トランジスタ技術2000年10月号「CRL最適定数設計ガイド80」

デッドタイム発生回路のCR定数

回路図1

回路図の説明
DCモータを駆動するFETのHブリッジ回路をPWM信号で正逆運転する場合にFETの遅れ時間により上段FETと
下段FETに短絡電流が流れることがあります。これをアーム短絡(arm short)といいます。
アーム短絡を防ぐためにPWM周期の5%程度のOFF時間を設定します。この時間をデッドタイム(dead tim
e)といいます。
FETのHブリッジ回路を図1に示します。

 <図1>Hブリッジでの正逆運転回路    
FETの動作タイミングはFET1とFET4が同時ONしているときはFET2とFET3はOFFになります。
また、FET2とFET3が同時ONしているときはFET1とFET4はOFFになります。
FET1とFET4が同時ONしている周期のほうがFET2とFET3が同時ONしている周期より長い場合が正転。
逆に、FET2とFET3が同時ONしている周期のほうがFET1とFET4が同時ONしている周期より長い場合が
正転になります。
FETのスイッチングスピードは20KHz以上なので、FET1,FET4とFET2,FET3の通電を交互に繰返
したときにFETのスイッチング時間の遅れからFET1からFET3にアーム短絡電流が流れることがあります。
この電流は負荷であるモータに電流が流れていかないため、大電流になりFETを破損することがあります。
FET2とFET4でも同様にアーム短絡することがあります。
 図2にHブリッジでのアーム短絡を示します。

 
<図2>Hブリッジでのアーム短絡
アーム短絡を防ぐためにFET1,FET4がONしたあとに全てのFETが休む時間を設定し、その後FET2,FET3をONします。
この休み時間をデッドタイムといい図4の抵抗器とコンデンサ、ダイオードによる遅延回路で時間を決めます。
図3にR1とC1による遅延回路を示します。 

<図3>R1とC1による遅延回路 
図3の遅延回路では立ち上がり時間と立下り時間の両方が遅れるため休み時間ができません。
図4のように高速ダイオードを挿入して立ち下がりの遅れをカットすることによりデッドタイムが作れます。

<図4>D1による立ち下がりカット
デッドタイム回路がない時のFET1とFET3の電圧波形を図5に示します。
波形はFETの遅れ時間の影響で台形波になり、斜線部の時間はFET1とFET3に短絡電流が流れています。
但し、FETには短絡耐量があるため、すぐに破壊するとは限りません。
短絡耐量はメーカーや製品によりまちまちで、FETの短絡耐量はメーカーからも公表されていません。
図5にデッドタイム回路なしでの電圧波形を示します。

<図5>デッドタイム回路なしでの電圧波形(斜線部が短絡電流が流れている時間) 
次にデッドタイム回路を入れたときのFET1とFET3の電圧波形を図6に示します。

<図6>デッドタイム回路ありの電圧波形
デッドタイムがあるためFET1とFET3は同時にONしないので短絡電流は流れません。

回路の用途
DCモータ可逆制御
デッドタイム回路基板を写真1に示します。

<写真1>デッドタイム回路基板

基本動作のための定数決定

[遅延回路]

・ C1=C2=100pFの理由と事情
  PWM周波数20KHzではパルス周期は50μsになります。
 デッドタイムを5%にするとデッドタイム時間は2.5μsになります。
 デットタイム時間は下記の抵抗R1,R2との時定数で決まります。R1,R2を数10KΩに設定したいので、あら
 かじめ静電容量の小さなコンデンサにしておきます。
 また、C1,C2はIC2がC−MOSのためラッチアップ(latch up)電流による素子の破壊が無いように
 考慮して、ここではC1とC2を100pFにします。

・ R1=R2=33KΩの理由と事情
 遅延時間はロジックICがTTLとC−MOSにより若干違います。
 TTLでは遅延時間tdt=0.8×C×R <式1>
 C−MOSでは遅延時間tdt=0.69×C×R  <式2> になります。
  PWM周波数20KHzではパルス周期は50μsになります。
 デッドタイムを5%にするとデッドタイム時間は2.5μsになります。
 ここではC−MOSを使用しているので tdh=0.69×C1×R1
 2.5μs=0.69×47pF×R1
  R1=2.5μs/100pF×0.69=36KΩ 
 ∴ R1=33KΩにします。

ワンランクアップ !

・ 温度変化
 ここでは、デッドタイム発生回路に使ってよいCRと使ってはいけないCRについて説明します。

温度係数が大きい(使ってはいけない) 温度係数が小さい(使ってよい)
抵抗器 炭素皮膜抵抗器 200〜1000ppm/℃ 金属皮膜抵抗器 5〜100ppm/℃
コンデンサ 高誘電率系セラミックコンデンサ +30〜−80% 温度補償用積層セラミックコンデンサ ±0〜250ppm/℃
 <表1>デッドタイム発生回路に使ってよいCRと使ってはいけないCR
  コンデンサには上記のとおり使用温度範囲内で80%も静電容量が変化する物がありますので注意が必要です。

・ デッドタイム時間とモータの剛性
 デッドタイム時間が長いとモータ停止時の不感帯が広くなりサーボロックが甘くなります。
 逆にデッドタイム時間が短いとモータ停止時の剛性が強くなります。
 デッドタイム時間が短すぎると短絡電流が増えてFETの発熱が大きくなります。
 

                     参考文献:
                     見城尚志・高橋久;実用電子回路設計ガイド、1984年、総合電子出版社
                     熊坂伊久男;http://www.geocities.co.jp/Technopolis/5348/


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