

植皮は皮膚移植という呼ばれかたで、一般の人にも広く知られる治療法です。形成外科のみならず、外科系の医師の多くが植皮を利用していろいろな手術を行なっています。しかしその具体的な手技については、あまり知られていないのが実状のようです。意外に多くの方が誤解されているようなので、このページで取り上げることにしました。
植皮とは文字どおり薄くはいだ皮膚を傷に植える (貼り付ける) 手技をさします。通常は自分の皮膚の一部を取って、他の部位に植えることになります。不思議に感じる方もいるかもしれませんが、植えた皮膚は条件が整っていれば再び血が通って生着します。すると一生植えられた場所に留まり、人体を守るバリアーという、皮膚の機能をはたし続けてくれるのです。
子どものヤケドなどで、親が自分の皮膚を子どもに移植できないかと聞かれることがあります。確かに受傷面積が大きいと、他人の皮膚を移植することは急性期の感染予防に効果があります。でも他人の皮膚は、たとえ親の皮膚であっても2週間以内に拒絶反応ではがれ落ちてしまいます。ですから一般には、植皮といえば、自分の皮膚を自分の他の個所に移動することと理解してください。
植皮は単純に縫いよせられないような大きな傷が生じたときに、その傷をふさぐために使われる手術手技です。最近では顕微鏡下で小さな血管を縫うことで、自分の皮膚や筋肉を自由自在に移動できるようになり、植皮の出番も少なくなりつつありますが、今でも頼りになる治療法であることには変わりありません。
もっとも植皮が使われる疾患はヤケドでしょう。軟膏療法でどうしてもふさがらない場合の治療法は植皮しかありません。やけどなどの傷あとが治った後のヒキツレを治療するときにもよく使われます。大きな黒あざや、イレズミを取った後の皮膚欠損を閉じるときにも使います。大きな皮膚腫瘍や乳癌などの悪性腫瘍切除後に生じた、単純に閉鎖できない大きさの欠損も植皮で治すことができます。
小さな切傷や浅いヤケドのあとの、あまり目立たない瘢痕の治療に訪れた患者さんから、治療法として植皮はどうですか、と聞かれることがあります。でも見た目を改善する目的の手術に植皮を使うのは、大変勇気が要ります。あざなどの治療で顔に植皮をする場合もありますが、黒あざのように大変目立つ病変に植皮したときは患者さんにも満足してもらえるのですが、元がそれほど目立たない傷ですと、植皮の方がかえって目立ってしまうことが多いからです。
植皮された皮膚はそこだけを見ればきれいです。でも例えば頬に胸の皮膚を移植すれば、どうしても皮膚の細かいきめや、色調が異なります。結局、全体を見たときにコントラストが生じて、目立ってしまいます。植皮部周囲の傷あとも結構目立つものです。でも他の方法が見つからない時には、最後の手段として頼りになる治療法でもあります。

採皮した後はちょうど浅いヤケドや擦り傷と同じような傷になります。以前は軟膏をつけて治すことが多かったのですが、最近はいろいろな種類の被覆材料が開発されています。この場合は浅い採皮創だったので、最も簡単で安価な、プラスチックフィルム (商品名: テガダーム) を使いました。
まず止血剤 (ボスミン) で出血を止め、滅菌済みのテガダームを傷に貼るだけでOKです。テガダームはとても接着力が強いので、そのまま傷が治るまでずっと貼りっぱなしにしました。テガダームの下に、7日間くらいまでは血液が増えていく感じですが、その後は徐々に血液が吸収されて、2週間後には完全に乾いてしまいました。その時点でテガダームをはがしてみると、採皮部は完全に表皮化し、治っていました。2度の浅いヤケドで水疱を破かず様子を見ていると、自然に水疱が吸収されて水疱蓋がカサブタになり、傷が治ってしまうのと似ています。ちょうどテガダームが人工の水疱を作ったと考えるといいでしょう。
採皮創やヤケド等の傷からにじみ出てくる、サイトカインという生理活性物質があります。サイトカインは傷の治りを促進する作用があり、生物に備わった自然治癒能力と考えることもできます。これをテガダームによって逃がさずため込んでおくことが、傷の治りによい影響を与えていると思います。もっともこの程度の採皮創ですと、軟膏などの従来の方法でも、問題無く治りますが。
この症例では左大腿より 0.3mm ほどの厚さで皮膚を採取しました。この厚さは植皮としてはかなり薄めの方です。薄い皮膚は、生着した後が硬い感じになって見た目もよくありません。厚めの皮膚の方が軟らかくて質感に優れています。しかし厚い皮膚は生着させるのがやや難しい傾向があり、採皮部の傷あとも、ずっと目立ってしまうのが欠点です。
この例のように、外見よりまず傷をふさぐことが目的の場合は、採皮部の傷の治りも考慮して、薄めの皮膚を取るのが普通です。おかげで採皮部は2週間で完全に皮膚が再生しました。厚い皮膚をとった場合は、うまく生着すれば植皮部はよりきれいになりますが、採皮部の方は最悪の場合、ケロイドのように目立つ傷になってしまう可能性がでてきます。
この症例では、外傷で右手の親指根元に、このような皮膚欠損を生じてしまいました。外傷を受けたときにはがれ落ちた皮膚を、しばらくは冷蔵庫にしまっていたそうですが、当院を受診時には、すでに捨てられていました。一旦はがれ落ちた皮膚でも、脂肪を削り落として薄い状態にすると、植皮として生着することが多いのです。しかしこの例では残念ながら、それはできませんでした。
そこで普通の植皮をしました。面積が小さいので、入院はせず、外来手術で行ないました。
まず局所麻酔の注射を右手の傷の周囲にうちます。それから傷についた壊死組織や汚い肉芽組織をメスで切り取り、植皮がつきやすいように、きれいで平坦な傷を新たに作り直します。
続いてこの方の場合は左大腿より採取した、厚さ 0.3mm ほどの皮膚を移植しました。黒いナイロン糸で植皮片を傷に固定しました。圧迫用のガーゼを固定するために、植皮部周囲に、白い絹糸もかけました。
植えた皮膚は、血行のよい組織と最低3日間は密着していなければなりません。さもないと植えた皮膚はうまく生着できずに、腐ってしまいます。
密着を妨げるものは血腫と皮膚のずれです。植皮片の下で出血が起こると、それが血の塊 (血腫) となり、移植床 (皮膚を植える傷の部分のことです) と植皮片の血行再開を妨げます。普通植皮の際には、出血やずれを防ぐために、ガーゼの塊を糸で締め付けて植皮片を固定します。この固定法をタイオーバー法と呼びます。
またこの症例では、手を自由に動かせる状態にしておくと、植皮片と移植床の間がずれてしまいますので、副木をあてて肘から先が動かせないようにしました。この場合は1週間この状態を続けたところ、植皮は完全に生着しました。術後2週間後には、カサブタも取れてすっかり元どおりの生活ができるようになりました。