<メディカル・コントロール>

未だ実体が伴っていないMC体制

益子 邦洋

(日本医科大学付属千葉北総病院 救命救急センター長) 

 交通事故死者数を減少させるためには「適切に選別された患者を、適切な時間内に、適切な外傷診療施設へ搬送する」外傷システムの構築が鍵であることはこれまで度々述べてきた。中でも救急隊員による病院前救護活動の質を評価し、その向上を図ることは、「防ぎ得る外傷死亡」を削減する上で極めて大切である。このような観点から、メデイカルコントロール(MC)体制の構築による交通事故死傷者削減の取り組みをアスカ21、44号で、また救急隊員に対する外傷教育・研修コース開発による交通事故死者数削減の取り組みをアスカ21、46号で述べた。

 近年、救急救命士の処置拡大とリンクして、MC体制構築の機運が全国的に高まっている。平成14年12月に出された救急救命士の業務のあり方等に関する検討会報告書により、包括的指示下による救急救命士の除細動が平成15年4月からスタートし、気管挿管については平成16年7月1日から、定められた講習と実習を修了し、都道府県から承認された救急救命士に対して認められる事になった。総務省消防庁の「平成15年版救急・救助の現況」では、包括的指示下の除細動により、CPA傷病者の心拍再開率も1ヶ月生存率も向上したことが報告されている。また、CPA傷病者に対する病院前の薬剤投与の有効性が明らかになった結果、平成18年4月を目途に、救急救命士による病院前のエピネフリン投与が認められることになった。このように、救急救命士の処置範囲拡大はここ数年急速に進展しつつある。

 しかしながらこれら救急業務の拡大はMC体制構築が基盤となっていることから、現時点に置ける我が国のMC体制構築状況がどのようになっているか振り返っておく必要がある。

 筆者は平成15年度厚生労働科学研究費補助金(医療技術評価総合研究事業)「新しい救急医療施設のあり方と病院前救護体制の評価に関する研究」(主任研究者:川崎医科大学救急医学、小濱啓次教授)の分担研究「メディカルコントロールの実態と評価に関する研究」(分担研究者:大阪府立泉州救命救急センター、横田順一朗所長)の班員としてMC体制の現状分析を行ったので、その結果を示すと共に今後に向けての課題を明らかにしたい。

 平成15年10月、厚生労働省が全国のMC協議会に対して、MC体制に関するアンケート調査を実施した。それによると、地域MC協議会の設置状況は42都道府県(90%)で「全て設置済み」であり、「一部設置済み」(4%)、「未設置」(6%)の地域があるものの概ね体制構築は順調に進んでいると考えられた(図1)。次に、256の地域MC協議会別に事後検証体制の構築状況を見ると、「構築済み」が214地域(83%)、「未構築」が29地域(11%)、「その他」が4地域(2%)、「回答なし」が9地域(4%)であり、各地域MC協議会においても事後検証体制構築が進んでいることを窺わせた(図2)。しかしながら、平成15年4月1日から9月30日までの6ヶ月間における事後検証件数を尋ねたところ、図3に示す如く、驚くべき結果となった。即ち、0件の地域MC協議会が106地域(41%)であり、6ヶ月間に100件未満の地域MC協議会が実に82%を占めたのである。地域MC協議会単位で1日に1件の事後検証を実施しても、6ヶ月間には180件を超える事後検証件数となることから、これらの値は地域において事後検証システムが未だ十分機能していない事の証左といえよう。勿論、実際には事後検証を実施しているけれども、その数値を地域MC協議会として、或いは地域MC協議会会長が把握していないためにこのような調査結果が得られた可能性も否定は出来ない。しかしながら、MC体制の根幹を成す事後検証の実体を地域MC協議会として把握していというのであれば、それはそれで大きな問題なのである。即ち、各地域MC協議会において事後検証体制を構築したといっても、現時点では実体の伴わない事後検証体制と言わざるを得ないであろう。

 MCにはプロトコール(現場活動指針)の策定、教育・研修、直接的な指示または指導・助言、事後検証、救急隊員へのフィードバックなどの項目が含まれるが、これら各々は関連のない独立した存在ではなく、密接にリンクして初めて効果を発揮する質の向上活動なのである。即ち、各地域MC協議会におけるMC担当医が、救急隊員のための現場活動指針を作成し(Plan)、この指針通りに現場活動が実践できるよう救急隊員に必要な教育や研修を行い(Do)、救急隊員が現場で困った時にはリアルタイムに指示や助言等を与え、その活動を事後に検証して問題点を抽出し(Check)、個々の救急隊員にフィードバックして個人個人の資質向上を図ると共に、プロトコール等を地域に適合したものに改編する(Act)ことが肝要なのである。このPDCAからなる一連の作業を通じて、プレホスピタルケアにおける医療の質の管理を行うことこそがMCの根幹であることを忘れてはならない(図4)。

 我が国ではこれまで、CPA傷病者に対する救急救命士の処置範囲拡大を目的としてMC体制を構築してきた経緯がある。しかしながら、MC体制の基本は医療としてのプレホスピタルケアに医師が責任を持つことであり、その対象は単にCPA傷病者に止まらず、病院前救護全般に渡るものでなければならないことは諸外国の例を見ても明らかである。包括的指示下の除細動開始は救急業務高度化の小さな1歩に過ぎない。救急業務の高度化はMC体制構築が大前提である事から、地域のMC担当医と消防関係者は今こそ連携し、実効あるMC体制を構築しなければならない。

(『アスカ21』第50号、2004年4月刊所載)


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