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ホクロは治療するべきか?

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はじめに

ホクロとはもっともありふれた皮膚の”病気”です。日本人の場合、1人あたり10個はホクロを持っているといわれています。ですから病気とはいってもほとんど治療を必要としないという考え方もあります。しかし顔のように目立つ場所では、それを気にする方も多いので、その場合は治療が必要であると私は考えます。
まれに単にホクロの治療を希望されて来院される方の中に、実はホクロと思っていた色素斑がホクロではなく、皮膚癌の一種であることがあります。その場合は美容的な問題ではなくなりますので、再発しないように完全に切除することがもっとも重要です。

ホクロとは何か

ホクロという呼び方は俗称であって、医学用語ではありません。一般には比較的小さな黒っぽい皮膚の病変 (盛り上がっていることが多い) をこのように呼んでいます。ホクロのほとんどは医学的には色素細胞母斑と呼ばれるものです。
母斑という言葉は一般にはなじみのない言葉ですが、要するに生まれつきの”あざ”のことを指します。しかし実際はホクロは生まれたときにはほとんどありませんので、あえて後天性色素細胞母斑と呼ぶ皮膚科医もいるくらいです。直径が 1cm 以上の色素細胞母斑は大きすぎるのでホクロとは呼ばれず、一般には黒あざと呼ばれます。こちらはホクロと違って生まれつき存在する、本当の母斑であることがほとんどです。顕微鏡で組織を見てもホクロと黒あざは区別できないので、大きさやできる時期によって診断されています。
それではホクロとは何かというと、皮膚の中に点在する色素細胞が何らかの原因で腫瘍化してできた皮膚の良性腫瘍(できもの)と考えられています。ようするに皮膚のできものの一種ということです。原則として悪性化することはありませんので、美容的な見地から切除などの治療が必要かどうかを判断します。ただし悪性の皮膚腫瘍にホクロと似たものがあるので、それを見分けることが必要です。

ホクロを診断する

基底細胞癌ホクロはありふれた皮膚病変ですが、治療にあたってはきちんと診断しておく必要があります。なぜなら皮膚の悪性腫瘍(皮膚癌)の中に、ホクロにそっくりの外観を呈するものがあるからです。ほとんどの場合は外観からだけで診断可能ですが、やはり経験を積んだ皮膚科医や形成外科医でも間違うことはあります。
皮膚癌を見逃さないために、私はホクロと思われるものを切除した際でも必ず病理検査をします。病理検査とは切除したものを薄く切って染色し、病理の専門医が顕微鏡で診断する検査です。この検査をすれば最終的に診断を間違えることはありません。

左の写真は一見したところホクロのように見えますが、実はそうではなく、基底細胞癌と呼ばれる皮膚の悪性腫瘍でした。最初は悪性ではないと考えて手術したのですが、病理組織検査の結果が悪性だったので、少し大きめに再切除を行っています。

ホクロの治療

ホクロの治療には大きく分けて2種類あります。ひとつは紡錘形に皮膚を切除し、その後ナイロン糸で縫合する切除縫合法です。比較的大きなものを治療するときによい方法です。もうひとつはくりぬいたり焼いたりして、ホクロの組織だけを何らかの方法で消し、その後は縫合せずに軟膏をつけて治す方法です。
いずれにしても手術してすぐに目立たなくなる訳ではありません。傷が落ち着くのには最低 3ヶ月はかかります。切除縫合法以外では術直後に日焼けをすると、しみのような色素斑が生じることがあります。この色素斑は術後 3ヶ月くらいの間、日焼けどめクリームなどで日焼けを避ければ予防できます。

切除縫合法

5mm 以上の比較的大きなホクロを取るときの方法です。この方法の長所はホクロの組織を完全に取りきれるので再発がないことです。欠点はこの写真の一番右のように線状の傷が残ることです。ホクロの直径の少なくとも3倍の長さの傷ができます。しかしホクロがある程度より大きくなるとこの方法でしか取れません。

切除縫合法この症例は大きさからいって、ホクロというよりは先天的な母斑細胞母斑です。写真の中央は抜糸直前の状態です。一番右は術後7ヶ月経って、傷が落ち着いた頃の写真です。薄化粧をすれば全く分からなくなる程度の傷あとです。


くりぬき法

丸くホクロの形に添って皮膚をくり貫く方法です。ある程度深くまで組織を取りますので、再発はありません。しかし傷が深くなるので、治るまでに時間がかかり、傷がへこむことがあるのが欠点です。直径が 5mm を超えるホクロでは傷あとがケロイド化することがあり、大きなホクロには使えない方法です。

炭酸ガスレーザー

ホクロの組織をレーザーのエネルギーで飛ばしてしまいます。結果的にはくりぬき法とほとんど変わりませんが、くりぬき法より出血が少なく、傷が治るまでの治療はより簡単に済みます。最大の欠点は組織が取れないことです。そのため病理検査ができないので、良性のホクロであることをしっかり診断したうえで治療する必要があります。くりぬき法と同様に 5mm 以上のホクロでは傷あとが目立つことがありえます。

Qスイッチレーザー

Qスイッチレーザーは比較的新しいタイプのレーザーです。炭酸ガスレーザーが水分のある組織を非選択的に破壊するのに対して、Qスイッチレーザーは黒っぽい色素にだけ選択的に反応して、色素細胞だけを破壊します。したがって周囲の正常組織を傷つけることがなく、傷の治りが早く、瘢痕(傷あと)を残しません。ただしホクロでも色のついていない部分は取り残しますので、後日再発の可能性があります。1回で取れることはまれで数回の照射が必要なことも欠点です。盛り上がっているホクロでは、色は取れても盛り上がりは取れません。小さくて平坦なホクロ以外では実用的ではありません。

電気メス

高周波を利用した電気メスでホクロの組織を削り取ります。深く掘るように削ればくりぬき法と変わりませんが、浅く削ると傷の治りが早く、へこんだ傷も残りません。ただし削り方が浅すぎると再発することがあります。組織を取って病理検査を行うことも可能です。5mm から 6mm くらいまでのホクロがこの方法に適しています。

成功例

電気メスで切除この症例は電気メスで取るには少し 大き過ぎるホクロですが、ケロイド化する危険性も説明したうえで、あえて電気メスで削り取りました。術後経過は順調で、再発もなく、傷も目立ちませんでした。




失敗例

ホクロ切除後のケロイドこの方も上の症例と同様にまず電気メスでホクロを削り取りました。しかし体質の関係でしょうか、術後の傷がケロイド化しています。しかも色素の再発もあり、再手術を行いました。再手術は切除縫合法で傷をすべて切り取りました。

毛の生えている部位

眉に生じたホクロこの症例のように毛が生えている部分のホクロは電気メスを使うと大変うまくいきます。くりぬき法や切除縫合法では毛根を傷つけるために毛が抜けて傷が目立ちます。電気メスで表面だけを削り取ると毛根を傷つけないため、後で毛が生えてきて傷を隠してくれます。しかも毛根からの皮膚の再生があって傷自体の治りも早いのでケロイドを生じることもなく、大きなホクロでもきれいに治ることが多いようです。ホクロを削り取った直後の写真をよく見ると、毛根が残っているのが分かると思います。



その他

蛋白質を凝固する薬品や液体窒素で凍らせてホクロの組織を破壊する方法もありますが、やはり病理検査ができないのが欠点であり、一般的ではありません。

治療法に対する私の考え方

一番の問題は、ホクロと思われる黒いできものの中に、皮膚癌のような悪性の病気が混ざってくることです。誤診を防ぐために私は必ず切除標本を病理検査に出すように心がけています。切除縫合法と電気メスで削り取る方法以外では病理検査に出す組織を取れないので、基本的にはこの二つの方法で治療するようにしています。
直径 5mm 以下のホクロは電気メスで削り取ります。10mm 以上のものは切除縫合法です。5mm から 10mm の間のホクロはケースバイケースです。眉の中や頭皮のような毛の生えている部分では直径が 10mm あっても電気メスで大丈夫です。口の周囲では 5mm を超えるホクロを電気メスで削るとケロイドのような目立つ傷あとができやすいので、普通は切除縫合法か、それを応用した皮弁法の出番になります。
電気メスで削り取った場合は、再発する可能性があること、5mm 以上のホクロの場合は傷が目立つことがありうること、手術後に一時的な色素沈着を生じることがあり、それを減らすために日焼け止めをつける必要があること等を十分説明して、納得された患者さんにだけ治療を行います。切除縫合法の場合は少なくとも直径の3倍の線状瘢痕 (傷あと) が残ること、その傷あとが落ち着くのに3ヶ月から6ヶ月の時間が必要なこと等を説明します。レーザーなどの装置で一瞬にしてきれいにホクロが取れると勘違いされている方には、実際はそうではないことを、術前に十分理解してもらうことが特に大切です。

足の裏や手のホクロについて

一般に足の裏のホクロや手のホクロは悪性化しやすいといわれています。しかし実際には良性のホクロの悪性化という現象はかなりまれなことのようです。つまりホクロの癌 (悪性黒色腫) はできたばかりの小さなうちから既に悪性であり、良性のホクロから変化したものではない、という考え方です。でも悪性黒色腫も小さなうちは良性のホクロと非常に紛らわしいので、診断は必ずしも容易ではありません。ですから少しでも悪性が疑われるホクロは取り残さないように全部予防的に切除して、きちんと病理検査を実施したほうがよいと思います。

ホクロの癌、悪性黒色腫この写真は60歳の女性で、右手にできた、6mm 程の”ホクロ”を気にされて当院を受診された時のものです。5年ほど前に生じた”ホクロ”が、2年くらい前から急に大きくなってきたということでした。これまでの経験からこれがホクロではないと一目で分かりました。皮膚癌の中でも最もたちの悪い悪性黒色腫です。この場合は間違っても中途半端な切除をしてはいけません。すぐ転移を起こしてしまいます。この方は直ちに施設の整った大学病院に紹介しました。
先天的にある大きな黒あざの場合は後天的に出てくるホクロと異なり、将来癌化することが決してまれではありません。ですから大きな黒あざ (母斑細胞母斑) は完全に切除しておくことが望ましい治療になります。




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