

汗腺の構造 ・ ワキガの診断 ・ワキガの治療 ・剪除法について ・費用について・症例写真
ワキガとはわきの下の汗が原因で体臭が気になる病気です。ワキガを美容上の問題と捉えれば、病気扱いしなくてよいと考える人も多いと思います。患者さん自身も病気と考えている方は少ないようです。それは美容外科の宣伝のせいかもしれません。しかしワキガは厚生省にも病気として認められています。ですから健康保険も使えるのです。
実際にあった例では、日本料理の板前さんで、ワキガのために職場を去らざるをえなかった患者さんがいました。しかし手術でワキガの症状がすっかりなくなり、すぐにもとの職場に復職できました。この方のように、特に男性では仕事に支障が出るために手術を受ける方が多いようです。もちろん女性の場合でもワキガの症状が気になり、仕事や勉強に集中できないと訴える方が多くおられます。ですからやはりワキガは美容的な問題だけではないと、私は考えます。
欧米では、日本と同じ基準で考えると、8割くらいの方がワキガと診断されてしまうそうです。それは白人の方が黄色人種よりアポクリン腺の発達がよいからです。しかし日本の方がワキガがより大きな問題になっているようです。それは一体なぜでしょう?
実際にわきの下の汗の悩みを訴えて外来を訪れる患者さんの話を伺うと、汗の臭いが気になるという方と、臭いより汗の量が多く、服に汗ジミができて困るという方がいます。狭い意味では前者をワキガと呼びます。後者は多汗症といって区別します。しかし実際はその両者が合併していることが多いため、一般には両方ともワキガと呼ばれてしまう傾向があるようです。
汗を作り出す汗腺はアポクリン腺(大汗腺)とエックリン腺(小汗腺)の2種類があります。ワキガの臭いの原因は主にアポクリン腺です。(皮脂腺も臭いに関係があるといわれていますが、これはわきの下だけでなく全身に分布しています。)わきの下の多汗症の原因はアポクリン腺とエックリン腺の両方にあります。アポクリン腺から分泌される汗自体はあまり臭わないのですが、それが細菌で分解されると特有の臭いを発するようになるといわれています。アポクリン腺は性ホルモンの影響を強く受けているため、中学生くらいになってから症状が始まります。遺伝する疾患ですので、 父親か母親がワキガの場合には、子どもにも生じやすくなります。 まず臭いが気になるのか、それとも汗の量が多いのが問題なのか、あるいはその両方なのかを問診します。シャツやブラウスにすぐ汗のしみができる人は、汗の量が多いといえます。汗の量が多いだけで臭いが少ない場合は、アポクリン腺よりエックリン腺由来の多汗症と考えます。臭いに関しては、長い間同じ臭いをかいでいると臭覚が麻痺して、自分の体臭を自分で正確に評価することは困難です。家族など、一緒に住んでいる人に聞くのが一番確実だと思います。
臭いが少なく、実際にはワキガとはいえない方でも、どうしても臭いが気になると訴える方もいます。その様な場合は汗の量がもともと正常範囲内なので、手術をしても自覚症状は改善しないことが多いようです。
不潔にすると臭いが強くなりますので、汗をかいた後にはなるべく早くシャワーを浴びて、清潔にすることが大切です。わき毛があると細菌が増殖しやすくなりますので、わき毛を剃毛した方がよいといわれています。制汗、デオドラント製剤が多く市販されています。それらを使っても汗の量が減る訳ではありませんが、臭いを覆い隠す作用はあるようです。
手術でわきの下の汗を減らせば、根本的な治療になります。手術法には大きく切開して皮膚を反転し、アポクリン腺を直接見てはさみで切除していく剪除法 (せんじょほう) と、比較的小さな切開から特殊な機具を入れ、皮膚の裏側を引っ掻くようにしてアポクリン腺をかき出すそうは法、小さな切開から吸引器、あるいは超音波メスを入れてアポクリン腺を吸い出す吸引法などが主に行われている術式です。
まず局所麻酔をわき毛の生える部分より、ひとまわり大きめに注射します。わきの下のしわに合わせて5cm前後の切開を入れ、そこからわきの下の皮膚を反転してアポクリン腺を露出させ、毛根のある範囲で、徹底的にアポクリン腺を切除します。アポクリン腺は大きく、直接見えますので、完全に取りきれたことを確認するのは容易なことです。
麻酔の注射が終われば、手術中に痛みを感じることはほとんどありません。しかし手術中ずっと腕を上げた姿勢を続けますので、肩が凝ったり腕がしびれてきたりすることはあります。
手術したわきの下に 5cm 前後の傷が1本残ります。わき毛の範囲が広い人では、切開線を2本置くこともあります。術後半年ほどで傷はしわにまぎれてきますが、女性ではその間はノースリーブを着ない方がよいでしょう。
術後 3日間は術後出血を予防するため、腕をあまり動かさないように気をつける必要があります。術後わきの下に血がたまってしまった場合、放置すると皮膚が死んで、傷の治りが極端に悪くなります。その時はもう一度傷を開け、血のかたまりを取り除く手術をします。この処置をすれば、傷の治りに問題はありません。 当院では健康保険で手術を行っています。外来で片側の治療を行った場合の自己負担は、3割負担の方で2万5千円前後です。入院して両側の手術を受けても、3割負担の場合、入院費を含めて6万円くらいです。
しかしもちろんワキガは生命を左右するような病気ではありませんから、たとえわきの下の汗が多くて臭いが強いからといって、必ず手術しなければいけないものでもありません。本人が気にしなければ、臭いが強くても治療の対象にならないということです。美容師や自動車学校の教官のように、自分では気にしなくても仕事の上で問題になる場合は別かもしれませんが。
欧米では
それは多分、周囲にアポクリン腺の発達した人が少ない日本の方が、かえってワキガの症状が目立ってしまうからだと思います。結局ワキガの診断に客観的なはっきりした基準はなく、最後は本人の感じ方次第だと私は考えています。ただしまったく正常範囲内の体臭であるにもかかわらず、自分がワキガであると思い込んでいる方も見かけることがあります。このような場合はもちろんワキガではありませんので、形成外科で治療することはできません。
ワキガと多汗症
2種類の汗腺
普通誰でもアポクリン腺を持っていますが、ワキガの患者さんはアポクリン腺自体が大きく発達しており、その密度も高いことがわかっています。
汗腺の構造について

汗腺には全身に分布し、体温の調節に重要な役割を果たすエックリン腺と、わきの下に多く分布するアポクリン腺があります。エックリン腺はわきの下にもありますが、アポクリン腺はわきの下以外にはあまり存在しません。エックリン腺は比較的小さな器官で、皮膚のかなり浅いところにあります。一方アポクリン腺はエックリン腺より大型の器官で、皮膚の深いところにあります。
診断について
耳の中にもわきの下と同じようにアポクリン腺が存在するため、ワキガの患者さんのうち、90%くらいの方がべたべた湿った耳垢を持っています。逆に耳垢がべたつく方でわきの下の汗が気になる方は、ワキガの可能性がかなり高いといえます。
実際にはワキガでない場合も
実際にあった中年女性の例ですが、ワキガを気にされて、4年ほど前にある総合病院の形成外科で手術を受けた方がいらっしゃいました。術式は剪除法 (せんじょほう) でした。この手術でわき毛がほとんど生えなくなったということですので、手術は成功したものと想像できます。ところが自分ではよくなったという実感がなく、1年ほど経ってから今度は皮膚科で吸引法による手術を受けたそうです。もちろん吸引法は剪除法より効果が少ない方法ですので、手術の結果には満足できませんでした。さらにそれから1年後に、ある有名な美容外科でそうは法の手術まで受けてみたそうです。しかしそれでも体臭が減ったという実感がわきませんでした。
耳垢がべたべたして軟らかいとおっしゃるので、多分わきの下のアポクリン腺は多く、ワキガの傾向はあったものと思います。しかし何度手術を受けても、その結果に満足できませんでした。3回の手術後に当院を訪れたのですが、診察してもわきの下の汗は少なく (受診されたのは夏でした)、体臭も気になりませんでした。つまり以前はともかく、受診時にはワキガとはいえない状態でした。体臭を減らしたいと相談されたのですが、私も対応に困りました。ワキガが原因の体臭であれば手術でよくなりますが、そうではない時は外科手術の適応とはなりません。この方の場合は、実際はそうではないのに、自分の体臭は強いと思い込んでしまっているようでした。この様な症例は、残念ながら形成外科の治療対象とはなりえません。
治療について
手術以外の治療
細菌を抑える作用のある抗生物質入りのクリームを外用する方法もありますが、その効果は少ないようです。
電気凝固法で毛根を焼く永久脱毛でも、わき毛が生えなくなるので、臭いの減少に多少は役立つものと考えます。しかし汗の量が減る訳ではないので、根本的な治療にはなり得ません。手術治療
それぞれ一長一短があります。そうは法は手術効果が高く、慣れた術者が行うと傷も比較的きれいです。しかし常によい結果を得ることは困難で、少しでも手元が狂うと皮膚の壊死を生じ、かなり目立つ傷あとを残すことになります。
吸引法は短時間で手術がすみ、傷あとも 1 から 2cm と小さくて目立ちません。しかしアポクリン腺の取り残しが多く、効果が不十分だったり、一旦汗が減って治ったように見えても、早くて1ヶ月、遅い時で1年位経ってから、ワキガが再発してしまうことも多いのです。
剪除法は 5cm 程度の少し長めの傷あとが残ってしまうのが欠点です。手術時間も片側45分から1時間近くかかりますが、直接アポクリン腺を見て確実に切除していきますので、効果が確実で再発もほとんどありません。傷あとも1年くらい経つとわきの下のしわに紛れ、目立たなくなるのが普通です。めったにないことですが、1年経っても傷が目立って気になる場合には、その傷を切除し直す簡単な手術で傷をきれいにすることも可能です。
私はそうは法と吸引法は行っていません。それは汗の量を減らす効果が不安定なのと、万一術後出血が起こってわきの下に血が溜まった時に、小さな傷からでは、止血するのも血の塊を取り出すのも困難だからです。その点剪除法は効果が安定しており、万が一の術後出血時も切開部が大きいので、止血も比較的簡単に行えます。わきの下に血が溜まっても、術後2日目までに対処すれば傷の治りは全く問題ありません。
剪除法について
手術の実際(術中術後写真)
一方エックリン腺は肉眼では確認できないのですが、術後の汗の減少具合から考えて、かなり取れているのは確かです。皮脂腺の 一部も切除しています。このような手術方法ですと、わきの下の汗の量は 1/5 から 1/10 くらいまで減少します。この程度まで汗が減ると臭いも人並みになり、腋臭症の改善がはっきり実感できるようになります。
原則として、外来手術では片側ずつ分けて手術します。術後3日間は術後出血を予防するために腕をあまり動かさない様にする必要があり、安静を保つことが大切です。両側同時に手術する場合は着替えもままならなくなりますので、2泊3日くらいの入院をお願いしています。
手術に伴う痛み
術後に麻酔が切れても普通はあまり痛みません。念のために痛み止めはお出ししますが、それを必要とする方は少ないようです。しかしまれなケースでは ありますが、術後出血を起こし、わきの下に血が溜まってしまった時は別です。この場合は、かなり強い痛みを感じます。手術の副作用
私はアポクリン腺を完全に取ることを第一に手術しています。その結果皮膚がとても薄くなると、縫合部の傷が治りが遅れ、傷が治るまでに2週間以上かかることもあります。
女性の場合、わき毛がほとんど生えなくなってしまいます。これはアポクリン腺と毛根の深さが同じくらいなので、アポクリン腺を取ると毛根も取れてしまうためです。男性の場合は女性ほどではないのですが、やはりかなりわき毛が薄くなってしまいます。
瘢痕拘縮といって、術後1ヶ月から3ヶ月くらい経つと、わきの下の皮膚にヒキツレを生じます。通常は6ヶ月から9ヶ月くらいで自然に落ち着きます。
まれに術後6ヶ月以上たって、手術部位にニキビのようなしこりを生じることがあります。放置しますと、このしこりに細菌感染を起こして腫れることがありますので、切開してつぶす必要があります。つぶしているうちにできなくなります。
手術後のアフターケア
通常は術後、2、3回の外来通院が必要です。傷が治るまでの間、シャワー浴の後、患者さん自身が消毒し、抗生物質軟膏を塗布したガーゼを当ててもらいます。抜糸は術後 2週間くらいでおこないます。術後数日たってある程度傷が落ち着けば、糸がついたままで、傷にシャワーの水がかかっても心配ありません。ただし湯船には傷をつけないようにします。
費用について