理研/NASDA 地震フロンティア研究中間評価比較
地震フロンティア研究とは?

理化学研究所宇宙開発事業団(NASDA)
地震国際フロンティア研究(IFREQ)
中間評価報告書
平成12年2月21〜22日

1.序

 理化学研究所理事長小林俊一博士の要請に応え、外部評価委員会は理研地震国際フロンティア研究計画(IFREQ)の評価を行った。以下は小林博士への委員会報告である。

 本委員会は以下の項目に関してIFREQ計画を評価する事を要請された。

1.プロジェクト(平成8年10月〜平成13年9月)の評価
 (1)目的
 (2)研究活動
 (3)主要成果
2.提案計画(平成13年10月〜 )の評価
 (1)提案の独創性
 (2)学会および社会への期待されるインパクト
 (3)提案計画の妥当性

2.委員会構成および現地視察日程

2−1. 評価委員会の構成
委員会参加メンバー
Antony C. Fraser-Smith スタンフォード大学 電気工学および地球物理学、
            宇宙、通信および電波科学研究所 教授
福西 浩        東北大学大学院理学系研究科地球物理学専攻教授
            理学部付属地磁気観測所長
金森博雄(委員長)   カリフォルニア工科大学地震研究所教授
久城育夫        東京大学名誉教授
森 俊雄        気象庁 地震火山部長
Gennnadi A. Sobolev   ロシア科学アカデミー地球物理研究所
            自然災害および地震活動部長

文書評価メンバー
大槻義彦        早稲田大学理工学部物理学科教授


2−2. 現地視察日程
2月21日 (月)
  午前        自己紹介
            IFREQ 研究員による発表
            施設見学
  午後        IFREQ 研究員による発表
            評価委員のみの会合
2月22日 (火)
  午前        評価委員のみの会合
            IFREQ 研究員による発表
            質疑応答
            評価委員からのコメント
  午後        評価委員長より丸山フロンティア研究システム長
            への非公式口答報告
            報告書草稿準備(翌2月23日(水)まで延長)


3.IFREQ計画の評価

要約
 理研国際地震フロンティア研究計画(IFREQ)は、地震に関連する電磁気的過程の物理機構を理解し科学的地震予知に役立てる目的で、広い周波数領域での電磁現象を研究する意欲的計画である。ギリシャの研究者グループは地電位シグナルと地震との関係を研究し地震予知の1方法を開発したが、その方法は主として経験的なもので物理機構は十分明確とはいえない。電磁的手法の物理的基礎の解明、社会的有用性、並びに本計画開始以来IFREQグループによってなされた重要な進歩からみて、委員会は本計画の第2期への継続を強く提言する。

3−1.序論
 この理研国際地震フロンティア研究計画(IFREQ)評価は、理研IFREQグループの準備した資料(以下、IFREQ文書と略称)、現地視察、委員会メンバーからの文書レビュー、現地視察中におこなわれた委員会での討論に基づくものである。
 IFREQグループによって準備されたIFREQ文書は膨大かつ有益なもので、非常にレビュー作業に役立った。委員会は、この文書作成にあたってのIFREQグループの異例の努力を高く評価し称賛する。
 本研究計画は、IFREQプロジェクトチームが地震に関連する電磁気的過程の物理機構を理解し科学的地震予知に役立てる目的で、広い周波数領域での電磁現象を研究せんとする意欲的計画である。すなわち大地震の前に生起するであろう電磁現象(前兆現象)の物理学を基礎に未来の地震活動を予知せんとするものである。本報告書およびIFREQ文書では”前兆現象”、”地震予知”などの言葉はこのような科学的な意味で用いられている。この点については、末尾の付録で補足説明する。

3−2.現行計画(平成8年10月〜平成13年9月)の評価
(1)目的
 本プロジェクトには二つの目的が提示されている。第1目的は地震発生をもたらす物理・化学過程に関わる広い周波数領域での電磁現象、なかんずくDC〜超低周波領域での電磁現象の理解である。この過程は現在まだよく理解されていない。
 最近ギリシャの研究グループ(VAN)はギリシャでの地震を予知するのに電気的方法を用いている。VAN法の予知は、彼らの観測と経験(すなわち経験則)に基づいており、真剣な科学的研究に値する興味深いものである。しかし、その方法については論争があり、IFREQの採り上げる研究対象が必然的にVAN法と密接に関わることから、IFREQそのものに批判的態度をもつ研究者もいる。
 この論争はVAN法による予知の成功が大多数の研究者にとって明白になるか、現象の物理機構が解明されてこの方法の成否がしかるべき厳密な物理学・化学の枠組みで説明されるようになるまで続くであろう。IFREQ計画はその枠組みの樹立を目指しているがゆえに重要なのである。
 地震関連の電磁現象については数多くの機構が示唆されている。たとえば、ある種の電気的シグナルは地殻内での流体の運動の現れであると信じられている。少なくともある場合には、地殻内での流体運動は地殻の強度減少の原因となり地震を発生させるであろう。電磁シグナルは地震発生をもたらすストレス変化の結果であるかも知れない。観測されるシグナルの真の原因を理解することは関係学界にとってきわめて重要である。
 本プロジェクトの第2の目的は電磁シグナルを地震の科学的予知に利用する事である。地震の発生場所、発生時、およびマグニチュードの科学的予知は地震学の重要目標である。この意味でIFREQプロジェクトは明瞭な社会的意義をもつ。しかし、電磁気的前兆現象の検出が直ちに実用的短期地震予知をもたらすというのは尚早である。
 電磁信号を観測し理解することと地震を正確に予知することとは同義ではない。地震発生は単一の原因にではなく、多くの相互に絡み合った原因に支配されると広く信ぜられている。したがって、電磁シグナルの物理が完全に理解されたとしても、正確な地震予知は困難であろう。にもかかわらず、もしその機構が十分理解され、連続観測が行われれば、破壊が差し迫っているかという見地からの地殻の状態を推定することは可能であろう。
 今後の日本における地震災害軽減計画がこのような広域的情報を利用しようとするならば、本プロジェクトは地震災害軽減のための有用な方法論を提供する潜在能力を持っている。この意味で本プロジェクトには社会的重要性がある。
 現在、この主題についてIFREQ計画の規模で研究プロジェクトを進めている国は他にはない。地震災害軽減のための潜在的重要性、人的資源、インフラストラクチャーの存在を考えるならば、日本がこの種の先端的研究を行うのは当を得ている。 もし、日本がこの研究を行わなければ、世界のどこでも行われないだろう。
 日本は高度の地震危険度で知られ、多くの原子力発電所や化学工場の存在は、巨大地震ではなくても重大なエコロジカル危機をともなうきわめて危険なものとなるだろう。本研究を日本で行うことの利点は、全国的に高い地震活動度のゆえに統計的に有意な成果が短時日に得られるであろうことである。 高い人工ノイズレベルにもかかわらず、日本で有意な成果が得られれば、その技術は諸外国に移転され、さらに研究が進むだろう。

(2)研究活動
 本計画のための施設は質的に十分高度のものであると思われ、研究に従事するスタッフの旺盛な研究意欲はきわめて印象的である。上田誠也教授、長尾年恭教授、服部克巳博士のリーダーシップのもとでのIFREQグループは本研究を遂行する能力があると認められる。この旺盛な研究意欲と知的活性を維持することが重要である。
 IFREQスタッフはこの意欲的なプロジェクトに取り組むにあたってきわめて積極的であり、本研究の科学的、技術的作業遂行のための広汎な経験を獲得している。彼らの研究上の一つの重要な問題点はノイズ、特に日本での人工ノイズ、の除去である。ニューラルネットワーク技術は電磁シグナルに含まれる人工ノイズの軽減に効果的である。IFREQ文書では人工ノイズ除去に関して詳しく論じられているが、IFREQグループはギリシャで開発された方法を採用したり、離島に観測点を設置するなどして、問題の困難さは依然残るとはいえ、着実な進歩をなしてきた。IFREQプロジェクトはこの方面に興味を有する研究者の間では国際的にも広く知られている。
 IFREQスタッフが地球科学の他の分野、たとえば地質学、地震学など、の国内、国外の研究者、研究グループとの交流を持続することは重要である。かかる交流は電磁気的異常と地震活動、地殻変動、地下水位、地球化学特性などとの関係を明らかにするのに有効であろう。
 既に設置された広汎な観測ネットワークおよびスタッフの旺盛な研究意欲をもってすれば、本プロジェクトが地震破壊に関連する電磁シグナルの発生の鍵をにぎるメカニズムを明らかにする可能性は高い。
 IFREQグループはすでにマグニチュード4.5以上の数個の地震前に一時的な電磁シグナルを観測している。ほとんどすべての場合、シグナルは短基線、長基線のいずれにも同時に記録され、電極近傍の影響である可能性は相当程度最小化されている。
 要約すれば、委員会は
(1)観測点を良好な状態に維持し、(2)ノイズ除去の有効手段を開発し、(3)地震と電磁シグナルの相関の観測事例を蓄積し、同時並行して(4)地震関連電磁気過程の物理についての活発な理論的研究を続行する、という研究戦略はIFREQ計画の当初の目標を達成するのに十分有効であると確信するものである。

(3)主要成果
 IFREQグループは42点の観測点を設置し、効果的かつ高信頼度のテレメーターネットワークを作り上げた。ディジタル方式によるデータの記録、センターへの転送を行うこのシステムは有効であり、すでに多量の電磁データが蓄積されている。プロジェクト開始以来の時日が比較的短かいこと、および広い地域に観測点を設置することの困難さを考えるならば、これは注目すべき成果であると委員会は評価する。<彼らはまた、多くの日本および諸外国の研究グループとの広汎な共同研究プロジェクトを確立し、多数のDCおよび超低周波(ULF:5ヘルツ以下)データの解析を行った。
 本プロジェクトの成果については40篇以上の学術論文が国際査読誌に発表されている。これらの論文は本プロジェクトの現状を反映するもので、その中のいくつかは画期的重要論文である。特にそれらの論文ではマグニチュード4.5以上の多くの地震前に電磁シグナルが出現したことを報じている。
 この種のプロジェクトでは、真のブレークスルーを達成するには観測点近傍での多数の中程度ないし大規模地震発生に遭遇することが必須であるが、本プロジェクト期間中にはまだそのような大地震は発生していない。 この点は自然現象を対象とする実験に特徴的な事実であり、この種のプロジェクトの進展を評価にあたって留意すべきである。必要な観測結果を蓄積するには時間を必要とするのである。

3−3. 提案計画(平成13年〜)の評価
(1)提案の独創性
 提示されたマスタープランは明確かつ首尾一貫している。プロジェクトの主な焦点はDC/ULFシグナルの物理機構の解明である。電気的手法はすでにギリシャのグループによって大々的に研究されてきているが(VAN法)、その方法は広く受け入れられてはいない。それは、彼らの発表手続きに問題点があるのに加えて、物理機構が不明確だからである。VANグループが得てきた結果の大部分は経験的なものである。
 これはプロジェクトの初段階ではやむを得ないことだが、経験的手法だけでは明らかに多数のメカニズムの関与する過程の理解を得るには不十分である。IFREQ計画の独創性は広い周波数領域にわたる有望な電磁気的方法を広く取り扱い、その成果を信頼度の高い方式で提示し、われわれが電磁気的方法が地震の科学的予知に有効であるかを判断できるようにせんとする意図にある。IFREQグループは測定装置の設置、データ解析、国際協力の面で野心的計画をもっている。沈み込み帯での巨大地震の予想震源近傍海底での極度に人工ノイズの低い環境における観測計画は特に独創性が高い。電磁シグナルの到来方向決定のための信頼性の高い技術の開発も また独創的要素である。
 多くの研究者によって激しく論議されてきた主題についての研究をすすめるという点でもこのプロジェクトはユニークである。多数の研究者がこの問題に関心を示したが、研究費獲得の困難のためIFREQプロジェクトの規模での研究をしているものは他に例をみない。
 委員会はこの野心的ではあるが、論争のまととなっているプロジェクトをサポートする資金援助当局の独創性にも感銘を受けるものである。

(2)学界および社会への期待されるインパクト
 もし地震過程での電磁シグナル発生機構が解明され、電磁シグナルが真に地震破壊への過程(たとえば流体による弱化)と関連するものならば、その成果は地殻がどの程度破壊に近い状態にあるかを診断する上での重要な手段を提供することになろう。
 究極的に地震予知の科学的方法の基礎となるのは、その診断なのである。学問的には、それは破壊過程の基本、地殻内のストレス状態を理解する上で大きなインパクトをもたらすだろう。後者は他の多くの地球物理関連問題にも広汎な関わりを持つ。
 このプロジェクトで取得されたすべてのデータが日本および外国の研究者、学生の利用のためにに管理・保管されれば、前兆現象研究のためにさらに有効となるだろう。マグニチュード6以上の地震に関する高質の電磁データは少ないので、それらを詳しく研究すれば科学的地震予知の研究はさらに進むであろう。
 IFREQプロジェクトが地震関連電磁気現象の物理学解明に多大の進歩を成し遂げるということが本質的に重要である。もし第2期の終了時にIFREQ研究の成果が依然として本質的に経験的にとどまるならば、このプロジェクトのインパクトはごく限られたものとなろう。

(3)提案計画の妥当性
 IFREQ文書に示された計画は研究目的に対して妥当なものである。 物理機構解明の重要性という見地からは高精度の能動的地殻電磁探査を強調することが大切である。これを実現するために、委員会はIFREQグループがCA(Conductivity Anomaly)グループ、ACROSS (Accurately Controlled Routinely Operated Signal system)グループと緊密に連携することを推奨する。時間および周波数ドメイン探査、並びに自然電場を用いる諸手法はこの目的のために有用であろう。
 IFREQグループ自身がIFREQ文書の末尾で述べているとおり、この計画が第2期の終了時に”実用的地震予知”に到達すると期待するのは早計である。地震のような自然現象を研究するには長期的研究が特に必要である。しかしながら、長期的研究がなされるならば、多くの研究者(IFREQ研究者を含む)によってすでに得られている有望な成果からみて、地震活動を種々の時間スケール(短期、中期、長期など)で科学的に予知する方法が開発されるという可能性について、本委員会は楽観的である。

3−4 委員会提言
一般的提言
 委員会はIFREQ プロジェクト第2期への資金援助を強く提言する。本プロジェクトが、ネットワーク内で少なくとも数個の中程度大地震もしくは大地震が記録され、良好な観測事例が達成さえるまで継続されることが最も重要である。もし、プロジェクトがその前に中止されれば、すでに本プロジェクトに投入されたすべての努力と資金は無駄となるであろう。
 上田誠也教授のリーダーシップのもと、若い熱心な研究者達は活発にこのプロジェクトのために働いている。彼らの大部分は地震学以外の種々の分野からこのプロジェクトに参加したものだが、現在では地震関係科学研究に十分の経験を持っている。
 委員会は本プロジェクトの第2期での研究は、基本的には現在とおなじ研究チームによって遂行されるのが最上策であると信ずるものである。
 当然なすべきことはまず現存の観測点を良好な状態に維持することである。現在まで、IFREQチームは観測ネットワークの設立に優れた働きをなしてきた。しかし、データ解析、シミュレーション、および理論的研究においては、今まで以上に地質学者、地震学者、超高層物理学者、物理学者、化学者などとの協力を進めることを強く奨励する。また、人工衛星データのような既存データの解析も重要であろう。
 多くの研究(IFREQプロジェクトを含む)から明らかにされた諸過程の複雑さを理解するためには、強力な理論的背景や広汎な地球物理学上の経験をもつ創造性豊かな研究者をスタッフに加えることはIFREQプロジェクトにとって有用であろう。
 純粋に科学的側面に加えて、IFREQプロジェクトの目標の一つは地震災害軽減における役割を探ることである。したがって、この研究の成果(その不確かさを含めて)をいかにして社会的目的に役立てることができるかという問題に取り組むことも重要である。そのような研究なしには、このプロジェクトの成果は地震災害軽減には有効に利用されないだろう。

具体的項目に関する提言
 委員会は以下の通り具体的項目について提言する。ただし、実行にあたってはIFREQグループの規模から、間口の広さと焦点の絞り方との間の適切なバランスが図られるべきであろう。どの項目が実行されるべきかの判断はプロジェクトリーダーの判断にゆだねられよう。

(1)定式化されたシグナル/ノイズ判別法のアルゴリズムおよびプログラムの開発
(2)ΔV/Lテストに加えての、背景ノイズと異常シグナル判別基準の定式化
(3)電磁測定に及ぼす雷の影響に関する研究
(4)電気的シグナル発生における流体の役割に関する総合的研究
(5)電気伝導度異常分布の決定
(6)物理過程全体の完全理解のための、少数地点での種々の地球物理学的パラメータ(たとえば地震波、地下ガス、ひずみ、地下水など)を測るための多種機器による観測
(7)大地震を捉える確率増大のための、海洋地域、特に地震活動の高い地域(たとえば硫黄島)および国外へのネットワークの拡大
(8)電極設置地域の岩石の組成、物理的性質の決定
(9)VAN法における選択規則を理解するための、人工制御源からの電気的、磁気的、力学的シグナルに対する諸観測点の感度の調査・研究

4.付録

 “予知”という用語は二つの異なる事柄を意味する。一般的用法では“地震予知”は高い信頼度をもって公的に発表される短期予知を意味し、それに基づいて危機対策(たとえば警報、住民避難 など)がとられる。 このタイプの予知にどの程度の信頼度が要求されるかは、正確には関係する地域の社会的・経済的条件に依存する。
 これに対して、科学的用法では、”予知”とはある物理システムの将来の動静についての言明である。その信頼度は関係する過程についての我々の理解のレベルに依存する。地震の基本的物理過程はかなりよく理解されているので、観測されたなにがしかの地球物理量およびその解釈に基づいてある地域の将来の地震活動に関して何らかの予知をすることは可能であろう。それは予知ではあるが、前述の一般的用法での予知とは区別されねばならない。なぜならこのタイプの予知には特定の信頼度が設定される必要がないからである。このタイプの予知を我々は”科学的予知”と呼ぶ、良き科学的予知は有用な実用的予知のために必要な前提条件である。
 “前兆現象”という用語もまた二つの異なる事柄を意味する。限定された用法では“前兆現象”は地震の前に常に発生する何らかの異常現象を意味する。地震の短期予知のためには、このタイプの前兆現象を発見することが望まれる。我々の知る限り、万人の認める前兆現象はまだ見つかってはいない。
 これに対して、“前兆現象”は大地震の前に起こるかもしれない異常現象という第2の意味でもしばしば使われる。 地震には破壊前の非線形準備過程が関わるのだから、このタイプの前兆現象を期待するのは合理的である。しかし、それは個々の地震の前に必ず発生するとは限らず、またそれが起こっても必ず大地震が起こるとは限らない。したがって、この場合には、その前兆現象は決定論的な地震予知に使うことはできない。にもかかわらず、それは科学的研究に値する興味深い物理現象であり、科学的予知を進歩させるのに役立てることはできる。
 研究者仲間での現在のコンセンサスは、個々の地震すべてに必ず出現する前兆現象はまだ発見されておらず、したがって高信頼度の予知法はまだ開発されてはいない。
 現時点では、“前兆現象”といい”予知”といい、第1の意味でのものは依然として研究段階であるというのが妥当であろう。 現段階での目標はどのタイプの前兆現象が認定され、どのタイプの予知が可能であるかを研究することである。
 本報告では、我々は“前兆現象”および“予知”を第2の意味、すなわち科学的な意味に限定して使用している。


Source: 地震国際フロンティア研究(IFREQ)中間評価報告書(4月27日公開)
地震リモートセンシングフロンティア研究」に関する中間評価報告書
平成12年3月
中間評価に関する評価委員会

1.はじめに

 本中間評価の対象となる「地震リモートセンシングフロンティア研究」は、科学技術庁が、地震に関し先端的な基礎研究を行うことを目的として推進する地震総合フロンティア研究のひとつとして、宇宙開発事業団が平成8年度から5年計画で実施しているものである。
 同研究は、地球観測衛星によるリモートセンシングが、定期的かつ広域にわたって地上を観測できるという特色を有すことに着目し、宇宙からの地球観測技術を地殻変動の把握及び地震に関連する電磁場変動の検出に応用する手法の可能性を探ることを目的としており、「SARインターフェロメトリ手法を用いた地殻変動研究」(研究チームリーダー:藤井直之招聘研究員(名古屋大学教授))及び「電磁場変動観測技術による固体地球科学研究」(研究チームリーダー:早川正士招聘研究員(電気通信大学教授))のふたつの研究により構成されている。
 地震リモートセンシングフロンティア研究は、平成12年度で今期の最終年度を迎え、平成13年度以降の研究のあり方を検討する必要があることから、本委員会は、「宇宙開発事業団における研究開発評価のための実施要領」に則り、「地震リモートセンシングフロンティア研究」について中間評価を行い、その結果をここにとりまとめた。

2.評価の目的

 本中間評価の対象である「地震リモートセンシングフロンティア研究」について、今期の研究目標の達成度を把握し、研究開発の進め方の見直し(継続、変更、中止等の決定)、研究資金・人材等の研究開発資源の再配分等の決定等に反映させることを目的とする。

3.評価の対象

 地震リモートセンシングフロンティア研究においては「SARインタフェロメトリ手法による地殻変動研究」及び「電磁場変動観測技術による固体地球科学研究」の二つの研究が実施されており、これらを中間評価の対象とする。

(1)SARインタフェロメトリ手法による地殻変動研究
 本委員会において説明を受けた本研究の主な内容は次の通りである。
・目的
 地表面の変動を、高精度・高分解能で広範囲にわたって検出・観測できるSAR(合成開口レーダー)インターフェロメトリ技術を適用し、地震発生及び火山噴火活動に伴う地表面変動を検出する可能性を探ること。
・アプローチ
 本研究においては、地震前後の変動解析を主眼とせず、SARインターフェロメトリ(干渉SAR)解析における誤差要因を、解析技術だけでなく測地学的見地からできる限り厳密に追求することが主眼とされ、以下のアプローチがとられている。
ア.衛星SARインターフェロメトリ解析における誤差要因分析(測地学的精度の確立を目指す)
イ.衛星データと地上観測データの取得(地殻変動、数値標高モデル(DEM)、地表状態、気象学的観測)
ウ.航空機リピートパス航法−SARインターフェロメトリの実用化の検討(小型航空機による急激な地殻変動の検出可能性)
・内容等
ア.衛星SARインターフェロメトリ解析における誤差要因分析
 火山性地殻変動の時系列的解析の可能性と誤差要因の特定が行われた。具体的には、平成10年に岩手山西方で観測された広域隆起活動に関して、北行と南行の2方向からデータが取得され、9月に発生した地震の断層面が詳細に特定された(図1)。また、広域隆起変動が発生した時期、圧力源の位置及び体積変化が推定され、これが地震発生のトリガーとなった可能性が指摘された。
 更に、群発地震活動に伴ってマグマが開口割れ目に貫入したことが示俊されている伊豆半島東部の地殻変動について、SARインターフェロメトリ解析と水準・GPS・重力との比較などから、開口割れ目貫入モデルへの制約が与えられた(図2)。
イ.衛星データと地上観測データの取得
 SARインターフェロメトリ解析での測地学的精度を検証することを目的として、地上基準点とGPS観測等との結合、直接的視線距離の補正などのために、コーナーリフレクターによるSARの位相校正実験が、固定式コーナーリフレクターを用いて御前崎周辺で行われた。また、神津島では、GPS点における精密重力観測やSAR観測などの統合運用が試みられている。
ウ.航空機リピートパス航法 - SARインターフェロメトリの実用化の検討
 火山活動に伴う急激な変動に対して、今後必要不可欠な技術として、小型航空機SARインターフェロメトリ(Xバンド)による変動検出の可能性が追求された。対象地域に既存のコーナーリフレクターを設置または同定して、地上基準点とすることにより、小型航空機特有の動揺補正などがある程度可能となり、将来の実用化に対してある程度の目処が立った。
・今後の展開
 当面の活動としては、陸域観測技術衛星(ALOS)のデータ活用の準備として、過去のLバンドの干渉解析とCバンドデータによる同期地上実験観測を行うことが予定されている。その内、水蒸気の分布の補正方法に関しては、新手法の開発が必要と考えられている。また、過去のデータにより、諸外国を含め、火山性地殻変動の検出が計画されている。
 なお、本研究のチームリーダーは、測地学的精度向上のために地上観測との結合が今後重要になると考えており、また、Lバンドの双子衛星(SIDUSS計画)の実現を期待している。また、衛星データの要求から解析、地上観測までを継続的かつ組織的に実施できる研究計画の必要性をとなえている。

(2)電磁場変動観測技術による固体地球科学研究
 本委員会において説明を受けた本研究の主な内容は次の通りである。
・目的
 地殻・大気・上層大気(電離層、磁気圏)中での電磁気現象やプラズマ現象の内で固体地球内部に原因のある現象を対象に、地震に関連する電磁場変動の検出に地球観測技術を適用する可能性を探ること。
・アプローチ
 本研究においては、次ぎの二点に重点が置かれている。
ア.地震電磁気現象が岩石圏・大気圏・電離圏結合系の複雑な現象であることを踏まえて、次のように多側面からのアプローチを採用する。(ア)受動観測(自然ULF波、自然VLF波の受信等)。(イ)能動観測(電波サウンディング:既存送信局電波(VLF/LF)を用いた電離層内でのプラズマ異常と波動検出、FM波散乱観測)。(ウ)衛星観測(ロシア衛星データによる電離層内でのプラズマ異常と波動検出)。(エ)その他(光学観測)。
イ.地震と諸現象との因果関係を明確にすることを目指して、観測を高感度・高性能にし、観測データを多量に蓄積して、解析・評価を行う。
・内容等
ア.地震に伴うULF波放射観測
 電気通信大学等の千葉、柿岡、秩父、松代の地点とともに、関東地区を対象とするULF波観測網の一つとして伊豆において、観測が行われている。
 伊豆では、千葉と同様、5-10km程離れた多点観測による微分型アレ−が採用され(トーション型高感度のULF波センサー)、地震ULF波に対して信号対雑音(S/N)比を増すとともに、方位測定も目指されている。地震1例に対して、ULF波放射らしきものが検出されている。(図10)
 ULF波放射の発生機構としては、マイクロフラクチュアリングが提案されている。松代では、AE(アコースティックエミッション)とULF波の総合観測が行われている。その他、グアム地震(1993年)及びインドネシアのビアク地震(1996年)に伴うULF波観測の結果が解析されている。(図4〜7)
イ.地震に伴う電離層擾乱の観測
(ア) 海外のVLF波送信局(オーストリアNWC、ハワイNPM、中国CHIなど)と福島県のLF波送信局(40kHz)の電波を受信する受信機を調布、春日井(愛知県)、千葉、清水、高知、舞鶴、母子里(北海道)に設置し、データを電通大へ伝送するシステムが構築され、現在まで約3年稼働してきた。
 注目すべき観測事例として、以下のものがある。(a)オーストラリアNWC局送信波の位相擾乱等と、名古屋地区で発生した地震との相関(7ヶ月データ)、(b)対馬(平成9年停波)−調布VLF波位相擾乱等と伊豆群発地震との相関。
(イ) 対馬オメガ電波を通信総合研究所犬吠観測所で受信したデータが、神戸地震時にVLF波位相擾乱を受けた観測事例(図11)を踏まえ、地震とVLF位相擾乱等との相関について、13年間のデータが解析された。岩石圏・大気圏・電離圏の結合機構に関しても考察がなされ、大気振動(周期5日、叉は9〜11日周期)との関係などが検討されている。
(ウ) VLF/LF波観測では、下部電離層での擾乱をモニターすることが意図されているが、同様の擾乱は、より高い高度でも生起していることが予想されるので、過去のロシアの衛星観測(プラズマ密度、プラズマ温度、波動(ULF/ELF/VLF波))を用いた地震との相関解析等が行われている。
・今後の展開
 当面の活動としては、種々の観測の継続と、これまでに得られているデータの解析、その観測事実に基づく理論的考察を行うことが予定されている。
 なお、本研究のチームリーダーの見解によれば、VLF/LF波を用いた電離層擾乱については、相応の事例数が得られているが、他の項目については観測事例が出始めている段階であり、一つの学問体系とするには更に少なくとも5年程度の年限が必要である。また、本研究との関連で、仏国の地震電磁場観測衛星(DEMETER)のデータを国内で直接受信することが望まれる。

4.評価の方法

(1)「地震リモートセンシングフロンティア研究」に関係する各分野から、下記の7名の委員を選んで評価委員会を設けた。

委員長 井田喜明  東京大学地震研究所教授
委員  石田瑞穂  防災科学技術研究所総括地球科学技術研究官
    島崎邦彦  東京大学地震研究所教授
    田中高史  通信総合研究所宇宙科学部主任研究官
    鶴田浩一郎 宇宙科学研究所教授
    浜野洋三  東京大学大学院理学系研究科教授
    広澤春任  宇宙科学研究所教授


(2)平成12年1月5日及び同年2月22日の2回にわたり委員会を開催した。委員会においては、評価項目について検討を行い、各研究チームリーダーから研究成果等について報告を受けるとともに、質疑や評価内容についての議論を行った。また電子メールを活用して、各研究チームリーダーとの間で質疑応答、委員間における意見交換を行った。これらを踏まえて、委員会として最終的な評価を下し、本報告書をとりまとめた。


5.評価結果

(1)SARインターフェロメトリ手法を用いた地殻変動研究

(2)電磁場変動観測技術による固体地球科学研究
・目的、目標やサブテーマ設定などの妥当性
 古くから地震に関連して光を含む様々な電磁気現象が報告されてきた。しかし、いずれの報告も客観性が不十分であったり、理論的説明があまりに困難であったりという理由で、組織的な研究の対象となりにくかった。本研究はあえて困難な問題に組織的に取り組もうというもので、その意欲は高く評価される。この研究を軸にして、岩石圏・大気圏・電離圏相互作用に関する新たな学問領域の創設が提起されているが、意気込みは評価するものの、現象と地震との関連が確立しているとはいえない現状を考慮すると、一つ一つの事象の信頼性を上げていく地道な研究がより望まれる。同様に、サブテーマの設定についても、観測、研究の課題の幅を広げすぎた感があり、課題相互間の関連が希薄となり、本研究そのものの方向性が判然としなくなっている。
・観測、分析、モデル研究等の妥当性
ア.ULF磁気効果と関連現象
グアム地震とビアク地震:
 グアム地震(1993年8月8日、マグニチュード7.1、深さ60km )及びビアク地震(1996年2月17日、マグニチュード8、深さ20km)に対応して、グアム観測所(震源から65km)及びビアク観測点(震源から1200km)でのULF波観測により、地震発生の約1ヶ月前にZ成分の卓越するノイズの増加が見られたと本研究は主張する。ビアク地震においてはダーウィン観測点(震源から1200km)との差を取ることで震源近くのノイズを分離している。グアム地震においては、地震以外の変化を除去する指標としてKp(地磁気擾乱指数)を用いているが、その扱いは十分でない。むしろ、ビアク地震で採用されたように、遠隔地のデータを参照して局地性を抽出することが望ましい。グアム地震の場合、Z成分が卓越する変動(図4)であることが地震との関連を示す根拠になっているが、震源の深さが60kmと深奥との距離に近いことを考えると、必ずしも地震関連の変動の特徴とは言い難い。ビアク地震の場合は、図5で見る限り、ビアクとダーウィンの強度変化は類似しており、ほとんどの変動は、地震以外のより大規模な原因に引き起こされていると考えられる。ダーウィンとの差分(図6)には、地震の前1ヶ月変動の増加が見られるが、大きな変動の差分であることを考えると、評価には慎重を期す必要がある。地震と関連する変動であるとする根拠として図7が上げられているが、変動の主要部分が地震と関連が薄いこと、Z成分の増加が2地点の変動差分と同じ時間変化をしないことからみて、地震との関連を実証したとは言い難い。
伊豆半島での観測:
 伊豆半島に設置した4点の観測点(地震との関連を調べたのはその内2点)の速報である。図8に示されているように人工のノイズが高いようであるが、事後処理によるノイズ軽減を考える前に設置場所の選定に注意する必要があったのではなかろうか。図9に示されているような大きなノイズの中から、性質がよくわかっていない微小な信号を検出するには、大きなリスクを伴うことを留意すべきである。図10以降のデータに基づく主張は説得力が弱い。磁気圏起源のULF波動についての伝統的な観測においても、風による立ち木のゆらぎが原因となるノイズ、地下構造による偏波面の解析的なノイズ軽減の前に、観測データの質の向上が望まれる。
松代でのAE観測:
 旧坑道に設置したAE検出器によって、地震に関連すると考えられる高周波振動が観測されたが、その観測結果は説得力のあるものである。地震が発生する以前から高周波振動が観測されたとすると、震源で進行中の破壊のメカニズムの解明に寄与できる可能性がある。同時に観測されているULF波動は、ノイズが高いこと、振幅の増加の時間がAEの増加と一致しないことから、地震との関連が明確に示されたとは言い難い。Kpだけでは必ずしも宇宙起源のULF波動を除去する指標とはなり得ないことを、再度指摘したい。
イ.VLF波送信信号効果等
 本プロジェクト以前の研究であるが、VLF波固定局の位相異常(日出効果、日没効果)の発生時間と地震との関係(図11)は興味深い結果であり、その解釈として提案されているD層高度の減少も、直裁に現象を説明できるという意味で有効な仮説と考える。その後、さかのぼってデータ解析を行った結果、11例の地震について報告がなされている。その結果、5例について類似の関連が見い出されている。この5例は浅い地震であること、震央がVLF波伝播路のフレネル領域にあること、4例の深発地震では位相異常が見出されない等、浅い地震と関連した何かがVLF波伝播路に影響を与えていることを示唆しているようである。大気振動との関連についても議論されているが、これは可能性の一つとみなすべき課題であろう。この様なVLF波位相異常の原因として、電場の変化が議論されているが、未だ実験的検証に耐える段階には来ていない。
ウ.衛星観測
 ロシアのAktivny衛星(遠地点:2497km、近地点:511km、軌道傾斜角:82.6度)の近地点データを使って、地震との関連を統計的に見出そうと試みているが、そこには以下の問題点がある。1)地震とは無関係な要因による変動が大きい領域であり、Kpのみを指標として地震以外の変動を除去することは困難。特にF層赤道異常帯では、静穏日でもダイナモ活動に関連した日変動が大きい、2)相関の良いとされる600km-700kmに限ることでデータ数が減少して、統計の信頼性が下がっている。3)RNSD(relative standard deviation value、相対標準偏差)は、変動の変動とも言うべき量で物理的実体がはっきりしない。4)図12に見られる相関は他の要因による「偶然の可能性」を払拭するほど良いと言えない。地震と電離層プラズマの相関を記述する理論として、地震起源の重力波によるバブル構造やスプレッドF層の発達が上げられているがそれは仮説に過ぎない。理論的結論とするには根拠も内容も不十分である。従って、本研究から衛星観測の有効性を実証できたとは言い難い。
・成果の意義及び波及効果(地震研究や衛星観測を中心に)
 地震に伴うVLF波動の位相擾乱の研究とAEの研究は、客観的と思える結果を出している。VLF波動の位相擾乱が本当に地震の前後に発生するものであるとするならば、地球科学に大きなインパクトを与えるのみならず、地震予知にとっても大きな進歩につながることになろう。しかし、この結果が重大であればあるほど、その客観性は一層注意深く検証する必要がある。AEの観測は地震に伴って高周波の変動成分が広域に渡って観測可能であること、地震発生の前後でノイズの発生が見られることから破壊メカニズムの解明に寄与しうる可能性を持っている。ただ、本研究の中での位置付けは不明確である。ULF波観測は地電流の変化等と関連して地震との関連が予想されるが、本研究においては十分説得力のある成果に到達していない。観測データの質が必ずしも高くないように思われる。衛星観測は理論的予測をいう意味でも、これまでの観測・解析の結果が説得力のある段階に来ておらず、この段階で新たに衛星観測を実施しても成果を期待することは難しい。
・今後の展開の可能性
 地震にともなう電磁気現象の研究においては、客観性をもった観測事実を得ることが最優先課題である。その観点から見て、以下の展開が望まれる。
ア.ULF波観測
 観測データの質の向上が優先される。磁気圏起源のULF波動を観測する研究分野には長い経験の蓄積があるが、これらの研究グループと密接な強力が必要であろう。統計処理、ノイズ軽減、多点データによる波動発生源の推定を、良質のデータの取得に優先させるべきではない。生のデータに現れる地震の影響を検出する努力が必要である。
イ.VLF波位相擾乱
 対照データの検討、必ずしも地震と関係のない位相擾乱の原因解明に向けて努力すべきであろう。また、物理的に不自然でない理由づけを更に追求していくべきであろう。
ウ.衛星観測
 本研究で報告されている観測結果の信憑性は低く、理屈の上からも様々な要因で大きく変動すると予想される電離層を対象とすることに、展望は望めないと考えられる。
・総合評価
 VLF波動の位相擾乱で最もきれいな結果は、本研究以前になされたものの由であるが、本研究で更に事例を増やす努力がなされている。今後の1年間でこの現象の信憑性を一段と厳しく検証することができれば、その結果が肯定的であろうと否定的であろうと、本研究の意義は高いものになる。本研究での位置付けはやや不明であるが、AEの観測は今後の地震発生機構の研究に寄与する可能性を持っている。その他の観測に関しては、観測例を増やすという段階であり、投入した経費に見合う成果が出ているとは言い難い。

6.全体的な評価まとめ

 本中間評価の対象となるふたつの研究は、ともにリモートセンシング技術の新しい応用を目指した開発的な研究である。研究期間はまだ1年残されているが、現段階で下された評価は以下のように要約される。
 「SARインターフェロメトリ手法を用いた地殻変動研究」は、地殻変動を検出する際に問題となる誤差要因の追求を主眼にして進められてきた。衛星SARデータの解析を中心にすえ、地上観測データとの比較などを組み合わせて、検出の精度を上げる上での問題点がかなり明らかになった。特に、大気中の水蒸気成分の効果が定量的に見積もられ、その補正の重要性が明確にされた点は、国際的にも重要な貢献と評価される。扱われた事例の中では、岩手山のデータが誤差要因の追求で特に重要な役割を果たし、地殻変動研究の応用としても、地震や火山活動との対応を示唆する魅力的な解析結果を導いた。
 この研究によって、SARインターフェロメトリは地殻変動観測の極めて有効な手法となりうることが示され、今後解明すべき課題についても展望が得られた。当初の意図に沿った大きな進展が成し遂げられたものと評価される。この分野の研究は、今後一層推進することが重要である。本研究で主に用いられてたLバンドの観測データは、地球資源衛星1号(JERS-1)の運用停止のために継続的に得られる見通しが立っていないが、陸域観測技術衛星(ALOS)の打ち上げに向けて、継続的な研究の推進が望まれる。
 「電磁場変動観測技術による固体地球科学研究」は、固体地球内部が原因となって発生する電磁場変動を用いて、地震と関連する信号を検出しようとする試みである。そこではVLF波やULF波を用いた観測、人工衛星データの解析など、様々な方法が試みられている。その中で、地震に伴うVLF波動の位相擾乱に関する研究は、かなりデータが蓄積し、説得力のある成果が得られている。また、AE観測でも評価すべき成果が得られた。しかし、様々な研究を同時に手がけた結果として、多くの研究が客観的な検証に耐える段階まで到達していないという感じは否めない。また、それぞれの成果が相互にどのような関連を持つかについても、現段階では明瞭に示されていない。
 色々な方法を組み合わせ、多方向から問題を攻めて、岩石圏・大気圏・電離圏の相互作用を究明しようとする意欲は評価される。しかし、この分野は国際的にも未開拓であるので、データや解析の信頼性が特に問題にされる。それぞれの現象と地震との関連について、客観性を高めることに主眼を置いて、今後着実な進展が図られることを期待したい。地震の発生機構の解明や、地震予知への応用に大きなインパクトとなるためにも、客観性を高めることが本質的であろう。
 地震研究の観測手法として、GPSは既に中枢的な位置付けを得ている。衛星技術やリモートセンシングは、今後も様々な観点から応用が図られ、地震研究の中で一層重要性を増すものと期待される。効率的な研究の推進を図ることが強く求められる。


Source: 「地震リモートセンシングフロンティア研究」に関する中間報告書(7月26日公開)