


昨年9月にこのホームページを開設して以来、特に腋臭症に対しての質問を多く頂きました。そこで腋臭症に関する、よくある質問について、平成10年に行なった手術のデータを元に、まとめてお答えしてみます。更に詳しくお聞きになりたい方は、遠慮なくメールでお尋ねください。
野崎医院に限ってお話します。平成10年1年間で、47人の腋臭症、多汗症手術を行ないました。内訳はアポクリン腺由来の腋臭症(多汗症との合併例を含む)と診断された方が43名(91.5%)、エックリン腺由来の純粋な腋窩多汗症 (臭いは少ないが、汗が多い) と診断された方が、4名(8.5%)でした。性別では女性35名(74.5%)、男性12名(25.5%)でした。近年、腋臭症の治療を希望される方が増加傾向にあると感じています。
平成10年の例では、入院で手術を行なった方が、24例(51.1%)、外来手術で行なった方が23例(48.9%)でした。
遠くて通うのが大変な方には、入院をお勧めしています。入院すれば両側同時にできますので、外来通院の回数も少なくなります。入院手術の場合は麻酔も局所麻酔だけでなく、静脈麻酔を併用できますので、局所麻酔の痛みを感じなくてすみます。もちろん手術翌日と翌々日に通院できれば外来手術でも問題ありませんが、あまり腕を大きく動かさないで安静を保ってください。外来手術では片側づつ2回に分けて手術します。
耳垢(ミミアカ)がべたつく人全員が腋臭症になる訳ではありませんが、確かにその傾向はあるようです。外耳道にもアポクリン腺と同じような汗腺があり、脇の下のアポクリン腺が発達している人は、外耳道の汗腺も発達していることが多いためです。逆に腋臭症の患者さんに尋ねてみますと、べたつく耳垢の人が明らかに多いようです。
平成10年に手術した患者さん47名のうち、ベタベタした耳垢の人は42名(89.4%)、乾いた耳垢の人は5名(10.6%)でした。特に腋窩多汗症を除いた純粋な腋臭症の場合は、43名中、41名(95.3%)にべたつく耳垢を認めました。腋窩多汗症と診断した4名の患者さんでは、わずかに1名(25%)のかたにしか、べたつく耳垢を認めませんでした。
確かに腋臭症を訴えて来院される方は多汗症も合併していることが多いようです。でもそうでない例もあります。
平成10年の手術例では、初診時の訴えで、体臭はそれほど強くないが汗の量が多く、シャツなどに汗じみができて困るという方が、5名(10.6%)いました。汗の量は気にならないが、臭いが気になるという例が、11名(23.4%)いました。汗の量が多く臭いも強くて、両方とも気になると訴えた方が、31名(66.0%)でした。
腋臭症手術の代表的な術後合併症が術後出血による血腫の形成です。これができると痛みが強くありますし、放置しますと皮膚が壊死に陥り、傷が治るのが大幅に遅れます。治った後も傷が目立ったり、ヒキツレが強くなります。平成10年に47名、90側の腋臭症手術を行ないましたが、3側(3.3%)に再手術を要する血腫を経験しました。このうち1例は入院例で手術の翌日には血腫ができていて、私に責任がある症例でした。残りの2例は外来手術例です。術後2日目に転倒し、その際手術した側の腕を強く床についてから出血が始まった症例と、術後3日目に誤って患部に強く触れて出血をおこした症例です。外来手術の2例は術後の安静を徹底すれば、防ぐことができた出血だと反省しています。
もちろん血腫を生じても、すぐにそれを取り除く適切な処置をすれば、血腫による障害はまったく残りません。ただし、血液が皮下組織の隙間を通って肘のあたりまで広がってしまうことがあります。それは外科的には取り除けませんので自然に吸収されるのを待つことになります。初めは赤紫色になって痛々しく見えますが、10日もすると黄色く変化してきます。更に1週間くらいでほとんどわからないくらいに吸収されてしまいます。
左上の症例は典型的な術後出血です。でも血腫ができてからすぐに処置できましたので、血腫のなかった反対側とほぼ同様の経過で抜糸できました。同じ症例の術後2週間の写真で、胸のあたりが少し黄色いのは、皮下に広がって吸収されつつある血腫のなごりです。
術後数ヶ月してから、皮膚に嚢腫とよばれる袋状のできものができることがあります。これが細菌感染することがあり、それを繰り返すときは手術で切除する必要があります。平成10年の症例では、90側の手術で、現時点では1側に嚢腫を生じ、切除を必要としました。
傷は5から6cmくらいのものが残ります。半年から1年くらいで脇の下のしわにまぎれてくることが多いのですが、体質によって少し目立ってしまう方もいらっしゃいます。そのような場合、どうしても傷が気になるようでしたら、もう一度傷を切除して、きれいに縫い直すこともできます。もちろん傷が消えることはないのですが、かなり目立たなくすることは可能です。この手術は外来で20分くらいですみます。
ヒキツレも術後3ヶ月くらいまではかなり強く出ることがあります。でも汗を減らすために皮膚を薄くすればするほどヒキツレも強く出るのです。ですからヒキツレが全くないように手術すると、今度は肝心の汗腺の切除が不十分になってしまいます。でも腕をよく動かしたり、脇の下を十分マッサージすることで、半年以内にはヒキツレがとれてくるのが普通です。
術後の炎症が、血腫の形成、感染、軟膏かぶれ等の原因で、長引いてしまうと、術後に茶色い色素沈着が残ってしまう場合があります。普通は炎症の原因が完全に消失すれば、半年から1年くらいでこの色素沈着も薄らいでいきます。しつこい色素沈着にはハイドロキノンクリームを外用することもありますが、通常は経過観察だけで十分だと思います。色を気にして脇の下をタオルで強くこすりすぎると、反って炎症が強まり、色素沈着を悪化させることもありえますので、注意が必要です。
腋臭症手術によりアポクリン腺を切除すると、ほぼ同じ深さに存在する毛根もとれてしまいます。その結果永久脱毛が生じてしまいます。女性の場合はむしろ意識的に毛根を残さないように手術していますが、男性の場合、脇毛がほとんどなくなってしまうことに抵抗がある方も多いようです。でも毛根を残し、アポクリン腺だけを選択的に切除する良い方法がまだ開発されていない現状では、この問題は残念ながらあきらめてもらうしかないでしょう。
手術にの際、脇の下の皮膚を完全にはがしてしまいますので、皮膚にいっている末梢神経も切断されます。そのため術後しばらくは脇の下の皮膚の知覚が鈍くなります。触っても自分の皮膚でないような感覚になるようです。でもこれは一時的なものです。半年もすると末梢神経が再生しますので、元の感覚が戻ってきます。
診断には患者さんの訴えがもっとも重要です。シャツに洗濯してもとれない汗じみができる人はアポクリン腺がかなり発達していると考えられます。臭いに関しては、実は自分では客観的に評価できませんので、家族などに尋ねてみたほうがよいでしょう。耳垢がベタベタするのも腋臭症の傍証になります。ご両親、兄弟などに同じような症状の人がいることも多いようです。
汗の分泌範囲がはっきりしない人、または脇毛のある部分以外にもたくさん汗をかくと訴える患者さんの場合は、ヨードでんぷん反応を利用して汗の分泌範囲を正確に把握するようにしています。中学校の実験でヨードチンキとでんぷんの粉を反応させると黒く変色したのを覚えている方も多いと思います。まさにそれを利用して、特にたくさん汗の出る部位を特定できます。
まず脇の下をよく拭いてから、ヨードチンキを塗ります。それが乾いてから今度はアルコールに溶かしたでんぷん液を塗り重ねます。すると汗が分泌されたところだけで、汗の水分がヨードとでんぷんを結び付けて反応を起こします。つまり汗をかく部位だけが黒く変色するのです。左上はヨードでんぷん反応で発汗部が黒く変色しているところの写真です。この症例では汗の出る部位が脇毛の範囲をはみ出して、胸の方に少しずれていることがわかりました。そこで手術の際は胸の方に皮膚の剥離を延長し、汗腺の取り残しがないように心がけました。
最初に受けた手術が不完全であることがはっきりしている場合は、もう一度徹底的にアポクリン腺を切除し直すことで症状の改善が見込めます。1回目の手術が吸引法の場合はまず再手術が必要です。そうは法や剪除法でも、術後に脇毛がたくさん残っている場合は手術が不完全だった可能性が高く、再手術が必要かもしれません。ヨードでんぷん反応で汗の分泌具合を確認してみるのも有用です。
最初の手術がうまくいっていて、汗が十分減少していると診断された場合は、もう一度手術を行なってもよくなった感じがしないと思います。この場合は、臭いがなくなってもまだ臭う感じがすると、強く思い込んでしまっていることが多いようです。
他の医療機関で手術を受け、症状が改善しなかったために当院で再手術を行なった症例は、平成10年だけで4例経験しました。そのうち3例は吸引法で治療されていました。吸引法は最初のうちは少しよくなったように感じても、すぐに再発して元に戻ってしまう例が多いようです。残りの1例は当院と同じ剪除法で治療されていましたが、切開部の周辺だけしか脱毛になっておらず、手術範囲が全く不十分でした。
腋臭症を改善するために電気針による永久脱毛を受けていた方も昨年だけで3例おられました。でも永久脱毛だけでは汗の量は減りませんので、はっきりした効果は少ないようです。いずれにしても剪除法で手術を受ければほとんど脇毛がなくなってしまいますので、術前に受けた永久脱毛は美容的に考えても全く無駄になります。
腋臭症は脇の下のアポクリン腺が発達しすぎているせいで起こります。アポクリン腺は性ホルモンの影響を受けており、第二次性徴の発現とともに発達してきます。最近では子どもの発育がよくなってきたせいで、小学生のうちから腋臭症を気にする例も経験しています。でも手術はある程度成長が止まってからの方がいいでしょう。アポクリン腺が完全に発達する前に手術をしても未発達な汗腺を見逃して取り残し、後日それが再発の原因になる可能性があるからです。女性の場合は身体の発達具合を見て、中学生2年生くらいからは手術することがあります。男性の場合は高校生になってからの方がよいでしょう。ただし腋臭症が深刻ないじめの原因になっているような場合は、それ以下の年齢でも手術を検討することがありえます。
就職や進学などの社会環境の変化に伴って腋臭症を自覚するようになる方も確かにいらっしゃるようです。基本的には脇の下のアポクリン腺は思春期に発達し、20歳を過ぎてから増えることはないと思います。ただアポクリン汗腺は交感神経に支配されていますので、仕事のストレスなどで交感神経が興奮すると、アポクリン腺の活動が活発になることがあります。元々軽度の腋臭症があった場合、それが顕在化し、以前は感じなかった脇の下の汗が急に気になりだす、といった可能性は十分考えられます。
平成10年に手術を受けた患者さんに、何時頃から脇の下の汗や臭いが気になりはじめたかを聞いてみました。単純に年齢で腋臭が気になりはじめた年頃としては、一番多かったのが中学生の頃からと答えた方で、14名でした。次は高校生になってからと答えた方が8名いました。小学生の頃から気になっていたという方が3人いました。20歳頃と答えた方も7名いました。
年齢以外のきっかけとしては、就職してからと答えた方が1名いました。出産、卵巣の手術後に腋臭症になったと答えた方も3人いました。ホルモンのバランスの変化が腋臭症の発現のきっかけになったのかもしれません。
その外には30歳すぎ、あるいは40歳を過ぎてから気になりはじめたという方もいました。普通はその頃になって腋臭症が始まるとは考えずらいので、多分それまでは気にしていなかっただけなのだと思います。ところがある時、誰かに体臭を指摘されたことなどをきっかけにして、急に体臭を強く自覚するようになったのではないかと推測されます。
平成10年に当院で手術を受けた患者さんの年齢構成は、10代9名(19.2%)、20代24名(51.1%)、30代8名(17.0%)、40代5名(10.6%)、50代1名(2.1%)です。
基本的には体質ですので、一生変わらないはずです。でもアポクリン腺も年齢とともに老化して、だんだん汗の分泌量が減っていくようです。これは50代の腋臭症の手術の際に、アポクリン腺の多くが脂肪組織に置き換わっていることを確認できた例です。普通の腋臭症の方に見られる赤黒いアポクリン腺ではなく、汗腺全体に脂肪組織が混じってこのように黄色っぽく見えています。この方の話では、若い頃よりは汗が減ったが、まだ普通の人よりかなり汗が多く、シャツに汗じみができて困る、ということでした。
吸引法では1年以内に再発してくる例が多いようです。剪除法では、まだ明らかな再発例を経験したことはありません。この写真は剪除法で手術を行なって1年以上たってから、脇の下の傷の修正手術を行なった症例です。その際皮下のアポクリン腺を探してみましたが、傷の周辺では全くアポクリン腺の再生はありませんでした。
矢印の部分に、以前はびっしり赤黒いアポクリン腺がくっついていたのですが、今回はわずかな瘢痕組織と脂肪以外は、何もありませんでした。