだが、この作品では、いい意味でジュブナイル的(マンガ的というか)で十分楽しめた。また、レンズマンシリーズを知らなくても、語群解説等が組み込まれつつ物語が展開されるので、十分分かる作りになっている。
 まったく新しいものとして触れる若者にも、古きを温める往年のSFファンにも十分楽しめるだろう。


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「サムライ・レンズマン」


◆2002/11/10(日)読了。「あなたは虚人と星に舞う」上遠野 浩平(デュアル文庫) - 02/11/27 19:33:21

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◆2002/11/10(日)読了。「あなたは虚人と星に舞う」上遠野 浩平(デュアル文庫)
 「わたしは虚夢を月に聴く」に続いて、上遠野浩平<ナイトウォッチ>シリーズ最新刊。というかいつの間にかシリーズに(笑)。一応さくっと読了。
 ◇虚空牙を追って来た飛行部隊は、太陽系最辺縁となる冥王星周辺で奇妙なことが起こっていることを知る。冥王星には虚空牙が地球に来襲する前、人類がその栄華を誇っていた時期に作られた基地があったのだが…。
 という訳で、ヴァーチャル・リアリティ(この言葉ももはや懐かしい感じだが)の世界の中にあった一人の意識と、その目覚め(目的意識の取得)の物語。
 今回は、宇宙黎明期の地球で戦闘機を操るための能力に特化する為に遺伝子操作して作られた女の子が、基地に眠ったまま、虚空牙の時代を迎え、自軍に攻撃を受けて目覚めるというもの。そこに虚空牙自体の意識の存在も感じられたのだが…
 SF的には甘いし、シリーズに渡る設定の進展もないのだが。こうなってくると、シリーズ内ではこのヴァリエーションで何を見せていくのかという事にフォーカスされるが、それもまた単なる一つのヴァリエーションに終わっているという気がする。
 まぁジュブナイルではあるので、読みやすくはあり、自立の物語として、ターゲットの読者層に訴求力はあるのかもしれない。こういったヴァリエーションの物語を積み重ねて、虚空牙の存在が徐々に明かされていく作りなのだろうとは思うが、うーん、取り立てて自分的にはそこに牽引力はないなぁ。虚空牙のオチって中編でつかわれるくらいのモノ(例えば、人類を進化させる触媒とか、恒星間進出のための人類の敷居とか…)って感じがしてしまう(^_^;)。もちろん、実際はどうかわからなくはあるんですが…。
 てなわけで、とりあえず<ナイトウォッチ>シリーズをフォローしている人向けか。


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「あなたは虚人と星に舞う」


◆2002/10/31(金)読了。「合衆国復活の日(上・下)」ブレンダン・デュボイズ(扶桑社) - 02/11/27 19:32:56

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◆2002/10/31(金)読了。「合衆国復活の日(上・下)」ブレンダン・デュボイズ(扶桑社)
 上巻にずいぶんと掛かってしまいました。下巻に入ったらあっと言う間で二日で読了です。トータル約2週間。
 ◇1962年のキューバ危機を回避できなかった世界。キューバから核ミサイルが発射され、合衆国では落とされた核ミサイルによって大統領以下が死亡。また報復にキューバの他にもソビエト連邦が合衆国の核が投下された。…そして10年後。アメリカは未だその傷から回復出来無いまま、戒厳令は解かれず英国などの援助によって成り立っていた。まだ復興中で職も少ない中、退役軍人の権利を使いボストン新聞社の記者となったカール・ランドリー。彼が出会った、大きなネタを持つと言っていた老人、マール・ソーソンが殺された。殺人事件を記事にするも検閲によって公表される事はなかった。さらに調べようとする彼に上層部から待ったがかかる。あの老人が持っていると言っていたネタは本物だったのか? 【調査を進めるに従って、二流国に成り下がったアメリカの都市伝説となった「彼(ケネディ)は生きている」という街中のそこかしこで見られる落書きに象徴されるケネディ信仰や、閉鎖されたマンハッタンに住み続け、戒厳令を続ける合衆国に反対する人々などの出会う。さらに、まさにスタートしようという大がかりな作戦の影にアメリカ駐留大英帝国軍がある事を知ってしまう。彼らはその<転回作戦>で何をしようとしているのか…?
 歴史改変モノ。やっぱり上げられるのは「高い城の男」(ディック)や、「パヴァーヌ」だろう。
 体裁的にはハードボイルド・ミステリーだが、悲惨な歴史を経たアメリカが、その中からさらにアメリカ魂を見いだす話という事かな。ハードボイルド的見せ方としては、いい意味でも悪い意味でも、定石に沿っていて、それなりに読ませる。日本人的にはイデオロギーとしてはちょっとノレない(または無関心な)ポイントがあり、そこを牽引力にして物語を引っ張っていく部分だとつらいモノが…。
 読後感は良し。伏線が収束し始める下巻はさくっと読めます。
 弱くなったアメリカの復活という点では、上手くアメリカ人のナショナリズムをつついているなぁとは感じた。あと、あとがきにもあったが、合衆国無差別テロ(9/11)を思い起こさせた。強いアメリカによる強い外交も一歩間違うと、この架空史の二の舞になってしまうかも知れずと思ったり。
 自分はアメリカ史自体にくわしくないので、ばらばらの感想になってしまってますが、アメリカ史自体に造詣が深ければ、物語ではそれを呼応した歴史をつくっており、そこらへんのくすぐりでも楽しめると思われます。


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「合衆国復活の日 上」
「合衆国復活の日 下」


◆2002/10/18(金)読了。「新・知性化戦争 戦乱の大地(上・下)」デイヴィッド・ブリン(早川文庫SF) - 02/11/27 19:32:28

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◆2002/10/18(金)読了。「新・知性化戦争 戦乱の大地(上・下)」デイヴィッド・ブリン(早川文庫SF)
 まってました。<新・知性化戦争>シリーズ第2巻!。「知性化の嵐1 変革への序章(上・下)」の続編、一年ぶりの新作邦訳です。面白くはあるんだけど、やっぱこの人、描写が長すぎ&引っ張りすぎ(笑)。で、けっこうかかって約3週間で上下巻を読了。(最近読了スピードが落ちてます(^_^;))
 ◇物語は前作「変革への序章」のラストから始まる。ローセンの宇宙船にダメージを与え、上手く捉える事に成功した6種族だったが、惑星ジージョに空を覆い尽くさんばかりのさらなる巨大宇宙船が着陸する。それは悪名高き種族・ジョファーのものだった。さらにトレーキの大賢者アスクスはジョファーに捉えられ、<統制環>によりジョファーに融合され、持っている知識を奪取され利用されてしまう。ジョファーの圧倒的な力に対抗し、六種族はそれぞれの知恵を絞り、退化の道を行くために禁断とされてきた知識をも使い、一矢報いようとするが…。一方<ストリーカー>号の偵察により、驚くべき事が明らかにされる。この惑星に住んでいるのは六種族だけではなかったのだ…!?
 「変革への序章」の丸々一巻を使って張られた伏線どもが、収束し始める。本命のストリーカー号もついに堂々登場(笑)。そして、前作のいくつもの登場人物によって語られていた視線も、徐々に合流し、それと共に大きな物語が一本紡ぎ出されていく。
 いやぁ、上手いですね。さらに、もともとのジージョ使用種族であるブユルのうにゃうにゃとか、7種族目のうにゃうにゃとかがどうからむのか。タマゴの超常現象が【稀にある超物質のプレートテクトニクスによる変成】だったのはガックリきましたが。(それともまだ続くのかな?)。
 解説では、堺三保が丁寧に<知性化>シリーズと「変革への序章」のおさらいをしてくれているので、話を忘れている人はそれを読むと良いでしょう。
 また、ここまで読むと、【逃亡したイルカ達】のその後が語られる「誘惑」(「遥かなる地平 SFの殿堂 1」収録)が、シームレスで繋がります。すっかり話を忘れていたんですが、読み直して「おお〜っ!」となりました。…って事は【ブユル】はどこにっ? 短編ながらも濃密なこの一編、ある程度その後の展開もネタバレっぽいのですが、読んでみて損はないかと思います。雰囲気としては、ヴァーリィの<ティーターン>ですね。(この三部作も三部目の「デーモン」(創現SF文庫)がいつでるんだか?(^_^;)。文化事業なら出しかけのシリーズは完結させてくれよー>出版社各位 ほかにも<アルヴィン・メイカー>(角川書店)とか。)
 いよいよ、ストリーカー号の逃避行が物語の中心に乗ったところで、シリーズを見返すと、確かに重大なモノを持って延々と逃避行の物語を続けているなぁ。これってある意味「指輪物語」でしょうか? けれども、その情報(と遺体)を消し去る火の山オルドロンの<滅びの罅裂>は無い。
 次巻は、<新・知性化戦争>としては最終巻となる第三巻。どんな壮大な物語が広げられるのか? そしていままで語られた伏線はどうなるのか? 大きな期待と共に、(話を忘れないうちに)早く次巻が出ることを望む。


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「新・知性化戦争 戦乱の大地 上」
「新・知性化戦争 戦乱の大地 下」


◆2002/10/4(金)読了。「亡国のイージス(上・下)」福井 晴敏(講談社文庫) - 02/10/07 18:31:17

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◆2002/10/4(金)読了。「亡国のイージス(上・下)」福井 晴敏(講談社文庫)
 上下巻を4日で読了。695併せて1400ページ弱なので、けっこういいペースです。ほぼ一気読み。いやぁ入り込みました。
 ◇父親殺しの連鎖という殺伐とした過去を持つ工作員・如月行、父親に倣い自衛官になろうと言う息子が殺されてしまった<いそかぜ>艦長・宮津弘隆、<いそかぜ>の叩き上げの専任伍長・仙石恒史、ある武器を入手し、北朝鮮の転覆を謀る北朝鮮工作員・ホ・ヨンファ、彼らのそれぞれの過去が語られるオープニング。そして現在、その延長線の交わる先に、それが起こる。
 今後の日米安保の変革をもにらんで<いそかぜ>に搭載された、ミニイージスシステム。大幅な人事異動と新しいシステムに慣れるために少ない乗員で慌ただしくこなされる日常描写の中、なにかが起こるという緊迫感と、、そして専任伍長によって読者に提示される違和感の元に起こるただならない予感がページを繰らせる。誰が何を起こそうとしているのかわからない前半の作りは、本当に上手い。
 普通に暮らしている中で、あまり考えたことのない国防という、それ自体の枠の中で働く彼らと、それを浸食するテロリズム。大局的見地、もしくは保身から指示を行なう政治家に翻弄される現場の人間。いくつもの問題提起がされてはいるが、むしろ様々な試練や決断の中で、決して超人ではない登場人物たちが、それでも自分の全身全霊を掛けた信念に従って、また迷い、生き抜く。その提示こそが、重みと感動を与えている。
 そして実質的な第二部で、テロの構造が驚きを伴って提示され、状況がそろった後では、彼らがどう行動するかが、物語の先を読ませようとする牽引力となり、リーダビリティ高く、読者を引っ張っていってくれる。彼らの決断と行動、そこから生まれる、まさに人と人との絆とドラマが胸を焦がす。
 物語自体もクライマックスで切って終わってしまうのではなく、それぞれのエピローグを描くことで余韻を深める作りとなっており、それがまた良い。
 確かに第2回大藪春彦賞、第18回日本冒険小説協会大賞日本軍大賞、第53回日本推理作家協会賞長篇部門のトリプル受賞に相応しいクオリティです。
 自衛隊ハードボイルドモノって事では、新保裕一 の「朽ちた樹々の枝の下で」を思い出させた。
 また、物語の出来事自体はともかく、その設定や、実際の活動などは小説の世界の話と考えがちではあるが、最近ニュースとなっている北朝鮮拉致問題の生々しさが、うすら寒さとリアリティを増している結果となるのは、皮肉でもある。
 とにかくおすすめ。その圧倒的な筆力に身を委ねて、重く苦しいながらも、それぞれの信念の元に運命を選択し身体を張る<漢>達の物語を、読むべし。


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「亡国のイージス(上)」
「亡国のイージス(下)」


◆2002/9/6(金)読了。「イリヤの空、UFOの夏 2」秋山 瑞人(電撃文庫0604) - 02/10/01 13:27:27

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◆2002/9/6(金)読了。「イリヤの空、UFOの夏 2」秋山 瑞人(電撃文庫0604)
 立て続けに読んでしまいました。もう止められない止まらない。2巻で終わりかと思っていたら、以下続刊なんですね。
 ◇浅羽直之の前に転校生として現われた伊里野は、今まで人付き合いをしたことがなかったかの様な相手に対してのそっけない対応で転校日当日から孤立してしまう。彼女が職員室からの電話連絡の呼び出しの後途中下校してしまう事が多いのも、それに拍車を掛けていた。他人に興味がないかのような反応しか示さない伊里野だったが、浅羽に対してだけは、幼稚園児が初めて好きになった相手のように真っ赤になるという反応をするのだった。UFOにハマっているゲリラ的新聞部部長(学校非公認)・水前寺邦彦からの、基地から通っている伊里野からUFO情報を引き出せと言う指令の下、浅羽は伊里野をデートに誘う事になる。それまで兄とは口も利かなかった微妙なお年頃の浅羽の妹は、ふとした拍子に翌日のデートの事を知り、相手への好奇心から密かに兄を追跡することにする。けれども、追跡者はそれだけではなかったのだった。新聞部部長、さらには、情報部員らしき人物までもが…。そんなデートの中、やっぱり浅羽は浅羽であり、伊里野は伊里野であり、待ち合わせ場所で、浅羽に会ったとたん伊里野は真っ赤になり鼻血を出して倒れてしまう…。
 つーことで、もー、初々しくも、こっぱずかしくも、甘酸っぱくも、青春だー! 忍び寄る戦争の影は、けれども未だ暫くは遠くにある思われる中、何故か普通の中学生の知っている常識をしらない(さらに人間同士の付き合い方も慣れていない)事から暗示される、人間兵器としての伊里野の、それがきっと精一杯であるだろう青春が切ない。初デートの出来事、学校で浅羽に髪を切ってもらう光景、学園祭準備に沸く学内での積み重ねられる毎日、そして晩夏に行なわれる学祭と、夕暮れからのフィナーレ・キャンプファイヤーとフォークダンス。そして、果たせない約束。そんな彼らがめちゃくちゃ愛おしくて堪らない。「カレンダーガール」(新井素子)の太一郎さん状態です(笑)。
 キャラクタだけではなく、園原基地周辺の軍からの補償金によって潤っている街の描写や、基地を取り巻く状況の描写が上手く、土台がしっかり描けている。また、それによって、特異だけれども不思議ではない現実の中の彼らがより効果的に浮かび上がってきている。
 物語としては、まだ、ほのぼのとした日常描写であるのだけれども、先の悲劇を予感させる分、このまま平穏な日々を(物語としては退屈かもしれないけど)と願ってしまう。
 読んで、きゅんとすべし。
 そして、待て次巻!


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「イリヤの空、UFOの夏 2」


◆2002/9/26(木)読了。「赤緑黒白」森博嗣(講談社ノベルス) - 02/09/30 17:34:42

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◆2002/9/26(木)読了。「赤緑黒白」森博嗣(講談社ノベルス)
 二日にて読了。森博嗣の最新シリーズ(Vシリーズ)の最新刊。長編10作目となるので、これでこのシリーズは終了か?
 ◇マンションの駐車場で、ペンキで全身を真っ赤に塗られた射殺死体が発見された。殺されていた男の名前は赤井寛。数日後、保呂草の元に、殺された赤井のフィアンセと名乗る女性・田口美登里が訪れ、赤井を殺した犯人を知っているので証拠を掴んでくれと、ミステリー作家の帆山美零を名指しするのだが…。
 リーダビリティは高い。途中、保呂草のお宝GET作戦も混じり、そちらでも(あまり物語の表面にも出ない分、気になって)話を引っ張ってくれます。
 ただ、ミステリとしてどうかというと…うーん、結局【殺したことに意味はなかった】ってのは…。謎と謎崩しという構図をミステリとするならそこから明らかにはみ出ていますな。ま、今までの作品でもその系統で来ていたので、Vシリーズの集大成という所でしょうか? 保呂草他の哲学的思考部分は、まぁそれなりに。基本的に新しいことはないですが、新しい事として接する時期の人には訴求力があるかと。いろいろと言ってますが、要は神林も言っていたり。
 ミステリとしての骨子以外のストーリ展開は流石。色に塗られた死体は、どっちかというと「女囮捜査官4 嗅覚」(山田正紀)のバービー人形に模された、サンオイルが丁寧に塗り込まれたソフビの人形の様な死体を思い出した。(こちらには意味があったのだが)。
 そう考え比較すると、Mシリーズの時の【意味無しジョーク】が思い起こされるのだが…。実際の殺人の理由だけ見直すとさすがに納得性は低いなぁ。(謎の合理的解決だけが魅力ではないという切り方もあるし、自分自身はいちばん楽しめるスタンスにギアをシフトして読むという事をほぼ無意識にしているので、楽しめる部分で楽しんではいるのですが)。
 具体的に検証してみると、【第一の死体は何故わざわざ自分のマンションで殺されなければいけなかったか?とか、二つ目の死体(緑)はともかく、三つ目の黒と帆山美零との関連、がはっきりしません。ほぼ死亡時刻が特定できる事から3つ目で容疑者として浮かんでいるのにアリバイ確認が出てこない所】等、材料に対しての謎解きを期待すると(相変わらず)肩すかしを食らう。また、【意味がない】なら、なぜ接点を残すのか?という点も消化されていない気がする。もちろん、解として、世俗に依らない云々という議論は作中ではされ、リスクを考えてするのか?いやそれでもするのだという話はありましたが、その突き抜け感と、作為的又は不作為的に犯人への残された接点やアリバイ状況等が、バランスをとられていない、つまりまだ納得できるレベルにないと感じた。(納得できないから意味のない殺人なのだというような話ではなく)。よく考えたら1巻目の「黒猫の三角」もそうで、特異な連続殺人で同じような議論をしていた。これは作者によって意識された対象性とも捉えられるが。だから当然のように、突然、秋野が出て来たという感じではある。(この、獄中の切れ者から情報を得るというシチュエーションでは、「すべF」からもそうだったように、「羊たちの沈黙」を思い起こさせます)。
 ところで、小鳥遊練無、今回も【機械仕掛け】説をブチ上げれば、最後にあたったのにね。(笑)  さらにこの巻で、Vシリーズ最後となり、ある意味オープンエンドではありますが、最後のページで、アノ人がきますか。にやり。
 へっくんは中学校上がる前という記述があるので12歳、【四季は8歳】という事で【へっくん=犀川説】は補強されるって事でいいかな?(計算はまかせた。Mシリーズ読み返さないと分からない)。ま、林警部が瀬在丸紅子に出した祝儀袋(多分へっくんの養育費)で、林警部のフルネームが『●川 林』という事が紫子と練無の会話で暗示され、そちらでほぼ【「犀川」】説は補完か。→【ファーストネームが『林』】な訳です。当然ながら【犀川の妹は七夏の娘】という事になりますな。しかし国大医学部なら練無も漢字くらい読んでください(^_^;)。「今夜はパラシュート〜」の某は【萌絵を自称した佐々木睦子】という方向で一つ。
 当巻でかなり強調されていましたが、一部の頭つきぬけた人同士は引き合う(スタンド使い同士みたいなもんだな)は、設定としては面白い。「90年代SF傑作選(下)」収録の「理解」(テッド・チャン)を思い出した。今後の絡みにも期待。
 しかし、何故、【人格は栗本其志雄】? なんか出てきてましたっけ? 最近は俺はメメント状態なので、シリーズに渡る伏線とかは繋げる前に忘れちゃうことが多くて…(^_^;) 
 それから、このシリーズは毎回保呂草のモノローグで始まり、それぞれの人物の知り得たモノを出来るだけフェアに提示しているという事だが、七夏とかの嫉妬とか紅子の思考部分を読むと、それは保呂草が集めた事実から推測されることなのか?問いたい、問いつめたい、小一時間…と思ってしまう。ま、小説としてのメタレベルのお約束という事で。
 あ、最後オープニングを読み返すと、保呂草の語りで、練と紫子の先が暗示されていますが、さらに具体的にエピローグで練の微妙な反応が見られる事から、この先、たとえば短編などでいろいろと変化していく関係がこっそりと載ったりするのかなと思ったり。
 さて、【保呂草が舞台から去り】、次のシリーズはどこへ向かうのか? カーテンコールの終わらない思いも掛けなかった人物が出てきたところで、このシリーズを読み進めるにつれかなり下がってきていたモチベーションも俺的には現金にも回復して、次シリーズへの興味が高まりつつ…。


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「赤緑黒白」


◆2002/9/6(金)読了。「イリヤの空、UFOの夏 1」秋山 瑞人(電撃文庫0593) - 02/09/26 18:49:53

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◆2002/9/6(金)読了。「イリヤの空、UFOの夏 1」秋山 瑞人(電撃文庫0593)
 2巻目を頂いたので、1巻を購入。暫く経ってしまいましたが、出てきたので読み始めました。そして一気読みです。
 ◇夏休み最後の日、ある目的のため夏休み一杯を使って行なった裏山からのキャンプを撤収した浅羽直之は、夏休みの最終日を満喫するために、学校のプールに夜中に忍び込もうと決心する。いざ忍び込んでみると…そこには一人の女の子が居たのだった。不審に思いつつも泳ぎを知らない彼女に泳ぎ方を教えている中、外にサイレンの音が。さらに、彼女を回収しに来たという黒服の男が現われる。いつのまにか包囲されている(らしい)プール。その男は、浅羽自体は何の問題もなく帰れるといい、そろそろ時間だというのだが…。突然の幕切れにとまどいつつも、かろうじて、その子の名前は知ることが出来ていた。イリヤ。彼女はそう言った。そしてそれがイリヤと僕らの物語の始まりだった。
 「鉄コミュニケーション」「猫の地球儀」の作者・秋山瑞人による最新長編シリーズ。
 うん。青春小説です。青春のピースが惜しげもなくぶち込まれたこの物語には、青臭い照れを覚えつつも、どっぷりと引き込んでしまう力が確かに、ある。各ピース自体はどこかであったようなシチュエーションや設定なのだが、それ自体をも利用して独自の世界を築き上げつつ、琴線に触れる出来事を積みあげていく手法は流石。その料理されっぷりが小気味よいというか。
 まー、ぶっちゃけて言えば、バックグラウンドで戦争は行われているが、汎用人型決戦兵器は無い世界のシンジと綾波のぼーい・みーつ・がーるモノというか。
 少年であるが故の世界の広がり(と裏返しの自分の知識のなさと非力振り)、そして日常としての学校、友達、そして『普通』の学校生活の出来事たち。それらが、秘密を持つイリヤという触媒によって、その形でしかありえない、その時期にしか味わえない想いを凝縮し、眩しくも紡ぎ出されていく。
 まだ1巻なので先は見えないが、十分面白く、先を期待させる物語だった。
 次巻にも期待。


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「イリヤの空、UFOの夏 1」


◆2002/9/3(火)読了。「クリプトノミコン 2 エニグマ」ニール・スティーヴンスン(ハヤカワ文庫 SF 1401) - 02/09/17 18:19:05

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◆2002/9/3(火)読了。「クリプトノミコン 2 エニグマ」ニール・スティーヴンスン(ハヤカワ文庫 SF 1401)
 一ヶ月ほど掛かって読了。「クリプトノミコン1」の続編。2巻目/全4巻。
 ◇アビとランディが立ち上げた、フィリピン沖のデータヘヴン構築の為の事業の為の会社は、ヒューバート・ケプラー、通称<歯医者>の強引な手口により、一部の株を譲渡することになる。そこでケーブルの海底敷設の会社のダグ・シャフトーは、海底に沈むUボートを発見したとランディに伝えてきた。同時に語られる、大戦中の暗号解読にまつわるパートでは、ランディの祖父・ローレンス・ブリチャード・ウォーターハウスと、ダグの父・ボビー・シャフトーが、ドイツ暗号<エニグマ>解読に関わる。そして大西洋で沈没したUボートから金塊を発見する。
 この二つのUボートという符号で、物語の大戦パートと現代パートがやっと結ばれる。それぞれの物語の行く末には何があるのか? この符号は何を意味するのか? 大西洋で戦時中に発見されたUボートと、フィリピン沖に沈んでいるのが確認されたUボートは、同一のものなのか?
 という事で、3巻へ続きます。
 うーん、面白いのか?と聞かれたら、読んでいるとつまらなくはないという感じです。物語がどこへ向かっているのか、又は、読者は何を期待して読み進めればいいのかが不明なので、どうしてもダラダラと読んでしまう。それなりに蘊蓄は仕込まれて、饒舌に語られる物語には筋とは無関係と思われるものもあり、話が進まない分、イライラしてしまう人には向かないかも。
 全四巻の本作品は、既に7月で日本語版の出版は完結しています。既に買ってありますので、とにかく全部読んでみようとは思ってます。(が、3巻に取りかかるのは、ちょっと置いてからになりそうです)


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「クリプトノミコン 2 エニグマ」


◆2002/07/28(日)読了。「左眼を忘れた男」浅暮三文(講談社ノベルス) - 02/09/03 18:00:20

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◆2002/07/28(日)読了。「左眼を忘れた男」浅暮三文(講談社ノベルス)
 「ダブ(エ)ストン街道」「カニスの血を嗣ぐ」「夜聖の少年」を書いた浅暮三文の最新刊。
 ◇意識を取り戻した自分は、病院のベッドに居た。そしてどんなに力を入れても自分の身体がピクリとも動かないことを知る。第三者から見ると意識もない重体の身元不明人という存在のようだ。後頭部を強打されて運ばれたらしい事は、看護婦の会話から知ることが出来たのだが、さらに、強打されたショックで左眼は眼窩から飛び出し、倒れた現場に転がっているらしい。そして失ったはずの左眼から何故か入っている映像と、さらなる偶然による左眼の移動と共に、犯人の手がかり、そして犯人自体に近づいていく事を知る…。
 という事で、一見、同ノベルスの西澤 保彦(ex.「七回死んだ男」)のように、一見奇抜でも論理は通っていて、その公理系の上で、パズルのように謎解きが展開されるかと思いきや、寧ろ一人称と謎が交錯し、目眩にも似た感覚に襲わせる幻想小説系の物語だった。
 そういう意味では、自分の期待値と異なっていたと言えよう。まぁ幻想系にはよくある、無理(と思われる様)な思いこみ記述(ex.【ウズラの卵を目玉と間違えるような】)にツッコミを入れつつ、途中からは、オチのみを求めて読んでいた様な感じです。
 そして物語のラストはというと、薄々感じでいた通り【夢?幻想系?】的エンディングという事で、結局自分にはあわなかったという事でしょうか。
 前作の「匂い」に注目したハードボイルド「カニスの血を嗣ぐ」は好みだっただけに残念。
 ただ、一人称の混乱系記述や、時系列的に起こった事は、ちゃんと整合性が取れるのか?それとも幻想の中で酔歩していくのか、掴みきれなかったプロットに興味は残りますが…。
 幻想・怪奇系が好きな人に薦めておきます。


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「左眼を忘れた男」


◆2002/8/20(火)読了。「グイン・サーガ86 運命の糸車」栗本薫(ハヤカワ文庫JA698) - 02/08/23 18:05:08

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◆2002/8/20(火)読了。「グイン・サーガ86 運命の糸車」栗本薫(ハヤカワ文庫JA698)
 グインサーガ最新刊。マターリと読了。
 ◇リンダから救援を求められたケイロニア豹頭王グイン軍の進行により、マルガを押さえていたイシュトヴァーン軍は、撤退を余儀なくされる。寧ろ問題は、イシュト軍の退路であった。イシュトは、グイン軍が本気でないことをその戦闘振りから知るが、鍛えられたグイン軍は、彼にとって侮辱と言うよりも、羨望であり、その大きすぎる力にはさすがに畏怖を覚えていた。そしてグイン軍は動き、イシュトとグインは再び相まみえることになる。その圧倒的な力で一対一の戦いを――イシュト自体には傷つけずに――終わらせたグインは、イシュトヴァーンに語り始める。一つはキタイによってイシュトヴァーンに掛けられた催眠の事、そして撤退にあたっての条件だった。一方イシュタールでは、イシュトヴァーンの子を身ごもり、幽閉されているアムネリスの運命に転機が訪れようとしていた…。
 アムネリアスの件は、前半で明かされるのですが、シリーズのかなり最初から登場していた人物のついに訪れる【物語からの退場=死】ですね。なんか不幸がというよりも、不幸自体にがんじがらめにされた形で、呪詛を蒔きながらのそういう事になりました。子供がかわいそうでしょう…。そのまま名前(【悪魔の子ドリアン】)がついちゃうんでしょうか? カメロンとうにゃうにゃあってイシュトが切れてというどろどろ展開があるかなぁと思っていたのですが、先に臨月が来ちゃったのでそう言うことになったのかな? しかしナリスなどは死ぬ予定であったのに延命しているというしぶとさなのに、つくづく運のないお人でした。イメージは中森明菜?(^_^;)
 あと、イシュトヴァーンですが、グインと関わるとやっぱり良い方向に向かうようで、結局まだまだダークサイドには転ばないんですね。暴君ではあるが邪悪ではない。タイマンはって、仲直りして…って、一昔前の番長マンガかっ!?(笑) 突っ込んでみたけど、話的にはまぁオッケーでしょう。ラストの引きで【ナリス放出を否定】したイシュトヴァーンは、どうするつもりなのか…。全てをグインの手の上で踊らせられる事の否定なのか、待て次号!


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「グイン・サーガ86 運命の糸車」


◆2002/07/04(木)読了。「最果ての銀河船団(上・下)」ヴァーナー・ヴィンジ(創元SF文庫) - 02/07/10 19:43:47

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◆2002/07/04(木)読了。「最果ての銀河船団(上・下)」ヴァーナー・ヴィンジ(創元SF文庫)
 「遠き神々の炎」「マイクロチップの魔術師」のヴァーナー・ヴィンジの、ヒューゴー賞、キャンベル記念賞受賞作。
 と、なればいやがおうにも期待するじゃありませんか。分厚さも圧巻。文庫で¥1260x2ですから…。ちなみに表紙は鶴田謙二。マンガ絵だけどイラスト寄りです。(ただ俺的には加藤直之きぼんぬ)。これに合わせて、「遠き神々の炎」の表紙絵も鶴田謙二に変わるとのこと。(ちなみに「遠き神々の炎」かなりお薦めなので是非読んでみてください)
 そして本体。分厚くてもそれなりに読ませるのは流石で、上下巻合わせて1300ページ弱を約10日で読了。下巻は2,3日で読み終わっちゃったよ。やっぱ伏線が収束していくと止められなくなるんだよねぇ。
 ◇三種類目の知的異星種族が発見された。250年の内35年しか光を放たないという恒星オンオフ星の惑星に住む、無線文明まで到達した蜘蛛のような形状の種族だ。彼らの持つかもしれない文化・人類との文化差によって利益を得ようと、ラムスクープ船と化学的抗老齢化処理、冷凍睡眠技術によって数千年−数百光年に広がり栄枯盛衰を繰り返す人類版図から、文明と文明を繋げ商売を行うチェンホーがオンオフ星の唯一の惑星アラクナ星を目指した。一方、独裁体制でその社会制度に秘密を持つエマージェントも同様にアラクナ星を目指していたのだった。当初協力体制をとろうとした二つの人類グループだったが、疑心と、ある必然から戦闘が起こり、それぞれの船団は大破。折しもオンオフ星は35年間のオン期が始まろうとしており、二つのグループは蜘蛛族文明化するのを待ち、船の修理を行うしかなくなっていた。
 と、オープニングは一口でいうとこんな感じ。実は、読む前に(内容を知らずに)結構期待していて、最初の展開にちとがっくりしたりしたりして。何故なら蜘蛛型という異星人でありながらも人間的という所の妙を狙ったところが既に陳腐とか思ったり、オンオフ星ってネーミングに既にセンスを感じなかったり、チェンホーって商業交易集団って所が地味だし、焦点が蜘蛛の文明化と異文化コミュニケーションと人類側の駆け引きやら争いやらではなぁと思ったりしたのでした。
 そんな訳で、訴求力としての「何か新しいもの」はあまり感じられずに読み進めていったのですが、そこはそれ、さすがに読ませます。読みながら歴代のSFの断片を感じますね。「夜来たる」「重力の使命」「竜の卵」「メトセラの子ら」「ゼノサイド」等々…。(既読の方はたぶんどの作品ががどんな感想に対応するのか分かると思います(笑))
 さらに、ワープ航法がない既存の物理的可能性の延長的宇宙という事で、ラムスクープ船+抗老齢化処理で描いたまっとうな星間文明(と状況)ってのは、ワンアイディアの短編以外では今まであるようでなかったかと。それがもたらすシチュエーションもしっかり描かれており、そこら辺にはセンス・オブ・ワンダーを感じました。
 個別の感想としては…、蜘蛛族の部分の人間的すぎる描写が――エクスキューズはあるも「逃げ」な感は否めず。とか。ファム・トリンリは【ラザルス・ロング】だよなぁ、とか。(もしくは【「百万年の船」】か)。人間ドラマの部分でいまいち感情の変化が理解しにくかったり、最初主役なエズル・ヴィンが【トリンリ】台頭で、そのストーリーに合わせて【ただの使いっぱ】になっちゃったんじゃないの?とか思った部分もあり。キウィ・リン・リゾレットの状況はなかなかいい味だしてるなぁ。「蛇使い座ホットライン」&エルチ・カーゴ(byザブングル)だよな、とか。FFXIにハマっている俺は”集中化”なのか?とか(笑)。
 いやいや、いやいや、この分量を書ききり、それなりに読ませるというのは流石です。なんだかんだいって面白かったです。
 尚、「遠き神々の炎」は同じ(だが数千年未来の)宇宙を描いています。自分的には「遠き神々の炎」の方が面白かったですが、あまり関連はしていないので個別に楽しむのも可。読んだ人には某人物の将来へのミッシングリンクとかさらなる作品への期待が生まれたりもします。…それもそのはず、オンオフ星の意味が巻末の堺三保により解説されておりますが、これが正しければ、さらなる作品が予定されている…かも。
 しかし、このヴァーナー・ヴィンジ、結構寡作なんですねぇ。短編集・合本・改訂入れてのべ12冊、本書が最新長編となっております。(ちなみに奥さんはジョーン・D・ヴィンジ(「雪の女王」「鉛の兵隊」)…だとばっかりだと思っていたら1981年に離婚し担当編集者だったジム・フレンケルと再婚したとか)
 次の作品でも、魅力ある「遠き神々の炎」宇宙モノを期待です。


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「最果ての銀河船団・上」
「最果ての銀河船団・下」


◆2002/06/25(火)読了。「公家(ハウス)アトレイデ デューンへの道 3」ブライアン・ハーバート & ケヴィン・J.アンダースン(ハヤカワ文庫SF1402) - 02/06/27 14:21:07

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◆2002/06/25(火)読了。「公家(ハウス)アトレイデ デューンへの道 3」ブライアン・ハーバート & ケヴィン・J.アンダースン(ハヤカワ文庫SF1402)
 新シリーズ第一部の三作目最終巻。勢いがあってあっと言う間に読んでしまった。
 ◇一世紀以上もの間統治を行ってきた老皇帝エルルウッドが崩御した。権力バランスの変化に新たな権力闘争が始まっていた。闘牛場での陰謀によって死んだ老侯爵ポウルスの跡を継いだ侯爵となったレトは、皇太子シャッダムの即位式の際に、イックスからの亡命者である友人ロンバールの権利回復を直訴しようと考えていた。ところが、即位式のために参じたレトたちの乗った<大宇宙船>(ハイライナー)の帝都惑星カイテイン周回軌道待機中、隣に停船しているトライラックスのハイライナーが爆破された。ハルコンネンの開発したゼロフィールドによって認識できなくした宇宙船による攻撃であったのだが、以前レトはトライラックスに蹂躙されたイックス支援を表明しており、また状況はアトレイデの船によって攻撃されたことを示していた。これによって未曾有の大戦争の火蓋が切り落とされるように見えた。しかし、レトの証拠保全の主張と機転により、ランドスラードの条文により失地回復裁判に上がることになる。また次の皇帝エルルウッドに接近したベネゲセリット・アニラルはエルルウッドの結婚を控え、一方でベネゲセリットの大いなる目的であるクイサッツ・ハデラッハへの道にはアトレイデ家の遺伝子が必要という事から、皇帝についてのある情報をアトレイデに匿名で提供する。次代皇帝の時代をにらんで、いくつもの陰謀と計画が動き始めていた。
 という訳で、第一部終了。さくっと読めました。うむ、読ませます。「砂の惑星」での”それぞれがやっている事は描写されるのだけれども何のためにやっているのかが描写されずに読者が試される”という形式からいくと、今作では、アトレイデ、ハルコンネン、皇帝、ベネゲセリット、ベネトライラックスといくつもの勢力とその陰謀は出てくるんですが、それぞれがなんのためにという所が明かされているのでかなり読みやすい作りとなっています。
 しかしコレ、もっといろいろとちゃんと収束するかと思いきや、メインの大きな盛り上がりは物語的収束を見せてはいるんですが、それ以外の伏線は全然消化されて無いじゃないか〜(^_^;)。 イックスの元伯爵ヴェルニウスの復讐(とそれに伴う影響)とかベネゲセリットのレトの恋愛候補(「砂の惑星」ではポウル・アトレイデを恋愛の中で自分を失い産んでしまったと言っていた)とか、イックスに残された双子の片方が発明したスペーシングギルドのナビゲイターによる超光速通信とか、ハルコンネンの開発したゼロフィールドの今後の歴史への影響とか…。
 結局それは、次部作以降の「公家(ハウス)ハルコンネン」「公家(ハウス)コリノ」へと続くわけですね。
 あとこの三巻目では、著作者のあとがきとして、ブライアン・ハーバートとケヴィン・J.アンダースンのそれぞれのあとがきがつき、さらに<デューンシリーズ>の訳者で当シリーズの訳もした矢野徹のあとがきまでつくというサービスぶり。
 ちなみに著作者のあとがきでは、フランク・ハーバートの遺作メモが出てきた事からそれを元に「デューン 砂漠の異端者」(やはり三部作構成の二部作目)の続編も書かれる予定だと明言されておりました。
 「砂の惑星」に始まる壮大で複雑な物語の以前からのファンも、そしてこの新シリーズで新たに<デューン>に接する事になった新しいファンも、期待して待て!という事ですね。


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「公家(ハウス)アトレイデ デューンへの道 3」


◆2002/06/24(月)読了。「グイン・サーガ85 蜃気楼の彼方」栗本薫(ハヤカワ文庫JA695) - 02/06/24 15:32:50

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◆2002/06/24(月)読了。「グイン・サーガ85 蜃気楼の彼方」栗本薫(ハヤカワ文庫JA695)
 出たのでさくっと読了。「クリプトノミコン1」に2週間くらい掛かっていたのが嘘のよう(笑)。
 前回の衝撃のマルガ陥落から情勢は…。
 ◇折しもヴァレリウスとリンダ王妃がサラミスに中流のケイロニア・グイン軍へ助力を乞いに行っているそのさなかに、イシュトヴァーンの軍勢よってナリスのいる神聖パロ王国を掲げたマルガは陥落した。ナリスは自らの命を人質に、自らの寝室に於けるプライヴァシーを確保する。一方グインはイシュトヴァーンに、ヴァレリウスとリンダ同席の下、人質の解放条件について会議を要請する。あくまでナリスをゴーラの首都イシュタールに連れて行く事に固執するイシュトヴァーンに、その理由をグインが問うが、イシュトヴァーンは急激な頭痛の為一時退場してしまう。残された面々は、イシュトヴァーンに対してキタイの手がどこまで接触しているのかを推し量るが…。グインはイシュトヴァーンの性格から、逃げ道をなくすのは良くないと考え、交渉については決裂させ、イシュトヴァーン軍への道を残しながら戦端を開こうとする。
 前回のヒキでは、いよいよナリス死亡くらいまで発展するかと思いきや、イシュトの固執した感情にってからくも囚われの身になるだけですんでます。ま、ナリスの安全確保は、キタイの後催眠という設定らしいが。
 今回の見所は、やっぱグイン・イシュト・リンダの三者会議でしょう。物語の中でも何年ぶりもの再会です。ま、戦下であり、こういった時につきものの、感慨を込めた振り返りを行う栗本節は押さえられていましたが。まぁどっちがいいかはともかく、せっかくの舞台ではありますがあまり盛り上がらなかったですね。グインの重厚さは出てたけど、「おお〜グイン殿はあの中でそんな事まで…」とか脇役にいちいち思わせるのはどうかと。
 前半に描かれる、イシュトにヴァラキア時代に世話になり、今はナリスの側近としてイシュト軍との交渉役を務めることになったヨナとの邂逅については、まぁ普通か。でもなんだか、イシュトに気を配る周りのカメロンとか、まぁ今回イシュトにとっては敵方ながら変わり様に驚くヨナの箴言にもかかわらず、妄執する狂王という構図が先にある感じがしちゃって、イマイチ。もうちょっとイシュトには揺らいで欲しい。都合良くキタイの<芽>は埋め込まれていなかったようだし。もしくは前回思ったようにホントにヒールとして徹するとか。なんだか、肝心な所で頭を痛がらせてみたりとか中途半端かと。
 文章自体は、まだぱっと読んでいて分かる細かい間違いとかがありますけど、まぁ流して読める範囲かな。例えばp254「ヴァレリウスは奇妙な雄弁な微笑を浮かべて黙り込んでいた」とかは自分としては流れの中で読んでいて引っかかります。(こういうのって編集者のチェックの範囲じゃないのかなぁ? そういやこないだジャンプ連載「ワンピース」で二頁大ゴマのセリフで「役不足だ、出直しな」ってのがありましたが、明らかに誤用では? 作者のミスでも編集者がチェックしてやれよ〜とか思った。)
 あと気になってしまうのは、簡単な漢字を平仮名に開いてしまっているところ。「こころ」「ひと」「いのち」とか。難しい漢字は逆にルピも無しにひょこひょこ出てくるんですが。まぁ難しい漢字を平仮名にすると馬鹿っぽく見えるのでそれはそれでいいんですが(ルピとかふってくれれば)。文字が大きくなったのと合わせて、自分には違和感があって慣れないですねぇ。字はでかくなっているのにルピが無い不親切を考えると、平均年齢層が毎年上がって行ってる(推定)読者に対してのサービスではなくて(笑)、単なる実質上の原稿料値上げ…? …はっ、もしや平仮名に開いているのも…?(笑)
 お楽しみ(?)のあとがきは、相変わらず自画自賛で、まーいいんですけど、なんかあとがきもそれだけにしては長くないですか? はっ!?もしや、これも…(笑)
 てか、物語の才能ってシャーマンに近いのでしょうか? ガラスの仮面然り、あっちの世界に行ってしまって帰ってこなくなった人も多いみたいので…。せめてあっちに行ってしまうのは、完結してからにして欲しいです。2年前のうんぬんて、2ch事件だっけ? 良く覚えてないですが…(^_^;)
 信者じゃないと読みづらいあとがきではあるでしょう。それこそ、読まないのはアンチで読むのは信者という二分法じゃないんですから…ま、でも、本文に波及しない限りは、あまり言うまい(笑)
 さて、次巻は8月に正篇グイン・サーガ86巻との事です。


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「グイン・サーガ85 蜃気楼の彼方」


◆2002/06/20(木)読了。「クリプトノミコン1 チューリング」ニール・スティーヴンスン(ハヤカワ文庫SF1398) - 02/06/21 09:59:35

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◆2002/06/20(木)読了。「クリプトノミコン1 チューリング」ニール・スティーヴンスン(ハヤカワ文庫SF1398)
 ローカス賞受賞作。ニール・スティーヴンスンとしては、過去にハヤカワ文庫SFから「スノウ・クラッシュ」が邦訳されてます。ちなみに「スノウ・クラッシュ」は途中で(めったにないことなんですが)投げ出してしまいました(^_^;)。
 こちらはそれなりに面白い雰囲気なんですが、海外物の読み難さがやっぱりありますね。
 ◇アラン・チューリングと同じ時期に大学で学び、知己でもあったローレンス・ウォーターハウス。やがて大戦によって、その暗号解読の才能を買われ、軍の特殊部隊で働くことになるが…。そして現代。ローレンスの孫ランディ・ウォーターハウスは、TRPG廃人から興味の方向を広げた結果UNIXの達人となり、とベンチャー企業の技術重役としてあるプロジェクトに関わっていた。それはフィリピンのある島をデータ避難地とするものであった。この二つのメインストーリの間に、さらに第アメリカ海兵隊の下士官ボビー・シャフトーが、二次世界大戦の暗号解読戦の一兵卒としての視点で眺めた世界が語られる。
 そんなこんなで重厚な作り。ただ、もともとは一作の大作を日本では四分冊にしたので、この「クリプトノミコン1」だけでは、伏線だけで、それの絡みもまだないという状態。今まで読んだだけだと、SFレーベルから出ているのが疑問なくらい現実的内容なんですが、これはハヤカワNVで出さないという早川書房の戦略なのか?それとも次巻以降でSF的な作りになっていくのか?
 とりあえず、毎月出ていくそうなので期待ですね。


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「クリプトノミコン1 チューリング」


◆2002/06/03(月)読了。「朽ちる散る落ちる」森博嗣(講談社ノベルス) - 02/06/11 17:57:07

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◆2002/06/03(月)読了。「朽ちる散る落ちる」森博嗣(講談社ノベルス)
 「90年代SF傑作選(上)」が終わってから読み始めたのだが、結局、傑作選の下巻よりも(そしてその後に読んだ<デューンへの道>よりも)、読み終わりは遅くなってしまった。ま、そんな一冊。(^_^;)
 ◇「六人の超音波科学者」事件で発見された内側から閉じられた地下室。そこの現場検証として地下室の扉が破られる日に、関係者として瀬在丸紅子、保呂草淳平、小鳥遊練無が立合った。そしてそこに現われたのは、奥底で不可解な衝撃を受けて死んでいる死体だった。一方、瀬在丸紅子は超音波研究所の出資者でもある小田原氏に紹介された周防氏から、アメリカの衛星内で全員が他殺として死んでいる不可解な事件を示唆される。
 という事で、前作「六人の超音波科学者」から土井超音波研究所の舞台は続いてます。
 ミステリの焦点自体は二点。1.密室の地下室の死体はどうやって死んだ(殺された)のか? 2.周防氏が語った衛星内の全員が殺されていたという殺人事件は誰がどう殺したのか?
 1については、まぁ納得がいく形での提示。【オオバコ】モノなんですが。2については【殺人者の記述を抜いた報告書】だったから…って、なんだそりゃぁ!。帯に「宇宙密室」とか書くな〜。
 しかしどうなんだろ?このシリーズ。一般的には受けているのでしょうか? すべFシリーズが面白いと思った人が惰性購入しているって事はないのかな? 俺はそうなんですが…。けどどこぞの週間売り上げでTOPになってたからなぁ。
 読んでいて思い出したのは「適切な質問を見つけることが出来れば、それはもう答えを発見したようなもの」という格言。散漫なストーリー展開で、どこがミステリとしての焦点なのかが、またそのミステリを解こうとする牽引力としての物語の適切な運びが、自分には感じられなかったからです。
 なんていうかミステリ・オリエンテッドじゃないというか。物語自体がそこに収束していかないもどかしさがありました。パズル的本格の醍醐味と人間関係ドラマの統合がいまいち取れていないというか。例えば、紅子の息子のへっくんがいなくなる所は物語的にどんな意味があるのか? 人間ドラマ(今回はちとどろどろした部分を見せてましたが。紅子も当初の超然的な人格から、かなり大人の女の部分が出ているあたり)部分としてもいまいちしっくりこなかったり。
 あと、これは微妙な所だとは思いますが、肝心の犯人の【グループとCIA】だかのバックグラウンドが明かされない事に欲求不満を覚えました。先述の2については、そもそも推理で解くのではなく、状況は背景から解くべきモノだろう、と。それだともちろん本格的センス・オブ・ワンダーはないとしても、【殺人者の記述を抜いた報告書】でした、チャンチャン♪じゃあなぁ…。
 まぁでも次が出たら買うんだろうなぁ…(^_^;)
 最近は読み流しているので、誤読とかミスリーディングされている可能性があるけど、副次的謎については、あいかわらず解答がない(整理されない)作りなので、気になれば考えるけどという程度で、俺も気にしないことにしてます。


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「朽ちる散る落ちる」


◆2002/06/06(木)読了。「ビートのディシプリン SIDE1」上遠野浩平(電撃文庫0645) - 02/06/06 19:22:42

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◆2002/06/06(木)読了。「ビートのディシプリン SIDE1」上遠野浩平(電撃文庫0645)
 <ブギーポップ>シリーズも11作目。とうとう、というか、やっぱりというか…今回『この厳しい試練(ディシプリン)に死神(ブギーポップ)は現れない』。ブギーポップ自体は以前に指摘した通り物語の収束装置であり、読者が捉えている物語内のそれぞれの立脚する善悪の立場とは反対に、常に物語の提起を司ってきたのは実際には「統和機構」であった。そういう意味では、物語として閉じられればブギーの現われる必要は必ずしも無く、こういう物語が出たのは当然であるのかもしれない。善悪の立場と書いたが、これにしても、目的――未だに謎ではあるのだが――に対する統和機構の用いる手段は非情ではあるのだが、必ずしも悪ではない、もしくはその立場は視点に依って評価が変わるくらいの微妙さである、と言えるだろう。
 その世界観は未だ全てが語られず、それを明らかにしていくこと自体が物語の魅力、牽引力ともなっている。しかしながら、それ以上に何がブギーシリーズを魅力あるものにしているかと言えば、常にこのシリーズが、ブラックボックス(統和機構とブギー)によって事件と関わり、乗り越え、成長する若者達の骨太の青春小説であるからだろう。  ◇統和機構の合成人間ピート・ビートは、統和機構最強といわれるフォルテッシモから、謎の存在「カーメン」の調査を強要される。これは厳密に言えば統和機構の命令違反で反逆に値するのだが、調査さえこなせれば問題ないだろうとフォルテッシモは言う。カーメンを追うピートの前に彼の命を狙って現われたのは、反統和機構のダイヤモンズのメンバ・ラウンダバウトだった。一方、ピートの隠れ蓑としての学生生活内で彼の特殊能力が鈍る相手がいた。その相手、浅倉朝子もまた彼に興味を持っていたのだった。浅倉朝子、彼女もまた人には言えない特殊な能力を持っていたのだった。そして彼らにディシプリン=<過酷な試練>が降りかかる…。
 SIDE1という事で、SIDE2以降に話は続くのだが、一応まとまりある終わり方をしております。SIDE1という事を忘れていて、「なんだ、これでおわり? シリーズ横断で「ブギーポップは笑わない」をやるつもりか?」と思ったりしましたが。
 けど、俺は基本的に読み返さない人なので、登場人物と年代が錯綜してて結構わかんなくなっていたり。もちろん、その物語内では楽しめる作りですが、錯綜してシリーズ内で描かれている時間軸や登場人物をちゃんと整理したい欲求に駆られますね。それが醍醐味でもあります。
 今回はかなりオースキャストで、ビート、ラウンダバウトの他にも【パール、リセット、フォルテッシモ、イナズマ】…となかなか豪華。登場人物たちのスタンド…じゃなかった、特殊能力はますますジョジョ化してたりとか思いますが、ここら辺も楽しみのひとつでしょう。
 ということで、待て次巻!


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「ビートのディシプリン SIDE1」


◆2002/05/31(金)読了。「公家(ハウス)アトレイデ デューンへの道 2」ブライアン・ハーバート & ケヴィン・J.アンダースン(ハヤカワ文庫SF1400) - 02/06/05 21:09:16

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◆2002/05/31(金)読了。「公家(ハウス)アトレイデ デューンへの道 2」ブライアン・ハーバート & ケヴィン・J.アンダースン(ハヤカワ文庫SF1400)
 という訳で、「デューンへの道」第二巻。立て続けに読んでます。毎月刊行なので来月には最終巻の3巻目も出て落ち着けると思うと安心できて嬉しいですね(笑)。
 ◇イックスの統治者ドミニクに恨みを持つ老皇帝とブトレリアンジハドを狂信するトライラックスの策略により、惑星イックスは彼らの手に落ちる。留学中のレト・アトレイデはドミニクの息子ロンバール・ヴェルニウスと娘カイレア・ヴェルニウスとともにアトレイデ家の故郷惑星カラダンに落ち延びる。一方、ワラッハ第九惑星に既知を於くベネ・ゲセリットは、その繁殖計画の詳細について計画を得、ウラディミール・ハルコンネンの種を得るための策謀を巡らせる。帝国惑星カイテインでは、老皇帝の脳に仕込まれた毒物が、徐々にだが確実に彼の生命を蝕んでいた。惑星アラキスでは、惑星学者カインズがフレーメンに帰化し、彼のヴィジョンを受け入れたフレーメンたちによって壮大な計画の一歩が踏み出されていた。ジエディ・プライムを逃れカラダンに渡ったダンカンは、老侯爵ポウルスに面会がかない、そこでの職を得る。反逆した貴族の身内をかくまっているという弱みを持ってしまったアトレイデ家に対して、ハルコンネン家は、その失脚を狙ってある陰謀を巡らす…。
 という事で、立て続けに、<デューンへの道>の2巻目です。<デューンへの道>がわりとストレートなプロットのために、またそれだけではなく<デューン>によって語られている未来とそれぞれの勢力が陰謀の中で意図している事を、すでに読者が知っているために、プロットも分かりやすい構成となっている。
 それはそれで物足りなかったりもするのだが、未来は決まっているのでしょうがない。懐かしい名前の登場人物たちが織りなすマキャベリティックな陰謀と策略(ここらへんがまさに<デューン>が<ジャンプドア>シリーズの後に書かれた、その濃さなのだと実感するのだが)と人間模様の醍醐味の他に、<デューン>への伏線が如何に展開され、消化されるかという楽しみもあり、今回は【今回何故か格好良い筋肉質の二枚目として登場したウラディミール・ハルコンネンの落ちぶれる理由】だったり【老侯爵ポウルス・アトレイデの死の理由】だったりする。
 いよいよ物語は佳境に入り、既にして最終巻が待ち遠しくはある<デューンへの道>。まだまだカーテンコールは終わらないのだ。


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「公家(ハウス)アトレイデ デューンへの道 2」


◆2002/05/24(金)読了。「公家(ハウス)アトレイデ デューンへの道 1」ブライアン・ハーバート & ケヴィン・J.アンダースン(ハヤカワ文庫SF1397) - 02/06/03 20:57:43

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◆2002/05/24(金)読了。「公家(ハウス)アトレイデ デューンへの道 1」ブライアン・ハーバート & ケヴィン・J.アンダースン(ハヤカワ文庫SF1397)
 なんとあの<デューン>シリーズが帰ってきた!。<デューン>シリーズの作者であるフランク・ハーバートの息子・ブライアン・ハーバートと、ケヴィン・J.アンダースン(「終末のプロメテウス」「臨海のパラドックス」「無限アセンブラ」「星界への跳躍」等の作者)の競作による、ポウルの父親レト・アトレイデの若かりし頃の「砂の惑星」の前日譚。
 ◇ハルコンネンの統治下にある惑星アラキス=デューン。アラキスでしか採取できないメランジの供給を減少させてきたハルコンネン家前任者の失策を挽回するためにウラディミール男爵はデューンに降り立った。またアラキスの生態系を探る為に皇帝により惑星学者のパードット・カインズがアラキスに遣わされていたのだった。一方惑星カラダンでは老侯爵ポウルス・アトレイデの下で若きレトが将来の統治者となるために教育を受けていた。そして彼は機械惑星イックスへと留学することになる。またハルコンネンのホームワールドである惑星ジエディ・プライムでは、平穏な日々を突然破られ、家族ごと捉えられた幼少のダンカン・アイダホが過酷なハント・ゲームの獲物として参加させられていた。帝国惑星カイテインでは、老皇帝エルルウッドが惑星イックスのドミニク・ヴェルニウスに対する陰謀を、またその皇太子シャッダムと野望を抱く友人フェンリングは、老皇帝を亡き者とするする陰謀を巡らせていた…。
  とりあえずわくわく読んでます。前日談であり、未来は決まっているために無限の可能性から<黄金の道>を紡ぎ取る処に依るセンス・オブ・ワンダーは薄いのですが、未来を知っている事から逆にそれぞれの影響の度合いや陰謀の意図を演繹出来るので。ある意味、「スターウォーズ エピソード1」みたいなもんか。
 物語的には、フランク・ハーバートの原作シリーズの様には入り組んだ作りにはなっておらず、さらに一度シリーズが展開されているために、前日談とは言っても、生態系やその後の歴史への布石の整合性をとった上で、かなり分かりやすい形でまとめられて読者に再提示されています。状況説明や直接説明無しでセリフや出来事から推理するような作りの<デューン>からすると物足りないかもしれないが、ちゃんと定義してある分、正確な意味でしっくりきたりします。
 邦訳は矢野徹で変わらず。けれども何故、表紙絵が加藤直之でないのかと問いたい。問いつめたい。小一時間問いつめたい。マンガ絵はだめだってのに…。
 自分は映画化(高校自体)よりもちょっと前から読み始めて、そしてデューン三部作以降の邦訳がハヤカワから徐々に出るたびに読んでたファンなので、とにもかくにも嬉しい。シリーズ後半は物語の大局が語られず、さらに細分化された情報しか語られなくなって、オチがつまびやかにされる前にシリーズが未完となってしまい残念な思いをしたものです。
 将来的には、途中で終わった「デューン 砂漠の大聖堂」「デューン 砂漠の異端者」の続編も描くらしい。という事で、かなり期待しております。
 この勢いでハヤカワも絶版になっているシリーズ後半を復刊してくれないかなぁ。どっかいってしまったので(多分実家)、シリーズを再度買い集めて読み直したいっす。
 メランジ、砂虫など主要なガジェットの他にも、ブトレリアン・ジハド、ゴールデンパス、クイサッツ・ハデラッハ、スティルスーツ、ナビゲイター、サンドトラウト、メンタート、ベネゲセリット、サルダウカー、ベネ・トライラックス、ゴーラ、フェイス・マスター…
 なにもかもがみな懐かしい…(笑)


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「公家(ハウス)アトレイデ デューンへの道 1」


◆2002/05/21(火)読了。「90年代SF傑作選(下)」山岸 真・編(ハヤカワ文庫SF1395) - 02/05/27 11:32:28

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◆2002/05/21(火)読了。「90年代SF傑作選(下)」山岸 真・編(ハヤカワ文庫SF1395)
 90年代SF傑作選も下巻に。けっこう長く読んでいました。90年代の中で選りすぐられたSFだけに中身が濃く面白い。その分、一編を読み終わってから頭を切替えるのに時間が掛かり、読み終わっても余韻に浸ってしまい、すぐ次の話には取りかかれなかったりして。なので時間が掛かった、という事で。いやぁ、SFのキレは短編にありとはいうけれども、ホントに堪能させて貰いました。
「マックたち」テリー・ビッスン…◇被害者の権利とやらで培養槽を作り、あとは知っての通りだ。…インタビュー形式で徐々に語られる状況とは、凶悪犯罪に対しての報復許容の社会であった。短編故のアイディア&見せ方かと。何故無理があるかと思ったかというと、魂問題と密接に関係があると思われるから。同じ記憶と遺伝子による肉体を持った人間がいる場合犯罪者は…?
「ホームズ、最後の事件ふたたび」ロバート・J・ソウヤー…◇21世紀に呼び出されたホームズは、そこで未来の人間には解けないという難問を問われる。何故この宇宙には人間しかいないのか? その根本的理由を推理したホームズは…。小林泰三の「酔歩する男」を思い出したり。
「理解」テッド・チャン…◇事故による脳障害への投薬により記憶力の上昇が見られ、被験者レオン自身の承諾の上で投薬が続行されることになるが、想像以上の知能の上昇によりレオンは人間の上位の知能レベルを越えつつあった。その結果国家から拘束されそうになるが辛うじて脱出し、落ち着いたところで思索に耽るが、さらなる知覚を求めてさらに投薬を行う。そして見えてきた世界とは。という事で通常世界からのポール・アンダースン「脳波」ですね(「アルジャーノン」というよりは)。この徐々にステージを上がっていく知能の描写が秀逸。それまでの知識の領域をさらに俯瞰して見える位置に立っていき、さらにその先にあるものをスタイリッシュに表現する。好み的には一番です。
「誕生日」エスター・M・フリーズナー…◇今日はテッサの6歳の誕生日。特別な日だ。読者に徐々にもたらされる世界認識で、リンダの愛する娘と彼女を取り巻く社会が浮き彫りにされる。政治的SFとでもいう作品か。ナノテクで胎児をコントロールするイーガンの作品(「祈りの海」収録)を思い出した。
「フローティング・ドッグズ」イアン・マクドナルド…◇あらいぐまのぼくとピーグとシーファーとポルコスピーノとパパ・マシンは目的地を目指していた。敵の生物たちをかいくぐって目指した先にあったものは。そしてぼくはぼくらの目的と生まれてきた理由を知る。牧歌的な一同を取り巻いていた非情なる現実感のバランスが読者を酔わせる。シルヴァーバーグの「夜の翼」か椎名誠の「アド・バード」か。確かに「黎明の王 白昼の女王」の作者というテイスト。
「標準ローソク」ジャック・マクデヴィット…◇取り壊し前の天文台に立って、カーライルは半生を振り返っていた。新しい標準ローソクの発見への期待とジュディへの愛へときめく日々を。エヴァレットの「あらゆる可能性について、宇宙がひとつずつ存在するのではないか。つまり、あらゆる波動関数が実現される場所が。もし、ある出来事が可能なら、どこかでそれは起きている」という説を持ち出すことで、カーライルがジュディと親しくなるために掴んだ切っ掛けは、長い年月を経て、再度思い返され、現在、ほろ苦くも彼をまた肯定する。超常的事柄は起こらないが、しっとりとした情感がSF的アイデンティティを包み込む。
「人間の血液に蠢く蛇――その実在に関する三つの聴聞会」ジェイムズ・アラン・ガードナー…◇「おまえの血の一滴一滴は無数の蛇とともに体内を巡っており、それはすべての塵の子供に等しく言えることなのです」(スザンナ福音書、第二十三章第一節)。中世に於ける顕微鏡の発明が聖書の言葉――教会の権威――に対してひとつの脅威をもたらした。けれども、血液に蛇状の物体が見れたのではないだろうか?それは気のせいなのだろうか。かくして教会は分裂し…。別宇宙モノというより、改変歴史物に近いか。時代を下るにつれて聴聞会をとりまく状況は科学的にそして現代政治的になり…。という事で味のある短編。これは昔SFマガジンで読んだことありました。過去に2回しか買ったことはないんですが(^_^;)。ジェイムズ・アラン・ガードナーと言ったら「プラネットハザード」とか「ファイナルジェンダー」なんですよね。
「ルミナス」グレッグ・イーガン…◇すべてのはじまりは単なる冗談で、議論のための議論だったのだが…。「数学の定理は、物理的系がそれをテストした場合にのみ真となる。系のふるまいがなんらかのかたちで、その定理が”真”か”偽”かに左右される場合に」とアリスンは言い放った。宇宙的論理の整合性は、宇宙の開闢期については不一致があり得、現在でも無矛盾性の不備が散らばっているのかもしれないというのだ。時代は下り、ワークステーションのアイドルタイムを使って先のプロジェクトの検証が進められている中、アリスンは結果から数学的論理の矛盾した二つの世界の境界を発見する。と、同時に何故か二人は命を狙われる事になる。この論理の境界線がどんな形を取っているか計算するために二人はつてを頼って現在の最高速の光スパコンを使用するが…。まさにイーガンらしいというか、SFらしいSFというか。「名探偵が世界を変える」というミステリの帯の惹句がありましたが(「黒い仏」殊能将之)、こちらはまさしく「数学定理が世界をかえる」。いやでも比喩的にではなく直接的なところがスゴイ。ある意味<ハロルド・シェイ>シリーズなんだが(笑)。コンピュータ解析時のイメージとしてはエヴァのMAGIが使徒に冒される回って感じかな。オープニングのいきなりの生命的危機状況も未来的でぐっときます。ガジェットは「ホログラム街の女」風。とにかくこの短編集でベスト作品を一作選べといわれたらこれになるのではないだろうか。
「棺」ロバート・リード…◇宇宙旅行に対する危険度はかなりのパーセンテージまで下がっていた。けれども無視できるほどのパーセンテージでい事も確かだった。主人公は新たな事業のために恒星間旅行で惑星を目指すが、途中に事故に遭い、その特製スーツにより命は取り留める。故障することのないスーツとあらゆるライブラリとたっぷりの時間が与えられた男は…。ヒネリの短編かと思いきや、大上段でワンアイディアですね。手塚治虫「火の鳥」の宇宙編(?)だかを思い出したり。壮大さがいいですね。オールドSFぽい味がまた良し。
「ダンシング・オン・エア」ナンシー・クレス…◇科学の進歩はその有り様を変える一石を芸術にも投じ始めていた。能力強化技術は、バレエそれ自体を異なるステージへ導いていたのだった。けれどもあくまで自然なままの肉体でのバレエを追求するバレエ団もあった。そこで起こった連続した殺人事件。被害者の所属していたバレエ団に所属する娘の母であり雑誌記者のスーザンが追究する真実と、時を同じくして学会発表された事実とは!? 芸術に身も心も捧げ尽くす人生に於いて、人為的な能力強化は何を意味するのか? ハードボイルドな筆致で描きつつも、価値観と科学の在り様を多面的に照らすのはまさにSFならではか。バレエと結びつけたところが特異なのだが、一般的なネタでは、遺伝子操作で強化された子供に対して自然人の同級生の子供が悩み、さらに新たな事実が判明して…という短編がO.S.カードかなんかが書いてなかったかな?タイトルが思い出せないんだけど。


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「90年代SF傑作選(下)」


◆2002/04/26(金)読了。「グインサーガ84 劫火」栗本 薫(ハヤカワ文庫JA691) - 02/05/14 19:07:09

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◆2002/04/26(金)読了。「グインサーガ84 劫火」栗本 薫(ハヤカワ文庫JA691)
 90年代SF傑作選の上巻と下巻の間にさくっと読了。
 ◇いよいよ、周りの者にはイシュトに何が起きたかはわからないまま、その行動からイシュトのナリスからの変節が明らかにされる。グインによって救出されたリンダは、パロ聖王・ナリス陣営へ合流して、ナリス側では、グインと会合を開こうとするが…。一方、スカールへの傷心で、ナリス陣営を離れ彷徨っていたリギアは、イシュト軍がナリス陣営に密かに行軍しているのを知り、それを報せようと戻ろうとする。その時、マリウスが魔道士イェライシャと共に現われる。
 という事で、ヤンダル対人類という二項対立よりはちょっと複雑な展開に。それでも、人類内の三国志という風ではないと思うのだが。前巻から前ふりが長かったイシュトの堕ちていく道も、とうとうヤンダルに操られる事となりここに彼の運命は決まります。あーあ、カメロンは悲しむな。ってか、イシュト陣営ではどう行動が起こるのか。それは暫く先の物語にはなると思いますが。まぁこれでうじうじとイシュトが悩むこともなくなり、亡霊におびえもせず、全てはヤンダルに責任転嫁しつつ残虐非道な道、血塗られた王道を歩く事になるんでしょう。でも、俺的には、うじうじしているよりは物語としては悪役として立ってくれた方が収まりとしては良いかもしれないですが、今までのような人間的な悩みがなくなった悪役ってのは、存在が軽くなりそうでちと深みがなくなるかもと危惧しております。尤も、文学的に悩んでいる割には、作者の筆が軽かったんで、なんかどうにもしようがあるのに迷惑なヤツだという感じに捉えることが多かったですが…(^_^;)。ヤンダルの傀儡となり、それでも将来、ヤンダル側に堕ちたイシュトが、最後の最後に某ゴクリの様に闇側に致命傷を与える、とか。
 今後の展開的には、結局討ち入られたナリス側は、なんとかナリスだけでも…となり、離れて待機しているグインの動向次第となるような。まさかまた擬死する訳にもいかないだろうし。舞台的にはイシュト対ナリスの対面が果たされて思いの丈の呟きがあったあとに、魔道でナリスがグイン側に移動とか…どうでしょう? いよいよナリス死亡もあるか?
 ということで、次巻は6月だったような。


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「グインサーガ84 劫火」


◆2002/04/17(水)読了。「鳥姫伝」バリー・ヒューガート(ハヤカワ文庫FT308) - 02/04/26 17:30:31

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◆2002/04/17(水)読了。「鳥姫伝」バリー・ヒューガート(ハヤカワ文庫FT308)
 世界幻想文学大賞受賞の中国ファンタジー。でも書いたのはアメリカ人。てことで異国趣味的に外からのイメージで描かれたファンタジーというより中国風昔話という感じです。とりあえずそんな感じなので、読んでいれば面白いのですが、先を読み薦めたいという原動力も薄いため、ちまちまと読み進めて、一週間ほど掛かってしまいました。
 ◇場所は中国、時代は唐。のどかな村だったのだが、少年少女たちが一斉に病に倒れた。少年十牛は村の年少たちを助けるために都に上り、そこで老賢者李高(リーカオ)に助けを求める。倒れている少年たちを見た李高は、これには幻の薬草が必要だと理解し、十牛をつれて薬草を求めて旅に出るが…。計略や知略で薬草を得た先に待っていたものは…!?
 話としては、昔話基調なので、なんでもアリという感じで、読者が推理や先読みをしたりというモノではないのですが、大人向けの昔話という事で、それなりに読ませます。
 昔話基調の中、やっぱりキャラが立っているのは李高(リーカオ)ですね。仙人みたいな老人。若い頃には相当色々やったろうという李高がいい味を出してます。李高の家で十牛は、状元及第を果たし翰林学士の位を皇帝直々に賜ったという金むくの牌を発見するんですが、それがこんなにファンキーな老人とは。(笑)。その李高と朴訥な十牛のコンビが非常にいい味を出してます。
 日月をも動かすといわれた進士(「蒼穹の昴」浅田次郎)の首席なんですよねぇ。
 総括としては、仮想の中国を舞台とした奇想天外な物語であり、読んでいる間はつまらなくはないのですが、物語として得るものがあるかという事と先述したなんでもありな構成が、読書の牽引力としては弱い。でも読了してみると、確かに、李高と十牛のコンビがしっかり読者の心に根付いていて、二人のさらなる存在(としての冒険)を見てみたいと思わせる作品でした。
 ただし、表紙買いする人には、ラストまで鳥姫自体は出てこないので、期待はずれだと思う人はいるかもしれません。てか、このマンガ表紙は(毎度ながら)なんとかならんでしょうか? どう考えても、十牛&李高が主人公なので、例えばそういう表紙の方向性で行くにしても、彼ら二人を中心に<十二国記>の表紙の人に書いて貰ったりした方が…と思ってしまいました。
 本国では人気のためにシリーズ化との事ですが、果たして日本では邦訳はつづけられるのか?期待するところです。


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「鳥姫伝」


◆2002/04/09(火)読了。「魔術探偵スラクサス」マーティン・スコット(ハヤカワ文庫FT306) - 02/04/18 20:53:44

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◆2002/04/09(火)読了。「魔術探偵スラクサス」マーティン・スコット(ハヤカワ文庫FT306)
 なにげに買った、久しぶりのユーモア系ファンタジー。読みやすく、二日で読了でした。
 ◇うらぶれた酒飲みの中年探偵・スラクサス。彼は賭博の悪癖から街の裏社会のグループである同胞会からの借金で生活の危機に直面していた。そこで、訪れた依頼の話に飛びついたが、なんと依頼主はまさにスラクサスの住むトゥライ王国の第三王女だった。大使に渡した恋文の入った箱を取り返して欲しいというのだが…。人間・エルフ・オルクの混血でプロポーション抜群の剣士マクリを助手として、捜査に掛かるが、折しもトゥライではエルフの魔法の赤布の盗難事件が持ち上がっており、情勢は不穏化しつつあった。
 と言う感じで、冴えない太鼓腹中年男を主人公に、美人だけど屈折した出自と経歴の持ち主を助手として、依頼を解決しようとするうちにずるずると大きな陰謀の深部にはまっていくという、いい意味で定番的構成。なかなか読ませます。
 魔術探偵なんてタイトルにはありますが、彼の使える呪文は睡眠の魔法ぐらいで、この世界では呪文を一回使うと術者の記憶から消えてしまうのでその度に覚え直さないといけないという法則付きで、もっぱら腕と頭に頼った、現実世界の探偵と同様の縛りの中、酒飲みで太った中年が主人公。そういう意味で、主人公はハードボイルド的には、「テロリストのパラソル」等でも馴染みな定番位置ですね。
 そしてファンタジーとしても、何でもアリな訳ではなく、魔法という現実可能度の拡張はあるも、それもまたルールに縛られた世界ということで、ロジカルなファンタジーワールドを作り上げています。その点で、「カメレオンの呪文」に始まる<魔法の国・ザンス>シリーズなどに近いだろう。
 尤も、単純なルールから、この先物語で起こりうる展開や謎を読者が帰納的に推理できるというものではなく、冒険物語に近いか。まぁ読んでいて「大魔王作戦」(ポール・アンダースン)とか「魔法販売株式会社」(ハインライン)とか思い出したので、少なくともその系譜ではあります。あ、ダーシ郷もか。(「魔術師が多すぎる」(ハヤカワ文庫ミステリ))。
 物語としてみると、定番な作り故に、自分自身は楽に物語に乗る事が出来、楽しく読むことも出来るのですが、遠回りな伏線についても、予測範囲内に治まってしまうのはしょうがないのか。
 日本ではこのての話は割とマンガという媒体に於いてめずらしくはないかもしれないが、これが活字媒体であるという事で。つーか寧ろ頭の中ではコミックをイメージしてファンとなる人が多そうな気がします。結構キャラ立ってるし。マクリ萌えとか多そう…とか(笑)。表紙にマクリの絵が載っているんですが、鎖帷子のビキニじゃないとかチェックが入ったのは俺だけですか?そうですか。
 本国ではこの軽妙なストーリと立ったキャラが受けてシリーズ化しているとのこと。評判が良ければFTでのシリーズ化なるか、というところです。
 リーダビリティは高し。こういう系統が好きな人にはお勧めしておきます。他ジュブナイルレーベルのユーモアファンタジーのあまりの軽さに飽きた人に、とか。


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「魔術探偵スラクサス」


◆2002/01/26(土)読了。「今昔続百鬼−雲」京極夏彦(講談社ノベルス) - 02/03/29 20:31:57

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◆2002/01/26(土)読了。「今昔続百鬼−雲」京極夏彦(講談社ノベルス)
 年末から読んでいたので、結構掛かってしまったという事ですね。
 京極堂が中心とは別シリーズになるのかな。興味あることしか目に入らないという典型的なオタク、在野の妖怪研究家・多々良が、ふらふらと(自ら)巻き込まれる事件とその解決の短編集。
 ▼「岸涯小僧」…このシリーズの一人称である沼上青年と多々良の出会いをプロローグに、終戦後の再会、そして妖怪探索に出た先での河童にまつわる謎と謎解き。
 作左衛門老人・その孫娘・富美も登場し、役者が揃う。
 ▼「泥田坊」…二度目の妖怪(の跡)探索で、また冬山で道に迷った二人は、とある村に行き着く。忌日で呼べど叫べど人っ子一人現われない村中で、二人は冬の田圃の中をあやしい人影をみる。後に人が境内で殺されているのが発見されるのだが…
 ▼「手の目」…バイトをしてお金を貯めては探索に出る二人。今度彼らが出会ったのは、とある村の負け知らずの賭博師だった。
 マガジン連載の麻雀マンガにありそうなネタかも、とか思ってしまった。
 ▼「古庫裏婆」…衛生博覧会を即身仏目当てに見に行った二人は、戦前の妖怪についての同人仲間に邂逅する。かれが持っていたのは即身仏の写真。故郷で盗まれた即身仏の確認を行おうとしたというだが…。

 いずれも謎の提示から始まり、鳥山石燕の妖怪画をネタに、現代的解釈を加える。物語として「おどろおどろしくて、謎解きは理知的」というまさに新本格の醍醐味。
 話としては、おおっ!という事はないが、流石に京極、手堅くまとめております。あくまでシリアスな<京極堂>シリーズとは違ったユーモラスな味わいが楽しめます。4作目はボーナストラック(書き下ろし)というか、黒衣の男も友情出演。


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「今昔続百鬼−雲」


◆2002/02/27(水)読了。「クラゲの海に浮かぶ舟」北野 勇作(徳間デュアル文庫) - 02/03/28 20:40:46

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◆2002/02/27(水)読了。「クラゲの海に浮かぶ舟」北野 勇作(徳間デュアル文庫)
 北野勇作を読むのはこれで三作目。こちらも「かめくん」「昔、火星のあった場所」の世界に流れていた北野ワールドは健在。
 ◇ぼくはネクストライフという会社で懐柔を作る研究をしていたらしい。らしいというのは、研究の方向性について会社側と意見が合わずに、ついには退社することになった時に、当時の一切の記憶についてはデリートされてしまったから…らしい。そんなぼくの目の前に恋人だという女性が現われた…。
 長編のような、オムニバス短編のような、不思議な繋がり方をした物語たち。そして、なんだか大きなコーポレイトと、少年が夢見るような怪獣の研究。さらに民間人は隔離されて入れない汚染地域。無くした記憶。消えた研究施設。記憶の無い自分と、当時の記憶を持つという恋人だった(らしい)女性。空中を浮遊するクラゲ(状生物)。そんなこんながちょっとづつ繋がって、分割された物語をリンクさせていく。
 日常の延長にあるちょっと不思議な風景と、少しずつグラデーションしてく不思議な世界観。ガジェット群もその一つの要素だが、要素としてのノードではなく、関係としてのアークで世界を構築していく事が、この奇妙な世界を築き上げているのだろう。
 世界としては、むしろマンガ的。松本零士の四畳半SF的というか、ますむらひろしをSFにした感じというか。そういう意味では、小説でありながら、マンガの様に「なんでもアリ」度(非現実的展開許容度)が高いという構造。
 それはそのまま、小説が進むにつれて読者の前にそろってくる材料から読者が物語を先読みしたり推理したりという方向よりも、何が起こってもおかしくない世界で、その雰囲気に浸る小説となっていると言えるだろう。
 切れ味としては、「かめくん」の方が上かなとも思うが、北野勇作ファンは押さえておくべきだろう。  


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「クラゲの海に浮かぶ舟」


◆2002/03/12(水)読了。「聖母の部隊」酒見賢一(ハルキ文庫) - 02/03/27 21:24:20

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◆2002/03/12(水)読了。「聖母の部隊」酒見賢一(ハルキ文庫)
 「後宮小説」でファンタジーノベル大賞を受賞を取り、その後も「陋巷に在り」などの歴史ファンタジー等の作品を精力的に書き続けている著者のSF短編集。
「地下街」…指令に基づき自分とヒットマンは地下街に降りていったのだが…。
 ウルフガイの様なSFハードボイルドと思いきや、次々と現われるRPG(SF&FT)の仕掛けのようなガジェットと世界観。妙にピントがずれた応対。作者の狙い通り、メタとしてのユーモアを醸し出すことに成功している。それはまた巷に溢れる安易なコピーストーリへの皮肉なのかもしれない。
「ハルマゲドン・サマー」ー…「いい加減なことばっかりいって。もう夏は終わりかけてるじゃないの。なによ。その目は」「いいわよ、いいわよ。あなたがそのつもりなら。えー、いいですわよ!」と女性の会話で語られる先に浮き上がってくる夏の景色と彼女たちの思い、そして世界とは。
 痛いですね。「最終兵器彼女」というか。SFとしてはさらに一歩世界をパンして、ティプトリーの様な認識の異化があるとツウ好みだったかも。これはこれで、またまったそして感傷好きな人好みの秀作。
「聖母の部隊」…「さいしょはみんなあの人を母さんとよぶことにていこうがあったみたいだった」。『母さん』は肉親を殺され密林に残された少年たちにこの密林の惑星で生きる方法をたたき込む。そして、さらには彼らの肉親を殺した外世界人へのゲリラの戦法をも。母さんを慕い、復讐を胸に少年たちは成長していくが…
 この作品集唯一の中編。当初、ひらがなばかりの文章で表現する主人公を含むまだ幼い少年たちと、彼らが密林で生きる術を一からたたき込む「母さん」。彼らが成長するに従い、文章は漢字交じりになり、そして『絶対』だった母さんの存在は、一人の強い女性となっていく。けれども彼女はある使命に従っていたのだったが…という事で、なかなか載らせてくれました。骨太のストーリーとなっています。復讐する少年たちが知った「母さん」の真実が露わにされたときに始まる決意と選択が物語に深みを与えている。
「追跡した猫と家族の写真」…60年代に大学で超常現象を研究テーマをしていた<僕>は、学会では鬼っ子としての存在だったが、東にUFOが出たと聞けば探しに行き、西にポルターガイストが出たと聞けば現象を確認にいくという風に多岐に渡る事象の収集に燃えていた。そんな自分がロジャーソン一家と知り合ったのは、とある猫が切っ掛けだったのだが…
 「酔歩する男」(「玩具修理者」収録) の様な不可思議な現象の持つ雰囲気を、手記という手法でさらっと書いた作品。超常現象にまつわる一つのドキュメントという感じで、菊池秀幸ぽいかな。そして底本には(特に指摘するほどのこともないが)ハインラインの「夏への扉」が。(ハインラインファンとしては、むしろ「ウロボロスサークル」か?)。物語としては、一見ありがちなオチで、良くあるストーリとして終わってしまいそうになるところを、この妙味が余韻を残す。なにか懐かしい雰囲気を感じるのもその所為か?
 ところで、マリー・セレスト号事件であまり言及されないことがあって、それは『避難ボートが全て無くなっていた』と言うことで、それを聞くとマリー・セレスト号事件の謎も解けてしまってなんだぁと思ってしまうという話をどっかで耳にしたことがあったんだけど、ソースが思い出せません…(^_^;)

 総合的に、なかなかの好短編集。酒見賢一の新しい一面を覗いてみたい人に。また、「聖母の部隊」は万人にお勧めかも。


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「聖母の部隊」


◆2002/03/25(月)読了。「パーンの竜騎士7 竜の反逆者」アン・マキャフリィ(ハヤカワ文庫SF1112) - 02/03/27 20:06:46

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◆2002/03/25(月)読了。「パーンの竜騎士7 竜の反逆者」アン・マキャフリィ(ハヤカワ文庫SF1112)
 <パーンの竜騎士>シリーズも8巻が出たので、読んでなかった7巻と共に購入しました。パーンの1〜3を読んだのは中学3年の夏期講習だったな。それから出れば読むようにはなっていたんだけど、外伝あたりで辛くて止めました。サブストーリーよりも本筋に興味があったので。1〜3巻は世界(感とテーマとその解答)を描き出しているのだが、世界観という意味では外伝は世界の隙間埋めというポジションになってしまっているのが原因か。そういう意味では、やはりミーハーではないんだろうなぁ。あまり登場人物に思い入れ込むことはないし。ストーリーメインで。
 ただ、やっぱり竜と火蜥蜴は魅力ある人類のパートナーですね。竜は実際にいても飼えそうも無いですが、火蜥蜴はホント欲しいもん。そのポジション取りは流石。まぁそれだけで熱狂的なファンがつくのも分かります。(ちなみに空想上の物では「風の谷」のメーヴェとかも欲しい(笑))
 物語自体は、結構長くだらだらと読んでいました。理由は後述しますが、やや厳しかったですね。
 ◇テルガー城砦ノ太守の姉セラは政策結婚への不満から城砦を飛び出し、持ち前の知性と激しい気性とで、城砦なき者達から手下を選び、他の城砦を襲い、不法者集団の長となっていた。ある時、竜の声を聞くことのが出来る少女がいると聞いたセラは、彼女を手に入れゆくゆくは自分の城砦を持つ足がかりにしようと、画策を始める…。
 …という物語を軸に、<パーンの竜騎士>シリーズの1巻から最新刊までの時間軸を駆け足でまとめ上げている、意欲的な作品。今までの登場人物、物語の中心的な役割を果たしてきたレサやフ−ラル、ピイマア、アラミナなども登場しつつ、さらに今まで語られた事が別の視点から語られたり、ファンには楽しみ所が作られています。
 けれども逆に、この巻から読み始めようとすると、骨太に歴史が顧みられるわけではないので辛いですね。自分はシリーズを読んだのがかなり前でしたので、見覚えのある名前が出ていてもそれがどういう人物でどういうバックグラウンドを持っているのかが思い出せずに、のめり込めないことがしばしばありました。たしか初期の三部作には人名用語辞書がついていたんですが、この巻にも付けるべきだったでしょう。本文中の過去の出来事の駆け足的記述も記憶を蘇らせる頼りにならず、結構欲求不満です(^_^;) 同じようにシリーズを別の登場人物の視点からまとめ上げた作品としては<ザンス・シリーズ>の最新邦訳「魔法使いの困惑」があるんですが、こちらの方が作りとしても上だし面白かったですかね(^_^;)。
 後半で出てくる【オーバーテクノロジーの遺跡(といってもパーンへの移民時代の人類、つまり祖先の物)】が、今後のシリーズの方向性を提示しています。逆に、物語の収束を予感させて、それはそれでちょっと寂しいかも。
 という事で、お薦め対象は、正伝1〜3の記憶が定かな<パーンの竜騎士>シリーズのファンでしょうね、やっぱり。初めての人は、当初の三部作(傑作!)から読んでみてください。


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「パーンの竜騎士7 竜の反逆者」


◆2002/03/14(金)読了。「山の上の交響楽」中井紀夫(ハヤカワ文庫JA284) - 02/03/15 09:55:45

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◆2002/03/14(金)読了。「山の上の交響楽」中井紀夫(ハヤカワ文庫JA284)
 bk1で購入した中井紀夫の短編集。
 「山の上の交響楽」は星雲賞受賞作品。
「忘れえぬ人」…◇全てを忘れるて初めて死ぬことが出来るのに、ヨネマツ爺さんはただ一つ忘れられないことがあり、九十を過ぎてもまだ死ねずにいた。
 老人になり今までの思い出を一つづつ忘れて、全て忘れるとやっと死ぬことが出来るという不思議な世界観。そんな中でヨネマツ爺さんが引き起こすドラマとは。【忘れてなくて死んだはずが起きあがってくるというのは思わずニヤリとしつつ】、なんだかなごやかで不思議な雰囲気の作品。
「見果てぬ風」…◇テンズリは大きな足をして生まれてきた。そして独り立ちしてからはひたすら歩き回った。壁に囲まれた世界をひたすら壁の行き着く先を求めて。
 というロードムービー。惑星規模の<リバーワールド>ならぬ<アイル・ワールド>という所。探求自体に人生を費やし、彼がみたものとは…。【抜け道は、宇宙の果てを求めて亜光速航行をしている先で超高速航行にのっけてもらうようなもんだよな】と思ったり。でも、このマンドはセンス・オブ・ワンダーだよな。「山の向こうは青い海だった」(今江祥智)という感じですが。妻も子供も置いて、それでも求めざる得ない衝動も又人間の根本に根ざすものだったりします。
「山の上の交響楽」…◇二百年前から山の上の奏楽堂で演奏されているのは、演奏に一万年はかるという世界最長の交響楽だった。長い歴史の中で街の人間にもマンネリの気分が見られたが、実はこの交響楽最大の難所といわれる<八百人楽章>が迫ってきていたのだ。その時には通常三交代で演奏している楽団の全てがステージに上がり、新たな楽器まで投入されることになっている。三ヶ月前の現在にして既に大量の写譜に大わらわなだが、加速度的に混乱が増す中、はたして2百年とぎれたことのない交響楽の歴史を越えて<八百人楽章>は無事に演奏されるのか?。
 いやぁいいですね。壮大な設定の上で成される人々のドラマ。今で言うなら<プロジェクトX>ですね。演奏日が近づくに従って徐々に持ち上がる問題点と極まっていう混乱。生まれるときから既にあった交響楽を生業にする人々の思いと、それらすべての混沌をまとめ上げねば成功しないというプロジェクトの困難さ。見事に短編にまとめ上げられています。初読ではなく「SFマガジンセレクション1987」で当時読んだ記憶が。その当時は特に思い入れもなく読み過ぎたのだが、仕事としてプロジェクトに関わるような立場にもなった現在、引き込まれじんわりと心が動かされた。今こうして読んで良かったと思う自分の時の経過をも含めて、感慨深かった。
「昼寝をしているよ」…◇「彼/彼女は元気?」その街の挨拶は変わっていた。それというのもその街の人々は別の世界の同じ自分を感じ取れたからというのだった。そんな街の挨拶にも主人公が慣れてきた時、街の中で向こうの世界の人との人格の入れ替わりが起こり始めた…
 なんだか恩田陸「月の裏側」「球形の季節」風味の短編。それで居てほのぼのとした空気が流れているのは、中井紀夫の味ってやつか。
「駅は遠い」…◇寝坊した。二日酔いだ。天井がまわっている。ぐるぐるぐる。すこしまわっては止まり、すこしまわっては止まる。それなのに一方向へまわりつづけているように見える。しかもなお、けっして一回転してしまうことはない。どうしてあんなふうに見えるのだろう。…
 と、二日酔いの男が、ふらふらになって分散してしまう思考を必死でまとめようとしながら、恋人の待ち合わせへ向かう所をひたすらに一人称で描く。逆「脳波」(ポール・アンダースン)。てか、【実は全人類に起こっていた】って事なら、小松左京風味でより面白かったのだが。結局【交通事故】ってのはちょっと肩すかし。あと、筒井康隆の作品で、右足と左足を交互に動かして歩くという動作を詳細に描いた短編があったなぁ。
「電線世界」…飛魚は、電線の上に住む老人からイタズラされた事で知り合い、自分も電線にのぼってみた。なんと電線の上で生活している人々がいたのだ。地上から数メートル上に過ぎないのに今まで知らなかった生活があった。そこでヨーヨー老人やら六五一号やら自転車男やらギナらと知り合った飛魚は自分もそこで暮らし始めたのだが…
 「〜世界」といってもフィリップ・ホセ・ファーマーの<リバー・ワールド><デイワールド>シリーズ、ブリーストの「逆転世界」などのSF的設定の一世界ではなく、日常の延長、隠れ家的な提示であり、また主人公が高校生でもあった事から、むしろ児童文学的な印象を受けた。山中恒「ぼくがぼくであること」や今江祥智「山のむこうは青い海だった」とかを思い出したりしつつ、さらにこの妙味は、椎名誠「アド・バード」な感じだったり。まぁ話としてはあくまで日常なので、落とし所があぁなるのは残念ながらもしょうがないかな。

 総合的に、なかなか味のある短編集。日常延長系の不思議な感覚が好きな人にお薦めします。


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「山の上の交響楽」


◆2002/03/08(金)読了。「超越の儀式」クリフォード・D・シマック(創元推理文庫676-3) - 02/03/11 18:56:26

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◆2002/03/08(金)読了。「超越の儀式」クリフォード・D・シマック(創元推理文庫676-3)
 地層が崩れて、思わず発掘されたので、読み始めました。シマック懐かしい。「小鬼の居留地」とかも出てこないかな。
 ◇大学教授エドワード・ランシングは、あるレポートの出来について学生を呼びだしていた。その学生は、地下にあるスロットマシンで願い事をしてレポートを手に入れたと言うのだ。気になったランシングが、そのスロットを探しだしやってみると、スロットマシンは、願い事を叶えるというのだが…。ランシングが願い事はないというと、地図を渡される。好奇心に負けたランシングがその場所に出向きさらにスロットを行うと…気付けばランシングは深い森の中に居た。そこで同じように突然飛ばされてきた4人と1体と合流しこの世界から自分の世界に戻るために、探索することになるのだが。
 昔読んだはずなのに、すっかり話は忘れていて、「こんな話だったっけ?」という感じで、ほぼ初読な印象(^_^;)。
 突如飛ばされた先で、宿屋で集まり、冒険を行う。そしてそこはかとなく感じられる超越者の視線…という感じのRPG風(又はTRPG、もしくはゲームブック風)の作りで、書かれたのは1982年。(邦訳は1985年)。
 これが、現代に書かれると「クリムゾンの迷宮」となるのだろう。
 ただし、ガジェットはシマック振りを発揮して、武器的なものとか殺伐としたものは出てこずに、謎の立方体とか遺棄された都市、そして砂漠等々、田園調と言われる由縁となっているイメージを塗り込めてある。
 話としては、残念ながら冒険の期待感に応えたものではなく、何のために集められたのかが分からないまま行動するので、謎解きとしての牽引力は薄い。ロボットのジャーゲンスや謎の立方体など、ガジェットなかなかいいのだが、それの存在理由が曖昧なまま、話は流れてしまい期待値にはそぐわない。目的意識が低い分読み続けるのに努力が必要な展開であった。
 ラストの種明かし(というか設定明かし)はやや唐突。結局【4人のゲームプレイヤーが超越者で、あちこちの平行世界や他惑星から≪人間≫という種を保存するため、適者生存の環境に放り込んで、淘汰を越えて生き残り立方体の内部にまで到達した者を、新しい世界へ移動させる】というモノ。
 まぁこれは、評価基準が曖昧とか、何をどう見込んでセレクトするのかだとか、結局【戻れないのか!】とか疑問等残って、消化不良に。やっぱりこれは、ストーリよりは、設定やガジェットや雰囲気を味わう作品ですね。あと資料的な価値とか。  あと、集めてくるなら、影響がないようにヴァーリィの「ミレニアム」的な手法はどうか?と思ってみたり。


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「超越の儀式」


◆2001/12/16(日)読了。「新・銀河帝国興亡史3 ファウンデーションの勝利」デイヴィッド・ブリン(早川書房) - 02/02/27 18:35:02

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◆2001/12/16(日)読了。「新・銀河帝国興亡史3 ファウンデーションの勝利」デイヴィッド・ブリン(早川書房)
 という訳で、アシモフ亡き後、後を継ぐSFの御所(候補)が綴った<新・銀河帝国興亡史>、「ファウンデーションの危機」(ベンフォード)、「ファウンデーションと混沌」(グレッグ・ベア)に続く三部作の最終巻となりました。
 けっこう長くかかりましたが読了。
 期待値と評価が、読みながら上下していった作品は自分としては珍しいですね。
 ◇設立されたファウンデーションも軌道に乗り、後進に役割を譲ったハリ・セルダンが一抹の寂しさを覚える中、ある事件に巻き込まる。そして、禁を破りトランターを離れることになったセルダンが気付いたファウンデーション最大の危機とは?
 期待値・評価の上下というのは、読み始め当初のどきどき感はいいのだが、物語が進むに従って完結編にも拘わらず、『実はその人物は…』という様なシーンが多すぎて、食傷し「何でもあり」的になってしまい(そしてそれで特に何が変わるのでもないって所も辛い)期待値の低下を招いてしまったり、三部作のこれまでの伏線やオリジナルのアシモフのシリーズのパッチワークとなってしまっているという認識が生まれてしまい、所詮新しいものは提示されないで、まとめて終わりなのか…という失望が加わり、かなり下がったり。それでもその後、【<ファウンデーション>シリーズ、さらには「永遠の終わり」に渡っての矛盾点の指摘とその合理解の提示、】で、ちょっと持ち直したんですが。
 っていうか、共作されたこの<新・銀河帝国興亡史>内だけで変わっていく、性格の変更とか矛盾点の方が読んでいて辛かったり。
 要は新シリーズというよりも、同じように<ファウンデーションシリーズ>が好きだった、ベンフォード・ベア・ブリンたちの「競作」による同人作品という事なのかも。それなりにシリーズの矛盾点とか整合性を取ったり、この先の物語が出来るように、新たな視点(問題点)を導入したりはしているけれども。
 つーことで、まぁファウンデーションシリーズが好きで、擬似的なものでもまたその世界に浸りたいと思っている人向けかなぁ。好きが高じた自分なりの解釈を彼らのモノと比べて楽しむも良しと言うことで。


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「新・銀河帝国興亡史 3 ファウンデーションの勝利」


◆2002/02/14(木)読了。「かりそめエマノン」梶尾真治(デュアル文庫) - 02/02/15 19:44:29

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◆2002/02/14(木)読了。「かりそめエマノン」梶尾真治(デュアル文庫)
 軽く一日で読了。短編集「おもいでエマノン」「さすらいエマノン」を通って初の長編となりました。
 このデュアル文庫は、主に復刊が主だったのですが、今後は”DUAL NOBELLA”として書き下ろしの中長編もだしていくような感じですね。絶版で日の目を見なかったあの名作やらが、これで続編や外伝まで出てくれると嬉しいものです。
 ◇有史以来の全ての連綿たる記憶を持っている少女エマノン。彼女の連綿と続く記憶は、彼女の一人娘に受け継がれる形で継承されていくのだが…今は、双子の兄が居たのだった。孤児として育った拓麻は、引き取られた先の家庭でのびのびと育てられた。けれども、彼には決して忘れることのない記憶と、何かを指し示すかのような網膜に浮かぶ赤い光点という特異な体質があったのだった。彼は、いつしか通常の人間と自らが違うことに悩み、自分の生まれた意義に、深く苦悩することになる…
 と、途中までは、一人の男の特異性と生きることの模索という感じで良かった。なんだか「虹をあやつる少年」(東野圭吾)という感じですね。そしていざその時からの落とし所で、自分としてはがくっときました。てか、【物体X】かよオイ!@三村、みたいな。「天使の囀り」風ではあったけど。(むしろ、世界の敵に立ち向かうブギー@”ぼくは自動的なんだよ”か?)
 全体に「ありがち」なまま終わっていたのは残念。前半ではそれでも、その少年期から青年期の在り様で読ませたのだけれども、やはり全体を通しては「なにかあたらしいモノ」ってものを期待していた。ところが、結局、類型的ガジェットとプロットで終始してしまった感が。でも「さすらいエマノン」もかなり大味なSFって感じだったからな。ジュブナイルって事か。それでもラストに余韻を残すところは、カジシンって所で。まぁあとがき読むと、構想一時間、執筆開始から脱稿まで25日間と最短で書いたとか言っているので
 まぁ話としては、短編集でのエマノン中心のモノとは視点が変わってバリエーションの一つにはなったのかな。そういえばエマノンの記憶の連鎖自体は、「砂の惑星」なんだけど。
 そうそう、『あしびきデイドリーム』(「おもいでエマノン」収録)は2001年星雲賞日本短編部門受賞との事。


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「かりそめエマノン」


◆2002/02/13(水)読了。「グインサーガ83 嵐の獅子たち」栗本薫(ハヤカワ文庫JA689) - 02/02/14 21:10:31

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◆2002/02/13(水)読了。「グインサーガ83 嵐の獅子たち」栗本薫(ハヤカワ文庫JA689)
 引き続いてグインの最新刊に入ります。一日ほどで読了。
 ◇クリスタルパレスでレムスから逃れ、無事に転移した先でグインはリンダを伴って自らの部隊に合流し、ケイロニア軍はリンダを送るためにマルガへの道を急いだ。一方イシュトヴァーン率いるゴーラ軍は、ダーナムの窮地を救ったはずであったのだが、そのポジションは救国の味方というものではなかった。さらにナリスへの便りに返事がないことに業を煮やしたイシュトヴァーンは軍をマルガに進めることとする。マルガ近辺で一旦軍を止めて、イシュトはマルコを使いに出すが…その晩、事件は起こる。久しぶりに深酒をしたイシュトは、夜襲されている事を知るのだった。相手はリー・ファの敵討ちを誓う因縁深きスカールであった。壮絶な一騎打ちの中、段々と劣勢になったイシュトは、体面もなく一人敗走する。スカールの追跡を止めに入ったのは、ここでゴーラ軍が野放しになっては困るというヴァレリウスだった。また飛び込んだ川から抜け出したイシュトの前にグラチウスの使い魔・淫魔ユリウスが現われ、ゴーラ軍を様々な手管で足止めし、マルガ入りのタイミングを測っていたのはグラチウスだった事を明かす。イシュトは意に介さずこのまま放浪の旅に出る事にすると流すが、そこにレムスが現われる。レムスに憑依したヤンダルは、息子アモンの育つ一年の間を、イシュトに戦乱を起こさせることで繋ぎたいと明かす。イシュトは眠らされそのままどこかへ連れ去られる…。
 という事で、話は大局に戻ってきまして、歴史は流れてますね。
 まぁこれはこれで突っ込みがしにくい順当なグインサーガです(笑)
 読んでいて、グインは、イシュトはどう動くのかで、わくわくしました。正義対悪という図式で、群雄割拠たる三国志から離れてしまったと思いきや、二分法にするのではなくイシュトを浮動票としてそれぞれの思惑で…っていうのは、これはこれでいい感じです。けど、やっぱラストはヤンダルに取り込まれちゃうのか…。イシュトがダークサイドにころんじゃってダースベーダとしてのポジションを取っちゃうと、結局、二項対立という単純な図式になっちゃいそうで…杞憂だといいんですが。
 しかし、ヴァレリウスもイシュトにトレースぐらい付けておけばいいのに。ゴーラが野放しになるよりヤンダルに取り込まれちゃう方がマズいってのは読めるだろうに(^_^;)。
 今後の動きとしては、グインの立場の表明と、それに伴うナリス側の戦略かな。
 次号は帯に依れば、2002年4月発売の正篇グイン・サーガ84巻となる予定。


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「グインサーガ83 嵐の獅子たち」


◆2002/02/12(火)読了。「グインサーガ82 アウラの選択」栗本薫(ハヤカワ文庫JA682) - 02/02/12 19:44:48

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◆2002/2/12(火)読了。「グインサーガ82 アウラの選択」栗本薫(ハヤカワ文庫JA682)
 12月に出ていたグイン最新刊です。買ったままどっかに行っていて見つからなかったので遅くなりました。(^_^;)
 今回は一気読み出来ず。話としてはそれなりだし、グイン自体の謎のキーも出てきたりするんですが、いかんせん大局的な物語は進まないので、これを読み上げようという牽引力にはなってませんでした。
 ◇グインは、レムスに連れられてクリスタル・パレスに単身乗り込む。レムスの操り人形と化した宮廷の人々の中、レムスの息子である王太子アモン――生まれて二月目にして5,6歳の少年の様子に見えるキタイの竜王の直系――と挨拶を交わす。 さらにヤヌスの塔にある<転移装置>に案内されるが、グインが近づいたとたんに、全てのスイッチが入ったかのように装置は光り出し、機械自体の許可が無くては入れないという領域まで進んだグインは、意識を一時失ってしまう。さらに白亜の塔で、ヤンダル・ゾックの黒魔道によって眠りに付かされているリンダを確認し、グインはヤンダルの傀儡と化したレムスに、レムス自身のありようを尋ねたが…。見るモノは全て見、後は去るだけだというグインの宣言の元、部屋を出ようとした時、リンダがベットから起きあがったのだった。
 グイン・サーガの世界の歴史のポジションとしては、むしろ影の部分になってしまう今回の巻は、それでもイベント盛りだくさんで、突っ込み所(心の琴線に触れたところ)はいろいろとありました(笑)。
 とりあえず、文字がでかいです。暫く前から、実質的な原稿料UPの為なのか文字がでかくなっており一頁あたりの文字量・情報量は落ちてますね。読んでいると慣れてしまうのですが、毎回最初は「字がでけぇ!」となります(^_^;)

 >アモンが「父上」といったとき、確かに、その黒びろうどの布の分厚い目かくしをつらぬいて、二筋の銀色の光が、その目の位置からきらめいたのを、はっきりと見たのだった。(p74)
 登場人物的には、悪の小公子なアモンですかね。とりあえず銀色の光線を目からほとばしらせるのはいかがなものかと(笑) イメージ的には「呪われた村」(ジョン・ウィンダム)ですかね。てか心霊的には何が起こっても、しょうがない的な最近の展開ですが、物理的に目が光るってのはどうかと思ったり。
 まぁでも大きい目で見れば、バロウズの火星シリーズが好きだったという栗本薫らしくはあるのか。おどろおどろしいというより今大人の読み物としてはちょっと引いてしまいますが(俺的には)。ま、でも今回はそこらへんの雰囲気作りの(良い悪いはともかく)面目躍如という感じで。「鬼面の塔」あたりの雰囲気で。

 >――あるところまでは、≪ぱすわーど≫と呼ばれる呪文でゆけるのです。(p125)
 そ、それは、呪文ではなく「合い言葉」では?(^_^;) むろん小説内の記述は小説内世界をテーゼとして翻訳された形で書かれているという事は押さえて読んでますが、パロにだってそのくらいの概念はあるハズですが…。その、「ひらがな」センスも、(自分の読んできた範囲内の)<グイン・サーガ>的には違和感を覚えるなぁ…。

 >「思わないのですか。かつて――かつてあなたは、ルードの森で……いや、ノスフェラスの砂漠でだったろうか、彼女に雇われ、彼女に剣を捧げたはずだ」
 >「あのときにはな。あれは永遠の忠誠を誓う剣の誓いとはまったく違う。あれは、彼女の傭兵として、役目がおわるまで彼女のために働く、という傭兵の契約だった。そして俺は契約どおり、彼女をアルゴスへ送り届けた。それから長い月日が流れた。俺はおのれのあるじに剣を捧げ、おのれのただひとりと信じた女性にも剣を捧げた。それ以外に俺は捧げる剣を持たぬ」(p161)
 …うーん。(^_^;)
 そんなじゃなかったような記憶が…。後付で定義を変えて正当性を主張するより、あの時の状況の中で、物事を知った現在の剣の忠誠とは違うと言ってくれた方がグインらしいのになぁ。

 >だったら、正気のクリスタル市民が少しでもいてくれればそれが俺たちの楯になる(p210)
 …グイン、キミはそんな事を言う子じゃなかったのに(T_T)

 まぁ他にも転移装置が、「希望スル行先ヲ文字入力スルカ、念ジテクダサイ。念ジル場合ニハソノ前ニ精神波入力モードニキリカエテ下サイ。精神波入力モードにキリカエルニハ、画面右下ニアルツールバーノふぁんくしょん3ノキーヲオンニシテ下サイ」とか…。そもそも心話なのに言語解説によりすぎだし、ツールバーとかファンクションキーってどうよ?(笑) あとこういう書き下しの時はカタカナはひらがなに開くのでは?とも。ツールバー、モード、キーとかがカタカナのままで違和感あります。いや、それ以前の問題なんだけど。願わくは、転移中に『一般保護エラー』を起こさない事を!

 とこんな所かな。ま、なにはともあれ7年ぶり(小説内)で再会した二人に乾杯です。将来の「豹頭王の花嫁」はやっぱり彼女じゃないかとおもうんですけれどもね。
 いちおうツッコミはwith愛情(?)って事で、お許しを。


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「グインサーガ82 アウラの選択」


◆2002/02/07(木)読了。「遥かなる地平 SFの殿堂 1」ロバート・シルヴァーバーグ・編(ハヤカワ文庫SF1325) - 02/02/08 20:56:17

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◆2002/02/07(木)読了。「遥かなる地平 SFの殿堂 1」ロバート・シルヴァーバーグ・編(ハヤカワ文庫SF1325)
 一週間ほどで順調に読了。これは以前に読んでいる「遥かなる地平 SFの殿堂 2」の1巻目の方ですね。シルヴァーバーグが編集者となって組まれたSFアンソロジー。なにが普通のSFアンソロジーと違うのかというと、中堅どころの作家たちに、彼らの人気を担うシリーズの外伝を書かせたところ。そう、もう終わってしまったあのSFシリーズやら、まだシリーズ邦訳中のあのシリーズやらの外伝が読めるんです。
 ターゲットをSFではなくファンタジーとした、「伝説は永遠に ファンタジイの殿堂 1」の姉妹編も出てます。
 ▼「古い音楽と女奴隷たち」アーシュラ・K・ル・グィン…<ハイニッシュ・ユニバース>。ハイニッシュ・ユニバースとしては、名作「闇の左手」や「所有せざる人々」等が邦訳されていて、自分も既読であるが、こちらは、同じ未来史といっても邦訳のある作品群の惑星とは異なり、"Four Ways to Forgiveness"でローカス賞を受賞した連作に出てくる惑星を舞台にしているとの事。遙か昔に読んだ「闇の左手」を思い起こすような重厚な筆致で、肌の黒い人による肌の色の薄い人の奴隷支配が行われている惑星の変動期が描かれる。これはこれでどうなってしまうのか?とのめり込まされるが、多分連作短編の1エピソードであるために、その歴史と主人公の行く末が分からないのは残念であった。
 ▼「もうひとつの戦い」ジョー・ホールドマン…「終わりなき戦い」の外伝。先日、創元文庫から姉妹編でもある「終わりなき平和」も出まして、これは比較的最近読んでいるので覚えていますが、もともとの「終わりなき戦い」は自分では記憶の彼方になっていて…。まぁこの話を読むにあたっては、何世紀にも渡って泥沼化した異星人との戦争を描いた作品として覚えて置けばオッケーです(笑)。「終わりなき戦い」も読むまで、テーマが重そうで躊躇があった割にむしろドンパチ系の中に身を置く一人の視点で描かれておりリーダビリティの高さに驚いた記憶があるんですが、こちらもリーダビリティ高いです。「マンデラ少尉」の章をメアリゲイの視点で描いているので、「終わりなき戦い」を覚えていれば、そこでもなかなか楽しめます。この外伝を書くにあたって、出すことはないと言っていた「終わりなき戦い」の続編まで筆がすすんでしまったようで、邦訳が待たれるところ。
 ▼「投資顧問」オースン・スコット・カード…<死者の代弁者>。シリーズ三作目の「ゼノサイド」、四作目の「エンダーの子どもたち」で、重要な役目を果たすジェインとエンダーとのファーストコンタクトの話。これまた懐かしいですね。話としては、外伝というポジション相当の内容ですが、俺はハインライン「愛に時間を」のミネルヴァを思い出しましたよ。
 ▼「誘惑」デイヴィッド・ブリン…<知性化戦争>シリーズの外伝。ていうか、只今シリーズ邦訳中の<新・知性化戦争>シリーズ、「知性化の嵐1 変革への序章(上・下)」のちょっと先の話で、かなりなネタバレがあります。こちらのシリーズを読んでいない人は要注意。まぁ先に小出しの解答部分を読んでしまって、邦訳がより待ち遠しくなると言う道もあります(笑)。こちらは、話としては、より「スタータイド・ライジング」に関わってます。ていうかやっぱり「スタータイド・ライジング」と「知性化戦争」再読しなきゃ…との想いが新たになります。ブリンの、もったいぶり過ぎのプロットは健在。まぁ「新・銀河帝国興亡史3 ファウンデーションの勝利」でも分かってましたが…。とにかくシリーズの早い邦訳を望む!
 ▼「竜帝の姿がわかってきて」ロバート・シルヴァーバーグ…<永遠なるローマ>シリーズ。宙短編による連作シリーズ。ていうか、これは邦訳されてないので知りません。歴史改変モノ。ヘブライ人がモーゼに導かれて出ていく代りにエジプトに留まったという歴史に基づき、展開されている。その所為でイエス・キリストも生まれず、キリスト教も起こらず、ローマ帝国が興隆をを極め続けた世界。うーん、あまりそっちの歴史はくわしくないので、なんとも。歴史の一部であるので、特にSF的展開も無し。ここだけ切り取るとただのノンフィクション歴史物語ですな。あと、歴史改変モノって、オリジナル(史実)が基盤となっているので、そこの部分のくすぐりも楽しみの大きな部分だったりするかもしれないですが、それを未来史にしちゃうとカオス的に実際の歴史とは異なってきてしまうので、歴史改変の意味があんまりなくなってしまうような気がします。シルヴァーバーグのSF外伝なら「夜の翼」が良かったと個人的には思いました。っていうか、シルヴァーバーグのシリーズだけ知名度が無いような…ほかの作者に編者として気でも遣ったんでしょうか? 西洋系歴史改変モノが好きなら、復刊された「パヴァーヌ」とかを押さえておくと良いかと思います。
 ▼「眠る犬」ナンシー・クレス…<無眠人>シリーズ。ヒューゴー賞とネビュラ賞を受賞していますが、邦訳はありません。21世紀初頭に確立された遺伝子改変技術でたまたま無眠の遺伝子を改変された子どもたちが優れた能力を発揮しながら、世間から阻害される歴史を綴る長編三部作。ここだけ聞くと「アトムの子ら」って感じですが、その社会との関わりかたの歴史が大河的に語られており、かなりの醍醐味があります。この短編は、普通人の貧乏な少女の父親が無眠の犬の子を飼い犬に産ませて一儲けしようとするが…という話。バックグラウンドの話(要は本シリーズ)がかなり気になります。訳して貰って読んでみたいところ。
 という事で、長くなってしまいましたが、以上、第一巻に収録されている物語の感想でした。
 どれもかなりのレベルです。基本的には元のシリーズを読んで置いた方がいいでしょう。(邦訳されていない話は除く)。<知性化戦争>だけはネタバレ気味なので注意。
 という事で、往年のSF読者にはかなりお薦めの一品。
 是非。そして早川書房も是非邦訳を。


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「遥かなる地平 SFの殿堂 1」


◆2001/05/某日読了。「ハイウェイ惑星 惑星調査艇ヒノシオ号の冒険」石原藤夫(デュアル文庫) - 02/02/01 20:38:11

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◆2001/05/某日読了。「ハイウェイ惑星 惑星調査艇ヒノシオ号の冒険」石原藤夫(デュアル文庫)
 たらたらと読了。(^_^;)
 ハヤカワ文庫JAで絶版となった、既に古典に近い日本ハードSFの雄・石原藤夫の連作短編集。
 ◇惑星開発コンサルタント社の調査員ヒノとシオダが、調査に赴く先々の惑星で出会う、一見奇妙に見える出来事と、理知的に推理されるその理由とは? 石原藤夫自身が1965年から81年までに書かれた「惑星シリーズ」18作の中からデュアル文庫のために編纂した傑作集。
 ユーモラスに見える現象と、その(こじつけはありつつも)科学的解明ってことで、定番でありつつ、楽しませてもらえる。まぁアイディア勝負だったり、無理があったりもするのだが、そこは短編の切れ味でカバーという事で。
 やっぱ日本SFとして押さえておくべき作品群でしょうな。
 表題作の「ハイウェイ惑星」では、手塚治虫「火の鳥」の似たようなシーンを思い出した。


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「ハイウェイ惑星」
 

◆2001/05/03(木)読了。「黄昏の岸 暁の天」小野不由美(講談社文庫) - 02/02/01 20:03:50

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◆2001/05/03(木)読了。「黄昏の岸 暁の天」小野不由美(講談社文庫)
 出る出ると云われて、その間、講談社X文庫(ホワイトハート)から講談社文庫に本編が文庫落ちし続けて一年、帯で予告のあった<十二国記>シリーズ最新刊です。
 思えば最新刊だった「図南の翼」が出たのは1996年の2月。それからはや5年。ファンにとっては待ちに待った一冊でしょう。そしてその内容が、シリーズ外伝である「魔性の子」(新潮文庫)と、<十二国記>の中での外伝となる「風の海 迷宮の岸」の続編となっていればなおさら。もちろんこの「黄昏の岸 暁の天」は、<十二国記>の最新正伝であり、時系列的には「風の万里 黎明の空」の後の陽子、慶国が描かれる。
 ◇慶国〜門にに妖獣にか降り立ちその背にはぼろぼろに傷を負った一人の女の姿があった。戴国の将軍・李斎である。彼女は、王と麒麟がいずこかへ消え去った後に偽王が立ち、日中でさえ妖獣が跋扈する程に乱れた戴国への助けを、慶国の国王・陽子に求めに――李斎自身も偽王により追われる立場ではあったが――来たのだった。しかし、王の軍が他国へ入るのは禁制であり、それは王の死を意味していた。李斎はそれを知りつつも、自らの祖国の為に願いを託す。陽子は、もし慶国が逆の立場だったなら…と、出来うる限りのことを模索しようと決意する。
 という事で、慶国の、閣僚と官僚の軋轢など未だ安定しない政情も見せつつ、李斎の心の葛藤や、陽子の発想による各王たちの集合、また、新たに十二国の世界の土台をなす設定がかいま見れたりと、見せ方は上手い。まるでゲームの設定から起こしたような十二国の世界構造(それこそ<リバーワールド>(フィリップ・ホセ・ファーマー)や、<ティーターン>三部作(ジョン・ヴァーリー)のように)は今までは読者には謎に包まれていたのだが、ある程度外の世界を感じさせる設定が物語から導き出される。
 ただ、新しく提示された十二国ワールドを成す世界の仕組みは、構造的矛盾とオーバーロードの存在等さらなる疑問を孕み、将来の動乱を予感させる。
 (まぁ基調はファンタジーであり成長の物語なので、箱庭宇宙としてのセンス・オブ・ワンダーにシフトするとは思えませんが。――ただ、「東亰異聞」のラストの例もあり…)
 今回は「魔性の子」を陽子(十二国)側から描いた話でもあり、今後の<十二国>が巻き込まれる大きな歴史の流れを予感させる巻でした。今までの十二国世界での陽子の自己の確立から、十二国という世界の――そして「天意」の――存在意義を問うという意識の変化の切掛けともなっており、延王を巻き込んで世界の解明をもにらんだ以降の巻での続きが、またしても気になります。
 ちなみにホワートハートへ文庫へは、一ヶ月遅れで、恒例の山田章博画伯のイラストをつけて上下 巻で刊行されました。講談社文庫での同タイトルでの出版化にも驚いたのだが、ホワイトハートからシリーズが出て9年、当時のメイン読者層も大人にシフトしているという事であるのかもしれない。


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「黄昏の岸 暁の天」


◆2000/12/某日読了。「鵺姫真話」岩本隆雄(ソノラマ文庫) - 02/02/01 20:03:22

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◆2000/12/某日読了。「鵺姫真話」岩本隆雄(ソノラマ文庫)
 一気読みでした。
 「星虫」「イーシャの船」の岩本隆雄の同一世界上の最新作品。
 その二冊は再刊により復刊。面白さも話題となったが、まさか最新作が出るとは。
 ◇「星虫」で人類の前に開けた宇宙開発。それは海上都市プロジェクトを中心に行われていた。そこで手伝いをしていた川崎純は、近眼というパイロットには致命的とも言えるハンデに失意し、同僚に告げることもなく日本へ戻ってきていた。普通の高校生活になじもうとする彼女だったが、ある日、純の祖父が神主をつとめる姫森神社の御神木から女の巨大な生首が出てくるのを目撃する。同時に追掛けられている少年と共に戦国時代にタイプスリップしてしまう。女の生首とは御神木に宿っているという伝説の鵺姫らしいのだが…。
 昔懐かしいジュブナイルのかおりでした。例えば山中恒の作品群とか豊田有恒とか…読みながらのワクワク感は、当時のそれに匹敵するできばえ。
 さらに、本書ではタイムトラベルが扱われているのだが、それが一筋縄ではいかないほど、いくつもの時間軸と主人公たちの視点が緻密に構築されているのだ。
 いい意味でのジュブナイルであり、さらに読込んでいるSF読者も唸らせるタイプ・パラドックスの構成。期待値に違わない面白さを持った物語です。
 読了感想に一年以上経ってしまったのは、暇なときにでもタイムトリップの時間軸移動表でも作ろうとか思ってしまったから。いや、全然出来てません(^_^;)。
 とにもかくにも面白いので、読むべし。時間の流れとしては、「星虫」の後になるので、「星虫」から読むことをお薦めいたします。
 さらなる続編の出ることを願いつつ…。


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「鵺姫真話」
 

◆2002/01/28(月)読了。「鏡の中は日曜日」殊能将之(講談社ノベルス) - 02/01/31 21:31:42

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◆2002/01/28(月)読了。「鏡の中は日曜日」殊能将之(講談社ノベルス)
 「ハサミ男」でデビューし、「美濃牛」「黒い仏」とヒネった本格(新本格?ポスト新本格?)を出してきた、殊能将之の新刊。帯には『名探偵最後の事件』やら『名探偵の死に様』やらの文字やらが踊る。おおっ、石動戯作のシリーズもこれでおしまいなのか?と思いつつ購入。そして一気読みでした。
 ◇痴呆症にかかっていると見られる状況で「ぼく」によって語られるモノローグ。石動戯作への殺意…そして殺人。そもそもの発端は、14年前に「梵貝荘」で探偵・水城優臣が解決した殺人事件についての、石動戯作による再調査だった。水城の助手兼記録者の作家・鮎井郁介は、何故かこの事件については、雑誌掲載の途中で止めてしまい、現在に至っても単行本として出版されることはなかったのだ。その理由と、事件の真相とは…?
 とにかく巧い。相変わらずのメタ的視点で作られているだが、そこには推理小説への愛を感じますね。パロディというよりも視点の妙に脱帽。巻末の参考文献も参照するとニヤリと来ます。
 今までの傾向からだまされないぞと身構えた読者でも、それを上回る幾度もの現実認識の異化で、これでもかというぐらい現実感を揺るがせる。これはもうセンス・オブ・ワンダーでしょう。
 以下ネタバレマスク

 まず、一人称にして、誰だか分からないという謎で読者を牽引する。そしてその一人称の人物による石動戯作への殺人。
 そして、次章以降に交互に語られる、14年前の事件と、石動戯作による現時点からの再調査。
 現在フェーズで、ミスリードされるのは、ぼくの正体。ぼく=瑞門龍司郎で、お父さん=瑞門龍司郎の長男。
 過去フェーズで、ミスリードされるのは、14年前の殺人の真相。
 最後の章で、明かされるのは、事件の解決は完璧だった事。ミスリードされた石動戯作の理由とは、名探偵・水城優臣の正体が、水城優姫であった事。そして彼女はまた「ぼく」の妻でもあった。さらに「ぼく=瑞門龍司郎の次男」であった事が明らかにされる。殺されたのは鮎井郁介であったのだ。

 …世界は幾度も再構築され、その度に目眩にも似た酩酊感が訪れる。
 そういう意味では、この「鏡の中は日曜日」は、『名探偵が世界を変え』た「黒い仏」という前作――本格ミステリへの愛あるアンチテーザでありながら(件の部分を除いた部分でミステリとして読者に対してフェアに解ける構成ではなかった為)ミステリ枠内では収まらない――の、アウフヘーベンなのかもしれない。
 けれども、ミステリ枠内といいつつ二箇所の気になる点が。
 まず、これは作者には責任がないかもしれないが帯の【「かくて閉幕− 名探偵、最後の事件!」 】はともかく【「名探偵の死に様」】は、どうよ? まぁ帯って事でグレーゾーンかもしれないが…。
 それから、地の文で【それから数週間後、石動戯作は自分が殺されるとは思っていなかった。】というような記述があったと思ったのだが…。(今ちょっと手元に本がないので参照できないが、勘違いだったら指摘下さい)
 とにかく、幾重にも折り重なった【叙述トリック】が、見事に昇華されていて、読者も自分で解こうという意欲の持てる範囲で、決してくどくなく構築されており、その塩加減は秀逸。んで、やっぱり似てると思うのは、現実の酩酊感って事では、摩耶雄嵩の「夏と冬の奏鳴曲」を代表作とするシリーズでしょう。(最新作の同じようなメタ的視点で作られている「木製の王子」は、構造が複雑で読者を置いていってしまっていますけど(というか、自分は途中で解くのを諦めて名探偵待ちになりましたもん(^_^;)))  京極夏彦の「塗仏の宴」なんかも思い出しましたが。
 まぁ、あえて付け加えるなら、「石動戯作は名探偵か?」と問いたい。小一時間問いつめたい。ですが(笑)

 お薦め対象は、それなりに本格・新本格をこなしてきたミステリ好き人。すくなくともある程度ミステリを読みこなして来た人。この作品は、ミステリという構造を愛する者のご褒美でもあるのだから。(まぁミステリへの入り口で読んでしまうのはもったいなくはある。SF初心者がいきなりハインライン「獣の数字」読んじゃうみたいなものだから)


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「鏡の中は日曜日」


◆2002/01/27(日)読了。「第二の接触」マイク・レズニック(ハヤカワSF文庫) - 02/01/30 18:54:52

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◆2002/01/27(日)読了。「第二の接触」マイク・レズニック(ハヤカワSF文庫)
 「キリンヤガ」のマイク・レズニック。土曜に、ふらりと入ったブックオフで購入。BK1で検索したが、残念ながらデータはありませんでした(※書名では引けず。ISBNでは引けました)。多分絶版。
 この頃なら、出版当時リアルタイムで読んでいるはずで、確かに読んだような記憶があるのですが、思い出せませんでした。あらすじ読むと面白そう…多分家にあるんだろうけど自分の本棚(もしくは地層)から発掘出来なさそうなので、買っての再読。
 ◇既に宇宙にて第一種接近遭遇があり地球側・異星人側双方の宇宙船とも大破。原因は不明。そんな歴史の上で地球側では宇宙軍を整備していた。そこで艦長が多数の目撃者の前で乗務員2名を射殺し自首するという事件があった。ベッカーは宇宙軍上司から艦長の弁護を依頼される。心神喪失状態という事でまとめようとするが、艦長は驚くべき自分の思いを明かす。射殺した二人の乗務員は、人間に化けた異星人だったというのだ。当初、意にもかいさなかったベッカーだが、事実を突き止めようとし始めると様々な妨害が…。
 冒頭での掴みはオッケー。
 異星人が紛れ込んでいたのか、どこでそれを確信したのか、何故わからなかったのか、中枢にまで忍び込んでいたのか…と、謎を牽引力に、リーダビリティは高い。
 けれども、期待していたのはミステリだったのに、結局、サスペンスという事で、女性ハッカーを仲間に引き込んでの逃走劇&情報戦はあまり興味なし。冒頭の謎の解答欲しさに読んでいるという感じ。
 その回答は、【異星人との折衝の結果、情報交換の一環として入れた、異星人の情報収集用のロボットであった】という事で、まぁ納得はするものだったんですが、それならそれで、銃を撃った時にちゃんと確認しておけよな、艦長、とも。
 この程度なら中編でよかったような。自分から見ると、サスペンスはSFとしては余分ですね。しかもハッカーが万能過ぎ。ソビエト連邦とかモデム通信の遅さはご愛敬か。
 良くも、悪くも、ハリウッドで映画化しそうなシナリオ風。  タイトルはファーストコンタクトならぬ、SecondContactって事で、格好良い。


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「第二の接触」


◆2001/12/18(火)読了。「ワイヤレスハートチャイルド」三雲岳斗(デュアル文庫) - 02/01/30 18:54:12

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◆2001/12/18(火)読了。「ワイヤレスハートチャイルド」三雲岳斗(デュアル文庫)
 「海底密室」で日本SF新人賞を受賞した三雲岳斗の次作。ミステリな風味は健在。
 ◇松浦宮城は、別嬪のウィトレスだがロボットでもある、なつみのいる喫茶店「織葉庵」を、とある条件で手伝うことになった。姉と、姉の義弟ぐらいしかこない喫茶店ではあったが、あるとき姉が、暫く世話をして欲しいと、少女の和緒を連れてきた。松浦は、彼女とは偶然ではあるが知り合っていたのだったが…。
 さくっと読了。なかなかの良作でした。
 前作「海底密室」は、かなり作り込んだSF的設定のミステリだったのだが、こちらは肩の力を抜いたSFミステリと言う感じ。ハードSFぽく無い部分が逆に魅力となっている。
 なんかキャッチーに女性メイドロボ(のようなもの)が登場したりするのですが、そこに拒否反応がなければ、それに萌えない自分でも話としてなかなか楽しめました。そのロボット・なつみさんのもろもろについては一応の説明はあるが、まぁ深くは突っ込まずに公理としてみるのが吉。(ミステリ構造にも関係ないし)
 物語は、楽しめたというか、うまく話に乗らしてもらったという感じかな。冒頭に謎を提示して置いて、そこを牽引力に物語を引っ張るというのは定番では有りながら、それだけに定番的な惰性で物語がながれてしまったり、肝心の謎の追求以外のシーンが蛇足に感じてしまったりする危険があると思うのだけれども、そこを上手く引っ張っていってくれる伏線や、主人公の持つ青春期の独特の雰囲気を上手く物語に練り込んでいる。ネタ的には途中でほぼ分かってしまったけれどもそれ以降も十分楽しみながら読むことが出来た。
 ある意味、これは青春小説なんだろうなぁ。しかも脳天気な青春ものではなく、しっとりとした情感に包まれている雰囲気。そこがいい。
 寂れた喫茶店「織葉庵」とロボットのなつみさん。そこを面倒見るようになった主人公。なんかこのシチュエーションは結構いい感じなので、この設定で続きがでないですかね。
 


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「ワイヤレスハートチャイルド」


◆2001/11/21(水)読了。「OKAGE」梶尾真治(ハヤカワ文庫JA) - 02/01/30 18:53:36

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◆2001/11/21(水)読了。「OKAGE」梶尾真治(ハヤカワ文庫JA)
 梶尾慎治の長編ホラー。
 ◇ある日、突然子どもたちが失踪し始める。時間を追ってそれは局所的な現象ではなく、全国・世界的規模で起こっていることだと判明する。子どもたちはどうやら架空の生物を引き連れているらしい…。「御陰参り」に引っかけて「OKAGE」現象と呼ばれるようになった、子どもたちの失踪は何故起こるのか? それにはある事象が絡んでいた…
 ホラーとはいっているが、むしろSFなのかなぁ…。【終末】テーマの。読んでいて特に恐くはないし、作者も寧ろそれを狙っているような。
 東野圭吾の「虹を操る少年」に近いかな。
 600ページ超という割に、話の作りが単調で、途中でなんとなくタネも見えてしまい、牽引力には欠けます。短編なら評価も違ったかも。
 現象に筆を割いているが、長編ならば、そこから起こるドラマこもごもがないとこの長さは辛い。  やっぱり梶尾真治は短編の人なのか…。


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「OKAGE」


◆2001/11/19(月)読了。「わたしは虚夢を月に聴く」上遠野浩平(デュアル文庫) - 02/01/30 18:52:28

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◆2001/11/19(月)読了。「わたしは虚夢を月に聴く」上遠野浩平(デュアル文庫)
 上遠野浩平の新シリーズ<虚空牙>の未来史上の一作品。
 「ぼくらは虚空に夜を視る」の姉妹編(もしくは続編)ということになるのかな。
 ◇退屈な学校生活の中でうっすらと残っている当時の彼女の記憶。彼女は消えてしまった。とある切っ掛けで自分に訪れた現実のほころびで、退屈な現実とは月に眠る自分たちの夢である事を知る。膿んだ世界と夢なる退屈は、現実の境をとりはらい、その意味を問う。
 どうも読了感想が書きにくくて、こんなに時間が経ってしまいました。そしてストーリーもおぼろげに(^_^;)  テーマは分かるが、話にヒネリがなく、読んでいて辛かった部分があった。類型的に陥りがちなこの手の話にあって、求められるのは新規の発想だったり、上遠野的青春語りだったりするとは思うのだが。
 たぶんこれはシリーズの一部で、全体の中にあっての役割もあるのだが、この時点ではまだポジションが見えず、この作品だけでの満足感はない。
 さらに、なんというか、プロットがくずれているような(^_^;)。
 上遠野浩平好きな人に。そしてシリーズを網羅したい人に。初めての人は「ブギーポップは笑わない」シリーズから入りましょう。


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「わたしは虚夢を月に聴く」


◆2002/1/24(木)読了。「魔法の国ザンス14 魔法使いの困惑」ピアズ・アンソニィ(ハヤカワ文庫FT) - 02/01/25 20:02:08

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◆2002/1/24(木)読了。「魔法の国ザンス14 魔法使いの困惑」ピアズ・アンソニィ(ハヤカワ文庫FT)
 ザンスシリーズの最新刊。前作の邦訳から約一年と半年。結構待たせてくれました。(けど、邦訳が不定期なのはなんとかならないものですかねぇ…。せめて年一冊ペースを守って貰って、例えば「検屍官」でおなじみのケイ・スカーペッターのシリーズとかは年末という風に、この季節ならザンスだインプットされるくらいだといんですが…)
 今回はシリーズ第二部の頭から謎とされてきた、良き魔法使いハンフリー失踪の解決編です。
 なんと一日で読了。ひさしぶりの一気読みかも。いやぁ、読んでいて楽しかったです。(面白かったというよりも楽しかったという感じです)。
 ◇いつぞやの結婚式で、物に文字を投射できる魔法の力を持つラクーナが、双子の姉妹と共に結婚式で騒ぎを起こしたのも、すでに昔。いまラクーナは齢三十を過ぎて、人生に退屈し疲れていた。そんな彼女が、自分の人生のどこで選択肢を間違えたのか知ろうと、三つの関門を突破し、一年間の奉公と引き替える覚悟で、グレイ・マーフィの城へやってきた。グレイ・マーフィは、これはザンスにとって微妙な問題になるので、情報の魔法使いハンフリーの助けがいるといってラクーナをハンフリーの元に送り出す。とある場所でハンフリーを見つけたラクーナだが、見返りに、ハンフリーがこれから語る半生を壁に記していって欲しいと言われる…。
 という事で、一世紀以上生きているハンフリーが、自分の半生を語る。そしてそれはまたザンスの歴史でもあった。
 最初にハンフリーがこのザンスに登場したのは、もちろん第一巻の「カメレオンの呪文」から。それ以前のハンフリーの半生とは!? 結構、驚きの波瀾万丈です。まさかハンフリーが既に【何度も結婚】していたなんて。まぁ言われてみればさもありなんてな事なんですが。
 やがてハンフリーに語られる歴史は、ザンスシリーズに追いつき、ビンク、トレント、アイリスの時代へと。
 今まで読んできたシリーズを追体験させられる、作中作構成が、これがホントに懐かしい。初読は15年以上前だもんな。シリーズという作りにはそれ自身に力があって、新刊が刊行される度に、物語が作り上げた世界へ何度も訪れる事になり、長い時間に渡って語られるシリーズでは堅固な世界観が読者の中にも作り上げられるんだと思う。
 最近の巻については、一度読むだけなので、人物はごっちゃだし、何が起こったのかも結構忘れてしまっていたのだが、よいabstractになったなぁと(笑)。
 筋を詰めて追うだけではなく、ハンフリーの視点と言うことで、そこはちゃんと、ハンフリーの事情で今までの物語中では表沙汰にならなかった事やら、ザンスの裏事情などの歴史の裏糸も語られ、新たな解釈のザンス史を読者に提示する。
 なんたって、実は【クロンビーが息子】っていうんだもんなぁ。
 既に物語も三世代目。そういえば、リアルタイムで出てこない初期の彼らはどうしてるんだろうか?。まさか、老兵は死なず、ただ消えゆくのみ、って事じゃないよな(^_^;)  ユーモラスなのに皮肉がピリっと効いていて、それでいて論理的。シリーズとしては、マンネリになりつつあるのかなぁという危惧もありましたが、こうして読んでいくと、手を変え品を変え楽しませてくれてます。
 ハインラインの「獣の数字」で、バロウズの火星シリーズやオズの魔法使いの世界で、自分が浸っていた世界を実感する場面がありますが、このシリーズはまさにそんな感じ。幼い頃から慣れ親しんだファンタジックワールドでありながら、ロジカルな作りをしてあるので大人になっても楽しめる上、まだまだシリーズは続いていく。
 残念なのが、英語の駄洒落で話が回るところ。どうしても邦訳では生かし切れていないところがあり、唐突と思われるガジェットが出てきたりとか、シチュエーションだったりってのは、大体そこがネックになっている事が多いですね。今までにもタイトルとかでありましたが。巧い語呂合せだと、日本語に生きないのがくやしいですね。その分訳者さんは大変だと苦労が忍ばれますけれども。
 このところ邦訳が出るたびに、やっぱ原書で読もうかなと、思ってしまうわけです。
 それはともかく、今年最初の一気読みに相応しく、十分に楽しめた本でした。


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「魔法の国ザンス14 魔法使いの困惑」


◆2002/01/22(火)読了。「堪忍箱」宮部みゆき(新潮文庫) - 02/01/24 19:02:01

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◆2002/01/22(火)読了。「堪忍箱」宮部みゆき(新潮文庫)
 今年一冊目の読了。この時期ではずいぶん遅いですな。年末から読みかけの京極も未だ引きずっているし…仕事の方はそう忙しいわけでもなかったので、段々本が読めない体質になってきたというか、本がもたらしてくれるものと、現実に望むものが離れてきたという事かな。唸らせるくらいの本はなかなか無いものだし。まぁそれなりに年齢も重ねてきて新しい驚きというのが薄くなってきたというのもあるだろう。また、空想よりも実際的な方向にシフトしているというのはあるだろうな。現実世界は色々と面倒くさいっす。高等遊民希望。
 一応、今年の目標など。とりあえず、ベンチプレスでプラス10kgあたりを目指します。(ストレッチ目標としては20kg)。他、仕事がらみで資格を取らなきゃならないとか、そのあたり。読書はほっといてもするので特に立てません。あ、HomePageの更新ぐらいはちゃんとしないと。感想は「読書日記」に書いてるけど、それを月次にまとめてHomePageで整理してないので…(^_^;)
 で、本題に戻って、宮部みゆきの「堪忍箱」です。時代物短編。「幻色江戸ごよみ」「本所深川ふしぎ草紙」「かまいたち」の流れになります。
 さすが宮部という出来で、時代は違えど、人の心の織りなす綾を、ほぅっと取り出してみせる手腕は秀逸。オチがあるわけでもないが、そんな出来事に動かされる心の連鎖を物語ることが中心にあって、不可思議そのものではなく人間志向である為に、その解明は必要がない。O.ヘンリ的ですかねぇ。この作品集もなかなかの出来。まぁ、まだ、宮部作品での自分の中の時代物ベスト短編集は「幻色江戸ごよみ」なんですが。
 ▼堪忍箱…火事で死んだ父親が取りに戻ろうとしたのは、「堪忍箱」だった。開けたら近江屋に災いがふりかかるという箱を、父が死に母が寝たきりになり、娘のお駒が預かる事になったのだが…
 ▼かどわかし…「おじさん、おいらをかどわかしちゃくれないかい?」とその子供は、畳職人の箕吉に話しかけてきた。驚いた箕吉は…
 ▼敵持ち…刺し殺される悪夢から目覚めた加助は、同じ十間長屋の小坂井又四郎に用心棒を依頼する決心をする。そもそもは扇やという居酒屋の倒れた主人の替りに、通いで板前をすることから始まったのだった。
 ▼十六夜髑髏…ふきは小原屋に奉公にあがったのだが、小原屋には奇妙な事があった。しかるべき時が来たら教えてもらえるよと、同僚のお里に言われる。そしてその時に女中頭のおみちから命じられた事とは…。
 ▼お墓の下まで…ゆきと藤太郎は父と母に言えずにだまっていた。おっかさんに会ったことを。おっかさん。それは彼らの本当の母親だった。その事を姉に話すと…。
 ▼謀りごと…丸源長屋の住人の一人が、隣の住人を訪れてがらりと障子を開けてみたところ、四畳半の座敷の真ん中で差配が死んでいた。部屋の主の香山又右衛門はおらず、長屋の一同は残された者のうちに犯人がいるのではとあつまるのだが…
 ▼てんびんばかり…一年前大黒屋に後添えに入ったお美代が徳兵衛長屋に顔を見せに来ていた。幼なじみで苦楽を共にしたお吉は、幸せになった彼女を見て、自分の暗い心情に気付く。ところが…
 ▼砂村新田…父親は大工であったが、目の病のため徐々に傾いていく家計を助けるために、お春は通い奉公に出る事になる。ある時、奉公先のお使いの道、男に呼び止められる。どうやら母親の知り合いらしいのだが…

 年末に読んだ分や、保留でまだ書き留めていない分の読書日記は別途。
 トータル10冊くらいあるんですが、1月中には消化したいっす。


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「堪忍箱」


◆12/3(月)読了。「大神亮平 奇象観測ファイル 忌神」青木 和(デュアル文庫) - 01/12/20 20:13:56

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◆12/3(月)読了。「大神亮平 奇象観測ファイル 忌神」青木 和(デュアル文庫)
 「イミューン ――僕たちの敵――」で第一回日本SF新人賞・佳作入選をした青木和の<大神亮平 奇象観測ファイル・シリーズ>の第二弾。一作目は「大神亮平奇象観測ファイル 憑融」
 ◇瀬戸内海の孤島・宿島。教授の川端と、大神は民俗学の研究の為に船で渡ってきた。また実はこの渡来には、川端の死んだ友人が、昔こちらに来たときにこっそりと持ち帰っていた<泥人形>を返すという意味もあったのだ。けれども、その前に島民には剣もほろろの対応をされてしまう。宿島で<記憶抜け>の青年・繁久が、大神と出会い、それを切っ掛けに繁久は過去の記憶を取り戻そうとするが、そこには大きな秘密が隠されていたのだった。
 意外と読みづらくて、読了まで結構掛かってしまった。
 いわゆる伝奇ものの変形となるのだが、期待を持たせている割には、解明までの道筋もなく、ただ話がぐるぐる回っているような印象が。そんな所が読みにくかった理由か。記憶を取り戻す過程では「奇跡の人」(真保裕一)を思いだました。
 記憶障害については、今なら10分間しか物事を記憶しておけない障害の中、妻を殺した犯人を捜すという映画「メメント」を思い出すかな。(ところで今の「JOJO」が3つの物事しか覚えていられないという設定で、メメントの変形だなぁと強く思ったのだが…)
 それはともかく、今回の話はイマイチの感が強し。三作を読むと「イミューン」が一番良かったなぁ(^_^;)。


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「大神亮平 奇象観測ファイル 忌神」


◆11/30(金)読了。「昔、火星のあった場所」北野勇作(デュアル文庫) - 01/12/20 20:11:46

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◆11/30(金)読了。「昔、火星のあった場所」北野勇作(デュアル文庫)
 ◇なんでも、火星への開発競争の結果、火星はなくなってしまい、現在、人間とタヌキの二つの勢力が争っているという。火星開発会社の新入社員となった僕は、そんな世界で失われた火星の開発やらタヌキとの関わりやらの中で生活していた…。
 北野勇作のデビュー作という事になるのかな。第四回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作が、デュアル文庫によってサルベージ!(笑)
 前に読んだ「かめくん」的、なんだかほわわんとした不思議な世界観というのはデビュー当時から健在だったことが判明。
 それなりにマターリ感が。好きな人は好きなんだろうなぁ。マンガ的ではある。やはり松本零二調の絵が思い浮かぶんだけど、これって俺だけ?
 自分的には、たまには楽しめるかなっていうところ。毎回こういう系統だと自分的にはちとつらいかも。(^_^;)


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「昔、火星のあった場所」


◆11/13(火)読了。「天狗風 霊験お初捕物控<二>」宮部みゆき(講談社文庫) - 01/11/21 18:30:23

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◆11/13(火)読了。「天狗風 霊験お初捕物控<二>」宮部みゆき(講談社文庫)
 霊験お初シリーズ第二弾。  ◇血のような朝焼けと、一陣の風と共に娘が消える。神隠しが続いた江戸の町で、お初は御前様より調査の依頼を拝命する。特殊な力を持つお初は、娘たちの行方を追う内に、観音様の姿を纏った物の怪の正体に近づく…
 「震える岩」に続くお初シリーズの第二弾。前作では赤穂浪士がらみの事件だったが、あれから一年後、今回は江戸の町で相次ぐ若い娘のみが失踪する神隠しに挑む。
 冒頭の神隠しのシーンから、以前よりも「不思議」色を濃くした世界が広がる。そんな訳で、以前のミステリ寄りの作品よりも、小野不由美の「東亰異聞」の様に、不可思議な世界の中での物語となり、ミステリを期待するとちょっと肩すかしを食らうかも。
 尤も、お初自体は健在。持ち前のおきゃんでまっすぐな性格で、暗くなりがちなテーマを明るくしている。そして前作のキャラクタの一年後の姿も右京之介の始め物語に絡まれてしっかりと描かれている。
 テーマ的には女性の美しさにまつわる僻み妬み嫉みを根底とするもので、「幻色江戸ごよみ」(宮部みゆき)収録の「器量のぞみ」を思い起こした。
 器量というジャンルに拘わらず、人間の中の欲望やそれを持つ者の嫉妬という構図を、心が歪んでしまったモノと、お初に代表される長所も欠点もある内でより良いものを積みあげていこうすると人々の対比で語る宮部節は流石。
 【喋る猫】なんて出てきて、シリーズとして続く場合のバランスが心配だったりもしたんですが、そこは【仏様のお使い】と言うことで、ラストはちゃんと読み切り設定となっておりました(^_^;)。まぁ難を言えば、そこら辺りから、ミステリーではなく、ある意味何でもありの怪奇ものになってしまっている点、また、物語の収束するあたりでの最後の決戦は特に意外性もなく収束するために収束するという話回りになってしまっている点について、自分的には残念でした。好み的には、やはり、物語の中で語られてしまうより、情景を切り取って余韻を残すような時代物短編の方が自分としては好きですかね。
 それはそれとして、時代物ではありますが読みやすく、また前作を読んでいなくても十分楽しめる作りにもなっています。宮部の時代物ファンなら読んでみてください。また根底のテーマや宮部の語りについては、現代物と変わらない持ち味が楽しめますので、まだ読んだことのない人は一度読んでみてはどうでしょうか。


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「天狗風 霊験お初捕物控<二>」


◆11/7(水)読了。「六人の超音波科学者」森博嗣(講談社ノベルス) - 01/11/21 18:28:21

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◆11/7(水)読了。「六人の超音波科学者」森博嗣(講談社ノベルス)
 購入後、なんとなく積読になっていた森博嗣ミステリのシリーズ最新作
 ◇それぞれの背景から、瀬在丸紅子、小鳥遊練無はと土井超音波研究所のパーティに呼ばれていた。お供するのはおなじみのメンバ、香具山紫子と保呂草。車で送りに来ていた村咲子山中深くにある研究所への只一本の橋が爆破される。そして研究所で6人の超音波科学者たちの一人が殺された…。  このシリーズも七作目となりました。
 今回は前シリーズの(俺的には)BEST作品「すべてがFになる」を思わせる舞台設定。そして嵐の山荘で殺人とくれば、ワクワクするハズなんですが…。どうも謎にフォーカスしないで散漫とした印象。ミステリの解答としては、【過去に死んだ一人を今死んだ事にするための集団トリック】だった訳ですが、これはある意味、トリックとしては類型的で、そこを直線で分からせないための謎の分散が物語も散漫にさせているという印象か、という感じですね。
 結局、科学者というワードのセンス・オブ・ワンダーは、個々人の書き込みも薄いためになく、超音波についての蘊蓄もない(紅子の計算機シミュレーションの将来像考察ぐらいか)為、深みはなくなってしまっている。まぁそれを言うなら、キャラについては「すべF」でも主人公クラスを除けば、真賀田四季博士以外は単なる人物記号状態ではあったのだが。(コミック「すべてがFになる」(浅田 寅ヲ)はそうでもなかった。「QUIZ」の漫画化もこの人なのだが)。  そんなこんなで、とりあえずさくっとは読めるが、俺的にはあまり好みではなかったかな(なんかこのシリーズ読むたびにそう書いている気もするが)。
 瀬在丸紅子が、事件解決シーンに、手でチューリップの形を作って開くというのは、今後も続くのかな。確か前回から?(それ以前はあまり記憶にないが)。
 やっぱりこのシリーズは、登場人物に萌える人向けなんだろうなぁ。辺にマニアックなキャラが多いし。


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「六人の超音波科学者」


◆11/4(日)読了。「知性化の嵐1 変革への序章(上・下)」デイヴィッド・ブリン(ハヤカワSF文庫) - 01/11/21 18:28:49

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◆11/4(日)読了。「知性化の嵐1 変革への序章(上・下)」デイヴィッド・ブリン(ハヤカワSF文庫)
 ◇約50万年前、合法的借地権者ブユルは惑星ジージョを休閑地とし惑星を離れた。けれども時代を経た惑星ジージョには、グケック、トレーキ、グレイバー、ケウエン、フーン、ウル、人の種族が、密かに不法入居していたのだった。(後にグレイバーは準知的生物に退化)。ある時、宇宙船が落下し、監査を怖れる6種族に震撼をもたらす。一方、記憶を失った人が発見され、彼もまた外世界からジージョに来たらしいのだが…。
 久しぶりのSFらしいSFです。その予感だけで結構わくわく感が。
 けれども「知性化戦争」を読んだのは結構昔。ましてや「スタータイド・ライジング」や「サンダイバー」ならなおさらです。
 そんな訳で、うすらぼんやりとあのイルカ達はどうなったのか…なんて読んでいれば説明されるか思い出すだろう…なんて思っていたんですが…かすりもしねぇ!(笑)
 舞台は休閑惑星となり知的種族の立ち入りが禁じられている惑星。そこに秘かに不法入植している6種族たち。長い種族では何千年以上にもなり歴史は消失していた。その中に人類の不法侵入も含まれるのだが、謎は多かった。物語はいくつかの種族のそれぞれの種族も異なる登場人物によって語られる。それぞれの異星人の視点はうまい。
 冒頭、数頁に及ぶ、用語とキャラクター辞典があり、「砂の惑星」を思い起こしてワクワクした。(引いてしまう人もいるかとは思いますが)。辞典の内容は、物語の中でで必ずしも説明されないし、またジージョ世界の状況などを知るのに格好の足がかりとなっている意味で、やはり必要なものだろう。そして、辞書に劣らない世界が構築されているのはさすが。
 さらに、<知性化>シリーズの真骨頂とも言える、知性化の階段による主属・類属といった設定も健在。<知性化>宇宙では、それぞれの種族は、その主属によって知性化されることで恒星間航行種族となってい、人類は自らの力で知性化を行ったという事で<ウルフリング>(アースリング)として注目された。またネオ・ドルフィン、ネオ・チンパンジーの知性化を行っており、既にして主属となっていた、という設定は健在。(尤も、「変革への序章」では、準知性のチンパしか出てこないが)。
 物語は、ジージョの世界説明をかねて、ゆっくりと、そしていくつかの異星種族にまたがった視線で展開される。徐々に状況が明らかになっていくが、その展開自体はあまりにもゆっくりしていて、(海外物特有の読み難さもあり)やや辛い。
 下巻1/2を過ぎた辺りでやっと物語的には盛り上がってくるのでそれまで我慢です。
 とはいっても、この<新・知性化>シリーズは、一つのストーリーを三部に分けたものらしく、これだけ厚みのある上下巻でも、伏線の収束、謎の解明は全然進まない(^_^;)
 それでも、アルヴィン(これは<アルヴィン・メイカー>シリーズ(角川の邦訳はもうストップか?)ではなく、「都市と星」(アーサー・C・クラーク)のからかな)の深海への冒険記、賓を巡る行程、<卵>の儀式等、この惑星ジージョの狭い居住域にひしめく6種族のそれぞれに融合した文化を織り込んだ冒険記はなかなか。ラスト近くの【賢者たちと外世界人との駆け引き】はなかなか盛り上がります。
 これだけ(前半の(必要ではある)マターリの上で)盛り上がってきた後半を読了しての感想は、「早く次の巻を〜〜〜! もっと光を〜〜〜!」てな感じです。
 一応、次巻へのネタは、【アルヴィンを助けたのはネオ・ドルフィンくさい】とか、裏で手を引く悪者は【グゲックに似た性悪種族】らしいとか色々とありますねぇ。
 10年ぶりの新作と言うことで、次巻が出るまでには、とりあえず忘れていた銀河系の設定を思い出す為にも「スタータイド・ライジング」と「知性化戦争」あたりは読み返そうかなぁ。
 特にSF者にお薦めですが、初めての人は、シリーズ物なので(必ずしもまだ物語は繋がっていないが設定は踏襲しているため)「スタータイド・ライジング」を読んでからにしましょう。俺的には「知性化戦争」の方が好みだったかな。


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「知性化の嵐1 変革への序章・上」
「知性化の嵐1 変革への序章・下」


◆10/18(木)読了。「ブギーポップ・アンバランス ゴースト&ホーリィ」上遠野浩平(電撃文庫) - 01/11/21 18:28:19

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◆10/18(木)読了。「ブギーポップ・アンバランス ゴースト&ホーリィ」上遠野浩平(電撃文庫)
 久しぶりのブギーの最新刊。
 ◇切っ掛けはふとしたことだった。学校の帰りがけにチャンコを盗もうとしている女の子に気が付いた自分は、隣のスクーターを直結させて彼女に渡す。ところが、入ったコンビニでの誤解から強盗扱いされ、さらにそのスクーターに入っているモノを取り返そうと追ってくるモノたちに追われる事になる。開き直った俺たちは、ゴーストとホーリィと名前で行動を起こすが…。
 なんだかんだでブギーです。なんだか巻を追うごとにストーリ的には薄くなるような気がします。
 第一巻「ブギーポップは笑わない」で見せた冴えたプロットもなく、ブギー世界内での普通の話になってしまっているような。
 ゴーストとホーリィがスクーターの中から発見した世界の敵<ロック・ボトム>と前に現われるブギーってのは、既に定番なので、それはそれという世界なのですが、やっぱその世界観の広がりがないのと作品世界内での時間が(今回も)進んでいないので、この全体がどこに向かっていくかに関与しないというシリーズの中での物足りなさもありますね。
 この作品自体としても、テーマがもやもやしたままで、確かに登場人物の決断という事で成長はしているのだろうが、この物語が必要かと言えばそうでもない感じ。
 尤も、そういうモノを求めないで、ブギー世界の話を楽しむという姿勢が大切なのかも。そして一種の青春モノという世界に浸れれば問題ないのだろうが…。
 今後のブギーのシリーズについてはちょっと自分の好みとははずれてきてしまっているのだろうか? 既にシリーズものとしての延命策(色々と事情はあるのかもしれないが)に入ってしまっている為なのかちょっと心配。読んでいて夢中になれる物語は、果てしなく続いて欲しいが、その逆は必ずしも信ではないのだから。


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「ブギーポップ・アンバランス ゴースト&ホーリィ」


◆10/30(火)読了。「グインサーガ81 魔界の刻印」栗本薫(ハヤカワ文庫JA) - 01/11/08 20:06:45

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◆10/30(火)読了。「グインサーガ81 魔界の刻印」栗本薫(ハヤカワ文庫JA)
 グインの最新刊。いつもなら一日(通勤電車往復)で終わってしまうのだが、イマイチだらだら読んでしまって何日かかかりました。
 ◇イシュトは、謎の攻勢を掛けてきた軍隊の正体を求めパロの国境を越える。一方、グインは、先だってヴァレリウスに伝えたように、現パロ聖王・レムスと会見を行う。そこでグインの見たものとは…
 ということで、今回の目玉は、今まで間接的にしか表現されていなかったレムスが物語の表舞台に出てきた事でしょう。
 そしてそのグインとの会見で、レムスとカル・モルの憑依、そして現在の竜王の憑依の状態が「レムス」の口から語られます。
 しかし、あの<パロの真珠>がこんなになっちゃって。あの頃は俺は中学生だよ…なんて感慨を深くしてしまうと、この作者の毎度のあとがき状態になってしまうんですが、久しぶりに出てきたレムスと、彼の語る現在の状況には、そう思わせる重みがありました。
 自分的には【現われた竜王】よりもその傀儡である【レムス】自体の語りが、インパクトありました。
 そっかぁ、結局、レムスは【自分のダークサイドにころんじゃった】訳なんだね。意識もあるし。そう思わされているというオチは無しで(^_^;)。
 SWepisode2になってたんだねぇ。
 さてグインは自ら敵地に乗り込むことになりますが(多分変な種とかは持ち前の光攻撃(?)でおっぱらうんだろうから不安はないけど)、久しぶりのリンダ登場なるか?
 という事で、次巻は12月発売という事で…。


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「グインサーガ81 魔界の刻印」


◆10/25(木)読了。「奇跡の人」新保裕一(新潮社文庫) - 01/11/08 19:50:17

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◆10/25(木)読了。「奇跡の人」新保裕一(新潮社文庫)
 まだまだ真保裕一です。こちらも勢いがあり、途中からは一気に。
 ◇交通事故で脳死判定間際までいったという意識不明の重体から、リハビリを経て、その回復振りから病院内で「奇跡の人」と呼ばれるようになった相馬克己は、献身的な看病をしてくれていた母親の死により、病院を出て自活することになる。過去の記憶一切を失った克己には全て新しいことばかりだったのだが…家には事故以前の克己の過去を知る一切の物が存在しなかった。健常者であった頃の過去の自分を求める克己は、自分の過去を知るために行動に出るが…
 いやぁ痛いです。冒頭の、克己の事故を知ってから植物人間の状態が変わるたびに一喜一憂し、また自分を励ましリハビリに掛ける克己の母親の手記からして、痛い。
 あざといなぁとは思いつつも、あざとさもこのくらい完成されていると逆にオッケーだったり。俺的には「いいひと。」はNGだけど「最終兵器彼女」はオッケーみたいなもんか。
 話的には、「変身」(東野圭吾)だったり、逆「アルジャーノンに花束を」(ダニエル・キイス)だったり。
 自分を見いだす前に、【過去の自分の残滓に囚われて落ちていく】あたり、ちょっと自分の求めているところとは違ってきてしまい、さらにラスト【再度の植物人間状態と過去の恋人(現夫有り)の母親に代わっての贖罪】は、かなり違うんじゃないかと。
 読ませる作りだし、読んでいる最中は、謎という牽引力に引っ張られて一気に読ませます。ただ、前述の理由により読後感はそれほどでもないものになっているのが残念。
 俺的には、アイデンティティの模索として、過去に引っ張られつつもそれをどう生きるか、それを読みたかったとも思う。


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「奇跡の人」


◆10/23(火)読了。「奪取(上・下)」真保裕一(講談社文庫) - 01/11/08 19:50:20

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◆10/23(火)読了。「奪取(上・下)」真保裕一(講談社文庫)
 ◇<小技>で小銭を稼いで暮らしていた道郎は、ヤクザから莫大な借金を背負ってしまった友達の為に一肌脱ぐことに。ATMをターゲットに、とある手段を考えるのだが…
 勢いよく、上下巻を読了しました。
 傑作。
 コンゲームでもあり、偽札作りへ全てを掛ける生き様のピカレスクストーリでもあるのだが、その犯罪レベルが、巧く読者が引く事のない部分で留まっている所に、爽快感と余韻を残す。冒頭の「別冊ラジオライフ」とかで紹介をしていそうな、ダークサイドの技を駆使しつつ生活する主人公の、一線を越えさせる舞台もうまく作られている。
 今までの<小役人>シリーズとは一線を画す新しい真保裕一魅力を感じた。行き当たりばったりで作者の敷いたレールの上を走っている感じを、その物語自体の勢いでそうとは感じさせないところは流石。
 各章のタイトルが人名になっているのだが、新たな人物の視点かと思いきや【戸籍を買って名前を変え続け偽札作りへ】掛けていくとは。
 そして真保裕一のお得意の蘊蓄は、健在。偽札作りについて、紙の原料から印刷技術の種類、透かしの技法に至るまで、事細かく、そしてもちろんストーリーに絡む形で語ってくれます。その情報量が物語のリアリティをさらに増します。(尤もリアリティ云々よりも、映画的に盛り上がって読むのが正しい読み方の気がしますが)。
 とにもかくにも楽しく読めました。
 ラストも【成功しないのも含めて】いい感じです。
 真保裕一の<小役人>系がイマイチ好きじゃ無いという方もこちらは一度読んでみてください。あと浅田次郎とか好きならお薦め。


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「奪取 上」
「奪取 下」


◆10/17(水)読了。「朽ちた樹々の枝の下で」真保裕一(講談社文庫) - 01/11/08 19:48:33

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◆10/17(水)読了。「朽ちた樹々の枝の下で」真保裕一(講談社文庫)
 そして、真保裕一は続きます。
 ◇都会から私的事情で北海道上富良野で森林組合の新入りとして働き始めた健夫は、原生林の伐採計画により、反対派の自然保護団体の行動か森林組合が悪質な嫌がらせを受けたのを気に掛け、深夜、伐採計画の持ち上がった森林を散策していた。そして彼は、泥だけになった女性を発見する。彼女は自分を見ると逃げ出していったが、心配する健夫は彼女を追掛け、その先で倒れて気絶してしまった彼女を病院まで運ぶ。健夫は新聞記者から救出した件について取材を受けるが、新聞社の名刺まで用意した偽物と判明、また救出した彼女は意識が戻ると病院を逃走し行方が分からなくなっていた。彼女は一体何故深夜に森林にいたのか? 彼女を追っていたのは何者なのか? 一方、彼女を気に掛ける健夫は、少ない手がかりから彼女の素性と行方を追うが、そこには自衛隊の警邏課の影が…。
 発行年順に<小役人シリーズ>を読んできたが、この前に読んだのが三冊目でさすがにその構成に新鮮さと驚きがなくなってきてました。そして今回、二文字熟語ではないタイトルで、どんな感じかと思っていると…うまくひねってくれています。
 <小役人シリーズ>ではないのですが、ハードボイルド的には心に傷持つ過去を捨てようとしている男が主人公で、その前に現われた素性の分からない女性という事で、ちゃんとツボをついてます。
 そして、どうやら彼女が関わっているのはなんらかの事件であり、<組織>が注視していて…と、いうことでぐんぐん読ませてくれます。
 メインストーリではない、伏線、主人公の過去、医局の男の過去が、物語に深みを与えている。
 物語としては、安心して読める良作。ただ、ラスト【理不尽のまま自衛隊の要求を飲み込む所は、落とし所はそこしかないのかもしれないが、】自分的にはあまり好みではない。謎の女性との絡みは、【その事件をキーとしてのみ存在するために、その後にラブアフェアーとしては顕在しないが】、それはそれで俺的にはオッケーです。  


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「朽ちた樹々の枝の下で」


◆10/7(日)読了。「震源」新保裕一(講談社文庫) - 01/10/30 13:15:35

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◆10/7(日)読了。「震源」新保裕一(講談社文庫)
 真保裕一の二文字熟語のシリーズ三冊目。  ◇気象庁地震火山研究官である主人公。彼と同時期に研究員への抜擢を検討されていた先輩の研究官が異動の先で失踪してしまう。たまたま計測の為にその地を訪れた主人公は、失踪した元同僚を追うが、そこには国家的陰謀が隠されていた…。
 今回は、タイトルに「震源」とある通り、地震に関係したテーマとなってます。
 大風呂敷に広げられたプロローグの為に、やや話としては分散してしまっており、話も飛ぶために物語に集中しにくい作りではありました。が、それなりに読ませます。ただ、慣れてきてしまった所為か、先述の物語の作りの所為か、中だるみもあり、読了までに3日掛かってましたが。
 中心に国家的陰謀が在るために、二重三重のカヴァーが物語の混迷の度を深めさせていて、読了後も分かりずらい状況となっています。海上保安庁に警護された低レベル放射性廃棄物の運搬、中国奥地にあるタリム油田へ電話が掛かってくる伏線、そして、内閣情報調査官が防衛庁研究官訪問と、様々なピースが読者の前に投げ出され、その暗示するいくつかの状況の真相への求心力がページを繰らせます。
 今回詰め込まれた蘊蓄としては、地震に関する事だけではなく、スパイ天国とも言われる国防がらみの情報(まぁ全てが事実ではなくもちろん小説的に作られてはいるのだが)等々、やはり社会に対しての読者の目を喚起するものとなっている。
 けど、今回の話は、主人公の元先輩同僚の居所の飽くなき追求が基盤にあるのだけれど、普通は失踪かぁで終わるところを、その職場、協力大学、実家、愛人宅等と追跡していくバイタリティーには感服。(というかちょっと引きつつ(笑)。まぁそれが無ければ物語的に紡がれないんですが)
 今回のラストに関しては、【あまり爽快感がなく、ハッピーエンディングとも言えなかっ】た事は残念。同僚についても【ダミーで沖田艦長並の復活はなかったですし、結局あれだけ労力を掛けて会うことかなわずで、さらに追跡がなければ死ぬことも無かったと考えると】しんどいものがあります。
 さて、次は真保裕一「朽ちた樹々の下で」に入ります。


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「震源」


◆10/4(木)読了。「取引」真保裕一(講談社文庫) - 01/10/30 13:14:39

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◆10/4(木)読了。「取引」真保裕一(講談社文庫)
 続いて、真保裕一です。一日で一気読みでした。
 ◇公正取引委員会審査官の伊田は、策略より汚職の容疑をかけられてしまう。銀行に振り込まれた多額の現金の理由とは? けれどもそれにはさらに裏があった。ODA談合の内定を依頼された伊田は、フィリピンに飛ぶ…。
 公正取引委員会という組織のなかで上司がもてあますほど正義感の強い為に疎んじられる主人公が、逆にハメられたような汚職の嫌疑。誰が?何のために?という事でイキナリ物語の牽引力に絡め取られる。そしてその後の、その疑惑の裏に存在する特命。
 安心して読める質の高さを予感させつつ、その期待に違えないきっちりとした作り。そしてその中に盛り込まれた、情報量。逆に定番的に作りすぎているために、二重三重のどんでん返しの先がうすうす予感できてしまうのは、穿ちすぎる読者の欠点か(^_^;)
 なかなかの秀作。社会派本格と言われがちですが、サスペンスとしての引っ張り方や知識欲に呼応する情報量とリーダビリティは万人向け。お薦めです。
 暫く、真保裕一をこなす予定です。。


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「取引」


◆10/3(水)読了。「連鎖」真保裕一(講談社文庫) - 01/10/12 20:58:30

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◆10/3(水)読了。「連鎖」真保裕一(講談社文庫)
 マイファースト新保裕一。第三十七回江戸川乱歩賞受賞作。
 ◇厚生省元食品衛生監視員の羽山は、ある消費者団体からのFAXにより肉の汚染を調べる事になった。その折り、放射能汚染食品の三角流入をスクープしてた学生時代からの親友であるルポライターの竹脇が、車で海に飛び込み重体、意識不明となっていた。これは羽山が竹脇の妻・枝里子と関係を持った結果なのか? 羽山は、竹脇が追っていた汚染食品スクープの続報を追うが…。
 さすが乱歩賞受賞作だけあって、一作目にして、きっちりとしたハードボイルドという物語の型にはまった作りであるというか――骨太のハードボイルドでした。
 失意と挫折の屈折した日々と、その中での孤軍奮闘。そしてその先にあるかもしれない解を求めてじりじりと進んでいく姿勢。同時に食品輸入の実体の蘊蓄を提示しながら、あってもおかしくない現実解を紡ぎ上げる。
 407ページというそれなりの厚さなのに、それでもまだまだ内容が濃い感じ、詰め込まれている感じをさせるのは、織り込まれた情報とプロットが緻密だから。牽引力に引っ張られて、ほぼ一気読みでした。
 ラスト、【ご都合主義という見方もあるだろうが、将来を感じさせる明るさを持って終わる】のは、俺的には良かった。
 続いて真保裕一を読んでいく予定です。


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「連鎖」


◆10/1(月)読了。「遺品」若竹七海(角川ホラー文庫) - 01/10/05 17:41:33

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◆10/1(月)読了。「遺品」若竹七海(角川ホラー文庫)
 ひさしぶりの若竹七海。でも角川ホラー文庫。とりあえず一気読みでしたが…。
 ◇女優であり作家でもあった曾根繭子、当時の曾根繭子の後援者でもあった大林一郎の集めたコレクションが公開されることになり、金沢郊外の銀鱗荘ホテルの一室に集められ封印されていた部屋の整理をすることになったわたしは、その大林一郎の異常と思われるほどの収集物を知ることとなる。タイミングよく、曾根繭子の遺稿と舞台稽古を写したフィルムが発見されたのだが、その原稿にある出来事をなぞるように、わたしを巻き込んで事件が起こっていく。曾根繭子は何故死んだのか? 一連の出来事はなにを望んで起起こされているのか?
 一方的に彼氏に別れ話を持ちかけられ、自宅でも針のむしろの主人公が渡りに船と乗った先で…ということで、前半は、今まで読んだ若竹七海のミステリーぽくてそれなりにキャッチーです。強気の主人公や、地に足の着いた描写もよし。
 しかし、段々ホラー色が色を濃くしてきて、それはもちろん角川ホラー文庫であるから当然ではあるのだが、そのホラーと世界の合理さというか、若竹七海ミステリに自分が求める解の落とし所がどこになるかにについては、後半裏切られることになる。
 まぁ、こういう見方はホラーがホラーである為に、好みではないと言っているようなものなのでフォローしておくと、自分的にはこの物語の根幹は合理であって超常現象は根っこには関係ない部分で治まると、勝手に思っていた所為もあると言うことで。
 ただ、ホラーが好きな人はどうなんだろう? ホラーのセンス・オブ・ワンダーをスーパーナチュラルに置き、それと触れる事とするならば、それなりに楽しめるのかも。俺的にはラストの唐突なスーパーナチュラル化がダメでした。
 怖さよりも合理性というか世界ルールから見えるフェアな収束を求めるからかなぁと自己分析。そういう意味でホラーに求めるものは俺的にはミステリと位置づけは近いかも。スーパーナチュラルを公理としてその上で読んでいった場合にも、なんでもアリになってしまっては評価は低くなってしまいますね。読者に手がかりはフェアに提示されていて欲しいところ。「リング」(鈴木光司)は、そういう意味でも巧くできていた。
 もう一方のアプローチとしては、不条理な恐怖の中で、どう生きるかって事に重心があるものも俺的には評価が高い。「桃色浄土」(坂東眞砂子)とか「バトルロワイアル」(高見広春)とかね。
 という訳で、この本は、まぁ普通に読め普通に終わってしまったかな。


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「遺品」


◆9/28(金)読了。「地球・精神分析記録 エルド・アナリュシス」山田正紀(デュアル文庫) - 01/10/05 17:17:41

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◆9/28(金)読了。「地球・精神分析記録 エルド・アナリュシス」山田正紀(デュアル文庫)
 これまたデュアル文庫による昭和のSFのサルベージ。山田正紀の「地球・精神分析記録」です。発表は1977年。1978年第9回星雲賞日本長編部門受賞作
 ◇集合的無意識を喪失した人類は、病んでいた。感情を失い、徐々に衰退を辿る人類を、その失った感情の代わりに作られ管理している4体の神話ロボットがあった。私は、滅亡への道に抗い、その一体<悲哀>(ルゲンシウス)を倒そうと極寒の中グリーンランドを、渡っていた…。
 という事で、山田正紀の面目躍如的な、形而上的寓話SF(?)。タイトルに精神分析記録あるように精神分析手法になぞらえた章立て「徴候分析 悲哀――ルゲンシウス――」、「既往歴分析 憎悪――オディウス――」、「無意識分析 愛――アモール――」、「連想分析 狂気――インサヌス――」、「総合診断 激情――エモツィオーン――」は、見事。
 けれども、自分的には見事なプロローグだけで終わってしまったかのような読了感だった。 籠は綺麗に編まれているが中身が見えないままという感じ。
 まぁ昔から山田正紀のSFの多くにはそういう印象を持っているので、いまさらではありますが、俺的にはあまり合っていないかな、と。やはり、物語の骨の解析が進まないことがその主原因。結局、何故、人類の集合的無意識が失われたのか?、4体の神話ロボットの倒壊の意味するのは?、『デ・ゼッサント』とは?、それが求めていたものとは? と謎は収束しないまま、物語の形だけが、繰り返されるモチーフ「狂っているのはこの世界なのか,それとも私自身なのか」によって閉じられる。
 作風としては、神話ロボットの周りをひたすら流転するそれぞれの主人公。そして現実と幻想との入り交じりということでディックに近いかも。
 そんなこんなで、世界発見というSFの醍醐味というよりも、形而上的理論でデコレートしたアクションモノという感じ。尤も中学生当時に出会っていたらまた違った感想を持っていたのかもしれないが…。
 「神狩り」「弥勒戦争」とかが素直に楽しめる方にお薦めいたします。


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「地球・精神分析記録 エルド・アナリュシス」


◆9/21(金)読了。「大神亮平奇象観測ファイル 憑融」青木 和(デュアル文庫) - 01/10/05 17:15:47

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◆9/21(金)読了。「大神亮平奇象観測ファイル 憑融」青木 和(デュアル文庫)
 「イミューン」で一回日本SF新人賞の佳作入選をした作者の入選後第一作(多分)。
 ◇病弱な長男・嶺の為に、田舎と新興住宅が交じる希志堀井の町に一家は引っ越してきた。嶺は、健康で快活な弟・灘をいつもまぶしくみていた。その弟がカエリ淵という地元でも禁忌とされる池まで何故か足を運び、落ちてしまったという。灘は一命をとりとめ、日常に復帰したかのように見えた。けれども、灘がふとした拍子にみせる無表情、異様にペットボトルの水を飲み続け、相反する様に食事をしなくなる事に気付いた嶺は、古本屋の主人からカエリ淵に入った者は化け物に取り憑かれるという話を聞く。嶺は、自分の通う高校の臨時教師でもあり、地元の神社の宮司の息子でもある大神亮平に相談をするのだが…。
 SFというより作りはホラーですな。<大神亮平奇象観測ファイル>という所をみるとシリーズ化の予定なのか。
 タイトルの割に、大神亮平ではなく、麻木嶺が主人公です。しかも将来的にもモノノケと絡みそうですね。病弱を生かしてアームチェア・ディテクティブとか。
 それはともかく、話としては、それなり。ちゃんと定番として物語も立っているので、それなりに読ませます。話としては「水霊」かな。
 通常のホラーと一線を画すのは、憑融された者の立場がかなり曖昧な所。つまり【弟・灘の生死を含む、記憶とある程度の意識を持ち動いている”彼”のアイデンティティの不確かさ】だ。それはまた、嶺を悩ますことにもなる。前作「イミューン」についてもそうだったような。
 そんな中で嶺はある決断をするのだが、その落とし所は、俺的にはどうかと思わないでもない。分からないままというのが気に掛かる。シリーズとしてなら今後も絡んでくる可能性はあるしで、これがまだまだプロローグだとすると、今のところは「普通」な出来だが評価はそれを読んでからにしたほうがいいのかもしれない。


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「大神亮平奇象観測ファイル 憑融」


◆9/20(木)読了。「美しき凶器」東野圭吾(光文社文庫) - 01/09/26 20:53:50

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◆9/20(木)読了。「美しき凶器」東野圭吾(光文社文庫)
 東野圭吾。
 ◇4人の元世界的スポーツ選手が、仙堂之則の家に侵入した。隠滅せねばならない過去のデータを盗むためだったが、仙堂に発見され、やむなく殺害、家に火を付けて事なきを得たかと思ったが…仙堂は次なる選手として一人の女性の面倒をみていたのだった。彼女は、実況検分に訪れた警察官を殺害し銃を奪い4人の行方を追った…。
 うーん、東野圭吾の光文社レーベルの話はイマイチですかね。物語を先に読み進めようとさせる牽引力があまりなく、だらだら読んでおりました。普段なら謎や叙述トリックが牽引力になるのだが、この作品ではそれも特になく、視点としても、タランチュラと名付けられた彼女にも、元スポーツ選手の立場にも特に思い入れなく物語は進んでいく。それでいてプロット的に何が在るわけでもなく(強いて言えば【身内の人間である佐倉翔子の殺人幇助】が明かされるくらいか)、読み所というか、焦点が掴めない。
 というわけで、俺的には、特に押さえる必要はないと思われた東野圭吾の一作品でした。
 どうも光文社文庫の作品は、一般的なミステリードラマというポジションで書かれているか、ターゲット(狙い)と自分の好みとがあまり合っていないような、気がします。


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「美しき凶器」


◆9/17(月)読了。「グインサーガ80 ヤーンの翼」栗本 薫(ハヤカワ文庫JA) - 01/09/26 20:52:13

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◆9/17(月)読了。「グインサーガ80 ヤーンの翼」栗本 薫(ハヤカワ文庫JA)
 グインサーガ最新刊。今回も暫く経ってからの入手となりました。まぁ買えばすぐ読めるんだけどね、だいたい一日(電車の往復)で読み終わるし。
 ◇グイン軍は、自国ケイロニアを越える手前、ワルスタット城塞にて、パロのレムス側の使者、ナリス軍の軍師ヴァレリウスのそれぞれの陣の者と会見を持ち、情報を入手しようとする。一方、イシュトヴァーン率いるゴーラ軍は、山中で襲撃元となったタルーを虜囚とする。タルーへの拷問からその兵の入手経路を聞き出すと、サウルと名乗る老人から傭兵を譲られたと言う。その謎を解明するために自由都市イレーンへ軍を進める。
 という感じで、とりあえずインタールードというか、割と動きの無い巻ですね。前巻で、グインのケイロニア軍、イシュトのゴーラ軍、そして内戦中のレムスのパロ軍とナリスのナリス軍と駒が揃い、とうとう(やっと)三国志に突入かという所なんですが。
 しかし前巻(だったか)から字が大きくなって、どんどん雑誌的に。てか進みも遅くなって、100巻の公約を大幅に越えそうでもあるので、もうそこら辺の巻数(プロット)計算はしなくなったのでしょうか?(^_^;)
 あと、ヴァレリウスとグインの会見の際の、美文調というか感激調も変わらず。いいかげん読み流しておりますが。読者としては、もっと物語の密度のある流れを希望かなぁ。少なくとも、登場人物が毎回同じように繰り返す「感慨」はなんとかならないものか…。
 


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「グインサーガ80 ヤーンの翼」


◆9/6(木)読了。「反在士の指環」川又千秋(デュアル文庫) - 01/09/26 20:51:50

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◆9/6(木)読了。「反在士の指環」川又千秋(デュアル文庫)
 SFサルベージ文庫のデュアルから、懐かしの反在士の復刊です。
 ◇ポーンは火星でライオンという若者に出会う。彼は、白王軍と紅后軍による戦争によって故郷の星系が消滅してしまったのだという。そして「反在士の鏡」を使い、この宇宙にまたがる2大勢力である、白王と紅后を操っている者を探しだすのだと。この宇宙をチェス盤として、老人達がゲームを争っているというまことしやかな噂が流布される中、ポーンは彼に興味を持ち、行動を共にすることにする。
 という訳で、もともと「反在士の鏡」(ハヤカワ文庫JA)を持ってはいましたが、懐かしさで新たに購入しました。
 こちらは、「反在士の鏡」の短編集に、それ以降発表された短編、そして書き下ろしの表題作を含む、反在士シリーズ完全版とも言える内容となっている。
 鏡面理論によりワープ航法を獲得し宇宙にその図版を広げた人類は、地球時代からのもはや理由や起源が定かでない二つの勢力の大きな争いをもまた広げてしまう。その争いは一体何のために行われているのか?裏に白王と紅后という存在がいるのか?また反在士の存在はそのゲームにどんな影響を与えるのか?加えて、アリスの鏡などガジェットがセンス・オブ・ワンダーをくすぐる。
 もっとも、今となってしまっては、米ソの冷戦時代を揶揄もする設定やらイマイチ薄い理論面などはオールドテイストを感じることを否めない。尤も後者は、中学時代に読んだ自分に比べて単に大人になってしまっただけなのかもしれないが。
 読み直してみると、結構、ストーリーを忘れていて、今読んだ感想としては世界設定がファジーだなぁと。まぁその仕組みを探るというのが原動力の物語ではありますが、ラストになって【原因の掴めないまま世界の崩壊】というのはどうでしょうか? また【最後の短編で物語構成でオチをつけようとはしているが、登場人物たち自身の物語が収束しない】という点も読了後に物足りなかったかな。まぁ好意的に見て雰囲気とガジェットを楽しむ作品という所で。そういう意味ではスペースオペラなのかも。
 なにはともあれ、ハヤカワ文庫JAで手に入らなくなっており、さらにその後に出た作品も収めれているという事で、往年の川又千秋ファンは、そして等身大で楽しめるSF好きの中高生は、買って損はないでしょう。
 ラストからみるに、実はその先の物語もいつか鏡により具現化されるかもしれないのだから。


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「反在士の指環」


◆8/31(金)読了。「ブルータスの心臓 完全犯罪殺人リレー」東野圭吾(光文社文庫) - 01/09/26 20:52:00

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◆8/31(金)読了。「ブルータスの心臓 完全犯罪殺人リレー」東野圭吾(光文社文庫)
 引き続いて、東野圭吾の消化です。
 ◇産業機器メーカーで人工知能ロボットの開発を手がける、末長拓也は出世コースを狙っているのだったが、ある時、遊びで付き合っていた総務の女性・康子に妊娠を告げられる。他にも二人の男がいるという彼女は、子どもを産み父親を判定した上で養育費を請求するというのだ。残り二人の男を捜し出した末長に、その最年長の男である会社の専務は、三人による殺人後の遺体のリレーによるアリバイ作り計画する。そしてそれぞれの思惑の中、リレーの真ん中となった末長は、その当日、次の人間に渡す際に遺体を確認すると、康子ではなく殺害の実行犯である専務であったのだ?一体何故?誰が…?
 ということで、当初からかなりキャッチーに話は進みます。倒叙形式のミステリで、こうくるのかと思っていると、いきなり、計画した仲間の死体が…。そして当の康子はぴんぴんしていて…。一体どうして?
 けれども、ラストの方は、そのsurpriseの提供の後の小説のプロットしては、イマイチな展開で、惰性で続いているような感じを受けた。確かに描きたかった事は、物語の前半でやってしまっていただろうからなぁと思わないでもないが。プロローグとラストを繋げることで、物語の落とし所としようとしたのだが、収まりは悪し。焦点がさだまらないのと、唐突な感が否めない。
 とはいってもそんなに悪くないので(特に前半)、あらすじをみて興味を持った人は読んでみるといいかも。しかし東野圭吾は、会社が出てくるときはだいたい理系の会社だねぇ。あと描く犯罪者タイプが割と非共感方で類型的な気も。まぁこれはミステリだけに理知的でないとトリックを作ってくれないししょうがないのか(^_^;)


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「ブルータスの心臓 完全犯罪殺人リレー」


◆8/29(水)読了。「11文字の殺人」東野圭吾(光文社文庫) - 01/09/26 20:51:36

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◆8/29(水)読了。「11文字の殺人」東野圭吾(光文社文庫)
 とりあえず、またまた東野圭吾消化中です。
 ◇無人島より届いた復讐を誓う手紙。そして一年前にクルージング中に一人を覗いて助かったメンバーが殺され始める。
 普通な感じのミステリ。赤川次郎的というか。つまらなくはないが、取り立てて面白いという感じでもなかった。二時間ドラマ的というか。
 まぁ東野圭吾が既に好きで押さえておきたい人、移動時間が長い時の退屈のお供に…という感じでした。(^_^;)


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「11文字の殺人」


◆8/28(火)読了。「鷲の驕り」服部真澄(祥伝社文庫) - 01/09/03 20:02:40

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◆8/28(火)読了。「鷲の驕り」服部真澄(祥伝社文庫)
 マイ・ファースト服部真澄。ボリュームのせいもありますが、通勤読書で約5日と意外と読み切るのに時間が掛かった感じです。
 ◇天才ハッカー、ケビン・マクガイヤは3年に渡る禁固期間を明け、未来への展望を自らをプロと化する事で開こうとしていた。そこで留置所で知り合ったヴィトーが声を掛ける。そこで渡された仕事とは、米国特許庁のデータをハックする事だった。一方、ケビンを逮捕する切っ掛けとなったコンピュータ・セキュリティの専門家・笹生勁史は、通産省からある依頼を受け取る。クレイソンという個人発明家のサブマリン特許にからむ件で、調査を依頼したいというのだ。折しも、CIA、アメリカ国防省もクレイソンをマークしていた…
 という風で、物語の味はほぼアメリカ海外小説という感じです。読んでいて、邦訳された小説という感じでした。それは、まぁ、文章が硬い(+やや読みにくい)というのもあるんですが。
 作風としてはトム・クランシーとか?。いや、読んだこと無いのでわかりませんが。それが日本人の作品で読めるところに価値がある(らしい感じだ)。
 ある種大がかりなコンゲームの箇所もあり、それなりにニヤリとしながら楽しめました。情報系からみても割と妥当な作りであると思います。また、特許がらみの件は、知識としても面白かった。秘密であるところの石=【ダイア】については、勘が良ければすぐにネタは分かるんですが(しかも最近新谷かおるの「クレオパトラD.C」を読んだので、俺的にはタイムリーでした)、それは接点というか結果にしか過ぎなくて、大きな問題としてシステムにこそネタがあるのは巧い作り。
 そういう訳で、日米スパイものとか好きな人ならさらに楽しめたかと。俺にはあまり比較するべき既読書はなかったので、ジャンル内評価としては難しいところ。それでも、それなりに楽しめることは保証いたします。


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「鷲の驕り」


◆8/20(月)読了。「天使に見捨てられた夜」桐野夏生(講談社文庫) - 01/09/03 20:02:27

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◆8/20(月)読了。「天使に見捨てられた夜」桐野夏生(講談社文庫)
 続いて桐野夏生です。
 ◇仕事を回してもらっている多和田弁護士から、村野ミロの所に、強姦AVに出演後失踪したAV女優・一色リナの捜査が依頼された。依頼人は、フェミニズム運動を行っている渡辺房江。芝居ではなく本当に強姦ではないのかという依頼人の主張に従い、一色リナの足取りを追う内に、何かを隠すためのような、執拗な妨害が始まる。さらに、一色リナには暗い過去が…。
 ということで、村野ミロシリーズとなった第二弾。前作では、味方であると同時に敵でもあった成瀬時夫の役を補うかのように、サポート役として登場するのは、とある事が切っ掛けでミロに恩を感じた隣室のゲイバーの経営者・友部。
 暴力と混乱と秘密。表社会ではないという実感と、ピリピリとした雰囲気が肌を取り巻く。大人の男と女の関係になるべくもない友部への想いが、それぞれの魅力ある人間としての存在が、そしてミロを抗しがたくとらえる調査相手であったはずの矢代との交わりが、物語をさらに重くする。
 一方、一色リナの行方について、徐々に明らかにされる謎の答えが、また暗くも巧い。
 謎の牽引力と、雰囲気に一気読みです。
 普通女性作家では書かないだろうと思われる、理屈ではない(むしろ後ろ暗い)情事にドキッとさせられるのも、また一つの衝撃ではあったかな。
 俺的には、なかなかの物語でした。続きが在ればまた読みたいと思う。  


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「天使に見捨てられた夜」


◆8/19(日)読了。「顔に降りかかる雨」桐野夏生(講談社文庫) - 01/08/22 17:19:29

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◆8/19(日)読了。「顔に降りかかる雨」桐野夏生(講談社文庫)
 マイファースト桐野夏生。
 ◇真夜中の電話のベルで悪夢から覚めた私・村野ミロは、それでも電話に出ることはしなかった。真夜中の電話に出ることはあの時以来止めたのだ。翌日、親友・宇佐川耀子の現在の彼氏・成瀬時夫から連絡があった。預けた1億円を持って耀子が消えたというのだ。その金は成瀬の会社の背後の暴力団上層部からのヤバい金であった。疑われ監視され、さらに次の土曜日までに1億を取り返せと要求される。ミロは、反発しながらも成瀬と共に耀子の足取りを追うが…
 巧い。そして、まさにハードボイルド。
 導入部の悪夢に暗示される暗い過去と、悪夢のままに鳴り続けたベルに予感される重い未来。親友の裏切りを提示され、信じられない思いに判断を下すため前に進む主人公。そして徐々に明らかにされる主人公の過去と、錯綜する人間関係。ミロの持つ人生への喪失感に漂いながら、物語の謎と人間関係で牽引され、一気に読了しました。
 女性作家の女性主人公のハードボイルドという事で、女性読者向けが意識されているのかと思えば、寧ろそれとは逆であるような読感です。作りとしては藤原伊織の「テロリストのパラソル」に近いか。こちらの主人公はうらぶれた中年男ですが。本来ハードボイルドの主人公ではない所という意味では共通しているかもしれない。
 耀子の職業であるノンフィクションライターという設定も、物語内でアンダーグラウンドの文化・コミュニティを語る際に巧く生かされている。ただ耀子がサブカルのプロパーに”リアルじゃない”と言われていたように、この作品での提示の仕方もアンダーグラウンドカルチャーのつまみ食いに終わっている感じであり、それを残念にも思いつつ、物語内で消化されている以上、無い物ねだりかとも納得。
 ミロの持つ喪失感が物語全体の雰囲気としてベースに存在するのだが、それは、自分にとってはハードボイルドを読む魅力の一つであり、好きな雰囲気でした。私事だが6月から非常に忙しく休みもない状態で(逆に反動で通勤読書の量は増えていたりもするのだが)トレヴェニアンの「夢果つる街」などにも流れている、その雰囲気が心地良かったりもする。そこらへんはある意味、村上春樹にも共通する所があるのかなぁ。まさに「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」って作品もありますし。逆にそんな底流に引っ張られて色々と夢に見ちゃったりしまいましたが。
 リーダビリティも高く、きっちりとした構成の傑作。お薦めです。
 1993年江戸川乱歩賞受賞作。


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「顔に降りかかる雨」


◆7/10(火)読了。「恋恋蓮歩の演習」森博嗣(講談社ノベルス) - 01/08/18 19:03:29

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◆7/10(火)読了。「恋恋蓮歩の演習」森博嗣(講談社ノベルス)
 森博嗣のシリーズ最新刊。
 このシリーズになってから、自分的にはイマイチな感想しかもてずに、それでも読み続けてきたのですが、物語としては今作も及第点にあるのかもしれないが、やはり「すべてがFになる」の頃の(俺的な)センス・オブ・ワンダーは感じられず残念。
 ミステリとしては、最近の作者は、本格指向の大トリックではなく、小技連携で、さらにメインではない所に叙述トリックな人なので、その範囲の内でした。その傾向が好きな人になら勧められます。
 


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「恋恋蓮歩の演習」


◆7/7(土)読了。「サンタクロースのせいにしよう」若竹七海(集英社文庫) - 01/08/18 19:03:09

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◆7/7(土)読了。「サンタクロースのせいにしよう」若竹七海(集英社文庫)
 連荘で若竹七海です。  ◇世間知らずのお嬢様・松江銀子と同居することになる主人公・岡村柊子の、その日常で起こる”不思議”を牽引力に、私の日常の出来事が語られるという、「ぼくのミステリな日常」ラインの日常系ミステリ。
 当初から連作の予定だったらしく、日常にまつわる謎は次の作品まで解かれることがなかったりで、なかなか楽しませてくれます。
 ただほのぼのという作風と、冷徹な現実観(に基づく出来事)にもややギャップも。まぁそれがないと事件が起こらないともいえますが。常にハッピーエンドかというとそうでも無いところで読後感の評価が分かれるかもしれない。
 謎の解明だけはなく、バックグラウンドから分かる徐々に変化する人間関係などもいい味がでてます。
 この系統(北村薫<紫苑師匠と私>シリーズなど)が好きな人にお勧め。宮部みゆきのミステリ短編にも通じるモノがあるかと。

以下の七編を収録
「あなただけを見つめる」
「サンタクロースのせいにしよう」
「死を言うなかれ」
「犬の足跡」
「虚構通信」
「空飛ぶマコト」
「子どものけんか」

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「サンタクロースのせいにしよう」


◆7/6(金)読了。「海神(ネプチューン)の晩餐」若竹七海(講談社文庫) - 01/08/18 19:02:58

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◆7/6(金)読了。「海神(ネプチューン)の晩餐」若竹七海(講談社文庫)
 リーダビリティが高くほぼ一気読み。なかなかいい感じです、若竹七海。
 ◇舞台は、昭和初期、香港〜横浜〜バンクーバへの豪華客船「氷川丸」。モラトリアムから脱出しようと出かけた主人公・本山高一郎は、友人から買い取らされた短編小説の原稿を船上で盗まれる。それはタイタニックの遺品で、タイタニックと共に海に沈んだジャック・フュートレルの「思考機械」が活躍するシリーズの一編だった。さらに船上では金髪の幽霊事件や、死体消失事件が起こり…
 という事で、「思考機械」の短編にまつわる短編やら、密室やら、張大人という人物やら、ミステリ的くすぐりも多く、さらに、昭和初期の豪華客船の船旅、主人公たちの青春モノ、タイタニックにまつわる謎の提示やらもあり多面的に楽しめる作品。
 船上で知り合った美少女との掛け合いやら淡い予感やらも楽しい。その腕白な弟の日記の記述も(当然ながら)一癖ある伏線となっています。
 限られたメンバーでの船旅というミステリ的にうまい状況と、旅自体の面白さや出会いのハレ的状況、そして謎の牽引力。【うねり来る戦争という時代の暗雲】を暗示して、一つの節目を描くラストも秀逸。
 文句無く面白くも読んでいて楽しい小説です。ミステリ好きも、そうでない人にも楽しめる良作。


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「海神(ネプチューン)の晩餐」


◆6/15(金)読了。「天使の血脈(上・下)」篠田真由美(デュアル文庫) - 01/08/18 19:01:14

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◆6/15(金)読了。「天使の血脈(上・下)」篠田真由美(デュアル文庫)
 「少女の空間」収録「」で短編は読んだことがある篠田真由美。デュアルで出たのでとりあえず購入しました。徳間ノベルス絶版からの復刊。
 ◇ルネッサンス時代のフィレンツェ。母子家庭の主人公の少年は、母親の意向により芸術のギルドに入れられる。少年が成長したときに、彼に黒い影が迫る。母親の巫女の血と、死んでしまった父親の謎の生い立ちに関係があるようなのだが…。  4日ほど掛かって読了。復興期のイタリアのゴシックファンタジーという感じかな。自分としては、あまり物語を先に読み進ませようとする牽引力を感じさせられず、楽しめなかった。物語中の謎に対する何故?が回答の提示と言うより、こういう枠組みの物語なんだよという提示で答えているようなところが不満なのと、逆にその枠の中では、新しく魅せてくれるような何かは無かったというか。
 少女漫画の原作みたい(表紙もソレ系)。まぁその雰囲気が好きなティーンズ向けかなぁ。デュアル文庫はそもそもそれがターゲットと言われればそれまでですが。


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「天使の血脈 上」
「天使の血脈 下」


◆8/17(金)読了。「探偵倶楽部」東野圭吾(祥伝社ノン・ポシェット) - 01/08/18 16:04:04

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◆8/17(金)読了。「探偵倶楽部」東野圭吾(祥伝社ノン・ポシェット)
 で、東野圭吾。今度はノン・ポシェット文庫のもので、短編集です。
 ◇親族会社の社長・正木藤次郎の喜寿を祝う会の後、その本人が別室で首を吊って死んでいるのを発見した会長秘書の成田と、藤次郎の現愛人江里子。親族会社で能力を買われのし上がった成田には血縁のバッグがなく、まだ社長と籍を入れていない江里子も、藤次郎に死なれては困る身だった。そこで一計を案じ、社長の行方が分からないままにしておこうとするのだが…。藤次郎の死んだ日に離婚届に判を押した妻の文江は、謎の解明のために探偵倶楽部が呼ばれる。(「偽装の夜」)

 上記作品を含む、5編が収録されている。いずれも探偵倶楽部の男と助手が最後に謎を解明するという形式。
 「偽装の夜」
 「罠の中」
 「依頼人の娘」
 「探偵の使い方」
 「薔薇とナイフ」
 それなりに楽しめるミステリ短編集。冒頭作品の軽く構築されている倒叙形式でスタートしている先にある叙述トリックは、読者に先読みさせておいてのヒネりにニヤリとさせられる。
 尚、本書は、ノンノベルから「依頼人の娘」として新書版で出版されたものを改題して文庫化したもの。
 標準点はクリアしているエンターテイメント作品。読了後、特に残るものはないが、ミステリが好きな人なら楽しめます。
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「名探偵倶楽部」


◆8/17(金)読了。「白馬山荘殺人事件」東野圭吾(光文社文庫) - 01/08/18 16:02:06

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◆8/17(金)読了。「白馬山荘殺人事件」東野圭吾(光文社文庫)
 講談社文庫の東野圭吾の手持ちは読了しましたが、実は東野圭吾は、他文庫のがまだありまして(笑)。以降はそちらに入ります。でもってこちらは二日で読了。
 ◇信州・白馬のペンションで自殺したとされる兄の死の原因に納得するために、妹の菜穂子は、一年後の同じ時期に、親友のマコトと共にペンション「まざあぐうす」に向かう。常連客のみで占められるこの時期、妹という事を隠して止まった彼女は、「まざあぐうす」の各室に飾られたマザー・グースの一遍にまつわる謎を知る。兄が死ぬ直前に出した「マリア様はいつ帰るのか」という葉書の文面は何を意味するのか? そしてさらに死体が発見される…。
 という事で、所謂『嵐の山荘』モノのミステリー。本格ですな。
 いきなりプロローグが二つもあるし、冒頭でいきなり【親友のマコトについての叙述トリック】はあるし、なかなか掴み所は心得ているという展開。
 さらに、マザーグースに謡に掛けられた謎、兄の死の真相、密室の謎、新たな殺人と盛りだくさんです。
 なかなか楽しめる本格ミステリと言えるでしょう。(ただし密室モノとしては自分的にはモノ足りなさも残ったが。)
 まぁ、ただ今読むと本格の枠の中に収まってしまっていて新味がないという見方も出来る。新本格ではない由縁か(というか、出版年は1990年なので一昔なのだが)。それなりのレベルで楽しめるエンターテイメント作品。ただし俺的には今ひとつ物足りなかった。それは作品自体がではなく、このジャンルに対して求めるモノが違ってきているからなのだろうが。
 ベーシックに本格ミステリを楽しみたい人にお勧めです。
 


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「白馬山荘殺人事件」


◆8/11(土)読了。「虹を操る少年」東野圭吾(講談社文庫) - 01/08/14 18:58:15

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◆8/11(土)読了。「虹を操る少年」東野圭吾(講談社文庫)
 立て続けに読んできた東野圭吾の講談社文庫もこの作品で最後です。
 ◇子どもの頃からまわりに比べて以上に知能が高かった、光瑠。成長するに従って、色に対しての感度は天才的に上がり、高校生になったとき、彼は光を演奏する装置を作り上げる。彼の演奏する「光楽」に対して感応する若者たちが現われたが、それに対抗する勢力が…
 SFというにはちょっとヌルいが、SF風のサスペンスタッチの展開です。
 作りとしてはなかなか巧いが、新しさという点では自分がSFプロパーなので、弱いと感じますね。C.W.ニコル風(?)。
 まぁ新人類テーマとしては、古典なら「スラン」、最近のなら「ダーウィンの使者」とかいろいろあるので、そのバリエーションの一つとしてみるとヌルいです。
 東野圭吾は、器用だなと思います。ただ、この作品に関しては、その器用さで軽く作っているような感じも持ちました。


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「虹を操る少年」


◆8/9(木)読了。「むかし僕が死んだ家」東野圭吾(講談社文庫) - 01/08/14 18:57:16

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◆8/9(木)読了。「むかし僕が死んだ家」東野圭吾(講談社文庫)
 東野圭吾もあと少し。そして巧さに、またしても一気読みです。
 ◇昔のそして初めての恋人に、同窓会で7年ぶりに出会った私のもと、その彼女・倉橋沙也加が連絡を取ってきた。幼い頃の思い出が一切無いという彼女の記憶にせまるために、彼女の亡父が釣りと称して秘かに何度も足を運んでいたらしい、郊外の別荘地に建つ異国風の白い小さな家を訪れることになったのだが…。そこで徐々に明らかにされるその家の秘密とは? 彼女の記憶の無い理由とは?
 巧い、巧い、巧い。最初にバン!と大きな謎が提示され、さらにそこに繋がるかもしれない(しかし直接には繋がることのない)謎が次々と現われていく。前半だらだらと設定紹介と目的がないようなドラマが進行する初期の作品からすると、すごい変わり様です。
 廃屋に残っている手がかりだけから、真理に到達する、その環境セッティングぶりは見事。もちろん読んでいる最中には、それが何を意味するのか?どんな真理に到達するのか?という事が牽引力となり、引っ張られるのだが、読了後ふりかえると、見事なテキストアドベンチャーというかRPGという、伏線の張り方と推理の繋ぎ方で、舌を巻く。
 私と彼女そして家(に残っている手がかり)だけで、これだけ読ませてしまうのか。その手腕には脱帽です。タイトルをあえて、「僕が」としているところも、ダブルミーニングですね。
 良かったです。


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「むかし僕が死んだ家」


◆8/8(水)読了。「しのぶセンセにサヨナラ 浪花少年探偵団・独立編」東野圭吾(講談社文庫) - 01/08/10 21:49:20

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◆8/8(水)読了。「しのぶセンセにサヨナラ 浪花少年探偵団・独立編」東野圭吾(講談社文庫)
 そして東野圭吾は続きます。前に読んだしのぶセンセの登場する短編集「浪花少年探偵団」に続く第二弾。
 ◇あれから三年、内地留学を終えたしのぶセンセが帰ってきた。大阪弁の軽妙なやりとりはそのまま。またしても事件にまきこまれ(にいくというのが本当なのだが)、中学生に上がった鉄平も登場!
 てなわけで、第二弾なわけですが、しのぶセンセをめぐる恋の鞘当ても復活していたり、愉快なシリーズは健在。
 ただし、タイトルにあるように、これが最終巻ともなっている。
 めずらしく東野圭吾自身のあとがきがついており、そこに「作者自身が、この世界に留まっていられなくなったから」という理由をあげ、この一連の作品でこのシリーズは終わりにしようと述べています。
 東野圭吾は、器用な作家だと思うし、様々なバリエーションとしての変化球で、これまで読んできた中で楽しませてもらっているのだが、そういう意味でも逆に同じ機軸の作品が連作でここまで続いたのは、異例のことだったのかもしれない。
 あとがきのコメントを「名探偵の呪縛」の物語に重ね合わせると趣深くも感じる。

 収録作品
「しのぶセンセは勉強中」
「しのぶセンセは暴走族」
「しのぶセンセの上京」
「しのぶセンセは入院中」
「しのぶセンセの引っ越し」
「しのぶセンセの復活」
 尚、本書は「浪花少年探偵団2」として1993年12月に単行本刊行されたのものを改題したもの。
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「しのぶセンセにサヨナラ 浪花少年探偵団・独立編」


◆8/6(月)読了。「名探偵の呪縛」東野圭吾(講談社文庫) - 01/08/10 21:47:10

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◆8/6(月)読了。「名探偵の呪縛」東野圭吾(講談社文庫)
 東野圭吾、こちらも一気に読了。
◇私は次作の資料調査のために近所の図書館に行ったのだが、そこで別の世界に迷い込んでしまった。そしてあろうことか自分自身は探偵・天下一となっていたのだった。天下一と約束のあった女性から話しかけられ、ある盗掘について調査することになるのだが、次々と不可思議な事件が起こる。そしてどうやらこの世界には本格推理というものがないらしい事がわかるのだが…。
 という事で、ノリはファンタジー。というか児童文学か。「霧の向こうの不思議な街」や、「クレヨン王国のパトロール隊長」やら、「赤い月と黒の山」等々、昔堪能した作品群を思い出したり。
 そして、その感覚は正しくもあった。ラストで明らかになる世界の秘密とは、【主人公が捨ててきた本格推理のための世界】だったのだ。それは、【こそばゆくもある幼年期から青年期の思い出】でもあるのだろう。【心の癒し・成長というのは、ファンタジーの本来の形なのだから。(得てして逃避文学とも呼ばれてしまうが。)
 そんな仕組みを取り込んで、パズルがパズルであるためのメタ的な視点をも持込み、あえてパロディ的に本格推理を語ってしまうところがニクい。
 読了後、タイトルのダブルミーニングに気付かされるのも良いだろう。
 なかなか小粋な一作でした。そしてビバ!本格!


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「名探偵の呪縛」


◆8/2(木)読了。「同級生」東野圭吾(講談社文庫) - 01/08/10 21:46:44

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◆8/2(木)読了。「同級生」東野圭吾(講談社文庫)
 まだまだ読み続けます、東野圭吾。
 ◇自分の彼女・宮前由紀子が事故死した。彼女は俺の子どもを身ごもっていた。俺は彼女への愛を本物とする為に、その事実を皆に告白し、また、事故の状況を調べ始めるが…。
 読み始めたら一気読み。これってハマってるて事か? 初期作品のマターリ感が嘘のように、牽引力が高いです。「十字屋敷のピエロ」でも書きましたが、謎というのはあくまでも牽引力としての提示で、トリックよりも、人間関係志向で成功しています。
 高校生の主人公のピュアさと思春期という傷、高圧的な一部の教師たちと、窮屈にも思える高校の生活指導、ミステリとしての形をとってはいるが、こんなにも自分に呼応するのは、本書がそれらをベースとした青春小説であるからなのだろう。
 そしてミステリ部分では、一部弱いと思えるところはあるのだが(そこが東野圭吾の弱点かとも思うけれども)、そこは問題にならないプロットの緻密さが、ページを繰る手を急かす。お見事です。
 ネタばれになるのでマスクにしますが、最後に明かされる【主人公の本当の彼女という、ずっと伏せられたまま語られてこなかった(為に歯切れが悪かった・緻密さに空白を感じていたところを、一気に人間関係観をシフトさせる)叙述トリック】は、さすがです。
 お薦めです。


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「同級生」


◆8/1(水)読了。「変身」東野圭吾(講談社文庫) - 01/08/10 15:57:54

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◆8/1(水)読了。「変身」東野圭吾(講談社文庫)
 東野圭吾フェア中。そして、一日で一気読みです。
 ◇成瀬純一は、病院で目が覚めた。不動産屋で強盗に出会い、少女を助けようと頭を撃たれ国内初の脳移植を受けたという事らしい。何万分の一の確率で適合するドナーが居たため、生体拒否反応も出ず無事に退院できたのだが…。それから、たまに押さえがたい激情が起こることがあった。そして徐々に自覚できるほどに自分自身の物事に対する感じ方や意識が変化していく。社会への憎悪や軽蔑という感情に成瀬は圧倒されていく…。
 前作「宿命」とは、大病院(の秘密)繋がり。
 脳移植ものでは、やはりハインラインの「月は無慈悲な夜の女王」とか「火の鳥」なんかが俺にはなじみ深いのだが、当作品は全面的な脳移植ではなく、部分脳移植である。
 主人公・成瀬の徐々に自分自身のアイデンティティが浸食されていくという恐怖が身につまされる。プログラムとデータを一個の人格と記憶とすると、別のアルゴリズムを一部に入れたため、メインプログラムも書き変わっていくという感じか。
 明確な形で外部の何者かに支配されるというのではなく、自分自身の思考がどんどん変わって行ってしまうという所が(しかも悪い方に)、恐いですね。その中で、成瀬は何を選択するのか? 何を求めるのか? 成瀬の恋人の役割が非常に痛いです。
 アイデンティティから見た脳の関係については、「天使の囁き」の時と同じような事を思ったのだが、普段は心というのは独立して存在しているように意識しているのに、フィジカルな状態と密接に関係しているのだなという事。まぁこれは別の話なのだが。
 サブキャラ的には、足長おじさん的役割を果たす少女の両親の役割がイマイチ消化し切れていないような気が。
 【当初、その変化自体も、それまで優しすぎて自分というものがなかった成瀬に対して、男らしく良い影響を与えるように見えたが、変化が強まっていくにつれてむしろ悪影響が強くなる。ここらへんは「アルジャーノンの花束を」】を思い出したり。
 <僕>と<俺>の一人称の使い分けが巧い。リーダビリティ高いです。しかし、東野圭吾は器用だなぁと思うことしきり。


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「変身」


◆7/31(火)読了。「宿命」東野圭吾(講談社文庫) - 01/08/10 15:55:51

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◆7/31(火)読了。「宿命」東野圭吾(講談社文庫)
 東野圭吾、続きます。面白くて一日で読了。
 ◇美佐子は自分の人生に運命の糸があるように感じていた。何者かに守護されるように話が来るのだ。そうして今の主人であり、自分が秘書を務めるUR電産の社長の息子で医者の瓜生晃彦とも出会ったのだった。その社長が亡くなり四十九日もすぎた時に、遺産のボウガンで、UR電産の次期の社長須貝が、殺される。その捜査に当たることになったのは、瓜生晃彦の学生時代の宿敵であり、奇しくも美佐子の初めての恋人でもあった、和倉勇作であった。彼は大学受験時に、倒れた父親の介抱のために恋人美佐子との関係と医大進学をあきらめ、刑事になっていたのだった。幼い頃に初めて瓜生に出会った時の旧い赤煉瓦の病院にまつわる、優しかった女性の思い出をも巻き込んで、物語が紡がれる。
 という事で、いやー、面白かったです。
 謎の提示を牽引力にぐいぐいと読み進め、その中で、勇作の挫折と苦悩が語られていく。そして幼かった日の思い出とその時の謎が、再度蘇っていく…。
 「魔球」に勝るとも劣らない出来です。しかし、東野圭吾、順番に読んでいくとどんどん巧くなっていくのがわかりますねー。
 TVのサスペンスドラマっぽい筋運びではあるかな。勇作のその苦悩の先にあるもの、それからの彼らについても欲を言えば知りたいが、文学ではなくあくまで広義のミステリという事で。いや、しかし設定だけではなく、その苦悩が作品を魅力あるものにしています。
 ラスト、余韻の残る良い終わり方ですが、俺は【勇作の方が先に生まれた】という話がでた所で、【双子】の場合【後から出た方が長男になる】のではなかったろーか?と余計なことを考えてしまいました。


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「宿命」


◆7/30(月)読了。「眠りの森」東野圭吾(講談社文庫) - 01/08/02 13:44:30

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◆7/30(月)読了。「眠りの森」東野圭吾(講談社文庫)
 そして東野圭吾は進みます。
 ◇高柳バレエ団の事務所に忍び込んだと思われる男が、運悪くその時に居たバレエ団員の女性・葉瑠子の抵抗にあって死んでしまった。彼女は正当防衛を主張したが、男は何故大金が置いてあるわけでもなく、自ら興味を示したこともないバレエ団の事務所侵入したのか? そもそも葉瑠子が殺したのか? そして第二の殺人が起こる…。
 バレエという特異な業界のなかでの事件。そして刑事として登場するのは「卒業 雪月花殺人ゲーム」で登場した、加賀恭一郎。彼が覗く、ただひたすらに完璧な踊りという高みを目指すダンサー達の世界と、輝きが強いほどに昏く従う影とは。
 前作が青春群像ミステリという事で栗本薫の「ぼくらシリーズ」を思い起こさせるなら、こちらは特異な世界の殺人事件という事で「絃の聖域」に連想がいった。まぁこちらは別に耽美ではなかったので念のため。
 こちらは、本格というよりも、サスペンスタッチのドラマという流れでした。加賀が惹かれる団員の美緒と、彼女の犯罪との関わりを危惧させつつ、ラストは切ない余韻を残してキレイにまとまっています。小道具としてエラリー・クインで有名な某ニコチン毒が出てきますが、やはりそんなに速攻性のあるものなのかはちょっと気に掛かりました。
 物語としては、なかなか読ませます。自らの進む道を幼い頃から決め、ストイックに情熱をバレエに掛ける団員たちの輝きと影が、そして加賀との交流で導き出される切ない解決が、胸を焦がす。
 加賀のその後を描いた作品はあるんでしょうか?ちょっと気になります。
 そういえばドラマで同タイトルがあったような気がしたのですが、どうも本作を原作としてドラマ化したもののようですね。確かにこれは、犯人を知っていたとしても、ドラマでも見てみたいかも。


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「眠りの森」


◆7/23(月)読了。「浪花少年探偵団」東野圭吾(講談社文庫) - 01/08/02 13:42:14

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◆7/23(月)読了。「浪花少年探偵団」東野圭吾(講談社文庫)
 立て続けで東野圭吾です。今回は舞台は大阪、黙っていれば美人だけど気が強い大阪の小学校の教師・しのぶセンセを探偵役にコメディタッチで描いた短編集。
 それなりに面白く読めました。小学校の頃に読んだ「たぬ子先生と四人の名探偵」なんて児童文学を思い出したり。
 勢いのある関西弁と、竹を割ったようなしのぶセンセ、そしてそれを慕う生徒たちが、ほほえましくも楽しい。そしてしのぶセンセを巡る恋の鞘当てなんかも絡んだりして、なかなかに読ませます。
 ただ、生々しい殺人事件と大阪下町っぽいノリとのギャップも多少感じました。まぁそれはある意味「大人の社会」に触れる小学生という物語の一面であるので、そこでも逞しく生きるヤンチャ坊主たちやらしのぶセンセやらがいるという事で、一つの味なんだろうなとも思いましたが。
 この本のタイトルは「浪花少年探偵団」なのに全然少年探偵ではない所はご愛敬か。たいていにおいてちょこまかと、しのぶセンセのお囃子となってます。
 続編も出ている模様。機会があれば読んでみたいです。


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「浪花少年探偵団」


◆7/26(木)読了。「十字屋敷のピエロ」東野圭吾(講談社文庫) - 01/08/02 13:41:48

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◆7/26(木)読了。「十字屋敷のピエロ」東野圭吾(講談社文庫)
 そしてさらに東野圭吾。
 今回は、屋敷の名前がタイトルになっているように本格風味。
 ◇会社を継いだ遣り手の母の十字屋敷の二階からの投身自殺。それを目撃したのは、夫と足の不自由な一人娘。そして転がる人形が一体。人形にまつわる不吉なジンクスが判明し、さらに殺人事件が起こる。
 本格風味とは行っても、東野圭吾なので今までの流れから言うとトリックにフォーカスした物語というよりも、じゃあそれは何故起こったかという所のドラマ性を余韻に残す作りです。さらに【叙述トリック】もあるのですが、これはまぁ仕掛け的に予見の範囲です。それを言うなら十字屋敷自体のトリックもベーシックですが。
 今まで東野圭吾を読んできて思ったのは、トリックというのは濁った水の中に置かれた結ばれた縄であって、謎解きというのはその綱を泥の中から表に引っ張りだしてどのように結ばれているかを確認することである、と。そして、東野圭吾の作品では、その結び目よりは、結び目を隠している不透明な水の状態、そして縄を取り去った事による水の動きにフォーカスがあったているんだなぁ、ということです。
 ちょっと途中でマターリ感もありますが、標準以上の出来ではあるでしょう。  


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「十字屋敷のピエロ」


◆7/19(木)読了。「魔球」東野圭吾(講談社文庫) - 01/07/24 21:35:27

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◆7/19(木)読了。「魔球」東野圭吾(講談社文庫)
 引き続き東野圭吾。
 ◇プロローグ、春の選抜高校野球大会第一回戦、最終回でのピンチで開陽高校エース須田武志は、最後の投球で渾身の一球を投げるが、捕手・北岡明が逸らし、逆転されチームは敗退となる。後日、捕手が、飼い犬と共に刃物で刺されて死亡しているのが発見される…。北岡の甲子園の集合写真には、魔球を見たというメッセージが書かれていた…。
 東野圭吾を初期作品から読んできて、一番の作品でした。
 貧しい家庭環境により、将来を真剣に考えた上で野球に励んでいる須田武志、そしてその能力に引っ張られるように甲子園に行った高校野球部のメンバたち。須田武志の女房役であった北岡の死によって、不協和音が現われる…。一方、企業爆破未遂事件も絡み、という事で、過去の東野圭吾の作品で俺的には不満だったドラマ部分が、当作品では巧くできており、ミステリな部分を牽引力に読み進ませ、さらに謎の解体と共に、その隠さていた意志や繋がりが現われ、そこに在った人間のドラマを浮きだたせるという手法が生きてます。
 読了後の切なさや、やるせなさ、行われた選択に、俺的には、貴志祐介の「青の炎」を思い起こしました。
 なかなかの傑作。お薦めです。
 さらに、次も東野圭吾。「浪花少年探偵団」です。


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「魔球」


◆7/18(水)読了。「学生街の殺人」東野圭吾(講談社文庫) - 01/07/24 21:34:37

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◆7/18(水)読了。「学生街の殺人」東野圭吾(講談社文庫)
 東野圭吾、連荘です。
 ◇大学を卒業後、学生街のビリヤード場でバイトをする主人公・津村光平。そのバイトの同僚である、松本が殺された。彼は何故か殺される前に、本屋の時田から『サイエンス・ノンフィクション』の創刊号を貰っており、彼はそれを光平の彼女・広美に渡していた。そして翌週の金曜日、広美が殺される。現場には「私の最良の日は終わった」という花言葉を持つイヌサフランが散っていた…。
 という事で、読感としては、ミステリというよりも、ミステリドラマという作り。それなりにトリック部分は存在はするが、トリック主体ではなく、前作「卒業 雪月花殺人ゲーム」が学園ドラマ的な作りであったように、この作品もドラマ的な作りとなっている。
 モラトリアムという感じで、まだやりたいことがつかめないという理由からビリヤード場でバイトをしている主人公、踏み切りで出会い付き合う事になった年上の彼女・広美、周りの人々との会話とかが、村上春樹風な感じがした。
 実際のトリック部分は、【広美の死については、後付的な状況となったエレベーターの密室】と言うことで、やはり焦点は、その背後にあるドラマとなっている。
 総合としては、ミステリとしてではなく、一つの青春ドラマのミステリ風味として読んだ方が楽しめるという感じです。  さて、次も東野圭吾。「魔球」です。


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「学生街の殺人」


◆7/9(月)読了。「紫骸城事件」上遠野浩平(講談社ノベルス) - 01/07/24 21:35:38

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◆7/9(月)読了。「紫骸城事件」上遠野浩平(講談社ノベルス)
 上遠野浩平の新刊。講談社ノベルスってことで、「殺竜事件」の続編というか、世界を同じくする物語であります。まさかシリーズになるとは思ってなかった。
 ◇300年前の世界の命運を掛けた大きな戦闘より封印されてきた紫骸城。あらゆる魔術を吸収するために作られたこの城で、恒例なっている、魔導士による非限定のトーナメント大会が行われようとしていた。この城に入るには特殊な術符が必要で、大会が終わるまでは城を出ることも出来ない状況内、特異な殺人事件が起こった…。
 という事で、ジャンル的には、ファンタジー(異世界)ミステリになるのかな(異色ではあるが)。まぁファンタジー系のミステリといえばランドル・ギャレットの「魔術師が多すぎる」(ハヤカワ文庫)というのが念頭に浮かぶのですが、物語の流れ、仕組みとしてもそれに近いですね。
 けれども、ミステリとしては、ちと突っ込み所も。例えばキーの部分が【水を忘れ去れる呪文だったという訳であるのだが、主人公のみが冒頭の入場で飛ばされるが、人体の8割近くがそもそも水分】ではないかと思ったり、【「水」の反対で逆に「発火」】してしまうというのは、「反対」という定義に意味があるのか(起こりうるのか)が疑問だったり、【水を思いだした人々が血への渇望を押さえられなくなる】というシーンがあったが、【水≒血ではないのと、濃度的にも浸透圧的にも求めるには濃すぎる】のではないかなーと思ったり。尤も、ファンタジーだから魔法で何でもアリという状況になってはいないので、ご安心あれ。
 雰囲気作りと(前作でもコンビであった)金子一馬の絵との相乗効果は流石。バックグラウンドの世界も徐々に物語られてきており、今後シリーズ化するならそれはそれで楽しみかもしれない。


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「紫骸城事件」


◆7/13(金)読了。「神々の山嶺(上・下)」夢枕 獏(集英社文庫) - 01/07/17 21:21:16

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◆7/13(金)読了。「神々の山嶺(上・下)」夢枕 獏(集英社文庫)
 久しぶりの夢枕獏。しかも格闘物ではなく山岳モノ。出版当初かなり話題になっておりました。文庫化もしましたので購入。そして一気読みでした。
 ◇二人の死者を出し、アマチュア中年隊でのエベレスト登頂の夢が破れたその帰り、カトマンドゥで深町はあるカメラを手に入れる。そのカメラがもし、ヒマラヤ登頂史上で謎とされる英国の登山家マロリーの遺物であり、さらにフィルムが発見されるようなら一大スクープになるはずだった。その購入ルートを追う内に深町は、不遇の登山家、羽生という男の過去を追うことになる。そして深町は、羽生自身の生き様に、そしてそびえ立つ山嶺へ、深く魅せられていく。
 さすが夢枕獏。導入部でカメラという謎の提示で牽引してあとはグイグイと引っ張っていきます。そして山に魅せられた男たちが紡ぐ生き様に、今度は読者が魅せられていくことになります。
 山に何を求めるのか、そこまでして何故山に登るのか。羽生の手記は、恐ろしくも、鋭く、熱い。誰もが聞いたことがある、何故山に登るのかという問に対しての、マロリーの「そこに山があるから」という答えの、その重さに、改めて気付かされる事になるだろう。
 そしてそれは、究極的には、一つの人生とその挑戦という普遍的な自分たちの生き様に還元される。どうしようもない中で死にものぐるいで努力していく生き方、そしてそれすらも運によっては無情にも奪いされてしまう。神々の山嶺に座する人間はあまりにも小さく、けれども、あまりにも激しく。
 これは傑作でしょう。柴田錬三郎賞受賞。


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「神々の山嶺 上」
「神々の山嶺 下」


◆7/16(月)読了。「卒業 雪月花殺人ゲーム」東野圭吾(講談社文庫) - 01/07/17 20:54:02

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◆7/16(月)読了。「卒業 雪月花殺人ゲーム」東野圭吾(講談社文庫)
 風邪もやっと治ってきました。仕事の忙しさは相変わらずですが。
 読了メモ。7/6(金)「海神の晩餐」(若竹七海)、7/7(土)「サンタクロースのせいにしよう」(若竹七海)、7/9(月)「紫骸城事件」(上遠野浩平)、7/10(火)「恋恋蓮歩の演習」(森博嗣)、7/13(金)「神々の山嶺(上・下)」(夢枕獏)。
 さて、東野圭吾の初期のミステリです。いろいろと頂いたので、昔のから順番に読んでいくつもりです。
 ◇大学も四年の秋となり、卒業の先の進路も視野に入るこの時期、祥子が自室で死んでいた。同期の波香の隣の部屋で。アパートには厳しい管理人もおり出入りはなかった。二重の密室のようであったが…。残された友人達(の一部)は、他殺かもしれないと考え独自に調べ始めるが、雪月花之式というお茶会の席、第二の事件が起こる。
 学生時代を描いたミステリなら栗本薫の「ぼくらの時代」のシリーズや、「アルキメデスは手を汚さない」などを思い浮かべるが、この作品もその青春群像をミステリをキーに描くものの一つ。
 茶道の雪月花之式という馴染みのない儀式の中で起こった事件で、その式のゲーム性(参加者がカードを引き「雪」なら菓子を食し「月」ならお茶を飲み「花」なら次の人のためにお茶を点てる)の高いルールの中で起こる殺人というのは、ミステリとしてはなかなかいい視点かも。けれども、俺は面倒くさくて(まぁ生活が忙しいさなかというのもあるけれども)投げてしまって、解決待ちという姿勢で読んでました。そのせいか、トリックとしては衝撃はなかった。青春群像としては、少しの懐かしさはあったが、そのジャンルの一つの類型の枠を出ていないようにも感じた。まぁ<ブギー>とかの中高生時代ならともかく、まだ大学時代的なものには惹かれないというのもあるのかもしれないが。
 全体的にみると、一番、自分にしっくり来たのが、変則的かもしれないが、すっきりしない解決編であった。それは合理的な材料より導き出せない解のそれぞれではあるのだけれども、大人への階段を上る中にあって登場人物のそれぞれの人生に対する不条理感が色濃くでていたからかもしれない。この物語の探偵役であってさえも及ばない、不条理さとやりきれなさ。
 ところで、【形状記憶合金て、あの図にあるくらいカクっと曲がるもん】なんでしょうか? ついでに【形状記憶合金を使った疑似永久機関=水車が廻るからくり】がありましたけど、あれって自分は実物を見たことがあるから分かりましたけど、しらない人がその説明で、外見動作状況(仕組みではなく)を分かるものなんでしょうか? 説明がわかりにくいかと思ったなぁ。伏線をつかっているという免罪符か?(^_^;)
 ミステリとしてはまぁ普通。青春物としてもまぁ普通かなぁ。好きな人は好きなのかもしれない。という事で。


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「卒業 雪月花殺人ゲーム」


◆7/3(火)読了。「女囮捜査官5 味覚」山田正紀(幻冬社文庫) - 01/07/06 19:38:27

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◆7/3(火)読了。「女囮捜査官5 味覚」山田正紀(幻冬社文庫)
 いよいよこのシリーズも最終巻。
 ◇匿名の電話による密告から、新宿西口で、大きなボストンバックを持った女性を追跡することになった、特別被害者部。尾行のターゲットの女性は長距離バスに乗り、降り口で見張っていたにもかかわらず忽然と姿を消してしまった。残されたボストンバックには、ターゲットの女性が殺されて詰め込まれていた。また尾行の最中突然現われた特別被害者部部長の遠藤慎一郎は彼女を追っていったまま失踪してしまう。また北見志穂の特被部の同僚、広瀬・水樹も次々と死体で発見され…。
 という事で、シリーズ最終巻という事もあり特被部の根幹に関わる部分も揺るがされるような話になります。
 「生まれながらの被害者」としての北見志穂のアイデンティティも掘り下げながら、語られる物語は、初心(?)に帰って官能小説的な文法も織り交ぜて語られます。そもそも、良くも悪くも官能レーベルっぽく売り出され、どちらかというとそれがマイナスに作用しあまり本格ファンの目に留められなかったという指摘は一巻の解説からあったんですが、山田正紀的には(そういった)ジャンルという枠を意識した作り込みをしているという、結果が出せている、とも自分には思えました。
 まぁ結局ジャンル小説として分類されてしまう――しかも、官能サスペンスというのは――かなり一般ミステリ読者にとってはマイナスだったりはするだろうけれども。
 最も、一巻からトリック部分に関しては、結構力が入っているし、5巻という予定の中で、バリエーションも巧いところを付いていますね。
 ラストと言うことである程度ネタバレしてしまう部分もありましたが、なかなか楽しめました。袴田刑事も遠藤(【「羊たちの沈黙」のハニバル的】)も見せ場がちゃんとあったしね。欲を言えば【「通りすがりのレイディ」(新井素子)みたいに暴露】までやってカタルシスを味わいたかったかなーと。「ケイゾク」(CXドラマ)的とも言えるかな。
 さて、今回の舞台(冒頭地図)は、新宿西口。そして解説は、なんと摩耶雄嵩。
 ただ、解説でも述べられていましたが、シリーズに渡る伏線が収束していないのは残念。


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「女囮捜査官5 味覚」


◆7/1(日)読了。「女囮捜査官4 嗅覚」山田正紀(幻冬社文庫) - 01/07/03 16:41:23

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◆7/1(日)読了。「女囮捜査官4 嗅覚」山田正紀(幻冬社文庫)
 立て続けに読み進めて第四巻です。
 ◇東京都港区で起こっている「芝公園連続放火事件」の捜査応援に駆り出された北見志穂。囮の駐車場以外には警備を厳重に見せ、そこで犯人が来るのを待ちかまえていた捜査員一同だったが、そこで一帯に停電が起こる。そこに再度の放火事件が発生する。さらに、明かりがついたときには、公園には、何故か全裸でベンチに座る女の死体と、その姿勢を模したユカちゃん人形が。女の死体は何故か全身に脱毛処理が施され、細部に渡ってサンオイルが丁寧に塗り込められ、まるでソフビの人形のように手入れされていたのだ。
 今度は、見立て殺人です。高度経済成長の中ユカちゃん人形が象徴するような生活を夢見て失踪していた当時の日本人たちのバルブ後の残滓を背景に、ユカちゃん人形という、死体をを模すにしては、奇妙なガジェットを中心に物語は進む。
 アクション、内証、と来て、今度はオーソドックスに近い新本格な枠付けが。ちょっと【放火と連続殺人が平行な事件であった】という事でまとまりてきにはバラバラとした感じですが、見立ての動機付けが【そもそもの最初の死体が発端】であったというのは、なかなか。
 やる気のない袴田刑事が奮闘するキーワードも語られ、シリーズ物として奥を深くしてもいます。あ、ちょっと引っかかったのは【犯人の過去の入れ替わりで、前科時の指紋とか検証されなかったんでしょうか? さらに現在の指紋も同じはずなので、浮かぶのは結局彼という事になる】と思うのですが…。
 今回の舞台は、東京タワー近辺。そして解説は二階堂黎人。


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「女囮捜査官4 嗅覚」


◆6/30(土)読了。「女囮捜査官3 聴覚」山田正紀(幻冬社文庫) - 01/07/03 16:41:04

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◆6/30(土)読了。「女囮捜査官3 聴覚」山田正紀(幻冬社文庫)
 たて続けに<女囮捜査官>シリーズを読んでます。読みやすいのでサクサクいってます。そして、第一巻解説の法月が書いていた、当シリーズのすごさが徐々に現われて来た感じです。
 ◇前巻で犯人を射殺してしまった志穂は、ストレスから心身疲労状態に陥っていた。そんな状態の彼女を、何故か、乳児誘拐の犯人が金の受け渡し要員として指定してきたのだ。一体何故? 犯人はまったく関わりのない彼女をどこで知ったのであろうか? 一方志穂は、母の胎内で死んでしまった双子妹の幻影に悩まされる事になる…。妊娠中に「世界最小の密室」である母胎から消えてしまった双子の妹。
 という事で、めくるめく自己の非現実感と喪失感。現実認識の希薄化。こりゃディックか、関口くん(「姑獲鳥の夏」(京極夏彦))だよ。まぁ前者には現実ルールでの合理性はないのだけれども。
 そしてその構成。冒頭、訳が分からないまま、乳幼児誘拐の連絡員に犯人側から指定され、犯人からの巧妙な連絡方法とその内容に翻弄される事になる志穂。そして場面は時間を遡って、犯人射殺後のストレスと、警視庁という男社会での志穂への反感や疎外、囮捜査というまだまだ認知されていない手法から来る組織的孤立などから志穂の悩みや、それらから心神喪失状態に陥っていく様を描く。
 前作はハリウッド的アクションが中心だったが、今回は重い雰囲気の下物語が進む。いやぁ、山田正紀、巧いです。ミステリ(犯罪小説)的にも、乳幼児をターゲットとする事で、犯人の顔を覚えられる事がないとか被害者の区別が付かないとか連絡に他人の留守電を利用するとか巧いアイディアをちりばめていますね。
 で、今回の舞台は、荒川の”クルーズメリッサ号”が舞台。解説は恩田陸。


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「女囮捜査官3 聴覚」


◆6/29(金)読了。「女囮捜査官2 視覚」山田正紀(幻冬社文庫) - 01/06/30 19:06:57

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◆6/29(金)読了。「女囮捜査官2 視覚」山田正紀(幻冬社文庫)
 という事で、一巻目が終わって、続いて二巻目に入ります。
 ◇首都高速5号線上りの南池袋パーキング・エリアに居眠り運転からトラックがタンクローリーに突っ込み、大破炎上。そして現場では多数の怪我人と死傷者が出た。そしてそれに混じって女の右足が発見された。救急車で、重傷の男と一緒に運ばれたが、救急隊員と共にその救急車が消えてしまった。翌日、首都高の各地で女のバラバラにされた身体の一部が発見される…。
 という事で、派手な展開で始まります。冒頭の首都高事故の描写が上手い。スローモーションで目に浮かびます。そして消える救急車と、首都高各所で捨てられていた女性の身体のパーツ。そして、派手なだけではなく、アリバイトリックもしっかり練り込んであります。
 殺された女性のつきあっていた相手が容疑者として浮かび、被害者・容疑者共に、志穂の学生時代の友人であったことから彼女が容疑者の正岡にあって任意同行を求めるのだが、ずさんな捜査の結果、彼に逮捕状が出されそのまま拘留されてしまいそうになる。志穂は、崩された二つのアリバイを確認していく。そして現われた新たな容疑者の【瓶厚志】。彼を追って、実家を掘り返すと…【その彼の死体が出てくる】所は、さすが山田正紀という感じです。
 救急車が消えるというトリックは、【首都高売春の関係者の箝口】に依るものであったのだが、これもまた一つの衝撃であったかな。さらにこれでエンディングかと思われる以降での【どんでん返し】まであり、前作がドラマなら今回は派手な作りの映画という感じの作りです。
 エンディング、あれで終わりというのも、ある意味ショッキングですね。そのままエンディングテーマが流れてタイトルクレジットという感じ。ううむ、なかなか。
 今回の解説は、我孫子武丸。


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「女囮捜査官2 視覚」


◆6/26(水)読了。「女囮捜査官1 触覚」山田正紀(幻冬社文庫) - 01/06/30 19:07:01

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◆6/26(水)読了。「女囮捜査官1 触覚」山田正紀(幻冬社文庫)
 山田正紀の<女囮捜査官>シリーズの第一作目。名前は聞いたことがあったのだが、官能小説っぽい雰囲気だったので、手を出していなかった。今回、まとめて譲っていただく機会があったので読み始める。
 ◇JR山手線の駅のトイレで女性をターゲットとした連続殺人事件が起こっていた。被害者は通勤途中、何故か途中下車し絞殺されている。警視庁科学捜査研究所特別被害者部に所属する囮捜査官の北見志穂は、警察庁内部ですらも賛否両論ある中、囮捜査に向かう。駅、それも通勤時間帯という事で、目撃者は無く、容疑者はいたのだが、その信憑性は低かった…。
 んー、一言で言うと、良くも悪くもオーソドックスな「検死官」(コーンウェル)系サイコサスペンス(で、ちょっと艶めかしい風)。「みなし公務員」という、ナワバリが硬直化した警視庁の中でも、外様であり、様々な所からも圧力を掛けられる中、風紀課あがりの冴えないが「食えない男」である男とコンビを組むことになる。軋轢やらなんやらの逆境の中、何人もの容疑者の中、徐々に見えてくる犯人とは?
 そもそもノベルス版では、「触姦」というサブタイトルで、そっち系狙いもあったんでしょうか? けれども今回文庫版では「触覚」と直されています(次巻以降も同様)。
 解説は法月綸太郎。それによれば、次巻以降どんどんすごくなるらしい。
 当作品は、割と平均的なレベルです。TVドラマっぽくはあるかな。


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「女囮捜査官1 触覚」


◆6/26(火)読了。「名探偵に薔薇を」城平 京(創元推理文庫) - 01/06/27 11:46:29

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◆6/26(火)読了。「名探偵に薔薇を」城平 京(創元推理文庫)
 出がけに何気なく手に取ったのだが、導入は読みやすくしかも本格好きにはキャッチーでもあり、ぐいぐい引き込まれ、二日で読了。第八回鮎川哲也賞最終候補作品。
 ◇「メルヘン小人地獄」という童話ともつかないものが雑誌社などのメディアに送られた。内容はというと、毒薬博士に殺された小人が復讐のために、死んでしまった博士の替りに、3人の人間が、逆さ吊り、熱湯茹で、皮むきで殺されるという、童話にしては猟奇的なもの。暫く経って、ハンナは吊そうというメッセージと共に、逆さ吊りで女性が殺される。小人地獄という完璧な毒薬を巡る因縁が徐々に明らかになるが…
 第一部「メルヘン小人地獄」と第二部「毒杯パズル」からなる二部構成のミステリ。童謡殺人という猟奇的な連続殺人とシンプルな展開は、泡坂妻夫風の軽妙洒脱なパズルミステリ的な展開。第一部からそれなりに読ませる。そして第二部「毒杯パズル」では、それすらも単なる前座であったと、読者は思い知ることになる。
 本格中編かと思いきや、やはり今というミステリの流れにあってテーマは新本格であった。といっても、メタ化しているとかアンチミステリ化していると言うわけではない。しっかりとパズルの醍醐味を味合わせてくれます。それでいて、名探偵・瀬川みゆきというレゾンテートルにスポットを当てて描ききる力量は流石。その軽妙さで引き込ませて置いて、実は【クイン】や【法月綸太郎】の延長上にあるテーマに読者をどっぷりと落としこむ。本を閉じ終わって、その余韻は、マーク・トウェイン「不思議な少年」のラストの一行を思い起こさせる。
 これは傑作でしょう。名探偵好きで、法月とかが好きなら是非読むべし。


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「名探偵に薔薇を」


◆6/24(日)読了。「蒲生邸事件」宮部みゆき(カッパ・ノベルズ) - 01/06/27 11:45:49

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◆6/24(日)読了。「蒲生邸事件」宮部みゆき(カッパ・ノベルズ)
 忙しいさなか、ぐいぐいと引き込まれ、それなりの分厚さのノベルズを二日で読了。
 ◇予備校受験で宿泊中の尾崎孝史は、ホテルの宿泊客に妙に周りの空気が暗く澱んでいる中年男性を気に掛ける。孝史の勘違いからか――結局はなんでも無かったのだが――彼が飛び降りをしたように見えた出来事のあった夜、ホテルは火災に見舞われる。煙と炎に紛れ意識が朦朧となった時に、その男性客に救われるが、彼は現在が昭和11年2月26日であると言うのだった。しんしんと降る雪の中、帝都では二・二六事件が起きようとしていた…。
 時間歴史モノではあるのだが、ホテルの前身である蒲生邸で自決した蒲生大将には何が起こったのか?主人公を助けた”まがいものの神”である平田は何のためにこの時代にやってきたのか?というミステリでもある。
 主人公が若いせいもあり、成長モノという風にも読めるし、そのせいで、児童文学的な感じも受けた。例えば「ぼくがぼくであること」(山中恒)、「赤い月と黒の山」等々…。
 時間モノとしては「クロノスジョウンターの伝説」(梶尾慎治)やら「トムは真夜中の庭で」(フィリパ・ピアス)やら。
 ある程度、このジャンルを読みこなしている人にとってはバリエーションの範囲ではあり新鮮な驚きというのはないが、それでも宮部みゆきによる変奏曲として、クオリティは高い。
 ただ歴史に及ぼす影響の説明は弱いかなとは思う。と突っ込むとまたSFな人はと言われてしまうのかもしれないが、だからダメだと言っているのではなく、総論として当作品は、面白いし良かったという認識の上で、考証に残念な部分もあると思ったという事で。また、ラスト、【結局、現在の尾崎と226事件との関わりを持つ者は誰もいなくなってしまっていたのが】ちと個人的には残念。まぁ【再会があっても「トム庭」になってしまう】というのはあったのかもしれないが。時間による永遠性の中での別れは涙腺に来ますね、やはり。「永遠に去りぬ」というタイトルを連想したり。(これはほんとタイトルだけの連想なんですが(^_^;))
 宮部みゆきが好きな人、上記に上げた作品が好きな人には特にお薦め。軍国時代へのタイムトリップという事で重くて暗いという感じで敬遠していた人は、先入観をとりはらって読んでみてください(^^)


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「蒲生亭事件」


◆6/21(木)読了。「地下街の雨」宮部みゆき(集英社文庫) - 01/06/23 15:06:37

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◆6/21(木)読了。「地下街の雨」宮部みゆき(集英社文庫)
 宮部みゆきの短編集。仕事が忙しいのでどうしても大長編は敬遠ぎみで。ちなみに6月から休みがないのです。無休で4週目で記録更新中(^_^;) そんな中ではやはり、パズル系ミステリよりも、人の心指向の短編が自分にはいい感じです。
 短編でも、宮部のドラマ性は衰えず、むしろ面目躍如という感。さすがです。
 ちょっと不思議でハートウォーミング、それでいて甘ったるくなく、人間というものをどこか俯瞰的に見ている(作者の)視線は健在。いやぁ、好きですね。程度の良い「世にも奇妙な物語」という感じです。巻末解説が室井滋で、読みながら女優の視点でついつい演技を考えながら一気に読み切ってしまったという様なことを書いていましたが、分かる気がします。

◇短編タイトル一覧
地下街の雨
決して見えない
不文律
混線
勝ち逃げ
ムクロバラ
さよなら、キリハラさん


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「地下街の雨」


◆6/17(日)読了。「ぼくのミステリな日常」若竹七海(創元推理文庫) - 01/06/23 15:05:42

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◆6/17(日)読了。「ぼくのミステリな日常」若竹七海(創元推理文庫)
 マイ・ファースト、若竹七海。ジャンルとしては、北村薫の「空飛ぶ馬」に始まる<円紫師匠と私>シリーズや、加納朋子の「ななつのこ」シリーズに代表される、<日常の謎>系ミステリ短編集。
 ◇社内報の編集長をやらされる事になった若竹七海は、小説を載せて欲しいという注文から、大学時代の先輩を頼り、先輩はあることを条件に短編を毎月送ってくれるという人物を紹介してくれたのだが…。その条件とは「匿名であること」だった。かくして、覆面匿名作家による短編が社内報に毎月載ることになったのだった。
 という事で、十二の短編とプラスαで構成された当作品。まさに<日常の謎>系に相応しい短編が、順に収録されている。
 まぁこの構成は、「ななつのこ」でもあったので(出版年で見たら「ぼくのミステリな日常」の方が先かもしれないが)驚きはなかったが、短編という横糸に一本通っている縦糸の解題が見事です。
 ラストの先は…と、気になる終わり方もしていましたが、続編は出ているのかな?


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「ぼくのミステリな日常」


◆6/11読了。「グイン・サーガ79 ルアーの角笛」栗本薫(ハヤカワJA文庫) - 01/06/23 12:40:02

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◆6/11読了。「グイン・サーガ79 ルアーの角笛」栗本薫(ハヤカワJA文庫)
 グイン・サーガ最新刊。
 ◇ケイロニアでは、長らくの内政不干渉の慣習を破ってケイロニア豹頭王グイン直々にパロへの派兵を決定した。一方、今まで動きの無かったパロの国軍レムス軍がカレニア政権を樹立せんとするナリス軍に対して、いよいよ動こうとしてた。イシュトヴァーン王率いるゴーラ軍もまたサンガラ山地を南下しようとしていたが…。
 一時期のナリスxヴァレリウスの舞台セリフのような美文調はおさまってきていて、もっとグローバルな三国私的な展開を期待させます。いまさら異次元の怪物x人類の二項対立か?!と不安にさせてきましたが、それはバックグラウンドどして、英雄群像としてちゃんと進みそうでちょっとほっとしました。ケイロニアのグイン出立の前では王妃シルヴィアとグインとの不協和音も語られたりして、伏線が張られてますな。
 今回のツッコミ所としては、まぁいくつかあるんですが、まずぱっと見でわかりやすい所にすると、フォントサイズが妙に出かかったり。これはジュブナイルか!?てなぐらい(^_^;)。次に強調フォント使用ですかね。p105の「おお!」だけ倍角ってどうよ?(^_^;)
 まぁあとは執筆スピードが先走った文章が光る感じですかね。P157「タルーアンは船乗りの血筋だから、迷信深くないわけでは決してないが、船乗りの迷信深さと魔道とはまたちょっとおもむきが違う」<迷信深いんか深くないんかどっちなんだー?とか(笑) いや、わかるけどね。
 ケイロニアの対人口軍人比とか出て来るんですが(ページが分からなくなったので引用できませんが)、スゴイ比率でしたが、国で養えるのかなぁ?とかちと思ったりもしました。
 それと、あとがき! 「にしてもとりあえず百巻で一部終了みたいな決着はつくのかどうか、これはもう、あと二十巻をみていただくほかはないですね。」とかスゴイ発言も。さらに、「もしかして、これまで七十八巻というのは壮大なるプロローグでさえあったのではないか、と思ったり――」てのは一体…(^_^;)。おい!ちょっと待て!と、みんな突っ込んでるハズです(笑)。
 帯によれば次巻は、2001年8月の正篇80巻となる予定。タイトルでネタバレ問題の後遺症か、時期と巻数だけの予告となってますね。


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「グイン・サーガ79 ルアーの角笛」


◆6/9(土)読了。「永遠に去りぬ」ロバート・ゴダード(創元推理文庫) - 01/06/10 21:22:32

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◆6/9(土)読了。「永遠に去りぬ」ロバート・ゴダード(創元推理文庫)
 5月はやたら読んでいたような気がするが、6月はこれが一冊目だったような。一週間以上掛かって読了。というのは、プロローグでちょっと詰まっていたのと、仕事がとにかく忙しいから(ずっと休出)。
 ◇山歩きの最中に「私」は、四十代半ばの美しい女性と出会う。何気ない会話の後に彼女は車で去っていたのだが、私の心にはふとした調子の彼女の言葉が心に残っていた。そして一週間後休暇から実家に戻ると、私がいた場所は殺人事件でニュースになっていた。新聞を見ると、そこには、私の心に留められた彼女の姿が、殺人事件の被害者として載っていたのだった。犯人と目される男はすぐに逮捕されたらしい、何か釈然としない気持ちから、山で出会った事を警察に連絡する。
 という事で、ゴダード節は健在。ダメ男ではないがニブちんなのは確かな主人公が、幾重にも異なった形で隠され、折り重なっているが故に、一枚をめくってもさらに異なる形で現われ意味づけされる出来事に翻弄されていく。
 しかしゴダードの描く、気丈できりっとした婦人というのは、求心力がありますね。俺的には「さよならは言わないで」のヒロインが良かった。
 読み終わると何故か頭の中で刑事コロンボのエンディングテーマが流れます。真実を追究し、様々な犠牲の上に得た物は、もの悲しい喪失感と…。
 まぁあとゴダードもこれだけ訳されると、プロットの組み立てとしてはほぼ似たようなもので、予定調和が見えてしまうのですが、それでも読ませる力は流石。今回はラスト50p位からは怒濤でした。(けど、ラストがあれで終わるのは落ち着かない)。プロット的にはファーストインパクトもあり、最初の頃に創元から訳された「千尋の闇」が一番だとは思います。しかし、当作品もなかなかのレベル。解説にあったように、最近はイマイチな作品もあり(人気があるからイマイチなのまで訳されてしまうという話はあるかもしれないですが)このままトーンダウンして終わってしまうのかなという危惧があったのですが、これだけ書ければ十分及第です。まぁいい加減プロットに飽きている人はいるかもしれないですが。
 ということで、ゴダードが好きなら読むべし。ゴダードを読んでみようかな?という方は、「千尋の闇」をお薦めします。


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「永遠に去りぬ」


◆5/16(水)読了。「グランド・ミステリー(上・下)」奥泉光(角川文庫) - 01/05/22 17:16:04

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◆5/16(水)読了。「グランド・ミステリー(上・下)」奥泉光(角川文庫)
 名前は耳にしていた奥泉光のミステリー。奥泉光を読むのは「吾輩は猫である殺人事件」 に続き二冊目。
 ◇真珠湾攻撃前夜の日本海軍。それぞれの乗員は緊張に満ちていた。そして事件は起こる。空母「蒼龍」の戻った九九艦爆搭乗員、榊原大尉が機上で服毒死を遂げていた。また伊号潜水艦の、特殊潜航艇乗務員森下勇治が艦長に治めた遺書の入った金庫が紛失する事件が発生した。同じ潜水艦に乗っていた加多瀬稔大尉は、東京に戻ってから、同期の榊原の弔問に行くと未亡人の志津子にその死因を確かめたいと依頼される…。  という紹介だけされると、歴史・ミステリーものとなるんですが、実は謎として提示される「服毒死」と「金庫の紛失」自体に対して、がしがしと進んでいく話ではなく、寧ろ二つの謎を謎として認識し積極的に追掛けていく者はなく、偶然(必然ではあるのだが)謎の解答に至る材料が用意されて解決という感じで、牽引力としては弱い作りとなってます。しかし当初のその謎の力で読み進めていくと、まさに(戦争)文学としての話の味わい、多岐に渡る登場人物たち(将官、戦中の成り上がり商人、インテリジェンス階級であるギリシア語原典による「オデッセイア」の翻訳会など)とその日々の日常の描写などが、まさに文学(夏目漱石風)として読めてしまう訳で、それだけでも味わいのある作品になってるのですが、さらに仕掛けがあり、それがはっきり現われるのが上巻も終わるあたりでしょうか、二冊の書物という言葉に象徴される歴史の二重構造が暗示されていく事になります。
 ジャンルに当てはめてしまうと、文学でもあり、歴史小説でもあり、ミステリーでもあり、SFでもあると云う事になってしまうのですが、そういうジャンルであると言い切ってしまうというのは、なにやらわからないものに名前を付けて名付けることによって分かった気になり安心してしまうという事に近く、この「グランド・ミステリー」自体は結局、それ自体の力のある「物語」という事になるのか。
 下巻に移って、ふと巻末の「解説」の書き手の名前を見ると、大森望だったりして、このハイブリッドな重層構造を持つ物語の解説には、さもありなんとか思ったり。解説の中で、物語構造を解体してしまっているのだが、これはあえて無くても良かったんじゃないかと思いつつも、やはりSF的な構造慣れしていないと、辛い読者は多いのかもしれないとも思ったり。(というか、構造自体に気付かないまま、よくわからないとか統一性がないとかいって読了してしまうこともあり得るのかも)
 シームレスに続く二つの世界構造の解体自体は、遊びとして読者に残されもおり、再読がまた美味しい作り込みになってます。
 まぁあと個別には、志津子がミステリアスなままの存在で終わっていたり、小説構造自体は暗示されるだけで終わっていたりする所はしっくり来ないのかなぁ。【「リプレイ」(ジョン・グリムウッド)という指摘もあるのだが、主人公が意識していない点で、というか、むしろ翻弄されてしまうだけ】であったりして、読者を乗せて楽しませてくれるという作りではないというのも弱いか。まぁ、主眼は、その文学的で骨太なところだとは思うので、そこらへんは見方によるものかも。
 ということで、超大作。なかなかのお薦め。


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「グランド・ミステリー 上」
「グランド・ミステリー 下」



◆4/27(金)読了。「少女の空間」デュアル文庫編集部 編(デュアル文庫) - 01/05/16 17:27:40

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◆4/27(金)読了。「少女の空間」デュアル文庫編集部 編(デュアル文庫)
 その前に出た「少年の時間」と対をなす、全作品書き下ろしの『新世紀をつげる、ハイブリッド&クロスオーバー・エンターテインメント・アンソロジー』との事。「少年の時間」はなかなか面白い作品のそろったアンソロジーだった。ということでこちらも購入。
「独裁者の掟」小林 泰三…二つの世代宇宙船はそのまま二つの国家であり、資源不足から常に戦争状態となっていた。大使の娘は敵方に捕まえられ、事件に巻き込まれるが…。小林泰三らしい、カチッとした短編。正義とは信念とはとテーマも投げかけられており、オープニングに相応しい一編。そういえば、アシモフの短編で結果的には正しいが選択的には許せない人物が出てくる作品があったなぁ(作品名忘れ)。
「死人魚」 青木 和…山の急な天候の変化で寄った避難小屋で出会った男が語った物語とは。過去に霧の中に迷い、たどり着いた貧村での不可思議も哀しいものだった。「イミューン」を書いた人。なかなか手堅い作家だと思います。八百比丘尼とか「人魚の森」(高橋留美子)ぽい作りなのでオーソドックスではありますが。
「セラフィーナ」 篠田 真由美…イタリアのある店に立ち寄った彼女は、その店主ビアンカと徐々に仲良くなる。ある時、肖像画にまつわる話を彼女から聞き、その肖像画を購入しないかと持ちかけられるが…。割とありがちな作品かなぁ。その先の物語を読みたいのだが…。
「彼女の海岸線」大塚 英志(白倉由美 原作)…今は大学教授というインテリ女性と同棲している主人公が、学生時代に尻尾のある女の子と同棲した思い出話を語る…。「多重人格探偵 サイコ 雨宮一彦の帰還」の大塚英志。いや「サイコ」みたいにグロではないですが、根底に流れるマニアックは同じなのかも。猫目鹿耳の原点つーのはシャンブロウ(「大宇宙の魔女」C.L.ムーア)だったか。モラトリアムでもあるまったりとした学生時代と平凡な日常に訪れた刺激(謎)という雰囲気はいいかも。ラストの一ひねりの落とし所で及第点。
「アンドロイド殺し」 二階堂 黎人…ある宇宙植民地でアンドロイド殺しが起きた。そこの部屋に出入りしたのは掃除用のロボットのみだった。少女は自らの推理で犯人を探そうとする。マイ・ファースト二階堂黎人。ショートショート的作りの作品。まぁタイトルからしてある程度ネタバレだったりもするんですが、いくつかの捻りで無難に着地という感じですね。
「朋恵の夢想時間」 梶尾 真治…P.フレックスでは、あるアプローチで時間を遡ろうという研究が行われていた。契約社員として仕事を手伝っていた主人公は、それを知り、学生時代の後悔をなくすために志願するのだが。という事で、なんと「クロノス・ジョウンターの伝説」の姉妹編。姉妹編というか同一世界という事なんですけれども。時間旅行と云うより、記憶の中のような行動のズレが大きくなるほど曖昧景色や人物がぼやけてしまうという過去に戻るガジェットは上手い。それはそれとして問題の箇所では【戻ろうとするより、その前に動かないでいて留まろう】とした方がいいんじゃないか?と思ってしまった。
「リアルの現在」 山田 正紀対談 西沢 保彦対談…今更エヴァもないかとは思いますが、まぁ1990年代最大の影響を与えたもんなのでしょう。そういや「エンディミオン」の文庫版の解説で「エヴァ」云々と語られてもいたらしい(ハードカヴァーでもっているので文庫は買ってないんだけど)
 全体的に、平均的レベルの作品の集まったアンソロジー。「独裁者の掟」は頭一つ抜けているかな。きちっとしたプロットのSFは小林泰三の真骨頂かも。ところで、「少年の時間」、「少女の空間」とあったのだけれども、やはりというか結局というか、「少年」は「空間」であり、「少女」は「時間」な気が。小説もそんな感じだったよねぇ。というか今回の「少女の空間」では、辛うじて主人公が少女であるだけだったりして、少女性ってものを描いたものがなかったような。「空間」でもないしね。
 とりあえず、ハズレはないので買ってみてもよし。「クロノスジョウンター」姉妹編とかに興味のある人も。そしてそもそものターゲットであるジュブナイルSFの読書年齢層の読者に。


bk1 「少女の空間」


◆5/10(木)読了。「火星人先史」川又千秋(デュアル文庫) - 01/05/15 14:42:03

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◆5/10(木)読了。「火星人先史」川又千秋(デュアル文庫)
 さて、次はまたもデュアル文庫です。長らく絶版だった星雲賞受賞作の復刊。初出は20年 前だそうで、思えば遠くに来たもんだというか。あ、その前に読んだ「アナザヘヴン」 から奇しくも「星狩人」(川又千秋)を思い出していたので、奇妙な偶然といえ ば、偶然。
 ◇徐々に地球化が進み辛うじて生存環境が整い、開拓民の世代も進みつつある火星。ノヴ・ ノリスは地球軍の密偵として火星の都市に単独で向かっていた。密使としての使命は特に明ら かにされず、途中で見たままの出来事を報告するように求められていた。旅路は順調に進んで いたが、あと数日で都市に到着するという時に一頭のガルーを発見する。ガルーとは、火星開拓用にDNA操作に知能を上げられたカンガルーを云う。開拓当初は、猿並の知能で労働力も高く食用にもなると重宝されていたのだが、都市化されるに従って郊外に捨てられたりしたものが野生化しているという。そのガルーはノリスに、地球で残った最後のカンガルーが死んだと語った。そして我々が正当な火星の住人だと。
 地球化したとはいえ荒涼たる大地の火星。その広大な土地の上に佇む旅装のカンガルー。脳裏に浮かぶ絵は、なかなかキャッチー。けれども物語自体にはイマイチ乗れず。
 ガルーが火星の主として台頭していくという連作短編という感じなのだが、その道筋のための設定環境に無理がある気が。とりあえず俺的には、最初はブリンの<知性化シリーズ>か?とかちょっと思ったりしたものの、知性あるものを食用にするという前提で、ちょっと引いてしまっていて、さらに二重三重の地球側、そして火星側の愚作にゲンナリ。(これって「銀英伝」でもちょっとは感じたのだが、その時には流れ的なものとしては問題にはならなかったんだけどなぁ。
 愚かさ加減が、物語として中立な上ではなく、戦勝国が戦敗国の歴史を書いているようで、(ガルーの選民意識)そこらへんちょっと、どうにも。いや、それこそは、実はスタンスなのかもしれないけれども。
 この力配分違いでその先を描くと整合性に破綻も起こりそうだが、逆にその先こそ見てみたい気もする。そうしていったガルーが、それでは選び進んだ道はどんなものなのかを。ちょっと意地悪な目で(^_^;)。
 物語的には読ませはするが、俺的には後味が悪かった。
 まぁとりあえず、火星モノで軍モノでカンガルー好きな人。川又千秋を押さえておきたい人 、星雲賞受賞作を押さえておきたい人に。


bk1「火星人先史」


◆5/8(火)読了。「アナザヘヴン(上・下)」飯田 譲治(角川ホラー文庫) - 01/05/10 20:28:39

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◆5/8(火)読了。「アナザヘヴン(上・下)」飯田 譲治(角川ホラー文庫)
 ツレから貰ってずっと積読だったのだが、連休明けにふと思い立って読み始める。そしたらグイグイ。一日で上巻を読了して、止まらずそのまま続きを読んで、ボリュームのある本の久しぶりの一気読み。寝たのは4時過ぎだった。そういう事は連休中にやっておけと自分でも思いました(^_^;)。
 ◇プロローグ、悪意を持った存在の呟きが語られる。場面はかわり、現場に駆けつけた刑事、飛鷹健一郎は、嗚咽をこらえていた。ダイニングには首から上が切られ替りにはキューピー人形の頭が載せられた死体。そして、台所にはその頭部が煮込まれたシチューが煮立っていたのだ。そしてそれが連続首切り殺人事件の始まりであり、悪意の存在が求める一つの連鎖の始まりだった。
 という事で、「サイコ」なオープニングで幕を開けた猟奇殺人は、それを追う刑事を焦点に語られていく。シチュー、カレー、グラタン、海老ピラフ、カルボナーラスパゲッティと、事件が進むにつれ、食べられなくなるものも増える捜査陣。死体の脳が食べられていたというのはマスコミにも伏せられてはいたが、madcockと捜査陣内で名付けられた犯人は、捜査の目をかいくぐり、犯行を重ねていく。上巻2/3は、手堅くサイコ犯を追う刑事物としても読ませる。そして、明らかにされた犯人と、その後の新たな犯人の出現によって、その謎と展開への期待が、物語を読ませようとする、かなり高い牽引力となっている。
 要は【「ヒドゥン」】なんですけどね。もしくは「星狩人」(川又千秋)というか。(←懐かしい。読み返したいが絶版だろうなぁ。講談社ノベルスから)。
 途中途中で、SFというよりもニューサイエンスっぽい出来事の胡散臭さがありますが、それはそれとして、しっかりと現実部分が描かれているので、リアリティを損なうことはなく、寧ろ不可思議な味を添えている。最初の犯人追いにしても、さくっと流れてしまいそうなところを、厚く物語っていて、体当たり派の刑事の飛鷹健一郎とルックス良しで頭脳派の部下早瀬学、彼らを取り巻く家庭環境や恋人やら、そしてそれに対する心配、家族愛、何気ない趣味等まで掘り下げられており、まさに人間ドラマ中心であるかのように語られ、作者の力量を感じさせる。
 話自体は、振り返ってみるとオーソドックスな作りであったりしたのだが、その手堅さが物語に対しての安心感を持って読める。もちろん内容についてはかなりサイコキラーなのだが(作中にも出ていたが「寄生獣」チック)。
 ただ、後半の謎として提示されている「ナニカ」=【悪意の存在】が【液体】であること(【ブラック・ジャックの「99.9%水」みたいなもんか】)はまだしも、【水槽で水に混じって潜む】とか、【だんだんヌルくなる性格の割には、自己変化に無自覚で】哲学的な落とし所が甘いとか、【どこからどうやって来たのか、そして彼で終わりか】だとかが、収束せずに終わっているところが残念ではある。
 なにはともあれ、上下巻のこの厚さを一気読みさせる、牽引力はさすが。エンターテイメントとしてはそれなりのクオリティのある作品。
 尚、2000年4月にメディアミックス展開としてドラマ化、映画化がされている。映画の方はこの小説が原作となっている。作者の飯田譲治は、「NIGHT HEAD」の原作・脚本・演出、「沙粧妙子最後の事件」の脚本、「ギフト」の脚本などを行っている。


bk1「アナザヘヴン 上」 「アナザヘヴン 下」


◆5/7(月)読了。「チョウたちの時間」山田正紀(デュアル文庫) - 01/05/09 21:00:11

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◆5/7(月)読了。「チョウたちの時間」山田正紀(デュアル文庫)
 1980年に角川から出版され、そのまま絶版となっていた本作。今回、デュアル文庫で復刊。最近はなんだかデュアル文庫紹介ページになってるな(^_^;) でもデュアルは、いい所ついていると思います。この調子でジュブナイル→デュアル・アダルト系→ハルキ文庫とサクサク復刊してくれると嬉しい。フォローの冴えない新潮のファンタジー大賞関係のとか、サルベージするものはたくさんあると思うので。
 ◇少年が図書館で見かけた少女…しかし目を開くとそこにはただ蝶が残っているのみだった。オースチン・ドブソンの詩をプロローグに、その詩のテーマ「時は過ぎゆく」「時はとどまり」「われらは過ぎゆく」を三章のそれぞれのタイトルとして物語は進む。十数年ぶりに故郷を訪れた真与信介は、自分の村を訪れた異邦人の子どもであることを知る。そして物語は、その両親シンとマヤの、時間を縦横に渡ったある敵との戦いにフォーカスをうつす。敵は何のために人類により最悪の歴史的選択をさせようとしているのか? この戦いの未来には何があるのか?
 ボーアやエットーレ・マヨナラといった歴史上の量子論に関わった人間たちを登場させ、雰囲気としては「エイダ」(山田正紀)の習作という感じ。雰囲気は悪くないが、やや話が大雑把だし、哲学方向にもっていくにも説明不足の感は否めず。論理(というか話の)アクロバットが多いので、SF慣れしていないと厳しいか。物語の中での何故という状況や疑問もそのままのものが多いしねぇ。
 しかし、SFとしての山田正紀は、あまり自分の好みではないのかも(「宝石泥棒」除く)。なにが違和感あるのかというと、概念が形而上のままに進んでいって(そして物語が終わって)しまう様な所なのかなぁ。例えば「神狩り」の十三重の関係代名詞を使う文化などが出てくるのだが、それが具体的にどういうものなのかとか、その謎の解明からの物語の発展がないんだよね。(そういう意味で高橋克彦の「竜の棺」とかの方が(無理のある論理があっても)好みですね)。今回も「時間粒子」とかがガジェットで出てくるんですが、そこらへんの論理のつつきというのはないですし。ハードSFではないというのもあるかもしれないですが、物語全体で、そういう論理的な繋がりというのが薄い気がします。物語の中で何が(この先)あり得るのかという点で、神(作者)の見えざる手で、どうにでもなるという展開はあまりいただけないです。俺的には。
 という感じで、結構大味なんですが、まぁジュブナイルってこういうモノだったという気もします。読んでいて、これをどう終わらせると思ったりしたんですが、それでもさくっとまとめた上で余韻を残すラストはさすが山田正紀というか。
 山田正紀のSF好きならば押さえておくべし。あとジュブナイル好きな人。中学生のSFファンとかにも薦めちゃいます。
 ちなみにミステリとしての山田正紀は「神曲法廷」とかイっちゃって好きです。


bk1「チョウたちの時間」


◆5/2(水)読了。「今夜はパラシュート博物館へ」森博嗣(講談社ノベルス) - 01/05/08 00:43:18

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◆5/2(水)読了。「今夜はパラシュート博物館へ」森博嗣(講談社ノベルス)
 出版は1月で、ずっと積読でした。連休と言うことと、短編集なので、だらだら読んでも読みやすいかもと いうことで読みに入る。ずっと積読だったのは、やっぱり最近は「すべてがFになる」シリーズに比べて、牽引力 を感じなくなっているからな。謎を明示的に解かないという読者に対して不親切なミステリになっているとい う点もあり。(そのうち謎本とか出ちゃってもおかしくないかと)
 今回もそれなりに、明かされない謎が多く(論理的に解くことは可能(けどそれが合っているかどうかはわか らないという))、肌が合わない人も多いかも。文章は明晰なので読みやすくはあるんだけど。
 で、ネタバレにはマスクをかけて、明かされない謎の俺的解釈込みでサクサクいきます。

「どちらかが魔女」…萌&犀川シリーズ。西之園家恒例の夕食会(TMコネクション)に、大御坊が「普 通の」身なりをして登場。木原恵郁子という女性を伴っている。彼女が語った学生時代のストーカーの事件の 後、大御坊もまた学生時代の先回りして現われる女の子が居たという不思議な体験を語るが…。「黒後家蜘 蛛の会」(アシモフ)よろしく、ラストの諏訪野のコメントがいいっすね。(タネはあったけど、ちゃんと 伏線として読者に開示しているところはなかなか。)。んで、まぁ普通に推理出来る範囲なんですが、【記憶の改変】というのはネタとしては深めると面白いモノが出来そうな気がします。 【「姑獲鳥の夏」】でも近いモノはありましたが。しかしあれだけメンツがそ ろっていて、解けないと言うのは不自然かも。まぁ萌絵に関しては、犀川がその理由を解説してますが。登場 人物には分からないというのは「笑わない数学 者」での、逆トリック狙いなのかな。しかしアレにはちと異論もあり、読者としての視点がないから現実 には解けないという視点はあるかもしれないけれども、逆に現実の中で事件とあればミステリの視点でみる人 間も多いと思いますが。あぁいう「事件」としたものではなく、むしろ北村薫の<苑紫師匠と私>シリーズ (「空飛ぶ馬」「夜の蝉」「秋の花」他)みたいな方が、逆トリック的であるかも。「事件」として現われる ほどでもない日常なだけに、推理しようと身構えたりする事がない(故に解かれない)という感じではないかと 思う。明かされない謎である「キリストの絵の中心に刺さった釘」は【遠近法の中心 点を決め、透視法(だっけか?)の線を合わせる】為にではないかな。

「双頭の鷲の旗の下に」…萌&犀川シリーズ。犀川と喜多の母校である高校の文化祭に、萌絵も連れ 立って行くことになった。校舎に嵌めてある窓ガラスに無数の小さく丸く穿たれた穴の秘密とは? 空いた穴 の形状蘊蓄がタメになりました。こちらは【ミスリーデョングが】二つ。一つ は【事件の出来事の時期についての叙述】。二つ目は我らが【国枝桃子女】史のポジションですね。本シリーズでは理由は記述されてなかったけ ど、妙に機嫌がいい事がありましたね。それがその時期だったのかも。【旦那 】様も拝めます。

「ぶるぶる人形にうってつけの夜」…小鳥遊練無。N大学構内で、ぶるぶる人形という人形が出没する と言う。 「ぶるぶる人形を追跡する会」というポスターを図書館で見かけ、ふと立ち止まってしまった練無 に、フランソワと名乗る女性が声を掛ける。二人はその会に参加することにするが…。これってよく駅前とか で外人が売ってたりする人形上には何もないのにピョンピョン跳ねている紙人形なのでは? タネを知ってい ましたので、そちらでは驚かなかったけど(本筋にしもしてないし、というかこれでは出来ないと思うけれど も)。ラスト、練無の名前のお返しにフランソワがヒントを出した名前というのが【 校舎の図を順にながめると「M」「O」「E」】となる訳で(解答なしだが自明)、結局、小鳥遊練無と 【<犀川&萌絵シリーズ>】へのリンクが掛けられる。なるほど、追跡の合間 に豪儀にも【ジュースやらビールやらが振る舞われる】訳だ(笑)。もちろん同 じ大学に通っている訳だし、いつかはそうくるかとは思っていましたが、しかし、時代的に同時代としてに繋 がってるんですかね。俺的には【瀬在丸紅子の息子のへっくんが犀川】という 伏線で、時代的には同時代ではなくて多少ずれると思っていたのですが。まぁ、ただイコールと言明したわけ ではないので、さらに今後の作品でひねりがあり得るかも…。ただ【彼女が犯人 】というのには違和感が。動機も…うーん。犯人は【MOE】でも、 彼女は【叔母】とかってのもあり得るか? あと、思ったのは「ぶるぶる人 形」とかの謎を持ったガジェットの扱い。これは前述したようにネタを先に知っていたんですが、前の「マン島の蒸気機関車」 といい「どちらかが魔女」といい、「双頭の鷲の旗の下に」といい、実際にこの世に存在する謎に、小ネタト リック(と呼べるほどでもない)を組み合わせるという形ですね。で、実在する謎の方は解かれないままとい う。確かに作者が自分で作った謎ではないから、それを得意げに種明かしするのはイヤなのかもしれないけれ ども、放りっぱなしってどうよ?と思わないでもない。それだったらネタに使わなくてもいいのにと思った り。まぁこれプラス小ネタで一本といった所か。

「ゲームの国」…名探偵・磯莉卑呂矛(いそりひろむ)の事件簿1とあるので、2が出るのか? メタ パロディ(まぁパロディってのはある種メタな視点なのだが)。遊びは盛りだくさんだが、本筋のオチは座り が悪い。【キャスリング】はわかるが、遊び部分を除いてもぴったっと納得で きないとなぁ…。 お遊び部分では、なぞなぞが面白かった(というか綺麗な観点だなと)。回文は【「すべてはFになる」からのタイトルの回文】。一個だけ【 京極夏彦の<「鉄鼠の檻」】が入ってますけど。これは推薦文繋がりって事で。(まぁ回文はそ んなに面白いとも思わないが。だいたい作るのより解読する方が難しいじゃないか。) 名探偵の名前は、作中 の別の例であるように【ローマ字書きにして逆読みすると…】。

「私の崖はこの夏のアウトライン」…夏に繰り返される悲劇の再演。幻想的にまとめた一篇。オチはも ちろん【失われた左目との邂逅(幻想)】なんですが。でも片目を失ったのは、 墜落死してからでは? だからぐるぐる回る空と陸の景色は両目ともみれていたと思うのだが…?

「卒業文集」…生徒たちの卒業文集が順番に書かれている。超能力者の様な先生というのが【ミスリーディングで】、なんとオチは【盲学校の生徒たち 】だったと。これは鮮やか。確かに五感で書いているように見えてあれだったものなぁ。

「恋之坂ナイトグライド」…オチ的には【鳥たちの会話】と言うこと で。【チュチュが渡り鳥(燕?)、アルバ(本当にアルバトロスって事はないだろう な、都会だし)は野鳥。黒いのは鴉だろうな。】。庇の上に靴を並べられたのは【】だからという。フェアではないので、しっくりはこない。イキナリ【「鳥人大系」(手塚治虫)】をやられても。だいたい【種が違っても番えるのか?(まぁ男と女の関係を明言はされてないが)】。どこまで がルールでどこまでが(フィクション)設定かという境界線が曖昧なので本格好きにはアンフェア感があって、 オチが分かってもしっくりとは来ないかと。まぁ、幻想系という事で。

「素敵な模型屋さん」…模型に傾倒する少年の話。というか森博嗣的【フィー ルド・オヴ・ドリームス】。趣味は違えどその気持ちが分かる大人は多いか、と。

その他諸々の事。書名は、オチの博物館という事みたいで。逆説的にオチを隠しているって事か。でも言葉を 掛けているのはParasite博物館かな。目黒のは昔行きました。あと表紙の折り返しが文章訂正の為に、差替え がかかったとか。たしかにラストをネタバレされちゃあなぁ。でもそこがウリだろうから、売る方は難しい。 もしかしたら、まさに前述した理由で明言を避けたのかもしれないけれども。(だったら将来の作品でさり気なくわかるかも)
 と言うことで、一気には読了したんですが、それなりに謎が残っているのがくやしかったなぁ。とりあえず 覚えているのは解いたと思うんだけどどうでしょう? 他の解釈とかあれば教えてください(^^) 


bk1「今夜はパラシュート博物館へ」


◆3/中旬読了。「葛橋」坂東真砂子(角川文庫) - 01/04/26 20:09:52

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◆3/中旬読了。「葛橋」坂東真砂子(角川文庫)
 「桃色浄土」以来に読んだ坂東真砂子。「狗神」は、自分がもともとそんなにホラー好きではないのと、登場人物のちょっと付いていけない行動に引いてしまっていたんですが、「桃色浄土」ではスーパーナチュラルな要素は影を潜めて、色鮮やかな島の情景とそれぞれの人物の愛憎の心の襞と行動が、まさにドラマチックなうねりとして描かれており、見直したのでした。
 こちら、「葛橋」は短編集。
 ◇一本樒…否かで平凡な主婦をしている主人公の元に、男と別れた妹が避難してくるのだが、男も妹を追掛けて押し掛けてくる。そこは旦那がとりなしたのだったが…。
 ◇恵比寿…漁師の妻が、海岸で拾ってきたものは、妙な形をしていた。海から来たものは恵比寿様だといって、舅は大切に神棚に飾って拝むのだったが、どうやらそれは珍しくも価値のあるものだった…。
 ◇葛橋…証券会社の激務から妻を失った男が、故郷である田舎に戻ってきた。そこで幼なじみの女性に再会し…。
 結論から言うと、どれもスーパーナチュラルが影を落としていて、俺には座りが悪かったかも。人の愛憎というテーマは健在。結局スーパーナチュラルとはいっても、人の心の澱みの具現化という事になるのだが。けれども短編だけに、そこで終わってしまっているのが、俺的には物足りなく。もちろん、どちらかというとショートショートに近い、そういう方向性の短編集ではあるのだが。坂東真砂子の、自分ではコントロール出来ない愛憎のドロドロとした中、何を考え何を選択するのか、というような作品が読んでみたいなぁ。
 オススメは、阿刀田高とか好きな人とか。坂東真砂子のホラーが好きな人とか。


bk1「葛橋」
「桃色浄土」


◆4/24(火)読了。「かめくん」北野勇作(デュアル文庫) - 01/04/25 20:17:22

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◆4/24(火)読了。「かめくん」北野勇作(デュアル文庫)
 読みやすいので一日半で読了。(ここでよく基準にしている日数は、通勤読書中の時間(本を置くこと能わずというくらいでなければ)なので一日分で約1時間30分くらいの勘定でみていただければ大体あっていると思います。但し読書欲がないときには行き帰り読まないで日数だけが経っていってしまう場合がありますが)。
 しかし、最近デュアル文庫ばっかり読んでるな。今読んでいる「少女の空間」もデュアル文庫だし。いいポジションにいると思います。手に入らなかった絶版(ジュブナイル)SFのサルベージレーベル。いえいえ、しっかり書き下ろしもあり、アンソロジーもあります。こういう器(レーベル)ってのは大切だよな。今後にとっても。思ったのは、きっと将来、版元品切れで再版予定なしのデュアル文庫のコンプリートを目指す若者とか出てくるんだろうなぁ…とか(笑) かくいう自分は「銀英伝」とかシリーズモノ以外はコンプリートかも。あ、でも意識していないから取りこぼしがあるかも。基本的に読もうと思わない本までは買おうと思わないので。買った本がすべて読まれるとも限りませんが。(逆は必ずしも真ならず)。
 で、こちら、「かめくん」。ネットで話題作となっています。書名だけは耳にしていたのですが、どうもマンガ表紙は読書欲をそそられなくて、後回しになっておりました。まぁ結果から言うとこの表紙は内容にマッチしたものなんですけれどもね。
 ◇かめくんは、かめ型ヒューマノイド。木星で行われていたらしい戦争に投入されていたという。けれども戦争は終わり、かめくんもじぶんの生活のために普通に会社にいって働いていた。特技:フォークリフト運転。会社合併のためにリストラ対象になってしまったかめくんは、アパートも自分で借り、新しい就職先をさがし、新しい生活をはじめる。そこでもまたフォークリフトを運転したり、たまにザリガニ型の生物とたたかったり、図書館で本を借りて読んだり、たまには思索を思いめぐらしたりして、日々を過ごしていくのであった。
 ということで、かめくんの日常をノスタルジックな雰囲気にのせて描く作品。時代は未来の日本というか大阪(通天閣とかあるし)なんだけど、非日常の「かめくん」がいるだけで、そこは超日常。レプリカメってなに?といきなり謎を牽引力にして於いて、なんだかわからないけどそんな場所で、なんだかわからないけど戦争があったようで、なんだかわらないけど回っている世界の中で、たんたんとその日常を綴っていく。もちろん、日常のなかにこそドラマがあったりするわけですけれども。イメージ的には松本零次の昭和を彷彿とさせる4畳半SFみたいな感覚。しょっぱなからかめ型ヒューマノイドって名義矛盾してないかとか突っ込みながら物語にハマれます。
 具体的な世界構造の深い探求はされることはなく(かめくんの知能はそういう風には働かない)、そんなバックグラウンドよりは、その毎日が回っている事で自己を取り巻く世界を認識していて、問題がなければ、そうして過ごしていっているというのは、実は、読者も同じなのかもしれない。
 すべてがメタファーの様な、自分というフォーカスから離れるほどに現実味がぼやけていく日常描写、そして自分自身に思索しつづける一片の思惟である自己というのは、ディックというよりは神林長平を思い起こさせる。(もちろん神林はディックを引き合いに語られる事が多い訳ではあるが)
 んで、そんなかめくんと、それをとりまく世界を使って、様々なガジェットやアイディアを立ち上げて話を展開しているのは、さすがに上手いなぁ、と。「ぼくはおしっこをするからおしっこでできてるのかな?」なんて昔の絵本を思い出したり。
 それぞれのテーマは深くはないが、それぞれが関連づけられる事で世界を構築するというのは、何故という世界探求(解体)ではなく世界の関わり(関係)で、ノードではなくアークで語られる物語世界そのものと同じなんだなぁと思ったりした。
 SFプロパーには物足りないかもしれないが、色々な人に楽しめるSF。なんだか不思議な、日常であって日常ではない世界を味わってみてください。肉球好きな人にも(笑)。


bk1「かめくん」


◆3/1読了。「ブギーポップ・パラドックス ハートレス・レッド」上遠野浩平(電撃文庫) - 01/04/24 20:01:35

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◆3/1読了。「ブギーポップ・パラドックス ハートレス・レッド」上遠野浩平(電撃文庫)
 ずいぶんと前作から出る間があいてしまいましたが、やっと出たブギーポップシリーズの最新刊です。これだけ空くと、次は最終巻かと思っちゃいました。結果からいうとそんな事はなかったんですが。で、相変わらず一気に読了。
 ◇九連内朱巳は、幼い頃に夜逃げした両親から統和機構に引き取られていた。ただし朱美が見せたその能力はブラフだったのだが。中学にあがった朱美が統和機構から指示されたのは、謎の意識不明の病について調査することだった。転入した学校で、朱巳は霧間凪に出会う。彼女もまた事件の真相を追っていたのだった。しかし事件は思わぬ身近な所――朱巳の親代わりでもあった統和機構の監視者ミセス・ロビンソンの元に忍び寄っていた。そして<世界の敵>の現わる所、ブギーポップの影もあった。
 という事で、中学時代編ですね。霧間凪はかわらんなぁ。今回思ったのは、統和機構の怪人が、みんなヒューマニティ溢れているという事であったり。統和機構と能力を除いては、妙に常識に囚われていたり、暖かい感情をもてあましていたり。【ミセス・ロビンソン】はかわいそうでした。
 今回は、統和以外の組織も出てきますね。これは将来どんな影をおとすんでしょうか? この後に「ブギーポップ・リターンズ VSイマジネーター」が来る感じですけれども。【穂波】とか出てくるし。(とは言っても読み返し派ではない俺はすでに時系列がわけわかんなくなりつつある(^_^;))
 話としてはまとまっていたけれども、シリーズとしての評価の嵩上げがなければ、今作はまぁ「普通」の出来かな。相変わらず能力(というかやはりスタンド)の見栄の張り方は上手いです。でもなんだかどんどん普通の小説になっているよーな気も。テーマもぼやけているし。あとちと話の無理も気になったかなぁ。朱巳のブラフを統和機構がそもそも見破れないのはどうよ?とか(逆に分かっていて観察しているという考え方もあるが、別に示唆されるわけではないので)
 物語世界の今の時点での最新時間は未だに超えてません。いつか物語の中で来たるべきゼロアワーでは、すべての登場人物が会して収束に向かうんだろうか。もしそうなら、まだまだ同時間上での物語を続けて欲しくはある。
 最近は、<虚空牙>シリーズ――というより、未来史――に連なる別シリーズの物語も散発ながら出版されており、ブギー以外の上遠野も楽しめるのだが。


bk1「ブギーポップ・パラドックス ハートレス・レッド」


◆4/21(土)読了。「星界の戦旗 3 家族の食卓」森岡浩之(ハヤカワJA文庫) - 01/04/23 14:03:37

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◆4/21(土)読了。「星界の戦旗 3 家族の食卓」森岡浩之(ハヤカワJA文庫)
 約一年ぶりのシリーズ最新刊。
 ◇ハイド伯爵という位に就かされアーヴ帝国の制度に組み込まれてはいるが、心情的には故郷の立場を心配する側にいるジント(故郷の惑星マーティン側は裏切り者という認識をしているかもしれないが)。けれども、その故郷の惑星は星界軍に反乱を起こしていたのだった。一方、星界軍では、惑星マーティンで模擬演習を行おうとしていた。ハイド領の管理を任せる人間を捜すため、そして懐かしい故郷の人に会うために、ジントはマーティンに行こうとするのだが…。
 そんなこんなで今回はジントと故郷との立場の鮮明化という所でしょうか。愛するが故に、【立ち入ることが出来なく】なるというのは、皮肉ですね。将来、モノではなく人に対して、その苦渋の選択を迫られることがあるのかもしれない。
 他、家臣探しとか、裏ヒロイン(?)の逸話とかそれなりのサブストーリも込みで。
 尤も、俺はキャラ傾倒型ではないので、今回については、それほどでもないなぁと。シニカルな会話のやりとりとかは好きですけれども。ロジック主体の軽妙なやりとりって割とSFならではの気がするんで。ラジェンドラとアプロ(<敵は海賊>シリーズみたいな。) 読んでいてこれって「月と炎の戦記」(森岡浩之)とテイストは同じだなぁ(良い意味で)と思ったり。
 今後については、ジントがあぁいう事になり、ラフィールもそういう事になるので、今後の展開で徐々にという事かな。大局的な状況の変化も込みで語られていく事になるかと思います。希望としては、順当なストーリよりは驚かせて欲しい。
 とりあえず、シリーズなので今回は中継ぎの落とし所という感じ。まだの人は是非、「星界の紋章」からどうぞ。あ、「紋章」が三部作だったので、こちらもそうかと思っていましたが、そうではなく、まだまだ「戦旗」としては続く模様です。


bk1「星界の戦旗 3 家族の食卓」


過去記事収録 - 01/04/21 11:24:15
ホームページアドレス:bookdiary1200001-12.htm

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2000年1月〜12月分です。

過去記事収録 - 01/04/21 11:23:59
ホームページアドレス:bookdiary199912.htm

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ながらく不精でAPPENDのみだったのですが、さすがに大きくなりすぎまして、分割して収録。
1999年12月分です。

◆4/19(木)読了。「エンダーの子どもたち(上・下)」O.S.カード(ハヤカワSF文庫) - 01/04/20 19:03:04

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◆4/19(木)読了。「エンダーの子どもたち(上・下)」O.S.カード(ハヤカワSF文庫)
 「エンダーのゲーム」(姉妹編:「エンダーズ シャドウ」「死者の代弁者」「ゼノサイド」と続いてきたエンダーシリーズ最新刊にして、完結編(多分)。シリーズという事もあって前提条件がない為それなりに読みやすく、読了。
 「エンダーズ・シャドウ」を読んだのは割と最近だったのだが、「ゼノサイド」を読んだのは、発行日を見れば94年という事なので、すでに7年前。かなり忘れておりました。
 ◇前作で最大の脅威であった惑星ルジタニアで発生したデスコラーダウィスルは、巣窟女王によってアイウアから作られたジェインの力で、毒性を無効化された。その際に、エンダーは、無意識により分割され10歳当時のエンダーから見たヴァレンタインとピーターが現前する。一方、デスコラーダウィルスの存在を知った<百世界>のスターウェイズ議会は、惑星ごと消滅させようと<リトル・ドクター>を搭載した艦隊をルジタニアに派遣していた。ルジタニア艦隊は刻一刻と、惑星ルジタニアに近づいていた…。ゼノサイドを繰り返さない為、巣窟女王の子供たちとペケニーノの子と人類を運ぶ植民に適した惑星を探す、ヴァレンタインとミロ。ルジタニア艦隊停止のために、スターウェイズ議会への影響力のある人物を説得に当たろうとする、ピーターとワンム。一方、スワーウェイズ議会は、アンシブルネットワークの全コンピュータを一時切断することでジェインを消滅させようとしていた。ルジタニアの粛正、ジェインの消滅、そしてアイウアが分割のために実体を維持できなくなったエンダーの喪失が迫っていた。
 既に物語としての盛り上がりや、ドキドキした感覚は、完結編となったこの「エンダーの子どもたち」にはなく、むしろそれぞれに象徴される生き方、考え方、哲学が、思弁的に述べられるための触媒となっている感が強い。物語としては、落ち穂拾い的に、伏線を収束していくという感じ。エンダーの世界に触れたいファンにとってはカーテンコールに近いか。なにしろ、アイウア、<外側>、ジェインによって、ほぼ無限の可能性が開いてしまっているのだから、あるルールの中で何が出来得るのかというよりも、ある意味何でもアリな世界で、作者がどう語ろうとうのかというあたりが、物語の焦点に。
 そんな背景が、ハインラインの「愛に時間を」を思い起こさせる。物語世界の中ですでに存在感を得ている人々の大河ドラマ的な展開というか…。ジェインの融合についても、前述の「愛に時間を」でミネルヴァが肉体を得る所を思い出したり。ピーターとワンムの探求は、通常の飛行では追いつくことが不可能なジェインの超光速飛行という事で「エンディミオン」をちょっとだけ思い出したり。(いや、寧ろ、ゲイ・デシーバー@「獣の数字」(ハインライン)か?
 今回、作中には日本文化や日本人が重い比重で出てきたりするのだが、その日本人観には違和感も。尤も、現在の日本人云々ではなく、エンダー世界の中の日本文化であるのだが。惑星ディヴァイン・ウィンド<神風>のオボロ・ヒカリ然り。原爆投下の歴史観然り。中心都市が「名古屋」であるのはご愛敬か。
 物語の流れではなく、それぞれの悩みについては、どうか? ピーターのアイデンティティの探求と偽悪的なふるまいは? ヴァレンタイの利他的な自己は? …うーん、そこら辺はなんだか【エンダーとの融合】で、感知できない(感情移入もし難い)話になってしまっているなぁ。カードの寓話的な側面の一つなのだが。
 エンダーサーガとしては、順当(過ぎる)に収束を向かえたとは思うが、問いかけに対しての答えという所では、不満も残る。(そういう意味でハーバードの「砂の惑星」〜「砂漠の子どもたち」あたりを思い起こしたり。)
 実は、収束するだけではなく、【デスコラーダを誕生させた惑星】も出てきて、もしかすると、いつかは、さらなるカーテンコールが待っているのかもしれない。


bk1「エンダーの子どもたち(上)」


◆1/30(火)読了。「フラッシュ・フォワード」ソウヤー(ハヤカワSF文庫) - 01/04/16 18:31:10

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◆1/30(火)読了。「フラッシュ・フォワード」ソウヤー(ハヤカワSF文庫)
 勢いに任せて一日で読了。ソウヤー、やっぱり面白いや。
 「ターミナル・エクスペリメント」「スタープレックス」「フレームシフト」と順調に邦訳も続いて(「さよならダイノサウルス」も再版かかってるみたいだし)いる、ソウヤーの最新邦訳。
 ◇ヨーロッパ素粒子研究所(CERN)で、2009年4月21日にロイドとテオの科学者グループが行ったヒッグス粒子を発見するための実験は、ビッグバンの10億分の1秒後のエネルギーを瞬間的に発生させるものだった。その実験の瞬間、全人類の意識が21年後に飛ばされる。その間約2分。それぞれが21年後の未来の自分の行動を2分間共有する事になる。そしてその間、現代では意識を失っていたのだったが、その後意識が戻って来た現代では、意識喪失の為の未曾有の大災害と混乱が起こっていた。21年後の未来を知った全人類のそれぞれは、何を考え、何を選択するのか?主人公の一人である、ロイドは現在の婚約者とは別の女性と暮らしている生活を視てしまう。一方、<フラッシュ・フォワード>されなかったテオは、戻った人々から21年後の断片を収集し、それを繋ぎ合わせる内に、自分が殺されていたことを知る。いったい何が起こったのか。2分という断片はあまりにも小さい。そして未来はいったいどうなっているのか?
 いやぁ、上手いです。大風呂敷を広げた現象に、いくつもの謎や疑問を上手く織り込ませ、読ませます。視た未来と現在との関係は? 何が原因で起こったのか? はたして未来は絶対なのか?
 全人類の意識喪失で<ゲイトウェイ>シリーズ(フレデリック・ポール)を思い出したり。素粒子実験で…というのはそういえば「時をかける少女」収録作品(タイトル失念)でもあったなぁ(こちらは平行世界への意識の移動だったが)と、思い出したり。もちろんネタ的には、本作の方がご都合主義ではなく考証はされているし(まぁこの部分は「if」の部分の為の前提条件であるのだが)、その為に起こる、プロット的な謎の折り込みも秀逸。ソウヤーはまさに原点に近いセンス・オブ・ワンダーを味合わせてくれる作家だと思います。
 お薦め対象は、SF初心者からSF上級者、そして一般文芸読者でもオオバコ系SF味の作品が読める人なら。安心して薦められる面白さ。今年のSFベスト5には入るでしょう。
  追記:ソウヤーといえば、今年のSFセミナーでは、カナダ大使館主催イベント "Think Canada" の一環として、ソウヤーの講演会が行われる模様。2001年4月29日,カナダ大使館ホールにて、参加費 2,000円,完全予約制。締切 2001/4/20(当日参加はできません)との事。詳細はhttp://www.sfseminar.org/arc2001/sfs-ad02.html


bk1「フラッシュ・フォワード」


◆3/18(日)読了。「夜聖の少年」浅暮三文(デュアル文庫) - 01/04/16 17:18:52

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◆3/18(日)読了。「夜聖の少年」浅暮三文(デュアル文庫)
 読了まで一週間と結構時間が掛かってしまった。
 一切の暴力を否定する社会は、大人となる際に人体発光を伴う<抑制遺伝子>を、その人民に移殖する事で成り立っていた。その社会から離脱し、地中の廃道に暮らす少年たちは<土龍>と呼ばれていた。主人公、カオルはそんな地底を寝床とする土龍のグループの一員であった。社会には認められていない彼らは<炎人>に見つかれば炎で焼かれてしまう危険が常に伴っていた。ある時カオルは、地上の探索中に追いつめられ逃げた袋小路の先にあった研究室の中にいた巨人を発見する。カオルは彼をミトラと名付け外に連れ出す。時を同じくして、都市による<土龍>への攻撃が熾烈を極めてくるのだが…。
 という事で、少年の成長物語を軸にした、世界発見(と抵抗)の物語。閉塞的な社会と巨人のイメージ、炎人などのガジェットが、なんだか宮崎駿っぽい。世界発見で「都市と星」(クラーク)、廃墟に営むエスケープした少年少女(大人になるまでは居られない)という事で「MOUSE」(牧野修)という感じか。
 悪くはないのだが、主人公が謎の解明や世界発見を目標に動いていかないので、物語として、先を読ませようとさせる牽引力は弱いか。社会の成り立ちや出生の秘密を特に求めようとすることがない割に、状況対応して行くだけでゴール(謎の解明)に到達していくあたりが読み進めるにつらい所ではあった。
 社会構築的には、立ちはだかる体制=社会は、”僕(ら)の敵“という割と分かりやすいポジションで、矛盾があからさま的であるのにそんなに長く持ちこたえられるのかとか、ちょっと思った。そこらへんの仕組みが用意されていると、世界的にきちっとした感じがしてよかったカモ。俺的にはね。これはないものねだりというより、それはそれで意識させない作り方というのもあるとは思うのだけれども。
 ジュブナイルとしてはアリ。ネタ仕込みから展開期待の割に話のスピードが遅いのと、文章が(ジュブナイルにしては)堅めなので、それなりの人向けかな。


bk1「夜聖の少年」


◆3/14(水)読了。「過ぎ去りし日々の光(上・下)」クラーク&バクスター(早川SF文庫) - 01/04/13 15:55:26

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◆3/14(水)読了。「過ぎ去りし日々の光(上・下)」クラーク&バクスター(早川SF文庫)
   ワームホールの作成実験成功により、その用途は多く広がった。アワワールド社では密かにワームホームの先の景色を表示する事に成功し、そのマシンをワームカムと名づけた。ワームカムにより理論上あらゆる場所を覗けるようになったアワワールド社は、TV中継などに利用を始め大成功をおさめつつあったが、ワームカムの可能性はそれだけには留まらず、問題は、あらゆるプライバシーが暴露され得、そしてそれを防ぐ手立てがないことにあった。
 技術を長い間秘匿することは物理的に不可能であり、ワームカムの存在もまた一般に知られる日がきたのだが…。その技術は世界を変える事になる。また、ワームホールは距離だけでなく、時間をも超えられることが判明しつつあった…。
 という事で、クラークとバクスターによる、あらゆる場所・過去が覗けるようになると世界は…というある意味ifワールドもの。アイディア的には、アシモフかなんかの短編で読んだ事があるような気がしますし、解説にも言及のある「過ぎ去りし過去の光」へのオマージュともなっています。スローガラスというガジェットが登場するのは早川のSFアンソロジーにあったなぁ(失念)。さらに物語のバックグラウンドとして、地球には<にがよもぎ>と名付けられた巨大隕石が近づきつつあり、これは約500年後に地球に衝突するコースに存在し、その事が地球上のあらゆる文化に影を落としていた…という設定があったりして物語を盛り上げる。話の運び手としてアワワールド社の息子とフリーのジャーナリスト・の恋心や、彼の出生の謎などを絡めて、社会・ワームカムを取り巻く状況の変化が語られていく。
 ある意味手堅く作られたSF。ワームカムによる可能性(スポーツ選手の視点によるスポーツ中継や内視鏡などなどの技術の応用、そしてこちらの方がメインとなってしまうプライバシー侵害とそれによる社会の変質)について、短編では出来ないボリュームで語ってくれます。さらに光学迷彩@攻殻や、脳内ワームホールまで出てきたり。
 さらにはDNAを追跡するワームカムで、個人の祖先を追っていくシーンがあったりして、こちらはグレッグ・イーガンの「祈りの海」収録短編「ミトコンドリア」(だっけか?)を髣髴とさせますね。スピード感が圧巻です。見てみたいと思わせます。ここらへんから一歩現実感から踏み出して、徐々に壮大に歌い上げれます。その過去−未来感は「火の鳥」っぽかったなぁ。難を言えば、社会状況の変化のシーン、シーンのつながりがやや唐突で、シリアルに続いていかないという感じを持ってしまう事かな。
 まぁ、あと考えれば、プライバシーを覗かれたくないという意思表示は出来るはずで、例えばあるシグナル出力の場所は覗けないようにワームカムに組み込むとかいう方向はあるんじゃないか、とかは思った(もちろんその刷込みを無視す改造も可能だが、それは現在のデジタルコピーとかも同様だろうなぁ)。少なくとも覗かれてもいいかどうかの当事者の意識は重要だと思ったり(まぁ物語としてはオッケーという事で。というのはそこまでドメスティックに社会が変わらないというだけの問題になるだけなのだろうから)。でデータといえば、過去のあらゆる文献とか毎週の雑誌とかもワームカム経由で読み放題になるんだろうなぁ。もちろんそれじゃ媒体自体がなりたたないから…とか考えたりして、実はこの思考実験がセンス・オブ・ワンダーなんだよな、と。


bk1「過ぎ去りし日々の光(上)」「過ぎ去りし日々の光(下)」


◆4/11(水)読了。「さすらいエマノン」梶尾慎治(デュアル文庫) - 01/04/12 13:48:01

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◆4/11(水)読了。「さすらいエマノン」梶尾慎治(デュアル文庫)
 ずっとアシモフの新刊「ゴールド」に掛かっていたのだが、落ち穂拾い的内容の為にだらだらしてしまい、あげく持ち歩いていたためにどっかにいってしまいという体たらく。
 気持ちを切り替えて、ずいぶん溜まっているデュアル文庫の消化に入る。「さすらいエマノン」は二日で読了。
 こちらは、以前デュアル文庫から復刊した「おもいでエマノン」の続編。これまた復刊(だったかな)。
 トータル的には、良くも悪くもジュブナイルSFという所。「おもいでエマノン」の方が同じ連作短編といっても完成度は高かった。というかこちらも落ち穂拾いという感じか。
 ネタ的には「異星の人」という感じではあるが、もっと割り切って作っている感じ。エマノンも、当作では超常現象ハンター(というかウォッチャー)という感。和田慎治の絵でマンガにするといいよ…って、それわ超少女明日香←いや、ノリ的にはそんなB級風味に(^_^;)。
 とりあえず俺的には、短編なのに毎作超常現象が起きて、当事者がそばにエマノンの存在を気付いてという型にはまっていすぎで、いただけなかった。
「さすらいビヒモス」…史上最後となってしまった【】の警告。
「まじろぎクリィチャー」…【Xパウダーに適応するため怪物と化した生物】の袋小路。
「あやかしホルネリア」…【意志を持ったかのように動く赤潮】の目指す先とは。
「まほろばジュルパリ」…【カンブリア期の種の大爆発を起こさせた、地元で悪い精霊】と呼ばれるものを鎮める方法とは。
「いくたびザナハラード」…【超自我】が記す人類の未来とは。
 という感じですが、見直すとやはり色々と無理があるような。「いくたびザナハラード」は遊びとして作者も作中に登場…だけど、遊び以上の意味はない。チャネリングとかは流行ってたのかもしれないが物語としてはデムパな使われ方がアレかと。
 全体として、それが良い悪いというよりも、中途半端なエコロジーものになっている感じに引いてしまったというのもあり。
 エマノン自身については、「おもいでエマノン」でほぼ語られてしまったので、物語世界根幹を語るような展開がなかったのも物足りない要員の一つかと。
 今後、長編を出す予定みたいだが、どうなんだろうか…と思いつつ。


bk1「さすらいエマノン」


◆3/16(金)読了。「グインサーガ78 ルノリアの奇跡」栗本薫(早川JA文庫) - 01/03/16 21:46:47

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◆3/16(金)読了。「グインサーガ78 ルノリアの奇跡」栗本薫(早川JA文庫)
 月刊ペースのグインサーガの新刊。しかも前巻は遅れて読んだのですぐに新刊でした。過去の「嵐のルノリア」「試練のルノリア」ときてこうですか。
 ナリスの遺体を乗せた隊列に襲いかかってきたのはヤンダル・ゾックの傀儡と化した下級魔導士のタロウだった。すんでの所を戻ってきたヴァレリウスが一行を救う。そしてヴァレリウスが伴ってきたのは、伝説の魔導師イェライシャだった。さらにイェライシャから≪魔の胞子≫を見分ける術を学んだヴァレリウスは、一行の中に紛れ込んでいたヤンダル・ゾックの尖兵を一層したのだった。胸をなで下ろした一同を集めて語られたのは今回の企みの事であった。イェライシャの秘術を使いナリスは生を止めた状態にあったというのだ。そして一行はイーラ湖を越えカレニアに向けて歩を進めたのだった。イーラ湖では湖上を渡った者たちを襲った藻の化け物を、かろうじてヴァレリウスが撃退し、なんとかカレニアに到着した後、ナリスはイェライシャの秘術によって蘇ったのだった。ナリスはカレニアで正式に即位し、正面からレムス国王の勢力と争うことになる…。王女がレムスに嫁いでいるアグラーヤはレムス国王の側にたったのは当然だったが、豹頭王が治めるケイロニアがナリスをパロの聖国王を認める表明を行ったのは列強に衝撃が走ったのだった。
 ということで、ナリスはずっと死にかけだったりしたんですが、たまには死んでたりもするという、この節でした。ていうか、まぁ陰謀は陰謀としても、同じパターンだったりもするので、まさかもっとスゴイ仕掛けでとか思ってたのにイェライシャの秘術ですか…(^_^;)。ちょっと脱力。
 あと、今回の突っ込みどころは、p175とp187で12ページしか経っていないのに『ふたこととはいわせ』られないヨナですかな。なんか昔も『刹那』使いが荒いことがあったけど、早書きのせいである語彙を使おうと思って書いていて使ってしまっているのにこれから使おうと思ってたんだとばかりに複数回使ってしまっている気がしますね。←読みにくい。
 さらに、『もう、ナリスさまは目をさまされたよ。』(p270)っていう発言をする大魔導師・大導師イェライシャってどうよ? これは読む前に友達から聞かされたのでどこで言うのか気になってました(笑)。今後どんどんみなが「ナリス様あぁナリス様ナリス様」(季語なし)とかなっていくとコワイですな。グインとかまでナリス様。ヤンダルまでナリス様。"World is yours"(いや、ちょっと"World is mine"が最終回だったから使ってみました)。
 あと一点突っ込み所としては、リギアですか。アムネリスの時もそうだったですが、書き込みが増えるとどんどんみんなダメな女になっていくのはどーして? 「あぁダメっ。ワタシただの女になっちゃう!」by三田佳子@「Wの悲劇」てなもんです(笑)
 前回の感想にあとがき感想を忘れていたんですが、そうそうあったあった某匿名掲示板論争。前回で、もうネットの話はしませんとかいって舌の根もかわかないうちにネットの宣伝とかしまくってたんですが、今回もちと面白いあとがきでした。まぁいいんですけどね。でも某匿名掲示板も、「GSナリス」(と命名してみました。ゴーストスイーパーナリスじゃないです)となってしまって嘆いて離れたファンとかがわりとまともに書いているようなのもあったと思ったんですが、個人的には。ちなみに今回は、いまから言い返せるすごいセリフおもいついたんだけど、もうやめるっていったからいわないんだよね。でもいいたいなー。でも大人だから言わない。…ってな感じの主張が(笑)。まともな話題の方では、タイトルでネタバレしちゃうのでいろいろと悩んだとかって話題も。
 でも、買い続けて読んでいる俺はなんだかんだ言って好きなのかな〜と思いつつ。


bk1「グインサーガ78 ルノリアの奇跡」


◆3/9(金)読了。「天使の囀り」貴志祐介(角川ホラー文庫) - 01/03/13 21:31:28

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◆3/9(金)読了。「天使の囀り」貴志祐介(角川ホラー文庫)
 本屋で文庫の新刊を見かけて購入。貴志祐介は「クリムゾンの迷宮」「黒い家」「青の炎」と読んできてすっかりフォロアーに。526ページという厚さにも関わらず一日で読了。リーダビリティ高し。ホラー文庫書き下ろしかと思ったのだが、平成10年に単行本で出ていたものの文庫落ちですね。まぁ当たり前か。そして文庫の解説は瀬名秀明。
 冒頭は、アマゾンの奥地に向かう研究班に同行した作家・高梨が、その恋人に送ったメールで綴られる。失われた文明があったと目された地で、探検隊はその地特有の猿を夕食に食した一行は食欲が増進するという身体の変調があり、地理案内を頼んでいた現地の部族に、タブーに触れたと即刻の退去を命じられる。
 日本に戻ってきた高梨を迎えた恋人・北島早苗は、彼のテンションの高さに唖然とする。そしてあれほど死恐怖症を持っていたのに、人が変わったように死に魅せられるようになっていた。早苗はそんな彼を危ぶんでいたのだが、ある日、破局は訪れる。彼女が調べると、探検のメンバー5人の内3人が、それまで各個人が普段もっとも怖れていた事で自殺を図っていたのだ…。
 冒頭のアマゾンでの冒険の下りでは「樹海伝説」を思い起こしたり。そして人格を蝕まれたかのような奇妙な行動。これはいったい何が?これから何が起こるのか? 物語を先に読み続けさせようとする牽引力は高く、落とし所(スーパナチュラルか?ホラーか?など)をある程度読者に考えさせながら、物語は進む。
 明かされるネタは、結構衝撃的。【恐怖と言うより生理的嫌悪】をうまくついてます。科学的な分析と、様々な蘊蓄を絡ませる手法も上手いですね。ついでに「ダーウィンの使者」(グレッグ・ベア)も思い出しました。
 最後の方は、オイオイとか思いつつもそれなりに納得の範囲に収まっているのはやはり作者の力量でしょう。全体的にSFマインドを感じてしまった。ある意味フィニィの「盗まれた街」でもあるので。でも後半はSF者的には、やっぱ【脳の結線】に人は縛られるものなのだなぁと思考の異化作用が起こったり(^_^;)。
 ヒロインが【何があっても無事】なのと【次々に襲いかかられる】のとかのご都合は許せる範囲。てか、それだけ作りはオーソドックスという事で、楽しめる人の範囲は広いと思います。
 なかなかのお薦め。 今後も貴志祐介は俺的には要チェックです。


「天使の囀り」 (bk1)


◆2/25読了。「だって、欲しいんだもん! 」中村うさぎ(角川書店) - 01/03/13 21:30:53

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◆2/25読了。「だって、欲しいんだもん! 」中村うさぎ(角川書店)
 借金女王の買い物エッセイということで、かるーく読めた一冊。ブランドものにハマり、借金をしてでも買いまくる、その心境を自分で「おいおい、そりゃまずいよ〜」とか突っ込みながら語ってくれます。
 なんか読んでいて、操縦権を持っている物欲人間の自分と、うしろでつっこみを入れている理性を持っている自分という図が、わかりやすく出ているなぁと思ってしまった。エッセイの中で、そんな感じで語られる作者は、まぁ他人事だからと思いつつ、笑いもやがて、あてはめた自分に返ってきたり、おもしろうてやがてかなしき…という風だったり。それはあくまで自分の感じ方なんで、さらっと読む分には楽しいエピソードがたくさん。麻布に引っ越して家具をそろえたらウン十万円でびっくりしたとか(びっくりしつつも見栄で買ってしまうあたりが面目躍如)、きっと麻布で流通しているのは「円」ではなくて「麻布円」にちがいない、わはははは、とか。
 これだけ借金をしていてもまだブランド品を買うか? そう、例え税金未納の形に押さえられようとも、例え電気ガス水道がとめられようとも。
 これだけの人がいるから自分なんかまだまだと安心できる一冊。でも、そうして買い支えられる収入(と技能)があるからすごいんだよな。


「だって、欲しいんだもん!」 (bk1)


◆3/7(水)読了。「黒祠の島」小野不由美(祥伝社NONノベル) - 01/03/08 11:43:02

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◆3/7(水)読了。「黒祠の島」小野不由美(祥伝社NONノベル)
 小野不由美の新刊。ミステリ。横溝正史系孤島因習モノですな。
 式部剛は、調査依頼などで一緒に仕事をしてきた作家・葛木志保を追って「夜叉島」にやってきた。過去を切り捨てるようにして生きてきた葛木は、もう一人の女性とこの島に戻ってきたらしい。本土のフェリー乗り場では、彼女たちを見かけた者は居たのだが、式部が島内に入って写真を見せると、すべての住人が、知らないと返答してきた。口を閉ざす住民と、島中に溢れた風車と風鈴は何を意味するのか? …この閉ざされた島には、国家神道が統一された明治以来、黒祠として異端に、そして因習に囚われた文化が根底に流れていたのだった。
 堅いストーリー運びで、お見事というプロットの本格ミステリ。おどろおどろしい雰囲気と蘊蓄とミステリ的トリック。例えば「鬼面の研究」(栗本薫)とかが好みならお薦めです。小野不由美という事でホラーを期待した人は、超常的な事は出てきませんので(「黒い仏」を読んだ後なのでソッチ系に行くかもとか思っちゃいましたが)、ちと違うかもしれませんが、雰囲気はいいので楽しめると思います。現実描写としては、村社会+因習という事で「屍鬼」的な要素も見いだせますし。
ラストもっとドロドロと【血の因習のフリークさ】が前に出てる方がツボだったかも。まさに【前述の「鬼面の研究」とか「悪魔の赤い輪」(ルブラン)とか】ね。トリックについては上手い!と思いましたが、【志保の方は写真嫌いの作家はわかるんだけど、麻里の方は弁護士でしかも島からも近かったってあたりで本当にそれで島内の係累に】分からなかったのかなぁと思わないでもない。
 でもとにかく雰囲気が出ていて、それを現実感あるものにする構築の仕方が秀逸。読了後も(【終わり方はやや唐突と思える事も相まって】)、雰囲気に浸れます。


「黒祠の島」 (bk1)


◆12/21(木)読了。「グインサーガ76 魔の聖域」栗本薫(早川文庫JA) - 01/03/07 21:54:32

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◆12/21(木)読了。「グインサーガ76 魔の聖域」栗本薫(早川文庫JA)
 クリスタルパレスから神殿に居を移したナリスだったが、こちらも圧倒的な国王軍の前にナリス側だった神殿側も不穏な空気が漂う。ナリスは神殿を出ることを決意する。一方、幽閉されているナリスの妻であり、第二王位継承者のリンダを、竜頭を彼女の前ではもはや隠さなくなったレムスが連れ出す。巨大な一つの眼球と化した満月の下、リンダは王の軍隊に取り囲まれたナリスを見ることになる。
 さくっと1日で読了。まぁこれはこういうものなので…(^_^;)。
 そして、ラストの【ナリス自害】という報は、どういう波紋を投げかけるのか?というヒキを残して次巻へ続く。
 今回は、あと、ナリスの生母の初出演(?)。かなり気位が高くて頑固で意地悪です。彼女も将来的に何かにからむんでしょうか?
 という事で、次巻は「グイン・サーガ77 疑惑の月蝕」。(感想は前後しちゃってますが(^_^;))  


「グイン・サーガ77 疑惑の月蝕」 (bk1)


◆3/2(金)読了。「グイン・サーガ 疑惑の月蝕」栗本薫(早川JA文庫) - 01/03/06 13:26:29

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◆3/2(金)読了。「グイン・サーガ 疑惑の月蝕」栗本薫(早川JA文庫)
 ナリス自害の報は、自軍を率いてナリスを援護しに来たスカールを落胆させるものだった。過去の例もあり偽装ではないかという疑いもあったが、ナリスの側の者達はそれぞれの目でそれを確認しており、スカールも自ら確認する事となる。さらに自害の報せはパロ以外の各地にも衝撃を起こしていた。王となりケイロニアを統治しているグインの元にも、ゴーラの王を自称するイシュトヴァーンの元にも、その知らせは届き…。
 という事で、前回のヒキから、今回は詳しい状況が語られます。てか、「本当に死んでんのかよっ!?」と誰もが思うはず。だって最近はナリスサーガなんだもん。あとグインが饒舌なのもなんとも。施策を決めるシーンで自分がどんどん喋ってすすめちゃってるけど、ちとイメージが違うかな。ていうか重臣たちに意見を出させた方が〜。自害したナリス自身の意図が伏せられているので、ナリス復活の可能性は高いっすかねぇ。今回は、本の帯に次巻予告がないんですが、聞いた情報だと次巻タイトルは【「ルノリアの奇跡」だか「奇跡のルノリア」】だかで…ニヤリ、というかこれは予告でないよな、と(笑)。


◆「グイン・サーガ77 疑惑の月蝕」の注文 (bk1)


◆2/27(火)読了。「黒い仏」殊能将之(講談社ノベルス) - 01/02/28 22:42:37

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◆2/27(火)読了。「黒い仏」殊能将之(講談社ノベルス)
 「ハサミ男」でデビュー、「美濃牛」でも話題をさらった殊能将之の新刊。新本格というよりもむしろポスト新本格ですかね。新本格の枠を使って(メタ的にも)仕掛けを作って楽しませるという。「夏と冬の奏鳴曲」(摩耶雄嵩)の<メルカトル鮎>シリーズ的でもあるんですが、あくまでアンチ本格ではないという感じ。
 さて、話的には「美濃牛」に出てきた名探偵<石動戯作>シリーズが出てきますので、続編と言うことになるのかな。←語尾が微妙な表現。
 石動戯作が、ベンチャー企業の社長大生部暁彦に午前0時という非常識な時間に呼び出されて依頼された事とは、九世紀に大陸に渡った日本の僧侶、円載の秘宝の探索であった。石動はアントニオを助手に九州阿久浜に飛ぶ。一方、福岡では男性が絞殺される事件の調査が行われていた。被害者の名前は榊原隆一となっているのだが、身元を証明するモノがいっさいなく、部屋の中のあらゆる場所が指紋を消すためにかふき取ってあったのだ。名前は、部屋を借りた際の契約書から割り出したモノだったのだが…。
 という事で、蘊蓄系の情報も織り込んで楽しませながら展開する新本格風味だったのですが…。いや、これはある意味スゴイね。しっかりとミステリの枠を押さえて、その上で【クトゥルーモノでさらに弥勒戦争的幻魔大戦前哨戦】とはッ!。ともすれば安っぽくなってしまう所を(栗本薫とか好きそうだなぁ)、堅目の情報でうまくまとめています。
 ミステリの枠を押さえてあり、リーダビリティも高く、なんでその上で?と思わないでもないが、それこそが、ポスト新本格なんだなぁと。俺的には、新本格てのは本格の枠を認識した上での本格指向で、だからこそ、(枠を認識してしまった故に)その後にはメタ化が来るという感じ。ミステリ自体が、意外な犯人を当てるという驚きの構造である上で、その構造自体が古びてしまいそれだけでは新鮮な驚きはなくなってしまっている以上、(それがつまらないと言っているのではなく)それを揺さぶるアンチ本格とかメタ本格指向のミステリが出るのも当然の流れなんだろう。
 けど、俺的には十分楽しめたけど、ミステリ好きにとってはどうなんだろう? ある意味、山田正紀好きならお薦めできます。そういえば本作は「神曲法廷」風味。山田正紀もそういやSFプロパーだった人でした、そういえば。あと上げるなら「七回死んだ男」の西澤保彦ですかね。


◆「黒い仏」の注文 (bk1)


◆2/25(日)読了。「地球環」堀晃(ハルキ文庫) - 01/02/27 14:47:49

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◆2/25(日)読了。「地球環」堀晃(ハルキ文庫)
 短編集。短編下手な俺はけっこう時間を掛けて読了。現在、堀晃の作品がほぼ絶版という状態にあって貴重な新刊。俺は「太陽風交点」「恐怖省」は既読なので、情報サイボーグモノだけを新たに編み直した当短編集では、何編か読んだモノも入っています。
 収録は以下の十二篇

「恐怖省」(『恐怖省』収録)
「地球環」(『梅田地下オデッセイ』収録)
「最後の接触」(『太陽風交点』収録)
「骨折星雲」(『梅田地下オデッセイ』収録)
「宇宙猿の手」(『梅田地下オデッセイ』収録)
「猫の空洞」(『梅田地下オデッセイ』収録)
「蒼ざめた星の馬」(『恐怖省』収録)
「過去への声」(『恐怖省』収録)
「宇宙葬の夜」(『恐怖省』収録)
「虚空の噴水」(単行本未収録『日本SFの大逆襲!』徳間書店)
「柔らかい闇」(単行本未収録『SFJapan』第一号)
「バビロニア・ウェーブ」(単行本未収録『SFマガジン』77年10月号)
 書かれてから20年近く経とうが、そのセンス・オブ・ワンダーは健在。人間間のドラマがない形でオオバコモノが書かれるSFって日本では堀晃しかないんじゃないかなんて思いました。とにかく巨大セット的SFってのは日本ではあまりないですね。小松左京ぐらい?(日本人SFは俺の薄いところではあるので他にもいろいろとあるのかもしれませんが(^_^;))。最初の二作以外は、情報サイボーグを運ぶ宇宙船パイロットによる視点で、情報サイボーグが宇宙に出てまで求めているモノ・謎を見届けるという枠組みで語られる。途中からはパターン的にもなってしまうのですが、これはまぁ様式美という事で。シリーズ的に組み直した短編集の、逆に仕方ないところではあるのかなぁ。
 俺的に好みなのは「蒼ざめた馬の星」ですね。老人となった情報サイボーグが見たものと、彼の遺物を引き取る情報サイボーグの未来の対比、そして、明かされる秘密と後進の目的と誇り。ビシっと見栄が気持ち良い。「バビロニア・ウェーブ」も壮大なプロローグという感じでよかった。これって長編があるようですが、読んでみたいなぁ。きっと手に入らないんだろうなぁと思いつつ。ハルキ文庫で復刊されないのでしょうか? ハルキ文庫と言えば2月の新刊案内に「梅田地下オデッセイ2001」(堀晃)ってのがあがっていて「おおっ!」と思ったのですが、出てないみたいですね。いや、でも、きっと近刊予定のハズ。という事でいろいろと期待です。
 また、本書は<情報サイボーグ>シリーズでまとめられたものだが、過去に<トリニティ>シリーズでまとめられた短編集「遺跡の声」(アスペクトノベルズ)というのが96年12月に刊行していた模様。これも手に入らないんだろうなぁ。てか、こちらも復刊希望ということで。
 ついでに解説の日下三蔵氏の言っている通り、上記二つのシリーズに含まれない作品短編集をだしてもらえれば、単行本復刊ならずとも新刊で全部フォロー出来ようになるのになぁ。←とりあえず、言っとけ言っとけ。(笑)。
◆「地球環」の注文 (bk1)


◆2/9(金)読了。「NOVEL21 少年の時間」(デュアル文庫) - 01/02/22 23:49:51

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◆2/9(金)読了。「NOVEL21 少年の時間」(デュアル文庫)
 徳間デュアル文庫の企画による、書き下ろしアンソロジー。なかなかそうそうたる顔ぶれです。次に出る「少女の空間」というアンソロジーと対をなす予定という。
「鉄仮面をめぐる論議」上遠野浩平…マイスター・スタースクレイバーの特異な体質とは?外宇宙から人類を攻撃してくる虚空牙が登場する、一連の未来史の中の一遍。(既読は、「冥王と獣のダンス」「ぼくらは虚空に夜を視る」). 作りとしては、昔語りということでちょっと拍子抜け。というか、未来史に入れるには設定がはずれたところがあるなぁ。上遠野浩平はこの未来史でいくんでしょうか? 悪くはないけど俺的にはブギーの様な求心性はあまりないシリーズになってるなぁ。特異な体質つながりの黄金の卵を産むガチョウの話はアシモフの短編ですな。
「夜を駆けるドギー」菅 浩江…ネット社会はちょっとした探求でアングラ情報にも繋がっていく。そんな中で少年少女たちは何をみるのか? コープスというハンドルの主人公は、家庭にも学校にも社会にもすべてにうんざりしていた。自分自身がすべてに失望していることを知っていた。匿名掲示板につくレスのように自分の問いかけに自分で返す「オマエモナー」「逝ってよし」。そんなある日ネットの知り合いに「どきどきドギー」という犬のロボットぺっとをすすめられ、かわいがるようになった。さrにはHPを開いて他の飼い主と交流するようになるのだが…。このアンソロジーの中で俺的ベスト。匿名掲示板の定型句を読んで思わずニヤリとなる時代性と普遍的な物語性の質は高い。主人公の影とも言うべきHANZという構造が深みを与えていると思う。
「テロルの創世」平山夢明…昭和初期を思わせるような村に少年は住んでいた。両親に慈しまれながらも、この村にはギクシャクとした不整合があった。それはある一定の年齢に達したときに彼らに語られる。自分たちが【】だったのだと。少年は級友であった少女と自分とに降りかかった出来事から町を出、世界を、そして【少女の影】を知るために旅に出る。これまた面白かった作品。閉鎖社会から出た少年による世界発見(そして自分発見)というのは定番的な手法ではあるが、その世界の作りにS.O.Wを感じました。これはプロローグだよなぁ。是非とも続きを読みたい。
「蓼喰う虫」杉本 蓮…「KI.DO.U」の作者による短編。宇宙船の航行による卒業検定試験中にありえない事故が起きた。謎の惑星に降り立った青年たちだが、そこの惑星には不可思議なところがあった。乗務員は自分の望む風景が現前している事を知る。うーん。何かの短編で読んだような。まぁバリエーションとしては許されるレベルかなぁ。俺の好みでは無かったというだけの話かもしれないけれども。
「ぼくが彼女にしたこと」西澤保彦…主人公は家が引っ越しをする前に近所に住んでいたお姉さんに偶然で会う。もうあれから何年も経っており彼女は大人の女性となっていた。おもわず後を付けてしまった彼は、その後執拗に彼女をストークするようになる。そこで見てしまったものと、彼の身に起こった事件とは? SF設定の新本格な人の短編ということで、期待したのだが、オーソドックスな普通のミステリ風小説でした。もしかしたら俺が読み切れていないせいかもしれないんですが。 「ゼリービーンズの日々」山田正紀…「愛育条」が施行された社会で、若者たちは戦々恐々と日々を過ごしていた。そんななかで極度の引きこもりと判定された少年たちは、現実の奥にあるものを見ていた。…現代版ドラッグ系ファンタジーかなぁ。「アイスブルーの日には道路を右に曲がらない。ビビッドオレンジの日にはフレンチトーストを食べる。ディビーグレイの日には傘を持って出る。チタニウムホワイトの日には机の上を整理する。ゴールデンブラウンの日にはドラゴンを退治する…」。ゼリービーンズの色で織りなす非日常的世界の提示。ジュブナイルっぽい作品だとは思いました。昔読んだコバルトのSFアンソロジーみたい。
 全体としてなかなか良いアンソロジー。次巻も楽しみです。


◆「NOVEL21 少年の時間」の注文 (bk1)


◆1/26(金)読了。「風水街都 香港 (上・下)」川上 稔(電撃文庫) - 01/02/02 16:58:10

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◆1/26(金)読了。「風水街都 香港 (上・下)」川上 稔(電撃文庫)
 <都市シリーズ>の第三作。独自の世界原理を適用したそれぞれの都市を舞台に行われる冒険活劇のシリーズです。第一作目「パンツァーポリス1935」の<伯林ベルリン>、第二作目「エアリアルシティ」の<倫敦ロンドン>と来て、今回は<香港ホンコン>です。そして本作の世界観的は「エアリアルシティ」の倫敦と歴史も共有してあり姉妹編という感じか。
 香港では忌むべきものとされる天使とのハーフ、匪天ナイン・アンゲルのアキラは、香港商店師団ヤードに勤めていた。かわいい容姿に似合わず風水チューンの扱いは天才級、神形具デヴァイスを媒介に楽府式首聯ワンドアップで百二十万詞階オクターブ遺伝詞ライブを扱う風水師チューナーとしての力を持っていたのだが、彼女の過去には香港の歴史にも関わる大きな傷が存在した。
 香港返還が間近に迫った折り、アキラは、香港一の風水師チューナーと謳われたジェイガンの死に遭遇する。不穏な空気は何の予兆なのか? そこへ現われた、この世界で風水に対してのもう一つの大きな力=五行バストを操る飄々とした青年ガンマル。彼と出会う事で、香港の歴史にまつわる未曾有の運命の歯車は、どう回り始めるのか。香港に昔から伝わる「飛翔歌ひしょうか」は何を意味するのか? 第一次神罰戦によって作られた香港洞の謎とは? 新たな第六次神罰戦は防げるのか?
 という事で独自の語彙とか世界観は健在。ただ、作品内で語られない設定が多すぎるのも健在。俺的には物語に上手くノリたかったのだが、いくつかの点でちと引っかかってしまったところがあった。
 それは過去の作品で思っていた不満な点と同じような箇所ではあるのだが、前作までは一巻というボリュームであったので作品の勢いとノリで読み切ってしまえていた箇所が、長くなった分、「そもそも天使ってなによ?」とか「倫敦は綴じられた本という世界だったが(一話ずつ独立していないとするなら)どう繋がっているのか?」とかがどうしても読んできて引っかかってしまった。シリーズなので、現在は語られない世界原理とか人種設定とかは後に物語れることになるのかもしれないけれども。
 そういう意味で、「この世界」ではどこまでが許されているのか、それが語られていないために物語の中でどこまでが許容されているのかが分からず、来るイベント来るイベントが唐突にも感じられてしまうことも難点か。
 あと作中で語れている期間が長いために、じゃあ次の日はどうなるのかと思っていると次の章でイキナリ一週間とか飛んでしまうのもちと納得がいかなかったり。
 そこの部分を除けば(あまり気にすることのない人なら)、むしろアニメ・マンガ的なノリで(ルビ部分なんかまさにそうだと思うし、挿し絵もそんな読ませ方を狙っているので)読んで楽しめると思う。
 物語としては、【実はその時々の状況だけが語られていて、香港の歴史にかかわる人物たちの関わり+干渉された歴史の仕組みが故意(?)に語られていなかったりするのだが、】これは、(あとがきでフォローされているように)俺的にはまぁシリーズとして許容しましょう(というか様子見)というスタンス。そこら辺この物語の中でクローズして欲しいと思うんだけどね。期待感はあるのだが、ちと肩すかしを食らわされた感じ。箱庭はつくったんでそれをネタに遊べる人向けだよという本の作りではあると思う。きっちり描ききってくれているなら三つ星でもよかったのだけれども。

 ・1/30(火)「フラッシュ・フォワード」(ソウヤー)読了。
 ・「祈りの海」(イーガン)読中。


◆「風水街都 香港 上」を注文(bk1)


◆1/30(火)読了。「ボイド ――星の方舟」フラクン・ハーバート(小学館) - 01/01/30 14:24:49

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◆1/30(火)読了。「ボイド ――星の方舟」フラクン・ハーバート(小学館)
 「砂の惑星」シリーズ、<ジャンプドア>シリーズの「鞭打たれる惑星」「ドサディ実験星」で有名なハーバートの作品。読みたくても絶版で手に入らなかった<ジャンプドア>シリーズについては、去年、創元SF文庫からめでたく復刊しております。(ジャンプドア続編の邦訳は…無理かなぁ…)
 <砂の惑星>シリーズはハマりましたし、<ジャンプドア>も堪能しました。そんなハーバートの作品が他にも邦訳されているという事で購入。小学館「地球人ライブラリー」より。
 タウ・ケチに向けて3000人を擁する移民船で航行を制御している<有機知能核>=O.M.Cが狂い、3人の要員が死んだ。残された3人は、一から人工知能を作り上げなければならない事になるのだが…。
 メインは、人工知能を作ろうとする過程の、意識とは何か?という議論であり、そういう意味では戯曲的な作り。伏線的な地球のバックグラウンドや何故OMCが死んだのかとか乗員のそれぞれの秘密の使命などは語られない。意図を語らないままに権謀作術というのはハーバートの特徴なのだが、重きがストーリーにシフトしていないので、消化不良の感がつのる。
 1966年の作品だけに、作品内議論のテクニカルタームについてはやや古い感じも。かつページの脇に注はあるのだが、読み進みにくい。当時の人工知能・意識のテキスト的作りになっている。
 AIと密室の船内の緊迫感では、「2001年宇宙の旅」を彷彿とさせて雰囲気は良い。設定的には「レッドシフトランデブー」等も思い起こさせる。
 ただ前述した理由によりストーリ重視派には向かない。ハーバート信者、議論のやりとりを楽しめる人向けか。
 巻末に「関連ブックガイド」付き。


◆「ボイド ――星の方舟」を注文(bk1)


◆1/19(金)読了。「青の炎」貴志祐介(角川書店) - 01/01/23 17:26:37

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◆1/19(金)読了。「青の炎」貴志祐介(角川書店)
 ハードカヴァーなんですが一日半で読了。
 母子家庭ながら幸せに暮らしていた一家の元に、母の再婚相手で離婚後は行方も分からなくなっていた男がやってくる。男は家に居座り続け、明るかった家族に暗い影を落とす。飲んだくれては、ぷいと競馬場に入り浸り、戻ってきては金を要求し、あまつさえ妹に付きまとうとする。そんな男に秀一は秘かに殺意を抱く。
 ということで、「クリムゾンの迷宮」「黒い家」の貴志祐介です。前に読んだ「黒い家」の偏執的人間の悪意ってのが印象深かったので、こちらも、居座り続ける男の怖さ的な所にいくのかと思ったのだが、物語は、主人公の心の揺れと殺害計画にフォーカスしていく。
 さらに倒叙ミステリ的に話はすすむのだが、実は話のキモは、青春小説であったりします。何気ない学校生活の中の友人たち。淡い恋心とからかい混じりのアプローチ。その時期でしか存在しない青春の一コマ一コマが、計画殺人を決意した少年の前に流れていくのは、読了後ひたすら眩しく、そして痛い。
 17歳という年齢から、巷の殺人事件からみで読み解くことも出来るだろうが、――そして確かに、秀一はある種ゲーム的に殺人を計画していくのだが、それは知能の高い少年にありえるリアリティであるし、推理小説(パズル)的な展開を期待する読者と、ある意味同質だと言えると思う。それを実際に踏み出そうとする一歩は、いったい何が違うのか? 踏み出してしまった一歩は、戻ることは出来ず、加速して行く…。
 読了後思うのは、【なにが違ってしまっていたんだろう?という疑問。一つの結果が次の行動を後押しする中、あのラストは、友人を殺害してしまったときに秀一の中ではもう決められていたのかもしれない。家族のためにという意識故だったのきっかけすら、ラストでは、自らの安易な道と認識とした上で、ケリをつける行動に、少年のまっすぐさを見た。それ自身がこの道を選択せざる得ないものだったのかもしれないのだが。
 リーダビリティは高く、緊張感がとぎれることなく、読み手のページを繰る手をせかす。お薦めです。
 青春小説という事では、「ビフォア・ラン」(重松清)を思い出したりして。また、「盤上の敵」(北村薫)と読み比べるのもいいかもしれない。


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◆12/7(木)読了。「伝説は永遠に ファンタジイの殿堂 1」ロバート・シルヴァーバーグ編(早川文庫FT) - 01/01/22 20:43:57

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◆12/7(木)読了。「伝説は永遠に ファンタジイの殿堂 1」ロバート・シルヴァーバーグ編(早川文庫FT)
 時期的には「SFの殿堂」(シルヴァーバーグ編)と同時期に早川書房から文庫で刊行された、こちらも同じく有名ファンタジーシリーズの外伝を集めたアンソロジー。この巻では、俺はキングの作品シリーズが未読。最近ファンタジーからは遠ざかっていたのだが、結果的には、結構読んでましたね。まぁそれぞれが息の長いシリーズであるって事ですかね。
「エルーリアの修道女」スティーヴン・キング…<ガン・スリンガー>シリーズ。この中では唯一読んでないシリーズです。あまり聞いたことがないのですが、今からの当シリーズのフォローってのは多分入手が難しいがします。それでこちらは、塔の探索の中での一エピソード。村人のいない奇妙な村。そして残されたメダル。ガン・スリンガーはそれを調べている最中にアンデッドに襲われる。次に気がついたのはベッドの上。若いシスターと3人の老婆が介護されていたのだが…。なんかオーソドックスな話だけに懐かしい雰囲気も。<プリデイン物語>シリーズも三人の老婆とか出てきて、こんな感じだったなぁ。「ブリジンガメンの魔法の釜」(だっけ?)とか。
「第七の神殿」ロバート・シルヴァーバーグ…<マジプール年代記>シリーズ。これってファンタジーだったんでしてっけ? しかし懐かしい。このシリーズを読んだのは邦訳されてすぐの高校時代だったかな。すっかり話の方は忘れていますが(^_^;)。王道ではあるので、本棚から見つかれば読み返してみたいと一瞬思いました。話の方は、マジプールに復権した主人公が、<変化>の遺跡で起こった殺人事件を調査するが、マジプールでは殺人はタブーとされており…。
「笑う男」オースン・スコット・カード… <アルヴィン・メイカー>シリーズ。本編の方は年1ペースで2巻までは邦訳されたのですが、角川なので次の巻が訳されるかどうか不安だったり。ちなみに全五巻。話の方は、邦訳された2巻目からはかなり先の話しとなっていて、アルヴィンには弟子はいるし、熊やら笑う男やら、なにやら寓話的な基調の一エピソード。この物語性かを支配しているルールが分からないまま話が進むので、俺的には消化不良に。
「薪運びの少年」レイモンド・E・フィースト…<リフトウォー・サーガ>シリーズ。これまた懐かしい。第一巻を読んだのは中学時代。それから忘れた頃に続編がでて、三部作としては完結し、人気が追いついたようで外伝とかも出ている模様。で、話は帝国が攻めてきたある村の話。占領された村長のお屋敷も日々の生活の中で落ち着いて来たように見えたが…。薪運びの少年が見た、彼が淡く恋するお屋敷の娘の行為とは? そして彼に訪れる運命の決断は?
 この「ファンタジーの殿堂」、2巻以降も購入しているんですが、ちと積読中。


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◆1/17(水)読了。「<新・銀河帝国興亡史2> ファウンデーションと混沌」グレッグ・ベア(早川書房) - 01/01/19 16:35:16

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◆1/17(水)読了。「<新・銀河帝国興亡史2> ファウンデーションと混沌」グレッグ・ベア(早川書房)
 なんと通勤読書なのに二日で読了です。去年の5月に読んだ<新・銀河帝国興亡史>三部作の第一部「ファウンデーションの危機」に続く二作目。最新邦訳。
 前作「ファウンデーションの危機」では、<ファウンデーション>シリーズの根幹をなす心理歴史学の基盤を築き上げた学者であるハリ・セルダンの、帝都トランターでの心理歴史学への取りかかり(そしてそれを取り巻く陰謀)が語られたのだが、この「ファウンデーションと混沌」では、それから三十数年後、壮年期のセルダンが、近い将来、秘密裁判での「帝国への反逆罪」で起訴されると予測されるX−DAYをフォーカスとして、各勢力が陰謀の中の陰謀を張り巡らす中、それぞれの勢力による未来への模索が語られる。
 マキャベリスト的権力闘争が盛んな帝国中枢で、またしてもセルダンはその触媒とされるのか? R.ダニール・オリヴァーの計画とは? 変質し三原則に束縛されなくなったというロボットは何を見出すのか? さらに精神感応能力を持つことになった人々は未来にどんな波紋を投げかけるのか? ダニールと袂を分けた【カルヴィン派のロボット】は何を計画するのか? 「ファウンデーションの危機」で発掘された模造人格の二人が果たす役割とは? それぞれの意図に基づく多くのグループはお互い干渉し、影響し合い、まさしく「混沌」と化し、”未来は先の見えないハイウェイ”となる中、「黄金の道」(ゴールデン・パス)を選択出来るのか?
 ダニール、セルダンといった面々、SFに親しみ始めた頃の、そして古典ともいえる当シリーズの、懐かしさ。思い出すセンス・オブ・ワンダー。シリーズならではの、前提を必要としない思考の深耕も楽しめるし、そんな残光だけではなく、そして<新>の名に相応しく、アシモフ未来史のブランクに光が当てた物語は、その後の歴史を既に<ファウンデーション>シリーズで知っているにも関わらずぐいぐいと引き込む。ブラウン運動のように様々な思惑とグループが乱れる中、任意の運動をラプラスの魔のよう歴史の中の一筋の光にどう転嫁するのか? カーテンコールは終わらない。
 アシモフの<ファンウンデーション>シリーズに耽溺した人は押さえておくべし。ってか面白いし。こういうSFが好きなんだな、俺は。堪能いたしました。
 昨日(1/18)の帰りからは「青い炎」(貴志祐介)を読中。

◆12/20読了。「遥かなる地平 SFの殿堂 2」ロバート・シルヴァーバーグ・編(早川SF文庫) - 01/01/16 20:04:17

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◆12/20読了。「遥かなる地平 SFの殿堂 2」ロバート・シルヴァーバーグ・編(早川SF文庫)
 有名なSFシリーズの外伝を集めた「SFの殿堂」の第二弾。もちろん「SFの殿堂1」もありますが手元になかったのでこちらから読み始めてしまいました。
 編者がシルヴァーバーグでして、存在する外伝を編纂した訳ではなく、外伝を書け!と言っていって作ったという(笑)。そんな訳で「何それ?」というような無名のシリーズはなく、すべて(俺的には)既読の馴染みのあるシリーズとなってます。いろいろと読んでいる人には美味しいアンソロジー。(このアンソロジーで収録されているシリーズを指針にこれから読むというのももちろんお薦めします)
 シリーズの内容を忘れている人も大丈夫。それぞれの章の冒頭で、作者自らのシリーズの抄録を語ってくれます。逆にネタバレにもなっているので各シリーズ未読の人は注意が必要。っていうか、未読のシリーズは読まずにとっておいて、そのシリーズから読んでください。それだけの価値のあるシリーズたちです。
「ヘリックスの孤児」ダン・シモンズ…<ハイペリオン>四部作の外伝。ちょうど「ハイペリオン」自体も文庫化されていいタイミングかな。文庫化してお薦めしやすくなったので周りには薦めまくってます。で、ダン・シモンズらしく、ハイペリオンシリーズ本編の面白さを損なうことのない位置に話を置いてあります。というか「ハイペリオン」「ハイペリオンの没落」「エンディミオン」「エンディミオンの没落」以降、新天地を目指す人類の星舟の話。大仕掛けなガジェットも用意されていて<ノウンシリーズ>的でありながら、しっかりとその後の世界・人物もバックグラウンドとして語られ、読者の好奇心も満たします。ラスト重層的な提示が壮大な物語の外伝に相応しく、さらなる冒険物語への欲求が募ります。
「いつまでも生きる少年」フレデリック・ポール…<ゲイトウェイ>シリーズの外伝。ゲイトウェイ公社に夢を託してヒーチー船に乗り込んだ少年は、その相対論的効果から<ゲイトウェイ>シリーズで語られる歴史と同じ時間を実際に生きて経験することになる…。
「無限への渇望」グレゴリイ・ベンフォード…<銀河の中心>シリーズ外伝。このシリーズは、銀河を舞台として、有機生命と無機生命の永劫の戦いを描いてますが、シリーズで物語られる未来史が時期的に飛んでいるのと、邦訳自体もとびとびで行われていたので、俺的には全体の印象のみで、それぞれの話の内容とか忘れてます。一番役に立ったのが、承前のシリーズ概史だったり(苦笑)。
「還る船」アン・マキャフリイ…<歌う舟>シリーズ。今シリーズでやくされているのは、アン・マキャフリィ原作というシェア・ワールド化してしまったものだが、第一作「歌う船」自体はマキャフリィが直接書いており、本編はその直接的な続編。ブローンを失い、帰途につく途中で、事件に巻き込まれるが、それは奇しくも以前救済を行った人々たちの惑星であった。
「ナイトランド」グレッグ・ベア…これは、何シリーズというんだろ?<永劫・久遠>のシリーズでいいのかな。壮大なセット(ゲート)の一変奏曲。これも読んだのはすごい昔で(多分15年ほど前)ストーリはうろ覚えですが。でもってこちらはシリーズを補強したり懐かしむというより、独立した一つの短編という風。てか、キュビズムSF(俺的命名)かなぁ。「宇宙SFコレクション1 スペースマン」収録のベイリー「空間の大海に帆をかける船」(ベイリー)を彷彿とさせます。そういえば「愛しき人類」のラストもそうだった(^_^;)。

◆1/12(金)読了。「模造世界」ダニエル・F・ガロイ(創元SF文庫) - 01/01/12 13:20:44

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◆1/12(金)読了。「模造世界」ダニエル・F・ガロイ(創元SF文庫)
 3〜4日で読了@通勤電車。
 主人公ダグラス・ホールは、現実を精巧に電子的にシュミレートする機械、シミュラクロン−3の開発に関わっていた。シミュラクロンー3は、社会環境を設定しバーチャルな人物を住まわせることで、世論調査を不要をするものであった。ある時、上司の技術監督ハノン・J・フラーが死亡し、自分が技術監督に抜擢されるが、ハノンの死因には疑問があった。ハノンから残されたメモにはゼノンの絵が描かれていたのだが…。折しも、世論調査活動が活発な社会で、そのシミュレーターの出現で世論調査活動を根底に置く社会的力が圧力を掛けてきた。
 と言うことで、1964年の作品としてはなかなか楽しめる良作。イメージ的には映画なら「マトリックス」、SFなら、まんま「フェッセンデンの宇宙」とか「量子宇宙干渉機」ホーガン、そして「模造記憶」などのディックの虚構による現実浸食を彷彿とさせます。モダンにした形として、イーガンあたりも思い起こせるかも。特に、本筋ではない箇所で唐突にサイ能力者の存在が社会基盤にある事がわかったりしてディックぽく、俺的には、古さは感じるが(そして展開も先読みできる範囲であるが)それなりに楽しめました。
 ちなみに映画「13F」の原作。というか映画化により邦訳が出たという所。
 ところで、年末にちとHomePageをいりじました。今、ISPに分散させて置いてあるのでそのうち統合したいなぁ。また年末は本も読んでるんですが、整理できてません(^_^;)。忘れないうちにメモを残さないとなぁ。



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