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あざの治療について

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あざとは何か

あざとは医学的には生まれつき、あるいは生後しばらく経ってから生じてくる、皮膚の色素細胞や、毛細血管、その他皮膚の構成要素の異常を指します。その異常の結果、皮膚の色調や、性状が普通の状態ではなくなります。医学用語では母斑と呼びます。これは文字どおり先天的に母親から受け継いだ皮膚の色調異常という意味ですが、実際は生まれてすぐはわかりづらく、しばらくしてからはっきり分かるようになることも多いようです。

あざの種類

色調の異常を生じるあざには、その色調によって、黒あざ、茶あざ、青あざ、赤あざ等があります。

黒あざ

色素細胞母斑というのが正式な名前です。ほくろも組織学的にはこの中に含まれますが、ここでは生まれつき存在する、ほくろより大きめの黒い色素斑について述べます。
黒くなるのはメラニン色素がかなり多く存在することを意味します。

茶あざ

扁平母斑が正式な名称です。うす茶色で平坦です。欧米ではカフェオレ斑と呼ばれています。生まれつき存在することも多いのですが、思春期になってから発生するタイプもあります。これはべッカー母斑と呼ばれ、肩や胸、あるいは腹部や臀部の片側にできて、剛毛が生えるのが特徴です。
茶色い色調はメラニン色素のせいです。皮膚のやや浅めのところに色素が存在します。しかし毛根にそって深いところにも色素が存在するため、それが再発の原因になることが多いようです。

青あざ

黄色人種に特にもっともなじみのあるあざです。できる時期や場所によっていくつかの種類に分けられます。青い色の正体は黒あざと同じメラニン色素です。ただ色素の存在が、皮膚のやや深めのところに限られているために青く見えるのです。
蒙古斑もこの仲間ですが、ほとんどは自然に治ってしまいます。問題になるのは顔にできる太田母斑や、蒙古斑でも腕などに生じて大人になっても治らない異所性蒙古斑です。

赤あざ

血管腫に対する植皮治療これは先天的な血管腫のことです。当院では血管腫に対するレーザー治療は行っておりませんが、単純性血管腫と呼ばれる、表面が平坦で凸凹していない先天的な赤あざの治療には、色素レーザーが最初に選択される治療法です。
ただしすべての単純性血管腫がレーザーに反応するわけではないようです。この症例は元々は単純性血管腫だったのですが、年月を重ねるうちに一部が海綿状血管腫に変化してしまっています。海綿状血管腫は血管が太すぎて色素レーザーは無効なので、このように広範囲に及ぶ血管腫の治療は、今のところ植皮しかありません。手術はうまくいったのですが、植皮片を縁取る傷痕がやはり目立ちます。レーザー治療に抵抗する血管腫の治療は、今後の課題といえるでしょう。

黒あざの治療

手術による切除が基本です。なぜならこのあざには悪性化の潜在的な危険があるからです。レーザーによる治療も実際は行われていますが、それはあくまでどうしても切除が困難な場合です。しかもレーザー照射前に悪性化の危険性も十分説明し、患者さんの納得と同意が得られなければなりません。

切除縫合

黒あざの分割切除 小さな黒あざは1回で、大きなものは2回から3回に分けて分割切除します。分割切除の場合は6ヶ月から9ヶ月の間隔をおいて手術します。
この症例は右臀部の黒あざですが、1回で切除するには大きすぎるので、2回に分けて切除しました。

局所皮弁

局所皮弁単純に縫いつめられない場合はなるべく近くの皮膚を使ってあざをとった後の欠損を閉鎖します。その方法が局所皮弁です。局所皮弁にも多くの方法がありますが、欠損部の隣の皮膚を横転させて閉じる、横転皮弁と、皮下脂肪に含まれる血管を軸にして皮膚を移動させる皮下茎皮弁がよく使われます。あざを取った欠損部に近い皮膚を使うので、皮膚の質感に違和感がありません。しかし切開線が少し複雑になるので、傷あとも少し複雑でそれが気になる場合もないとはいえません。
この方はおでこの黒あざですが、単純に切除縫合するには大きすぎましたので、横転皮弁の一種で治療しました。

植皮術

あざが大きくて局所皮弁でもうまくいかない場合は植皮を選択せざるを得ません。植皮には、なるべくあざの部分の皮膚と質感が近い皮膚を選択します。例えば頬への植皮には、鎖骨部や胸部の皮膚を使います。
植皮の欠点はどうしても離れた場所から皮膚を持ってくるために、皮膚の質感が完全に一致しないことです。そのためどうしても不自然な感じが残ってしまいます。また植皮片の辺縁の傷も目立ちます。ちょうど穴のあいた障子に障子紙を貼りたしたような感じです。このような欠点はありますが、ある程度大きなあざにはこの方法でいくしかないのが現実です。

レーザー治療

植皮もままならないほどの大きな黒あざの治療は、いまだに確立していません。そのためレーザー照射も選択肢に中に入る場合があります。しかし大きな黒あざは悪性化の潜在能力が高いので、十分な経過観察が必要です。レーザーにより色調の改善が見られないこともありますので、その時はあきらめるしかありません。効果がある場合でも10回以上の照射が必要なこともあり、簡単にはいかないようです。

茶あざの治療

悪性化することはありませんが、意外とてこずることの多いあざです。単純に切り取れる場合は切除縫合します。問題はそれができない場合です。
かつてはグラインダーで皮膚を削る手術が一般的でした。最近ではやはりレーザー治療が主流になってきました。しかしレーザーをもってしても再発が非常に多いのがこのあざの特徴です。
再発のパターンには、毛根に一致して再発する場合と、全体に一度に再発してくる場合があります。照射後2週間頃に再発してくることが多いので、その時に追加照射すると、ある程度は再々発を抑えることが可能になる印象を持っています。しかし、それでもしばらくしてから再発してくることが多いようです。けれども再発と再照射を繰り返すうちに、次第に色調が薄くなったり、あざの面積が小さくなったり、再発の間隔が伸びてくることがあります。このような場合はレーザーがある程度有効であると判断してよいと思います。

現在のところアレキサンドライトレーザーは茶あざには保険が適応されていません。実際はルビーレーザーと同じように有効なのですが、ルビーレーザーだけが保険適応になっています。ただしルビーレーザーでも、2回までしか保険が使えないという規則になっています。なぜかというと、あまりに再発が多いためです。再発の度にレーザー照射をした場合、そのすべてを保険でカバーすることに、厚生省が難色を示したようです。

青あざの治療

青あざの代表は太田母斑です。この母斑は生まれつき、あるいは思春期に発生する顔面の青あざです。青あざといってもその色調はメラニンの深さによって、浅いと茶色く、深いと青く見えてきます。蒙古斑も青あざの一種です。ほとんどの蒙古斑は大人になると自然治癒しますが、臀部以外の蒙古斑は大人になっても消えないことがあります。その場合は治療が必要になることがあります。治療法は太田母斑と同様です。

太田母斑の治療

かつてはドライアイス療法が主でしたが、非常に手間がかかり、効果も不十分なことが大半でした。植皮も行われましたが、植皮した皮膚や、その周囲に再発してくることがあり、治療しづらい疾患でした。
でも最近 Qスイッチレーザーが開発され、数回の照射が必要ですが、瘢痕などの副作用もなく、ほぼ満足できるところまで治療できるようになりました。
Qスイッチレーザーには、ルビー、アレキサンドライト、ヤグ、の3種類がありますが、どれで治療しても効果にほとんど差がないようです。ただしルビーとアレキサンドライトレーザーは健康保険が使えますが、ヤグレーザーは現在のところ保険が使えません。

治療の原理

しみや扁平母斑の治療では色素(メラニン)は皮膚の極浅い所にあるので、レーザー照射すると色素が焼けてカサブタになり、はがれ落ちます。ですから1週間くらいでカサブタが落ちると、もう色素斑はなくなっているわけです。ところが太田母斑では違います。同じメラニン色素でも、沈着している深さがしみよりかなり深いところにあるため、たとえカサブタを生じてそれがはがれても、その時点では太田母斑の病的なメラニン色素は全くなくなりません。
レーザー治療のイメージ それではなぜレーザーが太田母斑に効くのでしょう? それではこの絵を見てください。メラニン色素が消失するイメージがつかめるとおもいます。ブルドーザーが貪食細胞にあたります。
まずレーザーを照射すると、太田母斑の病的なメラニン色素に選択的にエネルギーが吸収されます。するとメラニン色素が分解され粉々になります。でもそれだけでは母斑の色調は変化しません。むしろインク瓶からインクがこぼれたような感じになり、色調が一時的に濃くなることがあります。しかし2、3ヶ月経つうちに、細かくなったメラニン色素は貪食細胞と呼ばれる生体の浄化細胞に取り込まれて、リンパ組織に運ばれ、皮膚からとり除かれます。
貪食細胞がメラニン色素を取り込んで、リンパ組織に運ばれる過程はかなりゆっくりしたものなのです。そのためレーザー照射してから実際に母斑の色調が改善するのは1ヶ月以上経ってからです。色調の改善は3ヶ月から6ヶ月くらい続くようです。 1回だけの照射でメラニン色素がなくなることはありません。ですから3ヶ月以上の間隔をおいてレーザー照射を繰り返すことになります。母斑の色調が薄い場合は4回程度、色調が濃い場合は6回から10回程度必要な場合もあります。眼瞼はレーザーを強く当てると傷が残るため少し弱めに照射します。そのためその他の部位に比べると2回くらい余計に照射する必要があります。3ヶ月間隔で照射しても、治療が終了するのに1年から2年かかることになります。

レーザー治療の実際

当院で使用している Qスイッチアレキサンドライトレーザーの場合について述べてみます。

麻酔について

このレーザーは他の装置に比べて照射時の痛みが少ないようですが、それでもかなりの痛みを伴います。その痛みを軽減するためには麻酔が必要です。
照射部の面積が 4cm 四方くらいまではペンレスというシールで麻酔できます。それ以上の面積では、局所麻酔用クリーム、EMLA (エムラクリーム) を使います。いずれにしても麻酔が十分効くまでに1時間30分から2時間かかりますので、その間外来で待っている必要があります。眼瞼 (まぶた) ではペンレスも EMLA も効きが悪いので、局所麻酔剤の注射をします。
面積が 10cm 四方にも及ぶ時は、EMLA でも不十分なことが多いようです。この場合スポットサイズが 3mm のアレキサンドライトレーザーでは、2000発くらい必要です。数十発くらいなら麻酔無しでも照射できますが、照射を重ねるごとに痛みが蓄積してきて耐えられなくなることが多いのです。ペンレスも EMLA も完全に無痛になるわけではないので、あまり広範囲になるとつらくなります。場合によっては EMLA である程度麻酔してから、更に局所麻酔を注射して完全に無痛状態にすることもあります。初めから局所麻酔を注射してもよいのですが、局所麻酔自体にかなり痛みがあるので、面積が広い場合でも眼瞼など、特に敏感なところだけに限られます。小学生以下の子どもで、ある程度より大きな太田母斑では、入院して全身麻酔した方が無難です。

レーザー照射による皮膚の変化

照射は直径が 3mm スポットで、毎秒2発から5発を連発して母斑部分の皮膚をまんべんなく照射していきます。かなり広範囲の太田母斑でも20分前後で照射を終了できます。
照射直後は白く少し腫れた感じになります。点状に出血する時はレーザーのパワーが強すぎるので、出力を少し下げます。白くならない時はパワーが弱いので出力を上げます。直径 3mm のスポットの一部を少し重ねて、照射もれのないように気をつけます。照射後10分くらい経過すると皮膚の色は元に戻りますが、腫れは少しずつ強くなります。特にまぶたの腫れは強くでて、翌日には目が開かなくなることさえあります。
患者さんの皮膚が日焼けしていたり、もともと色黒の場合は照射後2、3日で非常に薄いカサブタを生じます。このカサブタは7日から10日できれいにはがれ落ちます。
太田母斑の病的なメラニン色素以外に、日焼けなどの色素沈着があると、レーザーのエネルギーがそこでも吸収されるため、もともとある正常な色素細胞にもダメージを与えることがあります。その場合正常皮膚の持つ色調まで奪われて、本来の皮膚の色調よりも白くなりすぎる場合があります。しかしこの現象は、数ヶ月単位の時間経過で回復することが多いようです。
レーザー照射後の皮膚は、紫外線に対して大変デリケートになっています。そのため照射後無防備に日焼けすると、非常に取れずらい色素沈着が残ってしまいます。この色素沈着は次のレーザー照射の大きな妨げとなります。ですからレーザー照射後は、日焼け止めクリームなどをこまめに塗り、紫外線を完全に遮ることがとても重要なアフターケアとなります。要するにレーザー照射前も照射後も、日焼けを避けることが大切ということです。

眼瞼へのレーザー照射

レーザー光線が直接眼底に達すると視力障害を起こします。そのためまぶたの母斑部にレーザー照射する時は注意が必要です。
まぶたへの照射時は、レーザー光線を通さない金属でできた、コンタクトレンズのようなプロテクターをはめてから照射します。局所麻酔用の目薬を使ってからプロテクターを装着しますので、違和感は残りますが痛みはありません。ただ目の周囲の照射時に、オレンジ色の光が見えることはあります。しかしそれは皮膚を通過したレーザー光線が乱反射して眼底に届く光なので、エネルギーが弱く、それによって視力障害を生じることはありません。

照射後のアフターケア

レーザー照射後、5日くらいは抗生物質を含んだ軟膏を塗って、照射後の皮膚を守るためにガーゼをあてておいた方がよいでしょう。その後は日焼け止めクリームを塗って、紫外線を遮るようにします。日焼け止めは6ヶ月くらいは続けた方がよいようです。普通は3ヶ月間隔で照射していきますから、治療中はずっと日焼けを避けなければなりません。
日焼けを避けていても、日焼けに似た色素沈着を生じてしまうことがあります。この場合はハイドロキノンクリームなどのホワイトニングクリームを併用すると回復が早くなります。次のレーザー照射は、この色素沈着が落ち着いてからになります。

治療の終了

治療の終了は医師と患者さんの話し合いの中で決まります。Qスイッチレーザーの場合はいくら照射しても、よほどのことがない限り傷あとを残すことがありません。しかも照射すればするほどあざの色調は改善されていきます。結局ある程度改善して、患者さんがここまででよいと考えるようになるまで、照射を繰り返すことになります。メラニン色素が少ないあざの場合は4回から5回、色素が多い場合は10回近くの照射が必要な場合もあり得ます。

費用について

2年ほど前から健康保険が使えるようになりました。そのため3割負担の方で、1回のレーザー照射にかかる費用は1万円程ですむようになりました。これは画期的なことです。かつては保険が使えないために、広範囲の太田母斑の治療に100万円以上かかることも珍しくはなかったのですから。
1回のレーザー照射にかかる費用は面積にかかわらず一定です。5cm 四方の母斑で500発、10cm 四方で2000発のレーザー照射が必要ですが、料金は同じです。太田母斑の場合は扁平母斑と異なり、3回目以降のレーザー治療も保険適応されます。


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