タイトルドクター

新しい局所麻酔

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手術に麻酔はつきものです。麻酔無しで行える手術もないことはありませんが、例外的なものです。ここでは外来手術でもっとも一般的で重要な、局所麻酔について考えてみます。

注射法

普通局所麻酔といえばこれを指します。歯科医院で歯の治療の前にうつ注射と同じものです。この方法は何十年も前から使われており、別段新しい方法ではありません。もっとも確実な局所麻酔法ですが、注射自体にかなり痛みがあるのが欠点です。この痛みを緩和するためにいろいろな工夫がなされています。

細い針を使う

注射針の比較これは誰でも理解できると思います。誰でも太い針で注射されたくないですよね。針は細ければ細いほど、確かに痛みかたも少なくなります。
痛点と呼ばれる痛みのセンサー部位に針が触るととても痛いのです。針が太い方が痛点に触れる確率も高くなると考えています。後で述べますが、皮下にいきなり注射すると強く痛みを感じます。ですから初めは薄い皮内にだけ注射するべきです。そのためにも太い針では麻酔薬が皮下にもれてしまうため、細い針が必要になります。
普通血管注射に使用する22ゲージの針 (直径0.7mm) と、私が主に局所麻酔に使用している30ゲージ (直径0.3mm) の針を比較してみると、ずいぶん差があることが分かると思います。

細い注射器を使う

ゆっくり注射した方が痛みは少なくなります。急いで注射するととても痛く感じます。そのためには細い注射器の方がうまくいきます。皮下組織より皮膚の方が組織が密で固いので、皮内に注射するのはかなり力がいります。それにも細い注射器の方が有利です。

初めは皮膚のみに注射する

局所麻酔薬の注射先に述べましたが、皮下脂肪に直接注射すると痛みが強いのです。まずは皮内に限って少量の局所麻酔薬を注射します。すると皮膚は固く盛り上がって、膨疹と呼ばれる状態になります。この時だけ少し痛みがあります。それからは膨疹の中から決して針が外に出ないように気をつけて、膨疹を少しづつ広げるようにして手術部位を麻酔していきます。皮膚表面の麻酔が終わったら皮下に注射します。皮膚の表面の麻酔が終わってからですと、皮下組織に麻酔薬を注射してもほとんど痛みません。しかしこの方法を使っても、指先やまぶたのように敏感な部位では、やはり痛むようです。
ただし背中のような血行の悪い部位であまり浅く麻酔剤を注射すると、皮膚の血行障害を起こし皮膚が一部死んでしまうことがあるので、注意が必要です。 この方法のもうひとつの欠点は、時間がかかることです。腋臭症のように広い範囲を麻酔する場合は、時間の関係でなかなかこの方法を取れないのが実情です。
この症例は背中の粉瘤ですが、皮膚が引き伸ばされてかなり薄くなっていました。粉瘤の中に局所麻酔薬を打ち込まないように注意して、皮膚の中だけに、30ゲージの針で膨疹を作りながら注射しました。かなり浅く注射したので、皮膚の血行が悪くなることが懸念されましたが、術後の経過は全く問題ありませんでした。

その他

注射をする瞬間に別の部位をつねる方法も意外と効果があり、子どもに麻酔剤を注射する時に使うことがあります。
止血剤のアドレナリンが含まれた局所麻酔剤を使うことが多いのですが、アドレナリンのせいでPHが酸性になり、痛みが強くなります。それを緩和するために重炭酸ソーダを混ぜてPHを中性に近づけることも有効といわれています。しかし上に述べた方法で十分なことが多いので、よほど広範囲の場合以外は使っていません。



針を使わない局所麻酔法

レーザー治療などの新しい治療法の台頭に伴って、麻酔技術も注射法以外の新しい方法が使われるようになってきました。眼瞼のように敏感なところでは効果が薄く、決して注射法に完全にとって変わるものではありません。しかし症例を選べば非常に効果的です。

ペンレス

高濃度の局所麻酔剤(キシロカイン)を接着面に含んだ透明のシールです。患部にこれを貼り付けて1時間以上待つと表面の麻酔が完了します。非常に手軽なので、私はよく患者さんや患者さんのお母さんに渡して、来院する1時間前に貼るように指示しておきます。こうしておくと医院での待ち時間が少なくてすみます。単価が安くて経済的なのも大きな長所です。

よく利用する疾患

ペンレスで麻酔中もっともよい適応は水いぼです。水いぼの治療はピンセットでむしるのが一番ですが、これが猛烈に痛いのです。水いぼは小学生以下の子どもの病気ですので、従来は外来で水いぼをとると大騒ぎになったものです。しかしペンレスを利用するようになってからはほとんど無痛状態で水いぼをとれるようになりました。
青あざ、茶あざなどの母斑のレーザー治療にも使えます。ただしレーザー光は皮膚の深部にも到達するため、ペンレスだけでは結構痛みが残ります。普通はあまり範囲が広くない場合に限って使っています。
拡張した毛細血管を電気メスで凝固する場合にも使えます。レーザー同様、完全な無痛にはなりませんが、局所麻酔注射をすると血管が分かりづらくなる場合には重宝します。

欠点

プラスチックのテープなので、鼻や耳のように凸凹した部分にはうまくつかないことがあります。汗や皮脂で汚れた部位もつきが悪くなります。眉のような有毛部もうまくつきません。脂漏性角化症のように表面がざらざらした疾患もテープの密着が悪く、効果が悪くなります。結局表面が平坦なあざやしみ、凸凹していても小さくて柔らかい水いぼなどにしか使えません。
テープをはがすと数分で麻酔効果がなくなるので、テープをはがしたらすぐに治療しなければなりません。

EMLA クリーム (エムラクリーム)

国内ではまだ承認されていませんが、欧米ではレーザー治療に欠かせない麻酔用クリームです。患部にたっぷり塗ってプラスチックフィルムでおおいます。1時間から2時間で麻酔ができます。ペンレスより麻酔効果は強いようです。

よく利用する疾患

エムラクリームで眉の入れ墨を麻酔広範囲のあざのレーザー治療にもっとも有効です。ペンレスよりは麻酔効果が強いのですが、痛みに敏感な患者さんでは EMLA を使ってもレーザーの痛みに耐えられないことがあります。実際は眼瞼などでは局所麻酔の注射も併用しています。
眉などの有毛部や、脂漏性角化症のようなざらざらした表面を持つ皮膚疾患にも使えます。海外では分層植皮の採皮部にも使われているようです。
この症例は眉にアートメイクと呼ばれる入れ墨をしていました。眉の形が気に入らなくなったため、入れ墨をとることを希望して来院されました。単純な黒っぽい入れ墨はレーザーでとれますので、エムラクリームで麻酔してレーザー照射しました。有毛部はペンレスが密着できないので、この様な例はエムラクリームの出番です。

欠点

最大の欠点は日本でまだ承認されていないということです。普通に問屋さんを通して手に入れることはできません。しかたがないので、直接海外から取り寄せています。値段もペンレスほど安くはありません。
取扱いも少し面倒なので、患者さんに自宅で塗ってもらうことは難しそうです。結局外来で塗って、1時間から2時間ほど待ってもらうしかありません。
麻酔効果はペンレスより強いのですが、麻酔の注射ほど完全ではありません。ですから敏感な部位には注射も併用した方が無難です。ペンレス同様、麻酔の効いている時間は短いので、手早く治療をすませる必要があります。

イオントフォレーシス

電池で作動する装置で、10分くらいで麻酔剤を皮膚に浸透させます。麻酔を皮膚の送り込む電極の形が決まっていて応用が効かないこと、電極が使い捨てで高価なことなどから、当院ではこの方法は使用していません。麻酔を浸透させる時間が短いので、適応を絞れば使える方法です。


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