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湯たんぽにご用心

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冬場の寒さは冷え性の人にはひときわ厳しいものです。そのため夜休む時に、アンカや湯たんぽを愛用している方もいらっしゃると思います。でも毎年この時期に湯たんぽなどでヤケドをする方が、あとを絶ちません。そこで注意を喚起する意味でこのページを作ってみました。

意外に重症! 湯たんぽ熱傷

湯たんぽのようにあまり熱くない温度で起きるヤケドを低温熱傷と呼びます。一般に低温熱傷は深めになる傾向があるようです。ヤケドは皮膚及び皮下組織が熱によって傷つけられて生じます。この傷の深さはその熱の温度と作用時間の掛け算の結果です。つまりガソリンの蒸気などが瞬間的に爆発したときは、被服が燃えたりしなければ、温度は非常に高温でも作用時間が短いので、ヤケドは浅いことが多いのです。その逆に湯たんぽは温度は低くても作用時間がかなり長いことが多く、その結果としてヤケドも深いものが多くなります。

湯たんぽ”べからず集”

熱湯を使わない

湯たんぽに入れるお湯は熱湯ではなく、少し冷ましてからの方が安全です。厚めのタオルをあてた上からでも、下肢のすねなどを乗せるとその重みでタオルがつぶされて、お湯の熱が皮膚に障害を起こしやすくなります。

熟睡してからは使わない

よくあるのは、子どもが完全に寝入ってしまってから、母親が子どもの足元に湯たんぽを差し入れてヤケドを起こすケースです。湯たんぽを使うときは、起きている状態から使いはじめなくてはいけないのです。
熟睡していると、痛みや熱さに対する反応が鈍くなります。そのため、起きていればヤケドになる前に足をどけることができるのに、それができないためにヤケドになってしまいます。今日は寒くてかわいそうだと子を思う親心は尊いのですが、その結果ヤケドを生じてしますと、子どもの足だけでなく、親の心にも深い傷あとが残ってしまいます。

知覚障害のある人には使わない

つまり痛みや熱さに対する知覚が鈍くなる病気を持っている方に、湯たんぽを使ってはいけません、絶対に。この場合も熟睡している人と一緒で、ヤケドになりそうになっても知覚が鈍いために気がつかないので、足をどけられずにそのままヤケドになってしまいます。
脳卒中を起こした方や、脊髄の病気、糖尿病などで足の知覚が鈍っている方は、間違っても湯たんぽを使わないでください。正常な知覚があればヤケドになる前に痛みがでて気がつく訳ですが、知覚が鈍い人では、気づかぬうちに深いやけどを負ってしまう危険性が非常に高いのです。




湯たんぽ熱傷の実例

実例を挙げて、いかに湯たんぽによるヤケドが厄介なものかを説明いたします。

水疱ができても第3度熱傷

湯たんぽによる熱傷 ヤケドは深さによって1度から3度までに分類されます。水疱ができるヤケドは普通は2度の熱傷なのですが、湯たんぽ熱傷のような低温ヤケドの場合は、水疱ができても3度熱傷のことがほとんどです。

この例の方もそうでした。元々左足の知覚が少し鈍く、ヤケドになりやすい条件を持っていました。左足に2個所のヤケドを受傷し、水疱も2個所にできましたが、原因が湯たんぽでしたので、治るまでにかなりの期間がかかることを覚悟しました。
受傷翌日の初診時の水疱をみると、水疱の被膜が厚く丈夫でしたので、しばらくはこのまま水疱をとらずに様子を見ることにしました。ヤケドの水疱内の浸出液には、いろいろな種類のサイトカインと呼ばれる生理活性物質が生体より分泌され、傷の治癒を促進していることが最近の研究で分かってきています。つまり生体自らの自然治癒能力が働いていると考えてよいでしょう。ですからこのような水疱をむやみにつぶしたり、切り取ってしまうことは傷の治りを反って遅らせる原因になりかねません。
しかし受傷8日目に親指の根元の水疱が自然に破れてしまったので、仕方なく水疱を切除し、こちらだけは軟膏をつけて治療しました。水疱を取った直後の潰瘍面は壊死組織 (血のかよわなくなった死んだ組織) もなくきれいにみえました。ところが軟膏をきちんとつけていたにもかかわらず、元々のヤケドが深かったため、徐々に潰瘍面の壊死組織がはっきりしてきました。
土踏まずの熱傷の方は、最後まで水泡が破れず、水疱の内容が自然に吸収されて、そのままカサブタになりました。元々土踏まずはへこんでいますので、親指の根元に比べて、湯たんぽに接触しているときの圧力が小さく、ヤケドの程度も多少浅かったものと思われます。そのため中心部以外は2度の熱傷だったようです。最後まで水泡が破れず、サイトカインなどの作用も十分働いたと見えて、こちら側だけは順調に治りました。受傷後25日目にはカサブタもとれ、中心部に小さな潰瘍を残すのみとなりました。

壊死組織は切除する

壊死組織切除 壊死組織は細菌感染の温床になりますので、積極的に切除します。これをデブリドマンといいます。皮膚が傷の周囲から伸びていくときにも、壊死組織が途中にあるとじゃまになりますので、表皮化を促進する意味でもデブリドマンは重要です。来院のたびに洗面器にお湯を張ってよく洗い、それから写真のようにピンセットで壊死組織をつかんで、ハサミで切除していきました。わずかに出血するところまで取っていきます。
左下の写真はデブリドマン直後の潰瘍と、ガーゼの上の切除した壊死組織を示しています。








感染に注意

ヤケドに合併した感染 傷が治りまでに長時間かかる3度熱傷では、治癒までに細菌感染を起こしやすいので、細心の注意が必要です。お恥ずかしい話ですが、この症例でも受傷後2ヶ月目で明らかな細菌感染を生じました。通院が少し大変な方だったので、1週間間隔で経過を見ていたのがあだになり、発見したときには足全体がはれ上がっていました。傷からばい菌が入り、炎症が皮下組織だけでなく、骨周囲にも及んで、かなり痛みも強くなっていました。
この時まで抗生物質の内服は行っていませんでしたが、こうなったら抗生物質をしっかり投与しなければなりません。局所管理も、よく洗ってデブリドマンを徹底し、毎日通院してもらいました。外用剤も強力な抗生剤の配合されたクリームに変更しました。
約2週間で感染は落ち着きましたが、そのせいで治癒が少し遅れた事は確かです。感染が治まると傷の収縮が始まり、皮膚も周囲から伸びてきて、潰瘍がどんどん小さくなり始めました。左下はその頃の写真です。



表皮化の完成

表皮化の完成 3度熱傷では毛根や汗腺まで焼けてしまっているため、2度熱傷のように、潰瘍面の下に残った毛根などから表皮が再生してくる事はありません。3度熱傷ではヤケドの周囲がまず収縮して潰瘍の面積を小さくします。次いで潰瘍周囲の表皮細胞が、潰瘍面の上を滑るように伸びていって傷をふさぎます。左上の受傷後3ヶ月の写真を見ると、傷の周囲から中央に向かって表皮化が進んでいる途中の過程がよくわかると思います。
この表皮は薄くて傷つきやすいので、この時期には軟膏などで傷を十分保護する必要があります。感染があると再生したばかりの表皮は溶けてしまいますので、感染の予防も重要です。壊死組織が残っていると、そこで表皮の伸びが止まってしまいますので、デブリドマンで壊死組織を除去することも必要です。
この症例では4ヶ月近くかかって、ようやく表皮化が完成し、傷がふさがりました。途中感染を起こしたり、紆余曲折はありましたが、どうにか手術しないで治療を終了できて、内心ホッとしました。でも感染が持続したり、骨や腱等が露出したり、ヤケドそのものの面積が大きい場合は、何時までも保存的な治療に固執するのは得策ではありません。湯たんぽ熱傷で植皮が必要な症例は少ないのですが、それでも余りに治療が長引く場合は、何時手術に踏み切るかを、患者さんと一緒に悩みながら治療をしているのが実情です。



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