***ねね家のおひなさま***

「お雛様、お雛様! 起きてください」
 3人官女Aが、長襦袢姿のお雛様を揺すった。
「ん……」
 お雛様は、眠たそうにうっすら目を開いた。
「お雛様、今年も出番がやって来ました。年に一度の外の世界に出れる日ですわよ」
 3人官女Aは、必死にお雛様を起こしている。
「えー、もう? めんどくさーい」
「そんなこと言わずに! 早くお化粧を直さないと箱から出されてしまいますわよ。
おしろいも剥げてますし……」
「はぁ〜、仕方ない起きるとするか…」
 ねね家、二十数回目のお雛祭り。いいかげん、
お雛様のほうも外の世界に出ることも飽きてきたようだ。
しかしねね家。毎年欠かさず、3月3日前には、ねねの部屋に飾ってくれる。
お雛様冥利に尽きるというものだ。
いつものとうりのきれいな十二単を着て、きちんとお化粧した姿で、箱から出されなければならない。
 毎年のこと、お雛様を出すはねね父。当のねね本人は、今年も用事があるとか言って
お雛様を飾る父の背中を後に、遊びに行ってしまった。きっとしまうのもねね父だろう。(笑)
「とりあえず、着替えてくださいませ。お雛様」
 3人官女Bが言った。
「はいはいはいはい」
「『はい』は一回でよろしい!」
 ちょっとキツメの3人官女Cが、厳しく言った。
「はーい」
「のばさないの!」
 またもや3人官女C。お雛様の教育係のようだ。
「ねえ、十二単、一枚着ないでもいい?」
「は? どうしてですの? お雛様」
「私が作られた二十数年前よりかなり温暖化したと思わない? 十二枚も着てると暑くって。
一枚くらい着てなくても大丈夫でしょ。人間にはバレやしないわよ」
「うーん。確かに…。温暖化はしてますわねー」
「ねっ、だから一枚着なくてもいいわよね。なんならキリのいい十枚単にしちゃおうっか!」
「なりません! 平安古来続いている着物の伝統を、ミレにアムである現代にも受け継ぐ! 
それが私達、雛壇飾りに託された使命です。十二単じゃないと許されません!」
 こちらの台詞を言ったのは、もちろん三人官女C。
「あーあ、3人官女Cに聞こえてたか……」
 お雛様は、しぶしぶ十二単を着た。
「さあ、お着替えが済んだら、次はお化粧です。さあ、ファンデーション塗りますわよ」
「ファンデーション? おしろいじゃないの?」
「おしろいよりも、白めのファンデーションのほうがいいんです。
現代の物はテカリ防止や紫外線カットも入ってますので・…」
「そうなんだ……。あっ! じゃあさ、いまどき色の白いのなんて流行らないよ。
今の女子高生がやているような
ガングロにしてよ。テレビでちょっと見たんだー」
「ガングロ!? ちょっとそれだけは…。私は3人官女Cのようにキツクはありませんけど、
賛成できませんわ。第一、そんなことしたらねね家の皆が驚きますわ」
「ちぇー。つまんないの」
 3人官女Bは、お雛様に白いファンデーションを塗った。
 お化粧も終わり、ほとんど準備の整ったお雛様。クルリと十二単姿でモデルのように回った。
「どう? きれい?」
「きれいですけど…、もしかして…」
 3人官女Aが、お雛様の着物の裾を捲り上げた。
「やっぱり、なんでお雛様、ルーズソックスなんてはいてますの? 今チラッと見えたんです」
「あはは! バレた? いやぁ〜、いつも履いているタビに穴が開いちゃってね、
代わりにルーズソックス履いてみたんだ。これ結構あったかいよ」
「なんということを! 平安貴族の姫様が何というお姿! 情けなくって涙が出ます」
 3人官女Cはボロボロ泣いている。
「あっ…、じゃあこんなのもダメ? 背中に貼るホッカイロ。夜は冷えるからねー」
「お雛様。もう、お止め下さい。3人官女Cの雷が、そのうち落ちますわ……」
 3人官女Bはお雛様を止めた。
 そんなお雛様にもメゲズに3人官女Cは、箱の中で眠っている皆に声をかけた。
「さあさ、皆さんを起こしましょう。お内裏様、五人囃子、右大臣に左大臣、
それと衛士の3人! 起きなさい!」
 みんなムクムクと起き出している。
「うィ〜(=*_*=) 去年の甘酒がまだ残ってるぜ〜」
 そう言いながらフラフラしているのは、お雛様の旦那様であるお内裏様。
「あーあ、今年も来たか! めんどくさいけど仕方ない。みんな楽器はもったか?」
 元気のいい掛け声をかけているのは5人囃子A。
「おう!」
 残りの五人囃子BCDEは声を揃えて言った。
「今年もまた、明かりをつけましょ〜♪ ぼんぼりにィ〜♪の演奏か…。
いいかげん飽きたな……」
 5人囃子B。
「そうだ! 5人だし、みんなでSMAPにならないか? 
端からキムタク、草g、稲垣、中居、香取はどうだ?」
「おお、いいな! 5人囃子C、そうしよう」
「太鼓に横笛で演奏も飽きたよな。太鼓の代わりにドラム、横笛のかわりに縦笛、
それにギターとベースもつけて演奏しようぜ!」
「そうしよう。そうしよう」
 やる気満々の五人囃子。その後ろでまたもや「なりませんー」と叫んでいる3人官女Cがいた。
「大丈夫ですか? 左大臣?」
「ありがとう右大臣。毎年桜餅を食べ過ぎてな……。ちょっと糖尿病なんだよ」
 苦しそうな顔をしているのは、弓矢を持って、お雛様をお守りしている左大臣。
「ねえねえ、お内裏様。牛車や籠なんかもう飽きたわ。フェラーリやベンツに買いなおしてよ!」
 無理なお願いをしているのは、ルーズソックスを履いたお雛様。
「うィ〜(=*_*=)、姫の頼みなら何でも聞くぞ!」
 去年の甘酒のまだ抜けないお内裏様が、いいかげんな約束をお雛様としていた。
 ―――とそのとき
『ぎぎぃぃぃぃぃ』
 急に蛍光灯の光りが射し込んだ。
 ねね父がお雛様の入った箱を開けたのである。
「ピタ!」
 今までガヤガヤ騒いでいたお雛様達は、急に動きを止めた。

 今年も、お雛様たちの『だるまさんが転んだごっこ』が始まろうとしていた。

♪終わり